提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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天龍の助けに入った時雨と雪風。そして天龍が逃した艦隊の救援に向かった阿武隈達。

三条、九重提督の艦隊の大ピンチ。この窮地を無事切り抜けられるのでしょうか?


第七十九話

「よし、オレが囮になるからお前らは先に合流しな。この天龍様を甘く見るんじゃねえぜ」

 

天龍が前に出て駆け出そうとするのを雪風が服の裾を引っ張って止めた。

 

「天龍さん、雪風が前に出ます。天龍さんは雪風に集中している深海棲艦を攻撃しながら後退してください」

「はぁっ!?馬鹿言ってんじゃねえよ!相手にゃ戦艦がいんだぞ!一発もらったら終わりなんだ!」

 

「それなら天龍さんだって一緒でしょ?」

「ぐっ…」

 

時雨の指摘に天龍は言い返せない。バルジを積んでいるわけでもないし、たとえ積んでいたとしてもル級の一撃には焼け石に水だ。多少は雪風や時雨より装甲は厚いかもしれないが、天龍も雪風も、時雨も。ル級の一撃をもらえばほぼ確実に大破は免れない。最悪一撃で沈められてしまうだろう。

それでも天龍は駆逐艦が命を張って囮になるのが我慢できない。駆逐艦を幌筵泊地の中では誰よりも大切にしているのが天龍だ。口は悪いがそれでも一番提督以外に駆逐艦が懐くのは天龍。自分のおやつを分けてあげたり、いざとなれば今回のように自分が矢面に立って駆逐艦を守る。たとえそれがよその駆逐艦であったとしても例外ではない。

 

「心配だけどね。でも、雪風はこういう時、誰よりも強いし、避ける。そう思ってる」

「け、けどよ…」

 

「時間がありません!時雨ちゃんは先に阿武隈さん達を追いかけてください!雪風が時間を稼ぎます!」

「わかった。雪風、後でね」

 

「お、おい時雨!お前まで!」

「リ級が追いかけているんだろう?まさか後ろから来るなんて思ってないだろうし。まずは僕を狙ってくるだろうから、それを雪風に繋げるよ」

 

「時雨ちゃん、お願いします!」

「わかった。じゃあ、行くよ!」

 

時雨がル級達を背に走り出した。逃げたと思った深海棲艦達は走り出した時雨を狙う。その隙を逃すまいと雪風が魚雷発射管をまずへ級へと向けた。ル級への魚雷攻撃も考えたが、確実に撃沈できるであろうモノから潰していこうと雪風は計算した。やれるものからやる。これも雪風に染み付いた生き残るための選択方法である。まずは相手の攻撃の手数を減らすことが重要だ。

 

シュバッと倉庫整理をしていたら見つけた61cm五連装酸素魚雷。明石曰く「こんないいもの持ってたのに埃かぶらせてたの!?」と言わしめた強力な武器だ。雷跡を残しにくいその魚雷は静かに素早くへ級の下へと向かっていく。それと同時に雪風が敵陣へと向かっていく。素早い動作に天龍は制止できなかった。

 

「あのバカッ!!」

「天龍さんは敵の駆逐艦を狙っていてください!!」

 

へ級が魚雷に気づき、何とかかわしたがすぐさま雪風の砲撃は飛んできた。夜は駆逐艦が攻めるチャンスがある。魚雷に関しては当たってくれればいいと言うくらいのもので、魚雷にすっかり気を取られたへ級に雪風の主砲からの砲弾がめり込む。ギッと声を漏らす。雪風の砲撃の正確さは横須賀の駆逐艦の中でもトップ。これには鹿島も舌を巻いた。へ級の砲を破壊し、連撃で大破。これにより、攻撃の手を1つ減らした。

 

「すっげ…なんだあいつ。っと、呆けてらんねえよな!」

 

天龍も負けじと砲を撃つ。天龍は駆逐艦を狙いつつも、戦艦ル級の気をひくために挑発的に撃ち込む。もちろん、距離は十分に取っている。雪風が気が気でなく、少しでも雪風の負担を減らしたいと思っている。本当なら雪風を庇いに前へ出たいが、2人が前へ出てしまっては的にしかならない。駆逐艦へは当てに行くが、戦艦に対してはわざと外して挑発を行う。いつでも当ててテメエくらい沈めれるんだ。こっちを撃ってこい。

 

一方でル級達にとっては直撃させられる距離にいる雪風。軽巡の攻撃は鬱陶しいが、こちらも確実に仕留められる駆逐艦からやってやろう。その後を軽巡も悔しさと怒りに苛まれて死ねばいい。

 

ふぉー…と雪風は大きく息を吐いた。久しぶりだ。自分が生き残るため。仲間を逃がすため。失敗は許されない。雪風は自分を奮い立たせる魔法の言葉がある。「絶対、大丈夫!」。この一言で雪風は集中力を極限まで高めることができる。雪風の幸運と培ってきた生き残るために技術。これを組み合わせに魔法の言葉。最近ではもう一つ、雪風を勇気付けると言うか、集中力を高める中でも不安を取り除く言葉がある。

 

「おかえり。雪風」

 

司令の言葉。笑顔で頭を撫でてくれながら言ってくれる言葉。スッと不安が取り除かれる。いつもの穏やかな表情は姿を潜め、敵を威圧するほどではないが、真剣な表情に変わった。ル級やロ級が雪風に一斉に砲を向ける。天龍はそれを見て焦りを隠せない。

 

「おいコラ!こっちを見やがれ!オレもいるんだぞ!チッ、焦ってる場合じゃねえ。オレが焦ったら終いじゃねえか。幌筵の総旗艦、天龍様をナメんじゃねえぞ!」

 

天龍は冷静に緑色に光る目を頼りにロ級を狙う。相変わらずル級が邪魔で狙いが定まらない。雪風があれだけ強く言ったのだ。攻撃のチャンスを一瞬たりと見逃すまいとロ級に狙いを定め続ける。

 

「いち、に、さん…いち、に、さん…」

 

雪風がボソボソとリズムを取っている。神経を研ぎ澄ませ、視覚、聴覚などを研ぎ澄ませ、余計な情報は切り落としていく。目は敵のみを見据え、耳はわずかな音も見逃さない。頬を撫でる風でさえ、鳥肌が立つくらい感覚が研ぎ澄まされる。キーンと耳がうるさいくらい、雪風は静寂に包まれている。しかし、「いち、に、さん」と言うリズムの口ずさみは忘れない。いち、に、と言ったところでル級の目が僅かに動いた。

 

「さんっ!」

 

自分の理想通りに敵が動いた。雪風は弾け飛ぶように横へ飛んだ。ル級の砲撃を追うように、もう一隻のル級、駆逐ロ級の雪風への一斉射撃が始まった。雪風は敵から目を離すことなく、弧を描いたり、跳ねたりとせわしなく動いて攻撃をかわす。そのトリッキーな動きは敵を翻弄する。8の字を描いたり、かと思えば深くしゃがみこむ。上半身を逸らすなど、おおよそ回避行動をしているのか?とはたから見る天龍は思い込んでしまうほどである。

 

回避行動と言うよりは踊っているように見えた。海上を舞う白い妖精か何か。反撃は繰り出さない。繰り出す暇がない。「いち、に、さん」とリズムを取って回避に特化した雪風が生き抜く上で身につけた特殊なスキルだ。1対6で逃げねばならない時も。誰かを逃がす時も。雪風はこの舞のような回避方法で生き延びてきた。しかし、極度の集中と激しい動きに体力を著しく消耗するため、短時間しか使えないのが欠点であった。移動方法も我流で無駄が多く、体力の消耗も激しかった。

 

雪風の動きを不思議に思った鹿島が聞くと、仲間を守るための自分なりの動きだと言った。込み入った事情が横須賀にはあると聞いていたのであえて何も聞かず、鹿島は雪風の動きから徹底的に無駄を削いだ。足の動き、体の動き、体幹。鹿島の指導と雪風の飲み込みの早さから形になった。鹿島もまるで妖精が踊っているみたいと感じた雪風の動きは完成した。

 

「すっげ…全部避けてら…いけね!」

 

雪風の動きに見惚れていた天龍は我に返ってもう一度ロ級に照準をつける。当たらない苛立ちからか、妙にル級が前に出てきている。動きが全く読めていない。

 

「いち、に、さん。いち、に、さん。トントンタン」

 

これだけ大きく動けば雪風の体力もかなり消耗する。さらに前へ出たル級のおかげで、ロ級が丸見えである。

 

「へっ、バーカ!丸見えだぜ、喰らえ!!」

 

雪風に意識が集中し、天龍が何をしているかなど見ていなかった所を天龍が砲撃。無防備にル級に守れられていると思っていたロ級は防御も回避もできないまま直撃。さらに天龍は猛攻を加える。

 

「雪風!!ずらかるぞ!!!ドンガメのル級だけなら逃げ切れる!!来い!!!」

「!!!」

 

自分を呼ぶ声が聞こえて天龍の声がする方を見る。よく見ればいたはずの駆逐艦が消えている。天龍はル級を狙ってガンガン砲を撃つ。ル級も負けじと天龍を狙うが、いつのまにか距離を取られていた。ならばと駆逐艦を見るも、駆逐艦も素早く離脱を試みている。逃がすまいと砲を撃つが…。

 

「いち、に、さん…いち、に、さん、し!」

 

相変わらず動きが一定でない駆逐艦に狙いが定まらず、みすみす距離を離される。追いかけようにも速度が違う。へ級は瀕死でほぼ動けない。駆逐艦はやられてしまった。

 

「雪風!もうちょいだ!頑張れ!」

 

天龍が必死で手招きをル級から距離を取りつつ雪風を呼ぶ。ぐねぐねと大きく蛇行と直進、急制動を繰り返して天龍へと近づく。

 

「あばよ、ドンガメの戦艦さんよ!これでも喰らっとけ!!」

 

天龍が携えていた、暁が間違えて持って来ていた探照灯をル級の顔面に照射する。強烈な光に目を瞑る。それを見た雪風もまた探照灯をもう1隻のル級に照射。2隻とも強烈な目くらましに動きが取れない。

 

「雪風!全力で走れるか!?」

「はい!まだいけます!」

 

「よし、ケツまくって逃げんぞ!これはオマケだ。釣りはいらねえ、取っときな!!」

 

一発ずつ、頭目掛けて撃った。目が眩んでいたル級の1隻に運良く直撃。そのまま雪風の後を追うようにその場から無事離脱。結果としては、雪風が大きく体力を消耗したものの、ほぼ無傷で離脱に成功。ただ、天龍としては結局母港に戻るにはまたここを通らなくてはならない危機感と、大破して意識がない暁。そして、次はもう使えない雪風の回避行動。危機は未だ去っていない。ここを越えるにはどうすればいいか、一寸先は闇の状態である事に変わりはないことが気がかりであった。

 

しばらく逃げた後、後ろを振り返るが追っ手はない。ふう、と一息ついたが、雪風がもう足がもつれそうになっていた。

 

「雪風、もう大丈夫だ。掴まれ。オレが運んでやるよ」

「ゼェ…ゼェ…ゆき、雪風は、まだ、かひゅっ、平気、です!」

 

「バカ言ってんじゃねえよ。ヨレヨレじゃねえか。休んで息を整えてな。オレが引っ張ってやっから」

「ハァッ!ハァッ!すみま、せん…」

 

「いいってことよ。ありがとな。雪風のおかげで助かった。オレも。みんなの逃げる時間も稼げた。すげえよ、雪風」

「いえ、て、天龍、さんの!援護が、ハァ…あった、おかげ、です…」

 

「ここまで来りゃ追っ手は来ねえ。ちょっと止まろう。雪風の息がヤバイ。ヒューヒュー言ってんじゃねえか…」

「ゼヒュー、ゼヒュー!」

 

雪風の呼吸の音がおかしい。相当な無理をさせてしまったと天龍は悔しかった。油断してた自分たちが悪いのに、こんな小さい子に無茶させて。バカヤロウが…。

 

「雪風、そら、抱っこしてやっから。休んでな。水、あっか?飲んどけ。ないならほら。うちの提督自慢のスポドリだ。酸っぱいぞ。でも、疲れが取れやすくて体力回復にも役立つから。悪いけど暁たちが心配だ。もちろん、時雨もな。よし、行くぜ!」

 

大きく体を上下させ、大きく息を吸っては吐いてを繰り返す雪風を抱きかかえ、天龍は時雨が言っていた地点を目指した。暁や睦月たちが心配で仕方がないのだ。うっすらと白い霧のようなものが出始めた海を、なるべく雪風の負担にならないように進んだ。心配性ゆえに、5分に1回は「雪風、大丈夫か?」と聞きながら。

 

 

リ級の追撃から逃れつつ北へ向かう叢雲たち。未だに逃げながらの戦い方を知らない叢雲たちは焦りでまったく当たらない攻撃に苛立ち、怒りを露わにしながら逃走を続けていた。

 

「なんで、なんで当たんないのよ、クソ!海の底に、消えろ!!!」

 

叢雲のもう何回目かもわからない砲撃。黄色く光る奴の目を頼りに狙いを定めるがいとも簡単にかわされ、こちらが砲撃を受ける。意識の戻らない暁を抱えて走る睦月と雷は必死に暁に当たらないように逃げ回る。このままでは叢雲や如月と離れてはぐれてしまう可能性が高くなって来た。1隻はやった。あと1隻。こいつがしつこいのだ。そして、執拗にわかっているらしく、暁を狙っている。

 

「きゃっ!?」

 

暁たちの方から軽く爆発音が聞こえる。ま、まさか…。

 

「雷ちゃん!?」

「へ、平気よ!暁にはかすりもさせないんだから!!」

 

確実に捉えられている。雷が被弾。追われる恐怖。逃げ切れない緊張感。暁がやられるかもしれない危機。叢雲も涙を流しながら怒りに我を忘れかけていた。

 

「クソ、クソ、クソ!!!当たれ!当たれ!!当たれえええええええええ!!!当たりなさいよ!!!!」

「そんなんじゃ、当たらないよ…」

 

聞いたことのない声が聞こえた。しかも、自分のとなりで。思わず振り向きざまに撃ってしまいそうになったが何とかこらえた。

 

「しっかり、かまえて。リズムを取って。いーち。にーい」

 

のんびりしている暇はないが、なぜか従ってしまう。震える手が落ち着き、ピタリとこれまたなぜかリ級にしっかり吸い付くかのように狙いを定めている。

 

「全員、撃ち方始めてくださぁい!!!」

 

その声と同時にとなりからも「さん」と小さく声が聞こえた。その声と同時に叢雲はトリガーを引く。隣の誰かも同時に撃ったらしく、マズルフラッシュが闇を照らす。一筋の橙色の筋が2本。別の場所から飛んできたであろう2本がリ級を襲った。威力が軽いせいだろう、当たったようだが撃沈まではいかない。

 

「ちぃ!」

「もう1回、いこ。ちょっと、早いよ。いち、に、さん」

 

さらにもう一発。増えた攻撃にリ級は敵を捉えられない。そして…。

 

「魚雷もあるんだよっ!!」

「残念だったね!」

 

また知らない誰かの声が聞こえたと思いきや、数秒後には落雷のような耳をつんざく轟音が聞こえた。

 

「やったぁ!直撃!!って時雨!?」

「ちょっと遅かったかな。結構飛ばしてきたんだけど」

 

援軍!助けが来てくれたと敵の気配が消えて初めて気づいた。隣からも「おつかれさま」と小さく声が聞こえた。

 

「ちょ、ちょっと、あんた誰よ!いきなりで撃つとこだったじゃない!」

「みなさーん!ご無事ですかぁ!?」

 

隣にいる帽子を被った駆逐艦と思しき誰かに何者かを聞こうと思った時、近くで大きな声が聞こえた。艦娘で間違いないらしい。天龍が言っていた、横須賀の艦隊のようだ。

 

「ふぇえ…助かったにゃしぃ…雷ちゃん、大丈夫?」

「ええ、何とか…でも、もう雷も戦闘はできないわね…」

 

「雷ちゃんなのです!?」

「なんだって、雷!?」

 

睦月が安心しているとこっちにやってきた艦娘がいた。どちらも驚きの声をあげている。雷が緊張した様子でいると、やってきた2つの人影。

 

「雷ちゃん、大丈夫なのです!?」

「雷、助けに来たよ。私たちは援軍だ、心配ない。ケガをしているのかい?問題はないかい?」

 

「雷は大丈夫よ。それより、ほら…暁、暁が死んじゃう……!」

 

「暁ちゃん!?」

 

雷はわかった。この声が自分の姉妹である響と電であると言う事に。だからこそ、暁を助けられないかと2人に救いを求めた。

 

「暁?暁!?大丈夫か!返事をしてくれ暁!やだ、やだ!暁、死んじゃやだ、暁!返事をしておくれよ!私だ。響だよ!お願いだ、返事をしてくれ!暁、死なないで!」

「響ちゃん、落ち着くのです!」

 

暁を揺すろうとしたところを電が止めた。所属は違えど、ここに第六駆逐隊が揃った。

 

「雷ちゃん。代わるのです。中破の状態では辛いのです」

「え、ええと、いいのよ電。逆にそんなひどいわけじゃないけれど、戦闘の邪魔にはなるだろうから、雷に任せて!」

 

「暁、暁…だ、大丈夫なのかい?し、沈んだりは…」

「今こうして浮いているから大丈夫だよ。でも、次に敵の攻撃を受けたらだめかも…」

 

「睦月、私に代わってくれないか?」

「響ちゃんは攻撃の要ですし、索敵にも影響が出るのです。暁ちゃんは今は大丈夫らしいので電たちで守るのです!!」

 

「う、うう…」

 

電に叱責され、沈み込む響。さすがに所属する所が違えど、姉の一大事に響の心は大きく動揺してしまったようだ。冷静さがかけらもない。いざという時、度胸があるのはやはり響と戦った時も冷静だった電。響の暴走を止められるのはやはり電しかいない。そう思って電と響をコンビにさせたのだ。霰や村雨では止められなかっただろう。

 

「と、とりあえず、あんた達、横須賀の艦隊?助かったわ…私たちも暁がやられて冷静でなくなってたわ。みっともないところを見られたわね。阿武隈、あんたが旗艦?あんたに指揮は任せる。指示をちょうだい」

 

そう振られた阿武隈は冷静に、天龍はこちらの雪風、時雨が援護に向かったこと。ただ、時雨はすでに合流。背後からリ級を襲おうと思ったが、すでに阿武隈達が合流、とりあえず村雨に並んで魚雷を撃ってみたとのこと。

 

「天龍さんなら大丈夫じゃないかな。戦闘慣れしているみたいだし、雪風の回避に特化した動きはそう簡単に破られるものじゃない」

「そっかぁ。じゃあ、予定通りここで夜が明けるまで様子見ね」

 

「はあ!?明るくなってから動くって何考えてるの!?」

「もちろん場合によっては夜中に動きますよ。でも、敵が真っ暗な中でも正確に狙ってきたなら、夜も朝も関係ないよね?」

 

「そ、それはそうだけど…」

「あたしの所の大淀さんが、夜は霧が出ていようと動かない方がいいって言ってたので、それを信じます。雪風ちゃんに合流場所を教えたので、合流して様子を見て動くか、天龍さんと考えましょ?」

 

意外にも阿武隈は冷静で案をサラサラと出していく。まずは天龍、雪風が合流しないことには、彼女たちを置いてはいけない。どこから来るかわからないくらいなら、わかりやすい明るいうちの方が、こちらはまだ人数も手数もあるのである程度何とかなりそうなこと。大淀が言う夜、かつ霧が出ていて視界が悪い際は動かないことを推奨することというアドバイスを守ること。

 

「たぶん、大淀さんから提督に報告が行って、何か動きがあるかもしれないから、あたし達だけで変な考えでいくほうが危険だと思う。だから、夜が明けるまで待ちましょうね?」

 

他の阿武隈はどちらかと言えばこんな時はパニックになって島影を船影と勘違いして魚雷でも発射してしまいそうな感じだが、横須賀の阿武隈はとても冷静で、時雨や村雨、霰とも相談をして意見を交わし、何が良くて何が悪いのかを1人では決定しない。これも叢雲は知る由もないが、摩耶や最上、鳥海と言った仲間から教わったことだ。

 

「旗艦がパニクったら艦隊は機能しない。自分で考えがまとまらないなら随伴艦に意見を聞け。仲間なんだからみんなで考えろ」

 

阿武隈が取り乱さずに済んでいるのは村雨や時雨、至極冷静な霰の意見があるから。意見として合致しているのは「大淀の言うことを信じよう」であり、とりあえずは隠れていよう。雪風は放っておけない。と言うこと。無線は使うと場所がバレるかもしれないので封鎖。本当なら大淀に助けを呼びたいが、敵がどこかで復活して待ち伏せされていて無線を傍受されるかもしれないと言う危険性がある。

 

「阿武隈さんにしては冷静な判断だよね」

「ちょっとぉ、村雨ちゃんそれどういうことぉ!?」

 

「あははっ、冗談冗談。さ、阿武隈さん、指示をお願いします!はいはーい、早く!」

「んううう、なんか納得いかないけどぉ…皆さん、あたしについてきて!これから朝になるまで隠れて雪風ちゃんと天龍ちゃんを待ちます!じゃあ、行きますよー!」

 

負傷し、重傷の暁を庇うように囲んで輪形陣。暁のことで取り乱している響の代わりに村雨、時雨、霰、叢雲が周囲に気を配り、如月は阿武隈のフォロー。霧がいよいよ濃くなってきた闇の海を、阿武隈達は目的地へ向かって突き進む。時々、最後尾にいる霰が雪風を心配して後ろを振り返る。当然、白い霧に包まれて見えるはずもないが、その中から雪風が出てきてくれないかな、と淡い期待を抱いて。

 

 

「チッ、霧が濃くなってきやがったぜ。この霧は良くねえ感じがするな」

「方角は合っています。このままいきましょう」

 

「砲撃音や爆発の音はなくなったな。はぁ、早くあいつらの顔が見たいぜ。心配でしょうがねえ」

 

一方で天龍と雪風も、天龍が持っていた羅針盤を頼りに雪風が言う目的地へと向かっていた。ある程度体力が回復した雪風は天龍の負担を軽くするために自分の足で海を割って進む。天龍はいいのに…と言ったが雪風が頑なに自分で進むと言ったので、仕方なく折れた。

 

「霧、ね。こりゃあ敵からしたら大チャンスだわな。お前んとこの大淀が霧に気をつけろって言ってなかったら、これをチャンスって思って撤退してたかもしれねえなぁ。オレはよくわかんねえけど、嫌な予感しかしねえ」

 

「大淀さんはとっても頼りになります。大淀さんに会いたいです。けど、今はそうも言ってられません」

「強えなぁ雪風は。んだな。ま、会うためにもまずは阿武隈は叢雲達に会わなきゃな」

 

「はい!絶対、大丈夫!」

「んだよそれ。ま、急ぎますか」

 

キス島の戦い。夜は、まだ長い。




最大の危機は抜けたようですが、まだまだ追われていることに変わりはありません。この先、天龍と雪風は無事合流できるでしょうか?そして、暁は大丈夫なのでしょうか?

もう少しだけ北方海域戦、続きます。

それでは、また。
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