提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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阿武隈、天龍旗艦の水雷戦隊側の視点です。大淀に入った無線ではどちらもテンパっていました。

大淀からくれぐれも細心の注意を払えと言われた阿武隈艦隊。
九重提督と楽勝ムードで突き進む天龍艦隊。

はたして、無事に帰還できるのでしょうか…?


第七十七話

「ハッ!オラオラどうしたぁ?オレ達にビビって声も出ねえか?食らえッ!」

 

天龍の砲撃が吼え、イ級が悲鳴のような金切り声をあげて沈む。

 

「雷!こっちを一緒にやるわ!」

「任せなさい!雷も援護するわ!」

 

「うふふ、睦月ちゃんと如月の力、見せてあげるわぁ」

「うん!いくよ、如月ちゃん!」

 

「天龍さん!サポートするわ!」

「おう、わりぃ叢雲!助かるぜ」

 

目標地点に到達した九重提督の艦隊。天龍を旗艦に暁、雷、睦月、如月、叢雲が参加。補給地点からやや離れた場所にいた水雷戦隊をきっちりと連携を組んで倒していく。へ級flag shipやホ級eliteなどがいるが、もう慣れたことだ。慣れているからと言って慢心はしない。慢心した結果は悲惨な末路を辿る。だから決して、帰ってくるまで油断はするな。そう提督に言われている。

 

初めて出会った時はドン引きするくらいの提督だった。男の人なのに喋り方は女の人だし、ネイルや化粧は完璧に仕上げるし、女の人の服を生地から楽々と作ってしまう。オネエ提督。間違ってもオカマと言ってはいけない。初対面でうっかりそう言った天龍は顔が涙と鼻水と汗とよだれでぐちゃぐちゃになるまでくすぐり地獄の刑に処された。

それはさておき、艦娘一人一人の体調を毎朝チェックし、どこかの鎮守府のように沈めとは言わないし、帰ってきたら全力で褒めてくれる。かなり激しい褒め方だがそれでも自分たちを大事に思ってくれているんだなと実感ができる。初期艦でケンカ腰だった叢雲も、ネイルをやっていると興味津々で、いざ自分がやってもらうと注文は多かったが出来上がりを見ると子供のように飛び上がって喜んでいた。

 

如月も化粧に興味があるというとバッチリなメイク。髪もしっかり整えてくれて大人びた雰囲気に、睦月はわかったがほかの艦娘は如月とわからないくらいになったことをとても喜んでいた。

レディに似合う服!と言う超大雑把な暁の注文を見事に聞いて、お出かけの時は決まってそれしか着ない服を作って見せたり、幌筵泊地は自由にやれている。上下関係もなく、友達のような感覚で提督と話をしたり、注文ができるのでのびのびとやってはいるおかげか士気は高い。

 

出撃に関しては必ず慢心せず、全員が帰ってくることを目的として保守的ではあるが堅実に任務を遂行するため、大本営陣からは注目されている将来が楽しみな提督と艦娘達である。一宮提督と並ぶ実力を持ったことから今回の北方海域作戦を任された。そしてこのキス島でも十分な成果を出せる。そう確信していた。

 

九重提督は三条提督の大淀が懸念していた「違和感」と呼ばれるものを杞憂だと切り捨てた。ただ、あの作戦室での三条提督の鋭い目に押されて大淀の作戦を受け入れたわけだが。大淀をコケにしたつもりではないが、挑発めいた発言をしたことで、あわや三条提督の逆鱗に触れそうになってしまった。彼は自分がバカにされることについては軽く受け流してしまうが、自分の艦娘のこととなると静かに怒りを見せた。水面は穏やかだが、水面下は全てを流してしまう激流のような雰囲気に、九重提督は寒気を覚えた。

 

(まあそれでも、これだけ何も問題がなく片付いてしまったのなら、ほんとにアタシもバカにされたものね。ショートランドの英雄も、ブランクが2年空いただけで落ちたものね)

 

んふう…とため息をつく。まさかの若手ではあるが、一時的ではあるが英雄と呼ばれた名将と同じ作戦の参加できるなんて、と小躍りしたものだが…。

 

『提督、聞こえっか?こちら天龍。目標地点を守ってた艦隊、潰したぜ。楽勝だったぜー。噂に聞いてた戦艦の艦隊にも鉢合わせなかったし、チビ達もほぼ傷なしだ。これから様子見て帰投してえんだけどいいか?』

 

三条提督に今度会った時に言おうと思っている嫌味と愚痴を考えていたら天龍からの報告が来た。予定よりもスムーズに早く終わったらしい。さすがはうちの天龍ちゃんと精鋭の駆逐艦ね、とパチンと指を鳴らした。

 

「お疲れ様、天龍ちゃん。気をつけて帰っておいで。帰ったらケーキでも作りましょうか」

 

『ケーキ!?暁、いちごいっぱいのショートケーキがいいわ!』

『コラ暁、ケーキに反応すんじゃねえよ。ったくお子様だなぁ』

『な、何よ!暁を子供扱いしないでよ!暁はレディなのよ!ぷんすか!』

 

「ふふ、ケンカはそこまでよ。帰るまでは気を抜かないこと!いい?何があるかわかんないから、おかしいと思ったらすぐ連絡をちょうだい」

『はいよ。んじゃあちゃっちゃと帰るからよ。にしても、一宮提督もポンコツかよ?提督がくれた海図、全然ルートが違うんだよ。まったく、頼りにならねえなぁ。三条提督はビビって大淀と阿武隈よこすって言ったりよぉ」

 

天龍の言葉に九重提督の笑顔が変わった。隣で補佐をしている那智が眉をひそめたくらいに。目が笑っていない。那智も天龍の報告に違和感を覚えた。

 

「…天龍ちゃん、どういうこと?詳しく聞かせてちょうだい」

『はぁ?いや、だからもらった海図、ルートがめちゃくちゃなんだよ。戦艦とはぶつからなかったけど、水雷戦隊はいたけど渦潮があったりよ。オレらが通るルートじゃ渦潮は踏まねえはずだぜ?まあ、損害は少なかったからよかったけどよ』

 

海図を見る。天龍が報告をくれたルートは、まるで見当違いのルートだ。その瞬間、九重提督は雷に打たれたかのような衝撃が走り、ブルっと体を大きく震わせた。

 

(どこをどう走ったの、これ…一宮提督。アンタ、とんでもないことをしてくれたわね。一宮提督の仕業ではない、と思いたいわね。じゃあ、誰がこんなデタラメな海図をよこしたの?…何にせよ最悪ね。慢心するなとみんなに言っておきながら、何も疑わずに慢心していたのはアタシじゃない。最悪)

 

「提督よ、どうした?」

 

「なっちゃん、ちょっと思うところがあるだけよ。天龍ちゃん、みんな。気をつけなさい。絶対に、ほんの小さな異変も見逃さないで」

 

『なんだよ、提督まで三条提督みたいなこと言ってよー。ま、提督がそう言うなら気をつけて帰るよ。んじゃあ、切るぜ』

 

嫌な予感がする。気をつけると言っても天龍は油断することも多い。予期せぬ出来事に天龍は弱いのだ。こういう時は能代の方がよかった。ああ、クソ、今更采配について後悔しても後の祭りだ。あそこで天龍に行かせると言うんじゃなかった。ああ、クソ。

 

「提督、大丈夫か?顔色が悪い。茶でもいれてこよう。少し落ち着け」

「あら、ありがとう、なっちゃん。お言葉に甘えるわ」

 

「うむ。待っていろ」

 

那智がいなくなり、1人になった執務室で大きくため息をついた。自分にできることは最愛の子と、それに従うかわいい駆逐艦の帰りをここで待つしかできない。今すぐにでも船を出して飛び出したいくらいだ。邪魔になる。出れるわけがない。とにかく、帰りを待つしかないのだ。

 

(バカにしたバチが当たっちゃったかしらね…あれだけバカにしたけど、三条提督のところの艦娘ちゃんを信じるしかない、か。ああ、クソッタレ)

 

眠気は一気に覚めたがどうすればいいかわからず、頭が回らない。那智が気を利かせて「糖分を摂って頭を働かせろ」と甘めの紅茶を淹れてきてくれたのは助かった。が、結局状況の把握が一切できず、もどかしい状況が続くのであった。その数時間後、彼をさらにどん底に叩き落とすかのような状況になるのである。

 

 

「おし、帰るぜ!提督からの許可も出たしな。チビ共、お疲れさん!」

「ふふん、帰ってケーキよ、ケーキ!ねえ、雷!」

 

「もー、暁ったら。でも、帰ったら司令官にいっぱい褒めてもらえるかしら!なんたってほぼ完全勝利よ!」

 

損害も少なく、目的も達成できたことですっかり浮かれてしまっている駆逐艦を叱りつつ、天龍は帰路へとついた。燃料、弾薬もまだまだ余裕はある。敵水雷戦隊と、深海棲艦の補給地点は完璧に破壊した。あとは、アルフォンシーノへ行った比叡や瑞鳳達が目的を達成すれば、提督は安心できるし、大きな功績にもなる。勲章でもくんねえかな、と天龍は自分を愛してくれる提督に貢献ができてとても嬉しかった。

 

出会いは最悪だった。ひょろひょろの頼りなさそうな見た目に女みたいな喋り方。

 

「なんだよ、海軍はいつからオカマなんか入れるようになったんだよ」

「オカマ?失礼ね。あたしはオネエよ。見た目は男でも心は女よ」

 

「いや、オカマだろ…はーあ、変なのが来たぜまったくよ。ったく、オカマが艦隊運用なんざできんのかよ」

「オカマオカマって言ってくれるじゃない。それに随分とナメられたものね。いいわ。アンタ旗艦で水雷戦隊を組みなさいな。アタシは適当にここの子見繕って水雷戦隊組むから。負けたらタダじゃおかないわよ。アタシが負けたらここから去ってあげる。どう?」

 

「言ってくれるじゃねえか。あとで土下座して謝っても許さねえからな。その喧嘩、買ったぜ!」

 

練度が前の提督のときから高く評価されていた暁や雷、睦月、如月、初霜と自分。向こうはそこそこ育ってた睦月型のチビと連れてきた叢雲。そしてそれなりに育っていた能代と対決した。

 

結果は…完敗だった。叢雲は違うが能代や三日月、やる気がなさすぎて半分見捨てられていた望月でさえ、積極的になってこちらの動きを完全に捉えられて、手も足も出なかった。何をどうしたらここまでこいつらが練度の高い自分やチビ以上の動きができるんだと詰め寄ったら、提督はコココと高笑いをあげた。

 

「練度が高いから強いなんて思ってるようじゃ、アタシに勝つなんて1000万年かかっても無理よ。ねえ、叢雲?」

「ええ。あんた達、全員動きがとろくさくってハエが止まるんじゃないかって思ったわ」

 

「んだとテメエ!!オレのことはいいけどよ、チビ達を悪く言うんじゃねえ!」

「呆れた。そうやってあんたが甘やかすからそうやってとろくさくなるのよ。そう言いながら負けてんだから、反省の1つでもしたら?」

 

「だとぉ!?」

「あーあ、ねえあんた。こいつダメよ。私に任せてくれないかしら。反抗することもできないくらいギッタギタに鍛えてあげるわ」

 

「はいはい。アンタを連れてきたのはそうしたい為だからよ。でも、まあ、その反抗的なお口はちょっと我慢ならないわねぇ。お仕置きが必要ね」

 

「はあ?ふざけんな、おい、叢雲とか言ったな!離せ!ってか力強え!」

「ココココ、うちの叢雲は強いわよぉ?そこらの駆逐艦と一緒にしないで頂戴」

 

そうして連れていかれた部屋は執務室。その先のことはもう忘れたい。ただひたすらに足の裏をくすぐられ、すみませんでしたと何回も謝ってやっと解放してもらった。終わった時の顔をカメラで撮られて見せられたが、あれは誰にも見せられない顔だった。ついでにその…ちょっとチビったし…。

 

それから戦い方を見せ、何がいけないのかを提督と叢雲にボロクソに言われつつ指導され、奮わなかった戦果も少しずつ向上した。合間に何やらかわいいネイルや服なんかが気になって、作ってもらってかわいいと言われるのがたまらなく嬉しくなって。

 

「出会いは最悪だったけど、アタシ天龍ちゃんに惚れちゃった。オネエで申し訳ないけど、アタシも男だからね…心は乙女だけど。なんかすごい矛盾してるわねぇ。でも、天龍ちゃん。貴女が好きになっちゃったの」

 

「オ、オレ!?ま、待てよ。オレはこんなんだし、オレよりもっとかわいい子選べよ!叢雲とか…」

「叢雲はあくまでもよき参謀よ。あの子はアタシに恋愛感情は持たないって言ってるからね。尊敬する上官ではあるけど、って言われてるもの」

 

「あ、あう…あ、オ、オレ…オレで、いい…のでしょうか」

「ぷっ、何かしこまってんのよ。アタシは天龍ちゃんがいいのよ」

 

そう言われて感極まって大泣きしながら何回好きって言ったか覚えてないくらい提督が好きだって言った。そうして、提督の右腕は叢雲。実戦をこなす左腕は自分の日々が始まった。比べ物にならないくらい充実してる。今日も帰ったらいっぱい褒めてもらって、一緒に寝て…。

 

「ねえ天龍、帰りはこっちで合ってるの?なんか、ルートがおかしい気がするわ」

 

叢雲が心配そうに聞いてきたことで現実に帰ってきた。しまった、ボーッとしてた。浮かれすぎているな、と戒める。

 

「ああ?敵はやったはずだろ。提督が言うにゃ、海図に書かれたルートと全然違うとこ走ってるみてえだけど」

「それが心配なのよ。見なさいなこれ。一体私たちはどこを走ってるの?渦潮をまた踏むハメになったわけだけど、その前に今度は南東を示してる。もうぐちゃぐちゃでわからないわ」

 

羅針盤の進路は南東を指している。日も暮れて夜。辺りは霧がうっすらと立ち込め、視界に問題はないがもうさっぱりわからなくなった海上を走っている。大丈夫だ、と言いたくなったが何を根拠に大丈夫と言う?海図が使えない以上、未知の海域を走っているようなものだ。来たルートを戻っているわけでもない。メモしたルートとは逆の方向へ向かっている。

 

いやな、予感が、する

 

「はあ、早く帰りたいわ。ケーキよ!ケーキ♪」

「もう、暁?まだ雷達は安全なところにいるわけじゃないんだから、集中しなきゃダメよ!l

 

「だってぇ…」

「まあまあ、雷ちゃん。そんなすぐに敵が艦隊を集めてきたりしないと思うし、大丈夫だよ」

 

「そうかしら…うーん」

 

後ろで暁達は気楽に帰ってからの楽しみを待ちわびている。しかし、そののんびりとした話は、1つの閃光と、重い音。そして…。

 

「ふんふーん、帰ったら楽しみね!いかずッ」

 

突然、暁が吹き飛んだ。宙を舞いながら艤装が爆発し、そのまま無防備に海面に叩きつけられ、転がる。

 

「あ、暁!?」

「なんだ!?今の音、砲撃の音!?」

 

「止まるな!!」

 

天龍がそう言うと速度を上げて全員が動き出す。雷と睦月が暁の吹き飛んでいった方向へ走る。天龍や叢雲もそちらへ走り出した。なんだ、一体なんだ。ズドンズドン。バシャーンバシャーンと繰り返される音。ところどころ、闇の彼方で光る何か。

 

「天龍!敵よ!!」

「言われなくてもわかってる!!!暁放って逃げるなんざできるか!!」

 

急いで暁を確保する。それが天龍の最優先事項だった。仲間を放って逃げるなどとできるわけがない。仮に見捨てて逃げようものなら、たぶん自分は幌筵泊地にはもういられない。それくらい、提督が烈火の如く怒り狂うだろう。それよりも、長年一緒にやってきた暁がいなくなるほうが耐えられない。

 

雷や睦月が暁に懸命に声をかけているが、暁は白目を剥いて目や鼻、口、耳から血を垂れ流し、体も爆発の衝撃で火傷や流血がひどい。体を持ち上げると腕がだらりとし、ぴくぴくと痙攣していた。まずい、このままでは暁が死…。

 

「暁!!暁!!!目を覚まして!!暁ぃ!!」

「暁ちゃん!しっかりして!!」

 

反応はない。誰がどう見ても大破だ。いや、それどころかこのまま放っておけば海中に沈んでいきそうだった。

 

「敵っ!照明弾、ってぇえええ」

 

敵の砲撃の際の閃光を頼りに、いるであろう方角に向けて夜戦も視野に入れて積んでいた照明弾を叢雲が撃つ。しばらくし、パァン!と頭上を光が照らす。ゆらゆらと落ちていく照明弾の光に照らされた深海棲艦の艦隊を見るや、天龍は背骨と脳髄にドライアイスでもぶち込まれたかのようにキンと冷たく痛い刺激が走った。

 

「う、そ…でしょ?」

 

叢雲が驚愕の顔を浮かべる。睦月や如月、雷は顔を青ざめる。こちら無機質な目で見据え、砲を構えるソレ。

 

戦艦ル級elite、ル級elite、重巡リ級elite、軽巡へ級elite。駆逐ロ級(後期型)が2隻。

 

嘘ではない。まぎれもない現実。いないからと、戦わなくて済んだとホッとしていた安堵を裏切り、待っていた艦隊は戦艦ル級を旗艦に待ち構えていた水上打撃部隊。羅針盤は西に針路を向いているが、無論、そちら側へ逃げれば全員命がない。今来た道を戻るしかない。戻ってどうする?戻ったところで何もない。泊地に帰るルートはない。

だが暁が危ない。こうしている間にも血は流れ続けているし、意識は戻らない。艤装を外してあげなければ焼け付いて癒着し、さらに危険だ。だが、今そんなことをしている暇もない。

 

「て、天…龍?」

「に、逃げるぞ。来た道を戻れ。オレがあいつら引きつけるから。叢雲が後ろから雷達守れ」

 

「はあ!?あ、あんたを置いていくって!?」

「全員で逃げてたら暁を抱える睦月と雷が狙われるだろうが!!行け!!!」

 

「天龍さん!!」

「行け!!!お前ら!!!オレは後から必ず追いつくから!暁頼んだぜ!!!」

 

「天龍!!待ちなさい!!」

 

叢雲の制止も聞かず、敵のいる方向へ走り出す。睦月と雷が暁を抱えて天龍とは逆方向へ動き出した。ああ、もう!と言いながら叢雲も如月の背中を押しながら雷達を追う。

 

天龍の夜目が睦月達を追いかけようとするリ級を捉える。

 

「行かせるかよ!!!」

 

天龍の主砲がリ級を狙うが、eliteともなると装甲も厚い。夜戦とは言え効果はイマイチのようだ。

 

「っきしょお!!こちら天龍!おい提督、聞こえてっか!?暁が大破して戦艦やら重巡に追いかけ回されてる!クソが!ルートはめちゃくちゃだしどうなってんだよちくしょう!」

 

『天龍ちゃん?今どういう状況?そこから脱出はできそうなの?』

 

「ダメだ!抜けれねえ!戻るしかねえよ!そこまでおいかけられたら終いだぞ!?おい提督!!どうしたらいい!!今オレが囮になってチビ達逃してる!!リ級がチビ達追いかけてる!こっちゃあ戦艦がバンバン撃ってくるんだよ!」

 

『………くっ、なんとか逃げて頂戴…三条提督の艦隊が来ればあるいは』

「んなもん来るかどうかもわかんねえぞ!!やるだけやってみるけどよぉ!ぐあっ!!」

 

『天龍ちゃん!?』

「わり、今忙しいから喋ってる暇ねえ!後でな!」

 

『天龍ちゃん!?待ちなさい!天龍……」

 

無理やり無線を切った。喋っている暇が惜しい。戦艦の砲撃とロ級の攻撃が激しい。時折背後からリ級がこちらを狙ってくる。一発もらってしまったが小破くらいだろう。重大なダメージではない。前を見ていないとル級の攻撃が危険だが、叢雲達を追いかけているリ級が気になって仕方ない。時折砲撃の音が聞こえる。叢雲と如月が応戦しているのだろう。しかし、雷と睦月と暁。この3人が無防備な状態だ。リ級はずる賢い。ほぼ確実に睦月達を狙っているに違いない。

 

「クソがぁ!!うぜえんだよ!!!」

 

ロ級を狙うがうまくル級に隠れて撃っている。天龍の砲撃はル級の分厚い装甲に阻まれ、思うように攻撃ができない。魚雷を構えようにも攻撃が激しく、逃げ回るしかない。

チュイン!!とまたル級の砲撃が天龍を掠めた。その際に主砲が1本やられた。換装している暇もない。こちらは帰りのこともあり、無駄に弾薬が消費できないが相手は全力である。北方海域のどこかから、補給できる術があるのだろう。

 

「ごぁっ!?」

 

腹部にロ級の攻撃が刺さった。うずくまっていてはやられる。激しく動き回っているから疲労も出てきた。逃げようもになら集中砲火を浴びる。その隙に睦月達も逃げれるがリ級から逃れられない…。ル級がニタァ…と笑っているような気がした。暗闇で見えないが。ただ、闇夜の中、光るル級の赤い目が細まったように見えたからだ。

 

「ちくしょう、まだだ、まだ諦めねえぞ。オレ達は提督のもとに帰るんだからなぁ!!」

 

まだ使える主砲と魚雷を構え、ル級達に対峙する。

 

「テメエらぶっ倒して、睦月達追いかけていったリ級のクソッタレも潰さなきゃなんねぇんだ!!どいてもらうぜ!!この天龍様を甘く見るんじゃねえ!!!」

 

ガコン!!と音がした。確実にこっちを殺しに来る音だ。ここで引いても殺されるだけだ。なら、ここで泣き喚いて情けなくくたばるより、いてえいてえって言いながらでも。のたうち回っても。チビ達命懸けで守って死にましたってほうがかっこいいだろ。その決意だった。

 

「来やがれ深海棲艦共!!全員ぶっ殺してやる!!」

 

轟音。しかし、敵の砲撃ではない。向こうから爆発音が聞こえたはずだが…。何が起きたのかわからずにぽかーんとしていると目の前を白い何かが舞っていた。妖精さん?いや、それにしてはでかい。敵の砲撃をまるで水面を舞うかのように白い何かがかわしている。ボン!と敵の方向で大きな爆発。背後からも砲撃音が聞こえた。同士討ち?いやそんなバカな。

 

「天龍さん、だね?大丈夫かい?」

「っ!?」

 

後ろから声がし、驚いたが声は出さずに振り返った。誰だ。艦娘のようだ。なぜここに艦娘が!?

 

「さあ、ここは一旦離れよう。天龍さん、仲間はどこへ?」

「え、あ、ああ…北へ逃げてる。やべえ、暁が大破して、それをリ級が追いかけてるんだ!」

 

「阿武隈さんが向かった方向だね。大丈夫。そっちに本隊が向かってる。すぐ追いつくよ」

「は、はあ。で、テメエは一体…」

 

「僕かい?僕は…」

「今のうちに逃げてください!ここは引き受けます!」

 

白い何かが近づき、自分を見ていた。見覚えがある。こいつは確か…。

 

「横須賀鎮守府所属、駆逐艦『時雨』。救助に来たよ」

「横須賀鎮守府所属、駆逐艦『雪風』!これより離脱の支援をします!!」

 

天龍にはこの小さな2人が救いの女神に見えた。




天龍隊、大ピンチに時雨と雪風が登場。はたして幸運艦2人の幸運は、この危険な状況を打破できるでしょうか。

天龍達のルートは二期マップを参考にしますと水雷戦隊の「C」から渦潮の「G」。そしてそこから何もなかったFへ行き、ボスマスへと行きました。ここでラッキーなのと戦艦達とやり合わなくていいと安堵したのですが、帰りに羅針盤が指したのはそう、戦艦マスの「H」マスです。ここで暁がやられ、仕方なしに「F」マスへ引き返しています。

阿武隈達が「H」マスにたどり着いたのは「時雨」と「雪風」でお察しの通りです。さて、次回は阿武隈達の視点です。どういういきさつで天龍のもとに雪風と時雨だけがきたのか?を明かしていきます。

それでは、また。
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