提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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動けない玲司と突然の電や瑞鶴達の眼騒動もあってどたばただった横須賀の艦娘達ですが、一夜明けて皆、どう動き出すのでしょうか?
動けない玲司の代わりに頑張る艦娘達をお楽しみください。


第八十四話

いつものようにこの発作を起こすと悪夢を見るのだが、今回は途中で何かが違った。夢に翔鶴が出ていたような気がするが、いまいち思い出せない。あの光のおかげでいつもに比べればだいぶマシだ。

体を起こそうとする。指は多少動くが、起き上がる力はない。無理に起き上がろうとすれば頭痛に襲われて今の落ち着きをぶち壊しにくるのでやめた。

 

静かな1人だけの部屋。何かに連れて行かれる恐怖感は昔のようにはなく。ただカーテンから漏れる陽の光と、スズメなどの鳥達のさえずりに少しだけ気分はよかった。青い世界でもない。それだけでも救いだった。

 

(さーて、目は覚めてきたけど体が動かせないのは困ったな。しょうがねえか…)

 

おやっさんを責め立てることよりも、普段艦娘を物のようにしか扱わない連中が何を艦娘が沈んだらどうしてくれるなんて言うものだからそれに対して、そして北方海域での明らかにおかしなキス島の海図。自分の鎮守府の艦娘達ではないにせよ、悪意があって沈めようとした感じが見え見えのやり口。

それ以前の安久野のこと。宿毛湾の朝潮達のこと。そして、壊れてしまった霞のこと。特に、霞のことに関しては、大淀や翔鶴にさえ言っていないが、どうしてこんな目にこの子達があわなければならないのだとここで泣き叫んだものだ。

 

何が「艦娘は国の宝」だ。艦娘に一番近い存在の人間達が艦娘をゴミのように何とも思わず沈めていくんだ。安久野や清洲元帥のように。一般人でさえ暴力装置。平和の破壊の象徴などと一部の人間が言っている。自分たちは死にたくないからとさっさと内地に引きこもったくせに。危害の及ばないところで艦娘の排除を叫ぶ。片や海のそばで生活している源さんや梅おばさん達は艦娘に感謝をし、仲良くしてくれる。商店街の人たちや艦娘に理解があり、話しかけてくれる人は好きだ。けど、暴力装置などと呼ぶ人間は嫌いだ。そもそも人間があまり好きではないのだから。

 

「あ、いけね」

 

思考を巡らせていると目の前が青くなってきた。気の抜けたことを言っているが体は重大な危機に瀕している。これではまずい。助けを呼ぼうにも大声が出せない。参ったな。このままじゃ死んじまうなぁと他人事のように思っていた。

しかし、そうは言ってもなかなかに三条玲司と言う人間は死を恐れ、生きようとする執念に満ち溢れている。生きたいと言う執念には体が猛烈な痛みに襲われようとも何とかして体を動かしてベッドから出ようとする。渾身の力を振り絞り、腕や腹に力を入れてうつ伏せになり、這う。踏ん張る力はないので虚しくもベッドからすごい音を立てて転げ落ちてしまう。

 

落ちた衝撃で振動が机にも伝わり、水が入れられていたコップが倒れ、転がり、落ちる。当然、割れる。それと同時にドアが外れるんじゃないかと言うくらいの勢いでドアが開く。

 

「玲司さん!?何をされているんですか!?」

「あ、あー。いや、その…ちょっと発作が出そうだったもんで助けを呼ぼうと思ったんだけ…ど…」

 

「!?大丈夫ですか!?ああ、眼がまたうっすら蒼く……だ、だれか!だれかいませんか!?」

 

翔鶴が大声で助けを呼び、それに気づいた摩耶や大和、北上。他にも瑞鶴、時雨に名取まで集まり大騒ぎに。摩耶に甲斐甲斐しく抱かれてベッドに戻され、大和には「提督死んじゃやだああああ!!」と大声で泣かれ、北上にも声を震わせながら「よかった…」と言われた。翔鶴は五十鈴に「だから目を離すな。誰か来るまで待てって言ったでしょう!?」と怒られて小さくなっていた。

 

「だーかーらーさー。玲司は自分でどうにかしようって思いすぎ。翔鶴もそれがうつってきてんじゃない?旦那様の影響?昨夜言ったじゃん。明石っちに目を離さないでって言われたから、じゃあご飯とかは翔鶴の分まで持って行ってあげるからそばにいなって」

 

「はい…」

 

「って言ったはずなのに朝食を取りにきましたーって来るんだもんね。明石さんや北上の話全然聞いてないじゃん!慌てて戻れって言って戻ったらこれだよ。とりあえず明石さん呼んでくるから、絶対そばにいてよ。もう!世話が焼けるんだから!」

 

「ごめんなさい…」

 

散々怒られて縮こまる翔鶴。翔鶴自身も悪気があったわけではない。眠っていたから大丈夫だろうと思った。そしてもっと玲司のお役に立ちたいとか、そんな想いが強く強く動いた結果だった。翔鶴は自分自身の評価が低い。もっと役に立たないと自分は捨てられてしまうかもしれない。何かしないと自分なんて役に立たないなんて考えてしまうからだ。

 

「玲司の役に立ちたーいって気持ちもわからなくはないけどね。それだけ玲司への愛がふかーいってことで」

 

にひひひと変な笑い方をして北上は出て行った。摩耶達にもお熱いことで、と冷やかされていった。

 

「なんか、その…ごめん…」

「いえ、私こそ…ごめんなさい…」

 

お互いに気まずい。玲司はその後に来た明石にこってりと怒られた。動く方が体に負担をかけるのにと。その後申し訳ないと謝られてしまったわけだが。龍驤が言うには、巡洋艦と瑞鶴とで何やらいろいろと話し込んでいると言う。駆逐艦達も談話室に「かいぎちゅう たちいりきんし」と言う張り紙を貼って、入ろうと思っても追い出されてしまったと言う。

 

「みんな、玲司に休んでほしいんよ。けどまあ、翔鶴だけに任せようとしたんが失敗やったなぁ。まあ夜は翔鶴でええとして、日中は代わりばんこで面倒見たいらしいよ。玲司にはみんな感謝してるんやって」

 

「俺は特別なことはしてねえよ」

「あの子らにとっちゃ、日常生活を送るっちゅうんが何よりの宝もんなんや。艦娘っちゅう戦う使命はあるけど、そうでない時は女の子な生活がしたいもんよ。かわいい服着て、甘いすいーつってもん食べて、乙女の会話して。日常っちゅうんは艦娘には大事ちゃうかな。戦闘や演習ばっかりじゃやっぱり心も身ももたん。玲司は特別なこととは思っとらんでも、あの子らからしたら宝物をくれた特別な人やろ」

 

一部を除いて雪風や北上、翔鶴などの安久野の時の艦娘はそれこそ辛い毎日だった。北上がピザを食べながら「あたしはね、毎日こう言うのーんびりして1日が過ぎていくって言うのが何より幸せだと思うね」と言っていたっけか。雪風が。夕立が、くちくがみんな笑って楽しい1日を送るのを眺めるのがとても楽しいそうだ。絡まれるとウザいらしいが。

 

「ま、ここに来てからほぼ休みなしで突っ走ってきたんや。事務仕事がバリバリできる艦娘もおるんやし。最終的な決済については玲司おらなあかんけども。あんまり無茶したら明石がまたキレよるでー」

 

「う…さっきめちゃくちゃ怒られたんだ。勘弁してくれ」

「あっはっは!それならなおさら寝てなあかんわ!ご愁傷さん!」

 

笑うに笑えない。はぁ…と大きくため息をついておとなしく寝ていることにした。

 

「ほんじゃ翔鶴。午前中、玲司頼むでー。午後からは摩耶らが動きよるやろ」

「は、はい…」

 

龍驤も出て行き無言の2人。

 

「あーあ、ヒマだなぁ」

「もう。またそんなこと言うと怒られますよ?」

 

「むー。料理もできねえのは痛いなぁ」

「治った時にお願いします!今はダメですから!」

 

「わかったって…そうだな。俺が動ける頃には桜の花もきれいに咲いてるだろうし。花見でもやりますか。パァッと、北方海域も何とかなったしな」

「お花見…?きっと、皐月ちゃん達が喜びそうですね」

 

「ま、早く治すよ。とりあえず…寝るか」

「そうしてください。体を休めてくださいね」

 

「手、握ってほしいなぁ」

「へっ?こ、こうですか?」

 

「ああ。あったかいなぁ…」

 

それだけ言ってすぐ眠ってしまった。まだまだ体が休息を求めているのだろう。すぐに熟睡してしまった。駆逐艦の子みたい…と子供っぽい寝顔を頭を撫でながら眺めていた。結構玲司さんって甘えんぼなのかしら?と思うとなんだかかわいらしくて知らない一面を知れた気がして嬉しくなった。

 

 

「それくらいできるわよ!!」

 

なんであんなことをムキになって言っちゃったんだろう。というか、電や響にまんまと乗せられてしまった気がする。

 

「おや、満潮はできないのかい?」

 

こんな言葉に反応してしまうなんて……。そんな私は間宮さんの教えの通りに「お粥」っていう病気や体の調子が悪い人向けの胃に優しい料理を作ってる。だいたい言い出しっぺは雪風や皐月達なのに、なんで私がこんなこと…。まあ嫌じゃないけど。明石さんや龍驤さんにしばらく司令官には会えないって言われてたけど、これを作って運んで行けるなら、司令官の顔が見れるわね。別に、そんなすごく顔が見たいってわけじゃないけど。

 

「うん、いいですね。あとは少しずつ様子を見て行きましょう。満潮さんは筋がいいですね」

「こ、これくらいなら誰でもできるんじゃないかしら」

 

「ふふ、そうかもしれませんね。でも、見ていて安心できます。火傷しないかなとか、結構皐月ちゃん達は危なっかしくて」

「そ、そう…」

 

「提督に早く良くなーれっておまじないをかけてあげるといいかもしれませんね」

「はあ!?い、嫌よそんなの!そんなの最初から思って作ってるってば!」

 

「あらあら、まあまあ♪」

「何よ!?」

 

あーもう!意味わかんない!全部響のせいよ!

 

………

 

朝。なぜか突然雪風や文月が駆逐艦緊急会議をします!と言い出し、鹿島さんに練習を見てもらおうと思ったらズルズルと駆逐艦寮の談話室に無理やり連れていかれた。朝潮姉さん達まで電と響に連れられていた。雪風がクレヨンで「かいぎちゅう たちいりきんし」と張り紙を貼って、龍驤さんが来ても秘密の会議中です!とか言って追い出すし。何なのよまったく…。

 

「しれえの元気がありません!駆逐艦でしれえに元気が出るように何かしたいです!!」

「何かって、何をするの〜?」

 

荒潮が質問する。荒潮もここに来てすぐの頃に比べれば、ちゃんと司令官がいる中でも食堂でご飯を食べるようになったし、時雨や村雨とも話はしたりしてるから、マシになったのかしら。

 

「わかりません!!!」

 

元気よく雪風の返事がくる。あ、あらぁ、そう…って荒潮が固まってるじゃない。完全に思いつきね…。ああ、作戦って何かできることはないかをみんなで考えようってことね。ぽいっ!と夕立が手をあげる。

 

「提督さんにまたご飯を作ってあげるっていうのはどうっぽい?」

「それだよ夕立!」

 

皐月が立ち上がって言う。朝潮姉さんや荒潮がついていけていない。料理をするって言ったって、間宮さんがいるから私たちは必要ないんじゃ…。

 

「でも何を作るんだい?まさか、またハンバーグって言わないよね?」

「えっ!?ダメなの!?」

 

「なのです!?」

「ハンバーグは甘美な響きだね。ハラショー、それなら私も手伝おう」

 

「え、ええ?ハンバーグって…」

「ちょっと提督にはきついんじゃないかなぁ」

 

皐月や文月はもうその気だったらしい。吹雪と村雨は止めようとしている、それもそうでしょ、体調が悪くて昨日のお昼から何も食べる気がないって言ってる人がそんなもの食べられるわけないじゃない。

 

「間宮さんにボク言ってくる!!」

「文月もー!!」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいったら!!」

 

慌てて止める。本気でハンバーグを作りに行くつもりだったみたい。

 

「ぽいー。夕立、早く作ってたべたいっぽい!」

「あんたが食べたいものの話は後よ!昨日から何も食べてない人が!体調が悪い人がそんなもの食べられるわけないでしょ!?司令官の調子を余計に悪くする気!?」

 

「そうだよ。提督は人間だよ。僕たちとは違うんだし、さすがに、思い出したくないけど。前の提督も体調がすごく悪い時は胃に優しいものを作れって間宮さんに言ってたよ。提督は今具合がよくないから、この胃に優しいものを作ってあげたほうがいいんじゃないかな」

 

おおお…と何か感心してる声が聞こえてきたけど、頭が痛くなってきた。

 

「ならオムライスだね」

「は?」

 

響の言葉に朝潮姉さんが反応してしまった。

 

「何だい、朝潮。元気がない日はオムライス。これを食べれば元気になるんじゃないのかい?あと、それにウォッカでもあれば最高だね」

「司令官のお身体をより壊したいんですか!?」

 

朝潮姉さんが響につっこんでる…。ああもう…。朝潮姉さんも司令官が宿毛湾の司令官に怒鳴ったことを聞いてから、少しずつ考えを改めていったみたい。へえ、司令官の体を気遣うくらいには信用し始めたんだ、っと、感心してる場合じゃない。まずい、響や皐月達が今度はカレーとか言い出す前に何か…何かないかな…。

 

「おか、ゆ…お粥!そうよ、お粥!大本営で私たちが食べさせてもらったやつ!」

 

霞は「まじゅい」と言いながら食べていたし、すぐ吐いちゃったけど、長くまともなものを食べさせてもらっていなかったからあれがすごくおいしかった。あれは確か、具合の悪い人たちにはいいって聞いた気がする!

 

「へえ、それはどんなもの?」

「えっ?ええっと…お米だったと思う。それで…」

 

「どろどろしてて…ちょっとしょっぱい?お腹がすごいすいてたからおいしかったよ!いっぱい食べました!」

 

大潮姉さんが答えてくれた。いや、姉さんそんな食べてなかったと思うけど、怯えて。まあ、それまでのもとを考えたら、いっぱい食べたになるのかしら?大潮姉さんは朝潮姉さんからまだあまり離れられないけど、少しずつ元気になってきてる。アゲアゲでいきましょう!とか、元に戻ってきてるのかな?時々うるさいけど。

 

「ほう。お粥ね。じゃあ、それを作って司令官に持って行ってあげよう。私は食べる専門だけど」

「ええ…響ちゃん、ないのです…」

 

「まあそれはいいとして、それはハンバーグみたいにややこしいものかい?ハンバーグは司令官、大変そうだったけど」

「そんな大変なものでもないと思うけど…」

 

「なら満潮に任せよう。私は料理はできないからね。ああ、ついでに私にも作っておくれよ。ハラショー」

「作んないわよ!何で私が作ることになってるのよ!」

 

「おや、満潮はできないのかい?」

「はあ?なんでそうなるわけ!?」

 

私はこの時まんまと響にのせられてしまっていることに、気づかなかった。うっかり私はこの後言っちゃうんだ。

 

「それくらいできるわよ!」

 

そう言っちゃったんだ。

 

「じゃあ、任せたよ」

「はっ!?」

 

「わあ〜、満潮ちゃんお料理できるんだぁ〜。すご〜い」

「あ、じゃあじゃあ、司令官におかゆ?だっけをつくるだいじんににんめーね!」

 

皐月、あんた絶対意味がわからずにこの間テレビで見てなんかカッコいい!って言ってた言葉を言ったわね。雪風や霰まで目をキラキラさせてるし!何なのよほんとに!!

 

「満潮、僕も手伝うよ…」

「私も、手伝うね」

 

「いいわよ!私がやるんだから!」

 

ああ、また強がっちゃった。せっかく時雨や吹雪、村雨が言ってくれてるのに。朝潮姉さん達?すぐさまがんばってって応援だけよ!意味わかんない!!

 

………

 

そうして私は間宮さんに頼ることにした。そりゃ、宿毛湾ではそんなことできるわけないし、今までも間宮さんや司令官が作ってくれてたわけだからできないわよ。事情を説明すると間宮さんはにっこり笑って「了承」とだけ言って準備をしてくれた。

 

普段はニコニコと優しい間宮さんも料理のこととなると厳しい。

 

「ああ、そんなに強くやるとお米が壊れちゃいます!ゆっくり。そーっとでいいですからね」

 

「ふー!ふー!ゴホッゴホッ!目がいた…」

「火が強すぎても弱すぎてもダメですからね。いい感じです」

 

夕立が強く吹きすぎて顔を真っ黒にした話を聞いて大笑いしそうになったわ。息を吹きかけている時に笑わさないでよね!釜から水が吹きこぼれてあたふたして慌てて蓋を取ろうとして火傷もしたわ…。吹いたお水が手にかかっちゃった。

 

「わ、わっ、お水が!いけな…あっつ!!」

「満潮さん、大丈夫ですか?手を。ほら、これでよく冷やして…」

 

水道の冷たい水で冷やしてしばらく。水ぶくれ?って言うものになっちゃったわ。痛いし…。

 

「うん、でもいい感じですね。満潮ちゃん、お料理のセンスあるんじゃないかしら?」

「そ、そうなのかな…私にはわかんない。そんな、私は別に…」

 

「そう自分を低く見なくてもいいんじゃないかしら。提督も満潮さんはいつもまじめに、腐らずひたむきに頑張ってる。すごくいい子だよって言っておられましたし。お米を洗う時から、その真剣に取り組む表情はとても惹き込まれる雰囲気がありましたよ」

 

「え、と。そ、そうかな…」

 

私にはわかんない。でも、司令官や間宮さんがそう言ってくれるのは、ま、まあ嬉しいかも。ツンケンして卑屈でイジイジとしたチビ。これが宿毛湾で言われてたこと。ここのみんな。時雨や扶桑はそんなことはないと言ってくれるけど。私も前向きになったほうがいいのかしら。響や雪風みたいに底抜けの前向きにはなれないけど…。

 

「私、前の泊地では役に立たないって言われたし、いつも何かいじけてるようで。あんな奴に素直になんてなろうとも思わなかったし。でも、今は司令官や間宮さん、時雨や扶桑がそんなことないって。前向きに頑張ってるって言ってくれて。す、素直にもなれたらな!って思ってる。でも、難しくって」

 

「無理に自分を変える必要はないんですよ。それも満潮さんの個性です。そこがかわいいですしね」

「か、かわっ!?」

 

何を突然言い出すのよ!!もう、もう!意味わかんない!!

 

「変えようとする努力は大切です。ですけど、今持っている満潮さんの個性も大事だと思います。提督はそこは伸ばしつつ、変えたいところは満潮さんの思うように変わりたいと言う気持ちを支えてあげたい。そこで折れてしまわないようにって仰られていました。真面目でひたむきで、でもちょっと素直になれない。私はそんな満潮さんが好きですよ」

 

鼻がつーんってなって泣きそうになるのを必死に隠してこらえた。こうして卑屈になっているとまた捨てられてしまう。そう思ってそれを直そうとしてたけど、そういってくれるのはすごく嬉しい。好きって言ってくれて嬉しい。後ろを向いて我慢していると間宮さんが振り向かせて私の顔が間宮さんの胸に埋まるようにして抱きしめてくれた。好きって言ってくれて。私を認めてくれる人にそんなことされたら……泣いちゃうじゃない。

 

「満潮さん。ううん、満潮ちゃん。間宮は満潮ちゃんのこと、好きですよ」

「うっ、ぐすっ」

 

大きな声でと言うのは我慢したけど、やっぱり泣いちゃった。間宮さんも司令官と同じように、私を認めてくれた。そのままでいいって。時雨達も言ってくれてたのにね。うん、やっぱり、この鎮守府のみんな、大好きだ。口には絶対出さないけど。

 

………

 

「さ、いってらっしゃい」

「間宮さんも……」

 

「私はお手伝いさんでしたからね。お粥を作ったのは満潮ちゃんなんですから、満潮ちゃんが持って行ってあげなきゃ」

 

恥ずかしいから間宮さんにもついて行ってもらおうと思ったのに!もういいわよ!持っていけばいいんでしょ!

司令官のお部屋に持って行くまでの間、私の頭はずっとおいしいって言ってくれるかなとまずいって言われたらどうしようって言う2つがずーっと渦潮のようにグルグルしてた。緊張のあまりにもうこれを自分で食べて逃げちゃおうかとも思ったくらい。

 

あーどうしよう…と思っている間に司令官の部屋の前に来ちゃった。ここまで来て。ここまで来て逃げるわけにも…。5回ほどノックするのをためらったあと、私は心臓をドキドキ言わせながらドアを勇気を出してノックした。お願い、どっか行ってて!と言う思いもむなしく、翔鶴さんが「はい」と顔を出した。

 

「あら、満潮さん。どうかなさいましたか?」

「し、しし、司令官に、その…そのぉ…」

 

「うふふ、ご飯を持ってきてくれたのね?さっきから玲司さん、お腹がすいたってうるさくって」

「ほ、ほんと!?」

 

中に入れてもらい、テーブルにお粥が入った鍋を置く。

 

「悪いな、満潮。わざわざ持ってきてもらって」

「別に…はい、レンゲ」

 

「あ、わりい…俺、今手が使えないんだ。動かないんだよ。たぶん、持てたとしても落とす。翔鶴、悪い「わ、私が!私がやるわ!!」

 

「満潮、いいのか?」

「そんなこと聞かないでよ!やるったらやるの!!」

 

「ふふふっ、じゃあ満潮さんにお任せしますね」

 

緊張で震えながらお粥をレンゲですくう。できたてだから熱いと思って、ふーふーして…あううう。

 

「はい!口開けて!」

「あー」

 

た、食べた!ゆっくりと、味わってるみたい。

 

「これ、間宮が作ったやつじゃないな。満潮が作ったのか?」

「えっ?」

 

「いや、間宮が作ったにしては塩が薄いし、ほら、梅も乗っけ方が雑だったからさ。満潮が持ってきてくれたってことは、満潮が作ってくれたのかなって」

「し、知らない!しらないしらないしらない!それを作ったのは間宮さんよ!間宮さんが作ったんだってば!!」

 

「ははは、そっか」

「は、早く食べなさいよ!ほら、口開けて!」

 

少しずつ減って行くお粥。おいしいとも、まずいとも聞いてないけど…。聞くのが怖い。さっき、塩が薄いって…。

 

「……うん。うまいな。これくらいの塩加減で今はいいな。これを作ってくれた子は、うまく作ったなぁ。優しさが伝わってくる。なんちゃって」

「ふ、ふん!どうも!……ありがと」

 

「満潮が作ったんじゃないんだろ?」

「うるさい!バカァ!」

 

あははは!と笑いながら意地悪なこと言うからちょびっとずつすくってたのをレンゲいっぱいにすくって食べさせてあげたわ。もご!?とかびっくりしてたけど知らない!フンだ!

でも、司令官は笑いながら全部食べてくれて。ありがとう、おいしかったよ。と言ってくれた。頭を撫でれないというのはちょっとさみしいけど。ちょっとだけよ?でも、ありがとうって言ってくれて。おいしかったって言ってくれてよかった。ふ、ふん。明日も作ってあげなくもないわ!

やけどもすぐ見つかっちゃって…潰したらだめだ、とか、お庭にアロエがあるから塗っておきなって言ってたり心配かけさせちゃった。次からは気をつけないと…。

 

食堂に戻ってきて、司令官に言われたこと。間宮さんに言われたことを思い出してはニヤニヤしてるなって自覚しながら洗い物をしていたら、食堂の入り口で響と電が覗いてて……。

 

「なっ、ななな」

 

「満潮、ハラショー」

「なのです!」

 

とか言って2人で親指立ててるの見て頭にきちゃった。

 

「うるさい!ばか!」

 

朝潮姉さんがケンカしたくなる理由がわかった気がしたわ!!!




玲司はダウンですが、艦娘たちはそれぞれが日常を取り戻しています。今回は満潮に焦点を。
しれえ大好き雪風や、玲司のために何ができるかを考えている巡洋艦たち、戦艦たちも書いていきたいですね。

雪風の水着、かわいいですね。いいかも!しれえ、いいかも!や好きだもん!がクリティカルヒットでした。そんな雪風、次回に可愛く書きたいな

それでは、また。

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