提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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大淀、天龍と続き、時系列が錯綜していますが、いよいよ阿武隈艦隊編です。

前回で天龍と時雨と雪風が合流しましたが、そこまでに至る阿武隈達の話となります。


第七十八話

出撃直前まで、マナーモードで着信中の携帯電話のように緊張で震えていた。動きも関節が凍ったのかというほどガチガチで、奇妙な動きになっていた阿武隈。無理もない。まさか自分が旗艦になるなんて。それも別の泊地の艦娘の援護に向かう重要な役割を任されるとは。

 

神通のほうが。それは主力艦隊を倒すのに必要な存在であるので却下。

名取のほうが。それはモーレイ海の北上のパートナーとしてのほうが輝くので却下。

五十鈴お姉ちゃんは?近海に潜水艦が現れたとの報告でそちらへ回したいので却下。

では、大淀は?キス島全体の雰囲気を掴み、阿武隈に適宜指示を送りたいので却下。

 

 

重巡…と言いかけたが水雷戦隊でしか行けないのです、とピシャリと止められてしまった。うううううう…と変な唸り声をあげているのを提督に笑われた。

 

神通や雪風と一緒に頑張ってきた成果を見せる時が来たんだ、と提督は言う。阿武隈の目には、力強く仲間を守るために前へ出て全力で戦艦や空母の艦載機に立ち向かう雪風が焼き付いて離れない。北上と大淀にだけポソッと喋った。神通のように強くなりたい。雪風のように前へ出てみんなを守りたい。

そのために吐くほど練習もした。鹿島におざなりにされたとしても、北上や大淀と共に走り続けた。姉達にいつもなら「もうやだぁ…」と甘えることもしなかった。大丈夫?と聞かれると「ここで弱音を吐いたら甘えちゃうから。大丈夫じゃないけど、お姉ちゃん達には心配かけないように頑張るから」って言ったっけ。

 

母港で緊張している時に、雪風が寄ってきて手を握ってくれた。

 

「阿武隈さん!雪風達には幸運の女神がついています!一緒に頑張りましょう!」

 

雪風がそう言ってくれただけで勇気が出た。旗艦がしっかりしなければ。提督に大淀さんが見守ってくれる。雪風や「一緒に頑張ろう」とポンと肩を叩いてくれた時雨や村雨もいる。やるんだ。その為にここまでやってきたんだから。

 

(目がかわった。いいぞ阿武隈。見せてこい、お前の努力の成果を)

 

提督と目が合う。提督の目はそう言っていたような気がした。だから自分はうん、と強く提督に頷いた。提督も笑ってうん、と頷いてくれた。

 

「旗艦阿武隈!出撃します!!」

 

威勢のいい声を張り上げて出撃をした。

 

 

旗艦は旗艦でも、何も旗艦が全てをやらなくてもいいと提督が言ってくれたおかげで、時雨や雪風、村雨がいろいろと分担でサポートしてくれるのはありがたい。一通り、最上や摩耶など旗艦のようなことをやり、前線に出た経験者かつ話しやすい2人にいろいろと聞いていた。メモも雪風からもらったノートにビッシリ書いた。

 

「ただまあ今はさ。昔みたいにどいつもこいつも余裕のねえのが出張ってんじゃないんだから、時雨や村雨なんかと協力して仕事を分担してもいいんじゃね?もしかしたら、駆逐艦が旗艦になることもあるかもしんないし、その時はちょっとした経験が活きるかもしんないしさ」

 

「そうだよ。何も1人で全部背追い込まなくてもいいんだよ。ボクなんかは結構摩耶に振っちゃうしね」

「あたしも最上に任せたこともあるし、せっかくの仲間なんだしさ。その方が信頼できていいと思うんだよな」

 

そう摩耶や最上に言われたことで、阿武隈は村雨に海図を。時雨には羅針盤を任せている。妙に索敵能力の高い雪風と共に、周囲の深海棲艦の気配察知に全力を注げる。

 

「またこうして響ちゃんと出撃できるなんて思ってなかったのです!」

「ダー。私も本当に驚いているよ。電がサポートして私が主に攻撃する。私と電がいれば怖いものはないよ、阿武隈さん。私たちに任せてくれ」

 

まさかの第六駆逐隊コンビの復活。あのいつも同じ部屋で泣いていた電がいきいきとしている。響も表情は変わらないが声は弾んでいる。やる気がうかがえる。おちゃらけているようで響は真剣であり「深海棲艦の時に電を探すことに夢中になっていた名残か、敵の気配が掴みやすい」と言う響が頼りになる。

 

朝潮と戯れて(?)いる時とは違う。電とコンビを組んで真剣に練習している時は朝潮や大潮でさえほう、と感嘆の息を漏らすくらい見事な連携をする。神通と夕立は攻撃的な動きだが、響と電は本当にお互いを支え合うような、そんな息の合うコンビだと思う。

 

「響ちゃん、進行方向、9時の方向、敵影なしなのです」

「了解。3時方向、背後敵の気配なし。阿武隈さん、敵影はないようだよ」

 

「はぁい。ありがとぉ。そろそろキス島海域に入るから、警戒を強めてね。時雨ちゃん、羅針盤をお願いします」

「了解。羅針盤準備。村雨、海図で交戦ポイントや渦潮の確認、頼むね」

 

「まっかせて!」

 

雪風は阿武隈に付かず離れず。しかし、いつでも戦闘に出れるように万全の準備である。まったくもって隙がない。

 

「電。警戒レベルを上げよう。いけるかい?」

「もちろんなのです」

 

左右で電と響が再び索敵を始めた。村雨はどこからともなく海図を取り出し、時雨は羅針盤の妖精さんによろしくと言っていた。やがて羅針盤のどうにもやる気が見られない妖精さんが「こっちー、あーねたい」と言いつつ誘導する。妖精さんに従い、海を進むと響が何か異変を感じ取った。

 

「阿武隈さん、海面に何かある。何だろう、わからないが何か浮かんでいる」

「なのです。敵かもしれないのです」

 

ギュッと阿武隈の心臓を誰かに掴まれたような気がしたかのように緊張が走る。その隣で雪風が口を真一文字にきゅっと引き締め、手に持った主砲を強く握る。雪風には雪風の信念がある。死なないように。誰も死なせないように。みんなと帰る。みんなと帰るは玲司が来てから増えた信念だ。

 

みんなで一緒に帰っておいで。

 

玲司のこのたった一言を、胸に。いや、魂に刻みつけて雪風は戦うことにした。あの絶望から帰ってきて、眠る前に見た夕立や摩耶、時雨、瑞鶴。目が覚めて、どうなったのだろうと不安に思ってからの夕立や摩耶が自分を心配してくれていた時のこと。全員が無事に帰ってきたんだよと言った時の喜びは、今でも忘れられない。無理をしすぎないように。今回もみんなで帰るんだ。そう雪風は心に決めている。いや。それこそが当たり前なんだと信じて疑わない。

 

(絶対、大丈夫…!)

 

雪風はいつもの言葉を心の中でつぶやいていた。

 

………

 

「これは、戦闘の後だね。この奇怪な砲は深海棲艦のものだ」

「響ちゃん、触ると危ないのです」

 

深海棲艦のものであろう砲をつまみ上げながら響が言う。見れば見るほど不気味な砲だ。ペイっと響は砲を投げ捨てた。ボチャンと言う音と共に沈んだのだろう。見えなくなった。戦闘を危惧していただけに、戦わずに済んだことに阿武隈はふうと息を吐いた。

 

「えっと、今回サポートするべき艦隊達がやったのかな?」

「どうだろ。それにしては、派手に吹き飛んでない?魚雷?」

 

「でもぉ、それだとあたし達が追いついちゃって大丈夫かなぁ?次、戦艦達がいるマスでしょ?水雷戦隊が2つぶつかったところでよくないと思うんだけど…」

 

本来ならば自分たちは先行している別の泊地の水雷戦隊の援護のはず。追いついて共闘し、共に補給地点を攻撃する、と言うのは本来の目的から逸れる。あくまでも阿武隈達は先行している水雷戦隊が補給地点を攻撃し終えた際の護衛を任務としている。追いついていてはいけないはず。では、これは誰がやった?大淀達は違うはずだし…別の誰かがいる?

 

「とにかく進んでみよう。戦闘がないのは運がいいよ。しないに越したことはない。さあ、行こう。羅針盤は北東を目指してる」

「急ごう。日没までには合流するんだろう?」

 

響が時雨の指差す方向を見る。その時村雨の怪訝な顔を見た者はいない。

 

「……!?う、うそぉ!?」

「えっ…」

 

阿武隈と時雨が驚きの声をあげた。彼女達の進行方向には深海棲艦が支配する海域に発生する渦潮があった。気付いた時にはもう遅い。吸い込まれている!

 

「しゅつっしゅちゅりょく最大!みんな、渦潮を全力回避ぃ!!」

 

慌てて言ったせいで舌を噛んでしまったがそれどころではない。早く抜け出さないと、抵抗すればするほど無駄に燃料を食う。一応鹿島から全員、渦潮を抜けるための動き方は教わっていたために、なんとか早いこと抜け出すことに成功はした。ただ、予定よりもやはり燃料を多く浪費してしまったわけだが。

 

「な、なんでこんなところに渦潮があるのよぉ!」

「ね、ねえ阿武隈さん、大淀さんに連絡しよ?ちょっとこの海図、おかしいし、渦潮はこんなとこにないはずだし…」

 

「大淀さんは、些細なこともおかしいと思ったら報告してと言っていたのです」

「ダー。遠くから砲撃音が聞こえるね。東の方角かな?」

 

「東って言ったらもう補給地点だよ?まだ戦ってるのかな?」

「いや、おかしいね。水雷戦隊の砲撃の音じゃない。もっと重い…そうだね、戦艦の砲のような音だ。もしかして、予想以上に味方部隊が苦戦しているんじゃないかな?」

 

「待って、一旦大淀さんに聞いてみよう。ルートがおかしい。村雨の海図。ほら、僕たちはここで東に行くはずだよ。けど羅針盤は北を指すか北東を指してる。おかしくないかい?」

 

北へ行くなんて聞いていない。わけがわからなくなって無闇にさまようよりは、大淀に聞こう。阿武隈は時雨と村雨の言葉にうん、と頷いて無線を繋いだ。無線が繋がると同時に耳をつんざく強烈な爆発音。砲撃を行っているのだろう。それでも構わず阿武隈は無線に声をかける。

 

「大淀さん!こちら阿武隈!大淀さん、聞こえますかぁ!?」

 

しばしの無音の後、ザーッとノイズが走る。そして、聞き慣れた声がする。時雨や村雨が阿武隈を注視し、大淀の声を聞き漏らさないようにしていた。

 

『こちら大淀!阿武隈さん、いかがなさいましたか?』

「大淀さんが説明してくれたルートと違うんですけどぉ!?なんか深海棲艦のバラバラになった艤装とかあるし、渦潮なんて聞いてないんですけどぉ!?どうなってるんですか!?」

 

抗議をしているわけではないが、はたから見れば大淀に抗議しているようにも聞こえてしまう。阿武隈はこの海図、何かがおかしい。何かに気づいたらすぐ連絡を、と言われていたことを言われていたわけだが、やはり予想外の出来事にはまだまだ対応しきれないせいである。

くっ…と言う大淀が狼狽する声が聞こえてから10秒ほど。

 

『申し訳ありません。私がお伝えしたプランは完全に見当が外れ、使い物になりません!その深海棲艦の残骸は私たちが通ったところのものですね!?阿武隈さん、そこから羅針盤はどの方向を示し…わっ!?』

『……!!大淀の……!』

 

大淀の声と同時にうっすら最上の声が聞こえる。大淀にまさか何かが?不安になる。しかし、大淀には申し訳ないが少し頭が冷静になってきた。やっぱり、大淀が言っていた何かがおかしい、と言う言葉は当たっていた。まさか、あの作戦を完璧に練り上げる大淀さんが完全に外れたと言うくらいなのだ。きっと報告をしていなければ今後は不安で押しつぶされるどころか、もうパニックになっていただろう。

 

「だ、大丈夫ですか!?後からでもぉ…」

『くっ、天龍さんが危険かもしれません!羅針盤の示す方角を教えてください!最上さんすみません!』

 

羅針盤!そうだ、ここからはもう未知のルートなのだ。海図は役に立たない。大淀達が通った後を追いかけることになるのか、別になるのか。それさえも手探りだ。もし大淀と同じルートに行ってしまったらどうなるのか。そうなると、もう天龍たちに接触するどころではない。

 

「時雨ちゃん!羅針盤!羅針盤はどっち!?」

「そ、それが…」

 

羅針盤の妖精さんはかなり気まぐれというかダラけていると言うか…。

 

「こっちかもしんないしー。こっちかもねー。さああなたはどっちにいきたいのー?さあさあー。おほしさまをくれー」

 

妖精さんはのんきに羅針盤を行ったり来たりさせて遊んでいる。おほしさま。おそらく提督があげているあの甘い星みたいなお菓子だろう。遊んでる場合じゃない。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださぁい!妖精さん、早くしてくださーいー!ええっとぉ…あ、北東!北東です!」

 

阿武隈の大きな甲高い声で催促をした瞬間に耳を押さえてクラクラしながら羅針盤で遊ぶのをやめた。謎の妖精さんの能力でピタリと針は北東を指した。大淀がやや興奮した様子で返してくる。

 

『阿武隈さん、そこから先は私たちとルートが異なります!私たちは今阿武隈さん達がいるところから東南東にいます!おそらく、そこから先は水雷戦隊でしか進めないでしょう!何かあれば報告ください!』

「わ、わかりました!」

 

交信を終え、無線を切る。全員が阿武隈を見ていた。

 

「皆さん、これから先はもう何があるかわかりません!警戒は最大にしてあたしについてきて!もう日が暮れちゃう…。天龍さん達と落ち合うならそろそろなんだけどぉ…」

「とにかく行こう。もしかしたら、向こうの艦隊も海図がぐちゃぐちゃになってて迷ってるのかもしれない。救助や支援がいるかもしれないからね。僕たちが役に立てるかはわからないけど…」

 

「悪いことが起きなければいいのです…でも、最後までできるなら助けたいのです」

「ダー。電の言う通りだ。阿武隈さん、行こう。警戒は私と電に任せてくれ」

 

「うん、行きましょう」

 

村雨ももう海図を見るのは諦めた。羅針盤に今は従うしかない。鬼が出るか蛇が出るか。もう誰にもわかるはずはなかった。海の底へ沈んでいくかのように、太陽もやがて沈む。道急ぐ背中に宵闇が迫っていた。

 

 

一体どこを走ってきたかもさっぱりわからず、相変わらず北東を指す羅針盤が急に震えだし、針が動き出した。ズズズ…と今度は北西を目指す。一体羅針盤はどこへ導いているのか?正解なのか、それとも海の底へ引きずりこむための罠かと疑いたくなるくらいだった。羅針盤は基本的には艦隊を正しく目的地へ案内する道具だ。妖精さんの加護があり、どういう理屈かはわからないがそうなっている。なので、間違ってはいないと思うが。

阿武隈はルートがまた変わったと大淀に報告しようと思ったが、もう何がなんだかわからずに無線を使って敵に探知されないか心配と言うのもあり、ためらっていた。

 

「一体ここ、どこなんだろうね。北東に行くと島なのに、北西を目指してる。海図では北東の島が目的地っぽいけど、こっちも島だもんね。あーんもう、わけわかんないよー!」

 

北西方向も島。海図の通りに北東へ行けば島。行く先は北西の島。村雨はついに海図を丸めて捨てたくなった。

 

「と、とりあえず羅針盤に従おう…こっちの島にいるかもしれないけど、もういい加減合流してないとまずいと思うよ。うっすら霧も出始めた。霧が出てもいいことはないって大淀さん、言ってたよね。村雨、落ち着こう。阿武隈さん、どうしよう?」

 

あたしに聞かれても…と思いたいがそんな投げやりでいいはずがない。とりあえず、羅針盤に従うしかないだろう。変に逆らうとろくなことにならない。闇夜に霧。姿を隠せるのはありがたいが、大淀が言うにはおそらくここの深海棲艦は霧が出てもそれに合わせた戦術に長けている。霧を信じない方がいい。むしろどこか島に張り付いて隠れている方が良いという判断をくれた。最悪、北西の島はそこそこ大きい。島の陰に身を潜めて夜が明けるのを待った方がいいだろう。

 

「霧が濃くなりそうなら、島で待機しましょ。じゃないと危ないって大淀さんが言ってたし、天龍さん達に合流できればいいんだけどぉ…。ううん、迷っててもしょうがないよね。よぉし、あたしについてきて!」

 

そうして少し動き出したとき、響の耳が何か音を拾った。

 

「待って、何か聞こえる」

「砲撃の音?それにしてはすごい重い音だけど…」

 

しばらく耳を澄ませる。その後、闇を晴らすまばゆい光。照明弾だ。敵に襲われている?考えている最中に何かがこちらに迫る気配。敵か!?響が鋭い目で12.7センチ砲を正面へ構える。照明弾の僅かな明かりで向かってくるのが艦娘だとわかった。電は夜目が効く。

 

「響ちゃん、撃ってはダメなのです!艦娘、艦娘なのです!」

 

その言葉に響はすんでのところで撃つのをやめた。ふう、と小さく息を吐いてごまかす。

 

「戦艦に重巡。まずいよ、撃たれてるのって目標の幌筵の艦隊じゃない!?」

「………!!!」

 

雪風が消えゆく照明弾の先へ目を凝らす。追いかけられているようだ。何とか。何とか助けられないか。自分なら、何とか!

 

「雪風、待って。1人で行くのは危険だよ。行くなら僕も行くよ」

「時雨ちゃん…」

 

「僕たちは仲間だろう?1人よりも2人でのほうが敵の目もごまかせる。危ないのは承知だけどね」

「阿武隈さん見て!艦隊が動き出したよ!そっちへ行こうよ!」

 

村雨が阿武隈の腕を引っ張りながら催促する。阿武隈はとっさに逃げ出している艦隊が5人しかいないことに気がついた。自分でも追い詰められたらやるだろう。仲間を逃がすために。1人残って囮になろうとしている。雪風が真っ只中へ突っ込もうとしているが、もし逃げたほうに負傷者がいるならそちらの援護も優先したい。危険な策ではある。

 

「雪風ちゃん、時雨ちゃん。お任せしてもいい?」

「えっ!?阿武隈さん!?時雨、ダメだよ!」

 

「雪風が行くなら僕も行くよ。雪風1人行かせて後悔はしたくない。大丈夫。雪風も僕も運だけはいいんだ。呉の雪風。佐世保の僕。幸運艦は伊達じゃないよ」

「見捨てるわけにはいきません!」

 

うろたえる村雨をよそに、危険な策に出る。阿武隈、村雨、電、響は逃げた艦隊の救助。雪風と時雨は囮となって戦っているおそらく天龍の支援。最善策はわからない。けど、これが横須賀の艦娘なのだ。救助が必要なら全力で助けて後悔したくない。それがよその艦隊であっても。村雨もわかっているが、姉が。友が。帰ってこないと思うと恐ろしくて仕方がない。でも、できるなら助けたい。首をブンブンと振って気持ちを切り替える。

 

「いい?あたし達はみんなを連れて今から向かう島のこの北側。ここが入り組んでて隠れられそうだからここに逃げ込みます。ここで待つから、時雨ちゃんと雪風ちゃんも海図はあるよね?ここで待ってるからね。絶対だからね!」

 

阿武隈の絶対合流しろと言う命令に強く首を縦に振る。帰るならみんなで、だ。これは絶対の約束。死ぬ気はない。

 

「……雪風、いきます!!」

「時雨、行くよ!!」

 

「阿武隈達も行きます!あっちに追いつかなきゃ!!」

 

響や電、村雨も時雨達に気をつけて、と声をかけて阿武隈に続いた。

 

 

最大スピードで砲撃の音を頼りに時雨と雪風が海をかき分けて進む。電探の反応を頼りに魚雷の発射管を敵がいるであろう方向へ向ける。それと同時に、雪風の考え、と言うか仲間を守るために危険な賭けに出るための探照灯。一瞬だけつけて敵の位置を確認。時雨はそれを見逃さなかった。魚雷を発射。逃げ回る天龍も発見し、そちらへ向かう。

 

しばらくして、爆発音。敵の反応が1つ消えた。グッと静かに時雨にしては珍しいがガッツポーズを小さく決めた。

 

呆然とする天龍に追いついた時雨達。

 

「天龍さん、だね?大丈夫かい?」

「っ!?」

 

背後から突然声をかけられて驚く天龍。雪風が天龍の前に出る。時雨は冷静に天龍を誘導する。

 

「さあ、ここは一旦離れよう。天龍さん、仲間はどこへ?」

「え、あ、ああ…北へ逃げてる。やべえ、暁が大破して、それをリ級が追いかけてるんだ!」

 

その言葉にバッと時雨が後ろを振り返り、阿武隈達の向かった先をにらんだ。状況はとてもよくない。しかし、今は自分たちのできることをするしかない。阿武隈達を信じるしかない。時雨はつとめて冷静に天龍に声をかける。

 

「阿武隈さんが向かった方向だね。大丈夫。そっちに本隊が向かってる。すぐ追いつくよ」

「は、はあ。で、テメエは一体…」

 

「僕かい?僕は…」

「今のうちに逃げてください!ここは引き受けます!」

 

雪風も安全を確保しつつ探照灯を手にやってきた。そして、天龍に名乗る。

 

「横須賀鎮守府所属、駆逐艦『時雨』。救助に来たよ」

「横須賀鎮守府所属、駆逐艦『雪風』!これより離脱の支援をします!!」

 

横須賀きっての幸運艦。小さな2人の大きな戦いの幕が切って落とされた。




ようやく天龍達と合流できました。キス島へんはまだまだ続きます。

イベントも無事終わり、何とかサラトガ以外は新しい艦娘をお迎えできました。海外艦はいつ出そうか。誰を出そうか悩みますね。

次回もキス島絶体絶命編をお楽しみいただけましたら幸いです。
それでは、また。

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