提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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とんでもないものに巻き込まれた妙高さん。そしてとばっちりを食らった玲司。

今度こそゆっくり妙高さんはお話しできるんでしょうか?慌ただしい妙高さんの胃は大丈夫なのか?がんばれ妙高さん。苦労人の相が出ているぞ。

そして新しい艦娘の話もちょっとだけ!

4/22追記

ちょっと陸奥のシーンを書き直しました。よろしくない表現だと思い直しました。すみません。


第六十三話

初対面は霞に大怪我を負わされ、二度目は死相のようなものが出ているかのような状態。そして今回はと言うと左頬に真っ赤な手形をつけ、鳥海が慌てて持ってきた氷水をタオルで巻いたものを当て、仏頂面で空を仰ぐ、間違いなく横須賀鎮守府の提督であろう男。

 

食堂で見た時は朗らかに食事の準備をしていたような気がする…。そしてまた食堂の艦娘に怒られていたが…。が、それ以降はまともな対面ではない。提督として彼を見るにはあまりに頼りない、だらしない。そして霞に噛まれた時も自分ではなく霞を優先していた。そうしてまた大淀に激しく怒られていた。本当に大丈夫なんだろうか…。

 

ふと彼の手を見る。あれだけ思い切り霞に噛まれた傷。艦娘はドックに入ればどうということはないが、人間ならば病院へ行き、適切な処置をしなければならない傷だったはずだが…。痕にはなっている。くっきりと歯型が残っているがもう包帯が取れたどころか傷が塞がっている。どういうことだろう?何なのだ、この提督は。

 

「妙高、一昨日は悪かったよ。妙高が来てくれたおかげであらかた書類も片付いて余裕が出来た。ちっと顔冷やしてから飯に行ったり風呂に入ろうと思ってたんだ。さすがにこのほぼ一週間、風呂にもろくに入れてねえからな」

 

「い、一週間…ほぼ不眠不休だったのですか…」

 

「おう。飯は持ってきてもらって五分で食って、一日三十分睡眠を三回。風呂はなし。歯だけは食後ちゃんと磨いてたけどな。体が痒くってしょうがねえ」

 

「私たちはほぼ寝ていませんでしたけどね。五分落ちたら誰かから精神棒で魂注入でしたから。ただ、司令は人間ですので少しだけ睡眠を取っていただきました」

 

「きっかり三十分で精神棒だったな」

 

「喝ッ!!」と書かれた平たい木の棒が玲司の机の横に立てかけられている。いや、普通三十分の睡眠ではとてもではないが一週間は持たないと思うが…。

 

「精神を統一して目を閉じて海に浮かぶ姿を想像すると三十分でも数時間眠ったようにうんたらかんたらと何かで読んだことがあるけどありゃ嘘だな。死ぬかと思った」

 

「全ては気合いで万事解決ですよ、司令」

 

「はい。私もこれが終わればお布団が待っていると考え、気合いで乗り切りました」

 

グッと親指を立てる霧島としれっとおかしなことを言う鳥海。だめだ、話についていけない。頭が痛くなってきた…。根性論で一週間寝ずともやり切れる。そんなわけがない。余談だが宿毛湾の提督は三十分もやれば大欠伸をかいて飽きたと言い出し、結局自分が二、三日かけて書類を片付けたこともあるが…。今宿毛湾の事務は大丈夫なのだろうか?自分が気にしても仕方ないが。

 

「まあ、妙高が来てくれたおかげで無事に妙高を含め、朝潮達。そして、霞の異動は無事大本営に書類を届ければ完了だな。ちっと早いけど、ようこそ横須賀へ。一応大本営の方で建造し、ダブった艦娘達をうちが艦娘の数が少ないから回してもらったってことにしてる」

 

「は、はあ…」

 

「宿毛湾のアホも、出撃をしたが妙高達が帰ってこない行方不明になったって喚いててな。嘘なんだけど。金欲しさに売っぱらった艦娘のいる研究所が何者かに襲撃されていなくなった、なんざ言えねえからな。うちにも行方不明になっちまって轟沈としてカウントされたくねえから朝潮達と妙高ダブってたらくんね?だってよ。ふざけんじゃねえぞ」

 

ああ、これか。満潮が言っていたことは。朝潮が聞いたという話。本当に彼は怒っている。思い出して腹を立てている様子だ。妙高はふと疑問に思うことがある。聞いてみる。

 

「そう、でしたか。やはり、あのお人は何と言いましょう…失望するほどの期待も持っておりませんでしたが…そう言われるとなお呆れてしまいますね…そういう人間なのだと認識するしかありません」

 

「あったまきちゃってさ。怒鳴り散らして電話叩き切ったよ。くだらねえ話聞いてる暇があるなら書類溜まってて処理したいし、満潮が荒潮とケンカしたりしてねえかとか、霞は大丈夫だろうかって考えたかったからな」

 

「…提督。そのことなのですが、なぜ提督は私達をここに招き入れたのですか?こう言っては何ですが、私は提督のご命令とあらば出撃でも事務仕事でもやります。それが私のお役目なら。

ですが、怯えきって話にならない朝潮さんと大潮さん。提督に暴言を吐く荒潮さん。そして、人間の子供のようになり、戦力にも何もならず、あろう事か提督にお怪我をさせた霞さん。どう考えても、ここに置くメリットがあるようには思えません」

 

「うん。確かにそうだな。俺に歩み寄ってくれたのは満潮だけだったな。霞はともかく、妙高も警戒して霞を守ろうと必死だったし、朝潮、大潮、荒潮はあんなんだったし」

 

「はい…ですので、四人総掛かりであの膨大な書類をやらざるを得なくなるまで、私達をここにいさせて下さる理由がわかりません。特に霞ちゃ、さんはもう…」

 

満潮や朝潮達から聞く言葉ではなく、彼が何を思って自分たちを横須賀に置くのか。彼自身の口からその理由が聞きたかった。同情や好奇心…そのような答えが返ってくるならやはり信用に足りない。その時はここにいることを断り、どこか居場所を探そう。大本営にでも身を寄せればあるいは。

 

「あのさ、妙高。誰かを助けたいって言うのに理由がいるか?」

 

「…え?」

 

「そりゃあ俺だって大変な目に遭ってつらかったな、とかは思うよ。でもそんなことよか一刻も早くその酷い目に遭う場所から遠ざけて、安全な場所に来させたい。安心してほしいって思うよ、俺は。おやっさん、ああいや司令長官から事情は全部聞いた。本当に引き取るのか?って再三聞かれた。とにかく何でもいいからさっさとこっちへよこせ。とにかくその子達には害のない場所が必要だって」

 

提督の目は真剣だった。頰は赤く腫らしてみっともないが、目は真剣に妙高を見つめて、氷水を頰に当てることも忘れて身振り手振りで説明をする。同時に霞を怖がらせてしまった事を悔やんでいるとも。よかれと心を開いてくれると思っていた行為が全然裏目に出てしまって後悔している事。

とにかく今は妙高は霞を見ていてほしいし朝潮達はいい感じで横須賀の艦娘が動いてくれているから心配しないでほしい、などそこに同情や好奇心でなんて言う感情は一切見受けられなかった。

 

「助けたいと思ったら体と口が動くんだ。父さんにも言われてる。男なら目の前で助けを求めている人がいたら手を差し伸べろ。まずはそこから判断しろって。そこに自分の損得なんざ考えるなってな。金の切れ目は縁の切れ目、それはよっぽどでないなら切り捨てろとは言われたけどな。で、お前達を助けた理由?そんなのないよ」

 

軽く言い飛ばして再び氷水を頰に当てる。頭が痛えと呟くとまた大淀がごめんなさいごめんないと頭を下げ出した。ブフッと霧島はまた吹き出しているし…。緊張感のない人だ…。でも安心できる、と思った。打算のない。本当に助けたいの一心でここへ招いてくれたのだろう。

 

「分かりました。提督。これからこの鎮守府でお世話になります」

 

「ああ。よろしく。出撃に関しては、霞は妙高がいないと情緒不安定になるだろうし、朝潮達も出撃はしばらくないよ。それよりも早く俺はさておき、ここの艦娘に慣れてほしいかな。慣れてくれりゃ、パーっと歓迎会でもやろっか」

 

「提督…お心遣い感謝いたします。このご恩は、必ずやどこかでお返しします」

 

「よせやい。そんなことしなくてもいいの。とにかく、霞に関しては非番の子達で回せるようになりたいかな。そうすれば妙高の負担も減るだろうし、霞ものんびりできるだろ」

 

霞のことを考えてくれているとは…。

 

「霞さんは…この先どうなるのでしょう…」

 

「海に出ることはできても、戦闘は無理かな。遠征も難しいだろう。長い時間をかければ、マシになるかもしれないレベルだろうな。明石が言うには、もうずっとあのままかも、だそうだ。ただ、希望がないわけじゃないから、みんなで支えてあげればいい。霞が安心して生活できる場所を可能な限り作ってあげたいかな」

 

提督の目は優しかった。そして真剣に考えている顔だった。頰の腫れが酷くなって片方だけ何か笑えてしまう顔でも。霞さんのこと、どうかよろしくお願いします。そう妙高は心の中で玲司に思った。

 

……

 

コンコン。ノックの音が転がった。満潮だろうか。提督が招き入れると満潮ではなかった。なんというか、目力の強い人だと思った。その佇まいは凛としており、ただ者ではない雰囲気を妙高は感じ取った。

 

「神通か。どうした?何か急ぎの知らせか?」

 

「はい、提督。この鎮守府に潜入した不届き者の気配を察知しました。提督、どうか避難を。この近くにいます」

 

「え、ええっ!?妖精さんの探知も潜り抜けるそんな侵入者が!?て、提督!」

 

「司令、いざとなればこの霧島、司令をお守りします」

 

「あ、あー、うーん、それって…あれだなぁ…」

 

「玲司!神通から聞いたよ!侵入者だって!」

 

「き、北上さん!提督をお、お守りしなければ」

 

緊張感が走る。まさか、宿毛湾かどこかから隠密で情報を聞き出そうとする刺客…?自分たちを連れ戻しにきたのではないか?鳥海が妙高に近寄り、妙高を守っている。

 

「大和さんや扶桑さんには伝えてあるし、くちく達は摩耶達と一緒にいる!玲司、気をつけて。どこからでも来なよ…」

 

執務室に緊張が走る。神通と言う艦娘が部屋の隅に目を向ける。そして、鋭い殺気を放ち、威嚇する。

 

「そこですね…出て来なければこちらも対応を考えねばなりません」

 

「あー、神通…そのー」

 

「提督、ご心配はいりません。この神通、必ずや提督をお守りします」

 

「いやな…神通。はあ、こりゃ無理だわ、出てこい…川内」

 

一斉に全員が玲司を見る。提督は知っていた!?自分たちは完全に分からなかったというのに!視界の外れからズカズカと玲司に詰め寄る誰か。いついたのか?

 

「はあああああ!?何でわかるわけ!?マジで意味わかんないんだけど!!ちょっと兄さん!この神通何なの!?ありえない!ありえない!あーもう!またバレたー!くやっしい!!!」

 

「俺に聞かれても困るっつーの」

 

「兄さんとこの神通でしょ!?な、ん、で!バレんのよ!」

 

「知らねえよ!」

 

「わかった、こいつ原初の艦娘でしょ!それか、あの鹿島に認められたの!」

 

「ちっげえよ!鹿島がここに来てるわけねえだろ!神通はここ生まれ!俺が建造したわけじゃないけど!ってか鹿島!あいつ、いつの間にかこっちに異動申請出してやがったんだぜ、おやっさんに言っとけ!あとでどうなっても知らねえって!!」

 

いきなり玲司の前に姿を見せた謎の艦娘らしき者と玲司がケンカを始めた。ギャーギャーと執務室が騒がしい。一気に緊張の糸が切れた。

 

「あー、なんだ川内さんか。アホくさ。あたしみんなに言ってくるー」

 

「川内さん落ち着いてくださーい!」

 

「司令、どうどう!落ち着いてください!」

 

状況にまったくついていけない妙高。本当に、何なんだこの鎮守府は…。頭がまた痛くなってきた。真面目な空気が長く続かず、何らかの形でぽっきり真面目が折れる。わからない…。自分はここでこれに慣れなくてはいけないのか…。ますます先行きが不安だった。

 

……

 

ソファーであぐらをかいて頰を膨らませ、川内がムッスーとふてくされている。とにかく、気配を察知され、見破られたことが川内には許せないらしい。これで二度目だと言う。

 

「そう…川内に朝潮達の書類を大本営に持ってってもらおうと思ってな…郵便や軍の配送はスパイがいたりすると怖いし、こいつは司令長官にしか見せられないものだからな。川内なら、人の目や艦娘、深海棲艦にもほぼ確実に見つからないからさ。それで来てもらってたんだよ」

 

「で、あっさり神通に見つかりましたー。龍驤姉さんや明石じゃなくて神通って言うのが、あー!」

 

また怒り出した。怒り心頭である。ジタバタと子供がダダをこねるかのようにソファーで暴れている。

 

「川内、パンツ見えるからやめろ。それにしても、神通すげえな。どうやって察知したんだ」

 

「は、はい。何と言いますか…その、目を閉じて額にもう一つ目があると思って意識を集中させるんです…すると、この鎮守府全体であれば、『気』を感知できるんです。気は色で分別できて、これは提督。その周りの気は大淀さん達。妙高さんももうわかっていましたけど…一つだけ動かずにいる気を察知して…」

 

「ねえ、兄さん。神通って本当は隠れた原初の艦娘とかじゃないの?」

 

「違うだろ。しかし、頼りになるなぁ神通は。すごいよ。俺が北上の部屋に前にこっそり行った時に背後を取られたのも」

 

「はい。その時はまだ提督とは知らず…あの、その…」

 

神通の顔が暗くなる。経緯としては北上に手出しをした不届き者ではないかと思ったようで。その時の自分の落ち度を未だに悔いていると言うことだった。気にすんなーと玲司は言うが、その失態。名誉をどうやってでも挽回したいと言うのだが。

 

「いや、神通は実際活躍ぶりは誇らしいし、まじめに頑張ってくれてるからな。助かっているよ、いつも」

 

「は、はい。ありがとうございます…。どうしましょう、何だか、体が火照ってきてしまいました…あ、あの!失礼します!」

 

顔を真っ赤にして両手で隠しながら走って逃げて行ってしまった。嬉しさと恥ずかしさが入り混じって処理できなくなったようだ。その後、演習場でキレッキレの動きを見せる神通に、五十鈴がドン引きしたとか。

横須賀最強の軽巡「茨の女王」神通。実はとてつもない恥ずかしがり屋だったりする。今更の説明であるが。

 

……

 

「はあ、あたしも帰ろ…くっそー、もっと修行して神通にバレないようにしなきゃ!」

 

「おいおい、これ忘れんなよ。何のためにここまで来たんだ」

 

「あー、忘れてた。んじゃ、あたしはこれで。大本営もさー、今てんやわんやでさ、いろいろ。鹿島が横須賀に異動願い出しちゃった件もそうだし。で、承認したんでしょ?」

 

「ああ。来る者拒まず。大本営からノーが出たら仕方ねえけど。とりあえずこっちとしては練度を上げたいし、それに付き合ってくれるのが鹿島ならなお嬉しいね。龍驤姉ちゃんとは違う育成方針ってのも気になるからな」

 

「鹿島のナンパ目的で来るバカが多いから、バカには残念だけど父さんはホッとするかもね。んじゃ、朝潮達の書類はたしかに預かったよー」

 

妙高達の視界から忽然と消える川内。妙高がキョロキョロと辺りを見回したり、出入り口を見つめても開いた形跡さえない。もしかしてこの鎮守府はとんでもない艦娘ばかりなんじゃないか?と思い始めた。神通と言い、今の川内と言い…。

 

「あ、あの…今の方は…」

 

「あれは大本営古井司令長官直属の艦娘、川内。原初の艦娘って言って普通の艦娘とは違う力を持ってる。まあ、神通や夕立と言い、うちの鎮守府も結構特殊ではあるけど…舞鶴に比べりゃまだマシだけどな」

 

「は、はあ…」

 

特殊すぎませんか…と言う言葉は飲み込んだ。

 

「提督、鹿島と言うのは艦娘ですか?」

 

大淀が興味津々で鹿島と言う名のものを訊ねる。艦娘なら、仲間が増えるのは嬉しいことだと言う意味も込めての質問である。

 

「ああ。練習巡洋艦。戦闘に表立って出ないが、艦娘の練度向上に大きく貢献してくれるのが練習巡洋艦。今は香取と鹿島が艦娘として確認されていて、鹿島は香取の妹になる。龍驤姉ちゃんの鍛え方が剛なら鹿島は柔って感じかな。剛柔違ったやり方を学べば、もっとみんなの練度も向上するんじゃないかってな。しかしまあ、何だって鹿島がなぁ」

 

「その鹿島さんは、それぞれの鎮守府にいたりしないのですか?」

 

「結構稀有な存在だよ、鹿島と香取は。そうどこにでもいるわけじゃない。たしかに鹿島や香取のいる泊地や鎮守府の艦娘は練度も高い。けど、大本営直属の鹿島はまた特殊でな。『大本営の鹿島に認められた艦娘は大きな戦果をあげる』と言う文句がついていてな。鹿島がこの艦娘はもっと伸びるって言って指導した艦娘は頭一つ抜き出るくらいの実力を持ってて、鹿島から卒業して実戦に参加すると目覚ましい戦果をあげるんだってさ」

 

「へ、へえ…すごいんですね。こ、怖そうですねぇ…」

 

「舞鶴の伊勢や筑摩は、木曾達がいることもあってすげえ戦果をあげるけど、元は鹿島に育て上げられた奴だよ。本人達は木曾と利根。磯風に埋もれてると思ってるけど、他の伊勢や筑摩に比べると実力は高い。まあ、木曾達が出たらいろいろそりゃ埋もれる。あいつらは龍驤姉ちゃん達と一緒で別格だかんな。まあ伊勢はサシで戦艦棲姫と渡り合えたりとか、筑摩は対陸戦の鬼って言われてたな」

 

「ほう、それはすごいですね。この霧島もぜひご指導に預かりたいですね。私も扶桑さんのように、戦艦としてお役に立ちたいところです」

 

「そこはまあ、鹿島に目をつけられるかどうか、だな。明石が艤装や武器の調律屋なら、鹿島は艦娘自身の調律屋ってとこかな。一人一人の能力、クセなんかを見分けるのは明石も大の得意だ。明石はそこから負担になりにくい艤装の整備や調整をしていく。鹿島は最適な戦い方を見出して指導する。うーん、これ、俺も楽しみだな」

 

「おお!何だか楽しみですよ!あ、でも鹿島さんに認められなかったら…」

 

「そこは鹿島次第だなぁ。ああ、大淀、神通、大和、扶桑は原初の艦娘の高雄さんや陸奥姉ちゃん、島風に認められてるから別格だな。うーん、高雄さん達借りるわけにいかねえからなぁ。摩耶と吹雪は磯風が。北上は木曾が気にかけてたな。何か面白くなってきたぜ」

 

何やらワクワクしているが、妙高は規格外の艦娘の多さにやっていけるのか心配になって胃まで痛くなってきた気がした。平穏に生活したい…やれる範囲で頑張りたい。はたして妙高の願いは叶うのか?いや、無理だろう。ここはクセのある艦娘が多すぎるのだから。頑張れ、妙高。大淀と同じく、胃薬が必須な艦娘第二号の誕生である。

 

(ああ、今日もいいお天気…)

 

悩みの尽きない鎮守府になりそうだな…と言う考えは放棄し、空を眺めて現実逃避を始める妙高であった。

 

 

「ううむ、君が興味を示してくれたのはありがたいね。四大鎮守府のうち、横須賀はまだまだ人手も練度もまるで足りない。君の指導でメキメキと育ってくれれば言うことはない。君も言い寄る男性に辟易しているとは聞いていたし、ちょうどいいのかもしれんな」

 

「あははは…そうですね…それよりも私でよかったのでしょうか?香取姉のほうが良いのではないでしょうか?」

 

「香取君が直々に妹の方が素質がある。自分より鹿島君を横須賀に行かせてほしい。勉強にもなるし、変な男に言い寄られるのを見て不憫に思っていたみたいだよ」

 

「もう香取姉ったら…うふふ、わかりました。では、改めて横須賀鎮守府へ異動の件、謹んでお受けいたします」

 

「うむ。助かるよ。あとは三条提督が許可を出してくれれば…」

 

三条提督からの返事をワクワクしながら待つ古井司令長官。噂に聞く生まれ変わった横須賀鎮守府。練習巡洋艦鹿島は、古井司令長官の命により、横須賀鎮守府の艦娘の練度向上を最大の課題とし、彼女のもとで育った艦娘の実績を踏まえて鹿島を横須賀鎮守府へ派遣し、艦娘の練度向上を図ろうとしていた。

初めは鹿島よりも実績の高い香取を指名したのだが、香取が鹿島を指名。理由は鹿島自身のさらなるステップアップが主であるが、なぜか鹿島は男に言い寄られることが多い。よく自室で今日も言い寄られて怖かった、と気を落としていることが多く、香取が不憫に思ったのだ。横須賀の提督は信用に足ると司令長官からの太鼓判もあり、それならば鹿島もと乗り気になり、異動願を出した次第である。

玲司は鹿島が異動願を届けてきたと言っていたが、これは総一郎がこうすれば拒まないだろうと言う思惑のもとでやらせたことである。鹿島が異動願を出したのではなく、総一郎が出したのである(鹿島の許可はある)。玲司が艦娘が来たいと言う意志があるなら拒まないと言う性格を知っている。玲司を知り尽くしているからこその手だった。

 

寮へ向かう廊下を歩く。前からやってくる男。鹿島を見るや顔を綻ばせる。ああ、またどうせ何か声をかけてくるんだろうな…とげんなりした。

 

「おう、鹿島ちゃん!今夜食事でもどう?」

 

大本営の事務員だ。案の定声をかけてきてニヤニヤと、そしてじっくりと鹿島の体を見る。寒気がする。以前もこの事務員にセクハラじみた質問を立て続けにされて怖い目にあった。うまく断れるだろうか…。

 

「ごめんなさい。異動の辞令が出ましたので準備をしなくてはいけないんです。ですからこれで失礼しますね?」

 

「ええ!?鹿島ちゃんどっか行っちゃうの?そ、そんなぁ…楽しみが減る…ねね、じゃあさ、みんなで送別会やろうよ!友達いっぱい呼ぶから!」

 

「え、えっと…あのぉ…ですから、私は異動の準備が…」

 

「そんなのいいからさ!な、みんなでイイことしようよ!絶対悪いことははぉっ!?」

 

肩を掴もうと近寄ってきた男の頭をがっしり掴む手が。その後ろには冷たい目で見下ろす女性。鹿島を見るとにっこりと手を振る。

 

「はぁい、鹿島。準備で忙しくなるんでしょ?コレは私が掃除しておくから、準備してらっしゃいな」

 

「陸奥さん…ありがとうございます!」

 

ぺこりと頭を下げて小走りで逃げる。背後から「これで三度目よ?どうしてあげようかしら」と言う冷たい声が聞こえたような気がした。気のせいと思いたい。

 

……

 

ふう、と息を吐いて荷物をまとめていく。荷物は大荷物でも横須賀へ宅急便で今日送っておけば明日には届くらしい。便利だ。長く過ごした部屋。荷物はそう多くない。スッキリし、ガランとなった部屋は少しさみしい。

 

「鹿島?あら、荷物をまとめていたのね。あとは三条提督のオーケーが出れば、ね。寂しくなるわね」

 

「香取姉。私、ちょっと不安だけど、精一杯お役目を果たしてくるね。香取姉の耳に私の活躍ぶりが届くようにねっ。うふふ」

 

「そうね。期待しているわ。あなたなら大丈夫。自分を信じて、自信を持ってがんばるのよ。あなたはいい子なんだから」

 

「うんっ!ああ、でも三条提督がダメーって言ったらどうしよう、香取姉…」

 

「し、信じるのよ鹿島」

 

それから数時間。ハラハラとしていたが三条提督からの返答の書類がやってきた。結果はオーケーだった。




鹿島って素直で真面目でかわいいですよね。イベントで掘れると聞いて血眼になって掘りました。

と言うことで、新たな艦娘「鹿島」が加わります。不安と期待を胸に、横須賀に着任します。朝潮達の問題もまだ根本的に解決はしていませんが、横須賀鎮守府はいろいろと動きを見せます。

それでは、また。

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