提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

86 / 259
川内のお友達になってほしい、は古鷹や名取のハートを奪って(?)しまったようです。こうして高雄に続いて川内にもお友達ができました。かわいい川内を書きたくなったのですがいかがだったでしょうか?

さて、前話の終わりにお風呂で何風と朝潮が対峙していたようですが、一体何者でしょうか?言うまでもなく、あの子ですけどw


第八十六話

「むぅ、誰もいなーい!」

 

あちこちを記憶を頼りに探してみても、誰もいない。駆逐艦寮も。食堂も。せっかくお姉ちゃんに遅れて出発したものの、そのお姉ちゃんさえいない。みんな出撃中?執務室は覗いて見たら忙しそうにしていて聞けなかった。目当ての人もいない。そして先ほどの言葉である。頰をふくらませ、ぷんぷんしながら鎮守府内を全力で休みなしで駆けてきたので汗をかいてしまった。

 

彼女の服装は正直春が訪れたとは言えまだまだ見ていて寒々しい。健康的なお腹や腰は丸出し。スカートは極端に短く、Z旗の下着がちょっとかがんだだけでも見えてしまいそう。いや、もういろいろ見えてしまっているというかそれはスカートなのか?と言うツッコミも多い。なにせ肌の露出が多いのだ。

 

「くちゅん!」

 

艤装を下ろせば寒くなる。当然だ。彼女の正装はとにかく寒々しい。普段は極端な寒がりでごっつい半纏や着る毛布を着て、時にこたつから動かない。さて、誰もいないし廊下は寒いし困った。そこで彼女は記憶を頼りにドックへと向かう。きっと湯はいつでも修理できるように満たされているだろうから。

 

(おーい。お風呂沸いてるぞー。早く入れー)

(お風呂!お風呂!お兄ちゃん、頭洗ってー!)

 

(いい加減自分で洗えるようになれよ。おっそーいとか文句言うくせに)

(にひひ、今日は言わないもーん)

 

お兄ちゃん。提督になるまではいつも頭を洗ってもらっていた。そのお兄ちゃんが倒れたと聞いて飛んできたのに。むぅ。いないってどう言うこと!?とまた怒りがこみ上げてきた。ぷんぷんとまたし始めたのを、キューキューと足元の自立し、歩く砲台。連装砲ちゃんが落ち着かせていた。

 

「うん。すぐ会えるよね。うう、寒いし今はお風呂お風呂…」

 

少女…原初の艦娘。「ハヤブサ」島風は連装砲ちゃんと一緒に駆け足でドックへと向かった。

 

……

 

脱衣所で服をぽいぽい脱ぎ散らかしていると妖精さんがどこからともなくやってきた。島風にはこの妖精さんは見覚えがあった。

 

「おうっ!お兄ちゃんの妖精さんだ!」

「おや?しまかぜさんじゃないですか。れいじさんならしんしつですよ」

 

「そうなの?そんなことより寒いのー!お風呂入りたいの!」

「あら、そうでしたか。でしたらちょうど、かいふくはできませんが、おーしゃんびゅーをたのしめるろてんぶろがかんせいしたんです」

 

手袋もぽいっと脱ぎ捨ててカゴにも入れず、中へ入る。奥の窓から外へ出ると、良質なヒノキ(どこから持ってきたのかは不明)を使った母港が見え、そして海を一望できる露天風呂ができていた。

 

「ろてんぶろがかんせいした!ただちににゅうよくしたまえ!」

 

どこかで聞いたことがあるようなセリフを言って島風を露天風呂へと案内する。深さも背の低い駆逐艦に考慮した浅めのものと、戦艦や巡洋艦でもしっかり肩まで浸かれる深さのものと、大人数が入っても問題ないように作られ、すぐ隣にはベンチやテーブルもセットされ、お酒やジュースなどを飲みながらゆったりできるスペースも確保。誰がここまでやれと言った、と言うくらいの大改築であった。

 

「わあ!すごいすごーい!入るー!」

「からだをしっかりあらうべし!!!」

 

大本営のお風呂もかなり広く、大きくゆったりと入れるが、横須賀のお風呂も負けてはいない。大理石の湯船。広々と修理中でもゆっくりできる。それとは別に傷の回復には使えないが疲労回復にはもってこいの大浴槽。こちらもどこから持ってきたのかは知らないが贅沢に高価そうな石が使われている。

 

前の提督は艦娘共の風呂など簡素でいいとドックしかなかったのだが、玲司が修理以外にもストレスを解消できるようにと浴場の改装を妖精さんに持ちかけたのだ。するとどうだ。我先にとドックへ駆け出し、どうやったのかはわからないがあっと言う間に大浴槽ができ、露天風呂計画も玲司へ持ちかけるくらいの仕事ぶりである。露天風呂は1からの設計のため、少々時間がかかったが、艦娘が演習や出撃でいない昼の合間合間に、家具職人の妖精さんが丁寧に企画、設計し、何と言うことでしょう、匠の技で艦娘のストレスが一気に解消される素敵な露天風呂が完成。

 

この匠の技をふんだんに盛り込んだ露天風呂の改装費用はなんと0円。全ては妖精さんの企業秘密である。ちなみに妖精さんの報酬は京都の有名どころの色とりどりの金平糖詰め合わせで済んだのである。お財布にも優しい劇的大改造。貴官の鎮守府や泊地でもいかが?

 

………

 

「んー!島風もここに住みたーい!!」

 

海に向かって叫ぶかのように腕を思い切り伸ばしながら露天風呂でくつろぐ島風。その言葉、父である総一郎が聞いたら卒倒しそうである。兄の食事、これほど大きくてゆっくりできて露天風呂まであるドック。大本営よりも遥かに艦娘への待遇がいい。世界で一番くつろげるドックではないだろうか。傷を癒したら露天風呂で心もリラックス。こんな場所にいては大本営に帰りたくないと思うのは当然である。姉である龍驤と妹の明石が羨ましすぎる。ぶくぶくぶく…と2人を恨めしく思う。

 

「んうぅぅ!龍驤お姉ちゃんと明石ずるーい!」

 

また海に向かって叫ぶのである。

 

そろそろのぼせそうになってきた。体も十分温まったと思い、浴槽から上がる。

 

「く、曲者!!!」

「おうっ!?」

 

駆逐艦だろう大きさの黒い長い髪の女の子が島風を睨んでいた。敵意むき出しであり、その後ろからぞろぞろと仲間がやってきた。

 

「逃げようとしても無駄です!あなたは完全に包囲されています!おとなしく投降しなさい!」

「姉さん、タオルくらい巻いてよ!」

 

ビシッと指を指してくる黒髪の誰かといそいそとタオルをその子に巻く栗毛の女の子。姉妹だろうか。さて、投降。つまりおとなしくお縄につけと言うこと。当然、島風がおとなしく投降するはずもなく。

 

「やだ」の一言と共に舌をべーっと出して挑発する。戦いの火蓋が切って落とされた。

 

………

 

「あー…いたたた…今日も疲れたなー」

「大潮姉さんが一番頑張ってたもんね」

 

「そうだね。ふふ、最近は朝潮ちゃんと響ちゃんの勝負を流すようになったね」

「また鹿島さんに追加で20周走らされてたわね…あれはもう私もこりごりよ…」

 

「もう付き合いたくないもん」

 

そう、また大潮の姉、朝潮は響の挑発に頭に血が上り、かけっこ勝負を練習中にやったのだ。

 

「大潮!ついてきて!」

 

その言葉を大潮は遠い目をして無視した。大潮!と呼ばれても、満潮がそこで止めに入り、行かなくていいからと言ってくれたおかげで巻き込まれずに済んだ。案の定、鹿島に見つかり罰として速いスピードを維持したままの演習場20周。遠い目でひいひい言いながら、鹿島に激怒されて走る2人を見て「ああ、大潮は今日は平和です…」と呟くのであった。

 

練習終了後、陸に打ち上げられた魚のようにピクピクしながら倒れ込んでいたが、今はよれよれと歩いている。朝潮姉さんは横須賀鎮守府に来て、今までと一変し、負けず嫌いで特に響が相手だと競争心をむき出しにして勝負に臨む。姉から仕掛けることもあるが、大体は響のしょーもない挑発にすぐカッとなって勝負を引き受けるのだ。そろそろ拒否することを覚えて欲しい。なお、大潮が言っても聞きはしない。

 

「そんなに走るのがお好きなんですね、朝潮さんも。響さんも。わかりました。では、特別メニューです。この演習場を大回り、20周走ってくださいね?止まるごとに5周追加です。いいですね。はい、レディーゴッ!」

 

眉毛と口元が怒りでピクピクしながらも、鹿島は笑っていた。いや、目が笑ってなかったけど。ただでさえ終わったら足が震えるくらいの練習なのに、アレに付き合わされたらこっちの身がもたない。ずっと朝潮の言うことには素直に従っていた大潮であったが、自分の身を大事に。平和にアゲアゲで毎日を過ごしたい…。平和を願う大潮にとっては、もう朝潮に従うだけではダメだと気付いてしまった。平和を守るためなら姉の指示を反故にする。それも大事だ。

 

鹿島の超絶罰もそうだが、何より怖いのは走り終えた後、倒れ込んでいるところにやってくる黒い笑みを浮かべた電の存在。響も朝潮姉さんも震え上がるほど怖がるのに学べない。

 

「電は前も言ったのです。練習中におふざけはよくないのですって。鹿島さんに20周じゃ不満らしいので倍にしてもらうのです?」

 

ヒッと倒れ込んでいた2人が飛び上がって正座をする。

 

「次に朝潮ちゃんも響ちゃんもこう言うのです。やめて、それだけは、って。なのです」

 

「「やめて、やめてそれだけは!!…ハッ!?」」

 

にっこぉ……と笑う電。その笑顔は巡洋艦の人でさえ恐怖を覚える。

 

「なのです…」

 

その時の電のなのです、と言う言葉にその、ちょっと…うん。怖いしかない。

 

………

 

そうしてやっとふらふらの姉と共にドックへとやってきた。お風呂に入ってしっかり疲れを取って…大好きな牛乳を飲んで…今日も平和に1日が終わる…。ああ、疲れたけどいい1日…。

 

「ほよ?なんなのです、この服?」

「見たことのない服だね。えっ、ええ!?こ、これパン……!?こ、こんなすっごい下着!?」

 

「あんたに言われたら世話ないわね、吹雪」

「み、みちみみみ満潮ちゃん!?何のことかなぁ!?」

 

「見知らぬ服……。侵入者ですね!」

「ほう、この横須賀にとはね。おもしろい。犯人は捕まえてみせよう。朝潮、行くよ」

 

「はい!大潮、満潮、荒潮!続いて!」

 

スポポポポーンとなぜか服を全部脱いでからドックに突撃する。いや、脱がなくていいんじゃないかな…。と大潮は言いたかった。中から姉の声で「く、くせものおおおおおお!!」と言う大声が聞こえてきた。

 

ああ、大潮の今日の平和はここまでですかそうですか。

 

満潮が中に入っていく。吹雪も続く。大潮は遠い目でその様を眺めていた。

 

……

 

「曲者?うーんと…どこ?」

 

「目の前の貴方です!あなた、一体何者ですか!?」

「ん?私は島風だよ。島風型一番艦。一番はっやーい駆逐艦だよ!」

 

「く、駆逐艦!?な、なぜ貴方は私たちのお風呂に勝手に…」

「だって寒かったんだもん。もう熱くてボーッとしてきたから出るね」

 

「ま、待ちなさい!話はまだ終わっていません!どこの所属ですか!?さては、朝潮達を連れ戻しにきた宿毛湾の……ッ!!」

「それは秘密だよ。お父さんにかんたんに言っちゃダメって言われてるから」

 

「お、おとうさん!?」

「なんだ、そんなぷれいをやっているのか。すごいところだね」

 

「とにかく、どいてよー!もうのぼせちゃうじゃない!」

「いいえ、貴方がどこの所属で何の目的で来たのかを白状するまではここから一歩も動かせません」

 

どうしよう。この2人が完全にこんな時だけ頼もしいんだけど…と吹雪は思った。普段は自由の暴走列車とそれにまんまと乗車しちゃう人って感じなのに。でも、妖精さんが不法侵入者なら捕まえるはずじゃ?とも思った。

 

「ちょ、ちょっと2人ともストーップ!えっと、島風ちゃん、だよね?ど、どうして横須賀に来たの?誰にも止まれとか入っちゃダメとか言われなかったの?」

 

「お兄ちゃんの妖精さんがはいっていいよって言ったんだもん!入り口から普通に入ったけど、いいよって言ってくれたもん!」

 

「お、お兄ちゃん!?」

 

島風は上がりたいのに止められてかなり機嫌が悪い。朝潮と響も一気の飛びかかって押さえそうな感じで危険である。満潮はオロオロしているし、荒潮は脱衣場であらあら言ってるし、大潮はどこをみているかわからないし…。電や時雨達、頼りになりそうな子は後片付けでまだ時間がかかる。どうしてこんなことにばっかり巻き込まれるのか…。大潮ではないが、遠い目で窓の外を眺めたくなる。昨日だったら、雪風にお任せできたかもしれないのに…。

 

「??お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。倒れたからってお見舞いに来たの。ねえ、島風風邪ひいちゃうからもう行くね」

 

「くっ、ダメだ。司令官を狙っている。朝潮、取り押さえるよ!」

「はいっ!せーのでいきましょう」

 

「ちょ、ちょっとぉ!?ダメだよ2人とも!!」

 

「おうっ!私の速さについてこれる?」

 

そう言いながら島風は湯船に浸かる。あ、寒くなったんだ…。

 

「くっ、侵入者が堂々と私たちよりも先にお風呂とはいいご身分ですね…しかも挑発まで!大潮!一発必中!やるわよ!!」

 

「姉さん、だからあの子は艦娘だと思うんだけど…」

 

満潮が姉を止めようとするが…

 

「ふむ。朝潮、いい心構えだね。今日から導入された露天風呂を占拠したことは許されないからね。私も本気でお相手しよう。ウラー!!」

 

響が朝潮に燃料を注いでしまう。

 

「ね、ねえ、ここで戦いとかやめてよね!?」

「そ、そうだよぉ!だ、誰か!誰かー!」

 

せーの!とこんな時だけは息がぴったりな2人。逃げようがないはずだ。かわいそうだけど、一旦捕まってもらおう。うん、そうしてもらおう。

 

しかし…完璧に2人は島風を捉えていたはずだった。押さえつけるために飛びついた先に。その島風が…いないのである。ドッボーン!と2人が湯船に遊びで飛び込んだようにしか見えなかった。

 

「んふふ。島風はそんなんじゃ捕まらないよーだ!」

 

吹雪の後ろから声がする。目は離していなかった。なのに。それなのに。

 

「あー、あったまった。おうっ!」

 

気がつけば脱衣所にいた。隣にいた満潮も信じられないと言う表情で。朝潮と響も顔を合わせてぽかーんとしているし。脱衣所の大潮と荒潮は立ち尽くしているし。島風は自分たちのことなどどこ吹く風。

 

「なんやー?なんかあったかー?って、ゲェッ!島風!?」

「おうっ!龍驤お姉ちゃん!!」

 

「こっちに来んの赤城だけちゃうのん!?」

「え?お父さんから聞いてない?川内お姉ちゃんは?もう来てるはずだよ?」

 

「川内!?」

「うん。島風とー。川内お姉ちゃんとー。赤城お姉ちゃん!」

 

その名前を聞き、龍驤が膝から崩れ落ちた。

 

「うそやん…赤城だけやのうて…島風に川内まで…」

「にひっ、お姉ちゃーん!髪乾かして!」

 

「うそやああああああ!!!」

 

龍驤が叫ぶ横でねえねえ、早くー!と急かす島風。もう何が何だかわからなかった。

 

 

「ん?」

 

誰かの叫びが聞こえたような気がして目を覚ました。頭はすっきりしている。体は……まだ動かない。

 

「提督、お目覚めですか?」

「ああ。妙高、おはよう。すまんな、もう夕方か…がっつり寝ちまったな」

 

「よくお休みになられていましたよ。雪風さんと霞ちゃんはまだ眠っています」

 

首だけは動かせるので左右を見てみると、雪風と霞はスヤスヤとまだ眠っていた。2人ともしっかりと手を握っている。かわいらしかった。

 

「はは、かわいい寝顔だな。もう少し寝かせてあげよう。ん、頭痛も引いた。ちょっと良くなったな」

「そうですか。ならよかったです」

 

妙高が微笑む。少し前までは警戒を解かなかったが、霞が懐いてくれるようになってからは笑ったり、気軽に話しかけてくれるようになった。少しずつ慣れてきてくれているようで嬉しかった。

 

「妙高ももう今日は終わりにしたらどうだ?」

「ええ。もう少しで終わりますので」

 

そっか。と言うとまた妙高はペンを走らせる。目は冴えてしまった。夜寝れるか心配だな…。と別の心配が始まった。何もできないのはいつも変わらずもどかしい。が、指がようやく動かせるようになってきたくらいなので、もちろん何もできない。

 

とりあえず寝顔でも眺めているか…とすやすや眠る雪風の方を向くと…。

 

「何やってるんだ、川内」

 

妙高の手がピタリと止まる。川内。聞いたことのない名だ。どういう、ことだ?

 

「えへへ、バレたか。さすがだね、兄さん」

「起きてから妙に構って構ってのオーラが漂ってるなと思ったからな」

 

「へへーん。妙高には悪いけどさ、そっと入って起きるの待ってたんだ」

 

いつの間にか「居た」艦娘。驚きのあまり書類の山を崩しそうになった。一体いつの間に?そして、どうやって?l

 

「悪い妙高。驚かせちまって」

 

事情を聞いた妙高は十二分に驚いた。艦娘の中でも特別に強い「原初の艦娘」と言う存在。「居る」のに「居ない」存在。提督を兄と呼ぶ存在。自分の知らないことがここにはたくさんある。知らなかったことを知れる場所。普通の軽巡にしか見えないのに。

 

「まあ、兄さんが治るまで居ていいって言われたから、しばらくお邪魔するね」

「そうかい。ま、ゆっくり…」

 

していきな、と言おうとしたら勢いよくドアが開かれた。入ってきたのは龍驤。なんだか半泣きになっている。

 

「玲司〜!もういややー!なんで島風が来たんー?川内も赤城も来るっちゅうし、もうなんなんー!?あああああ!川内!!」

「姉ちゃん、雪風と霞が寝てるんだからさ…」

 

「久しぶり、龍驤姉さーん」

「あー!!お兄ちゃんの隣でだれか寝てるー!!ずっるーい!!島風も寝るー!!!」

 

ああ…と玲司は天井を見た。大きな声に霞はんん…ともそもそ動き出し、布団の中へ。雪風は起きてしまった。

 

「むにゃあ…朝でしゅか…?しれえ、おあよーごじゃいましゅ」

「お、おう、雪風。おはよ」

 

「むにゃあ…しれえあったかいれしゅ…」

「んもー!ずるいー!雪風、起きたならどいてよー!」

 

「いやれしゅ」

「むきー!」

 

一気に部屋がうるさくなった。龍驤はぴーぴー泣きそうだし、島風は雪風に抗議をしているし。かと言って大声を自分は出せないし。どうしようか悩んでいると龍驤たちの後ろからゴゴゴゴゴ…と何かすごいオーラが漂ってくる。それは…。

 

「みょ、妙高?ど、どないしたん?」

「わ、私しーらない」

 

「あ、こら川内!きたなっ!逃げよった!」

「お、おう…?」

 

「皆さん、提督は病人なんですよ?それに、雪風さんや霞ちゃんが寝ているんです。このお部屋では、お・し・ず・か・に・お願いしますね?」

 

妙高の超強烈なお怒りの言葉に龍驤は「は、はい、すみませんでした」というし、島風は震えて泣きそうになっているし。ま、まあ…2人が騒がしい張本人だったわけだし、是非もなし。

 

「にゅう…しれーかん、みょうこうおねえちゃ…おはよございましゅ…」

「あら、霞ちゃん、ごめんなさい。起こしてしまったわね…」

 

妙高が起きた霞を抱き上げるとガシッと掴まる霞。妙高の抱っこが一番落ち着くのだとか。寝ぼけながらも指をくわえて玲司を見ていた。「知らない人…」と霞が怖がっていたが、玲司が俺の妹だよ、と言うと悪意がないことがわかったのか、警戒は少し解いた。

 

「へえ、この子が例の霞か。あはは、ほっぺぷにぷに」

 

んっ!とそっぽを向かれてしまう川内。ほっぺを触っても許してくれるのは妙高、霰、大和、そして玲司だけだ。

 

川内たちがやって来た理由は簡単である。父、総一郎の玲司への過保護だ。様子が気になって仕方がないから見て来てほしい。そして報告してほしい。治るまでお世話をしてあげなさい。ということだ。その割に大っぴらに川内が姿を消さないのは、消す必要がなくなった。かららしい。横須賀の子とお友達になってこい、というのがもう1つの目的。

 

なるほどな、と玲司は思った。最強であり、遠い存在と思われている川内たちも、時々姉妹だけでは寂しい時もある。姉妹には言えないこともあるだろうし、そこでもっと気楽に話ができる友達もいた方がいいだろう。そこに至るまでに随分長い間が空いてしまった、と言うか、ほんと今更と言うか。まあ、改善は必要だろう。ここに兄妹、姉弟の間柄である自分がいるし、横須賀ならショートランドと違って休みの日に来れなくもない距離だ。ちょうどいいだろう。

 

「ま、まあ。まだちょっと…その、恥ずかしいけどさ…えへへ、いい。いいね、お友達って」

「島風は侵入者扱いだよ!もう!ぷんぷん!」

 

「妖精さんが通してしもたんもあれやけどな。玲司の妖精さんとは長い付き合いやでしゃーないか。ま、あとでちゃんと挨拶しいや」

「はーい」

 

「ところでさ、龍驤姉ちゃん。俺さっき、姉ちゃんの口から赤城って名前が出てたんだけどさ」

「あー、うん。警らに出てたあんたの妖精さんが教えてくれたんや。『大食いの女王』が来るでって」

 

「マジかよ…」

「赤城お姉ちゃんも来るよ!本当なら高雄お姉ちゃんが来るはずだったんだけど、やっぱり忙しくて行けないって」

 

「ジーザス…」

 

高雄さんが来てくれたほうがどれだけありがたかったか…。赤城、川内、島風。この3人の手綱を引く人がいない。自分がやろうとも思ったが、身動きが取れないのでは…。これが運命の女神が選んだことなのか。あまりにも残酷である。そう憂いていると、また誰かが飛び込んできた、間宮だ。ああ、と、いうことは…。

 

「て、提督、お休みのところ申し訳ありません!あ、あの、その…しょ、食堂の前で倒れている子が…」

「……だれだ?」

 

「そ、それが、うちの子たちじゃなくて…。髪の長い…そう、加賀さんに似た服を着ておられます。スカートが赤で…」

「ほっとけ。そいつ起こしたらあかん」

 

「え、ええ…」

 

間違いなく、彼女である。ズリ…ズリ…と何かが廊下を這うような音が聞こえる。間宮や妙高は緊張で背筋を伸ばす。龍驤は顔を手でおおい、呆れている。玲司もため息をつくしかない。雪風はまた寝ている。開けっ放しのドアから手がヌゥッと伸びる。そして、髪で顔が隠れてしまっているが、片目だけが血走った目で間宮を見つめた。間宮は腰を抜かした。あ、あ…と声が聞こえた。

 

「お、おな……か……へ、り…ました…」

 

白い手が間宮に伸びる。耐えきれなくなり……。

 

「きゃああああああああああ!!!!」

 

またしても鎮守府に悲鳴が響き渡った。




島風と貞子…いえ赤城の登場です。赤城はすいません、最後に一言しか書けませんでした。次回は赤城もしっかり書いていきたいですね。川内、島風、赤城。最強でありながら問題児がやってきたわけですが、大潮が望むような平和な1日が過ごせるのか?

ドタバタがフル加速する横須賀鎮守府。受難は…続く?

それでは、また。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。