原初の艦娘「空の女王」赤城
姉妹の中では3番目に生まれた正規空母。彼女の操る艦載機はまさに鳥。生き物のように動き、敵に今まで一度も制空権を取られたことがない。演習でも1対空母6人で制空権争いをしても優勢で勝ちを取っている。空を制すことから「空の女王」と呼ばれている。
戦闘においては冷静沈着。空からの支援を欠かすことなく、かつ大胆に敵艦隊を襲う。
平時においては常にお腹をすかせているかのようにしており、家の冷蔵庫や玲司が大本営のコック時代に冷蔵庫をこっそりと漁り、食べ物を求める食いしん坊。結局見つかってお仕置きを受ける。
好きなものは空眺めることと食べること。
嫌いなものはご飯を減らされること。『暴虐の姫君』
朝食を摂ってから翔鶴達と弓の練習を続ける赤城。彼女の弓の腕は瑞鶴や翔鶴も比ではなく、龍驤が言っていたように弓の腕ならどの空母よりも上、と言うの言葉は嘘ではなかった。
何せど真ん中に矢を穿ち、さらに刺さった矢を割いてまたど真ん中に突き刺すと言う腕前だった。必ずど真ん中を射抜く腕も素晴らしいが、それ以上に矢を割くほどのパワーもあると言うところがすごいのだ。
「赤城さん、力もすごいね…私がやったら矢が弾かれちゃうよ」
「ふふ、毎日の鍛錬の賜物ですね。私の弓でなら、いけるのではないでしょうか?」
「へえ、おもしろそう。ちょっと借りますね」
そう言うとどうぞ、と快諾してくれた。瑞鶴の弓よりも結構大きい。ズシリと弓の重みがやはり違う。神経を研ぎ澄ませ、矢をつがえる。そして、いつものように弦を引く…のだが。
「……?ふん!」
引けない。硬い。さすがに瑞鶴も鍛えているし、パワーはあるはずなのだが…弦は引けない。さらに力を込めて引くが、もう姿勢がバラバラでこれでは真ん中を撃ち抜くどころか的さえ撃てないだろう。
「ぷぁっ!!な、何これ…おっも!」
「瑞鶴?」
「翔鶴姉、引いてみなよ!引けたらすごいって!」
「え?ええ…」
赤城はニコニコと瑞鶴が翔鶴に弓を貸すのを見ている。はじめからこうなることを予期していたかのようだ。
「ん、んん!んんんん!!!!うんんんん!!!!!」
顔を真っ赤にして引いてみるが弦は少ししか動かない。その一生懸命引く姿がかわいらしく、赤城は笑顔がよりにっこりとなっていく。
「はっはっ…引けない…すごい…」
「一航戦、二航戦、そして五航戦。祥鳳さんもそうですが、それぞれに弓の規格があると言ってもいいでしょう。ですが、私の弓は他の赤城や加賀さんの弓よりも大きく、重いです。この弓があるからこそ、私は『空の女王』と名乗れるほどの力を持っているのだと思います」
赤城は涼しい顔で瑞鶴と翔鶴が本気の本気で引いてもピクリとも引けななかった弓を軽々と弾いて撃つ。その残心は何度見ても見惚れるほど美しかった。絵にもなるかもしれない。
「弓を引くのは何も力だけはありません。翔鶴さん、瑞鶴さん。お二人は美しい引き方をされております。それを崩さず、心をさらに落ち着かせればもっとお二人は躍進できるのではないかと思います。祥鳳さんも力は不要です。心を落ち着かせ、無心で弓を引きましょう」
そう語りながら撃つも、赤城の矢はやはりど真ん中を撃つ。学ぶものは彼女たちには多い。
「空母の役目は空からの脅威から味方を守り、そして空から味方を目いっぱい援護すること。制空権を取られてしまっては相手の思うつぼ。そして、万全に戦うことができません。空母が参加するのなら、大事なことは制空権の確保。そして、攻撃。空母がいてこそ戦艦や巡洋艦が輝きます」
祥鳳の弓の構えを少し矯正を加えながら語る。祥鳳は何が恥ずかしいのか、顔を赤らめている。それならそのはだけた肩をどうにかしたほうが、見てるこっちが恥ずかしい、と瑞鶴は思う。それにしても、この祥鳳。本当に美人な空母だな。と思う。
真っ黒な髪。小さく整った顔。白い肌に抜群のスタイル。和服がとことん似合う。本当に扶桑さんを小さくしたような。性格も凛々しいところもあれば、「やったぁ!」と飛び上がって喜ぶなど子供っぽさもあり、かわいい。美人でありかわいい。そしてスタイルも良い。くっ…と少し目つきがきつくなる。特に練習中は着物をはだけさせ、弦が当たらないようにしているのだとか。そう、そこで見えてしまう自分よりも大きなふくらみに…。
「瑞鶴さん?どうかしたんですか?わ、私、何か瑞鶴さんに失礼なことを…?」
「え?あ、ああ!別に何でもないよ!ごめん」
「ふふ、練習中に雑念はいけませんよ、瑞鶴さん。弓を射る。それも失敗のないように撃つには体を休め、心を静め、六感全てで感じ取るのです。そうすれば、例えヲ級のflagshipさえ抑えることができるでしょう」
赤城の鍛錬は弓のことだけではない。正座で30分、黙想。心を無にする鍛錬。瑞鶴は雑念だらけだったのか、赤城に注意されてばかりだった。瑞鶴に代わり、赤城がやろうものなら30分、ぴくりとも動かなかった。寝てる…?と声を出すとピクリと眉が動いた。あ、怒った顔になった。ヤバい。姉が何てことを言うの!と言うような顔をしていた。
30分後。何やら笑顔が怖い赤城に赤城の弓を持たされ、「ここまで引けたら1とします」と言って50回赤城の弓を引かされた。さっき全力で引っ張ってやっと引けたところからさらに数cm深く引けと言われた。腕の感覚がもう怪しい…。
「では、今日はここまでにしておきましょう。祥鳳さん、筋はとても良いです。私がいる間は全力で祥鳳さんに稽古をつけましょう。お昼からは、実際に艦載機を飛ばしてみましょうか。摩耶さんと吹雪さんが対空の練習をしたいと言っておりました。私がつきます。よく見ておいてくださいね」
「や、やった。赤城さんにほめられた。すごい弓を使うお人なのに。やった、やったぁ!」
またぴょんぴょんと飛び跳ねて喜んでいる祥鳳。この子ほんとにかわいいな…と思った。昼からは「空の女王」と呼ばれる彼女の艦載機を実際に飛ばしている所が見れる。それは自分に大きな糧になるかもしれない。そう思うと期待が高まる。
ぐごごごごご…ごぎゅる…グルルルルル…
どこからともなく地響きのような、獣が唸っているかのような音が聞こえた。
「ああうう…お腹すきました…陸奥姉さんの言いつけを守ると本当にお腹が…」
今の響きは赤城のお腹の音だったらしい。お腹に何か飼っているのか…?昨日の夕飯、ひたすらにおかわりをしていたけど…龍驤さん曰く「いつもはあれの5倍食べる」と聞いて口を押えたものだ。その割には全然太らないし。どこへ消えていくのだろう…。
………
「いただきまーす!!」
どでかいどんぶりに溢れんばかりに盛られたご飯。「赤城スペシャル」と間宮が名付けた超特盛のご飯とみんなの3倍はありそうなほど巨大な唐揚げ。間宮さん、大変だったんじゃ…。
「いいえ、作り甲斐があって楽しかったですよ♪」
……もういろいろとお腹一杯だ。これでもセーブしているほうだと言う。
「陸奥姉やんも赤城のこと言えんくらい食べるんやけどな…赤城はそれ以上に食べるから。陸奥姉やんも赤城も、あれだけ食べてよう無駄な肉がつかんもんや…うちは何食べても…ぺったんこやのに…」
龍驤の言葉に「わかる」と心の中で思った。自分も横須賀の中ではよく食べる方だ。なのに一向にあるところが大きくならない。姉はあんなにたわわと実っているのに。
それよりも、いつもよりも食が進む。赤城の鍛錬が疲労はそう溜まらないものの、エネルギーはよく使うものすごく効率のいい鍛錬なのだろう。龍驤の鍛錬は疲れも激しく、エネルギーの消耗も大きい。赤城はエネルギーを効率よく使っているのだろうか。姉の翔鶴も祥鳳も、もりもりとご飯が進んでいるようだ。
「よう食べるなぁ。赤城の鍛錬はめっちゃエネルギー使うからな。一見そう大したことしてないはずなんやけど、精神力をめっちゃ使うんや。脳がエネルギーを欲しがるっちゅうか。うちの鍛錬は動。赤城の鍛錬は静。それぞれ鍛え方がちゃうんよ。ま、しっかりものにしてみ」
「はい!」
そうしてさらにご飯を食べる。そして、午後の部。神通や夕立のやり取りはすぐに終わり、演習場は防空演習の番となる。ここでは龍驤もついて摩耶と吹雪、文月と皐月の4人の防空演習。先生は赤城だ。
「今日から赤城が帰るまではうちと赤城が交代で防空演習をやるで。赤城は教え方も優しいけど、慢心しなや。うちよりエグいで」
「おう!やってやるぜ!」
「はい!がんばります!!」
「よーし、文月、がんばろうね!」
「うん!文月、がんばって司令官にほめてもらうんだぁ~」
さて、赤城の動きにどうなることやら…と龍驤は思う。赤城は鍛錬に誰よりも真面目だ。朝もずっと矢を射っていたようだし、毎日の習慣が派手ではないが堅実な鍛錬である。その実力たるや、いつしか女王の称号をもらうくらいだ。艦娘の中でも特殊な力を持つ原初の艦娘であるが、だからと言って決して鍛錬を怠っているわけではない。
女王や二の名を持つに至るには、やはり皆それぞれが真面目に鍛錬を繰り返し、実力をものにしてきたからだ。人知れず、厳しい鍛錬を毎日繰り返してきた。龍驤も服を何着も焦がしてきたし、あわや自分が燃えかけたこともある。
明石もうまくいかず、スランプに悩まされ、一度は父に「自分は役立たずだ。工作艦を名乗る資格がない。解体してほしい」と申し出たくらいまでいったこともある。父と一晩中を話をし、何とか解決して花が咲き「契の女王」たる由縁の『構造解読の眼』と『ゴッドハンド』を得たのだ。
原初の艦娘はいいな。生まれ持った力があって。とよく言われるが、生まれ持った力を活かすために血反吐を吐くような鍛錬を誰もがやっているのだ。それで得た力なのだ。おかげで陸奥と赤城は唯一の改二である。
それはさておき。遠く離れた赤城が大きく息を吐く。
「ふぉおおお…」
精神統一。弓に矢をつがえる。垂れ目っぽく、優しさが溢れる笑みを浮かべていた表情とは一転し、鋭い目に変わる。一寸の隙もなく、闘気があふれ出ていた。
「来るぞお前ら。気合い入れろよ。龍驤さんのとは違う、何かすげえのが来る」
摩耶は今まで培ってきた勘から、龍驤のものよりもやばいものが来ると感じ取った。摩耶の何かを感じ取ったのか、吹雪、皐月、文月は険しい顔となり、空を睨む。パシュッと言う音と共に矢が赤城から放たれた。
摩耶はとっさに吹雪たちを少しでも庇えるような位置につき、対空砲火の準備をする。艦攻が来ても撃墜できるよう、低めに配備させる機銃も用意。さあ、来い。
結果は4人いて一機も落とせない。であった。龍驤の艦載機の動き方もなかなかにトリッキーであるが、赤城のそれは龍驤以上に生きているかのようであり、それでいて圧倒的数である。機銃の雨をわずかな隙間を見つけてはすり抜けてきて、対空砲はすんででかわされる。鳥のように空を旋回し、僅かな間で一気に距離を詰められ、爆弾を落とされてしまう。一瞬目を離した隙にやってくる艦攻。突撃をかましてくる艦戦。高すぎて届かない艦爆。
龍驤、翔鶴、瑞鶴の3人でやっていた時もここまでではなかった。いや、龍驤の物もレベルを上げられては手も足も出なかったが。
何度やっても。どう対処を練ったとしても、全て見破られた。試しに赤城を狙い打ちしてみたが、無駄と言わんばかりに艦戦の機銃に阻まれる。ある程度艦娘と艦載機の意思を読み取れるものだが、赤城に関しては本当に読めない。
「あいつは無心や。無心で矢を放つ。その意思が艦載機には伝わる。だからこそ赤城の艦載機の動きは読めん。あれを半分まででも削れるんは、磯風だけ…いや、おったな。アイツが。あのクソ憎たらしい笑顔で赤城の艦載機を墜として、うちと赤城を…陸奥姉やんも瀕死にしたやつが…『暴虐の姫君』」
「暴虐の姫君…?」
「昔の話や。今は生きてるかどうかさえわからん。あっちゃこっちゃの海で人も船も、艦娘も襲い倒して。島も破壊したりして…めちゃくちゃやってた深海棲艦がおったんよ。うちらが明石除いて9人。それから他の艦隊とも探して、探して、探して。ようやく見つけて、戦ったら。全員殺されかけたわ。陸奥姉やんも動けんくなって…」
「龍驤さんたちが!?」
「何でもありやったわ。制御しようとした深海棲艦の姫っぽいやつまで殺してた。仲間もクソもない。楽しければいい。そんなやつやった。めちゃくちゃやった。せやけど、うちらは負けたようなもんや」
龍驤の脳裏には今でも「暴虐の姫君」の気が狂ったかのような笑い声が離れない。
「アハハハハハハハ!!!!!モット!!!!モット遊ボウゼ!!!!!モット壊セ!!!モット壊レロ!!!!ヒハハハハハハハハハ!!!!!!」
いずれまた出てきたとしたら。また戦わねばならない。奴を沈めるにはこちらも「女王」や「二の名」を持つ強力な艦娘がたくさんいるだろう。この横須賀鎮守府にはそうなりそうな艦娘が多い。今はまだ、多くは語れないが、必ず一矢報いることができると信じている。沈んではいないと確信している。再び相まみえた時、今度こそ…。
「今度こそ、あいつの無念、晴らしたる。弓が持てんようになってまで、うちらを守ってくれたあいつの。うちの親友の無念。必ずな」
「龍驤さん…?」
「あ、いや。ごめん。ちょっち昔を思い出してな。まあ、そんな深海棲艦がおるんよ。この数年、ぱったり行方がわからんし、破壊活動もしとらんらしいけど」
サンバイザーで顔を隠し、少しだけ語ってくれた恐ろしい深海棲艦。その詳細は、杳として不明。ただし、名前だけは名付けられた。「暴君の姫君」…レ級、と。
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母港から遠くの島。街並み。そして水平線が一望できる横須賀鎮守府ならではの機能。ドックにある露天風呂。そこに、神妙な顔をして湯船に浸かっている島風と、目をキラキラさせながら海を眺めている夕立である。
「すごいっぽいー!あ、ほら、あそこ船かな!ぽいっぽいっ!!」
さっき見た獣のような眼はどこへやら。紅い眼でも今は先ほどの油断していたらはらわたでも食い破りそうに牙を剝いた凶暴そうなものではない。海を見て、船を見て子供のようにはしゃいでいる子供。島風は納得がいかない。速さは十分だったのに。追いつかれたわけではない。あの子のように追いつかれたわけではない。この子は本当に勘だけでこちらに飛びついた。勘だ。
「島風ちゃん、お風呂気持ち良くないっぽい?」
夕立はのんきにそう聞いてくる。風呂は好きだ。いつも何かにおいて「はっやーい!」だの「おっそーい!」と超せっかちな島風だが、お風呂だけはいつも誰よりも長い。温かいお風呂。湯船に何も考えないで浮かんでいるだけで、いろいろとウザイことがお風呂にとけていく感じがする。鬱陶しい人。鬱陶しい言葉。
「島風は速いなぁ。どうだ、私のところへ来ればもっと速く走らせてあげるよ」
「足が速いだけでいい気になって…どうせ駆逐艦だ」
うるさい。私は好きなように走っているだけだ。私より遅いくせに速いだけだとか、もっと走れるだとか。そんなこと言われたって、どうせみんな遅いんだ。お姉ちゃんだってついてこれない。私は…。
「んー!楽しかったっぽいー!島風ちゃん、明日もやろうっぽい!」
「えー。やだ。夕立怖いもん」
「怖くないっぽい。夕立はすっごく楽しかったっぽい!」
「あの顔で!?島風、夕立の顔見て殺されるかと思ったもん!!」
「ぽい?そうなのかなぁ」
ほっぺを両手でむにーっとやって変な顔をする。無意識であの顔をやっていたのか。毎日あんな顔で追いかけられて、噛みつかれでもするのは嫌なんだけど…。
「じゃあ。明日はもっと笑顔で追いかけるっぽい。こう?」
ニタァ…と笑う夕立。牙は剥いているし、他の駆逐艦に見せたら泣いてしまうんじゃないか?いや、自分も怖い。
「お、おう…」
「えー?島風顔が引きつってるっぽい。んー…」
今度はむにーっと頬を引っ張る。その顔が本当にマヌケでおもしろい。
「ぷっ、夕立変な顔!むにゃあ!?ひゃにふるの!?」
「ふふふ、島風も変な顔っぽーい!」
「やったな!このー!」
「わぷっ!お返しっぽい!!!」
お湯をかけあう。髪もずぶぬれになり、頭は洗わないでおこうと思ったのに結局洗うことになった。
「ここでは誰かが髪を洗ってくれるっぽい。島風の髪は夕立が洗うっぽい。島風は夕立の髪を洗ってね」
本当に夕立の言っていることは駆逐艦はやっている。巡洋艦達が入っていたら巡洋艦の髪を洗うこともある。夕立の髪の洗い方は、性格とは裏腹に丁寧でくすぐったい。けどとても…気持ちいい。
「島風の髪はきれいっぽいー。目をんーってしててね」
んーとは瞑っててと言うことだろう。したと同時に頭頂部から前髪まで丁寧に洗っていく。時々ぎゅっと頭をマッサージしてくれるのが何とも気持ちいい。誰とも馴染まない島風が、ここでは夕立と一緒に、横須賀の一員であると思わせてくれる。
「お湯かけるっぽいー」
ジャバーと勢いよく洗い流されていく泡。同時に疲れも流れていく感覚。うっとりしていると今度はトリートメント?までしてくれると言う。
「これを使えば島風のきれいな髪がもーっときれいになるっぽい!」
「ふぁー」
もう気持ちよすぎて変な声しか出なかった。毛先に塗り込まれていく何か。終わると背中まで洗ってくれる。もう気持ちよすぎてクセになる。
「はい終わりっぽい。じゃあ島風ちゃんが夕立の髪を洗ってね」
島風はそんなことをしたためしがなかったのですごくぎこちなかった。けど、夕立は「うまいっぽいー。気持ちいいっぽーい」と気持ちよさそうだ。ふんふんと鼻唄まで歌う。喜んでくれるのは嬉しい。背中も洗うが、島風が背中をごしごししていると気になる揺れが…島風のと見比べてもかなり大きい。気になったので…。
「てい!」
「ぽいいいいいい!!!???」
「すっご、でっかい。やわらかい!」
「し、島風!?」
その後、その物をもにもにしていると夕立が顔を真っ赤にして「えっちー!」と怒られてしまった。
………
再び露天風呂に戻り、むぅ、と怒る夕立。
「お、おう。夕立、ごめんなさい…」
「むぅ、次やったら怒るっぽい」
やめておこう。今度やったら鬼ごっこで本当に噛みつかれそうだ。謝ると夕立はさっきまでの怒り顔が嘘のように消えてニヘーッと笑っている。
「へへ、そこでもう入らないって言われなくてよかったっぽい。明日も一緒にお風呂に入りましょ。明日は時雨や村雨とも一緒に入るっぽいー」
「え、いいの?」
「???どうして?島風ちゃんとは頭や背中を洗いっこしたし、もうお友達っぽい。夕立のお姉ちゃん達にお友達を紹介したいっぽい。というか時雨や村雨ともお友達になってほしいっぽい」
「島風が…夕立と、おともだち?」
「……ダメっぽい?」
今度は本当に子犬のような顔をしている。コロコロと表情がよく変わるっぽい…うつった。島風にとっては初めてのことだ。お友達。高雄お姉ちゃんが言っていた、お友達。
(お友達ができるってとってもいいことよ。ちょっとしたことでもすごく楽しくなるの。島風ちゃんにもできるときっとわかるわよ)
確かに…さっきのお湯のかけあいやシャンプーや体の洗いっこ。特に何をするわけでもないが、何だかしてもらって嬉しかったし、気持ちいいと言ってくれた時もなんだか楽しくなった。楽しくなった結果、夕立におさわりをしてしまったわけで。
「島風、今までお友達なんていなかったから。人間も、艦娘も。みんな島風の速いところしか言ってくれないし…お友達って言うのがどんなのかわかんないよ…何をどうしたらお友達なの?」
「何もしなくてもいいっぽい。だってもう、夕立と島風ちゃんはお友達っぽい。こうやって一緒にお風呂に入って、洗いっこして。このあとご飯も一緒に食べて、一緒に寝るっぽい。特別なことなんて何もいらないっぽい!」
「……うん。うん!島風と夕立はお友達!」
「ぽい!!お友達っぽいー!」
手と手を取り合ってえへへ、と2人で笑う。
「あ、夕立!島風!お疲れ様ー!ねえねえ、2人で何してるの?」
「島風ちゃんとお友達になったっぽい!洗いっこもしてお友達としてのぎしきもしたっぽいー」
「わー。いいなぁ。いいなぁ。島風ちゃーん。文月もあらってー」
「あ、ボクもボクも!!文月!ボク背中を洗うから、文月は島風の髪をお願いね!」
「りょーかーいだよ~」
「え、え、島風もう洗ったのにー!」
「ほら早く早く!おっそーい!」
「早く~。えへへ~、おっそ~い!」
「それ島風の言う言葉!!!!」
結局夕立に洗ってもらったのに再び皐月と文月に洗ってもらうのだった。でも、悪い気はしない。「これでボク達も島風とお友達だね!」と4人で露天風呂に入って笑っていた。
「島風のお姉ちゃんは強いね!龍驤さんも強いけど、赤城さんもすごいよ!」
「うん~。防空演習、めためたにやられたよ~」
「おうっ!お姉ちゃんはきれいで強いんだよ!」
そういって赤城と龍驤の自慢を始める島風。3人はうんうん、と目を輝かせて聞いていた。
………
「それでは、手を合わせて。いただきます」
号令とともにわっと食べ始める一同。島風が夕立とおかずの取り合いをしているのを見て、龍驤は嬉しくなった。
(お、夕立、文月、皐月と仲良うしとるやん。お友達ができて楽しそうやなぁ)
父や姉、玲司にしか懐けない環境。汚い大人の誘惑などに晒されて、擦れていかないか心配だったがこれで大丈夫なようだ。川内も巡洋艦と打ち解けているし、赤城も。赤城や島風、川内が楽しそうにしているのを見るのはなかなかにない。父がここに行ってきなさいと言ったのは、きっとこうしたかったのだろう。高雄も動きがあったと言うし。あとは…姉か。
(姉やんもこれたらなぁ。絶対楽しいのになぁ)
変わりゆく状況。自分達にも感情の変化がいろいろとある横須賀鎮守府。ここはまだ発展途中だが、まだまだいい風が吹いていくな、と感じるのであった。
島風はこの後、皐月、文月に加えて時雨と村雨とも仲良くなり、一緒に寝て、誰か気の置ける人が一緒にいてくれる喜びを知り、次の日、北上に「うるさーい!」と言われるくらい夕立と元気のよい挨拶をしたんだとか。
赤城の能力。意のままに艦載機をまるで生き物のように動かす。そして制空権の絶対確保は一見地味ですが強力です。これのおかげで龍驤が思いきり炎をまとった艦載機での攻撃ができますし、他の艦娘も空からの攻撃を磯風と共に食い止めるので思いきり攻撃に回れるのです。
一方で島風はいつもほとんど一人ぼっちだったのがお友達ができました。戦いなどを通しての友情もいいですが、背中の洗いっこなんかでお互いを労り、じぶんは大丈夫だよと安心できる友情もいいですね。夕立の一方的でしたがw
さて、そろそろ玲司も回復していきます。もう少しだけ川内、島風、赤城と艦娘達のほのぼのな日常をお楽しみいただければと思います。
それでは、また。