日本の海を守る四大鎮守府の一つ。かつては常勝無敵と言われるほどのものであったが、今では下から数えるほどの実績しかなく、轟沈者数、敗北数、共にワースト1。原因はもちろん安久野が着任してからの一年が最大の理由。
最強と言われていた時代の提督は古井総一郎。
玲司はかつての最強と言われた鎮守府に横須賀を戻すことができるだろうか?
「うふふ、いかがなされましたか?さあ、私をかわいがってくださいね…?」
ジリジリと距離が詰まる。翔鶴の言葉は蠱惑的であり、普通ならば美しい女性がそう言っているのなら喜んで飛びつくだろう。しかしその翔鶴の目は虚ろでありどこを見ているのかがわからない。自らの意志ではなく、何かに命令されているような。まるで操り人形のようだ。
「ていとくさま…どうしたのです?いつものようにわたしをお好きなように…」
翔鶴は提督を慰めるための人形となってしまっていた。いや、おそらくは提督、安久野だけでなく憲兵や整備士にも同じことを強要されていたのだろう。これが、翔鶴の毎日の務めなのだ。だが、もうその務めを果たす必要はなくなった。
冷静に。何とかしてこの状況を打破せねばなるまい。自分はこんなことをやらせるためにここに着任したわけではない。きわめて冷たく、翔鶴を止める。
「翔鶴、やめろ。お前の役目はこんなことじゃないだろ」
「いいえ、これがわたしのお務めですよ?うふふ、おかしなていとくさま…」
「やめろ。翔鶴。俺はお前は抱かない。いや、抱けない」
ピタリと翔鶴の動きが止まった。先ほど前の怪しげな笑みは消え、驚愕の表情に変わる。自分の行為を拒否されるなどとは微塵も考えていなかったようである。
「部屋に戻れ。瑞鶴が心配するぞ。もう…もうこんなことは、しなくていいんだ。だから戻れ」
またしても安久野に怒りが込み上げてきた。おやっさんが言っていた地獄。ここは、そう。地獄だったのだ。誰の助けもない。誰もが敵だった。そして、艦娘たちは人間たちには無力だった。それを盾に、ここにいた人間はやりたい放題やってきたのだ。
終わらない悪夢に閉じ込められた世界。心は擦り切れ、壊れていく。翔鶴はその最たる地獄にいた。朝も昼も晩もなく。ただただ…ギリ、と玲司は奥歯を噛み締める。
「……め…。だ、め…。だめ、だめだめだめ…」
「…翔鶴?」
「私の何がいけませんでしたか?臭かったですか?それともどこかで何か粗相を…だ、駄目です!わ、わたしが。私がお役目を果たしますから!瑞鶴には…瑞鶴には手を出さないでください!お願いします!ああ、駄目…す、すぐに直しますから…どうかお考え直しください!」
ワナワナと震えだしたかと思うと大きく目を見開き玲司に迫る。何だ…何を言っている?瑞鶴がどうなると言うんだ?
わけがわからないが、このまま下着姿でいさせるのはよくない。玲司の頭はこの状況の中、恐ろしいほど冷静になっていた。毛布を翔鶴にかぶせ、肌の露出を何とかする。
「落ち着け翔鶴。瑞鶴にもお前にも何もしない!だから落ち着け!」
「ひっいやああ!申し訳ありません!申し訳ありません申し訳ありません!!す、すぐによく致しますから!!」
土下座…。そこにはもう人としての尊厳はない。彼女は…もう、本当に壊れてしまっているのか…。
「あうっ!はっはっ!ううう…だめ…だめなのよぉ…かひゅっかはっ…!」
呼吸が乱れ、過呼吸のように奇妙な音を吐き出す。何とかしてやりたいが迂闊に近づくのは危険すぎる。苦しそうにしながらもなお、頭を地面にこすりつけて玲司に懇願する。
「……できない。そんな風に苦しんでいるお前を抱くなんて…できない」
「ひっひっひゅっ…おねが、い…かはっ、しまひゅ…」
玲司が首を縦に振り、行為に及ばなければ翔鶴は下がる気もやめる気もない。玲司の拒否の言葉は翔鶴には聞こえない。
その時、勢いよくドアが開かれた。そこにいたのは髪こそ結っていないものの、誰かは一目瞭然だ。青い顔をして部屋を見渡す…瑞鶴だ。
「提督さん!大丈夫!?しょ、翔鶴姉!何やってんの!?
「あ、え…いやああああ!瑞鶴来ちゃだめえええ!!!!」
翔鶴の絶叫が廊下にまで響き渡る。翔鶴に取っては一番来てはいけない者が来てしまった。翔鶴の脳裏には、あの時の光景が甦る。泣き喚きながら汚される、最愛の妹の姿。
「ていとくさま!お願いします!瑞鶴は!瑞鶴だけはおやめください!瑞鶴だけはぁ…うううううう!!!!」
「翔鶴姉落ち着いてよ!!違う!今目の前にいるのはあいつじゃない!玲司提督さんはひどいことしない!だからやめて!」
「瑞鶴逃げてえええええ!逃げてよおおおおおお!お願いだから!お願いやめてええええ!!!」
(クソ、どうすればいい!?翔鶴は瑞鶴を守るために自分からこういう役目を果たしてきたのか!)
玲司は奥歯を噛み締めすぎて血が出ていることにも全く気付かず、さらに歯を強く噛み締めた。自分がいかにこの横須賀の惨状を理解しきれていなかった。いかに今自分が無力であるかを強く強く思った。
もう翔鶴はそうすることでしか妹を守れないと…狂ってしまっていた。だが、この現状を止めなければならない。玲司は瑞鶴に近寄って行った。
「あ、ああ、ていとくさま…私はここです…、翔鶴が…翔鶴がやりますから…お願い…お願い…やめて…!」
「瑞鶴、すまん!」
玲司が瑞鶴に短く謝罪をすると、思いきり瑞鶴を抱きしめた。目の前のその光景に、翔鶴は目が飛び出んばかりに見開き、そして…倒れた。
「しょ、翔鶴姉!?どうしたの!?しっかりして、翔鶴姉ぇ!!」
「はあ、はあ…。やっぱり、これでよかったか…」
「え、どういう、こと?」
「翔鶴はお前がもうひどい目に遭わないようにと自分から汚れ役を買って出たんだ。お前を…守るためにな…」
「だ、だからって、こんな!」
「それしか思いつかなかったってことだろうな…。そうすることでしか、瑞鶴も…自分も守れないと思ったんだろ…だから、瑞鶴に抱き着いたんだ。自分ではなく、守るべきはずの妹に手を出したと思ったもんだから、ショックが大きすぎて気を失った…んだと思う…」
ただでさえ、玲司への奉仕を拒否されてパニックになっていたところに、瑞鶴の乱入。そして、自分を無視してやめてと懇願していた瑞鶴に手を出されたこと。もはや脳はその状況を処理しきれずに機能を停止し、翔鶴を失神させた。
「悪かった、瑞鶴。咄嗟のこととは言えお前に抱き着いちまって…」
「ううん…いい。翔鶴姉をまずは止めなきゃいけなかったし…。あのままだと翔鶴姉、提督さんを無理やり襲うどころか、殺しかねなかった…」
「ふう…ひとまず、お前が来てくれて助かった。ありがとう」
「ううん…目が覚めたら翔鶴姉がいなかったから…前にもあったんだ。夜いなくなったと思ったら、あいつのところへ行って…その…変なことされてて…私まで…」
そこから先は思い出したくもない。残ったのはあの汚い男に酷い目にあったと言うことだけ。思えばそこからさらに自分に固執して、片時も離れなくなっていったような気がする。
「瑞鶴…申し訳ない。人間たちのせいでお前たちは…」
「待って、玲司提督さんが悪いわけじゃない!悪いのは安久野達だよ…。玲司提督さんは信用できる。でも…それ以外の人間は大っ嫌い!!」
「俺は…信用してくれるのか…」
「提督さんは信用できるよ。私たちのためにあんなおいしいご飯を作ってくれるし。それに、時雨ちゃんや村雨ちゃん。北上さん…。悪い人なら、みんな提督さんに笑顔なんて見せない」
「そう、か。ありがとう。瑞鶴…」
「いいよ…。こっちこそ翔鶴姉が迷惑かけてごめん…。私も油断した…」
まさか玲司にまでこのような行為に及ぶとは思ってもみなかったらしい。過去から脱却できず、被害妄想に捕らわれて及んでしまった凶行だった。安久野が消えてからも、いないはずの安久野を求めてさまよう。瑞鶴に毒牙が及ばないように…。
「もう、もう疲れた…。疲れたよ…。いないはずのあいつを探して夜な夜なあちこちうろうろしだすから、他の子たちの迷惑にならないように探し回らなきゃいけないし…。」
「起きてたら起きてたで私から片時も離れないし、姿を消したらパニックになってまた騒ぎ出すし…。疲れて一人になる時間もない…。四六時中瑞鶴瑞鶴って呼ばれて、私の好きなことは何もできない!」
翔鶴が狂ってしまい、心が闇に閉ざされている中。その近くにいるしかできない瑞鶴もまた、その闇に引きずり込まれようとしているようだった。このままでは瑞鶴も危ない…。
「瑞鶴。悪いが今すぐこれをどうにかはできない。けど、何とかする。お前が一人でのんびりできる時間も作れるように。そのためにもお前にもいろいろと協力してもらうこともあるだろう。その時は、頼めるか?」
「提督さん…。本当…?本当に、助けてもらえるなら…何だって協力する!お願い…助けて…。もう本当に…嫌…私にだって自由に何かしていい権利、あるよね…?」
「ある。だからこそ荒療治にはなるかもしれないけど、何とかする」
「うん…うん…。信じてるから…」
「ああ。任せとけ。さ、翔鶴を運んで戻ろう」
翔鶴を背負い、空母寮へと向かう。瑞鶴は泣いて時々しゃくりあげながら。玲司とは話すことなく廊下を歩いた。
布団に寝かせ、部屋を後にする。
「ありがとう、提督さん。それとごめん…。じゃあ、おやすみ」
「ああ、ちゃんと寝ろよ!」
「それは提督さんも」
「だな。おやすみ、瑞鶴」
「うん。おやすみ、提督さん」
部屋に戻るとドッと疲れが噴き出てきた。へなへなと布団に倒れこみ、何も考えたくないと目を閉じたら真っ逆さまに落ちるように、意識を手放した。
/
翌朝、寝るのが遅かったのと精神的疲れもあり、ズシリと重い体を起こす。時刻は0700.3時間ほどしか眠れていない…。何もしたくはないが、そうはいかないのがつらいところ。のそのそと食堂へ向かった。
………
「提督、おはようございます…。あの、その…。お客様が、お見えです」
「おはよ、間宮…こんな朝っぱらからだれ…」
「お、やーっと起きてきたー。もう玲司君は相変わらず朝が苦手だよねー」
「おはっよん!やー、やっぱし玲司の作るご飯はめっちゃおいしいなぁ!朝からカレーでもがつがついけるわ!」
寝ぼけていた頭が一瞬で起きた。いや、わかっていたことだ。ピンク色の髪をしておいしそうに甘口のカレーをパクパク食べる…工作艦明石。それはわかっている。だが、一人は例外だ。なぜここにいる!!
「な、何してんだ龍驤姉!!ここに来てどうするつもりだ!」
「えー?明石が行くならうちも行ったろーって思って。来ちゃった」
「来ちゃったじゃねえよ!」
明石にくっついてやってきた、茶色の髪をツインテールにして不思議な帽子をかぶった小柄な…駆逐艦と間違えられそうな艦娘。軽空母 龍驤。明石と同じく、こちらは辛口のカレーを食べながら陽気に答えた。
「なーにい?お父ちゃんにはちゃーんと許可もろてんで?明石だけ行くんずるいー。うちも玲司のご飯食べんと死ぬー言うて。陸奥姉やんも玲司が心配やから面倒見たってって言うからついてきたんや。なー明石?」
「そうそう。陸奥お姉ちゃんったら玲司君はちゃんとご飯食べてるかしら。いじめられてたりひどいことされてないかしらってまた過保護全開だったよ」
頭が痛い。いや、今になって考えれば最初からわかっていたじゃないか。明石だけが駄々をこねるはずがないと。何かと過保護な陸奥。楽しいこと大好きな龍驤、川内。ブラコンとまで言われた島風。誰かしらがくっついてくることくらい…
「も、もしかしてお姉ちゃん来たらあかんかったん?うち、玲司に嫌われたん…グスッ」
「だ、大丈夫だよお姉ちゃん…」
「提督、ひどいじゃないか。せっかく来てくれた人に冷たすぎるよ」
「私もそう思います。提督を思ってのことではありませんか」
食堂にいた艦娘から白い目で見られる玲司。時雨と間宮にぴしゃりと言われて黙ってしまう。龍驤はクスンクスンと言いながら間宮の胸に顔を埋めている。…龍驤の常套手段だ。必殺嘘泣き。
これにはいつも騙される。見ろ、クスンクスン言いながらこっちを見てニタニタ笑ってやがるんだぞ。だがしかし、時雨たちの視線は冷たい…。
「くっ…司令長官に電話してくる!!」
勝ち目がなくなったのでそう言いつつ食堂から逃げていった。食堂には横須賀の食堂の常連と明石、龍驤だけが残った。
「あーあ、紹介もせんと行ってもうた。ちょっちいじりすぎたかな」
「ほどほどにしなよお姉ちゃん。陸奥お姉ちゃんに何されるかわかんないんだから」
ケラケラ笑う龍驤を窘める明石。
「あ、そういえば初めまして。私が今日からここの工廠でみんなの艤装の整備をすることになりました、工作艦の明石です!よろしくお願いしまーす!」
「内緒でついてきた軽空母の龍驤や。よろしく頼むでー」
「よろしくお願いします…。えっと、原初の艦娘…でよろしいのでしょうか」
「お、何や大淀。うちらのこと知ってるんか?せやで。うちも明石も原初の艦娘。古井司令長官直属の部隊や」
「っぽい?原初の艦娘?」
「早い話がこの世界で一番最初に現れた艦娘が私たちってことですね。生まれた順番はあるけど。戦艦陸奥が一番のお姉ちゃん。その次に龍驤お姉ちゃん。私が最後の末っ子だよ」
「世界初の艦娘かぁ。ちょっとかっこいいかも!」
「あはは。ありがとう。原初の艦娘は、今のみんなとは違う力を持っているから、あとで工廠で見せてあげるね」
フレンドリーな二人に話も盛り上がる。龍驤は、会話は明石に任せて玲司を追う。
/執務室
「どういうこったおやっさん!龍驤姉ちゃんが来るなんて聞いてないっすよ!?」
「す、すまん。どうも陸奥達が会議をして誰が行くかで相当もめたらしい…。明石だけ行くのはずるいと…。くじか何かで決めた結果、龍驤に決まったんだ…」
「……はあ…」
ため息をつく。しかし、これが龍驤だったからありがたい。島風や川内が来ていたら、玲司の胃はおそらく1週間で穴が空くほどの強烈な爆弾になっていただろう。
「わかりました…。龍驤もこちらで見ます…」
「すまん…私では陸奥達をってこら待ちなさい!」
受話器の向こうで慌てる総一郎。ガチャガチャと向こうが騒がしい。
「もしもし!玲司!?大丈夫?艦娘にいじめられていない?ご飯はちゃんと食べてる?寝るときはちゃんと歯を磨くのよ!いじめられたらお姉ちゃんがそこの艦娘をやっつけにいくから!」
「やっつけに来てどうすんだよ!勘弁してくれよ陸奥姉ちゃん…」
原初の艦娘の中でも一番最初に生まれた長門型戦艦二番艦 陸奥。全ての艦娘の中でも最強と言われている戦艦。のはずだが、玲司に対しては極度に甘い駄目姉。玲司が横須賀に行くと聞き、心配のあまりに何枚ものドアを破壊したほどである。
「ああ、心配だわ…。きっと玲司君にひどいことをするのがいるはずなんだもの…。そんなことをする奴は地獄の果てまで追い詰めて…」
「大丈夫だから!俺はちゃんとやってる!!」
これ以上喋らせるわけにはいかない。慌てて大丈夫と伝えて電話を切った。
……
「あっはっは!陸奥姉やんは相変わらずやなぁ!まあ、そんだけ玲司が心配なんやって」
「とは言えなぁ…あんだけマシンガンのように俺の心配のことばっかり言われても…俺もう25だぞ?」
「陸奥姉やんにとっちゃいくつになってもあんたはかわいい弟なんや。大変やろうけど相手したってや!今のそんないろいろ疲れた顔しとったとこ見られたら、姉やんほんまにブチギレてここ来るで?」
そんなにひどい顔をしているんだろうか?龍驤は人の表情を読み取るのが得意だ。いいことがあった、悲しいことがあった。全て正確に見抜いてくる。
「バレたか…。さすが、龍驤姉ちゃんには勝てねえや…」
「ほんまにド腐れ共の巣窟やったんやなあ。聞いてて腹が立つんやのうてぶち殺したくなるわ」
どうやら横須賀での惨状を司令長官から聞いてきているのだろう。その内容は、筆舌に尽くしがたい。尊厳も、人権も。そして命さえも提督に奪われていった。同じ艦娘だからこそ感じるものもあった。
「怒りはもっともやけど、あんたがそれで疲れて壊れたら終いや。あんたがここで壊れたら全部台無しや。陸奥姉やんがうちをここへ行かせたんは玲司、あんたの腹に溜まった黒いモン、溜め込ませへんためや」
龍驤は玲司の心のケアを長年やってきた。何かと過去にあった衝撃的な話が多いため、ストレスを溜めやすく、それを吐き出さない傾向が玲司は強い。その時に陽気に話しかけては全部を吐き出させるのが龍驤だった。
「まあ玲司のおいしいおまんまが食べられへんっちゅーんもあながち嘘とちゃうよ?せやなぁ…翔鶴のことについてはかなり難問やなぁ。一人やったら大変や。お姉ちゃんに任しとき!」
「ん、ありがと、姉ちゃん」
「なっはっは!それが姉ちゃんの役目や!ほんじゃ、ちょっち久しぶりに横須賀探検と行こうかな~♪」
そういって笑顔で手を振って去っていった。翔鶴の問題を少しだけ相談し、頼りがいのある返答が返ってきたことで玲司の心はいくらか和らいだ。
/翔鶴・瑞鶴の部屋
衝撃的なものを目の当たりにし、意識を失った翔鶴が目を覚ました。最後に見たものが提督に抱き着かれる瑞鶴の姿だったため、飛び起きて瑞鶴を呼ぶ。
「ず、瑞鶴!?瑞鶴!?どこ!どこにいるの!?」
昨日の光景が忘れられず、最悪の事態に体が震える。嫌な汗も出てきた。ああ、私の汗は気持ち悪いとていとくさまに言われたっけ。あとで落とさないと…。
「瑞鶴!?あ、ああああ。嘘。うそうそうそ!そんなことが!」
いつもなら「翔鶴姉!大丈夫!?」と言って飛んでくる瑞鶴が今日に限ってはなぜか来ない。それはつまり、あの、抱きしめられていた光景は…夢なんかじゃない?
「ひ、ヒヒ。ヒヒヒヒ!ず、瑞鶴、提督を…こ、これ…これ、は…コロッころし…殺す」
間違いない。瑞鶴はそのまま提督に連れていかれて、今も。今もきっとひどい目に…。助けなきゃ…瑞鶴を…そのためには。そノためニ、殺さナキゃ。
殺す。殺す殺す。絶対に。ぜったいに。ころス。コロシテヤル。殺してやる!!!
瑞鶴がいつもリンゴや何かを剥くときに使う果物ナイフを懐にしまい、狂気が溢れる笑顔で翔鶴は部屋をゆっくりと出ていった。
「うふふ…待っててね…瑞鶴。私が必ず助けて…殺シてあげルカラね…ふふっ、フフフフフ。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!アーッハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!待ってテ…ふひっ、殺す…コロす!イヒヒヒ!!」
誰もいない空母寮に完全に狂ってしまった翔鶴の笑い声が響き渡った。