横須賀鎮守府のブラック加減は留まることを知りません。まだまだ心に大きな傷、闇、爆弾を抱えた艦娘が少なからずいます。その闇の大きさは玲司にも計り知れません。時には玲司を危険に晒してしまうことにもなります。はたして玲司の運命やいかに。
追記
誤字修正と、一部何か話がかみ合わない部分の加筆を行いました。誤字指摘、ありがとうございます!
扶桑と時雨と別れ、執務室へと向かうことにした玲司。大淀が書類整理をしているのだから、自分がさぼるわけにはいかない。寮から執務室へ向けて歩いている時だ
「あれ、提督さんじゃん!戦艦寮で何してんの?」
ばったりと寮の入り口で出会ったのは瑞鶴だ。後ろには銀色の長髪が美しい一人の女性がおどおどと瑞鶴に隠れていた。
「瑞鶴か。いや、何。戦艦扶桑がいるって聞いてな。ちょっと会ってたところ」
「ええっ、扶桑さんが!?それって私も知らなかったよ。へえ、戦艦はてっきりみんな…いなくなったかと…」
「どうも名取が匿っていたらしい。極秘で。みんなが知ってると誰かからヒキガエルにバレるだろうからな」
「そう言われれば確かに…。でも、うちに戦艦は一人でも貴重だから助かるね。やっぱり、ね」
そう言って瑞鶴は一人で何かを納得したのかうんうんと一人でうなずいていた。
「ところで、それはもう終わったんでしょ?今度はどこ行くの?」
「執務室。提督の仕事をしようと思ってな。ヒキガエルがサボってた書類を片付けなきゃな。あいつのせいで思いっきり書類が溜まってる。大淀に任せっきりってわけにもいかないし」
「へーえ。まじめに仕事するんだね。料理命かと思ったのに。ニシシ」
「当たり前だ。俺は提督だぞ?ちゃんとやるべき仕事はやるであります」
「あっはは!感心感心!」
「後ろにいるのは翔鶴だな。はじめまして。俺は三条玲司。一応ここの提督だ」
「一応って何よ…れっきとした提督さんでしょ?」
「コック兼提督だよ。メインは飯作ることー」
「うっわ、提督が副業って…この鎮守府大丈夫かな…」
「何、見てな。ほかの鎮守府なんかあっと言わせる鎮守府にしてやるからさ」
「ほー、言ったなー!できなかったら爆撃してやるんだから!」
瑞鶴と提督と言う男と仲睦まじく話している所を、茫然と見る翔鶴。その瞳は、少し前の北上や大淀のように生気が感じられない。しかし、翔鶴はねっとりと…なめまわすかのように玲司を見ていた。
「初めまして、提督。あ、あの…翔鶴型航空母艦一番艦…翔鶴です。どうぞ…よろしくお願いします…」
そう言って玲司に向けて笑顔を見せた。しかし、その笑顔はニタア…と何かねばつくような…何か寒気をもたらす、言うのも悪いが気持ちの悪い笑顔だった。視線もどこかおかしい。じーっと玲司の目を生気のない。しかし薄気味悪い表情で見ていた。
「おう。よろしく頼むな。んじゃ、悪いけど仕事するから行くな」
「提督…よろしければ。もう少しお話をしたいのです…貴方のこと、もっと。…もっと知りたいので」
…もっと話がしたいというにはくどいがどこかが異様だ。こちらを引き留めて何かを企んでいるかのような。そんな顔をしている。
「私…あなたが来られる前の提督に…ひどいことをされて…男性恐怖症なんです。三条提督は、怖くないし、優しいと瑞鶴がいつも言っているので…気になりまして。それで提督と親密になってその…恐怖症を克服したいのです…。そのためには三条提督と、もっとお話を…したいのです…フフ」
「ちょちょちょちょ、翔鶴姉ぇ何言ってくれてんの!?そんなこと言ってないし!」
「あら…さっきも言っていたじゃない…ご飯もおいしいし、優しいって…」
「あーうー…、そ、それはその…」
一見普通に見える姉妹の会話だが、翔鶴は瑞鶴のほうを見ずに会話をしている。視線はやはり玲司に張り付いたままだ。話し方も過去に見た翔鶴とはまるで違う。快活で瑞鶴瑞鶴と言うシスコン気味ではあるが、はきはきとしゃべる。
今の翔鶴は別人だ。色気があり、煽情的な。男の欲をかきたてるような喋り方。
「悪い。大淀を待たせるわけにはいかない。行くよ」
「ん。わかった。ヘマして大淀を困らせないでよ!」
「大淀より書類整理には慣れてらあ!」
そういって玲司は執務室へと向かった。去っていく玲司を名残惜しそうに見つめる翔鶴。
(………わたしの話、あまり聞いてくれなかったな…瑞鶴とばかり…瑞鶴が…あぶない。わたしがいかなきゃ)
「翔鶴姉ぇ、ごめんね。さ、もう部屋に戻ろっか」
「そうね…ねえ瑞鶴。提督、優しい人だったわね。前の提督なら、瑞鶴の今のような喋り方をしていたら…」
「もう、今は今。前のあんな奴と今の提督さんは違うって!今度はきっと大丈夫だよ。ね?」
「そう…ね。一度、ゆっくりお話がしたいわ。そう…ゆっくり、とね」
「うん!また今日の夕飯は何かなー!楽しみだね!」
「ええ…」
もう玲司はいない廊下を見つめながら瑞鶴の話を聞いていた。その瞳は…光がないまま。
/執務室
「悪いなぁ、大淀。こんな馬鹿みたいにある書類、頭が痛くなんだろ」
執務室の机が重みで潰れそうな書類の束の処理をしながら大淀に詫びる。
「いえ、これくらいどうと言うことはありません。安久野提督の時はこの量よりは少ないですが、いつも私が処理していましたから」
「ヒキガエルはほんとにどうしようもねえな。大本営も人が足りねえからって逆に鎮守府が滞ることしかしない馬鹿を教育もせずに送ってくんなっての」
玲司の愚痴に大淀は苦笑いを浮かべる。玲司の言うことはもっともだ。しかし、大淀はあくまでも艦娘のため、いかに安久野と言えど強くは言えない。北上は普通にヒキガエルとも言うし「次顔を見せた時は魚雷でもぶち込んでやりたいね」と言うが、大淀はそこまでの度胸はない。
しかし、さすがにかつて執務をこなしていただけのことはある。書類の処理をする速度は大淀に引けを取らない。これを片付けなければこれから先の執務にも影響は出てしまう。早く終わらせなければ…
「あ、大淀。この憲兵と整備員の履歴書シュレッダー。うっわ、ヒキガエルの奴。
まーた犯罪者みたいな顔の憲兵を採用しようとしたんだなぁ。はは、こいつニワトリみたいな顔してんな」
「え、ええ?よろしいのですか?憲兵や整備員は必要では…」
「いや、古井司令長官に頼み込んで人間は俺だけを配置する。セキュリティはしっかりしてるし、夜は警備専門の妖精さんがいる。妖精さんはこの道のプロだ。憲兵なんかよりはるかに役に立つ」
今、横須賀鎮守府にいた妖精さんと玲司が連れてきた妖精さんとが加わり、鋭意鎮守府の修復、清掃を任せている。夜には侵入者をいち早く察知し、トウガラシ爆弾と名付けた催涙弾を発射する武器を持ち勇敢に敵を追い払うスペシャリストがいる、
実際に厨房に侵入し、冷蔵庫を漁ろうとした原初の艦娘赤城を発見、トウガラシ爆弾とすばやい動きであっと言う間に縛り上げ、真夜中の大捕り物をやってのけた歴戦の戦士なのだ。
その後、赤城は玲司と総一郎にこってりと絞られ、一ヶ月食べる量を半分に減らすと言われ大泣きし、総一郎に「お父さんごめんなさあああい!」と本気の土下座を見せた。(総一郎は甘いので一週間で罰はなくなった)
「そ、そうなんですね…すごいですが…赤城さん…」
「まあ、そういうわけで人間に強い不信感を持ってるのに人間を大人数招いたらまた怯えてしまうし、フラッシュバックするだろう?だから人間は採用しない。工廠には明石を招いているから心配しなくていいぞ」
「明石が来るんですか!?ですが、一人では…」
「なあに、明日来るんだけどこの明石は明石の中でも特別な奴だ。原初の艦娘の一人だ」
「原初の艦娘、ですか?」
「そう。艦娘がこの世界に初めて現れたときの十人。それが原初の艦娘」
原初の艦娘。突然海から現れた謎の生物、深海棲艦の出現により、世界の海は寸断されてゆるやかな破滅を待つばかりだった人類の最後の希望。街を襲い破壊の限りを尽くした深海棲艦と唯一戦うことが可能な者たち。艦娘。
その始まりは僅か10人の艦娘の集まりでしかなかった。やがて人類は艦娘たちと共に現れた妖精さんも加えて艦娘や兵器を開発できる力を得、たくさんの艦娘がこの世には存在する。今の大淀や北上も、そのうちの一人だ。
原初の艦娘は増産技術が確立してからの艦娘とは圧倒的に違う能力を持っている。故に最後の切り札とも呼ばれている。その中の一人、工作艦明石。主に艦娘の軽微な修理を行うことができる「泊地整備」と艦娘の装備を強化することができる「装備改修」が主な役割であるが、「
他には重巡リ級までなら蹴りだけで殺せる「刃の女王」陸奥。「空の女王」赤城。「炎の女王」龍驤。「大鷲の眼」利根。「未来視」の高雄。「雷の女王」木曾。「宵闇」川内。「ハヤブサ」島風。「黒狼」磯風。そして「契の女王」明石。
明石は戦闘はからっきしなので、明石を除いた9人と鎮守府や泊地、警備府の各エースを集めた100人で勝負をさせたところ、原初の艦娘が余裕で勝利したという伝説がある。
「す、すごいんですね…原初の艦娘…そんなすごい方が来てくれるなんて…」
「いやあ、俺の飯が食えないなら仕事しないって喚き倒してうるさいからそっちで面倒見ろって言われちゃってさ。おやっさんも娘に甘すぎるよなぁ」
「え、ええ…」
聞けば聞くほどすごい艦娘だというのに、こちらに派遣された理由があまりにもお粗末だった…。伝説の艦娘はかなりわがままらしい…。それにしても「契の女王」の能力とは一体…?
「まあ、明日になりゃわかるよ。楽しみにしてな。おもしろいぜ、原初の艦娘は」
「はい。楽しみにしておきますね」
「さって、今日はここまでにしよう。俺は晩飯の支度がしたいからな。今日はカレーだ」
「わあ、カレーですか!初めてです!楽しみにしていますね!」
大淀がキラキラと輝いて提督を見る。その視線は気にもならない。やはり、先ほどの寒気がするような視線は一体何だったのだろうか?よくはわからないが玲司は執務室を後にした。執務室で一人後片付けをしていた大淀だったが玲司から聞いた話を頭の中で整理していた。
「あれ…?司令長官をおやっさんと言ったり、原初の艦娘なんてすごい艦娘をここで任されるって…提督って本当にただのコックなんでしょうか…?」
ふと大淀はそんな疑問を独り言ちた。
/
食堂では大淀から献立を聞いた駆逐艦、そして目を輝かせている瑞鶴が今か今かとその完成を眺めていた。瑞鶴の隣には翔鶴もいた。そしてやはり、じっと玲司をねばつくような視線で眺めていた。
「カレーだって時雨!私初めて食べるよ!」
「ここにいる子たちはみんな初めてだよ…。いいにおいだね。これは僕もお腹ぺこぺこだよ」
「うわあ、すっごくいいにおい!ボクも待ちきれないよ!」
「えへー。おいしそう!はやくー食べたいな~」
「はーい、ご飯はこっちだよー。勝手によそうんだよー」
「北上ちゃん、ちゃんとよそってあげようよ…」
「えー、めんどくさーい。名取やってー」
そうこうしているうちに玲司と間宮が大きな鍋を持ってきた。それを見て駆逐艦から歓声があがる。
「はいよー。小さなお口でも食べられる野菜ゴロゴロカレーの完成だ。俺が持ってるほうは辛いほう。間宮が持ってる鍋はあんまり辛くないほう。どっちでもお好きなほうを召し上がれっと」
「たくさん作ってくださったから、おかわりもありますからね!」
わっとまず駆逐艦が鍋の周りに集まる。大体は甘口。ちょっと冒険したい夕立は辛口のほうへ行った。大淀、名取は甘口。北上と神通は辛口。扶桑は甘口。瑞鶴は辛口。翔鶴には甘口を瑞鶴がよそった。全員着席。すると玲司が声をかける。
「よし。じゃあ手を合わせて!いただきます」
「「「いただきまーす」」」
これは玲司が決めたルール。食べる前にいただきます。食べたあとはごちそうさまをみんなで言うこと。食べることに感謝を。それだけのことだ。
「んー!おいひい!」
「ん、おいしいね…」
「っぽいー!辛いっぽーい!お水、お水!」
「にんじんおいしいね!」
「あたしはじゃがいもがおいしいかなぁ~」
「カレー…ちょっと、辛くて…でも、おいひい♪」
夕立は一人で大汗をかきながら辛いのを食べている。けれど満足そうだ。甘口を食べている子たちにも好評。黙々と食べる雪風が、玲司は気になった。
「どうした、雪風。おいしくなかったか?」
「そんなことないです!とってもおいしいです!」
ぱぁっと笑って返してくれたが、どうにも違和感が拭えない。何だ。何かがおかしい。確かに笑顔なのだが。焦点の合っていない雪風の瞳。誰もが雪風が口いっぱいにカレーを頬張るところをかわいらしく見ていたが、玲司と北上はどこか狂気を含んだような目に危機感を覚えた。しかし、確証が持てないままに核心に触れることは雪風の最後の一線を越え、何が起こるかがわからない事態が起きかねない。とりあえず玲司は雪風の頭をなで、食べ終わるのを待った。
「翔鶴姉ぇ、おいしい?辛いほうはダメでしょ?ちょっと食べてみる?」
「ありがとう瑞鶴。私はこれくらいがちょうどいいわ…本当に…おいしいわね…」
「そっか。よかった。ね、ここで食べれば賑やかだし。翔鶴姉ぇもみんなで食べたほうがおいしくなるでしょ?」
「そう…ね。瑞鶴」
もそもそと食べる翔鶴。確かに味はちょっとするが…そのほとんどは何を食べているかわからなかった。
/翔鶴・瑞鶴の部屋
「はー!おいしかったー!」
瑞鶴は満面の笑みで布団に飛び込んだ。本当ならベッドがいいのだが、玲司にはそれが言いにくい。こんなに暖かく気持ちよく眠れるものをもらってなお、さらに何かをねだるのはわがままだと思ったからだ。カレーの余韻に浸り、足をパタパタさせてご機嫌だ。
「ね、おいしかったよね翔鶴姉ぇ!思わず3杯も食べちゃったよ!もう最高~!」
「ふふ…瑞鶴が幸せそうでよかったわ…」
「うん!おいしいものが毎日食べられるし!翔鶴姉ぇにひどいことする奴はいなくなったし!聞いた?憲兵や人間は鎮守府には入れないって話。人間で男は提督さんだけだから、みんなにひどいことする奴はもういないんだよ!だから翔鶴姉ぇも安心できるね!」
「そうね…。これで…一安心ね」
「うんうん!いやー、あいつらがいなくなってよかった!」
(…よくなんて一つもなってないわ…。提督がいる限り。瑞鶴が狙われる。瑞鶴が…瑞鶴が汚されるのだけは絶対に止めなきゃ…。絶対に…絶対に…私が汚されれば瑞鶴は守れる。ああ、瑞鶴。おねえちゃんがまもってあげるからね)
………
(翔鶴。お前は本当に儂好みの美人だなぁ…フヒヒヒヒヒ!いいぞ…こんな女を毎日抱けるだけで儂は勝ち組だ。お前らも好きなようにヤれよ?)
(へへっ、もちろん。ありがたく頂きますよ提督殿!さあて、今日はどいつで楽しもうかなぁ?)
(逆らうなよ?翔鶴。逆らえばお前が大事にしている妹の処女、お前の目の前で奪ってやるからなぁ…ガハハハハハ!!ほら、翔鶴。妹を汚されたくなかったら早く始めんか)
(ああ、いいぞ…お前は上手になった。立派な…おふう、儂の女だ…ヒヒヒ、もっと、もっとだ)
(どうだ、よかったろう?また、明日も…わかっているよなぁ?)
(翔鶴ぅ。お前は最高の女だ。これから一生、お前をかわいがってやるからなぁ。クヒヒヒヒ)
(翔鶴姉ぇ、夜遅くに毎日どこに行ってるの?まさかあいつのとこ?)
(ええ、執務のお手伝いをしているの。心配をかけてごめんなさいね、瑞鶴)
(瑞鶴にまで嘘をつくなんて…私は駄目なお姉ちゃんね)
(瑞鶴…ごめんなさい)
(翔鶴姉ぇに何をしたの!?許さない…許さないんだから!)
(瑞鶴やめて!私が!私が悪いのよ!)
(いやだあああああああ!いやだああああああ!!!)
(瑞鶴!やめて!やめてえええええええええ!!!!あああああああああああ!!!!!!)
(瑞鶴もよかったぞ?お前とはまた違う感触だったわ。姉妹ともどもかわいがってやろうか?瑞鶴にこれ以上されたくないなら、儂に忠誠を誓え。ん?)
(はい。わたしはていとくさまにつかえ、いっしょうごほうしさせていただきます)
………
瑞鶴を起こさないよう。音を立てないようにして部屋を抜け出した翔鶴。一目散に提督。玲司がいる部屋へと向かう。
(ごほうしのじかん。ていとくさまにごほうしをしなきゃ。よろこんでくれるよね)
翔鶴は怪しく嗤っていた。瑞鶴の純潔を安久野によって翔鶴の目の前で散らされた翔鶴の心は、もう自分が提督を満足させることで瑞鶴にその毒牙を向けさせないようにすると言うことだけでしか動いていなかった。末期にもなってくると必ずと言っていいほど敗北を喫して帰ってくる艦娘たちに怒りをぶちまけ、事あるごとに翔鶴をなぶる。ストレスの捌け口にされてしまっていた。いいんだ。こうすることで瑞鶴を守れる。もうそれしか頭になかった。自分から提督を誘い、欲求を満たし、眠らせる。そうして。そうして自分は悪臭を放つドックに行き、体を清める。濁った汚水で
(私にはこの臭い水でさえ穢れを落としてくれる水だもの…汚い私にはちょうどいい)
翔鶴の心は闇にまみれていった。必要以上に瑞鶴瑞鶴と呼び、傍に置き、目を光らせる。そうして、もう二度と瑞鶴にあんなひどいことはさせないと。それこそが自分の生きる使命とも思うようになった。そうしているうちに、瑞鶴から安久野が捕まり鎮守府を追い出されたことを知らされた。けれど、どこかにまだ人間がいて妹にひどいことをしようと言う被害妄想に捕らわれた姉は、もう大丈夫だよ、と言う妹の言葉を頑なに拒否し。時には喧嘩にも発展した。
(私がどれだけあなたのことを思っているかわかっているの!?)
(私だって翔鶴姉ぇに守ってもらうだけの弱い奴じゃない!私だって自分の身くらい守れるわよ!ここにはもう人間もいないし、出撃もない!翔鶴姉ぇが気に病むことなんか何一つないのに何がそんなに心配なの!?自由を制限される私の身にもなって!もう放っておいて!!!)
そうしてパニックに陥り、過呼吸や失神を繰り返す。それは瑞鶴にも多大な負担がかかっていた。何かと自由を制限される。そして放っておいてと言うと今度は目が離せなくなる姉。翔鶴の闇に引きずり込まれていく瑞鶴。何とか気丈に振る舞ってはいるが、夜中の突然の悲鳴に目を覚まされ、寝不足になることも少なくない。
……
眠れない。何か嫌な予感が胸の中を渦巻き、眠気がこない。こういうときの嫌な予感と言うものは大抵本当にろくでもないものを連れてくる。そう、それは本当に冗談のような。
昼間の翔鶴が気になっている。雪風も気にはなるが、あのねっとりとした視線は一体何だったのか。思い出すだけでも寒気がする。あれは何かを狙う目だ。わからない。いっそのこと摩耶たちのように拒否する目で見られたほうがまだマシだ。拒否するわけでもない。でも瑞鶴のようにこちらを受け入れた様子でもない。うかつに踏み込むことはできない。どうすればいいのか…
コンコンコン
深夜2時。こんな時間に来訪者とは…。玲司は体を硬直させた、。このまま寝たふりを貫くか。そうすればあきらめて帰るだろう、とそう思っていた。
コンコン
二度目のノック。これで普通なら帰るだろう。そう「普通」なら。だが、ここは今や普通とはお世辞にも言えない状況の鎮守府。頭の中の警戒警報が最大音量で鳴り響く。寝たふりは危険である。だが、素直に出るのも危険であると。
コン コン コンコンコン コンコンコンコンコン
不規則にドアをたたき続ける何者か。このままではまずい
「誰だ」
コ…ン
ノックが止まった。近づくのは危険だったので声をかける。ドッドッドッドと心臓の音がうるさい。
「夜分遅くに申し訳ありません。翔鶴です…あの、少し眠れなくて…お話を…聞いていただけませんか」
ザワリと体を悪寒が走った。昼間のあの視線が脳裏に蘇る。だが、邪険にはできない…。おそるおそる口を開いた。
「カギは開いてる。入っていいぞ」
「失礼致します…」
ギイイ…とドアの開く音まで耳障りに思う。背中には嫌な汗。真夜中の来訪者、翔鶴が虚ろな視線を玲司に投げかけながら其処に居る。バタリとドアが閉まると同時に、翔鶴は着物を脱ぎだした。
「翔鶴…おい待て」
「うふふ、心配しなくていいんですよ…ていとくさま」
ぱさり、と着物が床に落ちる。下着姿になった翔鶴が、追い詰めた獲物をゆっくりと狙うかのように玲司に迫った。そして彼女はねっとりとした笑みを浮かべて言う。
「さあ、ていとくさま。こんやもていとくさまにごほうしいたしますね」
この鎮守府の狂気の一角が姿を現した
R-17くらいになってしまった気がする…。続きはwebで…と言うのは冗談で、あんなことやこんなことにはなりません。残念ですが
これから先、狂気に満ち溢れた横須賀鎮守府の実態が顕になっていきます。最初は翔鶴。果たして玲司はこの狂気にどう対応していくのか、次回もよろしければ読んでいただけると嬉しいです