提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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モーレイ海の勝利に喜ぶのもつかの間、キス島の応援と掃討に向かった大淀艦隊と阿武隈率いる水雷戦隊。一筋縄ではいかないと予測しているだけに、緊張感も高いです。

杞憂で終わるのか?激闘になるのか?キス島編、スタートです。


第七十六話

「司令官さん、モーレイ海の瑞鶴さん達の艦隊、撤退を開始しました」

「そうか。ふう…よかった。まあまだ安心はできないけどな」

 

「そうですね。確かに摩耶と吹雪さんが中破していますから、油断はできません。司令官さんは本当に私たちの身を案じてくださるのですね」

「当たり前だろ。帰りを心配しない奴に提督が務まるか」

 

(それができていなかったのがあの人だったんですけど…ま、いっか。司令官さんは本当に心配してくれますし)

 

鳥海がふぅ、とため息をつく。ひとまず想定の範囲内でモーレイ海の勝利報告を聞き、安堵した。しかし、鳥海も、大淀も。そして司令官も危惧しているキス島は、もうじき到達だろうか。天龍達九重提督の艦隊は今頃島付近で戦闘中だろう。大淀は同時進行で島の北東にいると思しき戦艦などの討伐。その後、阿武隈や天龍隊のフォロー。阿武隈達はその天龍達と合流、護衛が目的だ。

天龍達の目的は島にいる水雷戦隊及び北方海域への仲間達への補給を担う補給艦ワ級の討伐。これ自体は問題はないが、少しでもルートを離れるとどうなるかわからない。通常ならばさほどだが、今回は異常な集結を見せているため、何が起こるかわからないのだ。仮に重巡リ級とぶつかっただけでも水雷戦隊では大破が出てしまうかもしれない。

 

異様な雰囲気をただ1人、艦娘の中で総司令を任されている大淀だけが感じ取った。沖ノ鳥島の際に、1艦隊だけでよかったと思っていた自分とは正反対で、2艦隊出そうと司令官に具申したのは大淀だった。司令官はスッと大淀の意見を取り入れていたが、鳥海はまさか大げさな、と思っていた。蓋を開けてみれば、第2艦隊を出していなければ。霧島の意見で大和、戦艦を出していなければおそらく第1艦隊はなす術もなく全員が海に沈んでいただろう。あの時、大淀に対立した意見を出さなくてよかった。もめている最中にも敵の援軍はやって来る。大和達がたどり着くのと、援軍がたどり着いたのはほぼ同時だった。

 

大淀の予測能力を鳥海は素直に受け入れることにした。正直敵う気がしない。ほんの5分海図を見ただけで9割再現するような。大淀が作戦の時に言ったことがそのまま戦地で実際に起きてみたりと、大淀が指揮していれば、自分の姉やたくさんの艦娘が沈まなくてよかったじゃないか、とモヤモヤした。

 

「さて、そろそろ大淀達が東側の偵察でどうなってるか、だな。扶桑や翔鶴がいるが、油断ならない。夕方には阿武隈達が動く。天龍達も無事に戻ってこれりゃいいが…」

 

司令官もかなり危惧している。本当に強敵がいるのだろうか?と訝しむところだが、大淀が必要以上に考え込んでいたこと、そして司令官もここまでとなると、もう敵はいるものであると信じるしかなかった。

 

(みんな、どうかご無事で…)

 

今の鳥海にできることは、無事帰ってきてくれることを祈るだけだった。もちろん、それはここで片時も離れようとしない司令官も同じであった。

 

 

大淀はすでに頭に叩き込んでいた海図と交戦ポイントや渦潮の配置が違うと気づいていた。羅針盤の示す方向も違う。ここは北東に進むはずであったが、羅針盤は東南東を指している。羅針盤の魔女みたいな格好をした妖精さんが手に持った矢印を持ってこっちこっちーと誘導する。すでにこの時点で全てが狂った。向かった先にいたのはそう強くない水雷戦隊。夕立は戦艦や空母がいる、と聞いていただけに拍子抜けした(もちろん無傷で集中して対応したが)。

 

「大淀さん、戦艦や空母がうようよじゃなかったっぽい?」

 

さすがに不審に思ったのか夕立が大淀に尋ねる。無理もない。散々強い機動部隊気をつけて、と念を押されていたのにこれでは。ただ、夕立も大淀の表情に何度も聞く気は無い。小さくブツブツと何かを言いながら周囲を見回し、何かを考え込んでいる。

 

「すみません、完全にお伝えした作戦が使えなくなりました」

 

大淀のその言葉に扶桑も。翔鶴も、最上も、夕立も「ええっ!?」と声が出た。神通は静かに周囲を気にしつつ、大淀の説明を待つ。大淀が考えた作戦が完全に。完全に使えなくなったと言った。あの大淀がそんな失敗をするとは思えない。

 

「大淀、どういうこと!?大淀が立てた作戦がパァになるなんて考えられないよ!?」

「最上、落ち着いて。大淀さんがここまで準備を怠ることはないわ。大淀さんが作戦を立てる前。それこそ、大淀さんでさえ、作戦を聞く以前から何か違うものを掴まされた。そう思ってもいいんじゃないかしら…?」

 

扶桑が勘ぐる。大淀の説明をずっと聞いてきた扶桑が、大淀がここまで計画を狂わせたとなると、誤った情報を掴まされ、正しい情報を隠されたのでは無いかと疑った。沖ノ鳥島の2度目の作戦の際、完璧に深海響の移動の予測をした大淀。それを知っているからこそ、そしてすぐ様にこう作戦が全て崩れてしまったことを打ち明けたことから、扶桑の予想は「誤った情報を与えられた」ということを疑った。ただ、本来ならここには出撃することはなかった、と聞くと一概に大淀がしくじった感じも否めないのだが。

 

「この海図を。この海図が正しければ、私たちは本来、水雷戦隊でのみ行くことができるルートを通っています。本来ならば、私たちは北東に行き、北東の水雷戦隊を倒した後に敵機動部隊にぶつかるはずでした。ですが、実際には南東へと向かい、そして今東北東を目指しています。水雷戦隊とはぶつかりましたが、ルートが全く違います」

 

さらに最上や夕立が驚きの声をあげる。聞いていたルートとまったく見当違いなところを目指しているではないか。大淀でさえわからないとなると、自分たちはさらにどうなるか予測もつかない。羅針盤の示す先に何があるのか?

 

「ここまで来たのでしたら、行き着く先へ行ってみましょう。危険は覚悟の上です。阿武隈さん達が同じルートを通るかもしれません。安全に阿武隈さん達が通過できたのならそれでいいと思います。大淀さん、いかが致しましょう?」

 

翔鶴が弓を強く持って大淀に問う。大淀もそこは考えていた。やられた。完璧に作戦を考案したものにやられた。一宮提督では無いと信じて、しかしどうすればと脳をフル回転させていたところだった。翔鶴の言う通りだ。もしこの先、危険な機動部隊でもいたなら、阿武隈達水雷戦隊はひとたまりもないだろう。安全を確保する意味でも、進撃をしたほうがいいだろうとは思っていた。

 

「翔鶴さん。そうですね。もしかすると強力な機動艦隊がいるかもしれません。阿武隈さん達の安全のためにも、私たちはこのまま進みましょう。その後、急いで戻り、この北部で待機しましょう。阿武隈さん達との合流地点はここですので」

 

大淀が指差した場所は本来の待ち合わせ場所だ。大淀達が敵を掃討し、安全を確保した上で待ち合わせる場所である。仮にこちらにも強力な艦隊がいた場合も懸念される。間に合うかはわからないが、やってみるしかない。全てが白紙。手当たり次第行くしか無いのだ。

 

(戦闘で役に立てそうも無いのに、作戦まで外しては、私は…。っ!いえ、こういう時のために提督は私に旗艦を任せてくださったんですよね。弱気になっていてはいけない。私には私の戦いがある。それをこなして勝利へと導かねば!)

 

弱気になっている暇はない。速やかに行動を移して阿武隈達の安全を。提督と約束したのだ。九重提督の艦隊も含めて、全員で帰還させると。何事も予想通りにはいかない。想定外のことが起こるなどいつものことでしょう?高雄にも言われていたじゃないか。最悪のパターンをひっくり返す作戦をいかなる時でも考えるのが頭脳の役目だと。今がその時。

 

「このまま東へ向かいます。何があるかはわかりません。いつでも戦闘に入れる準備を」

「この先、敵艦隊があります。リ級と…駆逐艦ね。その先にも気配があると言っているわ」

 

「了解です。各自戦闘準備を!敵艦隊に接触します!」

 

扶桑の気迫が変わる。神通と夕立が身構える。矢を持ち、発艦に備える翔鶴。同時にカタパルトを構える最上。やがて敵を発見。この敵は前座だろうと踏んだ。極力消耗を抑えつつ、敵を倒そうと算段するが、実地での戦闘はほぼ初めて状態の大淀では、どう立ち回ればいいかがわからない。

 

「っつ!くぅ!」

 

結果、直撃は避けているもののかすり傷が増える。かすり傷で済んでいるのは鹿島の特訓の賜物だ。そうでなければ、とっくにリ級の砲撃で死んでいるだろう。囮、というわけでは無いが、うまく敵を引きつけるにはこのたどたどしい動きがちょうどいいのかもしれない。

 

「よく狙って…ってぇ!!!」

 

皆の足手まといにならないよう必死である。大淀の玲司のもとでの初陣は満足に行くものではなかったが、それなりの活躍は見せた。次の交戦ポイントでは空母ヌ級が現れ、翔鶴が空中戦を展開。

 

「夕立さん、行きますよ!」

「了解!夕立、突撃するっぽい!!」

 

ヌ級を狙い、神通と夕立が放たれた矢のように勢いよく突っ込んでいく。そのスピードはもう自分たちがついていけるスピードではない。

 

『……ザザッ…大淀さん、聞こえますかぁ!?」

 

キーンと耳が痛い金切り声。阿武隈だ。不意打ちである。神通たちをフォローするため、砲撃をしながら応答する。

 

「こちら大淀!阿武隈さん、いかがなさいましたか?」

『大淀さんが説明してくれたルートと違うんですけどぉ!?なんか深海棲艦のバラバラになった艤装とかあるし、渦潮なんて聞いてないんですけどぉ!?どうなってるんですか!?』

 

しまった。自分も完璧に狂ったことで動揺し、阿武隈に伝えていなかった。執務室で指示を送るだけなら冷静でいられたのに、とんだ失態である。少し自分に苛立った。

 

「申し訳ありません。私がお伝えしたプランは完全に見当が外れ、使い物になりません!その深海棲艦の残骸は私たちが通ったところのものですね!?阿武隈さん、そこから羅針盤はどの方向を示し…わっ!?」

「おおっと、大淀の邪魔をしたな!?」

 

『だ、大丈夫ですか!?後からでもぉ…』

「くっ、天龍さんが危険かもしれません!羅針盤の示す方角を教えてください!最上さんすみません!」

 

深海棲艦の残骸があるということは天龍たちか、あるいは自分たちが倒した水雷戦隊か。いや、天龍達が倒した後なら、時間が経ちすぎているから違うか。そう考えるなら阿武隈達は自分達が通ってきた南東から北東に移動し、渦潮を踏んだということか。問題はここからだ。羅針盤は自分達と同じ方角へ向かうのか。それとも、別の方角を示すのか。

 

『ちょ、ちょっと待ってくださぁい!妖精さん、早くしてくださーいー!ええっとぉ…あ、北東!北東です!』

 

北東。そこから自分達は東南東へ進んだ。ルートが割れた。そのルートなら島の方角へ向かうはず。天龍はその島の北側にいるはずだが。合流、できるのだろうか?

 

『阿武隈さん、そこから先は私たちとルートが異なります!私たちは今阿武隈さん達がいるところから東南東にいます!おそらく、そこから先は水雷戦隊でしか進めないでしょう!何かあれば報告ください!」

『わ、わかりました!』

 

ブツリと無線は切れた。こうなってしまった以上阿武隈に任せるしかない。こちらはもう状況が読めないのだ。いや、待て。遠くでなにかが爆発する音を聞きながら、考える。

ハッと見ると夕立は口を開けて艦載機を出そうとしていたヌ級に魚雷を全力で投げ込んでいたところだった。うまいこと口の中に入ったところを神通が足に砲撃。膝をついたところで魚雷が動き出し、大爆発。ヌ級の1隻は頭が綺麗になくなっていた。もう1隻は口を開けたところを最上に砲撃され、なすすべも無く沈んだ。

 

大淀を執拗に狙うル級eliteを扶桑と翔鶴が足止め。そこに夕立と神通が割り込む。危険ではあるが、戦艦の動きの邪魔立てができるこの2人は本当に心強い、と扶桑と翔鶴は思う。

 

「翔鶴さん!ル級のさらに奥へ艦攻を!扶桑さんはそのままル級と対峙してください!神通さん、夕立さん!ル級のいるところから奥へ行かないで!」

 

瞬時に神通と夕立は奥へ行こうとしていたが急転換をし、ル級の横に戻る。翔鶴の艦攻は速度を速め、ル級の横を低空ですり抜けていった。ル級の顔色が変わった。

 

「異常集結しているあなたがたがこれで終わりとは、作戦が全部狂ったとしても思ってはいませんよ。私の読みが正しければ、奥にまだ隠れている艦隊がいそうですね。残念ですが、私の目からは逃れられません!」

 

チッとル級が舌打ちをしたように見えた。

 

(損傷を可能な限り少なくして合流地点に向かわねば私たちが危険です。細心には細心の注意を払うものですよ。それも全て、予測済みです!万事最悪の想定をし、それを予測する!そうですよね、高雄ちゃん)

 

正直言って翔鶴の艦攻隊を奥へやったのは賭けだ。それだけ扶桑の負担が増え、扶桑の身が危うくなってしまう。そして今の言葉もハッタリ。単に「いるかもしれない」と言う予測でしかなかった。神通と夕立を奥へ行かせなかったのは不意打ちの恐怖。後ろに回り込んだと同時に背後から撃たれては夕立も神通も一撃でやられるだろうと思ったから。扶桑に危険なものを押し付けてしまったことは後で謝ろう。

時にはハッタリも必要。それは玲司から教わったこと。まんまとル級達が引っかかってくれたのが救いだった。

 

「お、大淀、敵がいるってわかってたの?」

「いいえ。今のはただの。提督が言うにはハッタリです。いるかもしれないと言う単なる予測でした。まんまと引っかかってくれましたけど」

 

いないだろうといるかもしれない。この違いが生死を分ける。大淀は常にこのことで仲間が死んでしまうかも。大破してしまうかもしれないと考えている。過去に安久野に提案した時は「弱腰の作戦に乗っては戦果が挙げられん」だの「負け犬の考える作戦」だのと言われた。が、大淀が言った通りに事が運んでしまい、なぜか自分が怒られた。最後には作戦は自分で考えると言ってめちゃくちゃな作戦ばかりであった。

 

今度からは。これからは提督と共に考え、いいものはいい。駄目なものは駄目だと言い合える。上下関係などそこにはない。対等に話ができる。

 

「仲間を死なせないためなら上官も艦娘もあるか。遠慮なくこんな作戦仲間を死なせる気かこのクズくらい言って真っ向から、俺の提案がダメなら言ってくれ。頼んだぜ。もちろん、俺も遠慮なく言うからな!」

 

が、今は自分1人。自分1人の判断で仲間の生死が問われる。より慎重に。勝つための判断を!

 

「最上さん、夕立さん、神通さんと私でル級を一斉砲撃!翔鶴さん!」

「了解しました!」

 

先程、ル級の横をすり抜けて行った艦攻隊が急旋回をしてこちらへ戻ってきていた。奥の敵はわかっている。いるのは翔鶴が把握している。奥の攻撃もハッタリだ。艦攻隊が行った事でおそらく奥の敵は撃墜に動いただろう。それが目的だ。

 

「目の前のル級の方がリスクが大きいですからね。危険を承知で私の艤装の妖精さんに、旗信号で翔鶴さんの艤装の妖精さんに指示を送りました。見ていて下さって助かりましたよ」

 

大淀はここに来てニヤリと笑った。聞こえてくるプロペラの音。ル級が振り向いた先には、魚雷の投下準備に入っている高速で迫る飛行機。さらに、重い砲撃の音を聞いたかと思うと、隣にいた仲間が大爆発。「ナッ」と言った瞬間には、もう1隻のル級の意識も刈り取られた。翔鶴の艦攻隊の魚雷が直撃したから。

 

「大淀さん!突撃するっぽい!?」

「いえ、余計に燃料と弾薬を消費するわけにもいきません。私たちはここまでです」

 

「うん、偵察隊が言うにはもう離れて行ってるみたいだね。たぶん、翔鶴さんの艦攻隊がやってきてバレたってのと、こっちの主力がやられたせいじゃない?でも、放っておいていいの?」

 

「一宮提督の艦隊が北方海域を担当して、漏らしはしないはずです。私たちが深追いしても、準備不足です。阿武隈さん達のためにも、これ以上余計な時間は割いていられません。戻り、合流地点の安全の確保をしましょう。おそらく、水雷戦隊と戦った地点の北側のこの島。ここも補給できるポイントのようです。これを制圧し、安全を確保して阿武隈さん達を迎え入れられる準備をしておきましょう」

 

周囲を警戒しつつ、来たルートを戻る。水雷戦隊との交戦ポイントに戻った頃にはすっかり日も沈み、夜になっていた。そろそろ阿武隈達は目的地で合流できているであろうか?予定通りならもう合流しているはずであるが…。

 

ピッピッと何か無線を傍受した。…嫌な予感がする。するが、とにかく傍受してみた。

 

『こちら天龍!おい提督、聞こえてっか!?暁が大破して戦艦やら重巡に追いかけ回されてる!クソが!ルートはめちゃくちゃだしどうなってんだよちくしょう!』

 

この声は天龍だ、間違いない。敵艦隊に追いかけ回されている。そして、暁と言うのは駆逐艦暁だろう。大破。危険な状態だ。

 

「こちら大淀!天龍さん、聞こえますか!?天龍さん、応答してください!!」

 

『ダメだ!抜けれねえ!戻るしかねえよ!そこまでおいかけられたら終いだぞ!?クッソが!!提督!おいてい………ザザー!やら……………」

 

「天龍さん!天龍さん!こちら大淀!!応答してください!!」

 

ただならぬ気配に最上達も顔色が悪い。天龍達が襲われている事。大破艦がいること。おそらく、こちら側へは抜けられない事。最悪の言葉が最上や神通の脳内で思い浮かぶ。

 

「ね、ねえ、大丈夫っぽい?夕立達も助けに行った方が…」

「いいえ。あそこから天龍さんのところへ行くには水雷戦隊でないといけません。羅針盤が狂います。神通さんと夕立さんだけで行くにしても無理でしょう。阿武隈さん達にお任せするしかありません…」

 

「信じて待つしかない。と言う事ですね…大淀さん。私たちは私たちのやるべき目的を果たしましょう。合流地点で安全を確保し、待つことです」

 

扶桑が口を開く。口の中が乾いてうまく口が開けず、無言で頷いた。一呼吸置いて、口を何とか潤わせて。

 

「行きましょう。扶桑さんの言う通りです。私たちのやるべきことをやって、待つ…しかありません…」

 

唇を強く噛み締めながら大淀は前へと進んだ。

 

「…阿武隈。聞こえる?…阿武隈?」

 

最上が無線を使って阿武隈に呼びかけるも、無線は虚しくサーーーーとノイズを吐き出すだけだった。夜。そしてキス島周辺海域は、霧が出始め、最上も阿武隈に構っていられるほどの余裕がなくなってしまった。時々阿武隈達がいるであろう方向の闇を、不安そうに最上は見つめていた。




キス島編、まずは大淀から。天龍達が襲われて危険な状況のようです。無線の通じなかった阿武隈達、三条艦隊はどうしているのでしょう。

キス島、水雷戦隊のピンチ、果たして天は味方をしてくれるのか?次回をお待ち頂けますと嬉しいです。

それでは、また。

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