提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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気がつけば50話。ここまで読んでいただき、最大の感謝を読んでくださっている皆様にさせていただきます。本当にありがとうございます。感想もいつもありがとうございます。叱咤激励、いつもありがとうございます。

それでは第五十話「ゆきかぜのにっきちょう」をお楽しみください。


第五十話

源を護衛した翌日、雪風はすっかり疲れて眠ってしまったので昨日の日記をつけ忘れていたため、いそいそと部屋に戻ってとあるノートを持ち出し、談話室で広げた。

表紙には「にっきちょう」と玲司に買ってもらった油性マジックでシンプルに、でかでかと書かれていた。雪風はニコニコと過去の日記を読み返す。雪風のかわいらしい文字や色鉛筆で描いた絵とは別に、丁寧な赤いボールペンで書かれた文字。

 

2月10日

 

今日はとってもすてきな日になりました!なんと、なんと!あのひびきちゃんがかえってきてくれました!こんなにうれしいことはありません!あのときは全ぜんお話できなかったけど、たくさんお話できたらいいなと思いました。

みんなで食べたしれいのオムライスはとってもおいしかったです!

 

雪風、今日はおつかれさま。ずいかくを守ってくれてありがとう。新しいなかまが増えるのはしれいとしてもうれしいな。ひびきともなかよく、楽しくやっていこうな

雪風が幸せそうにオムライスを食べるところは、見ててこっちも幸せになるよ。また作るからきたいしててね。

 

えへへ、と過去の日記を一ページずつめくっていく。雪風が日記を書いているところを玲司がたまたま目撃。日記をじゃあ玲司に見てもらおうと手渡ししたのだ。玲司は一日借りていいか?と言うので快く承諾。すると次の日、全てのページに赤ペンで玲司のコメントが書かれていた。雪風はたまらなく嬉しくなり、そこから日記を書いては玲司に見てもらってコメントをもらうことが楽しみでしょうがなくなったのだ。

 

雪風は今日も日記を書く。源を守れたこと。商店街の人たちにありがとうと手を振ってもらったこと。誇らしかったことを日記に書いていく。

 

2月26日

 

ねちゃってしまったので次の日にかきました!

今日は魚やのげんさんをお守りするためにずいかくさんたちと海へ出ました。げんさんがしんぱいでしんぱいでむねがいたくなりました。でも、げんさんはごぶじで、雪風と村雨ちゃん、しぐれちゃんといっしょにげんさんのふねをひっぱってぶじおつれできました!

 

しょうてんがいの人たちにありがとうって手をふってもらってとってもうれしかったです!大好きなしょうてんがいの人をお守りできて本当によかったなぁと思いました!

 

「あれ?雪風ちゃん、何してるの?」

 

「あっ、吹雪ちゃん!おはようございます!」

 

日記を書き終えたところで吹雪に声をかけられた。なになに?とのぞき込んでいる。雪風はニコニコと日記を吹雪に隠すことなく見せる。

 

「雪風は日記を書いてたんです!一日のことを日記に書いておくと、いっぱい思い出せるから!」

 

「へえ~。すごいなぁ。私はすぐサボっちゃうからなぁ…わ、この赤い字は司令官?わぁ~、いいなぁ。お返事ももらえるんだぁ」

 

「しれえにいつも書いてお見せしてます!しれえのお返事も楽しみで毎日書きます!」

 

「わぁ~、いいなー!私も書いてみようかなぁ」

 

「吹雪ちゃんも書きましょう!ノートならたっくさんありますから一冊あげましょうか?」

 

「ほんと!?書くよ!ありがとう!」

 

部屋に戻って吹雪にノートを一冊あげる。雪風は色鉛筆も嫌な顔一つせず笑顔で吹雪に差し出した。吹雪は色鉛筆は遠慮していたが、色があった方がもっと楽しいという飽きない秘訣を教えて差し出した。雪風にはクレヨンがあるからと。笑顔でそう言う雪風に、吹雪はありがたく借りることにした。ありがとう!と意気揚々と部屋に戻っていった。

 

雪風は引き出しからクレヨンを取り出した。色とりどりのクレヨン。赤い色のクレヨンだけが異様に短くなったクレヨン。それは、かつての自分が呪いの言葉を書き綴るために使い続けたもの。仲間を沈められた怒り。暴言を吐き続けた怨み。そう言った感情を吐き出すために使った。赤のクレヨンを手に取り…

 

(今までごめんなさい。これからは、もっと幸せなことも書くようにするから…)

 

両手で祈るように握りしめ、赤のクレヨンに念を込める。呪いの言葉だらけの日記帳も、雪風はしっかり保管していた。過去があるから今がある。過去は変えられない。忘れようにも忘れられない。何度か捨てようかと思ったが、捨てられないのだ。過去に沈んでしまった仲間を忘れないためにも。雪風は忘れない。小さな胸にたくさんの思いを秘める。それは、大好きな司令官のおかげだ。

 

「雪風?いる?提督がそろそろ商店街へ行こうって」

 

この声は時雨だ。そうだ。源さんがおいでと言っていた。行かなきゃ。

 

「はい!すぐ行きます!」

 

にぱっと笑いながらドアを開けて出る。作り笑いではなく、本当の笑顔で。

 

 

商店街のいつもの場所に車を停める。助手席からは雪風。後ろからは時雨、村雨、夕立、北上。以前と違うことは、固い表情から何もかもが楽しみな顔に変わっていることだろうか。

 

雪風はすぐに竹美を見つけて駆け出す。時雨が止めようと思ったがもう行ってしまっていた。

 

「おや、雪風ちゃんだよぉ」

「あら、こっちに走ってくるよ?」

 

「竹美おばさん!梅おばさん!」

 

一直線に駆け寄り、竹美と梅に抱きつく雪風。人懐こい雪風に竹美も梅もメロメロであり、まっすぐ駆け寄ってくれる雪風がかわいらしくてたまらなかった。

 

「おやぁ、今日も元気だねぇ」

「んー、かわいいねぇ♪」

 

「竹美おばさん!梅おばさん!こんにちは!」

 

がるーんと大きくお辞儀をする。その姿に竹美たちも。通りすがりの人も。茂達も笑っている。遅れて時雨達もやってきた。

 

「おや、来たね。待ってたよ」

「おう、玲ちゃん、それにみんなも。よく来てくれたな!」

 

「ちわっす、源さん。この子たち、連れてきたよ」

 

「ありがとうね。まずは、最初に来てくれたとき、ひどい対応でごめんねぇ…悪いことをしたね。本当にごめんよ」

 

竹美が頭を下げると梅も。源も茂も徳三も揃って頭を下げた。北上は困惑しているし、村雨達もぽかんとしている。

 

「え、ええと…」

 

「みんな気にしなくていいって言うんだ。でも、あたしらはそうじゃないんだよ。気になって気になってねぇ…ずっと謝りたかったんだ」

 

「は、はい…あたし達はその…気にしてないです。こちらもいつもおいしいお野菜や、お魚、お肉…お米…いつも感謝してます」

 

「うんうん。私も、お野菜がおいしくって!いつもありがとうございます!」

 

「夕立もお肉大好きっぽい!」

 

「僕もお魚、好きだな」

 

「ってわけでさ、またよろしく」

 

玲司がしめてこの話は終わった。北上達は源達と握手をし、よろしくお願いしますと言って雑談を始めた。

 

「玲ちゃん、これからルーチェかい?帰りにまた寄ってくれよ。皐月ちゃんと文月ちゃんのご要望にお応えして、カツオをたんまり仕入れたから持ってってくれよ。うまいもん、食わせてやってくれ!」

 

「うちもたまねぎにネギににんにくに。かつおならこの辺がいるだろ。源ちゃん助けてくれたお礼だ。持ってけ!」

 

「お、サンキュー。わかった。じゃあ、あとで」

 

そうして、ルーチェで昼食。噂に聞いたルーチェのナポリタンとケーキは北上や時雨達を笑顔にする。

 

「おおー、グッドー!んー、甘くておいしい!」

「なるほど、こりゃあ名取がハマるわけだ。イチゴおいし♪」

 

「うん。アップルパイだっけ…これ、すごくいいね」

 

それぞれがケーキやパイに舌鼓を打つ。今日は雪風が来ていることでルーチェも少し忙しそうだった。

 

「申し訳ありません、玲司さん。皆さん。少々立て込んでいますので、お話しができず…」

 

「ああ、いや、忙しいのにすんません…。雪風、みんな…って、あれ?」

 

「はーい。マスターオススメパスタねー。時間かかるっぽいからお待ちくださーい」

 

「はいっ、今日のケーキセットですね!お待ちください!」

 

ふと気づけば雪風と北上が注文を受けている。マスターがきょとんとしている。が、すぐにハッとなって厨房に戻る。急いでケーキを皿に移し、紅茶も入れる。お盆に乗せると北上が動く。

 

「雪風、注文取って。あたしが物運ぶから」

「はいっ、お任せください!」

 

「はーい、ケーキセットお待ちー。ごゆっくりどうぞー」

「ケーキ、すぐお持ちしますね!」

 

微笑ましい突然のウェイトレスに来たお客もイライラもせず、見守っていた。パタパタと走り回る雪風。それをかわしつつケーキや料理を運ぶ北上。しばらくして波は去り、店は落ち着いた。

 

「あー、おもしろかった」

「雪風も楽しかったです!」

 

「いやはや、助かりました。お二人のおかげですね」

 

「北上。雪風、お疲れ様」

 

雪風と北上の頭を撫でる。北上はんあーと変な声を出して恥ずかしそうにしていた。雪風は嬉しそうに。

 

「これはせめてものお気持ちです。どうぞお持ちください」

 

マスターが箱に入れたのは玲司達六人分のケーキだった。玲司は断ろうとしたが、マスターが聞き入れそうもないのでとりあえず受け取っておいた。村雨達もやったー!と喜んでいた。

 

「では、玲司君。皆さん、午後からもよい一日を」

 

そう言って今度は松子の店へ行くことに。

 

「あら、いらっしゃい。玲司君、源をありがとうね。あんなでも商店街に必要な奴だかんねぇ…ぬっ!?」

 

松子の目が光った。嫌な予感…。

 

「ま、またこれは光る原石!!最初に来たときに何で気がつかなかったんだいあたしのバカヤロウ!玲司君、この子借りるよ!メイクの練習に…ああ、この子もいいじゃねえか!借りるよ!!」

 

「え、ええ!?」

「て、提督…」

 

「村雨、時雨、すまん…悪いようにはされないから…」

 

そうしてふんふんと鼻息を荒くした松子と共に、村雨と時雨は奥へと連れて行かれた。しばらく時間がかかりそう…とりあえずいつもくつろいでてという場所で待つことにした…。

 

 

北上と夕立と話をしていると、外の少し離れたところで泣いている女の子を見つけた。雪風は服を見ている玲司と北上達を残して女の子の下へと駆け寄った。

 

「お母さん…どこ…おかあさあああん!ぐずっ…」

「どうしましたか?」

 

雪風が泣いている女の子に声をかける。小さな女の子。少し自分よりお姉さんのような。

 

「ぐすっ…おかあしゃん…いない…」

「迷子さん、ですか?どこに行ったか、わからないですか?」

 

「うん…お母さん…いないよお」

「じゃあ、雪風もお母さんを探すのをお手伝いします!」

 

「っぽい!夕立もお手伝いするっぽい!」

「うん…ありがと…」

 

「あたしは雪風って言います!あなたのお名前は?」

「…舞」

 

「舞ちゃんですね!じゃあ、一緒にお母さんを探しましょう!」

「夕立は夕立っぽい!うんしょっと。これならお母さんも背が高くなって見つけやすいっぽい!」

 

「わぁ、たかーい!」

 

こうして、雪風と夕立による舞と言う女の子のお母さんの捜索が始まった。

 

「そういえば、舞ちゃんのお母さんはどんな人なのでしょう?」

「……おかあしゃんはびじん…」

 

「それだけじゃわかんないっぽい~」

 

「う、ふぇ……」

 

「な、泣かないでっぽい~。ちゃんと探すから!」

 

「舞ちゃんのお母さんはいませんかー!舞ちゃんのお母さん!いませんかー!」

 

雪風が大きな声で呼ぶ。見た目も何もわからないのでは手あたり次第に気づいてもらうしかない。何だ何だと人の注目が集まる。艦娘が女の子を肩車し、その隣の艦娘も大きな声で人を探している。迷子のようだ。

 

「おや、雪風さんに夕立さん。どうかされましたか?その子は…」

 

「あっ、マスター!舞ちゃんと言うのですが、舞ちゃんのお母さんを探しています!」

「顔とかもわかんないから目立つようにしてるっぽい。なかなか見つからないっぽい~」

 

「ふむ。なるほど。それは大変ですな。私も方々を尋ねてみましょう。引き続き、雪風さんと夕立さんは捜索を」

 

「はいっ!わかりました!」

 

「近所の大きなスーパーにも行かれているかもしれません。この商店街も広いですし、手間がかかるでしょう。人は多いほうが良い」

 

「マスター!よろしくお願いします!」

 

雪風達とは違う方向へ歩き出したマスターとはまた違う方向へと探索を進める。

 

「ぽいー!舞ちゃんのおかあさーん!いないっぽいー!?」

「おかあさーん!!」

 

「舞ちゃんのお母さん!いませんかー!」

 

「おやまあ、雪風ちゃんに夕立ちゃんじゃないかい。その子は…迷子かい?」

「梅さん!どなたか、女の子を探されている人はいませんでしたか?」

 

「うーん、見てないねぇ…」

「俺たちもちょっと聞いて回ってみるかい?」

 

 

「そうだねぇ。今日は人も多いし、探すのは大変だろうしねぇ。あんた、ちょっと頼むよ」

「おうよ!店は任せたぜ!」

 

「あら、迷子かい?あんた!あんたも行ってきておくれよ!」

「おう、任せとけ!」

 

「ありがとうっぽい~。夕立達はこっちも探しに行くっぽい~」

 

「ああ、気を付けてね」

 

竹美や梅達とも別れ、商店街をうろうろとする雪風と夕立と舞。しかし、なぜか一向に見つからず。途方に暮れ始めた。

 

「ふう。お母さん、どこに行っちゃったっぽい?全然見つからないっぽい…」

「うーん…戻ってもう一回最初から探しましょう」

 

「そうするっぽい」

「お母さん…うぐっひっく…」

 

「舞ちゃん、泣いたらダメっぽい。お母さんは夕立達が見つけてあげるっぽい!」

 

「あっるっこー!あっるっこー!」

「ぐすっ…そ、それ…」

 

「おおっ。それはいいっぽい!歌って元気だすっぽい!」

「はい!舞ちゃんも歌いましょう!あっるっこー!あっるっこー!」

 

「…えへへ…わたしはーげんきー!」

 

「っぽい!その調子でがんばるっぽい!」

 

大きな声で歌を歌う雪風と夕立と舞。それは駆逐艦の談話室のDVDで見たアニメの曲だ。皐月や文月も混じって一緒に歌うと何だか元気が出る、と言うことでよく歌っている。謎のもふもふな巨大生物が出てきたり、猫の姿をしたバスが出てきたりと、雪風や夕立は大好きだった。

 

夕立と舞が歌を歌い。雪風が一生懸命お母さんを探す。その姿に大人たちも動きを見せており、ついに八百屋の所に戻ってきた時だった。何やら焦った表情で辺りを見回し、不安そうにしている女性。竹美や梅が落ち着かせようとしているようだが。

 

肩車をしていた舞が「あっ」と声をあげた。

 

「ん?舞ちゃん、どうしたっぽい?」

「お母さん!」

 

「ぽい!?んしょっと、舞ちゃん、あの人がお母さんっぽい?」

 

「うん!お母さんだ!おかーーーさーーーん!!」

「ま、舞…?舞!!!」

 

舞が一目散に両手を広げて待つ母のもとへと駆け寄る。すぐに抱き抱えられ、舞は嬉しそうだった。

 

「よかった…よかった…。手を繋いでいると思っていたらいつの間にか…ごめんね…ごめんね…!けがはない?大丈夫だった?」

 

「うん!舞は平気だよ!ゆうだちおねえちゃんにかたぐるましてもらってたの!!ゆきかぜおねえちゃんと3人でいっしょにいたの!」

 

舞が指さした先に居たのは小学生か中学生くらいの少女。舞が雪風と夕立に手を振ると二人もそれに手を振って返す。

 

「っぽい!舞ちゃん、お母さんが見つかってよかったっぽい!」

 

「舞ちゃん!よかったです!」

 

「あ、ああ…ありがとうございます…ありがとうございます…!何とお礼を申したらよいのか…私の不注意で娘を…危ないところを本当に…!」

 

「いいえ!街の皆様の安全をお守りするのが雪風達艦娘のお仕事です!舞ちゃんがご無事でよかったです!!」

「っぽい!」

 

「か、かん…むす…」

 

艦娘。テレビなどでは時々暴力装置、平和を乱す象徴、などと謳われることがある。どんな恐ろしいものかと。娘が巻き込まれたりしないかと心配したことも多々ある。

 

「艦娘と人間が相容れることはありえないでしょう。なぜなら艦娘は恐ろしい兵器なのです」

 

テレビではそう言っていた。実際はどうだ。彼女たちは少女で、どこにでもいる少女に見えた。それでいて、娘を守ってくれ、手を振って笑顔を向けている。

近づけまいかどうしようか考えたが、娘が手を伸ばしてタッチを求めていた。彼女たちは笑顔でたーっち!と言って娘と和気あいあいとしているではないか。

 

「舞ちゃん、最後まで泣かずにお母さんを呼んでいました。ですから…怒らないであげてください。いっぱい、褒めてあげてください。雪風達といて怖かったかもしれません。でも、一生懸命お母さんを呼んでいました。とっても強い子です。だから、頑張ったって褒めてあげてほしいです」

 

「お姉ちゃんたちはこわくないもん!やさしくて、がんばろうっていってくれて。いっしょにあっるっこーってお歌も歌ったよ!雪風おねえちゃん!夕立おねえちゃん!ありがとう!」

 

「ぽい!舞ちゃんはえらいっぽい!なでなでしてあげるっぽい!!」

「きゃー♪」

 

これが…これが艦娘。優しく、誰よりも自分たちを守ってくれる…人?テレビで言っていたことは一体なんだったのだろうか。艦娘を見る目を変えたほうがよさそうであった。

 

「百聞は一見に如かず。テレビやお偉いさんがあーだこーだ言っても。実際にこうして会って、話をしてみるといい子達でしょう?ここはね。新しい提督さんの計らいで艦娘と触れ合える機会が多いんだ。実際に会ってみた人たちは、みんな親しみを覚えて帰っていく。こんなにまっすぐで、優しくて。あたしらは艦娘が好きだよ。とってもいい子だからね。ちょっとでいい。艦娘のこと。怖い兵器だなんて考えないでおくれよ」

 

「……はい」

 

竹美が舞の母親にお願いをする。艦娘を悪い目で見ないでほしいと。伝わったかはわからない。帰る時には何度も頭を下げ、ありがとうと言っていた。舞は母に抱かれ、満面の笑みでばいばーい!と言って帰っていった。

 

ほどなくして玲司が村雨と時雨と北上と共にやってきた。そして一番に雪風と夕立の頭を撫でた。

 

「雪風、夕立。大変だったみたいだな。けど、頑張って解決したみたいでよかった。そんで、すまんかった…俺も協力できればよかったんだけどな…」

 

「あんたは松子に付き合わされたんだろう?そっちはそっちで目離すと何しでかすかわかんないから、それでいいのさ。雪風ちゃん達はあんたが思ってる以上にしっかりしてるってことだよ。偉かったよ。だからさ、源ちゃんのカツオでいろいろやるんだろ?玉ねぎとかにんにくとか持っていきな。用意はしてあるからさ」

 

「…ありがとうな。梅おばさん」

 

「うちもほれ、これでたたきでもしな。魚と肉。あるとおいしいだろうしさ。いいやつだよ、これはね。みんなで食べな。源を助けてくれて、迷子探しのご褒美さ。持っていきな」

 

「竹美おばさん。ありがとう」

 

「礼なら雪風ちゃん達に言いな。この子達のおかげでいろいろとこの商店街、世話になってんだからさ。さ、雪風ちゃん達に料理を振る舞ってやんな!」

 

「おう玲ちゃん!俺ももう感激だぜ!これ、イカ!イカも持ってけ!!イカそうめんにしてみな!さいっこうにうまいぜ!!」

 

何やら予想以上にどっさりともらってしまった。マスターにもケーキをもらっているし、車にどっさりと積み込んだ。

 

「村雨ちゃん、またおいでよ。あんた超かわいいんだ。自信を持ちな。時雨ちゃんもね。いやぁ、いい仕事だった!」

「あんたまた何かしたのかい…。ほーん。いいメイクじゃないかい。これなら玲ちゃんもイチコロだね」

 

「え、ええ!?」

「あ、あははは…それは嬉しいかな!」

 

「だろ!?そんでさ、これを着りゃ堕ちる!どうだい、今夜これ着て一発…」

「あんたまたこんなもん仕入れてきたのかい!?一発とか女の子に言ってんじゃないよこのバカタレ!」

 

「あいてえ!!!く、くう!負けないよあたしゃ!」

 

竹美に頭をしばかれる松子。また何やら派手な下着をこんな人目のつくところで…。梅が厄介なことになる前に早く行きな!と手でジェスチャーする。玲司は苦笑いしてごめんと手を合わせて車を発進させた。

 

 

鎮守府に戻り、たんまりもらった食材を調理するにあたり、藁までもらってきてしまい、本格的に作りたいのだが厨房でやるのは危険だったので、外でやろう、と玲司が言い出した。

 

薬味を刻むだけは厨房で行い、全員を外に集めた。石を使って即席の窯を作り、火を起こす。

 

「なんだなんだぁ?外に出て何するんだよ?」

 

「こんなの中でやったら灰が飛んで危ないからな。見てな。藁を入れてっと…」

 

火が着いた窯の中に藁を入れる。盛大に炎があがる。摩耶や最上、瑞鶴はおおーっと声をあげた。そこにカツオを網の上に乗せ、軽く炙る。色が変わり、よしと玲司が言うと置いてあった氷水の入ったボウルに炙ったカツオを入れていく。事前に串を通してあるので安全だ。

 

「何だか、すごいですね…」

「豪快ですねぇ…」

 

大和と扶桑がじっと調理の風景を見ていた。またもや新しいことにわくわくしている様子がすぐわかる。次いで牛肉も炙っていく。そして、それを適当な大きさに切っていくのだ。

 

「わぁー!すごいすごい!おいしそうだよ!」

「……お腹、すきました」

 

「よし、これを大皿にのっけて。こっちものっけて、薬味を乗せて、ポン酢ぶっかけるぞー!これでカツオと牛肉のたたき完成だ!ついでにおまけでもらったイカの刺身もあるからな!」

 

「うおおお!何やこれ!めっちゃうまそうやん!!」

「さっすが玲司君!ひゃー!お腹空いたー!」

 

全員で手を合わせ、いただきますと号令をかけると我先に飛びつくみんな。魚が好きな皐月や文月はカツオを口いっぱいに頬張り。肉が好きな瑞鶴や霰、夕立は牛肉のたたきを頬張っては歓喜の声をあげる。

 

「んー!おいしいっぽいー!」

「おいっし!翔鶴姉!お肉もいけるよ!」

 

「んだよ最上!にんにく入れんなよ!くさくなるだろ!」

「いいじゃん別に、まったく摩耶は乙女だなぁ」

 

「だーかーら、入れんなって!!ったく!へへっ、いっただっきまーす!ん、うまっ!」

 

「しれえ!とってもおいしいです!」

 

「そっか!いっぱい食べろよ!!」

「はい!」

 

雪風は幸せそうにカツオを皆と頬張っていた。至福の時だったようだ。

 

 

翌朝。雪風がノートを抱えて玲司の下を訪れた。

 

「しれえ!日記を書いてきました!」

 

「お、よーし。じゃあ見せてもらうよ」

 

雪風からノートを受け取り、日記を読む。玲司も実は雪風の日記が楽しみだったりする。しっかりと、ゆっくりと読んでいく。雪風はわくわくと言った擬音が聞こえそうな感じで玲司を見つめていた。

玲司が赤ペンを取り出し、何かを書いていく。そうして、バッと大きくページを広げて見せた。

 

「雪風、昨日と日記は花丸だ!頑張ったからな!」

「わあ!しれえ!ありがとうございます!!さっそくお部屋に戻って読みます!!」

 

ダダダっと慌ただしく戻っていった。楽しみで仕方なかったのだろう。

 

「すっかり雪風ちゃんの先生みたいになってますね」

「一生懸命書いてくるからなぁ。ちゃんと読んで返事書いてあげなきゃ失礼だろ」

 

「ふふっ、そこが先生みたいなんです。微笑ましいですね」

「かわいらしいだろ。あれ、実は楽しみなんだよ」

 

そう言って玲司は笑っていた。間宮も嬉しそうにしていた。

 

……

 

雪風は自室に戻り、さっそく昨日の日記を読み返す。

 

2月27日

 

今日はしょう店がいへ行きました!おいしいごはんとケーキを食べました。ケーキはとってもあまくてとってもおいしかったです!!

そのあと、まいちゃんと言う女の子のおかあさんを夕立ちゃんといっしょにさがしました。おうたをうたったりしてさがしました。おかあさんはぶじに見つかりました!!!まいちゃんはとってもよろこんでいました。おかあさんにも何どもありがとうと言われて、見つかってよかったなぁと思いました!!

 

夜ごはんはたっくさんのかつおっていうお魚とお肉のりょうりでした!お外で食べるごはんは食どうで食べるのとはちょっとちがって、いつもよりおいしくかんじました。しれえ、いつもおいしいごはんをありがとうございます!!

 

雪風。まいちゃんのお母さんさがし、おつかれさま。ぶじに見つかってよかったな。夕立といっしょにがんばったからさいごには見つけられたな。えらいぞ。雪風と夕立はやさしい子だな。そのやさしい心はいつまでもわすれないようにしていこう。

外でたべるご飯はおいしかったか?またこんど、みんなでいっしょに外でたべよう。やくそく!

この絵は雪風とご飯をいっしょに食べてたおれかな?かっこよく書いてくれてありがとう!雪風もかわいいぞ!

 

足をパタパタさせ、ご機嫌の雪風。たくさん褒められた返事が嬉しかった。クレヨンを使って自分と司令官を描いた。楽しくご飯を食べている。みんなも描きたかったが、時間がなくて描けなかった。今度は描けるといいな。笑った口を赤いクレヨンで塗った。今度からは、赤いクレヨンもこうして楽しいこと、嬉しいことをいっぱい描けるといいな、と思った。

 

ふと雪風は昔の日記を引っ張り出した。そこにはページ一面に「しね」と大小入り乱れて書いた日記。日記と呼ぶのもどうかと思える代物だった。

 

過去は変えられない。だからこそ、真っ赤な文字ばかりが書かれたその日記を申し訳なく思った。こんなことを描かれるためにあるんじゃないと。けど、それも雪風の一部であり、変えられない過去である。一冊丸ごと呪いの言葉のように書かれたノート。それを大事にしまい、また玲司のコメントが書かれた日記を読む。

 

未来はどうなるかなんて雪風はわからない。過去も変えられない。これを見せたら司令官は何と言うだろう?玲司がそれを知っているとは雪風は知らない。それを読んでいるからこそ、玲司は雪風をたくさん幸せにしてきたのだ。雪風の知らないところで、玲司に助けは伝わり、そして今がある。

 

(昔のあたし…今はとっても幸せだから…絶対、大丈夫だから…!)

 

過去の自分を受け入れ、それでいてまっすぐ前を見つめる。そうして、たくさんの幸せを振りまく幸運艦「雪風」。今日はどんな素敵な日記が書けるかな?今日も1日を大切に、雪風はノートを閉じて演習の準備を始めるのだった。




ゆきかぜのにっきちょう。それは読む人を笑顔にする魔法のノート。ただし見れるのは玲司だけですが。玲司は雪風の辛いことも、嬉しいことも全部受け止めます。この子が笑っていられるように。

さて、次からはずっと書くべきか悩んでいた話を進めて行こうと思います。次回の主役は舞鶴の提督、虎瀬龍司と司令長官、古井総一郎です。非常に重い話になります。そしてその後、吹雪の決意も書いていきたいと思います。

一言だけネタバレを言うと、壊れた霞。です。

次回もお待ちいただけますと嬉しいです。

それでは、また。
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