提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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北方海域への出撃を始めます。初陣が多い中、大淀や阿武隈の胸中はいかに?一歩ずつ前へ。

横須賀鎮守府の伝説はまだ始まったばかりなのだから。


第七十四話

「ええっ!?あたしが旗艦ですかぁ!?」

 

執務室にキーンと響き渡る阿武隈の驚きの声。出撃が近いことは知っていたが、まさか自分が旗艦に命じられると言うのは全然予想していなかったようで、本当に驚きな様子だった。

 

「そうだよ。キス島の目的地は水雷戦隊でないとどういうわけか羅針盤が狂って行けないんだ。大淀が同じくキス島で指示を出す」

 

「い、いけるけどぉ…」

「いきなりで悪いな…無理か?」

 

「……う、ううん。わかったわ。あたしの力が必要なのよね?」

「私もいるであろう主力艦隊を討伐の後、近海からサポートに回ります」

 

提督の目も、大淀の目も真剣だった。ふざけている場合でもおどおどと拒否をできるものでもない。阿武隈は気が弱い。安久野の圧力でさらに弱気が増幅し、名取よりも怖がりで、過保護になってしまった五十鈴によく守られてばかりで、自分は後ろに隠れていることしかしてこなかった。

ある時阿武隈の気の弱さが少し改善された。沖ノ鳥島で瑞鶴を雪風と守っていた時、どうしようもないほどの怖さがあった。しかし、自分よりも小さな雪風が必死に息を切らせて前へ出て、全力で自分と瑞鶴を守ろうとしていた後ろ姿。小さな雪風がとてもとても大きく見えた。

 

あんな小さな子が必死で前へ出て戦っているのに。自分は瑞鶴を守ろうとしても怖くて動けず、何をしている?

 

そう思うと震える体を無理やり奮い立たせ、雪風と共に戦った。そして阿武隈は見たのだ。ありえないほどの強さで敵を倒していく、同じ軽巡の神通の姿を。その背中は遠くの果てにあるように見えた。遥か彼方の水平線を走っている人だと。

 

「努力は決して裏切りません。そして、私は阿武隈さんが思っておられるほど遠い存在ではありません。遠いのか、近いのかの判断は私にはわかりませんが…私と共にやってみましょう」

 

その言葉に神通と共に走り続けた。きついし、神通には追いつけないし、本当にただ走っているだけなのに足はガクガク。そこに龍驤の鍛錬にも積極的に参加。時にきつすぎて吐いたり、ご飯が食べられない時もあった。もうやめようかな…と何度も思うこともあった。

 

けどその度に阿武隈は思い出す。雪風の大きな背中。神通の実力。雪風も神通も必死になってその境地にいる。それよりもサボっていた自分が早々に諦めてどうする。神通の期待を裏切ってしまう。だから毎日神通の鍛錬も、定期的な龍驤の鍛錬もサボらずに続けた。

鹿島が加わってより厳しい。しかし、神通との鍛錬を続けていたおかげか、比較的マシだったと思う。雪風達と同様になんとかついていけている。

 

「神通と一緒に頑張ってきたんだろ?見せてくれ。その努力の結果を。俺もいる。キス島には大淀も外からではあるがサポートに回る」

「えっ、提督。あたしのこと知ってたの?」

 

「おう。お前が沖ノ鳥島に出撃してから何か変わったこともな。だからお前に任せられる。阿武隈。頼んだぞ」

「わかったわ!阿武隈、ご期待にお応えします!」

 

緊張しているであろう面持ちは変わっていないが、それでもしっかりと旗艦を引き受けた。阿武隈にとっては長い数日ではあったが、貴重で、そして彼女を大きく成長させる数日になるのであった。

 

 

「よーし、集まったな。今回は3部隊出撃と沖ノ鳥島よりも艦隊が多いぞ。昨日説明した通り、モーレイ海に1艦隊。キス島2艦隊配備する。まずはモーレイ海。旗艦は瑞鶴!」

 

「は、はい!やるわ!」

 

以下、霧島、摩耶、名取、北上、吹雪。

 

「気を緩めないようにな。霧島、現場での判断は任せる。立てた作戦捨ててでもいいから」

「わかりました。ふふ、初陣、腕が鳴るわね!」

 

「北上ちゃん、よろしくね」

「あんたなら背中任せられるからねー。よろしくー」

 

「う、うう…失敗しないように…失敗しないように…」

「大丈夫だって。パッと空見てパッと撃つだけ!瑞鶴のサポートはあたしらに任せてくれよな!」

 

「次、キス島主力艦討伐は旗艦、大淀!」

「はい!」

 

大淀が旗艦ということに摩耶や瑞鶴達が大淀を見る。大淀。一度出撃をしたはいいが、足をやられ、以降出撃はなく。ただ仕事をしない提督に代わって事務仕事を続け、最近ようやくまあ満足に走れるようにはなったんじゃないか?程度だというのに。

 

「今回の作戦はキス島攻略が重要になってる。刻々と変わる状況をここから指示するだけでは俺も不安だ。うちの総司令を務める大淀が、隠れているであろう主力艦隊もどきの討伐。阿武隈が島へ向かった九重提督艦隊のサポートに回る。大淀は阿武隈艦隊も一手に指示してもらう。大淀の勘は当たる。ただ、ここで指示するには心もとないし、大淀が言った手前、出さないわけにはいかなくなった。大淀、無茶を言う」

 

「いえ。私もここで見ているだけでは不安です。キス島の皆さんの命、私がお預かりします。そして、必ず提督の下へ帰って参ります」

 

本音を言えば怖い。しかし。しかし、自分も。自分だって、横須賀の一員。そして北上と阿武隈と約束したんだ。横須賀鎮守府は一歩前へみんなで出るんだって。そのために頭を働かせろ。

 

「あなたならきっとできますわ。そして、お待ちしておりますわ。あなたと共に戦い、知恵を出し合える時を」

 

耳に残る『未来視』高雄の声。あの人の視る世界へ自分もたどり着いてみたい。そのための一歩なのだ。

 

 

「わ、私が高雄さんと同じ目線に立てる…艦娘ですか?」

 

玲司が神通と共に会議を行なっている最中、大淀は「原初の艦娘」である高雄の私室へ連れられた。夥しいほどの作戦に使うであろう駒。擦り切れてボロボロになった海図から最新のさまざまな情報が書かれた海図まで。完全勝利の文字が大きく書かれた大量の報告書類。おおよそ女性らしい部屋ではない。そして机にはパソコン。それもかなり高性能なものだと思う。横須賀にあるすぐフリーズして満足にレポートも作れないものとは違う。

 

「こちらへどうぞ。散らかっていて申し訳ありません」

 

手招きされたのはもう一つ奥にあるドア。その先は、ピンクのフリルがかわいいカーテン、ピンクのチェックのシーツのベッド。質素だけれどアンティークなテーブル。戸棚にもかわいいカップやお皿がいっぱい。枕元には猫やウサギのかわいらしいぬいぐるみ。椅子の座布団までフリルがあしらわれていたり、いちご柄でかわいらしい。

 

「うふふ、驚きました?私、かわいいものを集めるのが趣味でして。お父様。司令長官からいただくお小遣いはだいたいこうしたものに消えちゃうの。これお見せした艦娘は姉妹以外では初めてですわ」

 

ハンガーに吊り下げられたピンクのネグリジェ。これまたいちご柄でとてもかわいらしい。一つ前の部屋や、普段の装いからはとても想像ができなかったが、ああ、高雄さんも女の子なんだな、と安心した。機械のような人だと思っていたことを心の中で詫びた。

 

「かわいいですね。うちの摩耶さんが見たらキラキラして喜びそうです」

「あら、本当?ぜひお話ししてみたくなったわね。じゃあ、こんなティーカップは喜ばれるかしら?」

 

戸棚から出てきたのはバラの絵柄がかわいいティーセット。摩耶は意外にもティーセットを持っていたりする。紅茶や飲み物に関しては提督が制限を設けていないし、提督も紅茶が好きらしく、摩耶にたびたび淹れてもらっている。紅茶の淹れ方や種類を、本を買ってきて読みふけるくらいで、今は紅茶を淹れさせれば横須賀で摩耶の右に出るものはいない。

 

「わあ、かわいい!摩耶さん、きっと喜ばれると思います。イルカさんのぬいぐるみと一緒寝てたり、かわいらしいんですよ」

「ふふっ、かわいらしいですのね」

 

高雄が笑う。いや、本当に機械のような人と想像していただけに、その笑顔は胸がキュンとなるくらいかわいらしかった。鼻歌を歌いながらニコニコとお茶を淹れている様もかわいらしいし、摩耶の姉、と言うのも間違いはないだろう。腕時計をにらみ、きっかり3分。湯を捨てて温めたカップにお茶を淹れる。優しい紅茶の香りが鼻腔をくすぐる。

 

「さあ、どうぞ。玲司君のところの大淀さんとはゆっくりお話がしたかったの。玲司君のところの艦娘なら、情報漏洩や怪しい気配なんて言うのもないと信じていますし」

「は、はあ。光栄です…」

 

クスクスと笑っている。カップを両手で持っている高雄がかわいらしかった。むむ…落ち着いたかわいらしいお姉さん、と言うイメージ。龍驤は…申し訳ないが高雄に比べると妹、と言うイメージがある。本当に龍驤はこの高雄の姉なのだろうか…。

 

「龍驤姉さんと比べて大人びてるなぁと思っているお顔ですね」

「ふぁっ!?」

 

「ふふふ、そんな気がしただけですよ。龍驤姉さんや明石は、皆さんにご迷惑をおかけしたりしておりませんか?」

「は、はい…鍛錬をつけてくれたり…時々暴走しますけど…明石のおかげで艤装もとても使いやすくなりましたし」

 

「そうですか。それならよかったです。変なこともする姉妹ですが、どうぞよろしくお願い致します。ただ、度がすぎるようでしたらご連絡くださいね。姉の陸奥と向かいますので。玲司君に伝えていただければ大丈夫かと思いますので」

 

ニッコリと笑っているが、きっとこれを伝えた際には龍驤は顔を真っ青にして逃げそうである。陸奥のことだから決して逃れられないのだろうけど。たしか、次はない、と言われてさめざめと泣いていたことを思い出した。陸奥とこの高雄が実質ボス。いや、高雄が真のボスなのだろう。

 

「誰かとこうしてゆっくりお茶を飲むなんて、家族以外では初めてで新鮮です。大淀さん、よろしければ、私とお友達になっていただけませんか?時々でいいんです。こうして私のお部屋でゆっくりお茶を飲みながらお話がしてみたかったの。どう、でしょうか…」

 

頰を赤らめ、恥ずかしそうにもじもじしている高雄。何だろう、このかわいい子は。うちの艦娘達とはまた違うかわいさがあった。

 

「はい。私でよろしければぜひ」

「ほ、ほんと!?あ…コホン。よかった。断られたらどうしようかと…」

 

「あは、あははは…高雄さんって、かわいらしいですね」

「え、ええ!?わ、わた、わたしがかわいいだなんて…お父様やお母様にも…かわいい…お友達にかわいいって…えへ、えへへへ」

 

あ、だめだ。この子かわいい。雪風や霰のように頭を撫でてかわいがりたくなる。人は見かけによらない。最強の頭脳を持つ高雄がこんなにかわいらしい人だったなんて。ああ、でも艦娘最強の陸奥も、提督にはすごい態度が豹変するし…あの姉にしてこの妹と言うか。

 

「私は艦娘『高雄』として生まれてからこの10数年。お友達と呼べる人がいなくって。人間を見ていて羨ましかったの。今度あそこでお茶しない?とかご飯どうしようって。でも、私は原初の艦娘。会う艦娘は皆私達を遠巻きに見るか、ものすごく縮こまっちゃって…人間は艦娘を見ると怯えるか距離を取るか。あとは、体にしか興味がない人か」

 

ああ、やっぱりそうなるのか。そのふくよかなスタイルは男性にはウケがいいだろうな。自分は…いやいや。頂点に立っているからこそ、皆が高嶺の花に思うのだろう。原点にして頂点。全ての艦娘にとっては、原初の艦娘は遠い存在。実際はかわいいものが大好きな落ち着いたかわいいお姉さん。酒癖は悪いが親身になって相談を聞いてくれる賑やかな女の子(?)。整備と甘いものが大好きな子。弟が好きすぎて暴走する姉。よく話して見れば親近感の湧く人だ。

 

「北方海域に行くのでしょう?なら1つだけ。キス島にはくれぐれも気をつけて。あそこは濃霧こそが最大の武器でもあり、罠でもあるの」

「へっ?」

 

「濃霧は自分たちの身を隠す最高の鎧でもある。けど、時としてどこから撃たれてるのかわからないまま、自分たちを滅ぼす罠でもあるの。大淀さ…大淀ちゃんがもし行くのなら、霧を用いるか、やめておくべきか。その判断を見誤らないで」

 

大淀は高雄の言う意味がわかっていない。霧と言えば、かつて北上が目をやられ、大破した村雨を連れ帰った際に濃霧に乗じて姿を隠し、九死に一生を得た話を聞いたことがある。霧が…罠?……ハッとなる。

 

「敵も…それに乗じて攻めてくるかもしれない…!」

 

「そう。私達艦娘にとって有利なものは、深海棲艦にとっても有利に物事を運ぶ必殺の武器でもあるの。天候は味方にも敵にもなる。濃霧と聞いて有利に運ぶと考えるか、最悪の状況を生み出すかを考えるのは、私の仕事。そして、頭脳として戦うのなら、あなたの仕事でもあるの。大淀ちゃん。もしキス島に行くなら、お味方が行くのなら、考えうる最悪の状況を自分で想像してみて。そして、起死回生の策を思いついて。そうでなければ、あなたの大切な仲間が帰ってこれなくなるかもしれないから」

 

頭の中で思い描く。霧に乗じて四方八方から撃たれ、逃げたと思ったつもりが囲まれたことに気がつかないかもしれない。一方的に仲間が沈んでいく様を想像し、大淀はカップを落としそうになった。極端すぎる想像ではあったが、大淀の考えを改めさせるには十分だった。

 

「……見えているのね、最悪の状況が。それも、体が冷たくなってしまうほどの…私と…私に近い状況が。ああ、何という巡り合わせかしら」

 

カチャッと静かにカップを置く高雄。見えている。彼女、最初の友達「大淀」には。何百何千と言う戦場を駆け巡り、何万と言う戦闘詳報を見てきた高雄は、無数の状況を頭で想像する。彼女は考えうる最悪の状態をまず想像し、そこからどう打破していくのかと言うところから作戦を始める。何万にも及ぶパターンから。海の上に浮かぶ1本の瓶を探すかのような、途方も無い中から、必ず仲間と共に帰るパターンをいくつか探し出す。そのパターンにハマるのだ。そうして、高雄の想像通りに物事が動くことが多い。だからこそ、高雄「未来視」と言う称号を得た。

 

未来を確かに見ているのかもしれない。だが、それには膨大な過去があるからこそである。最悪の状況から考える、と言うのは悪く言えばネガティブである。しかし、そこからの生還を考えるのは容易では無い。幾重にも考えた成功策が、誰かの犠牲でしかなし得ない作戦もあった。「全ての艦娘の母」を退役に追い込んでしまった苦い思い出がある。高雄は彼女が「弓」を持つことができなくなったと知り、3日間泣き続けて自分を責めたこともある。

 

「私にしか見えない世界。大淀ちゃんにしか見えない世界…それはきっとある。けれど、あなたにしか見えない世界でしか、救えない策があるのかもしれない。私はとても大切な人を艦娘として生きていけなくしてしまった過去がある。前を向いて、しっかりとみんなを生かせる戦いを考えなさい。笑ってそう言われて私はここまでやってきた。大淀ちゃんも、きっとその素質があると思うの。いずれ、大淀ちゃんが全ての艦娘の頂点に立つ、「未来視」に並ぶ艦娘の頭脳になってほしいわ」

 

「私が!?そ、そんな、私が高雄さんと並ぶだなんて!」

「艦娘の世代交代よ。お父様が引退した際に、私はどうなるかわからない。私も艦娘としての生を近いうちに終えるかもしれない。あるいは、大淀ちゃんと一緒に玲司君の下で戦うのかもしれない。5年以内にはある話よ。お父様は今は司令長官を任せられる提督がいないからやっているだけ。無理をされているもの…」

 

「さ、三条提督がいつかは…?」

「玲司君は無理ね。生涯提督。横須賀で死ぬ覚悟じゃないかしら」

 

「なら!私も横須賀から動くつもりはありません!私は三条提督と共に!提督がどこかへ行かれるなら私はどこへでも着いてゆきます!みんな、みんな同じ考えだと思います!」

「それでも構わない。横須賀の。艦娘最強の頭脳『大淀ここにあり』と呼ばれるような高みへ昇ってきて」

 

高雄はそっと大淀の手を取って深く深く大淀を見つめた。

 

「あなたならきっとできますわ。そして、お待ちしておりますわ。あなたと共に戦い、知恵を出し合える時を」

 

原初の艦娘。最強の頭脳。「未来視」の高雄。彼女と共に戦う。それは身に余る光栄と、普通の艦娘は思うだろう。彼女が友達になってほしいと言わなければ、身に余る光栄だと喜ぶだろう。違う。高雄は友達なんだ。こうして、事務的にこの前の部屋で話を行い、本当の自分を知らせないようにしてきた彼女が、自分をここに招き入れ、そして友達になってほしいと言ってきた。

 

友の願い。戦友の夢。希望。なら、友達として応えたいじゃないか。胸の内からこみ上げる熱い何か湧き出てきた大淀は、痛くないように強く高雄の手を握り返した。

 

「提督と共に。私も邁進していきます。そして、共に戦う時を。一緒に作戦を考えられるような艦娘になります。待っていてください、高雄さん。ううん、高雄ちゃん。きっと、きっと!」

 

「……あなたと出会えてよかったわ。うん。待っているわね…大淀ちゃん」

 

2人でえへへと笑い合い、再びお茶にする。名残惜しいけど、もうそろそろ終わりの時。

 

「よお、すまん大淀。待たせたな」

「いえ。提督、お疲れ様でした。神通さんも」

 

ぺこりと神通が頭を下げる。

 

「玲司君。北方海域、頑張ってね。朗報をお待ちしていますわ」

「ああ、高雄さん。んじゃ、ちょっと一宮提督と作戦会議だ。大淀、力を貸してくれ」

 

「はい。私でよろしければ喜んで。じゃあ、高雄ちゃん。また」

「ええ。大淀ちゃん。またね」

 

2人して小さく手を振って別れた。2人が大淀ちゃん。高雄ちゃんと呼ぶ間柄にいつのまにかなっていたことが玲司は嬉しかった。こうした別のところの艦娘と交流が増えることは弟しても嬉しい。お茶を飲む相手が姉妹か自分だけなことに寂しさを少し感じていたことを玲司は知っていた。かわいいものが好きで、ピンク色が実は好きで、趣味はかわいい食器集め。物腰が柔らかく、ちょっと世間知らずなかわいらしい姉。大淀の手には何か大きな箱。姉のことだからティーセットか何かか。

そして大淀はやる気に満ちている。一体何を話したのかは乙女同士だ。詮索してはいけない。紳士なら。

 

(待っていてね、高雄ちゃん。必ず、あなたと一緒に戦えるところまで昇っていくからね)

 

大淀の決意は固い。いつかは一緒にお茶を飲みながら、もっともっと高度な作戦の話ができるように。まずはその第一歩を大淀は踏み出そうとしていた。

 

 

出撃は2日後。大淀は頭に叩き込んできたモーレイ海とキス島の海図を精巧に再現した。これにはさすがに鳥海も霧島も驚いていた。玲司も、龍驤も目を丸くしていた。そう、こんなことができるのは知る限り1人だけ。それをそっくり再現する大淀。

 

「大淀、今回の北方海域、いけるか?」

「はい提督。モーレイ海につきましては、霧島さんがいますし、瑞鶴さん、北上さんと名取さん。摩耶さん、吹雪さん。吹雪さんが自信がないよう見えましたが、摩耶さんが鼓舞してくれるでしょう。考えうる最悪のパターンを想像してみても、完全勝利まで再現できました。ひとえに、鹿島さんの特訓の効果が現れていると思います。霧島さんがいれば、どうひっくり返っても勝利を収めると確信しています」

 

大淀が駒を立て、具体的に進めていく。瑞鶴の強力な艦爆、霧島の砲撃、対空に吹雪と摩耶。強力な北上の音もなく敵を倒す魚雷。それをサポートする名取。霧島も大淀に交ざりスルスルと戦略を組み立てていく。何をどうパターンを変えても、大淀が進めた流れで勝利を勝ち取るビジョンが見える。玲司もニッと笑って大きく頷く。

 

「オーケー。じゃあ、キス島はどうだ?俺は可能な限り考えてみたが、どうもうまくいかない。1つ思うことがある。万が一天龍隊、そして阿武隈隊が敵に追い込まれた時、霧を有効活用できる手立てがあるかどうか」

 

「北方海域は霧が多いと聞きます。ですので、深海棲艦はそれに慣れており、霧こそが最大の攻撃のチャンスを与えてしまうのではないかと考えます」

 

大淀の言葉に玲司は髪を両手で後ろへやり、「やっぱな!」と大きな声で言った。

 

「司令官さん、霧が出ることが多いのなら、霧に乗じるのは危険かと思います」

「はい、この霧島もそう思います。霧に乗じ、夜間に抜け出そうと考えたなら、それは失策です。そうですね…大淀さんの考えそうな手は…」

 

「霧島さんの考えと同じかと思います」

 

『霧のない昼間!』

 

大淀、鳥海、霧島。3人の声がハモる。

 

「よし、3人がそう言うならそれで行こう。まあ、これは最悪の状況になった場合だけどな。大淀。霧を使うか、今のように行くかは任せるし、阿武隈次第だ。頼むぞ」

 

「はい。もう少し考えようと思います」

 

(おうおうめっちゃおもしろそうやん!大淀のやつ高雄と何か話でもしたか!何かの覚醒か?まあええ、後に必要なこっちゃ。思い切りぶちかましたれ!)

 

龍驤が楽しそうに玲司たちの話を聞いていた。その後も間宮に食堂に来ないのはどうしてか、と執務室に激怒しながらやってくるまで話し合いは続いた。

 

そして2日後の朝、横須賀鎮守府、邁進の第一歩。北方海域。少し不安はあるが、3艦隊。出撃!




イベントも後半戦。いろいろときついイベントですが、何とかやれております。

さて、原初の艦娘「高雄」と横須賀の頭脳「大淀」。高雄はビシッとしてるけどこうだったらかわいいなーと思ったものをそのままつっこみました。拙作の横須賀の「摩耶」もかわいいもの大好きですから、似た者姉妹ですね。鳥海はそういう風じゃないように見せかけて、実は摩耶のお茶が好きだったり、甘いものが好きだったり、下着をかわいいものにこだわっていたりとやっぱり「摩耶の妹」と言う設定です。

鹿島の特訓は活かせるのか?北方海域攻略を次回からスタートします。

モーレイ海 瑞鶴 霧島 摩耶 北上 名取 吹雪

キス島主力交戦艦隊 大淀 扶桑 翔鶴 最上 神通 夕立

キス島水雷戦隊 阿武隈 時雨 雪風 霰 響 文月

提督の補佐 鳥海

キス島は空振りか?それとも大ピンチを迎えるのか?多くの提督から注目を集めた若手提督も北方海域、攻略開始!

それでは、また。

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