提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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鹿島の特訓でヒーコラ言っている大淀。何だかとんでもない悲鳴をあげたり、グロッキーになったりと大変な目に遭っていますね。

苦しい、辛い、と言いつつも彼女の心は明るいようです。そんな大淀の視点。


第六十八話

「そこまでです!大淀さん、今日の特訓はここまでです。お疲れ様でした」

 

「あ、ありがとうござ、ございました!」

 

鹿島さんの特訓も早一週間。ただでさえ毎日朝起きると体がギシギシ軋んでいるんじゃないかと言うくらい重く、痛いのです。足が特に危険です。ドックへ汗を流し、お風呂に入りにいくのにも、杖にしがみついてお婆さんのようにヨタヨタと歩いていきます。ああ…お風呂が遠いです。早くこの疲れを取りたい…。

 

「おーす、大淀、おつかれー」

 

ポンと肩を叩かれる。それだけで体がビキビキと悲鳴をあげます。

 

「あ゛あ゛あ゛!!!???」

 

「あ、ごめん…ってか大丈夫?」

 

「は、はひ…大淀は大丈夫です…」

 

「テレビで見た産まれたての子鹿みたいなんだけどー」

 

北上さんがケラケラ笑っています。もーしょーがないなーと言いながら私をおぶってくれます。触られた所やおんぶで持ち上げられた際に体がビキビキ!となりましたが、歩かなくていいのは助かります。お風呂に入ろうにも服が体が痛くて脱げず北上さんとたまたまいた阿武隈さんに手伝ってもらいました。ま、まずは体をさっと洗って湯船に…。

 

「はあああああ…」

 

湯船に浸かるとぶわぁっと疲れがとけていきます。ああ、幸せ…。はっ!?思わず寝てしまいそうになりました!いけません。ここで寝ては…!

 

「んー、今日も疲れたぁ!大淀さんの練習メニュー、あたし達よりちょっとだけきつくないですか?」

 

「そうでしょうか。私は皆さんより練度が低いですから、早く皆さんに追いつくためではないでしょうか?」

 

「そうかなぁ?それにしてはきついなぁと思うけどぉ…」

 

「大淀に期待してるからでしょ、玲司が」

 

北上さんが言った言葉に私はきっとすごく変な顔をしていたと思います。提督が…私に…?そんなはずは…私なんてただ…。

 

「あー今私なんて書類仕事くらいしか能がないって思ってるっしょ。あたしはね、大淀が現場で考えて作戦練ってほしいなって思う時がよくあるよ。冗談抜きで」

 

「私が作戦をですか?」

 

「大淀が玲司と立てた作戦は言っちゃ悪いけど鳥海や霧島さんよりやりやすい。まるでこうなることが予測された。どっかで見てんじゃない?って言うくらいカチッとハマるときがある。そしたら完全勝利確定よ。あたしは大淀ゾーンって呼んでる。みんなは気づいてないけどね。気づいてるのなんか神通くらいじゃない?」

 

「あ、わかるー。何だかすっごいサクッといけちゃうときがあります。ル級やヲ級が待ち受けてるのにみんな小破とかで済んじゃうんだよ。扶桑さんがびっくりしてたもん」

 

「お、阿武隈も大淀ゾーンがわかっちゃう?あんたやるねぇ」

 

「えへへ…ってちょっとぉ!前髪グシャグシャにしないでよぉ!」

 

北上さんが阿武隈さんの髪をグシャグシャにしながら撫でています。ちょっとやりすぎじゃ…。私が立てた作戦。適当に言っているわけじゃない。何かがカチッとパズルがぴったりはまったかのような作戦を立てた時は「大淀のそれでいこう」と言う言葉が返ってくる。失敗するときもあるけれど、安久野提督の時のような大失敗はしたことがない。

 

「オーケー。悪くはねえ。次に活かそう」

 

そう言って苦笑いを浮かべています。これは私の失態です!と頭を下げても提督は大淀のせいじゃないよ、と言ってくださります。ですが、失敗は失敗。立案した私の責任のはずなのに…。

 

「たぶん、玲司はあたしと同じ考えだよ。前線でコロコロ変わる状況を瞬時に判断して作戦を切り替えて、不利を優勢にひっくり返して敵をぶっ潰す。そんな頭が働く軍師ってやつ?がほしいんだと思う。そんな軍師に大淀をしたいんじゃない?たぶん。横須賀一番の頭脳にしたいんだと思うよ」

 

軍師?私が…横須賀一番の頭脳…?

 

「で、でもぉ。現地で作戦を考えるってすごい危なくないですか?考えてる最中に弾が当たったりしたら…」

 

「そうならないようにあたし達も強化してるんでしょ。玲司はあたし達を変えようとしてるんだよ。もっと先へ。今まではあのクソガエルのせいで守る戦い。死なない戦いをするしかなかった。けど、これからは今までの動きも残したまま、勝つための戦い方に変えて行きたいんだと思うよ。鹿島の特訓。これ基礎の基礎らしいけどさ、事実あたし達満足にうまくいってないじゃん。基礎ができてないのに勝ちに行くなんて無理だよね」

 

「より速く。より冷静に。鹿島さんは、基礎がある程度できているのは神通さんだけと仰っていましたね…」

 

「あたしや雪風、夕立は戦闘経験は多いけど、動き方が死ににくい動き、逃げ腰が染み付いてるからね。それを変えてくれるのはありがたいね。大淀、鹿島は正直あんたに期待はしてない目してた。見返してやろうよ。あぶぅも。あんたの期待なんかこれっぽっちも気にしてない。あたし達のやり方で圧倒的勝利をボコボコ取ってやろうじゃん。これしかないよ」

 

北上さんの言葉に胸が熱くなってきました。たしかに鹿島さんの私に対する目と、神通さんを見る目が僅かながらに違います。教え方も神通さんの方が熱が入っています。仕方のないことと思っていました。けど、そうですね。ただそうされるだけでは癪に触ります。動きはダメでも、北上さんが言ってくれる頭脳を使って鹿島さんを…!そして、暁の水平線に勝利を刻んで、提督に褒めて頂こう。そして、私たちこそが提督に仕える誇り高い最強の艦隊であると、胸を張って言いたい!提督をもっと高みへと引き上げたい!私たちもそれにどこまでも付き添っていきたい!

 

「北上さん、阿武隈さん。やりましょう!考えて、考えて、考え抜いた私の作戦で勝ちまくって、鹿島さんを見返してやります!ああ、でも鹿島さんも私たちの仲間ですから、そう悪者にするのも…」

 

「いいじゃん。ケンカをふっかけてきたのは向こうだし。やってやろうじゃん。あたし達の底力見せようよ。あたしとあぶぅは実力で。大淀はその頭でさ。おもしろそうじゃん!」

 

「な、なんかあたしまで付き合わされてるんですけどぉ…でも、あたし的にもおもしろそう!」

 

三人の手が重なります。三人の密会。北上さんの発破はすごいものでした。がんばろう。やってみせよう。そんな気に私もなりました。心が軽くなりました。ありがとう、北上さん。

 

「やるぞっ!」

 

「「おー!!!」」

 

北上さんの掛け声に私と阿武隈さんも続きます。いつの間にか体の痛みも和らぎ、力がみなぎっていました。

 

「お、なになに?三人でやる気出して」

 

「瑞鶴にはないしょー」

 

「はあ?何よそれ!ずるいー!」

 

「はっはっは、巡洋艦の誓いさね。空母は入れませーん」

 

「阿武隈、なになに?何話してたの?教えてよ」

 

「ごめんね、瑞鶴さん、内緒」

 

「わ、私も…すみません」

 

「ケッ、いいわよいいわよ。空母は一人寂しくお風呂しまーす!わぷっ!」

 

「隙ありー」

 

「やーったわねこのぉ!」

 

「ぶはぁ!阿武隈を巻き込まないでくださーいー!!!」

 

みんなでなぜかお湯の掛け合いになりました。騒ぎすぎて翔鶴さんにも思い切りかけてしまい、瑞鶴さんがとても怒られていました。ごめんなさい…。

 

 

まもなく消灯時間でしたが、お茶をポットに移し替えようと食堂に行った時のことです。食堂から話し声がします。声から提督と龍驤さんの声でした。明石もいるようです。

 

「大淀の水上ブーツ、今日も傷だらけだったね。とりあえず舵が壊れたりはしてないし、不具合はないようにしたけど、かなりこの一週間で使いこなしてるね。大淀にバレないようにこっそり細工してみたんだ」

 

「おいおい、そんなこと…」

 

「心配ないよ。大淀が動きやすいように工夫しておいたの。小回りが利いた方がいいんでしょ?出力ももっと細かく調整しておいた。大淀は体力が少ないからね。体力の消耗を抑えたほうがいいでしょ?」

 

「そうだな。大淀は頭脳勝負だからな。神通や名取達とはちょっと違うな」

 

明石、そんなことをしてくれたんだ…。ありがとう。でも、提督は明石と何を話してるんだろう?

 

「で、実際どう?大淀。いけそう?」

 

「どうだろうなぁ。大淀の気持ち次第だな。やる気があれば伸びると思う。あいつに足りないのは自信だ。ヒキガエルに散々ボロクソに言われて萎縮しちまってるのが原因だな。そこをもう少し改善できればいい」

 

「あー。玲司くんにはガツンと言うくせにね」

 

クスクス笑っている。そ、そういうわけじゃないんですけど…。

 

「俺にああ言ってくれるのは心配してくれてるからって思ってる。けど、作戦を立てて俺に相談する時はものすごい自信なく言うんだよ。めちゃくちゃいいのにな。鳥海と霧島が大淀に引っ張られていい感じにブレインとして成長してきてる。そこは大淀の影響がでかいよ。正直俺も舌を巻くくらいの作戦引っさげて来るんだもんな」

 

「へー。玲司君がそこまで言うくらいだから、きっとすごいんだろうね。高雄お姉ちゃんが大淀に興味持ったって言うくらいだし。一回高雄お姉ちゃんに預けてみたら?」

 

「バカ言え。まだ鳥海や霧島の成長も途中だ。高雄さんが来てくれるならいいけど、大淀を大本営に預けたら俺が不安で胃に穴が空くぜ。大淀はいなきゃ困るんだよ。あー、おやっさんに高雄さんこっちによこせって言ってやろうか」

 

私が高雄さん…いやいや原初の艦娘の高雄さんに!?そ、そんな。私は特に…何も…。私はただの事務艦娘。艦娘最強の軍師、「未来視」の高雄さんに見込まれるだなんて、そんなこと…。

 

「大淀の自信のなさはガンガン作戦立てさせて、ゴーサイン出して、あいつの作戦で勝ったんだって意識させりゃ大きな自信になると思うんだよな。そりゃあプレッシャーもすごいよ。自分の作戦が瓦解したら終わりかもしれねえ。でも、あいつが立てた作戦は万が一瓦解した後のこともきっちり見てる。失敗しても仲間が死なないように。死ににくいように見てる。だから俺も安心できる」

 

何でしょう、目がぼやけます。目が熱い…。提督が。提督が私のことを…そんな。そんな風に見てくれていただなんて…!

 

「失敗したっていい。仲間が死なずに帰ってきて失敗しましたくらいなら、どうってことはない。大淀がそんな失敗しないと思ってる。うちの艦隊には大淀がいるんだよ。危険な目に遭わせる。前線で作戦練り直せなんて無茶は言う。けど、あいつならやっちまうよ。んでもって勝ちましたって。土壇場でひっくり返してやりましたって。おやっさんや高雄さんに言ってやるんだ。うちにも並ならぬ軍師がいるって。そいつの名は大淀だって」

 

泣き声を口を抑えてしゃがみこんで、外から全てを聞きました。身に余る光栄です。提督。私はあなたが来てくださって本当に感謝しています。私を輝かせてくださる。こんなに嬉しいことはありません。今すぐ提督の下へ行き、跪いて提督に勝利を幾度も捧げますと誓いたかった。けど、こんな顔はお見せできません。

 

北上さんと阿武隈さんと誓ったこと。そして提督の期待。やります。私は…どんな艦娘にも負けない作戦で勝って勝って勝ちまくります。提督。あなたのお側で…必ずや!

ポンと肩を叩かれました。ひどい顔を…龍驤さんに見られてしまいました。巡洋艦寮まで連れて行ってくださり、優しい声で言ってくださります。

 

「口うるさいってようボヤキよるけどな。あいつはあんたを頼りにしとんねや。あんたと、霧島、鳥海。三人を信頼してあんたらの作戦をビシッと指揮しよる。口には出さへんし、面と向かってはあんま言わんけど、何かあれば誰かを褒めとる。大淀もその中に入っとる。うちは水雷戦隊には疎いし、頭悪いから軍師については口出しできん。せやけど、頑張りや、大淀」

 

「はい…はい!」

 

辛いことが多かったこの鎮守府。でも、これからは気持ちを入れ替えて、私も前に進みます。過去は過去。私はもう、迷わない。

 

……

 

「大淀さん、もう休憩にしますか?」

 

「いえ。まだやれます!大淀、まだ沈みません」

 

「わかりました。ではもう一度、始め!」

 

(大淀さんの雰囲気が変わった?一体何が…?)

 

大淀の動きが明らかに変わった。目には覇気が宿り、気迫はまだ小さいがピリッと体を伝うものがある。

 

「あんまり依怙贔屓しなや、鹿島。あんたは香取と違って選別がきつすぎんねん。あんたが切り捨ててきた艦娘の中に、どれだけ光る原石があったやろなー?」

 

「えっ?」

 

龍驤が後ろから話しかけてきたので振り向いた瞬間に、ゴオッと背中に焼けるような熱い気迫。慌てて振り返るとかなり遠くにいるはずなのに伝わる北上のオーラ。笑みを浮かべて挑発的な視線で鹿島を見つめていた。鹿島の中では北上は中の上くらいのランクづけだった。今はもう神通達と同じだ。いや、それ以上かもしれない。

 

「んじゃまあ本気でいきますかー」

 

「阿武隈、ご期待に応えます!」

 

北上に呼応して阿武隈も何か力が溢れ出てきていた。能力を隠していた…?こんなこと、ありえない…。

 

「せやから言うたやろ。ここは面白いとこやって。キキキ、いやぁ見てて楽しなってきたで。なあ鹿島?」

 

鹿島は考えを改めざるをえなかった。この鎮守府はとんでもない何かを持っていると。神通達だけじゃない。誰もが北上のような爆発力を持っている。

 

「おっしゃあ!摩耶、吹雪!今日の対空訓練いこか!覚悟できとるか!!」

 

「おう!!いつでも来いってんだ!!!」

 

「はい!私も気合十分です!!!」

 

摩耶と吹雪も大淀や北上の雰囲気にあてられたのかみなぎっていた。大淀は玉のような汗を垂らしながら、必死にスラロームをこなす。ブイに引っ掛けてやり直しと言われても嫌な顔一つせずに再び走り出す。ブルっと体が震える。この鎮守府の行く先が見たい。龍驤に言われたこと。思い返して後悔した。真の力を引き出してこその練習巡洋艦。それを怠ってきた鹿島はギリ…と歯を噛み締めた。

 

(いつまでもふざけていると足元をすくわれるわよ、鹿島)

 

(私はふざけてなんてないもん!)

 

(いずれ気づくわ。あなたが練習巡洋艦として半人前といつまでも呼ばれる理由が)

 

早くも気づいてしまった。深呼吸し、目を閉じて、息を吐く。そして目を開く。誰もが真剣に取り組んでいる。それに水を差していたのは私自身…か。鹿島は恥じた。失礼なことばかりをしてしまったと。

 

「満潮、大丈夫かい?」

 

「いい…まだ、まだやれる!…ありがと」

 

転んだ満潮に手を差し出してサポートする時雨。何も疑うことなく練習を繰り返す。一度練習メニューを考え直そう。これでは失礼すぎる。鹿島は考えを改め、全員を呼んだ。

 

……

 

「練習メニューの変更?どういうこと、鹿島」

 

「ごめんなさい、北上さん。私は私の判断で皆さんに優劣をつけていました。今一度考えを改め、皆さんをさらに高みへお連れするために練習メニューを変更します」

 

(ふーん。やっぱり正解だったみたい。ま、怒るのもめんどくさいけど。んー、でもやっぱムカつくなー)

 

「本当にごめんなさい。怒られても仕方がありません」

 

「まー何となくわかってたんだけどさ。ひどくない?あたしは別にどうでもいいけどさ。くちくが泣き言を一言も言わずに一生懸命やってる時に、あんた適当に見てたってわけっしょ?満潮見た?もう気力だけで立ち上がってるのほったらかして。大丈夫って聞かれたら満潮だって、みんなが休んでないのに自分だけ休むなんてできっこないっしょ」

 

「北上さん、私は…」

 

「いいよ。それでも。そのかわりそれがきっかけで轟沈者が出でもしてみな。あたしはあんたに四十発。魚雷ぶち込むよ。あたしは本気だからね。昔みたいに死なないため、仲間を沈ませない戦いなんてもうごめんだよ。あたしはみんなと勝つんだ。勝って勝って、玲司の胸に勲章がつけられないくらい勝ちまくって、みんなで一緒に喜んでいきたい。それに水差すなら大本営に帰んなよ」

 

北上の目が鋭く鹿島を射抜く。北上は本気だ。

 

「鹿島さん。鹿島さんのこの特訓で、北上さんが言ってることが本当だったとしても、私は海の走り方、だいぶうまくなった気がする。海を一回も走ったことないから、まだ転んだり、うまく走れないけど。でも、初日に比べて鹿島さんに教えてもらった重心の移動方法とか、力の加減とか、わかってきた!もっといろいろ教えて欲しいです。私もここの一員としてがんばりたいから!」

 

満潮が鹿島に訴えかける。その目は真剣で、一点の曇りもない。

 

「だそうだよ。んじゃあ大本営に帰っちゃったらそれこそギルティーだよね、鹿島。ま、あんたにはいろいろと教えてもらいたいかな。そんかわり、贔屓抜きでがっつり教えてもらうかんね」

 

「…はい、わかりました。鹿島、全力で参ります!では、これよりさらにビシビシまいりますっ!」

 

「えー!おい北上ぃ!」

 

「あー…やっちゃった?」

 

夕方にはみんながヨロヨロと歩くのもつらいほどのスパルタぶりになったと言う。

 

「ふぇえ…とっても眠いよぉ…」

 

「つ、疲れたぁ…お腹空いたなぁ」

 

それから数日は起きる。トレーニング。昼食はそれなりに食べる。トレーニング。そして風呂。その後は…。

 

「み、皆さんすごい食べっぷり…ですね」

 

「間宮さんおかわり!」

 

「文月もぉ〜!」

 

「あたしもだ!まだ腹ペコ!」

 

「は、はい!み、みんなちょっと待ってぇ!」

 

凄まじい食べっぷりに間宮も引くくらいだった。食事の後は誰が言うでもなく、トレーニングの反省点を各寮。駆逐艦寮では北上が付き添い反省と課題を語り合う。九時には電池が切れたかのように全員が眠りにつく。横須賀鎮守府は艦娘一丸となって変わりつつあった。

 

……

 

いつもクタクタになって帰ってくる響と電を内心心配に思う朝潮。21時になればすぐに寝てしまう。かなり厳しい鍛錬を行なっているようだ。響は気晴らしにどうだい、と聞くけど気晴らしにならないだろう。絶対に。

 

「ふう。今日からまた一段ときつくなったね」

 

「なのです。でも、みんなと一緒に少しずつ成長してると思うと嬉しいのです」

 

「そうだね。どうだい、朝潮。私は強くなってるよ。朝潮はいつまでここでボーッとしてるんだい?」

 

「む、それはどういう意味ですか?」

 

「ここにいるだけでは、私には勝てないよ。私に追いついてみせるんだろう?だったら朝潮も参加すべきだ。ついでに大潮もね」

 

「大潮をついで扱いしないでほしいなぁ…」

 

「くっ」

 

悔しそうにしていると響はふふん、と少し笑ったような気がした。いや、気がしたじゃない。完全にドヤ顔を決めて挑発している。響の挑発にいつも乗せられてしまう朝潮。

 

「何ですかその腹の立つ顔!わかりました!あなたを超えて見返してやると言いました!見てなさい。響さんくらい軽く超えて笑ってさしあげます!」

 

ビシィ!と響を指差して挑戦を受け取った。大潮はハラハラしながらそれ見ていた。

 

「大潮!大潮もやるわよ!こんなドヤ顔決められて逃げたとなれば朝潮型の恥!打倒響さん!一発必中で決めてみせます!」

 

「ええ!?大潮は関係ないと思うんだけど!?」

 

「ついでに電さんにも勝たせてもらいますからね!負けられないわ、大潮!」

 

「ついで…へえ、電についでで勝つつもりなのです?」

 

(あっ、これなんか姉さんやっちゃったんじゃ…)

 

電から黒いオーラが出ているのを大潮は見た気がする。何とか響に止めてもらおうと思ったが、響が…いない。

 

「あれえ!?響ちゃんがいない!?」

 

「電の本気を見るのです。朝潮ちゃん達には悪いです。でも売られたケンカは買うのです!」

 

「達!?大潮何も言ってません!!」

 

ああ、姉さんのせいで大潮も巻き添えなんだ…。だれかたすけて…。大潮は誰にでもなく、遠い目をして天井を見た。姉がまた乗せられて電を挑発しているのは、聞かなかったことにした。

 

翌日、何と部屋から出てきた朝潮と大潮をみんなが歓迎したが、大潮は遠い目をしていた。朝潮は響にかけっこの勝負を挑み、移動の基礎を学んでいないが故にスタートの合図と共に盛大に転び、響に華麗なドヤ顔をまた決められてベソをかきながら基礎を学んだと言う。大潮は終始遠い目でベソをかく朝潮の後ろを黙々と付いて回っていた。筋がいいですね!と鹿島に褒められた気がしたが、それよりもこの煽り耐性0の暴走姉さんと煽る自称朝潮姉さんの友達を何とかしてほしい…とは言えるはずもなかった。




ここにも新たに胃に穴が空きそうな子が爆誕…がんばれ大潮。負けるな大潮!(適当)
鹿島の言う通り、大潮は筋がよく、成長が早いし伸び代も満潮並にあります。そうして朝潮を引き離す理由は「朝潮姉さんを追い抜いて満潮や他の横須賀の駆逐艦のように平和に鍛錬したいから」です。しばらく大潮の受難は続きそうです。

それでは、また。
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