満潮が退室した後しばらくして、翔鶴は瑞鶴と自主練に行ってしまった。本当なら翔鶴は何日でもずっと付き添っていたいのだが、こんな時にしかゆっくり話ができないかもしれない、と誰かが言っていたので日中は翔鶴ではなく、誰かが付き添うことになった、夜は翔鶴が付き添うので問題ないじゃん、と瑞鶴に言われ、よくわからないけど謎の納得感があったので従うことにした。
大淀、霧島、鳥海、妙高は事務があるが、いろいろと話せることは話しているので特に問題はないようで、名取や摩耶、最上達巡洋艦。扶桑や大和達戦艦。そして、新たに加わった潜水艦達。巡洋艦達はこれまでのこと、これからのこと。古鷹や祥鳳、潜水艦達は自分達はここでどうしていけばいいのか、聞きたいことが山ほどあるらしい、と瑞鶴から聞いた。
ここ2、3日はとにかく体の自由もままならない、と言うことでいろいろなお世話をしながら、と言うことになる。
「あたし達は提督にお世話になりっぱなしだからな。何か返せる時に返したいよな」
「そういうと提督は絶対に、こちらこそ最上達に世話になってるんだからーって言ってくるんだよね。そう言われるとボクも返しようがなくてさ」
「そうそう。バカね。五十鈴達はそんなことで返しきれないものをいつももらってるんだもの。バチが当たるわけでもないのに遠慮なんかしちゃって」
巡洋艦が摩耶、最上の部屋に集まっていた。北上は皐月や霰達とまだ部屋で何かやっているらしい。うざーい、たすけてーと言いつつもいい顔をしていたのでそのまま参加させずに遊ばせておいた方がいいだろう。
「ボク達は北上や瑞鶴達にも迷惑かけたし、提督も信用ができないって集まりボイコットしてたしね。来てすぐの頃は」
「あれな…ありゃ反省してるよ…」
「名取ともケンカしちゃったしね。北上が言ってたみたいに五十鈴達、視野が狭かったわ」
「でも、今はこうして五十鈴姉さんとも仲良くできているし、神通さんや古鷹さんも加わって、戦いに出るのはやっぱり怖いけど、それでも毎日が楽しいな」
「私はまだここに着任して1ヶ月も経ってないですけど、毎日みなさんの笑顔が見れて、楽しくお話ができて楽しいです。早く私も皆さんと一緒に海へ出れるようになりたいな」
「うんうん。鍛錬を積むことは大事だね。みんな鹿島に鍛えられていい感じになってきたんじゃない?」
「そ、そうっすかね。そう言ってくれるとなんか、やる気が出るよな!」
「うん!もっと頑張って、提督が安心して帰りを待っててくれるくらいにはなりたいよねー」
うんうん。と巡洋艦一同が頷いているが、神通だけが困っている顔をしていた。
「あ、あの。私も気づけなかったのですが……川内姉さん、いつのまに…」
「ん?あたし?あたしはねぇ、提督にどうやったら恩返しというか何かできるかなってとこからだけど?」
「え、それって最初から…」
「うん。面白そうだからあたしも交ざってみた!」
にぱーっと笑う、この鎮守府の者ではないない誰か。一同、川内を見て硬直し…。
「うおおおおおお!?」だの「きゃあああああ!?」だのという声が横須賀鎮守府に響き渡った。
………
「び、びっくりしたぁ!」
「え、え!?え、えっといつの間に!?ど、どちら様でしょうか!?」
「あー、古鷹?新しい子だね。あたしは川内だよ。神通の姉。川内型1番艦!」
「は、はい。そ、そうですか…あの、新しく着任したんでしょうか…」
「違う違う。父さんがさ、玲司兄さんの様子見てこいってうるさくてさー。あたしと島風、赤城姉さんで様子見に来たの。赤城姉さんは夕方くらいに着くかな。島風とあたしは先にって感じ」
「おとう…さん?」
「うん。司令長官。要はあたし達艦娘と提督を管理してる一番偉い人の艦娘。父さんって言ってるけど、あたし艦娘だしね。あ、神通、お茶ちょうだい。ひひっ、今日は神通に勘付かれず侵入成功!」
いえーいと神通にピースをし、笑っている。神通はちょっとムッとしながらお茶を淹れに行った。名取は神通が悔しそうにしているところを見たのは初めてで、ちょっと新鮮な気持ちになった。違う、そうじゃない。
「え、ええっと…川内さんは司令官さんを見に…?」
「そうだよ。陸奥姉さんといつもクソ忙しい高雄姉さんは留守番。まー陸奥姉さん連れてくるとかなりうるさくなりそうだしね。ここの翔鶴とできてるんでしょ?兄さん」
ぶばっと摩耶がお茶を吹き出した。突然現れては突然すごいことを聞いてくるもんだ。と言うか、別の鎮守府からの来客もないのにこの川内が知っているのか。
「摩耶、だいじょぶ?いや、明け方窓から兄さんどうしてるかなー、寝てるかなーって覗いてたらパンツとブラだけの姿の翔鶴が兄さんのベッドから出てきてたからさ」
その言葉に五十鈴と最上もお茶を吹き出し、摩耶は魚のように口をパクパクさせていた。阿武隈は顔から蒸気が出ていた。古鷹も同様である。覗きはよくないよねーあははーと川内はのんきに頭をかいて窓から覗いてしまったことを反省していたが、それはどうでもいい。
「ゴホッ、翔鶴……すごいねあの子」
「へ、へえ。ま、まあ翔鶴は提督を玲司さんって名前で呼んでたり、この間中庭で抱き合ってたし、まあ、うん、まあ」
「し、した、した、下着で…いっしょ……ふぇえ…」
妙な雰囲気になっている部屋に神通がもどってきたが、それよりもブスッとしながら神通は何が起こっているかを聞くよりも、川内の気配を察知できなかったことの方が腹が立っているらしく、川内を見ていた。
「で、で、で。兄さんに何するの?楽しそうじゃん、あたし交ぜてよ!兄さんが回復するまであたしや島風も赤城姉さんもいるからさ。教えて教えて!何すんの?」
「いや、それを考えてる最中なんすけど…」
「あ、そうなの?ふーん。あ、兄さん、いつも料理作ってるっしょ。でね、兄さん、いつもそれで振舞ってくれるんだけどさぁ。いざあたしや高雄姉さんや磯風がご飯を作ってあげるとさ。めっちゃ喜ぶよ。兄さんへのお返しは料理を作ってあげることがいいと思うよ。あたしは卵焼きくらいしか作れないけどね!」
ふふん、と得意げだけど、それで喜んでくれる提督も提督だな…と摩耶は思った。けど、思い返してみると確かにとも思う。前に自分たちが手伝った駆逐艦がみんなで頑張って作ったハンバーグに提督は半泣きになりながら1人1人抱きしめてありがとうって喜んで、うまい!って大きな声でみんなに聞こえるように言ってた。すごく嬉しそうだった。
川内が言うなら本当に効果は大きいのかな、と思った。
「摩耶、よく頑張ったな。ありがとうな。俺は幸せ者だよ」
「へっ、別にどうってことないよ。あたしの感謝の気持ちさ」
「そうか。じゃあ俺も摩耶に感謝の気持ちを伝えよう」
「えっ、てい、提督、顔…んっ!?」
そうしてあたしは提督と唇を重ね……「摩耶!摩耶!まよったら!」
「ああ!?あたしは摩耶だっつってんだろ!」
「何ぼーっと顔赤くしてんのさ。もしかして、提督と何かえっちぃ妄想でもしてた?」
「はあああああ!?な、ななななな何言ってりゅんだよテメエ!」
「あはははは!!あったりー!もー、摩耶は乙女だなぁ」
「ちっげーっての!おい最上いいいいい!」
笑いながらヘッドロックされる最上と真っ赤になりながらぷんすかしている摩耶。もはやこれも見慣れた日常風景だ。バカね…と五十鈴がため息をつくのも、最近だと古鷹がそれを止めようとするのも。阿武隈がなぜか巻き込まれるのも。
名取はそれを笑いながら眺めるのが大好きだった。この私語もよし。自由に過ごすのもお風呂にも自由に入れて。そして温かいご飯があることも。すべてが名取には宝物だ。
「おー、いけいけー!」
なぜか今日はそこに川内が交ざっているのだが。
「川内さん。川内さんは司令官さんの様子を見に来られたんですよね?司令官さんにお会いしなくていいんですか?」
「ん?あ、そうだね。んー、まあ、それよりもちょっと父さんに言われたことがあってね」
「司令長官にですか?もしかして名取達に重要な任務が?」
「あ、うん。あ、いや、違うよ。え、っと。えっとね」
突然先ほどまでの飄々とした態度が崩れ、両方の人差し指をつんつんし始めてもじもじとし始めたではないか。あれ?この人なんだかかわいいかも…そう名取は思うようになった。
「あの、あのね。その…じ、神通もそうなんだけどさ。その…あた、あたし、あたし、と。みんな、お友達になって…ほしいなって」
キュンッと言う音が部屋に響き渡った気がした。目の前で先ほどと打って変わって抱いて頭をなでてあげたくなるようなこのかわいい軽巡は誰だ。古鷹に至っては左目が眩しいくらい光り輝いている。
「ん、んとね。あた、あたし。ほ、ほんとは、さっきみたいに話すの苦手で、名取に言われるまでね。その、平気だったんだけど、改まると、あ、やっぱだめ。う、ううううう!」
「お、おいいいい?消えたぞ!?」
「心配はいりません。そこにおります」
神通がテーブルの陰に隠れた川内を引っ張り出す。そっぽを向いているけど顔が真っ赤に見える。え、川内さんってもしかしなくても……。
「神通!あたしを見つけないでよ!あ、あう、あ…ううう、み、見ないでよぉ!みんなで見ないでよぉ!はずかしいからぁ!!」
やっぱり。やっぱり部屋にはキュンッキュンって音が響いたような気がする。古鷹の目がもう大型探照灯くらいの光量で光ってないだろうか。
最上と摩耶は長年連れ添った相棒と言うことでアイコンタクトで会話している。
(なんだいこのかわいい子。この子本当に龍驤さんの妹?)
(信じらんない。絶対ちがうだろ。めちゃくちゃかわいいじゃんかよ)
(間違いないよ。龍驤さんとは絶対無関係だね)
………
「ぶぇっくしょい!」
「まあ、龍驤さん、風邪ですか?」
「んやぁ、ちゃうと思う。誰か絶対うちのことを噂しとるんや。このかわいらしゅうておしとやかで戦闘でも頼りになる龍驤ちゃんを褒めとるんやで!もう、照れるやないのん!」
「うふふ、そうですね。龍驤さんはスラッとしててかわいらしいですもんね」
「おおっ、さすがは間宮!わかってるやないのー」
残念。今龍驤は最上と摩耶にへんな噂をされているのだ。
「ところでなんや。ん?近海の警備に当たっとる妖精さんが帰ってきよったで。おかえりー」
「りゅうじょうさん、たいへんです。たいへんです。いちだいじです」
慌てた様子で帰ってきた妖精さん。玲司と一緒についてきた古参の妖精さんだ。警備に関してはずば抜けた索敵能力を持つ。彩雲を愛機とし、その卓越した腕を時に龍驤とタッグを組んで発揮させたこともあり、龍驤とは特に仲がいい。
「何や、どないした。血相変えてきたってことは敵が攻めてきたんか!?」
その言葉に間宮に緊張が走る。こんな、提督が動けない時に…。妖精さんはコクリと頷いた。それは本当に、この横須賀鎮守府に敵が迫っていると言うこと。龍驤は「なんやて…こんな時に…」と焦りを隠せない。
「あかん、玲司が動けんのやろ。ここの子らは混乱しよる!しゃあないな、この龍驤さんが動いたろやないの。『炎の女王』の本気、見せたろやないかい!」
龍驤の目が真剣になった。いつものお気楽な顔とは違う。その顔は、彼女が最強の艦娘。原初の艦娘の1人であると言うことを思い知らされる。1人で大丈夫だろうか…。
「心配せんでええよ間宮。うちがおるからには、絶対近づけさせへんでな。大淀に大至急お父ちゃんに電話して出撃を陸奥姉やん達にも出すように言うて。時間稼ぐで。で、妖精さん、敵はどれくらいおるんや?種別は?」
「てきはただひとり。てきはおおぐいのじょおうです」
1人。すなわち一隻だろう。しかし、『炎の女王』と同様に、敵にも女王の名を持つ敵がいるのか。龍驤1人では危ない。すぐに助けを。しかし、龍驤は驚愕の表情で「あかん…」と言った。あかん。つまり、だめ。龍驤がそう言うと言うことは、龍驤でさえ手に負えない本当に強大な敵!?
「間宮、あかん!すぐに行動に動かさなあかん!!あいつが何で来るねん!やばい、やばいでぇ!」
「龍驤さん、どうしたんですか!?一体何をすればいいのですか?」
「隠せ!!食べれるもん全部隠すんや!横須賀の食料が大ピンチなんや!あいつが来て嗅ぎつかれたらここの食料なんか1日ともたへん!はよ隠すで!あいつが……赤城が来る前に隠すんや!!」
「は、はい!?」
食堂で1つの戦いの火蓋が切って落とされた。
………
あうあう言いながら、たどたどしく話す川内の話をまとめると、最近、姉の高雄が横須賀の大淀とお友達になったと言う。家族以外にも気兼ねなくお話をしたりお茶をしたりと言うことがとてもとても楽しくて仕方がないらしく、この頃しょっちゅう大淀の話をしているのがうらやましくなったのだそうだ。そこで父と高雄話を聞いていいな、と言ったら父に「なら川内も横須賀の子と友達になってきなさい」と言われた。
特に横須賀に行く機会もないし、かと言って自分は何かで見たことがあるけどコミュ障と言うもので、父や姉妹には普通に話せるが、もう他の人になると恥ずかしくて姿を見せられない。虎瀬でさえ緊張して噛んだりするのに、はたして横須賀の子たちとなんか世界がひっくり返っても無理!と言った。するとどうだ、大本営会議で玲司が昔と一緒の発作を起こし、倒れてしまった。横須賀には帰したがしばらく身動きが取れないだろうと言われ、玲司の様子が心配だ。見てきてくれないかと言われた。川内は拒否しようと思ったのだが…。
「川内ちゃん。お友達が欲しいのでしょう?なら、玲司さんの様子を伺いにいくと言う口実で、そうね。巡洋艦の方々とお友達になってみては?」
と言う大変貴重でありがたい助言を頂いたのだ。にっこり笑っていたが、あの笑顔は「絶対行け」と言う無言の命令だった。しかも、目を離すと何をしでかすかわからない島風と赤城も行くと言い出し、もう行くしかないじゃん、と腹をくくってここに来たわけである。とりあえず、最大レベルで隠密を図り、神通の目をごまかして普通に喋ってみたはいいが、時間が経つにつれ、しかも川内がいると言う意識されて会話をされると、サラサラと喋ることが困難になってきたわけで。
「と、と言うわけなんだけ…です。はい」
先ほどまでの自信満々の会話はどこへやら。すっかり小さくなって横須賀のメンバーに取り囲まれるようにして小さくなる川内。摩耶や最上達はやっぱり、原初の艦娘の恐るべき強さを知る子達だが龍驤の妹か?と疑問に思った。う、うーんと言っていると
「なりましょう、お友達に。川内ちゃん」
「せ、せんだいちゃん!?」
「私は名取と言うの。お友達が増えるのは所属が違ってもうれしいもん。名取も川内ちゃんのお友達になりたいな」
こういう時名取は早い。そしてその笑顔は誰の緊張も溶かす。えへっと言って右手を差し出す。
「あ、え…」
「お友達になろうの握手。ね?」
「あ、はい。せ、川内…ですだよ。よ、よろしくお願いねがい…するね」
「ふふっ、うん!よろしくね!」
そろーっと出す右手をしっかり握って握手する。それに続いてそれぞれが自己紹介をして握手を交わしていく。もうそのたびに川内は嬉しそうにしている。古鷹は夜空を宇宙まで照らせるのではないかと言うほど目が輝くほどにまでになっていた。
「かわいい…かわいい…」と言う言葉に川内も「か、かわいくないですたい!」と混乱のあまりおかしくなっていた。
「でさ、川内。さっき川内が言ってたけど、提督に料理を作るのがいいって言ってたよな?なあ、提督って何が好きなんだ?」
すっかりしばらくして打ち解けた川内と議題を元に戻し、提督に恩返しをしよう。と言う話に戻っていた。
「あー、うん。そうだね。兄さん、カレーかオムライスが好きなんだよ。たぶん、ここでオムライスガンガン振舞ってない?」
「あ、うん。新しい艦娘が着任したら、オムライスって言うのがルールだね」
「はい。私と祥鳳さんに潮さん、イムヤさんにゴーヤさんが加わった時もそうでした。とてもおいしかったです」
「あー、そうだよね。オムライスは兄さんの思い出の料理だからね。亡くなった妹さんが好きだったやつで、おいしいおいしいって言って、泣き顔がすぐ笑顔になるからって一生懸命練習したって味だからね」
「えっ!?」
「提督に妹さんが。それも亡くなったって…」
「あ、あれ?聞いてないの?艦娘がまだ全然いなかった時の話だし、う、うーん」
沈黙。そんな重い話は聞いていない。と言うか、あの人の過去はどれだけ辛い過去なんだ?とみんな疑問に思った。
「川内姉さん、その話、今度詳しく聞かせてください」
「あ、ごめーん。兄さんから聞いてないなら黙秘しまーす」
「お、おいそりゃないぜ!」
「そ、そうだよぉ。そこまで聞いたらきになりますぅ!」
「あー阿武隈耳元でうるさい!うーん、あとで兄さんに聞いてみる。それより、オムライスはそんなんだから、カレーのが喜ぶかも」
「カレー、だね。うん。間宮さんに聞いてみよっか。北上ちゃんも今度入れて、進めていこ?妙高さん、来るかなぁ」
「ボクが誘ってみるよ。霞が少し慣れてきてもがみねえちゃって寄ってきてくれるのかわいいんだ♪」
「なにぃ!?あたしなんか怖がって近寄ってくんないのに!」
「摩耶は最初に怖がられたもんねー」
「元はと言えばお前のせいだろ!?」
「ボクは知らないよ。摩耶が摩耶だー!って大声出すからじゃない」
「ち、ちくしょーめー!!」
「あ、お部屋どうしよう?しばらくお泊まりだよね?」
「いいよ、天井裏で寝るから」
「だ、ダメだよ!そんな。せっかくだから一緒に寝ようよ」
「はぁい!阿武隈も一緒がいいですぅ!」
「私も、姉さんにお話ししたいことが」
「え、ええ…わ、わかりましゅた。い、一緒にねりゅ」
「そこまで緊張しなくても…」
川内はこの後、巡洋艦以外の艦娘と話をすると、また最初の時のように固まってしまい、笑いを誘うことになるのであった。
/
満潮が去ってしばらくして、部屋には妙高と霞がやってきた。その後ろには雪風が心配そうな顔で隠れるように玲司を眺めていた。
「提督。妙高、失礼します。具合はいかがですか?翔鶴さんに代わり、午後のお世話に参りました。あと書類の報告も」
翔鶴は自主練に行ったため、1人で暇を持て余していたのだが妙高が来てくれたようだ。仕事を兼ねてか。束になった書類も持ってきている。ここまで来てすることもないだろうにとも思ったが、溜っているのは自分のせいだとも思い、申し訳なくなった。
「ああ、妙高か。なに、1人でなんもできないから暇を持て余してたとこだ」
「そうでしたか。霞ちゃんと雪風ちゃんがどうしても行きたいとおっしゃったので」
「そっか。賑やかになるな」
お見舞いに来てくれるのは嬉しいことだ。霞が頭を撫でてくれる。雪風は心配そうに覗き込んでいる。
「しれーかん。ぽんぽんいたいの?」
「しれえ…」
「ははっ、ぽんぽんは大丈夫だよ。ちょっと、体が動かないんだ。ごめんな。雪風もなでてあげられなくて」
「そ、そんな、雪風は!」
「雪風さんは特に提督をご心配されているようですね。霞ちゃんもお休みしてると言うと、自分も会いたいと」
「そっか。心配してくれたのか。ありがとう」
「しれーかん。はやくよくなってね。また、かすみにいいこいいこしてね」
「ああ。元気になったらな」
「うん!」
そう言って霞は靴を脱いでもぞもぞとベッドに上がってきた。
「霞ちゃん、上がってはいけませんよ」
「いいよ。べつに大丈夫」
「えっへへー。しれーかんといっしょにねんねする!」
「お昼寝の時間か?そっか。いい子でねんねできるか?」
「できるもん!かすみ、いいこにする」
「ん。じゃあ司令官もお昼寝するか。雪風はどうする?」
「えっ、えっと…」
恥ずかしいのではなく、司令官とそんな昼寝なんて…と遠慮がちになる。本当なら寂しいからここまで来たのに。
「おいで、雪風。霞と一緒に昼寝しよう。今日は何もないんだろ?」
「ゆきかぜちゃんもおいでよー。ぬくぬくだよ♪」
「雪風さん。お言葉に甘えてはいかがですか?」
「は、はい!」
妙高にも背中を押されて雪風はおそるおそるベッドに上がって横になる。布団の暖かさが雪風の眠気を誘う。霞はすぐ寝てしまったらしい。スウスウと寝息を立てている。
「雪風。キス島。頑張ったな。雪風が助けてくれたって、天龍が言ってたよ。えらいぞ」
「っ!はい!雪風は絶対に沈みません!ずっとずっと、しれえの艦隊で頑張ります!好きだもん!」
「ふふ、そっか。司令も雪風と一緒に頑張るからな」
「はい!ずっと一緒です!」
そうしてニコニコ喜んでいたが、5分も経たないうちに安心して眠ってしまった。俺は幸せ者だよ。と雪風を見て笑った。食後で雪風や霞を見て安心したせいか自分も眠くなってしまった。
「妙高…すまん」
「はい、どうぞお休みください。提督に必要なのは休息です。報告はお目覚めになられてから致します。私はここにおりますので」
「ありがとう…じゃあ、おやすみ…」
まるで霞ちゃんや雪風さんみたい…と寝る早さに笑ってしまった。朝潮や霞達のことを心配しなくてもいい安息の日々。妙高はここに来れてよかった、と感謝した。3人の寝息を聞きながら、持ってきた書類に目を通して妙高の平和な午後の時間が流れていった。
/
「おうっ!私の速さについてこれる?」
「くっ、侵入者が堂々と私たちよりも先にお風呂とはいいご身分ですね…しかも挑発まで!大潮!一発必中!やるわよ!!」
「姉さん、だからあの子は艦娘だと思うんだけど…」
「ふむ。朝潮、いい心構えだね。今日から導入された露天風呂を占拠したことは許されないからね。私も本気でお相手しよう。ウラー!!」
「ね、ねえ、ここで戦いとかやめてよね!?」
「そ、そうだよぉ!だ、誰か!誰かー!」
一方で駆逐艦達はドックで謎の戦闘が繰り広げられようとしていた。
ドックの侵入者、いったい何風なんだ…!?
川内が盛大にキャラ崩壊していますね。強いけどおどおどかわいい系。あると思います。そして龍驤を青ざめさせる彼女の正体は!?次回に続く!!
次回、横須賀鎮守府に刺客が続々!?
それでは、また。