ところでこの二人に任せて大丈夫?いいえ、やるときはやる!…はず
大盛の食べ物をもっきゅもっきゅと頬を膨らませて食べる駆逐艦と、パクパクと普通に食べる駆逐艦。突然やってきてはここで食事を食べ始めるところが、朝の名取と言う巡洋艦の人と違う。
大潮が朝潮が早く帰ってこないかとそわそわして待っていると、ノックもなしに「やあ」と入ってきたのはうっすらと青い髪に青い目の大潮よりも小柄で。
「ひ、響ちゃん、ノックをしなきゃだめなのです。ごめんなさいなのです」
そう言う茶色い髪の駆逐艦。服装が似ているし、姉妹なのだろう。自分も普通に入っていいかもなく普通に上がり込んでいるわけで…。
「いてくれて助かった。名取さんにお昼を持って行ってほしいと言われてね。どうせなら仲良く食べようと思って持ってきたんだ。さあ、食べよう。いただきます」
「いただきます、なのです!あ、これ大潮ちゃんの分です。朝潮ちゃんは…お手洗いなのです?」
「電、食事中だよ」
「はわわ、ごめんなさいなのです」
違う。その注意の仕方はぜんぜん違う!と、言うか響、電と言うこの二人とは話したこともない!ずっと同じご飯を食べてきた仲間のように普通に接してくる。調子が狂う…。
「食べた方がいい。残すと間宮さんが怖い。お残しは許しませんと言われている。まあ、私はおいしいから残すわけがない。ハラショー」
「熱いうちに食べた方がおいしいのです!大潮ちゃんもパクッといくのです!」
…だめだ、ついていけない。
(朝潮姉さん…早く帰ってきて…)
大潮の心は折れそうだった。が、結局朝潮が帰ってきたとしても、彼女たちは止まらない。二人してもっきゅもっきゅと頬をパンパンにしてご飯を頬張っている。
「うん。間宮さんのちゃーはんと言うものはハラショーだね。レンゲが止まらない。二人は食べないのかい?食べないと夕飯まで何も食べられないよ。おやつは今買い置きがないしね。残念だよ」
「文月ちゃんと皐月ちゃんと食べすぎちゃったのです…もう備蓄は週末までないのです…」
「ご利用は計画的に、だね」
朝潮も部屋に戻ってきてからと言うもの、響と電の勢いに飲まれて目を白黒させていた。話しかけて来る内容が本当にずっと昔からここでやってきたかのような。友達のような。それでいて次から次へと止まらないフリーダムな会話。話を考え、流れを組み立て、ある程度の予測をしてから会話をする朝潮にとっては最も苦手とするタイプだ。
「あ、あの。これ、本当に食べてもよろしい…のでしょうか。これを食べた後、朝潮と大潮はどうなるのでしょう…?」
「……?司令官さんから何かご命令はあったですか?ないならお昼寝、お絵かき、おしゃべり、何でもありなのです」
「ダー。食べた後すぐに昼寝をすると牛になると五十鈴さんに言われたよ。私は艦娘でいたいから朝潮達とお話がしたいかな」
「ぞおお!牛さんにはなりたくないのです!」
「私が牛になったら電のあの蒼い眼で私を元に戻してくれるだろうから、心配はないかな」
「ず、ずるいのです!電が牛さんになっちゃったら誰が治してくれるですか!?」
「私には無理だよ。蒼い眼の牛、かっこいいじゃないか」
「嫌なのです!電もお昼寝はしないのです!」
「ご飯が食べられないじゃないか」
ぽこぽこと響を叩く電。1しゃべると数倍は余計な話が返ってくる。それも、全くもって予測不能な回答だ。誰が牛になる話が返ってくると思うか?朝潮の脳は響と電の会話についていけず、処理能力が追いつかずに頭から煙が出そうだった。
「うん、まあ。司令官から伝達がないなら出撃も演習も遠征もないね。そもそも昼からの出撃はほぼ聞かないね。緊急でない限り。だから、好きなことをしてもいいんだ。昼寝は怖いから、私達とおしゃべりをする事をオススメするよ。とりあえずは食べた方がいいかな」
7割方食べ終えている響。それとは違って一つも手をつけていない朝潮と大潮のご飯。「福神漬けはハラショーだね」とポリポリと赤い何かを食べている響と言う駆逐艦。とりあえずは食べよう…。大潮と頷き合って食べることにした。
昨日まで、ほぼ何も食べていない彼女たち。満潮にもとりあえず食べろと言われていたんだっけか…。昨夜は一応食べたが量が少ない。朝も少なかった。二、三口食べたところで胃がもっとよこせと言ってきたような気がしたので夢中で食べた。気づけば結構な量を食べていた。
「も、もう食べれないぃ…」
「けぷっ…あ、ありがとうございました…」
「ごちそうさま、なのです!」
「え?」
「食べた後はごちそうさまなのです。食べるときはいただきます。挨拶なのです」
「は、はあ…ごちそうさま、です」
「ご、ごちそうさまです…」
「なのです!」
にぱーっと電が笑った。これでよかったらしい。次からは必ず言おう…。じゃないと何を言われるかわかったものじゃない。
「あ、あの…それで、朝潮達は「あ」
「響ちゃん、どうしたのですか?」
「お茶を忘れた。すまない。取ってくる。少し待っていてくれ。これはすまないね」
「電も行くのです~」
パタンとドアは閉じ、今までの騒がしさが嘘のように静まり返る朝潮達の部屋。その静寂を破るのは、朝潮のはあ~~~と言う、魂でも出てきそうな長く大きなため息。二人のどう対処していいかわからない自由さに朝潮はまったくついていけない。
朝潮はそもそもが人から言われたことを忠実に実行する性格であり、さらに今の朝潮は何に対しても自信がなく、より人の言葉がないと会話すらままならない。こうだからこう、と言う会話ならできるが、あのように朝潮が答えを考えている間にさらに別の質問や会話が出てくると、もう思考は停止する。そしてこの行動。肝心なことを聞こうとする度に聞けない。大潮も朝潮につられて特大のため息が出た。
「朝潮姉さぁん…もう頭から煙が出そうだよぉ…」
「私もよ…まったくついていけない…」
「大潮達、これからどうなっちゃうのかな…」
「わからない…わからないけど、満潮は心配だし、霞や荒潮も。みんな何もなければいいんだけれど…」
途方に暮れて外を眺める。外は庭が一望できる。外では巡洋艦が駆逐艦らしい小さな子を追いかけ回していた。きゃーきゃーと蜘蛛の子を散らすように逃げまとう駆逐艦達。脱走した駆逐艦を追いかけ回しているように見える。捕まったらきっと…解体か、盾に使われるのか…。では、自分たちのところにやってきた彼女たちは…。
「ね、姉さん…あ、あれ、捕まった子はどうなるのかな…?か、解体されちゃうのかなぁ…」
「そ、そんな…こ、こもやっぱり…そんな、場所…」
と言うことは響と電は司令官に何か報告をしに…やっぱり満潮は…そして私たちも…!大潮と身を寄せ合い震えた。これからやっぱり自分たちも酷い目に。またあの場所で霞が受けたような仕打ちを…。
ガチャとドアが開く。大潮がひぃ!と悲鳴をあげた。
「やあ、すまない。遅くなってしまった」
「お茶をお持ちしたのです!あれ、朝潮ちゃん達、どうしたのです?」
「ち、近寄らないで!わ、私たちをか、解体するのなら…ま、まずわた、わたしからにして!大潮はやめてください!」
「朝潮姉さん!だめ!だめだよ!大潮からにして、姉さんはやめてあげてください!!!」
泣きながら響達に解体しないでと懇願する朝潮と大潮。自分たちがお茶を取りに行っている間に何があったのか?二人で目を合わせて首を傾げる。解体なんて司令官がするわけがないのに。
「か、解体!?待ってくださいなのです。電たちは解体なんてできないのです!司令官さんも解体なんて一言もいってないのです!」
「じゃ、じゃあ私たちをす、捨て艦に…!」
「待って。君たちはどうしてそう変な考えに至るんだい?私たちは単に新しく来た朝潮と大潮と話がしたくなっただけだよ。ご飯を一緒に食べて、ね。どうしたら私たちのいない五分ほどでこの世の終わりみたいな顔になったの?」
「そ、外で!外で巡洋艦の方が駆逐艦を追いかけ回して捕まえてるじゃないですか!捕まえて何かするつもりなんですよね!?」
その言葉に電とひびきは窓から外を眺めた。窓も開ける。まだ三月にしては冷たい風がゴオッと部屋に入ってくる。気にせずに耳を澄ませると聞こえるのは誰かの悲鳴。きゃー!と逃げる金髪…あれは皐月か。
「皐月ちゃーん!早く早くぅ!」
「わー!文月ー!見てないで助けてよー!捕まっちゃうー!」
「ほーら、早く逃げねえと捕まえちまうぞー!」
「ま、摩耶さん速いよー!あー!」
……確かに逃げているし、捕まえようとしている。いや、けど、あれって。
「ダー。たのしそうだね。私も混ざりに行きたいね」
「摩耶さんは手加減無用で追いかけてくるからスリルがあるのです。とっても楽しそうなのです。あ、最上さんなのです」
「くっそぉ!ボクが相手だ摩耶!皐月と文月はボクが守る!」
「いい度胸じゃねえか最上。あたしの攻撃に耐えれるのかぁ!?」
摩耶が手をわきわきさせて最上に迫る。文月は最上さん逃げてぇ!と言っている。何て事だ。巡洋艦が巡洋艦を…。そして酷い目に…。
「残念だけど最上さんの負けだね」
「摩耶さんには勝てないのです…」
「そんなこと言ってる場合なんですか!?早くしないと仲間が捕まってしまいます!」
「……まあ見てればいいよ。私も正直、摩耶さんには敵わないからね」
何て人だ、と軽蔑した。仲間を見捨てて何がお茶を飲もうだ!結局ここも仲間を見捨てるところなんだ!
「摩耶!覚悟ー!とりゃー!」
「甘いぜ最上。あたしをくすぐろうったってな、あたしにはきかねえっての!」
「そ、そんな…あ、あひゃひゃひゃ!あはははは!!!!や、やめ!あひゃっ!!!」
「こちょこちょこちょー。ほらどうした最上。あたしをやっつけるんじゃなかったのかよ?」
「あーーーー!うひひひひ!ひー!!!や、やめてええええ!!」
「…は?」
「最上さん、これで摩耶さんのくすぐり10連敗なのです…」
「無理だよ。摩耶さんのくすぐり地獄は横須賀最強の扶桑さんでさえよだれを垂らして大笑いするくらいだからね」
「その強さは関係ないと思うのです…」
目下で起きている光景は、単に摩耶と言う人が最上と言う人をどうしているのかはわからないが大笑いさせているだけだ。ほーれ降参かー!?と笑いながら最上を悶絶させる摩耶。ベンチに座らせると最上はピクピクしていた。
「摩耶さんは最上さんに容赦がないね。瑞鶴さんにもだけど」
「はわわ、最上さんがぴくぴくしてるのです」
「さーつーきー!ほーら捕まえたぞー」
「わー!文月たすけてー!うひぃ!ひひひ!あはははは!!!」
「こちょこちょー。へっへーん、あたしの勝ちだな!」
「横須賀鎮守府流鬼ごっこ。捕まればくすぐりが待っている。特に摩耶さんの時は捕まると一番くすぐったい。あ、文月も捕まったね」
「あはははひぃひひひひひ!く、くしゅぐった!」
「はわわ、全滅なのです…」
「恐ろしいものだよ。で、朝潮たち、あれを助けにいけと言うのかい?私はごめんだよ。あれをされに行く勇気はない」
「電も摩耶さんのくすぐりは怖いのです…」
朝潮と大潮はポカーンとしていた。少し寒いから閉めようかと窓を閉める。響は魔法瓶と言う冷めにくい不思議な瓶に温かいお茶を入れてもらい、プラスチックの湯飲みを電が取り出し、いれていく。はふーと電がのんきに一息ついている。
「まあ、あれだよ。どんなことがあろうと、ここの司令官は解体なんてしないかな」
「一度引き取った艦娘をどこか別の場所へ移籍させたり、沈めることもないのです。絶対に生きて帰ってこいと言うお人なのです」
「そうだね。一度は深海棲艦になった私にまで、ここにいていいと言うような人だからね。前の司令官ならいざ知らず、今の司令官はそんなことしないだろうね。あ、終わったようだね」
摩耶が皐月と文月の手を繋いでどこかへ行く。もう一度窓を開けると
「よーし、いい汗かいたー!一緒に牛乳でも飲むか!」
「わーい!皐月牛乳大好きだよ!」
「文月もいっぱい飲んだら摩耶さんみたいにおっきくなれるかなぁ?」
「おう!なるなる!手洗えよー」
「ま、待ってよ!ひ、ひどいじゃないか!腰が抜けて…あ、歩けないのにー!」
「最上早くしろよー!」
「待ってよー!摩耶の鬼ー!」
皐月と文月は笑顔で。最上は何やらもじもじ変な格好で歩いて食堂の方へと消えていった。これから酷い目に遭う表情ではない。単に遊んでいただけ。い、いや、ちょっと待って。今響はとんでもないことを言っていなかったか?
「ひ、響さん、い、今何と言っていましたか!?」
「うん?牛乳が飲みたいのかい?」
「違います!!!い、今、響さんは深海棲艦だったと…」
「ああ、何だそのことか」
「そのことかって、軽く済ませられる話ではありません!な、なぜ深海棲艦がここに!!」
「失礼だね。私は元深海棲艦だよ。今の私は暁型駆逐艦二番艦。第六駆逐隊の響だよ。助けてくれたのは電で。ここに居させてくれるのは今の司令官。私は一年と少し前に、前の司令官の命令で出撃し、沈んだ。記憶が確かなら、電を探し求めて遠い海からここへ流れ着いた。それから」
「そ、それから…?」
「……何だっけ?」
ズデン!と朝潮がひっくり返る。身を乗り出して真剣に聞いていたのにこれだ。
「電を探して近海まで来て、電と戦ったのです。それから電が何かしたらしいのですが、覚えていないのです。でも、響ちゃんを助けることができてよかったのです!これからも一緒なのです!」
「ハラショー」
よく、わからない。深海棲艦は敵であり、倒すべきものである。それを救った?そして艦娘になって帰ってきた?理解ができない。誰かこの二人を止められる人はいないのか?無理である。
電は響の影響で響のフリーダムさが伝染してしまい、時雨や摩耶でさえ止められないフリーダムな艦娘である。戦闘や演習では抜群のコンビネーションを見せるが、日常生活では怪獣を模したパジャマで鎮守府を徘徊してみたり、突然胸の大きな人の胸を鷲掴みにしては「ハラショー」と言ってみたり。電がそれに続いて抱きついたり。響と電なりの甘え方、だそうである。
「ああ、心配ないよ。深海棲艦の要素は何一つないらしいから。私は響。その活躍ぶりから不死鳥と呼ばれたこともあるよ。おもしろい司令官だよ。本来なら海で殺すべきだろうにね。それとも、朝潮。君が私を殺すかい?」
響の青い眼が氷のように冷たく朝潮を見つめる。その視線に、文字通り朝潮は凍りついてへたりこんだ。大潮が朝潮にしがみついて怯えている。
「まあ、そんな気はないだろうけどね。で、私は朝潮と大潮のことがもっと知りたいな。私は私の情報を出した。今度は君たちの情報を聞かせてくれないか?」
一転して気の抜けた眠そうな目に戻る。電も自分たちのことをもっと知りたいと言う顔をしている。観念して、朝潮が宿毛湾にいたときの話から始める。
まず一番に言われたことは「なんだ、駆逐艦か」から始まり、いるだけ無駄。所詮は盾にもならない使い捨ての艦種。クソガキなど、これでもかと罵倒され、部屋から出ることは許されず、食事もなく、質の悪い燃料と弾薬だけを与えられた。先ほどの皐月たちみたいに遊ぶなどもってのほか。私語厳禁。風呂禁止。トイレに出歩いていい回数は一日一回。出撃の命令が下った駆逐艦が帰ってくることはほぼなかった。
吹雪は出撃などにもならず、虐待の対象。そこに妹である霞が吹雪の状態を見て司令官に猛然と抗議。その結果、霞はどこかの施設に動かされることとなった。その際に司令官に呼び出され、言われたことと言えば
「霞と同じ制服を着た姉妹を見るとこのクソ生意気なクソガキを思い出してしょうがねえ。ついでだからお前等もいなくなれ。どうせ駆逐艦なんざいてもいなくてもいい。ついでに人間様の研究の役にでも立ってこい。どんな目にあってもな」
と自分たちが金で売られたことを知った。
(うちの大事な駆逐艦をあんなクソ野郎に誰が渡すか!)
そう言っていると先ほど盗み聞き(していたわけではないが思わず聞いてしまったので)していたここの司令官の言葉が思い出された。いてもいなくてもいい駆逐艦。大事な駆逐艦。はたしてどっちが正しいのだろう?
施設に移るととにかく霞を執拗にいたぶる人間達。ついには壊れ、何もかもに怯えた子供になってしまった。そうしてここに助けられてはやってきたのだと説明を終えた。
「ふむ。人間とは勝手なものだね。作り出しておいて、居なくてもいいとは。ここの前の司令官もそんな感じだったかな。望んでやってきたわけではないけど、作られたからやってきたわけで。なのにそれをすぐさま沈めに行かせる。こちらも救いようのない人間だったよ。そうして私も一度は海に沈んでしまったわけだけど」
「私にはわかりません。私たちの存在が。響さん。私たちは何のために作られたのですか?この国を。人を、海を守るために作り出されたのが艦娘のはずです!なのに、否定され続け、痛めつけられるだけの存在でしかない私たちは、何のために生み出されたのですか!!」
朝潮の感情が昂ってしまい、響に今まで自分が受けてきたことの怒りをぶつけるかのように怒鳴って聞いた。もう御免だ。罵られ、蔑まれるだけの、全てが抑圧された毎日も。妹を壊されることも。今だって姿の見えない満潮と荒潮が心配でしかたない。それよりも、これだけのことを聞いて。話させておきながら眠そうな顔で自分の話を聞いている響に腹が立ってしょうがない。隣で真面目に聞いていた電に対しても、心の底では自分をバカにしているのではないかと変に思い詰めてしまっている。
ふうふうと息を荒くして睨みつけるかのように見てくる朝潮。大体の事情はわかったし、これではかつての横須賀と同じくらい酷いことになっていたようだ。吹雪の話も聞いたことがあるが、なるほど。吹雪と響。何だか紛らわしいね、なんてことも考えてクスッとしてしまいそうになったが、そんなことをした日には朝潮の怒りの炎に燃料を注ぐだけなのでこらえた。
響が疑問に思うのは、どうにも状況は伝わったがどこか俯瞰的であり、朝潮の心情がない。吹雪が。大潮が。荒潮が。霞が。そして駆逐艦とは。自分の思いが伝わってこない。吹雪の時は電が泣き出してお互いの辛かったことを慰め合うくらいになったものだが。悲壮感が伝わってこない。しばらく考え込んだあと、ようやく響が口を開いた。たった一言。
「さあ?」
この期に及んでまで、人の話を聞いていないかのような素振りに、朝潮もついに堪忍袋の緒が切れた。
「さあ…?さあですって!?ふざけるのも大概にしてください!人が真面目に話をしているというのに!人が真面目に聞いているのにさあ?ですって!?ふざけないでください!!!!こんなことなら真面目に話すんじゃなかった!!!今すぐ出て行ってください!もう言うことなどありませんから!!!」
「あ、朝潮姉さん、落ち着いて!」
「大潮は黙ってて!人の部屋にずかずかと上がり込んできて人の気も知らないでパクパクご飯をたべて!真面目に聞いたらお茶を取ってくるだとか話の腰を折って!あげくに私達の過去を聞いてどうしたらいいか再び真面目に聞いたのに!!何なんですか、あなたは!!!!」
先ほどまでのおどおどした態度とは一転して耳を疑うほどの怒声を張り上げて響に抗議する。今すぐ出ていけと言う拒絶の言葉。それを聞いて響はふう、と息を吐いた。
「いや、すまない。うん。どうも私は真面目にできないようだ。怒らせてしまったことは謝るよ。ごめんなさい。けど、やっと朝潮の本当の声が聞けたよ。私はこういうことは苦手でね。君を怒らせることでしか朝潮の意思を掘り出すことができなかった」
「響ちゃん、単に朝潮ちゃんを怒らせるためじゃなかったのですか?」
「私は別に朝潮を怒らせようとしたわけじゃないよ。ただ、私は朝潮自身の意思を聞きたかっただけだよ。けど、すまない。怒らせてしまった」
朝潮はふうふうと息をまた荒くしているが、怒りが冷めていく。唐突な謝罪に呆気にとられ、怒り続けることができなくなった。今度は眠そうな眼ではなく、じっと心の奥まで見透かされそうな澄んだ表情で。
「話を続けようか。朝潮。君には君がこう感じた。こう思った。そういったものが薄い。それに、何のために生み出されたのかなんて、艦娘それぞれだよ。聞き返してすまないのだけど。君は生み出された以上、何をしていきたいか、なんてことは考えたことはあるかい?」
息が詰まった。響にそう問われ、頭が真っ白になってしまった。あ、うと変な声しか出ない。
「あ、そうだ。ようかんを間宮さんからもらったんだった。仲良くなってねって。食べるかい?」
「響ちゃん、そこはもうちょっと考えて出すべきなのです…」
その言葉に今度は大潮がずっこけた。朝潮は思った。この人は私の一番苦手な人だと。
フリーダムに書きすぎたら一話で終わらなかった…
フリーダムハラショー、フリーダムなのですはいかがでしょうか。ここは暁を建造してあげて、止める役を作るべきだと思います。ま、いいか。かわいいし。
響からの問いを朝潮はなんと返せるのでしょうか。次回をお待ちくださいませ。
それでは、また。