いいえ、空腹で行き倒れて間宮の後を這って追いかけただけです(食べ物の匂いを敏感に探知し、通常の5倍で這って後を追いました)
原初の艦娘、これで全員登場でしょうか。能力は明らかにしていませんが、追々発揮させてみせます。
/食堂
「ん〜!おいひぃー!」
食堂前で行き倒れていて、どうやって玲司の寝室まで動いたのかはわからないがやってきた謎の艦娘。曰く、這っておいしい料理の匂いがする間宮を追いかけたらしいが、間宮が慌てて寝室へ行ったのをほぼ同スピードで這って追いかけたとあって、間宮は恐怖していた。幽霊のような女性は、あれこれと料理を出して振る舞うとみるみると元気を取り戻し、パクパクと食事に手をつけている。
食堂前で行き倒れていたのは、玲司の作ったご飯が食べれると思い、大本営を出るときに食べたご飯の量を少なくしたから。案の定すぐにお腹が減り、空腹の限界を突破。どうにかたどり着き、玲司の食事にありつけると思ったら間宮から「提督がお台所に立てない間は、私がうんと頑張らなきゃ!」と言う独り言を聞き、玲司の作ったご飯が食べられないと言うことに絶望してのことだったそうな。龍驤がそれを聞いて深々と、肺のすべての空気を吐き出すかのようなため息をついた。
「ほんまに…玲司がおる横須賀やったからよかったものの、よそやったら恥ずかしいて表歩けんかったわ…」
「だから大本営で留守番してた方がいいって言ったのに、兄さんの顔が見たいからって」
「ちゃうちゃう。玲司の顔が見たいんやなくて、今言うてたみたいに玲司の作ったご飯が食べたかったんやて」
「ああ、そう言う…」
凄まじい大食いと聞いていたが、横須賀で一番食べる最上よりちょっと多いくらいで「ごちそうさまでした」と手を合わせて終えるくらい。意外に大食いというのは…?
「なんや、えらい少ないやん。明日は槍でも降るか?」
「大食いして横須賀に迷惑をかけたら怖い人がいるからだよ」
「川内ちゃん!その話は秘密ですよ!」
「ああ、姉やんか…そらええこと言うてくれたわ…」
姉やん。お姉さん。大淀はピンと陸奥がストップをかけているのだろうと思った。
「ふー。ありがとうございました。生き返りました。玲司さんのお料理の味がしました。私もここで生活しようかしら?」
「あはは…」
間宮が苦笑する。玲司の味、と言うことを言ってくれたのは嬉しい。ずっと彼に教えてもらっているし、自分も真似をしようと必死に彼の料理の加減を見てきた。ただ、絶対に真似できない料理がある。それは彼のオムライス。これだけは、どれだけ塩胡椒、ケチャップの量。炒め具合を完璧に真似しても違う。駆逐艦から大和たち戦艦まで、全員に試しに食べてもらったが少し違うらしい。それだけがまだ彼の境地に立てていないのか?わからない。
「改めて、はじめまして皆さん。大本営、古井司令長官の直属、航空母艦『赤城』と申します。これからしばらく、お世話になります」
深々とお辞儀する姿は美しく、たなびく少し茶色がかった髪もきれいで。スタイルもよく、立ち振る舞いも優雅である。
「うえっ、しばらくおるんかいな…お父ちゃんとこ、姉やんと高雄だけやん。大丈夫なんか?」
「心配ないよ。木曾と利根姉さんが行ってるし」
「利根お姉ちゃん、またお兄ちゃんに会えないーってぷんぷんしてたね〜」
「あいつも玲司好きやからな〜。まあ、虎瀬のおっさんとこに行ってしもたんが失敗やったなー」
4人が談話している。一見普通の艦娘の会話に見えるが、この横須賀鎮守府に最強と名高い「原初の艦娘」が4人も集っているのだ。よほどのことではない限り会うことはできても会話などできない艦娘たち。こう見ると本当に一見、自分たちと同じ艦娘にしか見えない。
「一航戦、赤城さん。か。すごくかわいいよね。あの一航戦の青い方はあんなに愛想悪かったのにさ」
テーブルに頰をついて赤城を見る瑞鶴。一航戦と聞くと、彼女を思い出す。絶えずケンカばかりで、こっちが熱くなればなるほど、冷静で無表情で。最後にはグゥの音も出ないくらい言い負かしてくる生意気な一航戦の青い方を。瑞鶴にとっては超えられない壁になっているのだ。
「立ち振る舞いがとても雅よね。私、あの人が弓を引くところが見てみたいわ」
「私もです。私もご教授願いたいです」
弓を引く同士、翔鶴と祥鳳は名前も似ていることからすぐに打ち解けた。瑞鶴はやや人見知りなところがあるので、少し距離を置いていたが、翔鶴が大体いつもいるために自然と打ち解けていた。翔鶴は人と人を繋ぐことがうまい。
「私の弓をですか?いいですよ。明日、ご一緒させてくださいね」
「わあ、やったよ翔鶴姉!」
「まあ、弓のことなら赤城が一番やろうな。弓もすごいけど、艦載機飛ばしたらピカイチや。『空の女王』の名は伊達やないで」
『炎の女王』龍驤と『空の女王』赤城。同じ空母でもまるで違うらしい。翔鶴も瑞鶴も興味が湧いた。
「あなたは最近建造されたのかしら?まだまだ伸びますね。少々厳しいかもしれませんが、私に教えさせてもらえませんか?」
「えっ!?いいんですか!?やったぁ!」
「うふふ、かわいい♪」
軽空母「祥鳳」。扶桑と似た美しい黒髪。落ち着いた雰囲気。なのだが、感情が昂ぶると子供っぽくなり、かわいらしい。今も赤城に教えてもらえるとなって飛び上がって喜んでいる。瑞鶴はこのちょっと子供っぽいところがある祥鳳が羨ましいと思っている。翔鶴からしてみれば、カレーやオムライス。ケーキなんかで大はしゃぎし、つまらないことで摩耶と喧嘩を始めたりする瑞鶴も子供っぽくてかわいいと思われているのだが、言うとムキになるので翔鶴は黙っている。
「もう!私はそんなこどもっぽくないわよ!」
とは言うが、摩耶。挙句には夕立とまでおにぎりの争奪戦で大騒ぎしたりするのだ。子供っぽい。それは翔鶴だけでなく、五十鈴からも思われているくらいだ。
「はぁー、今日もつっかれたー。間宮さーんってぎゃあああああああ!?」
悲鳴を突如あげたのは整備を終えた明石。
「おつかれー。1人だけ兄さんのとこに正規配属になった明石ー。久しぶりー」
「おうっ!明石だ!お兄ちゃんのところに1人だけちゃんと配属された明石だ!」
「もう。2人ともいけませんよ。玲司さんの料理がないなら整備しないと言って異動願を出したことを言っては」
「いけませんよちゃうわ」
「あああああああ!?なんで!?お姉ちゃんたちなんで!?って、ああ、玲司君のお見舞いにくるって龍驤お姉ちゃんが言ってたっけ…」
「まあ、そう言う反応になるわな…高雄や木曾が来たならともかく」
「ひっどーい!お姉ちゃんひっどーい!」
「そうだそうだー。姉さんも1人抜け駆けして横須賀に居座ってるくせに!」
「な、なんやてぇ!?うちは艦娘も少ない、それに元ブラック鎮守府やってんで!?いろいろ教えたらなあかんことがいっぱいやからと思ってここに来たのに!」
「『玲司のオムライスが食べられへんならうち家出するー!』でしたっけ?」
「一言一句再現すんなや赤城!玲司のオムライスがないとこなんかおってたまるか!」
「私だって必死に我慢してると言うのに…!姉さんだけ…このっ、このっ、泥棒猫!」
「なんやて!?」
「なんですか!」
「島風もここに住むー!!」
「あたしもー」
「ええっ!?」
「何よ明石。1人だけ正式に配属されたからってー」
食堂が一気に騒がしくなった。赤城と龍驤。島風と川内対明石。明石はしまったとすぐ小さくなって負け。龍驤と赤城は料理のことでもめている。食べ物の恨みは恐ろしい…と言うことか。ただの姉妹喧嘩だが…。
「上等や赤城、表出え!」
「いいでしょう、龍驤姉さん、受けて立ちます!!」
「ス、ストップストーップ!」
大淀が制止に入る。原初の艦娘同士が争ったら鎮守府が吹き飛ぶんじゃないか?と思った。一方で川内は名取や古鷹に「妹がいじめるー」と嘘泣き。名取たちは苦笑い。一方で、楽しみにしていた露天風呂一番乗りを島風に取られてしまったという夕立が「グルルル…」とまるで犬のように島風を威嚇している。こっちはこっちでまずい…。
「夕立、落ち着きなよ。いいじゃないか、別に…」
「グルルル…別に怒ってないっぽい…みんなにお願いして露天風呂、いっちばーんって入ろうと思ったことを怒ってるわけじゃないっぽい」
「はあ…」
「夕立、すごく楽しみにしてたもんねぇ」
駆逐艦は駆逐艦で何か一騒動ありそうな予感…。
「ケンカは犬も食わないでち」
「もう。うるさいわねぇ」
「あははは、やっぱりこうなりますよね…」
潜水艦たちはどこ吹く風。鹿島は原初の艦娘をある程度は知っていて、だいたいこうしてケンカを始めることはわかっていた。それにしても、と鹿島は思う。
どこの提督も喉から手が出るほどほしがるが決して届かない高嶺の花。演習に行ってもつまらなさそうに向かってはつまらなさそうに帰ってくるあの姉妹が。会議中も、大本営ですれ違った時も。いつもどこか退屈そうで静かな。たまに喧嘩をしてるときはあっても滅多に見ることができないあの「原初の艦娘」が、司令長官の元を離れて自ら三条提督のところにやってきて、素顔を見せているなんて、信じられなかった。特に川内はほとんど見たことがない。名を連ねていることは知っていたが。
「神通。明日私とちょっと一戦やろっか」
「……わかりました。今日のようにはいきませんよ」
「言うねえ。よっし!」
おそらくこの鎮守府で巡洋艦最強であろう神通。しかし、姉妹以外彼女の能力については誰も把握できていないとまで言われている『宵闇』川内。鹿島でさえほかの神通と違うと言える横須賀の神通だが、原初の艦娘相手に通じるものがあるのか?
いつも退屈そうにしていて、誰に声をかけられても、本当に鬱陶しそうな顔をして「やだ」とだけしか言わない島風が雪風と話しているときは笑っているし、気を許している。初めてみたがかわいらしい笑顔だと思う。
「夕立。夕立とは一回かけっこがしたいな。私を捕まえられるかな?」
「ふふ、おもしろいこと言うっぽい。ステキなパーティーしましょ」
「おうっ!明日、じゃあかけっこね!夕立はなんだか見てて楽しそうだから!」
夕立に強い興味を示している。他人にまったくの無関心そうだった島風が興味を持つ相手がいると言うのは、龍驤も驚いているようだ。『ハヤブサ』の島風。彼女の走りは鹿島も見たことがない。速いは速いがいつも本当に手を抜いて走っているため、本気がうかがえない。これは面白そうだ。
「コホン。こんなワガママな姉さんは放っておいて、私と弓の鍛錬をしましょうね」
「こんなって何や!?姉やんに向かって言う言葉か!」
「よ、よろしくお願いしまーす…」
『空の女王』赤城。彼女の弓の構えから残心まで。本当に目を奪われる美しさを持ち、凛とした佇まい、落ち着いた性格。と思っていたが、こんなに子供っぽいとは…。そして『炎の女王』龍驤。一度彼女の能力を見たが冗談じゃないかと思うくらいだった。今はただの女の子のようにしか見えないが。
川内と島風たちにいじられ、半泣きで間宮と大淀に泣きついている『契の女王』明石。彼女が整備した横須賀の艦娘たちの艤装は明らかに性能が大きく向上している。手を見てもわからない。大本営の夕張が明石に近い存在になったが、やはり明石には遠く及ばない。
こんな冗談抜きで日本を救った10人の英傑の5人がいる。こんな場面は後にも先にも見れないだろう。それも…こんな姉妹喧嘩をしているところなど…。ちなみに『刃の女王』陸奥は彼女たちとはまた別の強さを持つ。砲を撃たず、体術で敵を屠る艦など冗談もいいところだ。『未来視』高雄の戦略を練る手伝いをしたことがあったがついていけなかった。ここの大淀は理解を示したりしたようだが。
鹿島は思う。もしかして自分は新たな世代を担う「原初の艦娘」に似た並外れた能力を持つ艦娘の誕生をこの目で見れるのではないかと。深海棲艦が現れて十余年。鹿島が現世に生まれて数年。原初の艦娘の力を見てきた鹿島。鹿島の目が見る横須賀の艦娘たちは明らかに違う艦娘が多い。神通、夕立、雪風、北上。扶桑に…大和。これから先、原初の艦娘と共に、横須賀の新たな「女王」が生まれるところを見れるのなら、それはとても光栄なことだ。姉である「香取」が横須賀に行くことを推薦してくれたことは、本当に幸運なのではと思った。
「はいはい!ケンカはそこまでですよ!ケンカをする子には間宮特製のアイスはあげませんからね!」
間宮の一言にピタリとケンカが止み、行儀良く席に座る艦娘たち。さっきの喧騒が嘘のように静まり返る。が、顔はケンカなんてしてましたか?と言わんばかりに笑顔であり、あの赤城が…満面の笑顔で首を振ってアイスを待っている。原初の艦娘の近寄りがたいイメージが一気に崩れた。いや、まあ、明石と龍驤を見てきたこともあって薄れていたのは間違いない。
「アイス!アイス!」
「アイス、アイス♪」
駆逐艦の島風と一緒に踊っている赤城のかわいらしいこと。数少ない赤城の中でも改二への改装をいち早く行いそして唯一の改二。制空においては右に出るものがいない。大空を我が物とし、絶対に制空権を奪われたことがない最強の空母。
「ん〜!おいし〜!やっぱり私もここに住もうかしら…」
「島風も住むー!」
満面の笑みでアイスを食べる赤城は、普通の女の子と何が違うのか。
「提督が材料にこだわっていいとおっしゃったので、良い牛乳を使っています。お気に召してよかったわ」
「と言うことは、お料理も…」
「はい。近くの商店街から厳選された食材を「決めました。私。横須賀鎮守府の艦娘となります。これからは横須賀鎮守府の一航戦赤城として…」
「できるかアホ!」
「横須賀鎮守府所属の島風だよ!」
「やめんかい!」
「やだやだ!ずるいずるい!龍驤姉さんと明石ちゃんだけずるい!」
「お父ちゃんに言え!うちは無期限でここに出張!明石は正式に配属の許可が下りてるの!」
「じゃあ、私も長期出張と言うことで…」
「許可の書類見せてみい」
「うわああああん!お姉ちゃんがいじめるーーー!!」
「赤城お姉ちゃん!ちょっとぉ!?」
「なんだありゃ。賑やかで楽しそうだなー」
「うんうん。楽しそうでいいなぁ」
「大本営じゃここまでは無理だね。家でもここまでじゃないよ。やっぱり大本営は誰が見てるかわかんないしね。あたしたちのことを煙たく思ってる人が多いから」
「へー。まーどうせここにいたヒキガエルみたいに、艦娘なんか道具だーってのなんだろうね」
「北上の言う通りだよ。艦娘のくせにご飯なんか。アイスなんか。ちょっと何かしたらすぐ飛んできて悪口だよ」
川内がムスッとしながら愚痴をこぼす。ここでのこと。宿毛湾のこと。朝潮たち。特に霞が被った人間によるこちらには一切非がないに関わらず、なぜか行われる暴力など。本当に、嫌気がさす。
「あたしはここで起きたこと、しっかり見て覚えてる。でもさ、怒ってもしょうがないんだよ。人間なんてそんなもの。そんな風に思わなきゃやってらんない。お父さんや兄さんがいなければ、とっくにあたし達姉妹は別々になって、そして、姉さんや妹のことなんか考えない本当に兵器になってただろうね」
「川内にゃ悪いけど、あたしは司令長官でさえ信頼してないかんな。まあ、川内たちがいい奴だから、信じてもいいかなとは思ってる。提督や、親身になってくれる近所の商店街の人なんかを守り抜きたい。ここをあたし達が帰ってきて、休める家だから。だから戦ってる」
「人の悪意にはあまり触れたことはありませんが、名取さんや摩耶さんたちが思っているように。提督や商店街の優しくしてくださる方々。そしてお仲間たち。提督…帰るべきお家の鎮守府。これらを守るためならば、たとえ大本営の艦娘や人間と戦うことになったとしても、私は守るべきものを守るわ」
「扶桑さん…」
「私の世界はここだけだもの。外にどんな世界が広がっていようと、私は私の世界を守る。そしてみなさんをお守りする。それが私、「扶桑」のいる理由」
温かい料理があることを知った。優しさがあることも知った。楽しい毎日がある。扶桑も摩耶たちや雪風、時雨。新たに傷を負ってやってきた満潮たち。守りたいものがある。その為だけに全力で立ち向かう。その覚悟があるのだ。自分たちが自分たちであるために。
「皆さんと一致団結して、楽しい毎日を過ごしましょうね」
「だな。扶桑さんがいるならマジで心強いかんな!」
「扶桑といる時の安心感ってすごいよね。でも、ボク達だってちゃんと扶桑やみんなを守りたいからね。ね、大淀!」
「はい。私も皆さんと共に」
「へっへーん!どんな奴がきたって負けねえぞ!」
大淀と最上の肩を組んで笑う摩耶。
「はー、いいなぁ。ここだとほんと何しても悪口言われたりしないし。あーあ」
がっくりする川内。世界一艦娘に優しい鎮守府。艦娘にとっては理想郷だろう。ここ最近の若い提督は、結構艦娘に優しい場所作りをしているらしい。古参は特にひどい。
「そう言えば、ここを視察したいから許可がほしいと言う通達が来ていました。七原すみれと言う岩川基地の提督のようです」
「ああ、あの女の子ですね。とても優しく、いいお人でしたよ。玲司さんに許可をもらってもいいかと」
「ブインのババアに比べれば天と地の差だね」
「島風もあのおばさんキラーイ!」
「2人とも言いすぎよ。私も嫌いだけれど…」
「みんな嫌いなんやないかい。うちも嫌いやけど」
「うーん、あれはナシだね」
全員が一致。大淀も知っている。何もかもを下に見ている。男も、女も。そして、自分の艦娘でさえも。申し訳ないが龍驤たちと意見は一致だ。
「で、あの牛乳瓶の底みたいなメガネかけて牛みたいな乳した子が来るんかいな。あの牛みたいな…牛みたいな…」
「ええ…」
七原提督。川内や赤城が言うには会ってもいいだろうと言う提督。しかし、今はまだ保留だ。提督の許可をもらうのももう少し先だろう。実はこれが横須賀鎮守府にまたドタバタ騒ぎを引き起こす原因になるだろうとは大淀は考えつきもしなかった。
「じゃあ、行ってきますね」
「はい、よろしくお願いしますね」
古鷹がお盆になにかを乗せて食堂を出ようとしていた。おそらくは提督に持っていくお粥だろう。
「古鷹さん、これは何ですか?何ですか?」
「わああ!?赤城さん!?え、ええと、提督にお持ちするお粥です」
今目の前でアイスをチビチビ食べていたはずなのにいつのまにかアイスが全部食べ終えているわ、瞬間移動めいたことはしているわ、古鷹が慌てて落としそうになってたじゃないか。
「お粥…んー、シャケのいい香り……古鷹さん、お願いがあります」
「は、はい…」
「一口ください」
「だ、ダメです!これは提督にお作りしたものなんです!」
「一口ならわかりません!お願いします!一口だけ!一口だけでも!」
「このアホ!恥ずかしいマネすんなや!」
「おいしそうな匂いを放っているこれが悪いんです!」
「知らんわ!古鷹、はよ行き!お前ええ加減にせな陸奥姉やんに言うで!」
「いけずです…」
「赤城姉さん、絶対に食べ物に関して迷惑をかけたらいけないって言われてるんでしょー」
子供か、とずっこけそうになった。い、いや、しかし、間宮の話と今の行動。一航戦「赤城」のイメージが音を立てて崩れそうである。
「ううう…おいしそうだったのに…でも陸奥姉さんのお仕置きは恐ろしい…」
「高雄の説教も入りそうやな」
「嫌ですぅ!龍驤姉さん、ご慈悲を…なにとぞご慈悲を…」
テーブルに頭を打ち付けそうな勢いでペコペコしている赤城。瑞鶴はやっぱり、一航戦「加賀」のイメージがあるだけに、青い方も赤い方も問題児なのか…と頭を抱えた。
結局古鷹が作ったお粥は無事玲司の胃袋に収まったのであった。
/
夜、赤城の提案で原初の艦娘だけで集まって寝ることになった。川内はせっかく名取や摩耶が一緒に寝ようと誘ってくれたのに…と不満げであったが。
「で、赤城。どないしたん」
「いえ、せっかくですから姉さんや明石ちゃんと久し振りにお話がしたくって」
「あー、まあ。数ヶ月ぶりだしね。私は歓迎だよ。川内お姉ちゃんが不満そうだけど…」
「せっかく友達が誘ってくれたのにさー」
「お姉ちゃんと一緒!でも、本当ならお兄ちゃんと一緒に寝たかったなぁ」
「体調悪いねんからそれはあかんわ」
「ふふ。いい鎮守府ですね。みんな楽しそうで」
「ああ。最初は問題も多かったで。それを変えたんは全部玲司や。風呂見たか?あんなんどこ行ってもないで」
「うん!すっごく気持ちよかった!」
「あたしも前の提督が何してたか知ってるからさ。艦娘がのんびり生活できる場所って羨ましいね」
「深海棲艦になりかけた奴をギリギリで助けたり、深海棲艦になった奴が艦娘に戻ったり。いろいろおもしろいとこやよ。玲司もやけど、艦娘もおもろい」
「明日神通と手合わせ楽しみ!」
「夕立とかけっこするよ!」
「無茶しないでよ?私たち原初の艦娘と違うんだから」
「ええ勉強になるとは思うけど、川内も島風も楽しくなるとめちゃくちゃしよるからな」
「龍驤お姉ちゃんもそうでしょ…」
「い、いや、あれはやな…」
姉妹水入らず。女の子の夜のおしゃべり会は弾む。そこには誰の目もきにせず、楽しそうに笑って話し合う5人の寝間着姿の女の子がいた。原初の艦娘なんてものはない、ただ思ったことを気軽に話せる女子会だった。ここまで思い切ってキャッキャッと話せるのが初めてで、島風は途中でダウンしたが遅くまで話し合うのだった。
「新しい風が吹きそうですね」
「おお、楽しみやろ」
最後まで起きていた龍驤と赤城が何やら意味ありげなことを言い、2人で笑いあっていた。
原初の艦娘、赤城。なるべく原初の艦娘に関してはかわいらしく書きたいなぁと言う思いで書いています。同時に、外へあまり出たことが10年経ってもほとんどないので世間知らずなお嬢様でもあるとも思っています。
ちなみに舞鶴の木曾、利根、磯風は結構外出を許可したりしていますので割と常識的に行動はします。木曾がかなり苦労していますが…
舞鶴の三姉妹もいずれは横須賀で何日か生活させてみたいですね。
次回も原初の艦娘と横須賀の鎮守府のほのぼのと、少し原初の艦娘の強さを披露できればと思っています。
それでは、また。