提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

69 / 259
鍛錬には朝潮達も(無理やり)参加し、練度をグングン上げていきます。

新たな参加者。鹿島も北上に言われて気を引き締めて鍛錬に臨みます。第八駆逐隊、集合!


第六十九話

「荒潮です。よろしくお願いしまぁす」

 

響や電に無理やり連れられて参加し、目を回して倒れている朝潮と大潮。息を切らして座り込む満潮の前に信じられないことに荒潮がやってきた。いや、この場合は連れて来られたような感じだった。そうだろう、荒潮の後ろでニコニコしている扶桑と、ものすごくバツが悪そうに唇を尖らせている荒潮。

 

「よくできました。荒潮ちゃん、偉いわねぇ」

 

「ちょっ」

 

偉い偉いと頭を撫でる扶桑と恥ずかしそうに嫌がっている荒潮。お母さんとちょっと反抗期な娘のような。そんな感じに見えた。

 

「鹿島さん。この子も、一緒に朝潮さん達と同じ練習をしてあげられないでしょうか?」

 

「えっ、ええと…そう、ですね…」

 

扶桑がニコニコした表情を崩さずに鹿島に尋ねる。鹿島はその笑顔に何か顔を引きつらせておろおろと対応する。まあ、朝潮や大潮も前日から参加したばかりだし、同じようなメニューのほうがいいだろう。まずは直線を走る練習から。

 

「は、はい。朝潮さん達と同じように、まずは直線を進む練習から慣れていってもらいますね。朝潮型の皆さんは初歩訓練から始めていきましょう。荒潮さん。少々厳しいですが、私と共に、皆さんに追いつけるように頑張りましょうねっ」

 

「はぁい。よろしくお願いしまぁす。とんだ展開よねぇ」

 

ボソッとそう漏らしたが、扶桑の顔がにゅっと荒潮の前に迫った。「わぁっ!」と荒潮が驚くが、扶桑は笑顔を崩さない。しかし「ゴゴゴゴ…」と妙な黒いオーラを感じた。

 

「いい?荒潮ちゃん。一生懸命に練習しなきゃ駄目よ?もしサボったら満潮が教えてくれるからね?」

 

「えっ、何それ意味わかんない!」

 

そういうと満潮に扶桑の黒い笑顔が迫る。こ、こわい…。

 

「満潮?荒潮ちゃんがサボりでもしたら、遠慮せずに教えてちょうだい?お説教が必要だから」

 

そんな風に笑いながら言われても怖いだけだ。扶桑は有無を言わせず満潮はコクコクと頷くしかない。お願いね?と言って離れ、荒潮に向き直す。

 

「もし、私が見かけたり、満潮が教えてくれた時は。その時はお尻ペンペンだからね?」

 

「は、は?」

 

「ちょっとぉ!?お説教はどこいったのよ!?あ、荒潮!私にそんな事扶桑に言わせないようにしてよ!?」

 

「は、はぁい…」

 

「じゃあ、頑張ってね?満潮も頑張ってね」

 

ぐぬぬ…と荒潮が唸っていたが観念したのか満潮に向けてよろしくねぇ、と笑顔を引きつらせながら挨拶をしてきた。朝潮と大潮も落ち着いて来たところで荒潮が参加していることに驚きを隠せないでいた。

 

「あ、荒潮、あなた…」

 

「朝潮姉さん達に置いていかれるなんてやぁよ。まあ、扶桑さんに連れて来られてよかったのかもねぇ…荒潮だって第八駆逐隊の一員よ?姉さん達が活躍してるのに、私だけ置いてけぼりなんて、満潮姉さんとの約束を破ることになった、なんて嫌だものぉ」

 

「満潮との約束…?」

 

「あら、ごめんなさい。満潮姉さんとの約束だから、ないしょ♪」

 

「えー、そんなぁ…」

 

大潮が教えてよと言いたげに荒潮に尋ねるが教えてあげなぁい♪と言われてしょんぼりしている。

 

「別に…沈まずに一緒にいようって言っただけよ。私の知ってる荒潮はここにいる荒潮。他の荒潮や朝潮姉さん、大潮姉さんじゃダメなのよ。お互いにそれを確かめただけ」

 

「んもぉ、満潮姉さんったら。そうよ。だ・か・ら…朝潮姉さんとぉ、大潮姉さんもぉ。沈んだら嫌だからね?」

 

朝潮と大潮はその時、響が言っていたことを思い出した。電が沈んだら次に来た電は無視する。それは響の知る電ではないから、と。知らぬ間に、妹達は妹達でその考えでいたのか。考えなしにいたのは自分だけか、と朝潮は恥じた。考えを改めて、私は私。今横須賀にいる朝潮は自分だけだ。ならば、その座はほかの朝潮には譲れない。今一度考えを改め、全力で精進するのみ!

 

「そうね。横須賀の第八駆逐隊は私たちだけよ。しっかり鍛錬を積んで、横須賀の皆さんの邪魔にならないように、お役に立てるようになっていきましょう」

 

「朝潮姉さん。そうですね!大潮も何かいろいろあったけど、アゲアゲでいきますよー!」

 

「うん!鹿島さん!よろしくお願いします!第八駆逐隊!鍛錬に励みます!」

 

「あらぁ、朝潮姉さん、気合い十分ねぇ。荒潮も行くわよぉ〜!」

 

こうして宿毛湾の時からいざこざや研究所での話などからバラけていた朝潮達「第八駆逐隊」。気合いを入れ直し、横須賀の一員としてやっていくために再度団結。横須賀の一員、と朝潮がいい、大潮も荒潮も乗ってくれたことが満潮には嬉しかった。これで心置きなく頑張れる。心の中でよし!と気合いを入れ直した。

 

が…

 

「朝潮、手が下がって来てるよ。もう降参かい?」

 

「まだ!まだ負けてはいません!大潮!満潮!荒潮!第八駆逐隊は響さんに負けるわけにはいかないわ!続いて!」

 

「ちょ、ちょっと!ペースを考えてよ!荒潮は今日参加したてなのよ!?」

 

「はぁ!はぁ!うふふふ…ちょっと、やばいわねぇ…」

 

荒潮が遅れだした。無理もない。と言うか大潮が遠い目をして満潮の横を走っている。ああ、そういえば昨日もこんな感じだったな…。どうにも朝潮は響が関わると我を忘れる。必死に響に追いつこうとするが、まず体力がないだろうに。響も涼しい顔をしているが汗をかいている。実は相当無理をしているようだ。

 

「ちょっと、響!あんたも無理してるんでしょ!変なことしないでよ!」

 

「そうは言ってもね。朝潮が速度をゆるめないと私が負けてしまう」

 

「勝ち負けは関係ないでしょ!ぜっぜっ…や、やば…」

 

「朝潮さん!響さん!何をふざけているのですか!罰としてランニング20周追加です!荒潮さんは休憩!後は連帯責任!!終わるまで休憩なしです!!」

 

「はあ!?何で私まで!?」

 

大潮、満潮はなぜか巻き添えを食らった。満潮は猛然と抗議したが聞き入れてもらえず、大潮は遠い目をしながら自分のペースを守り、20周を走り抜いた。

 

「響ちゃん、あまりふざけてると体がもたないのです…」

 

「そう…だね…」

 

「はぁ!はぁ!も、むり!」

 

響は大の字に。朝潮はうつ伏せになってピクピクしていた。満潮は時雨に起こしてもらって夢中でドリンクを飲ませてもらっている。

 

「大潮ちゃ〜ん。大丈夫〜?」

「な、何だか真っ白になって燃え尽きてるような感じなんだけど…」

 

大潮は真っ白に燃え尽きていた。アゲアゲで行こうと言っていたのに姉に巻き込まれてこれである。

 

「次はふざけていた場合、50周にしますからね!競争がしたいなら演習終了後に各自でやるようにしてください!!」

 

鹿島には怒られ、余分に体力を消耗させられ、何で私がこんな目に…。満潮は早くもこの第八駆逐隊、解散して個々でやったほうが…と大潮のように遠い目を始めるのであった。

 

「ふふ、うふふふふ…あはははは!」

 

荒潮が突然笑い出す。何を突然笑いだしたのか…ハードすぎて壊れたのだろうか…。

 

「うふふふ!水上を走るのって、こんなに楽しいことだったのねぇ…あとで扶桑さんにありがとって言わなきゃねぇ」

 

荒潮はこの状況を楽しんでいた。満潮も初めはワクワクした。艦娘の本能だろうか。こんな狭いところを走るだけじゃない。大きな海を。大海原を自由に駆けてみたい。そう思うほどだった。荒潮も同じ思いか。自分たちは走ることもままならないひよっこだ。その辺りは弁えている。

 

「そのため、そのためにも…もっとうまく走れるようにならなきゃね。まっすぐでさえ、フラフラして走れないんだから。わかった?朝潮姉さん?」

 

「は、はひ…すびばせん…でした…」

 

「大潮姉さん、いこ。ご飯食べよ。食堂行くわよ!」

 

「満潮。もっと平和に鍛錬できないかなぁ?」

 

「朝潮姉さんに言ってよ…」

 

第八駆逐隊の初日は散々な一日であった。夕飯の際、三人の妹に突っつかれ、小さくなって姉の威厳がなくなった朝潮と、電の前で正座させられる響がいたとか。

 

………

 

「はっはっは!そうかそうか!朝潮と響がねえ。コンビを組ませたら面白いかもなぁ」

「笑い事ではありません!一つ間違えばみんな転んで大怪我をするところだったんですよ!?」

 

「ライバルがいるってのはいいことだよ。ただまあ、あまりそれで熱が入りすぎると危ないからな。鹿島のやり方で止めてくれ。明日からはやめるだろうけどな」

 

クックッと笑いながら玲司は鹿島に言う。同時に鹿島も誰かに何か言われたのか、真剣に考えて取り組んでくれているようで何よりだな、と安心した。

 

「ま、厳しすぎにならないように頼むよ。さ、鹿島も夕食に行っていいよ」

 

「提督さんは行かれないのですか?」

 

「朝潮や荒潮が緊張するだろうなーと思って。カレー作っておいたからさ。食べてきな」

 

「は、はい。わかりました」

 

鹿島が失礼しますと退室したのと入れ替わりで、翔鶴がやってきた。お盆に二人分のカレーを載せて。

 

「間宮さんが、玲司さんに、と。食堂には行かれないんですよね?朝潮さん達がいるから…」

 

「おう。俺がいると緊張して、飯もまずくなるだろうからな。後で行こうと思ってたんだけど、いや、腹が減ってたからラッキーだな」

 

「もう…夕立さんや皐月さん達が寂しがってましたよ。司令官がいなくて寂しいなって」

 

「うーん、次の休みにルーチェでも連れて行ってあげるか…」

 

「そうしてください。では、いただきます」

 

「ん、いただきます」

 

二人で静かに食べる食事。翔鶴はこの時間を心地よく思っていた。好きな人との二人っきりの食事。騒がしくみんなで食べるのも悪くはないが、特別な時間を過ごしているようで嬉しかった。

 

「ん。妙高に肉をフランベしたらいいと言われてやってみたけどうまいな。いい感じだ。龍驤姉ちゃんが隠してたブランデー、使っちまったけど」

 

「そうなんですね。お肉が入ってない…駆逐艦の子達に肉を回そうとしたから…」

 

「ありゃ、そうなのか。んじゃ、翔鶴。あーん」

 

「えっ!?えっ!?い、いいです!せっかくの玲司さんのですから…!」

 

「いいって。せっかくだから食べな。間宮が多めに入れてくれてるから。あーん」

 

お皿に入れてくれればいいのに…と思ったが、せっかくやってくれてるわけだし、やってほしかったと思ってたこともあり、口を開けて肉を入れてもらう。

 

「おいしいですね!風味がいつもと違います!」

 

「だろ?ほい、もう一個あーん」

 

「あ、あーん…うふふ、玲司さんにしてもらうとよりおいしく感じられます」

 

「そっか。そりゃよかった」

 

「ですから、玲司さんも、あーん」

 

玲司の皿から肉を掬い、玲司食べさせる。うまい!と言って笑っていた。二人の穏やかな食事。甘い一時に玲司も疲れが取れて行った。

 

 

翔鶴が片付けのために出て行ってしばらく。翔鶴との楽しい食事も終わってお茶を飲んで一服していた時だ。また来訪者が執務室にやってきた。その来訪者と言うのが。

 

「妙高と…霞?」

 

「執務室の灯りがついていたのでここにおられると思い。お仕事はよろしいですか?」

 

「ああ。めし…ご飯を食べた後で一息ついてたとこだよ。どうしたんだ?霞まで連れて」

 

霞は妙高に抱かれ、親指を咥えたまま玲司を見つめていた。以前のような恐怖に怯える表情ではなく、何をするわけでもなく、ただ見つめていた。

 

「何でも、霞さんが提督に謝りたいことがある、と…」

 

「俺に?」

 

「はい。詳しくは霞さんに…」

 

抱いていた霞を下ろすと、とてとてと玲司に歩み寄って、目の前で頭を下げた。

 

「しれーかん。ごめんなさい」

 

「???どうしたんだ、霞?何がごめんなさいなんだ?」

 

「あのね。かすみね。しれーかんにいっぱい、くずっていっちゃったし…それにこのあいだね、がぶってしちゃってけが…」

 

「クズ?そんなことは霞は言ってないだろう?」

 

「いっぱいいったもん!くずって!」

 

話がてんでわからない。確かに昔は言われた。新米の頃は霞の方が書類もできて、出撃の練度もあって、さっきの指揮は何だ!艦娘を沈めるつもりか、このクズ!書類が遅い!終わらないのよ、クズがグズグズしてるから!と。

それでよくケンカになったものだ。カチンときて二人で怒鳴り合いのケンカになったものだ。懐かしい。しかし、なぜ霞は自分に対しては一度も言ったことがない。言えないことだろうに、クズと言ったと言い張るのか?

 

「霞。どこでどう俺…ああいや、司令官にクズって言ったんだ?」

「ゆめのなか…ごめんなさい、しれーかん。かすみ…かすみ、わるいこ…いけないこ…」

 

半べそになり、ひくひくとしゃくりあげながら玲司に何度もごめんなさいと言う。

 

「それにね。かすみ、しれーかんのおてて、がぶって。いっぱい、いっぱいちがでてて…しれーかんにひどいこと…ごめんなさい…」

 

話はよくわからないがとりあえず夢の中で自分に対してクズと言っていたことがあり。それもここの所毎日のように、らしい。それは霞であって霞ではないのだが…とにかく悪いことと思い込んでしまっている。霞からすれば正直に言えば何をされるか、そっちのほうが怖いだろうに。

 

「霞。司令官は怒ってないよ。それよりも、この間は怖がらせてごめん。知らない人がいきなり頭を撫でようとしたら、怖いもんな」

 

「え、えと、んと…で、でもかすみ、がぶって…あかいの…いっぱい…かすみ、かすみ、ごめんなさい。いっぱい、いっぱいごめんなさい!んと、かすみ、わるいこだから…おしおき…です、よね…」

 

自分からブラウスのボタンを外して脱ごうとするものだから慌てて妙高に止めさせた。何て悪い子だ。お仕置きが必要だ、自分で脱いでお仕置きをされる準備をしろ。このようなことを毎回言われていたらしい。なるほど、霞の尊厳をいとも簡単に剥奪させる最低の事を霞に吹き込んでいた。暴力を振るう事で恐怖を植え付け、言葉の暴力でさらに霞の心に亀裂を与え、そしてお仕置きと称して服を脱がせて尊厳を剥奪する。そうして出来上がったのが目の前の霞である。

 

「んやぁ!かすみ、かすみはにんげんさまにわるいことしたの!わるいことしたらぬぐのぉ!!」

「霞ちゃん、落ち着いて!司令官はそんなことを言ってはいないわ!」

 

「霞、脱ぐのをやめるんだ。霞は悪くない」

「ひぐっ、でもかしゅみ…」

 

「司令官が怖がらせてしまったからね。ごめんなぁ」

「どして…しれーかんが…ごめんなさいって…かしゅみが…」

 

「ほら、もう痛くないし、赤いのも出てないだろ?怖がっている霞をもっと怖くさせちゃった司令官が悪いんだよ。霞は、悪い子じゃない。ちゃんとごめんなさいができるいい子だ。霞はいい子だよ」

 

「あのね。やまとおねえちゃやあられちゃもね、かすみをいいこっていうの。みょうこうおねえちゃもみちしおおねえちゃもいうの。しれーかん。かすみはほんとに、いいこ、ですか?」

 

壊れた心でありながらいろいろと考えているのだろう。霞自身は自分はとにかく全てが悪い子であると植え付けられてしまっている。そして霞がそう強く思い込んでしまっている。大和や霰が優しさをたくさん与えているからだろう。もちろん満潮や妙高も。だから、霞には今まで散々悪い子であるという事を植え付けられた分以上に、いい子であるという認識を植え付けていかなければ…。もちろん、適当に言うだけではダメだ。その境界線が難しい。妙高を中心にその辺を話していったほうがいい。今の霞はたくさんの優しさや温もりを欲している。難しいことは考えていられない。

 

(遠くにある難しいことを一生懸命考えたって解決しないのよ。目の前にある簡単なものも片付けようとしないで遠くばっかり見てるから解決しない!そんな単純なこともわかんないの!?だからあんたはクズなのよ!シャキッとしなさい!)

 

そうだな。そうやって霞や荒潮たちのことを難しく考えすぎてまた逃げていただけだな。もしかして、霞は…。いや、それよりも。

 

「霞。霞がクズって司令官のことを言ったのは、霞であって霞じゃない。あー、うーんと。と、とにかく霞が悪いわけじゃないんだよ」

「じゃ、じゃあがぶってしたのはかすみだよ…?」

 

「うん。確かにがぶってされた。でも、霞は司令官が怖かったんだよな?知らない男の人が霞に手を伸ばしてきたら、怖いよな?」

「こあい…でも、でも!いまのしれーかんはこわくないよ!しれーかんも、かすみのこと。いいこっていってくれるもん」

 

「そっか。霞を怖くさせちゃってごめんなさい。霞は司令官をがぶってしちゃってごめんなさい。これで司令官も霞もごめんなさいしたな?だから、もういいんだよ。司令官は怒ってない」

 

「しれーかん。ほんと?おこってない…です、か?かすみは、わるいこ、ですか?」

「怒ってないよ。かすみはちゃーんとごめんなさいできるいい子だね。お姉ちゃんもいい子って言ってるなら、霞はお利口さんでいい子だよ」

 

パァッと霞の顔が強張った表情から笑顔になった。しれーかん!と霞が飛び込んできた。頭をぐりぐり胸に押し付けてくる。もう恐怖心はなくなったらしい。一体どうしてここまで恐怖心が取り除かれたのかは玲司にはわからない。わからないけれど、今は頭を撫でてあげてご機嫌な霞を相手にすることにした。

 

(ほんっとにいつまでも世話がかかるんだから、このク…なんでもない)

 

玲司は気付いていなかったが、妙高はそんな声と僅かな光が玲司の背中から離れていくところを見た。目をこすって玲司を見直しても、もう光はない。妙高は提督はたくさんの何かに守られている。そんな気がした。

 

「かすみはいいこ?」

「霞はいい子!」

 

「うん!かすみ、もっといいこになる!」

「よーしいいぞー!もっといい子になーれ!」

 

キャハハハ!と無邪気に笑う霞を見て妙高も自然と笑みがこぼれた。大和や霰にも、自分でさえ、まだまだ顔色を伺っていた子だったのに。そう思っていると「みょうこうおねえちゃ!」と笑顔で抱きついてくる霞。玲司に今やっていたように頭をグリグリ押し付けてくる。優しく撫でるとえへへ♪と嬉しそうに笑った。

 

「おねえちゃ、しれーかん、かすみのこといいこって!あたまなでなでうれしい♪」

「ふふ、よかったですね」

 

「うん!」

 

「提督…ありがとうございます」

「俺は見ての通り何もしてないよ。霞の見た夢に感謝かな。ちょっと安心した」

 

「はい。可能であれば、少しずつ横須賀の皆さんとも仲良くできるようにしていきたいと思います。霞ちゃん、お友達はほしいですか?」

 

「おともだち?ほしい。でも、ちょっとこあい…かすみのこと…うーん。やまとおねえちゃとあられちゃ、みんなおともだちって…かすみも、おともだち、なれるかなぁ?」

「一度会ってみましょうか。明日。きっと怖くないと思いますよ」

 

「うん…みょうこうおねえちゃ、いるし。しれーかんも、いる?」

「ああ、いるよ。みんな優しくしてくれるよ」

 

「うん。かすみ、いく。おともだち、いっぱい、ほしい」

「ん、わかった。じゃあみんなでご飯食べような」

 

うん!と大きく頷いて妙高にだっこされて部屋へ戻って行った。おやすみなさーいと手を振って。

 

よくはわからないがとりあえず霞に関しては大丈夫、なのだろうか?フラッシュバックが怖いが…いや、大丈夫だろう。たぶん…。ふう…と椅子に深く腰掛ける。今は亡きかつての霞を思い出す。

 

(お前にめっちゃくちゃに怒られたこと、役に立ったよ。艦娘のことから逃げんな、だったな。あんがと)

 

このクズ!!と返ってくるような気がしたが、当然、返ってくるはずもなかった。

 

 

翌朝、食堂に姿を見せた妙高と霞。霞はさっそく歓迎されていた。

 

「ふみ、つきちゃ?さつきちゃ。んと、んっと。もがみおねえちゃと…まやおねえちゃ…」

 

「んふっ、お姉ちゃんかぁ。ボクそう言われると嬉しいなぁ。ねえ摩耶。摩耶?」

「か、かわいい!なんだよこの子!めちゃくちゃかわいいじゃんかよぉ!も、もう一回!もう一回摩耶お姉ちゃんって言ってみて!」

 

「ふぇ?んと、ま、まよおねえちゃ」

「ま、まよぉ?摩耶だよ。ま、や!今摩耶って言えてただろ?」

 

「ま、ま…まよおねえちゃ!」

「ぷっ…マヨネーズみたいだね」

 

「ああ!?もっかい言ってみろ最上!」

 

摩耶はかわいいとめちゃくちゃメロメロになっていたが、まよと覚えられてしまい、以後霞にはまよと呼ばれるようになる。霞はみんなに大事にされ、笑顔溢れる横須賀のマスコットのような存在になった。

 

「みょうこうおねえちゃ、まよおねえちゃがこわい…」

「えっえっ、こ、怖くない!怖くないよぉ〜」

 

「ま、摩耶さん…」

 

「摩耶。怖がらせちゃダメよ」

「べ、べつにあたしは怖がらせてるんじゃ…」

 

摩耶もさすがに霞には強く言えず、しょんぼり。哀れみの目で見られたり笑われたりされたが、摩耶自身はまあいいかと適当で、一番甘やかしては妙高や大和に怒られるのであった。

 

「霞、よかったわ。みんなに大事にされるようになればいいわね」

「そうねぇ。もちろん、満潮姉さんも大事にするのよねぇ?」

 

「当たり前でしょ。私たちの妹なんだから。そのためにも…」

「そうね〜。頑張らなきゃね〜」

 

「今日こそ…今日こそは平和に練習したいなぁ…」

 

「くっ、練習が終わったら勝負です、響さん!!」

「いいだろう。その勝負、買おう」

 

「言いましたね!?大潮、聞いたわね!やるわよ!!」

「朝潮姉さん!大潮姉さんを巻き込まないの!!!」

 

「み、満潮〜〜」

「うわっ、大潮姉さん!何よ!はな、離れなさい!!きたな!鼻水!!!」

 

「何やってんだお前ら。朝飯だぞー」

 

騒がしい鎮守府の朝。ようやく横須賀の艦娘が全員でいただきますと食堂に揃ったのだった。

 




イベントが近いのにサラトガチャレンジする男、ゆずれもんです

第八駆逐隊はかわいいですよね。ここの鎮守府の大潮はアゲアゲではありませんが(目そらし
ま、まあ満潮がいるし何とかなると思います、たぶん
ショートランド時代の玲司と霞は隙あらば口喧嘩をしていました。そして霧島にどやされて元の鞘に戻りますが、また霞の怒ゲージが溜まるとケンカ、の繰り返し。仲が悪いわけではないのですが。信頼し合っていたからこそ、最後はケンカではなくただの霞のかまってちゃんでした。クズといえば反応するから構ってもらえると言うちょっとよくないかまってちゃんですね…。

さて、前進むと決めたからには艦娘も増やさねばなりません。次回はその辺りを書き足していきたいと思います。それでは、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。