提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

65 / 259
横須賀鎮守府に視点を戻し、再び玲司たちのお話。

ドタバタした翌日、満潮がやっとゆっくり玲司とお話ができそう…かな?


第六十五話

/満潮の視点

 

本当に怖かった。北上さんが侵入者がいるらしいから食堂に全員集合、と言う号令をかけるものだから、まさか荒潮や霞を取り返しに宿毛湾か、あの研究所の人間が来たのか、と怖くなった。霞は妙高さんに抱きついてブルブル震えているし、荒潮も扶桑に抱きついて泣きそうな顔をしてた。

 

「あー、ごめん。神通とあたしの早とちりだったわ。大本営の川内さんだったよ。侵入者じゃなーし。かいさーん」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい!私の早とちりで!」

 

神通さんがペコペコと何度も頭を下げている。ふう、間違いだったならよかった。

 

「ねえ神通さん。どうしてそんな顔を真っ赤にしてるの?何か司令官に言われた?」

 

「え、あっと、その…」

 

神通さんの顔がさらに赤くなっていく。え?私変なこと言ったかしら?なんか頭から蒸気出てない?キョロキョロと落ち着きがないし…?

 

「あ、あの!あの!私!演習場に行ってきます!自主鍛錬!してきます!」

 

バアン!とドアが壊れそうな勢いで神通さんは食堂を飛び出して行った。…?私何か変なこと言った?

 

「あーいいのいいのみっちー。神通はどうせ玲司に褒めてもらったとかいい事言ってもらったんでしょー。あの子ちょー恥ずかしがり屋だからさー」

 

「そ、そうなんだ…って、何よみっちーって!あと頭撫でないでよ!」

 

「あらー?玲司はいいのにあたしはダメかー。ざんねーん。ま、いいけどさー」

 

北上さんは今度は雪風の頰をつついている。雪風は「んにー」と言いながらつつかれている。北上さんは雪風や皐月達によくうざいと言っているけど、自分からちょっかいをかけにいってる…一体何なの?意味わかんない。

 

「あはは、満潮もなんだかんだで北上さんに気に入られてるんだね。北上さんはよくうざいって言ってるけど、皐月や文月がそう言うと付きまとうって言うのを知ってるんだ。北上さんは、提督と同じくらい僕達を見てくれているよ。満潮もそのうちわかるよ」

 

夕立が頭を撫でてもらってぽいぽいと喜んでるし、ほんとにうざいって言ってたらそんなことしないもんね。あ、朝潮姉さんの頭撫でようとして逃げられた。ちょっと残念そう。大潮姉さんは…固まってる。逃げそびれたみたい。あーあ、わしゃわしゃーって…。

 

「にゃー!?」

 

「おー、ぽいぽいわんこの次は大潮にゃんこかー。わんこににゃんこ。うひひ、楽しいねぇ」

 

「夕立ももっと撫でてほしいっぽいー!」

 

「しょうがないねぇ。ほーれ」

 

「えへへ、ぽいっぽい!」

 

楽しそうだな…。私も…って何言ってるのよ。摩耶さん達も背を伸ばしてリラックスしてるし、大丈夫かな。そういえば霞は…?

 

「おねえちゃ…おねえちゃ…」

 

「大丈夫よ。何も怖いことはないからね?もしこわーいのが来たら、大和お姉ちゃんが守ってあげるからね?」

 

「霰も、守る…よ」

 

泣かなくなった…だけ良かったのかな。前ならとっくにおもらしして泣き喚いてそうなのに。大和さんと霰さんのおかげかしら?チラッと霞が私を見ている。手を伸ばしてきた。こっちに来て欲しいのかな。なんだかかわいいわね…。

 

「なあに?どうしたの、霞?」

 

「みちしおおねえちゃも…おねえちゃにまもってもらうの。やまとおねえちゃ、いるから、こわくないもん。あられちゃも、いるから。ここならだいじょうぶだよ」

 

ああ、私が一人で立っていたから心配になったのね。そっか。そんな余裕も少し出てきてるのね。よかった。な、何かしら、この守ってあげたくなるよう感じ。守ってあげなきゃいけないのはわかってるけど、こう、もっと守ってあげたくなるような…。

 

「そう。ありがと、霞。そうね。ここなら怖くないわね」

 

「うふふ。大和におまかせくださいね」

 

「霰も…がんばる」

 

「ありがとう、大和さん。霰。霞も、ありがと」

 

「んっ…えへへ。みちしおおねえちゃになでられた♪」

 

「よかったですね」

 

「うん!」

 

霞…もう前のようにあんたとケンカはできなくなったけど。私ももっと力をつけて、霞をもっと守れるように姉さん達、荒潮と一緒にここで戦えるといいな。

 

「荒潮ちゃん、大丈夫?お部屋に戻りましょうか」

 

扶桑が荒潮と話してる。荒潮の顔、真っ青じゃない。そっか、あんたも怯えてるのね。霞の次はあんたが霞と同じ目に。荒潮が壊れたら霞と同じくらい生意気な私がそうなっていたかもしれない。もう誰も信じないと言った割に、扶桑に懐くのは早かったわね。

 

「あ、あらぁ、満潮姉さん。どうしたのかしらぁ?わ、私を笑いにきたのかしらぁ?」

 

「あんたを笑う資格なんて私にはないわ。私だってすごく怖かったもの」

 

「じゃ、じゃあ何の用かしらぁ?」

 

「姉が顔を真っ青にしてる妹の心配をしてる。それじゃダメかしら?」

 

荒潮に思い切って抱きついてみた。笑うわけがない。笑えるわけがない。荒潮の体温が温かくて落ち着く。同時に恐怖がこみ上げる。ここには私達の味方になってくれる人ばかりだから大丈夫とは思っていたけど。ガタガタと私の手が、体が震える。

 

「み、みちしお、ねえさん?」

 

「ごめん…ちょっとこうさせて…」

 

「うふふ…満潮姉さんも怖がりなんだからぁ」

 

「そうよ。あんたと一緒よ」

 

そういうと荒潮も抱き返してきた。二人で震えているとさらに大きな腕が私たちを抱きしめた。

 

「二人とも怖かったわね。大丈夫よ。もう大丈夫。私が守ってあげますからね」

 

扶桑だ。私たちを抱き寄せて膝に乗せて頭を撫でてくれる。優しい赤い目をした扶桑が笑って私と荒潮を見ていた。抱き寄せられて胸に顔が当たる。耳には扶桑の心臓の音。トクン、トクンって落ち着いた音がしてる。安心できる音だ。荒潮も同じなのか、耳を胸に当てて聞いているような感じがした。荒潮と目が合う。いたずらっぽく笑っている。

 

「だぁめ。扶桑さんは譲ってあげなぁい」

 

「はあ?何それ意味わかんないんだけど?あんたのじゃないでしょ」

 

「やぁよ。べー」

 

「ちょっとあんた、いい度胸してるじゃない」

 

「こら、ダメよ?今日は満潮も一緒に寝ましょうか。三人で眠った方が楽しいわよ」

 

「ふふん」

 

「くっ…扶桑さんが言うなら仕方ないわねぇ…」

 

そうしてなぜか荒潮と一緒に寝ることになった。まあ、取っ組み合いのケンカにならないのなら…いいか。

 

「おや、朝潮はそんなに怖かったのかい。しかたない、私がなでなでしてあげよう。きっと恐怖も薄れるよ。ハラショー」

 

「別に結構です。私は怖くな…って結構ですって言ってるじゃないですか!」

 

「朝潮ちゃん、大丈夫なのです〜。怖くない怖くないのです。大潮ちゃんもなでなでなのです!」

 

「ちょ、やめ!電さんまでやめてくださいってば!」

 

「はぁう〜、ど、どうすればいいのー?」

 

「お、なーんだくちくー。ほんとはなでてほしかったの?だったらそういえばいいのにさー。おーよしよし」

 

「えあ!?な、なんでですかー!?」

 

朝潮姉さん達は響と電、それから北上さんに撫でてもらってる。いや、朝潮姉さんの顔が真剣に嫌がってるんだけど…。けどまあ、ああやって感情を出して言ってるくらいだから、響達に任せた方がいいのかな…。ほんとは、朝潮姉さんと大潮姉さんとも全然話ができてないから、ゆっくり話したいんだけど。まずは荒潮かな…。

 

「まあ、朝潮さん達も響ちゃん達と仲良くなったのねぇ。よかったわ」

 

「絶対違うと思うわよ、扶桑…」

 

まずは荒潮から話していこう。それがたとえ荒潮が激怒したとしても。もう一度確認だ。

 

 

夜、扶桑の部屋に集まった私と荒潮。大事な話がある、と荒潮に伝えると、荒潮はいつものうっすら笑みを浮かべた表情で私を見ていた。以前だと笑みも消えて、すぐさま聞く耳も持たずに怒鳴りだすのだけど。扶桑がいるからかしら。手はぎゅっと握りしめていたけど。

 

「司令官のことかしらぁ?満潮姉さんは、司令官を信じるんでしょう?」

 

「ええ。そうよ。ぶっちゃけて言えばこれが最後のチャンスと思ってる。ここの司令官が信用できないと思ったら。私達を裏切ったり、ひどいことをしようと思ったら、私はあんた達を残してでも一人で海に出て死ぬわ。化けて出てきたらその時はよろしく」

 

「うふふふ…あはははぁ!満潮姉さんってぇ、おもしろいこと言うのねぇ。うふふふふ、そういう冗談はぁ、言わない方がいいわよぉ?」

 

「………私は真剣よ。もう人間のことで心をすり減らすのはこりごり。これでここの司令官もろくでもない人間なら、私はもう艦娘でいるのさえ嫌よ。海の底で恨みでも言ってる方がいろいろと気にしなくて済むもの」

 

「うふふふ、だからぁ、だから、ね?荒潮つまんなぁい。つまんない冗談はぁ、やめて?」

 

「言ったはずよ。私は真剣だって。朝潮姉さん達にも言うわ。司令官にも。だから「ふざけないでって言ってるでしょう!?」

 

荒潮が飛びついてきた。胸ぐらを掴み、締め上げる。ああ、また荒潮を怒らせてしまった。無理もないか。…荒潮、あんた泣いて…。どうして…泣いているの?

 

「いやよ…いやよそんなの…荒潮の知ってる満潮姉さんは姉さんだけよ!霞があんなことになって!それでも何とかみんな姉妹揃ってここに逃げて来れて!まだ、まだ怖いけど、扶桑さんが守ってくれるって言ってくれて!やっと!やっと落ち着けると思ったのに!!どうしてそうやって私を不安にさせるのぉ!?どうして私にそんないなくなるなんて言うの!?嫌よ!満潮姉さんがいなくなるなら私だって死ぬ!!」

 

「だ、ダメよ!あんたは朝潮姉さんと大潮姉さんがいるでしょう!霞も司令官や大和さん、霰がいるし、あんたまでいなくなったら…!」

 

「私は嫌よ!朝潮姉さんも、大潮姉さんも、霞も!満潮姉さんだって今いる姉さん達じゃなきゃ違うのよぉ!嫌よ…お願いよぉ…私の前から…私から遠くへ行かないで…いなくならないで…」

 

ギリギリと苦しかったが最後には弱々しく掴むだけになった。あの荒潮が涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながらずっと、いなくならないで。お願い、嫌よ…。と泣いていた。ごつんと頭に衝撃が来た。うぎっ!なんて変な声が出た。頭をさすりながら見上げると扶桑が立っていた。その表情は…怒っている。

 

「真剣だろうと何だろうと、その言葉は聞き捨てならないわよ、満潮。冗談と笑うなら私はなお許せないけど」

 

「ふそう?」

 

「あなたも、荒潮ちゃんも。自分を蔑ろにしすぎよ。満潮は一人ではないのよ?お互い、姉妹で今まで支え合ってきたのではないの?自分を守るため、そして姉妹を守るために一生懸命支え合ってきたのでしょう?そうして支え合った人が突然いなくなるなんて言われて、平然としていられると思う?」

 

「荒潮ちゃんにも叱ったことがあるわ。自分を大切にしなさいと。あなたが死ねば、満潮や霞さん達姉妹が悲しむのよって。それにね、荒潮ちゃんは満潮が心配だったのよ。自分でなんでも背負い込みすぎて、無理してるって。それでいて、一人で全部解決しようとするから心配とも」

 

「荒潮…あんた!」

 

「満潮姉さんが嫌いになったなんて。邪魔になったなんて一度も思ったことはないわ…あの場所で、ずっと荒潮を慰めてくれたこと…荒潮をあいつらか守ろうとしてくれたこと、全部…全部感謝してるのよぉ…朝潮姉さんや大潮姉さんよりも…ずっと、私を匿うように、私の前に立って、霞と…私をどうにかして守ろうとしてたって…」

 

「満潮。明日、提督に会ってきなさい。提督がどう言うお方か、はっきりしてきなさい。はっきりしないままそうして自分の命を粗末に言い、荒潮ちゃんまで泣かせたこと、私は怒っているわ」

 

荒潮がすがりついている。扶桑は怒った表情で私を見ている。荒潮の言葉が胸に刺さる。

 

「ごめんなさい…満潮姉さん…強がりを言って、満潮姉さんにいろいろと変なことを言ってごめんなさい…!でも、でも、荒潮は満潮姉さんが好きよ。私の…荒潮の大好きなお姉ちゃんよ…だから、いなくなるなんて…死ぬなんて…言わないでよぉ!」

 

私の胸で大泣きする荒潮。私も目頭が熱くなる。視界がぼやける。なんだ。私が一番間違ってたんじゃないか。こんなにいい子を。危険な子だとか、いっぱいいろいろ…いろいろ悪いことを言っちゃったバカじゃないか!!

 

「ごめんね。私こそごめんなさい、荒潮!私だって荒潮やみんなと離れたくない!ずっと一緒にいる!なのに、なのにごめんね!ごめんね荒潮!」

 

また扶桑が私達を抱きしめてくれた。扶桑の温かい腕と胸の中で。わんわん泣いた。荒潮。ごめんね。勘違いしてた。荒潮はそう。とっても優しくていい子だったのに。ごめんね、荒潮。

 

……

 

「はい。じゃあ仲直りできたかしら」

 

「ぐすっ…うん」

 

「ひっく…」

 

「二人とも仲良くね。そして、命は粗末にしないこと。二人も、朝潮さん達もみんな横須賀の仲間なんだから。一緒に楽しくやっていきましょう。ね?」

 

「わかった…」

 

「うん…」

 

「はい。よろしい。じゃあ、もう今日は寝ましょうか。満潮、真っ暗にしないけど眠れる?」

 

「私も真っ暗は怖い」

 

「そう。じゃあこれで。おやすみなさい」

 

「「おやすみなさい」」

 

そう言って布団に入るともぞもぞと荒潮が寄ってきた。私は無言でずれる。ぴったりと荒潮がくっついてくる。な、何よ、恥ずかしいじゃない。

 

「うふふ。満潮姉さん。ずっと一緒にいてね…」

 

「あんたもよ。沈んだりしたら絶対許さないんだから」

 

「はーい。あ・ら・し・お。がんばりまぁす」

 

「ふふ、じゃあ私も一緒にいるから、みんなで楽しくやりましょうね?」

 

「そうね。みんな、みんな一緒に」

 

「そう、ね」

 

扶桑までくっついてきた。何よ、これじゃ寝返りも打てないじゃない。でも、まあ、悪くはない…わね。

 

 

朝は朝食を扶桑に持ってきてもらうくらい、荒潮とゆっくり寝ちゃった。司令官も誰も怒らない。のんびりした朝。けど、私は司令官と話がしたいからと、食器を返しに行くと同時に、食堂で何かをすると言っていた司令官に会いに行く。

 

「荒潮は、まだ怖い?」

 

「そうねぇ…まだ、ダメね。満潮姉さんのお話を聞いてから考えるわぁ」

 

「そう。じゃあ扶桑。荒潮を頼むわね」

 

「ええ。いってらっしゃい」

 

私は意気揚々と食堂へ向かった。バカなことを言う気はないけど。けどしっかり話をしないと、どんな人かわからないから。気合いを入れていこう。

 

気合いを入れたはいいものの、一気にその気合いはしぼんだ。よう、とものすごく気楽に声をかけられた。左手はグルングルンと何かを回している。もう真面目な会話をする雰囲気じゃない。なんなのよ、もう。

 

「よう、満潮。俺に用か?」

 

「…別に。なんとなく司令官と話がしたかっただけ。で、司令官は何してるのよ」

 

「大淀達がさぁ、執務室に入れてくんねえの。この一週間働きすぎだから休めって。寝ててください、通常業務の書類くらい大淀と鳥海と霧島の三人がいればすぐ終わる。頼むから休んでくれって。寝てろって言われてもジッとしてらんなくてさぁ。暇だから今度朝潮やお前の歓迎会。しようと思った時に俺渾身のピザを振る舞いたくってさ。練習中」

 

「ふーん…」

 

軽く言ってるけど、妙高さんがとんでもない目に巻き込まれたって言ってたくらいだから、よっぽど忙しかったんだろう。本当に休めばいいのに、私達なんかに振る舞う料理を練習って…。司令官は鼻歌を歌いながらぴざとか言うのを作る練習をしている。テーブルには赤や緑の食べ物がいっぱい。

 

「かんむすおんどでかんたいとーっと」

 

「なにそれ?」

 

「艦娘音頭って言うんだ。おもしろいだろ」

 

「そ、そう…意味わかんないけど」

 

司令官はぴざと言う白い何かをまた回してる。少しずつ伸びていくそれ。不思議ね。

 

「で、俺は信用に値する人間か否か、そこんとこどうよ?」

 

お茶を飲もうとしてむせた。この人は突然こっちが思ってくることを聞いてくるんだから!

 

「お、大丈夫か?」

 

「ゴホッゴホッ!いきな、ゲホッ!へんなこと聞くからでしょ!?」

 

「そりゃ失礼。いきなりすぎたかぁ」

 

「ほんとにいきなりよ!バカ!」

 

クククと笑っている。本当にこの人は…。でも、へんな緊張感は消えた。喉は痛くなったけど。思わずバカって言っちゃったけど、怒ってないよね?

 

「ゲホッ…もうほんとに…で、その答えだけど…わからなくなったわ。信じていいのか。ダメなのか、ね」

 

「そっか。扶桑になんか言われたな?それで決心が付きづらくなったろ。あ、扶桑に聞いたわけじゃねえぞ。扶桑なら言いそうだなぁって思っただけ。お前、ほんとにここを飛び出て海で死にそうだったし、扶桑が止めた感じかな」

 

ドキッとした。何で全部バレてるの。本当は扶桑から聞いたんじゃないの?と思ったけど、司令官はうっすら笑って赤いのや黄色、緑の何かをぴざってやつに乗せて笑ってる。

 

「俺はな、満潮。俺を信じてくれなんてお前達には言わないよ。そんなこと言ったって人をから酷い目に遭ってた朝潮達が俺を信じてくれるはずがない。まあ、横須賀のみんなも多くは酷い目に遭ってるんだけど俺を信用してくれてついて来てくれてる。ありがたいことだよ」

 

「それは司令官がみんなの環境を変えたから…」

 

「それだけじゃちょっち弱いよな。たしかに俺は翔鶴や雪風、北上達を何とかしたって自覚はある。でも、それだけでついてきてくれるわけじゃないと思ってる。俺だって、みんなが付いてきてくれるかなんてはっきりわからねえ。俺は万が一のことがあったらここで骨を埋める覚悟はある。艦娘がみんな裏切って逃げたとしても、俺はここを任された責任がある。けど、艦娘達はみんな、横須賀鎮守府の艦娘ではあるが俺の艦娘じゃない。逃げる事はできる。逃げても俺は追わない。沈めることだけはもう絶対したくない」

 

「な、何を言っているの?ここの艦娘は司令官の艦娘じゃ…」

 

「俺は置物だよ、満潮。戦うのは艦娘で、俺は執務室に座って命令するだけの置物。ショートランドの時からそう。戦うも逃げるも艦娘の意思だ。特に、うちの艦娘は仲間を守るために戦ってきた子達ばかりだ。今は、俺もその仲間に入れてくれてる。仲間を守るために。帰る家を守るために戦う。そこは艦娘の意思だよ、満潮。ん、こういうと何か満潮を戦わせようとしてるみたいだな」

 

「そうじゃない…のよね?」

 

「不用な戦いなんざしないに越したことはない。こうしてみんなだってのんびりする時間があったっていいだろ。ま、ピザでも食ってのんびりいこうや。お前にも、その権利はあるんだぜ」

 

トレーに乗せてピザをどこかへ持っていく。外では間宮さんが何か棒で息を吹きかけていた。

 

「おー、間宮。サンキュー。助かったぜ」

 

「はい。準備は万全ですよ。あら、満潮さん?」

 

「おう、タイミングがいいよなー。これ、妖精さんが作ってくれた特製窯の試運転をな。間宮が何に使うのかって聞いてきたもんで。で、思いついたのがピザ。よし、満潮、みんなには内緒だぞ。バレたらうるせえからな」

 

「うんうん。そうだねー。内緒でおいしそうなの食べるのは許されないよね」

 

司令官の背後にいたのは北上さん。にっこり笑っているけど、目が笑ってない。私を見ると手を振ってきた。私は苦笑いして手を振り返した。

 

司令官はとほほと言いながらまたぴざってやつを作ってるみたい。なんか、大変そう。そうだ、北上さんは一体、どうして司令官をこんなに慕ってるんだろう。

 

「北上さん。ちょっと、いいですか?」

 

「んー?めんどうな話ならパスだよー」

 

「あ、あの…その。北上さんはどうして、司令官を慕うんですか?」

 

「あー、そう言ったお悩み相談?うーん。そうだねぇ。まあ玲司にはあたしもそうだし、雪風を助けてくれたってのもあるねぇ」

 

やっぱりそこが一番大きいのか。それなら私はまだまだ薄い…か。

 

「でもね。あたしが玲司についていくと決めたのはそんなんじゃない。雪風やあたしを助けてくれたのは嬉しい。でもそれだけじゃないんだよ」

 

「え、じゃあ、何がそんな?」

 

ーーーーー友達だから。家族だから。そう北上さんは言った。私にはよくわからない。

 

「玲司はね。あたし達を人として、女の子として扱ってくれる。それもある。こうして文句言いながらでもちゃんとあたし達を平等に扱ってくれる。傷つけば怒ったり、うろたえたり頼りないよ。

でも、玲司は必ず全員生きて帰ってこいって言ってくれる。戦いが終わったら気をつけて帰ってこいって言ってくれる。お風呂を沸かしてくれてご飯作って待っててくれてる。寝りゃいいのにフラフラしながらでもあたし達を待っててくれる。あたし達に帰るべき家を用意してくれた。これが大きいかな。だったらさ、ダチを守るなんて当たり前じゃん?家族を守るのなんて当たり前じゃん?」

 

司令官は最初はしまったみたいな顔をしていたのに、今はまた艦娘音頭ってのを歌いながらぴざを作ってる。面倒とかなんてちっとも思ってないみたい。家族…か。

 

「人間を信用するかなんてすぐには無理っしょ。あたしゃコロッと信用しちゃったけどね。翔鶴や雪風もそうだけど。長い目で見てやんなよ。すぐに信用できるかできないかなんてわかりっこないよ。ま、ここのご飯はおいしいし、遊んだりもいろいろできるから、食べて信じていきゃいいんじゃない?あとはあんたの気持ち次第ってね」

 

トンと胸を叩かれて北上さんはまーだー?なんて催促してた。いそいそとぴざを持ってきて、窯ってところに入れた。しばらくしてできたぴざって言うのはとってもおいしかった。荒潮にも食べさせたかったけど、気がついたらみんな食べちゃった…。ごめん。

 

「こんなものを北上様に内緒で食べようなんてぎるてぃーだよね〜、みっち〜」

 

ケラケラと笑う北上さんは楽しそうだった。ってかみっちーって恥ずかしいからやめてほしい…。うん。人を信じるってやっぱりわかんない。いつか、私もここで家族に…か。

 

「答えは出たか?」

 

「わからない。けど、私もここで、とりあえずはやってみようと思う」

 

「そっかそっか。明日には練習巡洋艦の鹿島ってやつが来る。まずはそいつや龍驤姉ちゃんに鍛えてもらって、頑張ってみな。俺も支えるから」

 

「うん…」

 

くしゃっと頭を撫でられる。扶桑とは違う撫でられ方。うん、悪くない…かな。そっか、こうやって少しずつ、何だか信頼できるのかな。うん。頑張ってみよう。

 

「あ、満潮、それ俺のやつ!それ、タバスコ!」

 

「ぶふっ!?ゲホッゲホッ!な、なにごで!!ぐぢ、いだい!」

 

「あ、ああ!それ俺が辛いのかけたやつなの!ほら水!水飲め!!」

 

「んぐっんぐっぷぁっ!!じれいがん!いだい!!」

 

「あーよしよし!水もっと飲め!!」

 

「あははははは!!みっちーおもしろーい!!」

 

「ああ、満潮さん!しっかり!もう、北上さん!」

 

口はヒリヒリするけど、こんな日のんびりな日を、朝潮姉さん達や荒潮、霞、妙高さんも加わって楽しみたいな。私、もっとちゃんと胸を張って横須賀鎮守府の駆逐艦「満潮」って言えるようになるわ。今は言えないけど、よろしくね、司令官。




満潮はとりあえず、早まった考えは捨てたようです。これにてまず、満潮が正式に着任、ということになりましょうか。家族になれるよう、頑張ろうと決心しました。横須賀の桜も咲きそう、でしょうか?

また玲司が何かを考えているようです。その前に鹿島が横須賀にやってきます。はたして鹿島はツッコミどころの多い横須賀でやっていけるのでしょうか?

それでは、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。