提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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いろいろと強烈な提督、九重提督が登場し、玲司も人との付き合いが大事になっていきます。個性的な提督とのお付き合いに、大淀は口から魂が出て行きそうですが…(笑)


第七十三話

オッホッホと笑う九重提督と、隣を見ると真っ白になっている大淀。ここまで強烈な提督だとは思っていなかったので玲司は苦笑いである。大淀は帰ってこない。

 

「提督、ほかの奴が引いてんじゃねえか。ただでさえオカマってだけで引かれるんだから、もうちょっと大人しくしろよ」

「誰がオカマよ!アタシはオネエなのよ、オネエ!見た目は男!心は乙女なだけよ!」

 

「それがタチ悪いつってんだろうが!乙女でいたいんだったら見た目も女になっちまえよ!」

「あら、嫌だ。アタシが女になっても天龍ちゃん、アタシとお付き合いしてくれる?」

 

「はあ!?そ、そりゃあ、そのぉ…やっぱ今のままがいい…と、思う…けど」

「ほら見なさい。そもそもがあたしがオネエで乙女でなければ、天龍ちゃん、アンタが好きなフリフリのゴシックドレスとか作ってあげられないのよぉ?」

 

その言葉に天龍が顔を真っ赤にしてわたわたしている。天龍と言えば普段から一人称は「オレ」だし、行動も男らしい。眼帯をつけたイケメン艦娘として木曾と並んで女性から人気の高い艦娘である。大本営の女性事務職員の間では天龍と木曾、お付き合いするならどっち?と言う話をよくしていたような気がする。…攻められるなら木曾。食べちゃうなら天龍、というよくわからないお話に花を咲かせていたが。

で、九重提督の天龍はちょっと乙女チックなんだろうか。自分の所にいた天龍は女性っぽい服は嫌いと言っていたが。

 

「あんなヒラヒラしたもん着てられっか!オレは制服でなけりゃズボンでいいよ!ズボンで!」

「えー、那珂ちゃんと一緒にアイドルしようよー。ほら、かわいいでしょ?天龍ちゃんなら人気間違いなしだよ!」

 

「うるせー!」

 

事あるごとにフリフリの服を着せようとする那珂に付きまとわれていたな。ショートランドの時の那珂と相性いいんじゃないか、ここの天龍は。

 

「な、なんでこの場でそれを言うんだよ!?」

「えー?そりゃアタシの天龍ちゃんがいかにかわいいかをみんなに聞いてもらおうと思って」

 

「か、かわ!?お、オレはかっこいいほうがいいんだっての!!」

「そーおー?その割には『てーとくー。これ着るならやっぱりヘッドドレスももちろん作ってくれるんだよな!』ってノリノリで鼻息ふんふんしながら言ってきたじゃない」

 

「だああああ!?やめろおおおおお!!!!!」

「オーホホホ!天龍ちゃんのことなら何時間でもかわいいことをしゃべれるわよ!」

 

よく見ると天龍の爪にはハートや星のかわいらしいストーンがついていたり、ラメが入っていたりと見えない、見えにくいところもしっかりかわいらしくしていた。なるほど、こんな性格の天龍もいるんだな、と見ていたら「マジマジ見るなぁ!」と顔を真っ赤にして怒ってくる天龍。その怒声にハッと我に帰った大淀。

 

「ほら見なさいな。パンツだってこんなレースのかわいい。あら赤いシルクの紐。気に入って履いてくれてるのねえ。アタシ嬉しいわぁ」

「キャアアアアアアア!??!!!?」

 

堂々とスカートをめくって天龍の下着をマジマジと見る九重提督の姿にすぐにまた大淀が白くなった。口から何か白いのでてないか?

 

「おーい、大淀。帰ってこーい」

「はっ!?て、提督、私は一体…」

 

「うぅ、もうやだぁ…」

「やりすぎちゃったかしら。ごめんなさいね、かわいいからつい」

 

半泣きになっている天龍の頭を撫でてなだめている。根は悪くないようだが、天龍にだけは意地悪らしい。2人の右手の薬指に光る指輪。

 

「あ、お二人とも…指輪?」

「そうよー。大本営からもらえるケッコンカッコカリの指輪じゃなくて、アタシのオーダーメイドよ。指輪の裏にそれぞれの名前が彫ってあるの。アタシのは天龍ちゃんの名を。天龍ちゃんのにはアタシのを。出撃なんかで離れていても、アタシ達はいつも一緒よってね。ね、天龍ちゃん?」

 

「お、おう…」

「うふふ、ほら、かわいいでしょ、うちの天龍ちゃん♪」

 

顔を隠してやんやんと恥ずかしがっている。何というか微笑ましいものである。

 

「ふむ、指輪か。私たちもいいかもしれんな。どう思う?」

「悪くはありませんね。今度見繕ってみましょうか」

 

「そうしよう。ところで、先ほどの天龍の下着を食い入るように見ていたが、どう言うつもりなのかね?」

「い、いえ…あのような下着もあるのだなぁ…と」

 

「私には似合うまいよ」

「そのようなことはありません。日向さんもよく似合うかと」

 

「ふふ、そうか。では是非とも買い物に付き合ってもらうとしよう。ちゃんとあなたの前でだけ、披露してやるさ」

「………」

 

「ははは。かわいいな、あなたは」

 

真っ赤になって下を向いている一宮提督といたずらっぽく笑う日向。凄まじく甘い空間になっている。飲んでいる茶が甘く感じられる…。その様子を見て九重提督がココココと笑っている。

 

「うーんいいわねぇ、よその提督と艦娘のラブラブっぷりを見るのも。まあ、アタシと天龍ちゃんはそう言う関係よ。別に艦娘がいいと言ってくれれば、結婚だって認めてくれるそうだし、艦娘に強要するのではなく、お互いが合意の上ならオーケーと言うのは大本営からのお墨付きよ。心は乙女でも、アタシは男。天龍ちゃんは艦娘でも女の子ですもの。三条提督はどうなのかしらね?」

 

驚いた。そんな許可もあるのか。それならこの人もさっさと翔鶴さんとくっついてほしい…見ていてやきもきする。大淀はそう思う。一方的に妙な欲をぶつけられるのではなく、お互いが愛し合う。いいことだ。艦娘にひどいことをする提督ばかりでないと安心した。

 

「さて、脱線しちゃったわ。初めまして、三条提督。ショートランド泊地の元提督。ショートランド海戦で勝利を収めたものの、艦娘が1人残して全滅。英雄と讃えられ、本当なら少将になるところを辞退。大本営としては大功績を辞退させるわけにもいかず、仕方なしに存在しないはずの階級、准将と言うのを作って無理やり将校にさせられた元コック、ってとこかしら?」

 

「ふっ、よくそこまで調べたもんだ。正解だよ、九重提督」

「ふふ、興味のある人はいろいろと調べたくなるのよ」

 

ウフッとウインクをするが、寒気を覚えてブルっと震え上がった。それを見てコココとまた笑う。つかみどころがないと言うか、気ままな提督だ。

 

「さっきも言ったけど、アタシは幌筵泊地の提督よ。階級は中佐。艦娘って美しいわよねぇ。それでいてまっすぐ純粋で。素直で、心も綺麗で。そんな艦娘を踏みにじる豚は嫌いよ。今回は割と主力っぽい動きをしなきゃいけないらしいけど、足手まといにならないように頑張るわ。三条提督、お手柔らかにお願いするわね」

 

「こちらこそ。うちが本来なら最大戦力にならなきゃいけないんだけどな。そこは申し訳ない」

「いえ、艦隊のノウハウを知っているだけにありがたいです。それでは早速、作戦を練っていきましょうか」

 

一宮提督が大きな海図を大きな机に広げる。北方海域。北太平洋にたくさん浮かぶ島々の海域。強力なflag ship級の深海棲艦も多数確認されている。西方海域や東方海域ほどではないが、気を抜けば全滅もあり得る海域であることには違いない。大淀は広げられた海図とその航路、交戦ポイント、補給ポイント、ルート。全てを頭に叩き込んでいく。どこに配置になってもいいように。大事な仲間を守るために。より良い作戦を練るために。彼女の脳内ではまるで自分がいまそこに立っているかのように、地形などを組み立てていく。

 

「まず三条提督には比較的、敵艦隊の配備が軽めのモーレイ海を担当していただきます。次に、キス島の補給地点の破壊ですが、こちらは九重提督に。同時にアルフォンシーノも担当していただきます。私はAL海域を含めた北方海域全域に点在する主力級の艦隊を追います。特にAL海域には多数の戦艦。それもflag shipが集まっているようです。これらが集い、こちらへ攻め込まれると厄介です」

 

「了解よ。確か、キス島のこの地点は水雷戦隊でないと行けないのよね?」

「そのように報告が上がっています。北に渦潮がありますがこちらを抜けていけるようですね」

 

「そう。じゃあ天龍ちゃん、よろしくね」

「はいよ。チビ達はこっちで勝手に決めていいか?」

 

おかしい。キス島の海図を見つめて大淀は違和感を感じていた。キス島の補給地点。ここを叩けと言うことはここを潰せばこちら側に有利に、北方海域での活動を抑える重要な役割のはず。しかし、なぜだ。海図を見ても、敵艦隊の拠点が、島手前にしかないと言うのは異常だ。もっといるはず。

 

「当海域、濃霧二注意サレタシ」

 

……!?濃霧。この海域の調査時に濃霧が発生していて、たくさんのものを見落としていたなら。いや、大本営や今までの出撃からのデータもあるはず。なぜだ。なぜこのキス島周辺はこんなにもぽっかり空白が多い?

 

「大淀、どうした。キス島の海図をジッと見つめて」

「提督?い、いえ、何も…」

 

「言え、いつも言ってるはずだ。どんな些細な疑問でも。ちょっとでもあれ?と感じたら言えって。何を思った、大淀」

 

仲間を死なせないためにはどんな些細なことも見逃せば大事になるかもしれない。少しでも不安、疑問に感じたら玲司であれ、誰であれ隠さず、飲み込まず話す。これが横須賀の玲司、大淀、鳥海、霧島の作戦立案時のルール。

 

「はい…この西側、そして南側。ここから北上する点の東側です。ここに敵艦隊のポイントはないのですか?と思いまして…このキス島の補給地点は北方海域を拠点とする深海棲艦から見れば重要な補給地点のはずです。ですが、それにしては主力がいません。防衛を強化すべきはずですが、なぜ…?もしかして、調査の際に濃霧が発生し、打ち切ったままこちらに海図を寄越したのかとも思いまして。それでしたら、万が一強力な艦隊が隠れていて鉢合わせたら、天龍さんたちが壊滅の危機に…」

 

九重提督がキス島の海図をひったくり、食い入るように眺める。たしかに、モーレイ海やアルフォンシーノは細かく指示が出ているが、キス島だけかなり大雑把に記されている。

 

「ふーん。よくそこまで頭が回るわねぇ。けど、アタシ達の艦隊もそう数が多いわけじゃないのよ。そこまで手が回らないわ。出せても1艦隊ね。アルフォンシーノと他にも細々と配置させるから、出せてもそれだけね」

 

「いざとなったら逃げりゃいいだろ。霧も多いなら逃げられるって」

「私の艦隊ももう出せません。ギリギリの数を配置しますので…」

 

「横須賀は出せます。モーレイ海とは別に、こちらは2艦隊は回せます。万が一を考えれば出すべきです。一宮提督。どうか、お考えを。艦娘ごときが指示を出す、と言うのは憚られるかもしれません。ですが!」

 

「あら、それってさぁ、アタシの天龍ちゃんの艦隊が失敗するって前提でお話ししてない?それは心外ね。空振りだったなら、無駄に出撃を多くさせた失態を犯すわけだけど、どこの誰が責任を取るのかしらねぇ?アタシの艦隊に限ってヘマさせる気は毛頭ないわけだけど、その辺どうお考え?大淀ちゃん」

 

大淀を睨む目は本当に蛇のようだった。さしずめ大淀はカエルだ。足がすくむ。怖い…。やはり、出過ぎた真似をしてしまったらしい。

 

「俺が責任を取る」

 

背後から声が聞こえた。振り返ると自分の提督が笑っていた。ただ、目は笑っていない。猛禽類のような目で九重提督を睨んでいた。

 

「俺が責任を取る。だから、うちの大淀をいじめないでくんないかな、九重提督」

 

そこからしばらく、玲司と九重提督の無言の睨み合いが続いた。最初に動いたのは九重提督。

 

「んふっ。冗談よ、冗談。悪かったわね、大淀ちゃん。じゃあ、先に天龍ちゃん達を行かせた後、フォローとしてそちらの水雷戦隊をこちらに寄越してくれるのね?バックアップがあるのはこちらも助かるわ」

 

「それと同時にこちらも主力も出す。大淀、お前がそっちの旗艦だ。言った手前、現地で水雷戦隊のサポートに回れ。同時にもし、強力な艦隊がいた場合、やれそうならやれ。扶桑を出す。モーレイには霧島と摩耶を行かせる。そっちの指揮と戦力は問題ないはずだ。瑞鶴、北上、名取もいるからな。あとは対空で吹雪かな」

 

「名取さんをそちらに?では、こちらの水雷は神通さん旗艦でしょうか?」

「いや、神通は夕立と共に大淀の方に付く。主力をやるには強い方がいい。大淀を旗艦。扶桑、翔鶴、最上、神通、夕立で行く。天龍の後追いは阿武隈を旗艦にする」

 

「あ…」

「心配ない。沖ノ鳥島以降、結構あいつ変わったぜ。おどおど自信なさそうにしてたのが、積極的に鍛錬に励んでる。あいつ見てるか?鹿島の指導が終わってから、神通に交じって必死で神通についていこうと必死だぜ。そうだろ、神通。神通は阿武隈旗艦、どう思う?」

 

「はい。私は阿武隈さんが旗艦であれば、問題はないかと思います。多少気持ちにムラはありますが、いざ実戦となれば立派に旗艦をこなすでしょう。ご不安であれば、雪風さんを補佐につけると良いかもしれません」

 

「だ、そうだ。と言うわけでほぼこっちの配置は決まったな。モーレイ海は旗艦瑞鶴。キス島西側、主力艦隊討伐隊は旗艦大淀。天龍の後追いで水雷戦隊、旗艦阿武隈。これで行く。問題はないかい?一宮提督。キス島に関しては九重提督の迷惑や失態にはならないようにするさ」

 

話をする間もなく配置を進めていく玲司。取りつく島もない。しかし、玲司の采配もであるが、ほんの数分にも満たない時間で海図と、そして疑問点を持った大淀には一宮提督も舌を巻いた。大淀の目には何が見えていたのか?艦娘だからか?艦娘だからこそ、現地で戦闘を行うからこそ見える何かがあるのか?後に大淀は過去に一度しか出たことがない、と聞いてさらに驚かされるのだが。

 

玲司達の配置の話が終えてからはトントン拍子に作戦の話は済んだ。アルフォンシーノは九重提督。北方海域全域を一宮提督が見て回る。特に危険なAL海域は一宮提督が担当。

 

「では、この配置でいきましょう。各自、柔軟な対応で現地の状況に応じて指示をしてもらいましょう」

 

「はぁい。じゃあよろしくね。アタシ達、先に帰るわね。天龍ちゃん、行くわよ」

「お、おう。じゃ、大淀。頼むぜ」

 

そう言ってフリフリと手を振って帰っていった。最後の九重提督の顔は目だけが笑っていなかったようだが、気のせいか?気分を害してしまったな…と大淀は反省した。

 

「じゃあ、俺達も帰るか。ほぼ総出だし、準備もあるし。作戦を始める3日後までにいろいろ煮詰めなきゃな。じゃあ、一宮提督。これで」

 

「はい。お疲れ様でした。どうぞよろしくお願いします」

 

シンと静まり返る会議室。残された一宮提督と日向。

 

「ふう。まったく穏やかではない。一触即発とはまさにあのことか。提督、お疲れ様」

「ええ、ありがとうございます」

 

「さて、大淀の思案は吉と出るか凶と出るか…厄介なことにならなければいいがな」

「……確かにこの海図は少し空白が目立ちますね……調査日時が数年前?何ですかこの海図。古井司令長官や虎瀬提督が現役時代の頃の海図です。北方海域の調査を始めた頃の海図。やられた…意図的に消され、新しい日付にされていましたか…」

 

「……誰かが最新の海図ではなく、まだまだ未知数の頃の海図を忍ばせたと?にしてもなぜ?」

 

「私の提督や三条提督など、若手が活躍するのを善しとしない派閥の嫌がらせだろう。提督、呼び戻して考え直したほうがいいんじゃないか?」

「……キス島には大淀さんを含めた三条提督の助っ人が行きます。大淀さんの策でいけるかもしれません。それに、先ほどの配置で私達はギリギリです。これ以上の追加投入はできません」

 

その他の海図は最新のものだった。しかし、こちらの落ち度だ。しっかりと海図を確認し、把握し切れなかった落ち度。しかし、艦娘の数にも限りがある。これ以上は建造で増やしたとしても戦力にはならないし、轟沈を出すのは自分のやり方に反する。未熟である。グッと唇を噛む。

 

「悔いる前にやるべきことがたくさんあるぞ。とりあえず、帰ろう。皆に伝達せねばならん。出すのだろう?AL海域に。この間の作戦で成功を収めた暁に着任許可をもらった高速水上機母艦『日進』を」

 

「ええ。錬度も充分。甲標的母艦として、きっと活躍してくれるでしょう」

「うむ。では、帰ろうか」

 

そうして静かに会議室を出る。気分は沈んだままであるが。それでも、やるしかない。未来の三大将、智将。一宮涼介。まだまだ修行中である。

 

 

「で、どうだったんだよ、三条提督は?」

 

こちらも帰りのジープの中。青森までは車で。そこから軍用の船で車ごと幌筵へ帰る。数時間は九重提督と天龍の二人だけの時間だ。

 

「ええ、悪くないわね。やっぱりいい男よねぇ」

「ちげえっての。提督としてはどうなんだっての」

 

「あれくらいじゃわからないわねぇ。即決力と決断力はあるわね。あと、アタシを見ても苦笑いだけで済ませるところは、一宮君と同じく肝が据わってるわね」

 

「何だよ。せっかく楽しみにしてたのにつまらなさそうだな」

「腹の内をとことん隠されちゃったからねぇ。あたしも見せてないけどさ。ま、見せてもらいましょ、ショートランドの英雄の指揮ってやつを」

 

「はいよ。ったく、オレ達を甘く見んじゃねえっての。あーあ、お腹すいちゃった。どっかでケーキでも食べたいなぁ」

「あら、いいわねぇ。じゃあ、その辺にいいケーキ屋なかったかしら。行きましょ行きましょ」

 

作戦のことは楽観視し、適当に寄ったケーキ屋で舌鼓を打つ九重提督と天龍。泊地に帰還の後、キス島の海図の件で激怒するとはまだこの時知る由も無い。

 

 

「あらぁ、ずいぶんつまらないイタズラをされちゃったのねぇ?」

「クク、これしきも気づけねぇなら、まだまだザコだな。甘ちゃんだぜ」

 

大本営から少し離れた海辺で一人の男と艦娘が目隠しに猿轡をした男2人をパンツ一丁にして見下ろしている。

 

「ねーえ、提督?早くしない?私、こんな汚いのをずーっと見てたら目が腐っちゃうわ~」

 

「か、刈谷(かりや)提督!これはどういうつもりだ!?貴様、俺達をこんな目にしておいてタダで済むと思っているのか!?」

 

「知るかよ。一宮に渡したキス島の海図。ありゃてめえら事務官の中でも所長クラスじゃなきゃ持ち出しできねえ代物だ。誰にそそのかされたんだ?」

「知らん!」

 

「龍田ぁ。後で消毒してやっからやれ」

「はぁい」

 

「な、何をする気だ!?やめろ!私に手出ししたらタダでは済まんぞ!!!」

 

目隠しをされた男の一人が叫ぶ。しかし、龍田と呼ばれる艦娘は男の手首に薙刀のようなものを充てると…。スッとそれを引いた。

 

「ぎゃあああああああ!!!!!????」

「うっせぇなぁ。そんな痛くねぇだろ?龍田の薙刀はよく斬れるからよォ。痛みも感じずパックリいったろ?」

 

「あらぁ。赤い血ってゾクゾクするわねぇ。うふふふふ」

 

目隠しをされているのでわからないが、手首をツーッと流れる水のような何かがそのまま正座をさせられている男の太ももに垂れる。ポタポタ。ポタポタと。同時に全身が冷たくなっていく感覚。

 

「ひいいいい!!血!血がああああ!!!」

 

「ギャハハハ!オラ、早く誰に言われたか吐かねぇと死んじまうぜ?」

「止めて!止めてくれえ!!!血!血がいっぱいいいい!!!」

 

「やだぁ。見た目も血も汚ければ声まで汚いわねぇ?うるさいからその首、切り離してあげましょうか?…天龍ちゃんに悪さをするような人間なんて、殺してもかまわないのよ?」

 

龍田の声は恐ろしく冷たく、その言葉は脳に氷を突っ込まれたようなほど頭がキーンとした。

 

「じゃあ隣のおっさん、テメエに聞くぜ?吐かなかったらそっちのおっさんと同じだ。テメエは頚動脈にしてやろうか?」

「ひっ!?や、やめ!?刈谷提督!お願いだ!!!」

 

「じゃあ吐けよ。誰の命令だ?」

「ぐっ…うぐぐ…」

 

「龍田ァ」

「はぁい」

 

「で、電話!電話で言われたんだ!!誰かまではわからん!!!」

 

「龍田ァ。ふとももブッ刺せ」

「大府提督だ!!!大府中将殿!!!!!」

 

「アァン?大府だ?ハハァン、あのおっさん、古井司令長官の面子潰しか」

 

刈谷と言う提督は眉をピクリと動かしたがそのまま笑っている。なるほど、おもしろくなってきやがったと。

 

「バカ正直に言ってもこっちが消されるな。よし、お前ら。情報提供、感謝するぜ」

「ああああ!!は、早く救急車!!!病院!!!!血がァ!!!!」

 

「うるせぇよ役立たず。てめえはそのまま失血死しろ、ギャハハ」

「か、刈谷提督!わ、私は喋ったんだ!頼む!助けてくれ!!!!」

 

「龍田。目隠し外してやれ」

「んもう。こーんな汚い男に触らせて…」

 

「後でじっくり構ってやるよ」

「あらぁ。うふふ。じゃあやりまぁす」

 

ひいひいうるさい男2人を心底汚物を見るかのような目で嫌々目隠しを外す。出血している男は慌てて手首を見る。夥しい出血が……。

 

「あ、あ……?」

「バーカ。俺が水たらしてやってたんだよ。ククク、スリルが楽しめたろ?」

 

軽く薄皮が切れたくらい。言うなれば紙で手を切ったほどの切り傷に透明な水。海水か。それをスポイトで垂らしていただけだった。

 

「ギャハハハハ!!!情けねえなぁ!!!安心しろ、すぐ助け呼んでやるからじっとしてろよ、おっさん!」

「おい、待て!!刈谷提督!!!」

 

車に乗り込む刈谷と言う男。鋭い切れ長の目に不遜なニヤニヤと笑う。龍田は助手席でニコニコとしている。

 

「あー、虎瀬のおっさん?大本営から西に1kmほど行った海岸に、北方海域の海図ちょろまかして一宮達嵌めようとしてたバカ事務官2人置いとくから、何とかしてくれや」

 

それだけを言って電話を切り、車を出す。

 

「あーあ。提督が目をかけている子達、大丈夫かしらねぇ?」

「ヘッ、これしきのことで躓いてるんだったらザコにもなりゃしねえ。提督やめちまったほうがいいな」

 

対向車線を憲兵が乗ったジープがけたたましくサイレンを鳴らし、赤色灯を回して数台走っていく。フッと刈谷は笑った。

 

「さーて、あのクソガキ共がちゃーんと北方海域を潰せるか見ものだな」

「ねーえ?提督?さっきの構ってくれるって約束、忘れてなぁい?」

 

「忘れるかってんだ。んじゃまあ寄り道してお泊りと行くか」

「んふふ…楽しませてねぇ?」

 

潤んだ瞳で刈谷を見つめる龍田と、不敵に笑う刈谷。2人を乗せた車はどこかへと消えた。




刈谷提督は後にいろいろな意味で玲司とぶつかり合う提督です。敵か、味方か?北方海域を攻略した後に、玲司と鉢合わせるつもりです。

次回から北方海域戦、始まります。

イベントの進捗はいかがでしょうか?私の泊地は玲司と同じく、全員生きて帰れを目標に轟沈0で進んでおります。全力で参りましょう。

それでは、また。

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