提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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鹿島が加わり、安久野の時代とは決別し、新しい玲司が指揮する横須賀鎮守府。本格的に練度向上を図り、横須賀鎮守府に新しい風を吹き込んでいきます。横須賀鎮守府はブラック鎮守府ではなく、元ブラック鎮守府に。

四大鎮守府どころか全泊地、警備府の中でも最低ランク。この不名誉な称号を返上できるように努力を重ねていきます。


第六十七話

「ぜはー!ぜはっ!ゴホッゴホッ!!」

 

陸で大の字になり、思いきり息を切らせて倒れこんでいる。摩耶さん達が「龍驤さんに比べりゃ軽いだろ」と言う言葉を信じた私がバカだった…。どこがよ、めちゃくちゃきついじゃない…。そんな摩耶さんも最上さんも肩で息をしている。

 

「はぁっはぁっ!き、きっつ!!龍驤さんよりマシだろだなんて言ったあたしがバカだったよ!」

 

「ふう…ま、まさかこんなにとはね…あ、五十鈴、大丈夫かい?ボクのでよければドリンク」

 

「ええ…ありがと…。んぐっんぐっ、ぷぁっ!阿武隈…大丈夫かしら」

 

みんな休憩中。駆逐艦は私だけがグロッキー…。鹿島さんは、私は軽めのメニューでと言っていたけど、これで軽めだなんて…。

 

「満潮、大丈夫?はい、ドリンク」

 

「はぁ、あ、あり、がと…」

 

時雨に起こしてもらい、何とかドリンクを飲む。甘い…。何でもこれが甘く感じると相当疲れてるらしい。足がプルプルしている。立てるかどうかもわかんない…。

 

「あー、やっべ。足プルプルするんだけど…」

 

「ボクもだよ…よっと…いててて!!」

 

「摩耶さん、最上さん、五十鈴さん!休憩終了です!先ほどのメニューを一時間!

再開です!」

 

「えー!まだ十分しか休憩してないじゃないかぁ!も、もうちょっとー!」

 

「ダメです!!待てません!!すぐに来てください!満潮さんはいけそうなら来てください!無理そうなら今日はトレーニングを終えてもいいです!」

 

鹿島さんの言葉に摩耶さんと最上が文句を言う。けど、鹿島さんは聞いてくれそうにない。よろよろとしながらも摩耶さん達は歩いていく。私は三十分休んだ。びきびきっと足が痛いし、力が入らない。けど、ここでやめて休んでるわけにはいかない。私にはやることがあるんだから!!

 

「行きます!」

 

フラフラしながら演習場へ立つ。奥を見ると神通さん、夕立、雪風が何個も置かれたブイを小刻みにジグザグと動いている。神通さんと夕立はすいすい動くけど、雪風はちょっとよろけたりしている。でも、息を切らしたり疲れた様子はない。雪風、夕立は前の司令官の時からずっと海に出て戦ってきた古参。体力は大いにあるらしい。

 

「ほいほいっと。ん、ちょっと当たっちゃったなー。もーいっかーい」

 

北上さんも最初は「えー?こんなこと別に」と反抗したが特別メニューを見せられて固まって、鹿島さんに「これをやりますか?」と聞かれたらブンブン首を横に振って拒否してた。一体どんなメニューだったんだろ…。やめとこ。怖い。

 

「満潮さん、大丈夫ですか?やれますか?」

「…やります!」

 

「はい、良い返事ですね!では、訓練はじめ!」

「はい!!」

 

神通さん達よりは間隔の広いブイをジグザグに私もスピードを上げて走る。私は朝潮姉さんたち。そして、私を歓迎してくれたみんなを守るために、まずはみんなに追いつかなきゃ!

 

 

「基礎訓練、ですか?」

 

「ああ。そうだ。まずは基礎をみっちり叩き込んでほしい」

 

満潮達の特訓を始める前夜、鹿島を執務室へ呼んで横須賀の艦娘達の指南の方針を鹿島に伝える。鹿島としては意外であった。鹿島は横須賀鎮守府の艦娘の能力のさらなる向上を目指して実戦訓練を踏まえた水雷戦隊の練度向上メニューを考えていた。が、玲司から言われたトレーニングメニューは、水雷戦隊の戦闘指南どころか、海上の走り方、体力向上などの着任したての艦娘に施す基礎中の基礎のメニューだった。

 

「提督さん、確かにこの鎮守府は今のところ人数も少ないです。ですが、水雷戦隊の皆さんの練度はかなり高いと私は見ています。ですので、基礎トレーニングは飛ばしてもいいと思ったのですが…なぜ、基礎も基礎、と言うか初心者メニューなのですか?」

 

「確かに五十鈴や阿武隈、時雨に夕立達。前の提督の時から海に出て戦ってきているから、夕立や北上が改二になったり、時雨や五十鈴達も練度は高い。が、一度あの子達に基礎メニューをやらせてみるといい。きっと音を上げる。賭けてもいいぜ」

 

何を賭けるのかはわからないが、鹿島は半信半疑だった。練度が高ければ応用もきいた戦闘ができるはずだ。なのになぜ基礎なのか…?

 

「ものは試しだ。とにかく明日、基礎トレーニングのみを一日やってみてくれ。見ればわかるから。もし、俺の言うようにすぐ音をあげたり、お前が考えているメニューがうまくいかなさそうだったら当分基礎練習を続けてくれ」

 

「は、はあ。わかりました。では、提督さんの言う通りにやってみます」

 

そう言って、頭の中で全てのトレーニングメニューを考え始めていた。

 

「あっ!明かりがついていると思ったら!てーとく!何やってるんですか!」

 

「げっ、大淀!」

 

「提督!提督は今日までお休みです!執務室は立ち入り禁止と言ったはずです!」

 

「い、いやな。鹿島に明日の水雷戦隊の練習メニューをな。持ち掛けてたんだ。書類してたとかじゃねえから。大事な話なんだ。それくらいさせてくれよ」

 

「……むぅ。それなら仕方ありません。明日からはお願いしますね」

 

「ああ、その件だけど、大淀。お前も参加だ。お前も今後は執務室での指揮だけじゃなく、現地で指揮を執れるように動きを学べ」

 

「え、ええ!?わ、私もですか!?」

 

「そうだよ。お前も鳥海も参加だ。鈍った体を鍛えて勘を取り戻せ。いいな」

 

「は、はあ…」

 

こうして大淀もトレーニングに参加したわけだが…。

 

……

 

「は、はにゃあ…あ、足が…足が…は、吐きそう…」

 

目を回して歩くこともできないくらいにバテていた。三十分ともたずに霧島に抱えられて陸に上げられた。足がプルプルしているし、限界らしい。

 

「なっさけねえなぁ、大淀…無理もないか。ずーっとアイツがサボった書類仕事で戦闘に出れてないもんなぁ。はぁ…いや、あたしもきっついなこれ…」

 

玲司に言われて本当に基礎の基礎をちょっとハードにしたトレーニングにしてみたのだが、それでさえほとんどが一時間を予定していたトレーニングについてこれず、最短が大淀のニ十分。その後摩耶や最上達でさえ一時間で結構息を切らせていた。もったのは神通、夕立、雪風、北上だけ。神通はいつもこれと同じことをやっていると言う。夕立もそれに倣う。雪風も同じ。時雨や村雨も付き合うのだが、ついてこれないと言っていた。

 

鹿島の計測が「測定不能」となったのはその三人だ。彼女たちは鹿島のジグザグ走法をやすやすとこなした。神通曰く、もう少し狭い間隔の移動を行っていると言う。彼女たちは必要ないとは思うが…だが玲司からは平等にやれ、と言われているので仕方がなくやっている。

 

「北上さん、夕立さん、雪風さん。まだいけますか?」

 

「ぽい!まだやれるっぽい!」

 

「はい!まだいけます!」

 

「ほーい。まだやれるよ。よゆーよゆー」

 

そうして神通達はもう一時間、ノンストップで走り続けた。彼女たちは問題ない。問題はこの…大淀だろう。大淀は強さ的にはまだ伸びる。しかし、そのレベルが低すぎる。鹿島としては彼女は置いて他の子を伸ばしたいと考えているのだが…。

 

(大淀さん、この状態ならここで指揮を任せた方がいいと思うのに…どうして提督さんは戦地へ出そうとするんでしょう…うーん…)

 

「は、はひぃ…ま、まだやれるわ…がんばる…」

 

本当に大丈夫だろうか…。鹿島はとにかく玲司に言われたことを指揮するが、やはり大淀のことに関しては切り捨てるべきではないか、と考えていた。

 

 

「ほーらな。やっぱり鹿島は大淀を切ろうとしとるように見えるなぁ」

 

そう言うのは龍驤だ。長く鹿島の育成方針を見ているが故の予測だった。

 

「大淀に伸びしろが少ないねぇ。そうは見えねえけどな」

 

「ちゃうちゃう。アホンダラにここに缶詰めにされとったせいで練度が根本的に低いねん。言うたら満潮と変わらん。着任したてのレベルやねん。鹿島の悪い癖やなぁ」

 

「癖?どういうこった」

 

「鹿島は確かに艦娘を育てるエキスパートや。鹿島に認められた艦娘は大出世するっっちゅう噂や。せやけど、その裏では見込みがないからとそれなりにしか鍛えられへんかった艦娘が大勢おる。鹿島は極端に練度が低かったり、成長の見込みがないもんには育成方法がおざなりになるんよ。これ、玲司も鹿島に注意したったほうがええで」

 

「そいつは困ったな。大淀を切り捨てられるのは困る。あいつはもっと成長してもらわねえとな。出撃させたいんだよな、大淀」

 

「ほっほう?なんやぁ、ガミガミ言われるのがうるさいから、静かになるってか?」

 

キキキ、といたずらっぽく笑う龍驤。んなわけねえだろ、とため息を吐く玲司。椅子に座って龍驤に語る。

 

「大淀の作戦立案、指揮能力。こいつは一級品だ。これについては鳥海も、それから霧島でさえ時々追いつけていない。俺も正直ハッとなることが多い。ただ、思いついたはいいが現地の状況がわからないと指揮しづらい面も出るだろう」

 

「せやなぁ。現場の雰囲気と状況は現場が一番ようわかっとるでなぁ」

 

「そこでだ。旗艦であろうとそうでなかろうと、あいつが現地で作戦を立て直して切り替えてくれて、かつ指揮をしてくれると大いに戦況が変化すると思うんだよ。それも、全部ひっくり返して全く違う作戦を思いついてくれるかもしれない。そんな起点の切り替えの早さが大淀の武器だと思ってる。ここでの作戦は鳥海か霧島に任せればいい。とにかく、大淀は現地で指揮を執れる艦娘になってほしい。が、今のまんまじゃちょっとな」

 

「ほんで鹿島に大淀を鍛えろと。満潮と同じメニューやのに大淀のが先にくたばっとるがな」

 

「大淀の頭のキレは抜群だ。そのキレを現地で生かしたい。そうすれば、ピンチも逆転できる。勝つためには瞬時に変わる戦況を見極めることができる頭脳を持った奴が現場で必要になることもある。そのために大淀にはまず戦闘をしながらでも作戦を考えられるだけの体力をつけさせる。勝つためにはそれくらい必要になってくるだろ」

 

(へえ。何だかんだで負けない作戦から勝つための作戦へ切り替えさせていくわけか。なるほど。死なないための戦いから勝つための戦いへあの子らをステップアップさせるのが目的か。そら鹿島は反発するわな。そんな切り替え、ここくらいしかないもんな)

 

玲司の艦娘を見る目に改めて感心する龍驤であった。北方海域での深海棲艦の情報もある。早めに少しでも高みへ近づくための基礎トレーニング。

 

(ほんじゃうちも空母勢をもうちっと高みへ引き上げていきますかね。生まれ変わるでぇ、横須賀鎮守府は。こいつぁマジでおもろなってきた!)

 

わくわくしながら龍驤は玲司と鍛錬の話に花を咲かせた。

 

 

そうして鹿島のトレーニングが始まって三日後の夜。玲司は執務室へ鹿島を呼んだ。やや退屈そうにしている鹿島。玲司は笑っているが。

 

「鹿島、参りました。提督さん、いかがなさいましたか?」

 

「いやなに、三日経ったわけだけど、どうだった?うちの子達は」

 

「どう、と言われましても…まさか、基礎トレーニングだけでこうもへばってしまうとは思っていませんでした。たしかに動けてはいますが、かなりめちゃくちゃ、と言いますか…」

 

「見たこともない走法だったろ。特に雪風や夕立、北上は」

 

「はい。体力は他の皆さんよりありましたが、あのような動き方は見たことがありません。提督さんが指南したんですか?」

 

北上達の動き方は型がなく、自由。つかみどころがなく、敵を翻弄しやすいだろうが無駄が多く、体力の浪費が激しいと思った。あんなことでは体力がいくらあっても持たない。神通が指示をしているおかげか、ある程度無駄は削ぎ落されている。神通も無駄が少ないが、指示したとおりに旋回をしたりせず、指示は難しかった。

 

「いいや、神通は知らないが北上や夕立、雪風の動きは完全に我流だ。あの動きは敵と戦うための動きじゃない。仲間を死なせない。自分を守るための動きだと思う」

 

「仲間を…守る動き?」

 

「そうさ。ここの前の提督。安久野のクソッタレが捨て艦戦法なんてやりやがった。けど、雪風や北上はそれに反発して仲間を沈ませないようにと考えた。夕立は自分が死ねば、大怪我をして死にそうな時雨と村雨が危険になる。だから独自で、仲間は頼りにできないから自分で何とか仲間を守れないか、死なないような動きに徹してきた。それがまだ抜けてないんだ」

 

捨て艦戦法。未だにこのやり方は後が断たない。それよりも駆逐艦の練度を上げたほうが良いのにと思うも、その考えは全く浸透していない。

 

「捨て艦戦法…嫌な言葉です。では、前の提督の時には基礎演習のようなものはなく、ほぼ毎回駆り出される戦闘で戦い方を編み出した、と?」

 

「そういうことだ。時雨や村雨も。五十鈴や摩耶、最上達も。戦う上で自分が死なない戦い方が染みついちまってる。けど、これじゃダメなんだ」

 

「ですが、それはそれで戦えるのなら良いのではないでしょうか?」

 

「ダメだ。それは負けない戦い方であって勝つための戦い方じゃない。あの子達に必要なのは勝つための戦い方だ。負けないためと勝つため。全然違うからな」

 

ニュアンスは似ているが違う、と鹿島は漠然と思った。負けないためは勝てる戦いも落としてしまう。何より艦娘に自信がつかず、成長が見込めない。仲間を犠牲にして負けて帰ってくることが多かった横須賀の艦娘達に今必要なのは勝利に勝利を重ねて自信をつけさせること。その自信が強さに変わり、それを何度も重ねることで大きな自信となる。玲司はそこに目をつけていた。

 

「けど、勝つための戦い方にはまず基礎が必要だ。基本がなっていなければ応用もきかせられないし、有利に運べるものも運べなくなる。まずは基本に基本を重ねて、それを当たり前にできなきゃならない。当たり前のことを当たり前にやる。口では簡単に言えても、実際にやるには毎日これを繰り返していくことが大事だ。神通はよくそこがわかってる」

 

「では、雪風さんや夕立さん達も…?」

 

「神通が説いているのかもしれないな。神通に何をやっているか聞いたことがある。基本的な動きの練習、そしてその無駄を削ぎ落す練習。後は、どんな時でも冷静さを欠かないための精神鍛錬。龍驤姉ちゃんの指揮がある時だけ応用、だそうだ。結果として、おそらく今の横須賀で神通に模擬戦で敵う子はいないよ。実際夕立がけちょんけちょんにやられたってくらいだからな」

 

神通は確かにその素質は本当に夕立よりも上だ。彼女のオーラは燃え盛る太陽のように強い。静かについている雪風も強い。夕立はその下くらいだろう。精神的に先走るためにやや雪風に後れを取っている。見たことのないオーラを持つ艦娘に期待をしたが基本さえできていない。

 

「そういうわけで鹿島。みっちり基本を叩き込んでくれ。死なないため、生きるための動きは、基本がしっかりできればもっとその動きを昇華できるはずだ。そうなった時、あの子達はもっと上のステップへ行ける。そう言える自信がある。

見てな、鹿島。今は横須賀の評価は最低みたいなもんだけど、俺は皆と一緒に横須賀を変える。昔、古井司令長官がここに座っていた時のように。常勝無敗。全鎮守府、泊地、警備府最強の鎮守府にしてみせる。そして、ここに居る艦娘達を自慢してやるんだ。うちの艦娘達は最強だ。数々の大戦果を、この子達がもぎ取ってきたんだってな!」

 

ニヤリと鹿島に笑う。どこからそんな自信が出てくるのだろうか。いや…彼ならできるのかもしれない。その時こそ、彼は本物の英雄と呼ぶに相応しくなるのかもしれない。それよりも、自分の名誉よりも艦娘の名誉を大事にし、それを自慢したいと言う人間を見たことがない。けど彼は。彼が言うことは本物だろう。自分の名誉よりも艦娘の名誉を立てようとしている。

 

「おもろいこと言うやんか、玲司。うちもそれ混ぜてえや。うちも翔鶴と瑞鶴、全鎮守府で最強の空母って名乗らせたいねん。原初の艦娘ばりに強い空母。最強の鶴姉妹。それを広めたいからな」

 

龍驤が乗ってきた。もちろん、と玲司が言う。途方もない夢。しかし、それを叶えるにはまだまだ練度も艦娘も足りない。それを分かった上で彼と彼女は野望に燃えていた。かつて二年前、舞鶴鎮守府の戦果にも届かんと言われていたショートランドの名将の艦隊運用か。頼りない、と思っていたが、彼の描く艦隊。とても興味が湧いた。

 

「そのためにゃ、まず安久野のクソッタレの時のイメージから脱さなきゃな。鹿島が来てくれてよかったぜ。鹿島がそれを見越して異動届を出してくれたんだよな」

 

「えっ?私が、ですか?私は古井司令長官から三条提督さんが、横須賀鎮守府の強化を図りたいのでぜひとも私をと指名してきたと仰っていましたけど…」

 

「は?」

 

「え?」

 

全然話がかみ合っていない。お互いにそっちが希望したのでは?と言う顔である。つまりは…。

 

「ぶふっ、あんたら二人、すっかりお父ちゃんにやられたわけやな。あの手この手で鹿島を大本営から動き出したかっただけやな。あはは!」

 

その言葉に玲司がシュレッダー行きの書類をグシャ…と雑巾を絞るかのように丸めた。玲司の顔がやや怒りに染まる。

 

「あのクソ親父…また俺をハメやがったな…」

 

「キキッ、まあええやん。ここは遠慮なく鹿島をコキ使うて最強目指そうや。うちも帰って来い言われるまで手伝うから」

 

「チッ、ちょっち文句でも言いたいけどそうだな。鹿島」

 

「は、はい!」

 

そうして思考をやめて玲司を見る鹿島。すると自分に深々と頭を下げる玲司の姿があった。

 

「て、提督さん!?何をなさるんですか!?」

 

「お前に来てもらったこと、本当に感謝している。頼む。うちの子達をよろしく頼む。龍驤姉ちゃんと鹿島。二人でうちの艦娘を強くしてやってくれ」

 

「わかりました!わかりましたから!頭を上げてください!お願いします、ほんとに!そんなことをされるために私、来たんじゃありません!」

 

鹿島が大慌てで頭を上げるように言うが上げる気配がない。艦娘に頭を下げる人間なんて…聞いたことがない!!それと同時に、そこまで艦娘のことを思っているんだな、と感心もした。この人なら、本当に信用してもいいと思う。見てみたい。本当に、栄華を極めた横須賀の艦娘達の姿を。そうして、それに協力できたこと。最高の誉れではないか。まだ小さな光でも。いつか大きな光になると信じて。

 

「提督さん、私もその目的のお手伝い、やります!見てみたいです、その栄華に立ち会える瞬間を。私の持てる力を全力で振り絞り、皆さんと共に私もさらなる高みへ行きたいと思います!」

 

鹿島もやる気になった。龍驤も玲司もギラギラと燃えた目をしている。本当は不安であるが、この提督なら正しく艦娘を導いてくれるのだろうと。そう信じて。いつしかこの不安を拭い去るものをください。そう思った。

玲司と鹿島がまず握手をがっちりと交わす。その後、龍驤とも交わした。

 

(あー。こんなおもろいもん絶対見逃されへんわ。帰って来い言われてもこりゃブッチやな…これから先、横須賀が海軍のアホらにどんだけ嵐を呼ぶかめっちゃ楽しみや!変わるで。これから先の海軍は玲司と若い衆がめちゃくちゃにおっさん、クソジジイ連中をひっかきまわしよる。見ものや!)

 

こうして夜の密会(?)は終わった。

 

……

 

「はい。今日もスラロームをやります。目標タイムはこちら!!さ、がんばってくださいね!」

 

「げえ!マジかよ!昨日より早くなってる!」

 

「うふ、うふふ…大淀、がんばります…」

 

「大淀ちゃん、大丈夫?何だかおばあさんみたいにプルプルしてるけど…」

 

「ぽい!がんばるっぽーい!!!」

 

「夕立は元気だね…」

 

こうして鹿島のビシバシトレーニングは少しずつ苛烈さを増していくのである。このトレーニングの成果は、近々の北方海域の戦闘でしっかりと実感することになる。

 

「ひ、響ちゃん、私は大丈夫だから、電ちゃんにしてあげたほうがいいと思いますぅ!」

 

「心配はいらないよ。この間本で読んだんだ。足が疲れた時はここをほぐしてあげるといいって。いくよ、ウラー!!!」

 

「電もいくのです!なのです!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

「大淀さんがこの世のものと思えない悲鳴あげてるんですけどぉ!?」

 

「阿武隈、放っておいたほうがいいよ…巻き添え食らうよ」

 

数日、どこからともなく大淀の叫び声が夜な夜な響き渡ったと言う。




新生横須賀鎮守府!を目指してさらなる高みに登っていく努力を始めました。いろいろと大変なことになっている大淀ですが、大丈夫でしょうか?がんばれ、大淀!

次回はその大淀の視点で鹿島の特訓を見ていきたいと思います。そして、基礎をこなした彼女たちの出撃の時は近い。何だか最近大淀がギャグキャラになりつつありますが、まあ、たぶん、きっと、メイビー。気のせいです。

それでは、また。

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