そして、よからぬ動きがありそうな予感…。
鹿屋基地。佐世保鎮守府から近く、佐世保の補助を行なっている基地である。「守り」の上郷提督が佐世保にどっしりと構えている中、鹿屋基地の提督である刈谷 克巳(かりや かつみ)は上郷が防衛戦を敷き、手薄になった敵の防衛ラインを少数精鋭で一気にめくってしまうような緻密な動きを得意としていた。
上郷提督の場合は刈谷提督のその動きを信じ、徹底的に防衛戦を展開するのだが、ほかの提督にとっては手柄を横取りされたに他ならず、曰く「卑怯者」「姑息な作戦」と言う印を押されて敬遠されている。一方で上郷提督は「若手が育ち、手柄を取るのは実に良いこと」と刈谷提督を評価している。
総旗艦は軽巡「龍田」。上郷提督の総旗艦は軽巡「矢矧」。お互い軽巡が旗艦であり、攻撃と防御についてはお互い信頼しあい、どこか似ている師弟関係にある。じじい、坊主と呼び合う仲である。
そんな鹿屋基地に1本の電話が舞い込んだ。電話には龍田が出る。刈谷はと言うと机に足を乗せて帽子で顔を隠して寝ているかのようだった。仕事は既に終わっている。
「はい〜。鹿屋基地で〜す。はい。はい。代わりますね〜」
間延びした龍田の声。どうやら自分に用があるらしい。めんどくさそうに帽子をどかして龍田を見る。ひどく冷めた顔をしていた。龍田の顔からろくでもないやつからの電話だとは瞬時に察した。
「はい」
『ご無沙汰しておりますね、刈谷提督』
「……テメエか。何の用だ?」
『相変わらず冷たい反応ですね。まあいいでしょう。ご存知ですか?どうも大本営で先日の会議の直後、不届き者が逮捕されたそうですが、何かご存知ありませんか?情報通の刈谷提督?』
「何の話だ?知らねえな。俺は忙しい。切るぞ」
『ああ、その話には続きがありましてね。その逮捕された2人、どういうわけか牢でお亡くなりになられたそうなんですよ。恐ろしいですね』
「………テメエ何が言いてえ」
『下手なことをすると命がいくつあってもこの海軍では足りませんね。恐ろしいことです。刈谷提督もくれぐれも、病などにはお気をつけて』
「ああ。そうさせてもらう。じゃあな」
『ええ、どうぞお気をつけて』
受話器を投げ捨てるかのように置いた。龍田は相変わらず冷たい殺気を放ちながら受話器を見下ろしている。
「おつかれさま、提督」
「ああ。あのクソッタレ。遠回しにゴチャゴチャ言ってやがるが俺を探ってやがるな。ケッ、都合の悪い奴は消されるってか。腐った集まりだぜ、この国の海軍様はよ」
「怖いわね〜。戸締りは、しっかりしなきゃいけないわねぇ」
「そうしろ。チッ、めんどくせえな。今度の会議も行くぞ、龍田」
「あら〜、散々行かないって言ってたのに〜」
「めんどくせえけど、直接話をしとかなきゃ余計めんどくせえことに俺らも巻き込まれてんだ。それに、このままじゃあいつらに提督として生きる未来はねえ」
「……三条提督達?」
「さあ、誰だろうな」
「もう、素直じゃないんだから〜」
「うるせえ。龍田、行く準備しとけ。それから山城、漣、不知火。こいつら動かす。準備させとけ。ああ、山城と漣にだけ伝えろ。不知火は例のやり方で動かす」
「はぁい。ついに行かせるのね〜?」
「くれぐれも悟られんなよ。俺は艦娘にも行かせる先の奴にも嫌悪されるくらいがちょうどいい。馴れ合いなんざいらねえ」
はいはい。と龍田が退室した。ドアを閉めて3歩歩いたところで龍田はクスクスと笑った。
(本当に不器用な人ねぇ。私だけの秘密よ。あなたのこと)
そう笑いながら鼻歌なんて歌って、龍田は艦娘寮へと軽やかな足取りで歩き出した。
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大湊警備府ではAL海域を完全に押さえた日向達に遅れて、ようやく由良や日進が帰ってきた。無事に帰ってきてくれたことへの喜びが大きいが、今後のことを考えると気は重い。一宮提督は、日進達には悟られまいと懸命に自然な笑顔でおかえりなさいと日進達に言った。
「お疲れ様でした。本当に無茶を言ってしまい、申し訳ありません」
「本当よ!いきなりキス島へ行けだなんて。行ったら戦艦ル級やらと交戦よ!日進さんと由良さんのおかげでなんとかなったけど、冗談じゃないわよ、このクソ提督!!!」
「曙、言い過ぎ。提督だって悪気があって行かせたんじゃない。朧たちが行ってなければ、危なかったかもしれない」
「そ、そうだよ曙ちゃん。私たちも無事だったんだし、ほら、お風呂いこ?さっぱりしてもう休も?」
「ふん!わかったわよ!いいわよねクソ提督!ほんといつまで経ってもクソ提督なんだから…」
「曙ちゃん!」
「吹雪、なんだかんだで不安で押しつぶされそうだったけど、提督のもとに無事帰ってこれて、安心してるだけだよ。本音は無事帰ってこれて嬉しいだから」
「朧!違うから!あたしはほんとにムカついてんのよ!」
「ムカついてるのに執務室に入る前に髪型気にしたり、手鏡で顔に汚れがないか確認したりするんだ?」
「おぼ、おぼぼぼぼぼ!!?!?」
「あ、壊れちゃった」
「お、朧ちゃんおそるべし…」
騒がしい廊下でのやり取り。由良が口を押さえて笑っている。曙に対して朧がいつも鋭い的確なツッコミを入れて漫才やコントと化すのは大湊名物だ。日向も困ったような顔をして笑っている。
「緊張感のないな、いつものことだけど。まあ、そうなるな」
「日進さん、由良さん、お疲れ様でした。苦労したでしょう?吹雪さんが止めてくれたでしょうが…」
「ふふっ、ううん。出撃中はピシッとしてたよね、ね?」
「うむ。わしもやりやすかった。いやぁ、ようけ動いたせいかお腹がぺこぺこじゃあ。わしは風呂の前にご飯が食べたいのう」
「はい、日進さんはそういうだろうと思いまして、伊良湖さんに食事の用意をしてもらっています。食事をして、お風呂で疲れをとって、ゆっくり休んでください」
「おー、さすがはわしの提督じゃ!書類はそれじゃ。わしの優秀な働きをしっかり大本営に報告するんじゃぞ!」
「提督さん、由良もご飯食べてお休みするね。提督さん、提督さんもあまり考え込んじゃダメだからね、ね?それじゃあおやすみなさい!」
「はい、おやすみなさい。ありがとうございました」
駆逐艦たちに遅れて日進も由良も退室し、残るは一宮提督と日向のみ。もういいぞ、と日向が言うと同時に、貼り付けたような笑顔が一宮提督の顔から消えた。はあ…と一息、大きなため息。
「由良にはバレていたな。さすがは私と共に最初期からやってきただけのことはある」
「あなたと由良さんには頭が上がりませんね」
「ふふ。気にすることではないよ。ひとまず、これで私たちの警備府は任務完了だ。問題点は多いがね…」
日進が置いていった報告書。もう一冊日向がまとめた報告書。パラパラと読むもじっくり読む気にならない。再びため息が出る。
「そうですね。大本営は喜んでおりますが、私としては非常に後味の悪い作戦となりました。特に、九重提督の言葉は今度の会議で覚悟せねばなりませんね」
日進たちが戻ってくる少し前に九重提督から直通で電話があった。電話に出た第一声は「アンタ、やってくれたわね」だった。アルフォンシーノは滞りなく完了したが、キス島に関しては九重提督が激怒しても仕方がない。海図はぐちゃぐちゃ。予想外の戦艦により、駆逐艦「暁」が危うく轟沈してしまうところだったと聞き、唾を飲み込んだ。結局、三条提督の大淀が危惧していた通りになり、結果的に九重提督の艦隊は三条提督の艦隊によって、そして事態を三条提督から聞いたことで、急遽日進たちを動かし、戦闘を経て無事に各々の場所へと戻らせた。
「この事については厳しく言及させてもらうわ。こんなガバガバな作戦をうちに振ってきたこと、覚悟しておきなさいね」
そう言って受話器を叩きつけたのだろう。ブツン!と大きな音を立てて電話は切れた。口調は冷静でも、激怒していたのだろう。非はこちらにある。反論の余地もない。できれば一生5日後が来ないでほしい。そう思うほどであった。そうすれば会議に出なくて済む。
「じっくりどうしてこうなったかを説明するしかあるまい。言い訳にしか聞こえないかもしれんが、提督もハメられた側だ。一方的に向こうが責め立てて来ても、提督も困る。何の目的でかもわからんし、犯人もわからん。わからん事だらけだが、提督も全力ではあった。弁明する権利は提督にはあるだろう」
「そう言っていただけると気が楽になります。ですが、私も慢心してしまいましたね。今後に同じことを起こさないよう、しっかりと気を引き締めましょう」
「目立つということは誰かからの嫉妬や嫌がらせもあるだろう。このようなやり方は卑劣だ。必ず罰が下るだろう。もともと私たちを見る目は白かったと思うよ」
「若造が出しゃばってきたとでも思われたのでしょう。これが。これが艦娘軽視派のやり方なのですね」
忌々しいものを見るかのように、キス島の海図を手に取り、そして力を込めて丸めた。いったい誰が、何のために?それを探し当てることもできないもどかしさに、一宮提督はひどく苛立った。背中から手を回し、後頭部に柔らかな感触。
「提督、熱くなるな。今は私とあなたの2人だ。たまには、泣き言を言ったりしてもいいんじゃないか?」
優しく耳元で日向が語りかける。自分の胸にある日向の手を握り、横を向く。愛しい人の顔が見える。日向はさらに顔を乗り出し、予測していたかのように唇を重ね合わせる。何度も。何度も。
「ふふ、続きは夜、寝室で、な」
「疲れてはいませんか、日向さん」
「私は戦艦だ。体力にも自信がある。多少の夜遊びくらい、出撃の後でも平気さ。今日は私がたくさん癒してあげよう」
「そ、それは、その…」
「ふふふ、かわいいね、提督は。どうだい、気は少し楽になったかい?」
「おかげさまで」
「そうか。では、夕食までに提督の仕事は終わらせてしまおう。夕食後は2人でゆっくり、な」
「そうするとしましょう」
避けられない嫌なことはひとまず置いておく事にして、仕事に打ち込み、日向に甘える事にした。今はそうでなければ、怒りでどうにかなってしまいそうだったので。自分がハメられたことに怒っているわけではない。艦娘をハメ、あわや犠牲者が出てしまうかもしれなかったことに一宮提督は心底怒り狂っている。日向にはお見通しであったが、幸い由良にはそこまで気づかれていない。素直な気持ちを吐き出すのは日向だけでいい。そうして甘えさせて、素直な気持ちを吐き出させてくれる日向に感謝をした。
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「おかえりなさい、天龍ちゃん、雷、睦月、如月、叢雲。そして、暁」
「おう、戻ったぜ」
幌筵泊地の母港で待っていた九重提督と、いつものようにフラッと母港に帰ってきては、学校から帰ってきた子供のように艤装を片付けながら戻ったと言う天龍。平静を装う事で九重提督を落ち着かせようとしているのだ。天龍はそうだが、雷はそうでなかった。提督に飛びつき、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら自分の大好きな提督を見る。
「じれいがん!わだじだじ…がえっできだわ!!」
「ええ。頑張ったわね、雷。本当に。頑張ったわね」
雷を抱え上げ、抱っこする。司令官の胸で大泣きする雷。大破はあったが、撤退をして次は頑張ろうと言っていたことしかなかったがために、撤退はできない、それでいて自分の姉が死に瀕しているところなど知るはずもなかった雷の心は、もうなにもかもぐちゃぐちゃで。生きて帰ってこれた喜び。姉を大破させられた怒り、死ぬかもしれない恐怖。ようやく司令官の顔を見ることができた安堵。これは睦月も如月も同じだった。
「さあ、涙と鼻水を拭いて。かわいいお顔が台無しよ。雷、暁をドックへ頼むわね。高速修復剤の使用は制限しないわ。暁が元気になったら、一緒に休みなさい。ご飯が食べたいならご飯もすぐ用意できるわ。さ、行きなさい。睦月も如月も叢雲も、もうしばらく休んでいいからね」
「うん。ぐしっ、任せて、司令官!もっと雷に頼ってもいいのよ!」
「悪いけど本当に疲れたわ。休ませてもらうわね」
「んしょ、暁ちゃん、もう少しだからね!」
「榛名、手伝ってあげなさい」
「は、はい!さあ、もう大丈夫ですからね!」
こうして暁は一命を取り留めた。九重提督の不安はようやく取り除かれた。榛名達アルフォンシーノ隊は問題なし。そして天龍達も全員で帰ってきてくれた。まずは喜ぼう。
「三条提督にはお礼を言わなきゃいけないわね」
「ああ。特に、雪風がチビ達を逃がす時間を大いに稼いでくれた。響がずっと暁を励ましてくれてた。最後はまあ、一宮提督んとこのちんちくりんなやつに助けられた。まあ、そんだけ」
「三条提督には大きな借りが。一宮提督には大きな貸しがついたわね。まずは暁が沈まずに帰ってきてくれたのは本当に安心した…天龍ちゃん、ありがとうね」
「だからオレは大したことしてねえって。オレも助けられたんだ。礼は三条ていと…っとお!?」
天龍が言い切る前に九重提督が天龍に抱きついてきたので慌てて抱き返した。
「んだよ、暁は生きてた。生きてただけ儲けもんだろ?オレ達は生きるか死ぬかの存在なんだ。死ぬ気はねえけど、そういう立場にあんだよ。オレも暁も、ほかのチビも生きてた。今度も生きて帰る。それがオレらと提督との約束だろ?ったく、肝っ玉が小せえなあ提督は。男だろが、シャキッとしろよ」
「あたしは乙女よ」
「はいはいそうだ…っていてててて、脇腹つねんな!」
「………おかえり、天龍ちゃん」
「ああ、ただいま。提督。ってか脇腹むにむにすんな」
「触り心地がいいんだもの」
「まだ胸触られてる方がいいんだけどな」
「ほんと!?じゃあそうするわ!」
「ちょ、まて、汗くせえから、ちげっ、時間と場所考えろバカ!きゃあああああ!!!!」
いつもの緊張感のない幌筵泊地に戻った。こうすることが九重提督と天龍の日常である。
………
翌日、執務室で報告書を読んでいると勢いよく暁が飛び込んできた。涙をボロボロとこぼし、しゃくりあげながらも提督の目を見つめ続けている。
「おはよう、暁。いらっしゃい」
「しれーかん!!!」
文字通り飛びついていく暁と、それを受け止めて抱き上げる提督。
「持たせておいてよかったわ、応急修理妖精。ほんとに、ほんとに無事で帰ってきてくれてよかったわ」
「う、うう、うああああああああん!!!」
大泣きする暁と背中と後頭部を優しく撫でる九重提督。何かと甘えん坊な暁は暗い闇の中からずっと司令官が暁の名前を呼んでくれたから帰ってこれたんだよ、と九重提督と天龍以外は何を言ってるのかわからない言葉で説明した。九重提督はうん。そう。と1つ1つの暁の言葉に返事をする。ちゃんと聞いているよ、と言う意味を込めて。
「だがあね、あがちゅきね。じれーがんどてんりうざんにね。あいだがっだの!ごわがっだよおおおお!!!」
「そかそか、怖かったなぁ。けど頑張ったなぁ、暁。偉いぞー」
「そうよ。こうして帰ってきてくれたんだものね。おかえりなさい、暁」
「ああああああああああああ!!!」
九重提督の制服はクリーニングに出す頻度が高い。なぜかと言われれば暁や雷、時に菊月が泣いて抱きついてきて鼻水やよだれでベトベトになるからだ。時にケーキやチョコレートで口をベトベトにしたまま飛びついてきたり、膝の上で居眠りをしてよだれまみれになるからで。クリーニング費用くらい自腹で出すと言って1ヶ月のうち数回はクリーニングに出す事態になっている。予備はあるからいいのだが。
すっかり落ち着いた暁は、ずっと九重提督以外の誰かが名前を呼び続けてくれて、冷たい世界で温もりをくれた誰かがいたおかげでもあると言って、お礼が言いたいそうだったのだが、誰かがわからない。雷曰く、横須賀鎮守府の響と電がずっとそばにいてくれたと知り、お礼が言いたいのだそうだが、それはまた少し先の話。
/
ようやくキス島に出て行った子達が帰ってきてくれた。報告によれば大きな損傷はなく、主力討伐隊もかすり傷程度。援護隊はほぼ無傷。不安でいっぱいだった今回の作戦も、みんなの顔と、両手いっぱいに伸ばして手を振る電や村雨達の姿を見ることで安堵できた。
「提督、キス島の2艦隊、帰投いたしました!敵主力艦隊は討伐いたしました」
「阿武隈達の艦隊、一宮提督の手も借りましたが無事、九重提督の艦隊の援護に成功いたしました!」
どこか少し自信がついたように見える大淀と阿武隈が一歩前へ出て任務完了の報告を告げる。玲司も大淀と阿武隈に歩み寄り、2人の頭を撫でた。
「おかえり、大淀、阿武隈。それにみんな。無事でよかったよ。さあ、風呂も沸かしているし、ご飯の用意もできている。どっちでも行ってくれ。そして、ゆっくり休んでくれ」
「はい!ありがとうございます!皆さん、行きましょう」
すれ違いざまにみんなに「お疲れ様」と言ったり頭を撫でたり。疲れ果てたのだろう、雪風がボスッと抱きついてきた。
「雪風、お疲れ様。もうヨレヨレだなぁ」
「しれえ…お風呂もご飯も起きてからでいいですか…」
本当に眠くて仕方がないのだろう。目をこすり、今にもこのまま眠りそうだ。
「わかった。俺も寝るから、このまま連れて行くよ」
「………ふにゃあ」
艤装を鳥海が外してくれて、鳥海は優しい顔で雪風の頭をなでて、玲司に向かって頷いた。それに頷いて返す。もうこのまま寝てくれと。玲司もほぼ大淀達が帰ってくるまでまともに寝ていない。正直眠かった。抱っこした雪風はすでにスウスウと寝息を立てており、起きる気配がない。雪風の体温が高く、まだまだ寒い春の夜にはいい温かさだった。安心したこともあり、大きなあくびをひとつして部屋へと戻り、雪風を隣の布団に寝かせて自分も布団入る。不思議なことに、朝起きるとぴったりとくっついて雪風が寝ているだろう。最後に頭を撫でた。んにゅ…と声が漏れたが起きてはいない。熟睡している。
ああ、みんな無事でよかった。それだけが玲司の喜びであった。
………
案の定朝起きると雪風は布団を蹴飛ばし、さらに玲司の布団に潜り込み、頭を半分だけ布団から出して気持ちよさそうに眠っていた。文月も皐月もそうで、どう言う理由かはわからないが、とにかくなぜか隣の布団から移動して寝ているのだ。みんな記憶にないと言う。
「あ、おはよう、雪風ちゃん!」
「はい!村雨ちゃん、おはようございます!」
「すごく疲れてたもんね、よく寝れたかな?」
「はい!しれえと一緒におやすみして今日はおめめもぱっちりです!!」
「あはは!それならぐっすりだよね!んー、時雨も一度提督と一緒に寝てみたら?」
「ぼ、僕はいいよ…」
「ふーん?文月ちゃん達が一緒に寝たーって言ったら羨ましそうにいいな、って言ってたのにー」
「村雨!それは内緒って言ったじゃないか!!」
「ぽいー。提督さんと一緒に寝るのはあったかくて気持ちいいっぽい!」
「夕立、ちょっとお話ししようか」
「あははー、夕立、ちょっとそれ、村雨さんにも聞かせてくれないかな?」
「時雨?村雨?なんか怖いっぽいー!」
再び横須賀鎮守府に騒がしい朝がやってきた。雪風達が帰ってきたことで、文月や皐月達もテンションが上がり、きゃーきゃーと喧騒に食堂が包まれる。
「おー、これこれ。これこそ朝って感じだよな。なあ、大和さん」
「うふふ、そうですね。やっぱり、賑やかが一番ですね」
「そうそう。なー、霞!」
「まよおねえちゃ、なあに?」
「そろそろまやって言ってくんないかなぁ…」
「まよおねえちゃ!」
「とほほ、あたしゃすっかり防空巡洋艦『まよ』だよ…」
霞がきゃっきゃとこれまた元気である。活気に満ちた雰囲気を感じ取っているのだろう。昨日は不安そうにおとなしくしていたものだが。
「ふぁあ、おはよ…」
「あ、しれえ!」
「しれーかーん!」
玲司が登場し、雪風や皐月が一層はしゃぎだす。いつものみんながいる朝食。いつもの騒がしい朝。いつも以上になんだかキラキラしている雪風。玲司の隣に座って挨拶を待つ。大淀がまた慌ててやってきて、今度はスカートを履き忘れて食堂に悲鳴がこだまする。上は正装。下はジャージと言う格好に北上が大爆笑。大淀は頭から蒸気を吹き出すくらい恥ずかしいらしく、顔は真っ赤。
「よ、よーし、じゃあみんな手を合わせて。いただきます」
「いただきます!」
元気よく声を出して、焼きたての鮭に目を輝かせ、ご飯と一緒に食べる雪風。また生還できた喜びと、ご飯と鮭がおいしいことが嬉しくてたまらず
「しれえ!おいしいです!雪風は幸せです!」
と、ほっぺにご飯粒をつけながら笑って言ってきたので嬉しくなって頭を撫でた。今日も1日、がんばりますか!と玲司もやる気が出て、ご飯をかきこんでいった。
北方海域はこれにて無事帰還したのでおしまいです。あとは3人が集まっての後日談、と言ったところでしょうか。
各々気まずい集い。大ごとにならなければ良いのですが…それはまた次回ということで、次回もお待ちいただけると嬉しいです。
そして刈谷提督は敵か、味方か?
それでは、また。