提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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保護された子のお話はまだまだ続きます。解決口の見えない状況の中、手出しがほぼできない玲司。何もかもが信じられない荒潮。歩み寄ろうとする満潮。そして動かずにいる朝潮と大潮。壊れた霞。付き添う妙高。彼女たちはどうしていくのでしょう?

満潮の視点から今回はスタートします。では、五十四話。ごゆるりとお読みください。

毎回毎回誤字を報告してくださる方、ありがとうございます。ガバガバで本当にすみません…。


第五十四話

「おーし、じゃあ説明していくぞー」

 

そう言って司令官が目の前の食べ物を白い皮みたいなのに包んでいく。私はそれについては興味はないけど、こうして手伝うことで少しでも信用を得られればいい。どうせ私たち艦娘は人間がいなければ生きていけない。深海棲艦に成り果てるか、倉庫でやせ細ってほったらかしにされるか。だったらまだ信頼を得て海に出て名誉の戦死でも何でもして、艦娘として死にたい。深海棲艦になったとしても、満潮として死ぬならそうでありたい。

信頼を得れば練度もあげやすいだろうし、出撃もさせてもらえやすくなるだろう。ダメなら使えないフリをして、盾にでも使ってもらえるような状態になって、戦地で死ねれば多少は役に立つだろう。

つまらない。いたぶりやすい。だからいたぶってから盾となって死ね、はちょっとイヤだけど。そうして帰ってこなかった子がいる。アイツが着任したときに初期艦としてやってきて「何だこの芋くせえ田舎のガキみてえな」と言われ、散々冷たい扱い、虐待をされた挙げ句に悪い人間を守るための盾になれと言われて帰ってこなかった子。

 

「司令官!これでいいんですか?何だか簡単そうで難しいですね…」

 

「お、いいじゃないか。よくできてる。この調子でどんどん頼むな」

 

「はい!お任せください!」

 

そう。そこでちょうどぎょーざとか言うわけのわかんないものを包んでるあの子…確か、首にひどい火傷の痕が…ん?

 

「ふ、吹雪?」

「はい?満潮ちゃん、どうしました…ひゃあ!?」

 

首に残る火傷痕。え、まさか…。

 

「ふ、吹雪?宿毛湾の…吹雪?」

 

吹雪の顔が強張る。当たり、か。沈んだと思っていたんだけど…。

 

「私も宿毛湾にいたのよ。覚えてない?あんたとはほとんど会話はしてなかったけど」

 

「み、見覚えはあるよ…あはは、よく覚えてたね」

 

「忘れられるわけないでしょ…。あんたどれだけ酷い目に遭ってたと思ってんの…」

 

「う、うう…」

 

「ふーん。わけありなのね。まあ、私もここの一員になるから。後でここのこと、聞かせてほしいわ」

 

「わ、わかったよ。でも、満潮ちゃんが想像しているような鎮守府じゃないよ?私のお部屋でお話しよっか。ええっと、朝潮ちゃん達は…」

 

「さあ?私だけで行くわ。姉さん達は来れないわね。どうするか知らないけど」

 

やっぱりうちの…いや、今は違うか。宿毛湾泊地。元は私達もいたろくでもない泊地だった。とにかく…霞の言葉を借りれば一言で「クズ」で片づけられる人間だった。吹雪の件、そして私たちを意味の分からない研究所と称した何かに売り飛ばしたり。

 

(お前たちは俺の物だ。不要になった「物」は売れるもんは売る。そう言うことだ。まあ、せいぜいそっちで役に立ってくれや)

 

所詮私たちは艦娘。人間からしてみれば物でしかないと言うこと。ここの司令官はどうなんだろう。元いた場所の私たちと違って、吹雪は司令官に妙に笑顔で接しているし、他の艦娘も楽しそう。(霰は…わからない)

さっきも吹雪は頭を撫でてもらって喜んでいた。何か変な機械でも使って洗脳でもしているのだろうか?いや、そうでもない…ように見える。それなら、舞鶴の鎮守府の艦娘達まで、洗脳していることになる。それは無理だろうし…。わからない。この鎮守府はわからない。

 

「朝潮ちゃんと大潮ちゃんたちも一緒にやらない?これ、楽しいよ?」

 

「い、いえ…私は…」

 

「お、大潮も…えっと…」

 

「無駄よ。あんたが宿毛湾の吹雪だとわかってても、人間と関わりを持った艦娘とは話したくないんですって。それよりも、これ、早く作った方がいいんじゃない?ここと舞鶴の司令官が食べるものなんでしょ?怒られるわよ」

 

「満潮ちゃん、いくらなんでもこの量は二人では無理だよぉ…これは私たちも食べるものだよ?」

 

「は、はあ?なにそれ意味わかんない」

 

「え、ええ…」

 

私たちも食べる?ううん、意味わかんない。人間の食べるものでしょ、これ?そういえば、舞鶴の利根さんがさっきからまだかまだ焼かんのかってぶつぶつ言ってる。磯風さんは熱心に横須賀の司令官に教えてもらっている。何?ほんとに私たちも食べるの…?

 

「これはしれえに食べてもらうぎょーざです!こっちは雪風が食べるのです!」

 

「電も司令官さんに食べてもらうのを作るのです!」

 

「じゃじゃーん!私も提督のために包んだよ!時雨は…え、ええと」

 

「……笑えばいいじゃないか」

 

駆逐艦は自分が食べる分と司令官のを分けている。吹雪の言うように、みんなで食べるものらしい。その話を聞いていた朝潮姉さんが目を皿にしている。無理もない。燃料と弾薬しか与えられていなかったし、あそこに行ってからはまともにそれすら与えられていない。吐き気を催すほど質の悪い燃料だった。吐いたら殴られるからとにかくあいつらが行ってから吐いた。

とりあえず、あそこから解放されて大本営にいた時に食事を与えられた。結局食べたのは私と妙高さんだけだった。霞には無理やり妙高さんが食べさせていたけれど(後で吐いてしまったみたいだけど)。

 

それでも。一ヶ月ほどまともに食事も何も与えられていないから体はフラフラ。今もこうして座ってやらないと辛い。でも、何だろう。何かよくわからないけど…楽しい、のかな。吹雪が一生懸命こうするといいと、笑顔で教えてくれる。私はうまくやれずに破れてしまったり、うまく包めなかったり。吹雪がこんなに笑っているなんて。きっと、毎日楽しくやっていられるんだろうな。私もそうなれるかな?

 

「満潮ちゃん、皮はまだまだあるから…その…失敗してもめげずに頑張ろうね…」

 

「……うるさい」

 

「あう…」

 

ちょっと困らせてやろうと思ったけど、吹雪には気づかれたのか笑っていた。そっか、私。今楽しいんだ。そんなこと、建造されてから感じたことも体験したこともないから。それと、顔が熱い。意味わかんない。吹雪に負けない。そうしてペースを上げた。

 

「満潮ちゃん、全部穴空いてるよ…」

「はあ!?」

 

吹雪に完敗だ。悔しい。けどいつか見返してやるんだから。

 

 

だいぶ餃子もできてきたところで愛用している鉄鍋を取り出し、コンロに置く。

 

「提督?私、言いましたよね。今日は何もしないでくださいって」

 

「ち、違うって。こいつを使って間宮に作ってほしいものがあるんだ」

 

慌てて自分は料理はしない、と手をブンブン振って待ったをかける。本当なら振るいたくてしょうがないが、何せ今日は凄まじい剣幕で大淀、間宮、翔鶴にどやされているし、間宮には絶対に触るなとまで言われている。趣味と言うか、息をするようにいつも料理を作ってしまう玲司にとって、料理をするなと言うのはなかなかに堪えるものがあった。深海棲艦より怖い間宮達の目が光っている以上、触らぬが吉である。

 

冷蔵庫から取り出したのはたくさんのエビ。そして、マヨネーズ。前日に別に下準備をしていたやつだ。間宮はあらかた作り方を教わっていた。

 

「こっちでエビチリってやつ。こっちが辛くないエビマヨ。これを作ってくれ。そんな難しくないからさ」

 

「わかりました。ふふ、新しいお料理を覚えるのは楽しいです」

 

「そっかそっか。またいろいろ教えるよ。摩耶や夕立の今日の晩飯当てクイズってのを大外れにしてやりたいからな」

 

その言葉を聞いた摩耶や夕立が「なんだとー!」とか「提督さんずるいっぽいー!」と餃子を作りながら抗議してきた。涼しい顔をして聞こえないフリをする。吹雪や最上、大和などはまた新しい料理に期待が止まらないらしい。吹雪の横では満潮が一生懸命餃子を作っていた。

 

(そっか。満潮達も宿毛湾。吹雪も宿毛湾。何て言うか、偶然とは言い難い流れだな。朝潮は無理としても人懐こい大潮がこっちに加わると思ってたんだけど…意外に満潮とはな)

 

これは玲司のあくまで予想であるが、忠誠心が高い朝潮。彼女は度重なる人間の愚行に忠誠などないだろうと思っているし、一度人に警戒をしてしまっている以上、彼女はなびかない。これは正解だった。

 

大潮は元々ショートランドにもいたが、建造してすぐからよく話しかけてきたり、ドーンと言って飛びついてきたりと人懐こい。どちらかと言えば彼女がキーになり、朝潮や満潮の警戒を解いてくれるかとも思ったが思惑は外れた。大潮も朝潮と同様に極度に人間を警戒している。

 

そして完全に予想外だった満潮。もともと満潮はプライドも高く、それでいて過去の大戦のこともあり、卑屈で人に自分から歩み寄ることはほぼなく、彼女こそがこれから先信用を得るには長い長い時間を要すると思っていたのだが。自分から玲司に声をかけてきたり、餃子作りに参加するとは思っていなかった。ちらっと聞こえた朝潮と大潮に話していた「私は信じる」の言葉。彼女がそう言うとは思いもしなかった。

 

(朝潮と大潮がそれに続くとは思えないけどな…今のままだと。満潮も信じるとは言ったけど、信頼関係を築いていくには時間がかかるな。下手にこちらから介入はあまりしないほうがいい。荒潮は…どうにもならんな。見守るしかない)

 

荒潮。一番敵意を剥き出しにしてきたのが彼女。横須賀の艦娘にさえ誰彼構わず噛みついて来そうな感じだった。人間に何をされたのだろうか。とにかく誰も信じない様子で。そしてこの場からも去ってしまった。荒潮に関しては時間がかかるか、それとも何もできずに終わってしまうか。あまりに攻撃的な状況が変わらないようであれば、こちらとしても考えなければならない。ただ、荒潮はああして噛みついては来るが、端々に怯えていたように見えるものがあった。強く見せることで自分と姉妹を守っていたのだろう。姉妹と妙高だけは、まだ心を開いているのだろうか。

 

(となると、こっちに来てくれた満潮とよくないことになりそうだな…満潮も我が強いからな。何とかしないと…)

 

もどかしい。何とかしたいが下手にこちらが介入すると余計に拗れる未来しか見えない。何の解決の糸口も見つけられずにいた。隔靴搔痒。当面の課題になりそうだ。

 

「提督。終わったぜ。提督。おい提督!聞いてんのかよ!」

 

「あっ、ああ…すまん。どうした?」

 

「ったく、ボーっとしてんなよ。全部終わったよ!はーしんど…」

 

「摩耶お疲れー」

 

みんな、それぞれのテーブルでふいーっと一息吐いていた。

 

「おお、摩耶悪いな。お疲れ。んじゃあ間宮の手が空いたら餃子焼いていくから、それまで休憩だ。みんな、お疲れ」

 

手を洗い、ふうとこれまた一息吐いている満潮と目が合う。目が合うとすぐにふいっと視線を逸らして目を泳がせた。

 

「満潮。手伝ってくれてありがとう。あとは焼くだけだし、できたらすぐ持ってくるからさ。待っててくれよ」

 

「え…本当に私も食べていいの…?」

 

「手伝ってくれたんだし、うちじゃみんな揃って夕飯は一緒の釜の飯に皿のおかずを食べるよ。満潮達はもううちの鎮守府の一員だし、ちゃんとおかずもご飯も出すよ」

 

「ね、満潮ちゃん、一緒に食べようよ!」

 

「え、ええ…まあ、悪くない…わね。ど、どうも」

 

素っ気ないが食べてくれる気にはなってくれたらしい。微妙な距離感だが、あまりこちらから踏み込むのもよくないように思う。

 

そうしていると霞と妙高が戻ってきた。エビマヨの匂いに霞が弱々しく「おなか…すいた」と言い出し、少し嬉しくなった。ただ、ここでは知らない人が多いだろうと言うことで、妙高に用意した部屋に連れて行き食べてもらおうと思ったが…。

 

「おねえちゃん、おなかすいた。うごきたくない」

 

「え、えと…そうですか。ここでじゃあ食べましょうか…」

 

「うん」

 

ショートランドで霧島に混じってボロクソに言われていた頃のイメージがあるため、見た目は霞でもちっとも霞とは思えないありさまだった。足をぱたぱたさせて座って待っている姿は、喫茶「ルーチェ」でケーキを待つ子供のようだった。

 

「不思議です…霞さんがこんなに落ち着いて…妖精さん?」

 

「あなたとあなた。ごはんはたべるですか?」

 

「おはしとおさら。いりますか?」

 

妖精さんが妙高と霞に問いかける。霞は妖精さんに興味があるのか手を伸ばす。霞の小さな手のひらにさらに小さな妖精さんの手のひらがぴとっと触れると、ビクッと手を引いた。

 

「おおっとごめんなさいよ」

 

「おいとくのでたべてくださいです。ここのりょうりはあじもかくべつ。おためしあれー」

 

「あでゅー」

 

「お手伝いをする…妖精さん?信じられない…」

 

妙高が目を白黒させている。普段、どの鎮守府などにおいても人間の手伝いをする妖精さんはいない。肩に乗ったりテーブルの周りをちょこちょこ動き回るのが関の山だ。この綺麗な鎮守府はこの子達が…?調味料までわっせわっせと運んでいく。混ざって駆逐艦も次から次へと焼けた何かをテーブルまでみんなで運んでいる。

 

どうしてみんな楽しそうなのだろう。

 

「朝潮と大潮は食べるか?」

 

「え、わ、私達は…」

 

怯えている。やはり会話さえ無理か。目が泳いでいるし、震えているし、縮こまっている。

 

「食べておいたら?艦娘と言えど、何も食べなきゃ緩やかに動かなくなるだけよ。そうしたいならすればいい。私は言ったからね。どっちつかずでおろおろしてるだけじゃ解決しないわよ。まあ、朝潮姉さんは決められそうもないだろうけど」

 

「あ、う、うん…」

 

「大潮姉さんも。別にここの艦娘や司令官と仲良くなりなさいって言ってるわけじゃないわ。どうしたいのかは知らないけど、害を加えそうにない顔してるでしょ、司令官。私はただ妹として姉さん達が弱っていくのを見たくないだけ」

 

満潮なりの姉を思う言葉なのだろうか。言い方はドぎついが、姉を思って…いるのか?別に姉妹で揉めているわけではなさそうである。

 

「朝潮ちゃん、大潮ちゃん。一緒に食べようよ。司令官の作るご飯、ほんとにおいしいから!あっ、ごめん…朝潮ちゃん達にはまずお粥だって…」

 

「はあ!?私も作ったのに!意味わかんない!どういう事よ、司令官!」

 

「ええ!?い、いや、急にこんなの食ったらおかしくなんないかなって…」

 

「私たちは艦娘よ!人間とは違う!それに、昨日だって普通にパンやご飯やら食べたわよ!」

 

「あ、ああ、そ、そっか…満潮、つまり餃子が気になるんだな?」

 

「ちがうったら!せっかくおいしそうだから作るの手伝ったのになによって……」

 

「満潮ちゃん、食べたかったんだ」

 

「ふ、吹雪!ちが……そ、そうよ!食べたいの!」

 

吹雪がそれを聞いて吹き出していた。じゃあもっともらってくるね!と嬉しそうに間宮のところへ行くと、違うったら!とムキになって言う満潮。多少は警戒を解いてくれているようで、吹雪に感謝した。何も言わずに頭を撫でてやると、「???」となっていたようだが。

 

 

姉さん達は料理は食べたみたいだけど、食べ終わると同時に部屋に戻ったのかいなくなっていた。

 

「姉さん達、結局馴染もうとしなかった、か」

 

「しょ、しょうがないよ…宿毛湾でも、その後いたところでも、人にとってもひどいこと…」

 

「正直私達はおまけみたいなものよ。一番の被害者は霞だったわけだし。荒潮はどうしてああなったのかわからない…」

 

隣で妙高さんにベタベタになった口の周りを拭いてもらってボーッとしている霞。頭をなでてあげるとくすぐったそうに目を細めてる。恐怖心はあるのか、椅子のガタンと言う音にも怯えて妙高さんにしがみつく。

 

「私たちは霞の姉だからと言う理由よ。『霞と同型艦なんて見てて霞を思い出して腹が立つ』からだそうよ。馬鹿みたいよね」

 

「私はただ単に『地味でいじめがいがある』からだったな…。あとは、見ててぱっとしないしいてもいなくても一緒って、怖い人たちの船を守れって。そして帰ってくるなって。初雪ちゃんと叢雲ちゃんが…」

 

「そう…ねえ、ここで話す内容じゃないわ。吹雪、部屋へ連れて行って」

 

吹雪が頷き、私は司令官にお礼を言った。おう、と手を振られた。……私は別に朝潮姉さん達と違って警戒もしてないし、荒潮のように敵意を剥き出しにしたつもりもない。が、どこか司令官との距離が遠い。私が荒潮のように襲おうとしてるんじゃないかとか考えているのかな。そんな気はない。悪い人ではなさそうだし、吹雪を始め、みんな優しい。

 

(人なんてねぇ、みんなみーんな裏切るのよぉ?)

 

荒潮が言ってた言葉。私は…これが最後だ。これがダメなら私は潔く何もかもを捨てて海で死のう。意味わかんないまま、ただ全部を諦めるくらいなら、最後くらい誰かを思ってみたい。私だって信じる心を持ってる。人間に怯えていた吹雪がああまで懐いているのなら、私もきっと優しくしてもらえるんじゃないか。そう思ってみた。

 

「あっ、いっけない。お茶もらってくるの忘れちゃった!すぐお茶っ葉もらってくるね!」

「え、別にいいって、ちょっと!もう、あんなそそっかしい性格だったなんて…」

 

吹雪と言えばとにかくおどおどしていてすぐドジをしては怒鳴られていたのに。今はそうでもないんだ。部屋を見回すと、かわいらしい下着がぶら下がっていたり、布団もカーテンも青いシーツやカーテン。脱ぎ散らかしたパジャマ。妙な猫の柄。吹雪ってだらしなかったんだ…。まあ自由にやっていいと言われたら、こうなっていくのかしら。ってか、脱いだパンツそのままって…。

 

「お待たせ満潮ちゃあああああん!?あ、わわわご、ごめ!!ぱ、パンツ脱ぎっぱなし!わあああ!干しっぱなし!」

 

顔を真っ赤にして慌てて脱ぎっぱなしの下着を隠し、干してある下着をタンスにしまっていく。そうして人の目の前でパジャマに着替えたり、ごそごそとタンスを漁っては私に似合うパジャマを探しているようだ。

パジャマに着替えるときに見えたたくさんの傷。ああ、いつも「臭い」とかの理由で屑男に熱いお茶や湯をかけられていたっけ。ドックには出撃もしないで入るのかとか言って入らせなかったくせに。霞みたいに傷だらけだ。一度も出撃させてもらえてないのに、変な傷だけ残されて。いかにアイツが屑かがわかる。

 

それはそうと、パンツのままでお尻をこっちに向けてタンスを漁る前に自分が早く何か着てほしい。ようやく見つけたのかさらの開封されていないパジャマと下着をよこしてくれた。

 

「こ、これ!これを着てね!下着は…まださらのやつが、ええと。これ!」

 

「ありがと。って、何よこれ!こんなパンツはけるわけないでしょ!?何考えてんのよ!?」

 

「えっ!?あ、あわわわわわ!!どっからこんなのまぎれてたのぉ!?」

 

肌が当たり前のように透ける下着だった。松子おばさああああん!?とかわけのわかんない叫びをあげてた。顔を真っ赤にして新しい下着を差し出す。薄いピンク。これならはけるか…。吹雪、意外に下着はかわいいのつけてるんだ。

 

「ううう…ごめんね…これは…しまっとく。いつも買いに行くところのおばさんが『制服が地味?だったら脱いだときの自己主張が大事だよ!』って断ったのにいつの間にか入れてたみたい…私も気づかないでタンスにしまっちゃって…」

 

「ふふ…今の吹雪、おもしろかったわ」

 

「満潮ちゃぁん…」

 

涙目になりながら私を見つめてくる。何だろう、ちょっと楽しい。

 

「おほん、女の子だけだからって油断しすぎじゃない?司令官が訪ねてきたらどうするつもりだったのよ」

 

「その時はもうお嫁にいけない…」

 

また意味のわからないことを言ってる。私は今日一日で何回意味わかんないって言えばいいんだろう。人の口癖みたいに言わせないでほしい。でも初めて笑った気がする。自嘲めいた笑いはすることがあったけど。吹雪がおもしろかったし。いまだに派手なパンツを見て顔を真っ赤にしてる。

 

「そ、それじゃ、お話しよっか。私がここに来てからね」

 

そう言ってすごく楽しそうにこの鎮守府のことを話してくれる吹雪。身振り手振りが大げさでかわいいな、と思いながら話を聞くことにしよう。本当に信じてもいいのか。それともダメなのか。まあ、9割は吹雪のおかげでいい方に動いているんだけど。




満潮視点で少しずつ動かしていこうかと思います。書けるなら、朝潮の視点や荒潮の視点でも書いて行きたいですね。

朝潮の心境は次回辺りで明かそうかなと。大潮は朝潮にべったりで、朝潮に依存。荒潮は完全に敵視。満潮は吹雪のこともあり、玲司を信じようとしていますが、何か勘違いをされているのでは…と不安に思っています。

次回は満潮視点から霞について掘り下げていければなと思っています。

それでは。また。

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