提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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横須賀に玲司が来て最初の春です。春と言えば出会いの季節。新たな艦娘が加わり、頑張っていきたいところ。さて、建造の結果はいかに?


第七十一話

お墓参りを終えて立ち上がると一陣の風が。ザァッと揺れる枝垂れ桜の木。北上が上を見上げると、ぷっくりとピンク色に膨らんだ桜の蕾。去年もこっそりお墓参りに来た時は蕾もまばらで本当に咲くのかどうかさえ怪しい感じだったが、今年は蕾がたくさんあり期待が持てそうである。

 

(…ここに眠ってるみんなが何か関係してる?まさかね…?)

 

そんなわけないか、とフッと笑ってもう一度しゃがんで手を合わせる。

 

(また来るね。大井っち。長門さん、加賀さん、みんな。新しい提督とあたし達を…見守ってね。あー、でもいっか。暇だし。ちょっとここで休憩するね)

 

玲司は大淀に呼び出され、慌てて工廠へ行ってしまい、翔鶴達も練習に戻った。一人することのない北上は、かつての相棒と離れるのを惜しむように桜の木の下で座ってくつろいでいた。

 

 

工廠に戻ってきた玲司と大淀。全ての建造が終わったと言う報せを受けた。妖精さん達はイキイキと目を輝かせて玲司達が戻るのを待っていたらしい。

 

「ていとくさん、おまちしておりました。さあ、さっそくおーぷんです」

「いいしごとができました。さあ、つぎのけんぞうを」

 

「いや、しねえから」

「…ちっ」

 

釣られるわけがない。不服そうな妖精さんは置いといて、一番炉。妖精さんがおいでませー!と言うと扉が開く。印象的な輝く左目。時々バチバチと閃光が見える。

 

「古鷹と言います。重巡洋艦のいいところ、たくさん知ってもらえると嬉しいです」

 

重巡洋艦古鷹だ。玲司の希望通り、重巡洋艦が来てくれた。これは嬉しいことだ。

 

「はじめまして、古鷹。ようこそ、横須賀鎮守府へ。重巡は欲しかったんだ。期待してるよ」

「わあ、本当ですか!嬉しいです!私、一生懸命頑張りますね!」

 

古鷹は嬉しそうに左目の輝きを増して喜んでいた。感情が昂ぶると輝きも変わるのか。なるほど、初めて知った。パリパリと閃光も増えた気がする。それよりも素直な性格がかわいらしい。いや、決してうちの鎮守府の重巡が個性的だな、とは思っていない、はず。

 

「では、つぎぃ!ひらけーごま!」

 

一回一回掛け声が変わるのか…。妖精さんのテンションがわからない。次に現れたのは古鷹より小柄。おどおど、キョロキョロと辺りを見回している。ピンク色の変わった顔をした連装砲を持つ。

 

「特型駆逐艦…綾波型の潮です…」

 

古鷹と打って変わってとても内気で気の弱い駆逐艦「潮」だ。すでに腰が引けていて、怯える必要もないはずだが…。

 

「お、潮か。初めまして、うし「ひゃあああああああ!!???」

 

し、しまった。潮はかつての潮もこんな感じだった!妖精さんは耳を塞いで目を回している。突然声をかけてしまって驚かせてしまった。

 

「あ、あう、ご、ごめんなさい!つい、びっくり…しちゃって…そのぉ…」

「あ、ああ。すまん、俺の方こそ急に声かけちゃって…えっと、ようこそ横須賀へ。えーっと…」

 

何を言おうか飛んでしまった。すっかり潮の悲鳴にやられてしまった。

 

「は、はい。あ、あの。もう下がってもよろしいでしょうか…」

「さ、下がるったってどこへ…ちょ、ちょっと待ってくれな」

 

え、ええ、下がれないんですかぁ…と涙目になっている潮におろおろしている提督の姿に古鷹は笑ってしまう。頼りなくも見えるが、艦娘を気遣える人なんだな、と思った。横では大淀がはぁ、と呆れたため息をついていたが。

 

「また提督ったら…」

「あ、あはは…優しい提督なんですね…」

 

「頼りない提督ですよ。ほんとにもう…」

「あははは…」

 

古鷹が苦笑いを浮かべている。でも、優しそうで、ちゃんと見てくれそうでよかった、と緊張は少し和らいだようだ。隣にいる大淀もまったく提督に対して緊張しているわけでもない。悪態をついて大丈夫なのかな…とは思ったが。

 

「さあさあ、つぎいってみよう!おーぷんせさみ」

 

ちょっと潮の悲鳴のダメージが残っているのかフラフラしながらも、テンションだけは高く三番炉の扉を妖精さんが開ける。三番炉も確か駆逐艦が出るような時間だった。さて、次は一体誰だろう。また悲鳴をあげられるような失態だけは避けたい…。

 

が、出てきたのは駆逐艦ではなかった。俗に言うスクール水着と言うものにセーラー服を来た子。ペタペタと裸足で出てきては、ピンと右手を上げてにこにこしている。

 

「こんにちは!伊58です!ごーやって呼んでもいいよ!苦くなんかないよぉ!」

 

「ご、ゴーヤちゃん!」

 

大淀が驚いていた。やってきた艦娘はまさかの潜水艦。誰に対しても警戒感がなく、分け隔てなく明るい子だ。ねえねえ、提督だよね!よろしくお願いするでち!と潮とは打って変わって自分から提督に近づいて仲良くしようと言う意思表示が見れる。

 

潜水艦と聞くと、だいたいどの鎮守府でも資材確保のために働かせることが多い。横須賀の場合は危険だが資材を多く稼げるポイントによく出撃させていた。結果として4人いた潜水艦は強力な対潜部隊にあれよと言う間に全滅させられ、補給にかなり影響が出てしまったが…。

 

「大淀ー!確か、近海に補給ポイントがあったよな?」

 

玲司が今後の伊58の活動を決めようとしているのか。近海の補給ポイントは敵もほぼおらず、簡単に行ける場所だが補給量は少ない。いや、無理もないか。ゴーヤ1人では安全を確保できる場所でなければ行けないだろう。

 

「はい。深海棲艦もさほどおらず、安全な航路の場所が何点かあります。そこにゴーヤさんを?」

「回数をこなせばバカにできねえだろ。まあ、午前と午後でちょこちょこ行ってもらえれば助かるかな。無理はさせられないし」

 

朝昼晩、寝ずに行け。そう言うわけではない。それでは前の提督と同じだ。寝不足で集中力も切れ、大破して帰ってくる。一週間死ぬ気で働け。と言うわけではない。きっちりシフトを組むらしい。

 

「ゴーヤ。潜水艦の仲間がいなくてごめんな。とりえあず、すぐ出ろってわけじゃないから。鹿島って潜水艦の面倒も見れるんかなぁ…」

 

「てーとく!ごーや、ずーっとオリョールに行けとかじゃないの?オリョクル…うっ、頭が…」

「建造したてでその言葉が出るなんざ思ってなかったぜ。夜は出撃させないし、睡眠時間は8時間以上。3食あり、休みも昼寝もありだよ。大規模な作戦参加中以外はな」

 

「やったぁ!ホワイトでち!ゴーヤはホワイトな鎮守府に着任したでちー!」

 

ぴょんぴょんと飛び跳ねているゴーヤ。しかし、ホワイト鎮守府やオリョールが建造されて間もない彼女にも染み込んでいるなんて…潜水艦の闇は深いのでは…?やめよう、考えてはいけない。

潜水艦も帰ってきた。帰ってきたと言う言い方もよくない気がするが、玲司にとっては横須賀では新しい艦種だ。潜水艦がいることで調査もやりやすくなるだろうし、運用の幅が増えることはありがたい。

 

「さあ、こんかいのめーんえべんと!よんばんろのかいほうだぁ!ひらけー!」

 

最後の四番炉。空母レシピで建造を依頼した扉が開かれる。はたして、どんな艦娘が現れるのか?ふわりと長い黒髪をたなびかせた少し小柄な艦娘。綺麗だ。同じ艦娘である大淀ですらそう思う。潮が隣で「わぁ、きれいな人…」と息を漏らすほど。小さな扶桑のようだった。

 

「軽空母『祥鳳』です。ちょっと小柄ですけど、ぜひ提督の機動部隊に加えてくださいね!」

 

「やったぞ大淀、空母だ!ゴーヤはちょっち驚いたけど、古鷹も来てくれたし予定通りうまくいったぞ!やったー!」

「やりましたね提督!!ばんざーい!」

 

なぜか祥鳳を見て提督と大淀と言う艦娘ががっちり握手をして喜んでいる。そ、そこまで喜ばれるなんて…。

 

「あ、あのぉ、私、軽空母ですよ?空母は空母でも…」

「そうだよ。空母は空母。立派な空母だ。なんせうちは今空母が2人しかいなくてな。祥鳳が来てくれたのは本当にありがたい」

 

「そ、そうですか。提督のご期待にお応えできるよう、頑張りますね!」

 

パァッと顔を綻ばせる祥鳳。ここは良いところのようだ。期待は大きい。潰されないように頑張ろう。大淀と言う艦娘が皆さんをご案内します、と言ったその時だった。

 

「ちょーっとまったぁ!」

 

妖精さんが入り口に集まり、玲司達の退室を妨げていた。玲司と大淀はまた嫌な予感がする…と身構える。そりゃそうだ。妨げるわ…ニヤリと大和を建造した時のような悪い顔をしているのだ。

 

「大型ならやらねえぞ」

 

そう言うと妖精さん達は一斉にズコーっと転んだ。図星だったらしい…。しかし、玲司にずっと着いてきていた妖精さんはそんなことで挫けるヤワなハートは持っていないのだ。

 

「たしかにおおがたけんぞうはやめましょう。ですが、いいですか、れいじさん。ごーやさん、せんすいかんがひとりだけ、というのはごーやさんがさみしいとおもいませんか?」

「え?ゴーヤは別にそんな…」

 

そんなことはないと言おうと思ったら何かすごい顔で睨んできた。その後ろでもたくさんの妖精さんがゴーヤを睨んでいる。その気迫はもはや殺気であり、牙を剥く狼のような…。

 

「さ、さみしい…でち。ゴーヤだけはさみしいでち…潜水艦のお友達がほしいなー」

「ゴーヤ…?」

 

「ほらみるのです。ごーやさんはさみしがっているのです。ですから、おともだちをけんぞうしましょう」

「おい、あのな…」

 

「おおがたけんぞうはきんしされましたが、けんぞうじたいはきんしされていないのですさあ、さあさあ!」

 

とんちかよ…と頭を抱えた。しかし、ゴーヤが寂しいと言って(言わされたことに気づいていない)いるのは確かに。事実、潜水艦1人では物資輸送も厳しい。ふーむ。と玲司は考えた。

 

「て、てーとく。ゴーヤは1人でも…」

「わかった。とりあえず今日はもう1回さっきのレシピで潜水艦を作ってみよう。ただし、潜水艦であれないであれ。今日はもう建造は終わりだ。いいな」

 

「いいでしょう。こうしょうせいりつです。では、いよんまるいちをめざし…」

「…炉の解体…」

 

「!?そ、それではせんすいかんれしぴいってみよー!」

 

 

レシピ 250/30/200/30

 

「よし、これでスタートだな。ゴーヤ、潜水艦が出ると信じて押してみるか?」

「うん、押してみたい!えい!」

 

ポチッと建造スタートのスイッチをゴーヤに押させた。さて、どうなることか…。

 

0:22:00

 

ゴーヤが出た時と同じ時間だ。もしかして、これは本当にあるかもしれないぞ…?わくわくとゴーヤは扉の前で待っている。本当に潜水艦の仲間が来てくれるなら嬉しいだろうな、と思う。

 

「ふーむ。れいじさん、あぶっちゃいますか?」

「うーん、そうだなぁ。やっちまうか。ちょっと中途半端だしな」

 

「きょかがでたぞー!あぶれー!!」

「ひゃあ!がまんできねえ!0だー!」

 

謎のテンション再び。バーナーを持った妖精さんが現れ、小さな穴にバーナーを突っ込む。ものすごい炎の音と共がし、ガスが切れるまでひゃっはー!!と言いながら炙る。うちの妖精さんは火を見ると危なくなるのか…。この先大丈夫だろうか…と心配になった。バーナーを持った妖精さんは去り、静寂に包まれる。

 

「できました。さあ、ごたいめーん!」

 

頭が痛くなってくる。しかしまあ、大型建造をやられるよりは負担は少ないはずだ…。建造ができて無駄にテンションが高い妖精さんは放っておいて、誰が来てくれるのか…。

現れたのはこれまたスクール水着上にセーラー服の女の子。脇に浮き輪を抱え、手には何か端末らしきものを持っている。赤い髪をした潜水艦のようだ。

 

「イムヤか。ゴーヤのおかげかな?潜水艦が来てくれたなぁ」

「な、何よ、私じゃ不満だって言うの?」

 

「あ、ああ、いや、そう言うわけじゃないんだ」

「ふんだ。どうせイムヤなんて弱い潜水艦って思ってて、ハチやイクのほうがよかったって思ってるんでしょ?」

 

「違うって。ほんと。な、ほんとに来てくれて嬉しいって思ってるからそう機嫌悪くしないでくれよ」

「ふんだ!」

 

そっぽを向かれて何とか機嫌を直してもらおうと必死にペコペコしている玲司が何だかおかしくて、古鷹や祥鳳は笑ってしまった。大淀は頭を抱えて呆れていた。時々摩耶や鳥海、五十鈴などにもうっかり失言を言ってしまい、機嫌を損ねてはああしてぺこぺこと平謝りしている。ああして間違いや失言を素直に謝るところはいいと思う。

 

「うふふふ。優しそうな提督ですね」

「ひどい人ならどうしようと思いましたけど、大丈夫そうですね」

 

古鷹も祥鳳も安心できたらしい。潮もおどおどとはしていたが、怖い、ひどいことをしそうにない人のようだったのでほっとしていた。ゴーヤはイムヤに抱きついて歓迎していて、それのおかげか、イムヤも機嫌は少しよくなったようだ。ただ、あまりにべったりくっつくものだからものすごい勢いで引き剥がそうとするイムヤとがっちり離さないゴーヤの攻防が見れた。

 

「はあ…もういいわ。改めて伊168よ。さっきみたいにイムヤって呼んでくれたほうがいいわ。潜るとちゃんとすごいんだから!空母だって仕留めちゃうんだからね!もうっ!」

 

「だ、だからそういう意味で言ったんじゃないんだってば…信じてくれよー…」

「ふふ、まあそう言うことにしといてあげるわ。ま、輸送でもなんでもやってあげるわよ」

 

笑うイムヤに困った顔をする玲司。ちょっと問題は起きたが、難なく挨拶は済んだ。

 

「おーい、提督〜。園芸の人ってのが来てるよ。なになに?何するの?って、ああ!古鷹!」

 

慌ただしく最上がやってきた。園芸…ああ、そうか。そう言えば頼んでいたんだった。

 

「やあ古鷹、いらっしゃい。ボクは最上だよ。えーっとそっちの子は潮、イムヤ、ゴーヤか。みんなもいらっしゃーい。おお?なんかすごい美人さんがいるぞ?」

「え、わ、私ですか!?え、あの…その…」

 

「あはは!かわいい人だね!弓を持ってるから空母さんかな?いやぁ、そっかー。気をつけてね。口うるさい先輩がいるけど、頑張ってね」

「あ、は、はい。軽空母祥鳳と申します…えっと、よろしくお願いします…」

 

ゆるゆるした性格の最上。フレンドリーで誰とでもすぐ打ち解ける。ニコニコと祥鳳の手を取って握手している。イムヤやゴーヤにも。ひゃっと緊張していたが、潮も艦娘だとわかれば警戒はやや緩いようだ。

 

「うーん、新しい子がどんどん増えるねー。賑やかになっていいことだよ。へへっ。あ、提督、急がなきゃ」

「おーう。じゃあ、最上、この子達を連れて中庭の外れの桜の木のとこに集合しておいてくれ。みんなにもそう伝えて。来たい子だけでいいからって。大淀、ついてきてくれ」

 

「はい。わかりました」

「ん、わかったよ。じゃあ、後でねー。さ、行こっか。広いからはぐれると迷っちゃうよ。しっかりついてきてね」

 

最上に連れられ、みんながついていく。ご飯がおいしいこと。布団が気持ちいいこと。もうすぐ露天風呂ができるのが楽しみなこと。たくさんの横須賀のいいことを紹介する最上。イムヤやゴーヤは目を輝かせているし、潮もお風呂については楽しみらしい。特に、バラの花を入れてみたり、ミルクの香りのする入浴剤を入れたりして楽しめるのが気になるようだ。出撃やなんかは大変だけど、帰ってきてからのお楽しみはいっぱいだよ。と最上が楽しそうに言う。

 

「まあ、鍛錬はきついし、出撃とかもこれから増えるけど、ちゃーんと死なない作戦をうちのえーと何だっけ?とにかく司令塔が立ててくれるから。とりあえずは一緒に走り込みを頑張ろうね」

 

最上の鎮守府紹介は結構有効だったようで、楽しみがたくさんで、悪いところでなくてよかった、と声があがった。

 

 

中庭に集められた横須賀の艦娘達。中庭の外れの桜が見える所に全員が集合。午前の提督のスピーチの後だったので、また何かするのか、楽しみだった。

待つこと数分、見知らぬトラックが一台入ってきたので思わず身構えたが、助手席から降りてきた玲司を見て警戒を解く。荷台には何かの木らしいものが載っている。

 

「お、全員集合か」

「提督?こんな所に呼び出して何をする気?」

 

「五十鈴、それを今から説明するな。あー、きたきた。おーい、最上ー」

 

最上が手を振ってやってきた。後ろには5人の新しい顔ぶれ。

 

「やー、ごめんごめん。いろいろ紹介してたらちょっと遅くなったね。新しい艦娘がお目見えだよー」

 

じゃーんと最上が言うと5人がぺこりとおじぎをし、釣られてみんなもお辞儀する。

 

「ふ、古鷹!ひさしぶ…たったった、重巡が増えたのか!やったぜ!」

 

慌てて久しぶりの言葉を飲み込む摩耶。かつての何かに怯えた雰囲気は微塵もない。穏やかな笑みを浮かべているかつての旧友に会えたことは、素直に嬉しかった。鳥海もどこか帰ってきたことに安堵しているような、そんな顔。潜水艦のゴーヤとイムヤが仲良さそうにしているところを見て。そして電や時雨達と早くも打ち解けている潮を見てフッと笑う北上。駆逐艦や潜水艦の最期の悲痛な叫びはまだ頭の中からは消えてくれない。それも、あの子達の笑顔を見れば薄れる。雪風とともにうん、と頷いた。2人は時々目と目だけで意思疎通ができる。そこに最近では名取も加わり、無言の意思疎通。きっと今度はうまくいくと言う頷き。

 

そうこうしているうちにトラックは去り、残るは沢山のシャベルと一本の小さな木。コホンと玲司が咳き込み、喋り出す。

 

「あー、まずは集まってくれてありがとう。で、今からやることなんだけど、この木。この木をここに植えたいんだ。これは桜だ。桜の木だ。あそこにデーンとある桜とは違ってほら、俺の身長よりちょっとだけ高いかな。こんな小さな桜だ」

 

桜。錨に桜とあるように、自分たちとしても馴染み深い桜だ。これをまたどうすると言うのか、相変わらず読めない。玲司はみんなの顔に?が浮かんでいるだろうなと思いながら笑って説明を続ける。

 

「小さな桜。これは、横須賀鎮守府の今の俺たち、と思ってくれればいい。今は小さくても少しずつこの桜みたいに大きくなって、いつかはこの桜も、ドーンとあの桜みたいに大きくなってほしい。まあ、何て言うか、この桜と一緒に横須賀のみんなも大きく育ってほしいなって、そう思ってこの桜を植えようかなって」

 

桜と同時に横須賀の艦娘も大きく育って欲しい。そして、朝言ったように誰もが一目置かれるような艦娘になってほしい。玲司の願いだった。

 

「んで、来年、再来年とさ。この桜が大きくなったかどうか、みんなで確かめたいんだ。ここにいるみんな全員で!大きくなったな、じゃあ自分たちはどうだって。この横須賀に、横須賀の誰々だって根付いてもらう意味も込めて。もちろん、俺もな。異動する気ねえし。みんなを置いてはいけねえしな。ってことで、来年、この桜が花を咲かせるかどうか、一緒に見たいんだ」

 

ーーー来年、みんな一緒に。

 

その願いを叶えたい。来年もまたみんなで一緒に楽しく過ごせるように。

 

「提督、お任せください!この大和、来年も皆さんと。新しく増えたお仲間と、一緒に頑張っていきますね!」

「桜の花、楽しみなのですー!」

 

「来年には、ぐーんと!ぐーんと大きくなってるかな!ボク今から楽しみだよ!」

 

来年。それが横須賀の皆にとってはもう未知の世界だ。明日さえ真っ暗だった彼女達にしてみれば、来年など本当にわからない。けど、楽しみだ。来年の今頃はどうなっていて、どんな艦娘が増えていて、横須賀鎮守府は。自分たちはどうなっているのか。不安は多い。

 

(誰か一人でも欠けたらこの鎮守府は終わりだ)

 

その覚悟で臨んでいる今の提督ならば、きっと闇ではなく、光溢れる未来が待っているのかもしれない。大淀も、北上も、雪風も。本来ならば闇に呑まれていたかもしれない時雨や村雨も。この提督ならば。きっと未来は光があると。見たい。見てみたい。一年後の自分たちを。一年前とは大きく変わった。きっと一年後はもっと変わっているかもしれない。そう信じて。

 

「よーしいくぞー。せーの!」

 

ザクッと玲司の掛け声とともに、大和、瑞鶴、雪風、最上、北上、名取が地面に穴を掘る。玲司と大和はそのままで、交代でその後は少しずつ穴を掘り、桜の木を植えられるほどの穴を掘ってはまた少しずつ交代で土を戻していく。植えてしまうとまた一段と小さい桜。なぜかみんなで手を合わせて拝んでみたり。雪風がじっと見上げる。一緒に頑張っていきましょう!と誓いを胸に。

 

いつしかこの桜の木は「絆の桜」と呼ばれ、横須賀鎮守府の艦娘達にずっと親しまれたと言う。遠い未来、大きくなった「絆の桜」を見上げる白髪の混じった頭をした男の姿は、誰なのだろうか。それは遠い未来の話。

 

 

その日の夕方、突如大本営への呼び出しがかかった。目的は北方海域の奪還。そこに横須賀鎮守府も参加要請が舞い込んだからだ。玲司はここで、将来に渡ってかけがえのない戦友でありライバルを得ることになる。




さて、いよいよ北方海域の攻略が始まります。今回は横須賀だけではなく、合同での攻略となります。今回の攻略はかつて一度演習をした一宮提督ともう一人、新たに玲司と一宮君と合同での参加になる新たな提督が登場します。
一言で言えば「強烈」な提督です。

イベントが始まりますね。攻略に新艦娘全員をお迎えできるまで頑張ります。

それでは、また。
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