現在の海軍を作り上げたに近い4人の悲喜交々、昔話を交えて進めていきましょう。ごゆるりとお楽しみください。
『小料理屋 鳳翔』
大本営のすぐ近くに構える店は夕方から営業を開始する。小さなお店ながらも大本営の職員、仕事帰りからデートにまで大人気である。優しい女将が一人できりもりし、日々の疲れの愚痴から悩みごとの相談など、多岐に渡って親身に聞いて助言や励ましの言葉をくれるので、常連からは愛情を込めて「お母さん」と呼ばれている。料理は絶品、お酒もおいしく、楽しく、ケンカもなく飲めるお店だ。
「本日 臨時休業」と書かれた『鳳翔』の店の前でおろおろと怪しい動きを見せる初老の男。彼は何度も戸を開けようとしては手を引っ込め、うろうろと店の前を行き来する。店の前で顎に手をやり、考え込む。そしてまた手を戸に伸ばすが躊躇って引っ込める。不審者として通報されそうなものである。
(ふむ、困りました。ここまで来るのにも勇気がいりましたが、ここでもこんなに勇気がいるとは…ううむ)
彼の名は安城 宗春。横須賀鎮守府近くの港町で喫茶「ルーチェ」を営む通称マスターである。彼はかつての旧友との約束のため、ここにやってきたのだ。ここで飲むと。ずっと楽しみにしてきたが、いざ目の前にたどり着くと緊張で足が固まってしまったのだ。春の陽射しの暑さか。緊張か。彼は額に滲み出る汗をハンカチで拭いながら相変わらずまごまごとしていた。
ガラッといきなり戸が開かれた。中から出てきたのは女性。ほうきを両手に持って振りかぶっていた。が、男の顔を見るや否やすぐさまほうきを下ろし、ムスッとした顔で睨みつけていた。
「何をされているんですか、提督…」
「ああ、いいえ、その…」
「もう、強盗か泥棒さんかと思ったじゃないですか。店の前をうろうろとしてるから…早く入ってください」
「はい。申し訳ありません…」
ぷんすかしながら招き入れる女性と帽子を取り、あせあせと店に入るマスター。案内された席に座り、一人窓から外を見る。大きな桜が花を咲かせて佇んでいた。美しく咲く桜。なるほど、これを眺めながらの酒はさぞうまいでしょう。と思った
「お酒は…まだ早いですね。どうぞ提督」
「ああ、すみませんねぇ…」
「ふふふ、そういういざという時に勇気が出なくなるところ、変わっていませんね、提督」
「ああ、ははは。ええ、ええ」
彼女の笑みにマスターも思わず笑ってしまう。冷たい緑茶で息を整え、一息をつく。そして、目の前で笑っている女性に声をかけた。
「お久しぶりですね…もう何年ぶりでしょうねぇ。鳳翔さん」
「…本当に、お会いしとうございました、提督…」
「私はもう提督ではありません。ですので、名前で結構ですよ」
「いいえ。私の提督は提督だけです。ですので、この呼び名は変わりませんよ」
「ほっほ…そうですか、では仕方がありません。あなたの弓が持てなくなったことに責任を感じ…いえ、逃げてしまった私を許してくださいますか」
「あれは提督のせいではありません。限界以上に力を引き出した、私に原因があります。あなたは優しい方ですから…責任を感じてしまうとは思っていました」
「……ですが、逃げてしまい。そして、行方を何年もくらましていました。そっと、あなただけには手紙を送り、住所を未練がましく教えてしまいました。逃げて全てに蓋をするのなら、あなたにも所在を教えず、行方をくらませていればよかったのです。どうしても、どうしても。私はあなたとの縁だけは…切ることができなかった」
「私も…このご縁が切れてしまわぬよう、差し出がましいと思いながらもお手紙を送り続けました。読んでくださっているでしょうか?このお手紙が返ってきてしまわないか、いつも不安でした。お送りして3日経ち、一週間経ち、返ってこないのなら届いたのだと喜んでおりました。そして、ようやくこうして再会できました。ふふ、数年かかりましたけど、こうして…私…私!」
すすり泣く声。と同時に抱きついてくる元軽空母こと鳳翔。結婚し、娘ができていたらこんな感じなのでしょうか。そんなことを思いつつ。鳳翔を受け止める。何かあるといつも泣きながら抱きついてきた甘えん坊。誰よりも優しく、誰よりも逞しい空母であった彼女の姿はもうないが、変わらぬ姿に安堵した。
「えへ、えへへ、申し訳ありません」
「ふふ、いいえ。変わっていなくて安心しました。今日は、よろしくお願いします。積もる話もたくさん…」
「はい…今日はたくさんお話ししましょう。提督」
「ええ。ぜひとも」
………
待つことしばらく、2人が来るまでは待とうということで、鳳翔は食事の準備を。マスターは桜を眺めながらお茶をすする。懐かしい味だ。毎日のように飲んでいたあの頃を思い出す。
「提督、お茶が入りました。休憩にいたしましょう」
「ああ、そうですね。今日は間宮羊羹を頂きましょう」
「まあ、準備がよろしいですね。ふふ、いただいちゃいます♪」
そうして食べていると、どこからともなく駆逐艦がやってきてお茶会になる。ほのぼのした時間。マスターはその時間が楽しかった。あの日が来るまでは。
「宗春!鳳翔君は!」
「修復材を用い、傷は全て回復しました。ですが…」
「だが、何だね!?」
「鳳翔さんに何かあったのですか!?」
「………もう彼女が、海に出ることは…ありません」
「…どういうことだ、ムネ」
「……彼女はもう、弓が………弓が持てません………」
………
私だ。私のせいだ。私が彼女を潰した。彼女を使い物にならなくしてしまった。海に出て多くの武勲を。原初の艦娘でないと言うにも関わらず、数多くの武勲を立ててきた彼女を……海軍の未来の光である彼女を私が潰した!!!!
「わかりました。行きましょう。勝ちましょう」
この言葉。私はこの直前、あまりにも重い物を天秤にかけた。この国の宝とも言える原初の艦娘の命と。彼女、鳳翔の艦娘としての生を。寸前まで、私は彼女を取ろうとした。私はこの国の宝を取った。ずっとこの先も共にやっていきましょう、と言う約束をいとも簡単に私は破ったのだ。目を覚まし、弓を取れなくなったと聞いても、彼女は笑っていた。
「よかった。陸奥さんや赤城さんをお守りできたのなら…この体よりも、皆さんがご無事なら…」
彼女は命令を遂行しただけなのだ。やめてくれ。その笑顔は私の胸に刺さる。私だ。私が彼女の艦娘として、ずっとやっていきたいと言う彼女の未来を潰したのだ!!!艦娘の未来を潰す私こそが、ここには必要ない!!!
………
その後私は各地のバーなどを転々とし、移り住むことに疲れ、今の街に店を開き、落ち着いた。かつて自衛官であった父に強制的に自衛隊に入らされ、潰えてしまった夢であった喫茶店を始め、バーで培った知識と経験を頼りに日中は喫茶店、夜はバーを経営した。横須賀鎮守府の近くにたどり着いたのは、未練だろう。彼女達の気持ちも知らず、逃げてしまった罪滅ぼしとまだ艦娘と触れ合いたい未練。
商店街の人たちに瞬く間に人気となり、昼は主婦達の憩いの場。夜は癒しの場を求めてやってくる人々が静かに飲む。彼の話もうまく、聞き上手でもあるので人々の心を救うマスターと親しまれた。
ある日彼は所用で大本営の近くを通った際に目を疑うものを見つけた。それが今、ここで茶を飲んで旧友を待つ、小料理屋「鳳翔」だった。もしかして。もし引退したら料理屋で人の疲れを癒したい、そう言っていた彼女なら…。だが、怖くて店に入ることはできなかった。住所はわかったのだ。情けないとわかりながらもマスターは手紙を送った。人違いであってくれ。なんて願いながらポストの前で30分もおろおろしていたくらい。
しばらくして丁寧な封筒に入った手紙が届いた。達筆で書かれた「お久しぶりでございます」の文字。ああ、本当に彼女だったのか。嬉しくてすぐに筆をとった。文のやり取りは途切れなく続き、今日に至った。彼女との縁が切れなかったのは幸運だったのか、何なのか…。彼女は嬉しそうに料理を作っている。いい匂いだ。懐かしい…よく作ってもらったな…。
「はい、どうぞ提督。提督にだけですよ」
そう言って出されたのは、思い出の味だ。肉じゃがと出汁巻。どこへ行ってこれらを頼んでも。彼女を思い出し、彼女の味に敵う事はなかった。忙しい中でも必ず作って作業を止めさせられたあの味。ああ…この味だ。うん…
「うまい」
「……いつもそうおっしゃって下さりましたね…ふふ、なんだか懐かしいですね」
「懐かしいですね…鳳翔さんは腕を上げられましたな」
「まあ、お上手ですね。今日も腕によりをかけてお作りしますね」
嬉しそうにパタパタと厨房へ戻っていった。割烹着姿の鳳翔さんを見るのも久しぶりだ。間違えてお母さんと呼んだ日には3日ほど冷たい対応をされたものだ。結局、機嫌を直すのに提督のお茶を毎日飲みたいですと言って、3日要望があればすぐいれてあげてようやく機嫌が直った。だが鎮守府では間違いなくみんなの母だった。私は歳をとり、彼女は変わらない。噂では鳳翔さんと同じように艦娘でありながら艦娘でなくなった子が1人いる、と聞いたが…それもまた、彼の息子繋がりだった。喫茶店にやって来た三条と名乗る青年。名は玲司。紛れもなくかつての親友の息子。彼に瓜二つな青年。そして、彼が連れてきた艦娘。その前の奴が連れてきていた時と違い、笑っていた。過去を思い出し自分も楽しかった。
息子はあなたが理想としていた人と艦娘が笑って過ごせる鎮守府を、あなたに教わらずとも作っていますよ。彼のもとにいる艦娘は、皆幸せそうですよ。影ながら、応援することにしましたよ。
「やあ、鳳翔君。すまないねぇ、待たせてしまったね」
そう言いながらやってきたのは、自分同じく、かつての面影を残しつつも、白髪が増えた男と、昔とちっとも変わっていないような風貌のごつい男。
「……古井君、虎瀬君…お久しぶり…ですね」
「宗春!久しぶりだねぇ。何だいこのカッコつけたような髪は。はっはっは!君は相変わらずおしゃれだねぇ」
「久しぶりだな、ムネ。すっかり老けたな」
「ええ、私ももうジジイですよ。虎瀬君は変わりませんね」
「俺もお前と変わらん。揃って3人ともジジイだ」
「ははは、ではジジイ3人と美人が1人で、夜桜見物といこうではないか」
一気に賑やかになる店内。鳳翔も心なしか嬉しそうであった。いそいそと酒を持ってくる。
古井には焼酎。虎瀬にはウイスキー。安城はワイン。そして、一席空席の所には、一杯の日本酒。鳳翔もワイン。安城に付き合い、すっかりワインに精通してしまった。と同時に、彼の好みに合わせたかったのだ。並ぶうまそうな料理。和洋折衷、さまざまな料理にみんなが目を輝かせる。
「では、各々持ったね?数年ぶりの旧友との再会を祝し、そしてこれからも各々の繁栄に、乾杯」
「「乾杯」」
「うむ、うまい。私の好きな焼酎だ。鳳翔君の記憶力には本当に舌を巻くね」
「ああ。ウイスキーも俺が好きなものだ」
「皆さんのお好きなお酒をご用意したんです。この日のために。三条提督の分も」
「ああ、この銘柄、彼は好きだったねぇ。これを飲んだ日の奴はうるさくて仕方がなかった」
「絡んでくるしな。延々と嫁と子供の話を聞かされてうんざりしたものだ」
「ははは、そうでしたねぇ」
昔話に花が咲く。今は亡き親友や、それぞれの恥ずかしい話から笑える話。
「……皆さんにはご迷惑とご心配を…「いい。そのことは。生きていたのならそれでいい」
虎瀬に止められた。鳳翔から少しは聞いていたしなとも付け足して。
「うむ。私が言うのもどうかと思うが、あれは宗春の責任ではない。誰の責任でもないんだ。『暴虐の姫君』…あのような深海棲艦がいるとはね。鳳翔君に撃退されてから、久しく姿を見ていない。君のことだ。鳳翔君の未来と陸奥たちの命を天秤にかけたんだろう」
「……やはり、ご存知でしたか……」
「君のことだからね。鳳翔君はやれると言った。陸奥たちは戦える状況ではなかった。戦いを繰り返し、疲れ果てていた陸奥たちには、ヤツは戦える相手ではない。鳳翔君と君の艦隊が必死で食い止めたおかげでみんな生き残った。鳳翔君は…」
「私は覚悟を決めておりました。そうでもしなければ、皆さんは助からないと。この結末に後悔はありません。私は今幸せですよ。人を笑顔にできる、こんな立派なお店を持つことを援助してくださったのですから。今の生活に私はとても満足しています」
「鳳翔さん…」
「提督はお元気でしょうか。それだけが気がかりでした。でも、こうして再会できて嬉しいです。歩む道もお店も違えど、同じような生活ができて、ふふ。私は恵まれています」
ここで私も同じ店で働きたい、と言わないところが彼女らしい。自分の店を軽々しく手放すことはここに来てくれるお客に迷惑がかかり、癒しを求めてやってくる人を裏切ってしまう気がした。鳳翔には鳳翔の。マスターにはマスターの道がある。そこに踏み入ることはできない。お互いに場所は違えど同じ考えを持っている。ならば一緒に居らずとも心は繋がっている。それでいいのだ。
「それで良いのです。私には私の。鳳翔さんには鳳翔さんの城があります。簡単に崩してはなりません。時々遊びに来てくださるのはぜひ。歓迎いたしますよ。運が良ければ、艦娘ともお会いできるでしょう」
「まあ、それは楽しみですね!」
「ははは。それも、その艦娘を引き連れてくるのが、ヤツの息子だ」
ヤツ。空席に置かれた日本酒を好む男の息子。ヤツに似て朗らかで、人を…いや彼の場合は艦娘を笑顔にするのが得意な、艦娘にとってとても重要な存在だ。
「……何の縁なのでしょうね。まさか、提督ですとやって来たのが玲司君とはね。彼とは腐れ縁だとずっと思っていましたが、ここまでとはね」
「違いないねぇ。まったく、彼は切っても切り離せないね」
「ああ。だが、アイツは艦娘にとって大切なヤツを残していった。少しずつではあるが、元ショートランドの青葉の協力もあって、まだまだ邪魔は入るが艦娘の意識改革にはいい方向へ向かっている。若手も艦娘を大切にしている。クセが強くて困るがな。奴らなら、木曾や磯風、利根を任せられる」
「うむ。つい先ほど、島風を横須賀へ教官として無期限で派遣させる手続きを大急ぎで済ませてきたんだ。我々の先は長くない。引退の文字が近づいている。だが、うちのかわいい娘達を簡単に艦娘を轟沈させたり不幸な目に遭わせる輩どもに譲る気は毛頭ない」
「そうですね。違うと言う人は多いんでしたね。艦娘は兵器であり、感情も、幸せになる権利なども必要ない。そう、提督達とほかの方々とよく揉めましたね…」
艦娘と共存を目標とする者。玲司の父、雪丸が唱えた目標。それとは真反対で、艦娘を利用し、海を制圧するためだけに存在すると信じて疑わない清洲副長官達の率いる集団。古参の争いが今でも続いている。最近では物扱いどころかもっとひどい扱いも多いが。横須賀での話に鳳翔は口を押さえて涙をこらえていた。そうして出てくるのが…玲司の名。
「三条の置き土産だ。これから、深海棲艦との戦いがどうなるかはわからん。だが、艦娘を取りまとめ、艦娘を引っ張っていくのは…もう俺たちでも清洲でもない。若手だ。派閥は変わらんだろうが。艦娘の意識を変えていくのは…きっと玲司や一宮、九重のように艦娘を大事にする奴らだ。実際、青葉の取材もあって、艦娘が今の待遇に疑問を持ち始めている」
「商店街でも彼のおかげで艦娘を見直す人が増えました。老若男女問わず、艦娘と触れ合い、交流が増えていかす。この間は雪風さんがですね」
雪風と夕立が迷子の女の子を一生懸命探していた話。女の子の母は艦娘にいいイメージを持っていなかったが、雪風と夕立のおかげでイメージが変わった。魚屋の源を助けた話もした。北上や雪風が店を手伝ってくれたこと。振袖を着た翔鶴達の話。自分たちができなかったことを玲司は一気にやってのけた。雪丸が生きていればやってそうなことだ。それを息子が知らずにやってのけた。
「おかげで繁盛していますよ。彼には頭が上がりません」
「行方不明となり12年。私は高雄にも言ったが、奴は今でもよう、と言いながら帰ってきそうな気がしてならない」
「言えている。ヤツは本当に野良猫みたいな奴だ。俺たちを艦娘部隊にいきなり加えたからと、一週間、どこへ行ったのかわからずにふらりと帰ってきたらこれだった。目の前に連れてきた10人のおなご。好きな子の世話をしろ。何を言っているんだこいつはと思った」
「事情も何もなかったねぇ。じゃ、艦娘の面倒見るの頼んだぜ。無茶苦茶を言ってくれたよ」
「私もお前は頭がいいからこの子らとこれの研究な。でしたね。艦娘建造の研究などと、私は科学者ではないと言うのに」
「皆さん、三条提督にはすごい振り回されていらっしゃるのですね…」
「まあ、彼が言うなら仕方ない、やってやろうと言う気にさせたのがまたね。息子は息子で『おやっさん、大和が建造されたんだけどどうしたらいい?』だ。血は争えないね」
「大和さん!?」
「ああ。俺も思わず笑った。次は武蔵でもやらかすんじゃないかと思っている」
「伝説の。私も幾度か挑んだ大和型の建造。ついに叶いませんでしたが、玲司君はやってのけてしまいましたね。泣き虫で、でもかわいらしい子でした」
「三条、お前もお前だが息子も息子だ。血は争えんね」
焼酎を足して、日本酒が注がれているグラスにチンと自分のグラスを当てる。その手は震えていた。古井の目には涙が浮かぶ。
「何で逝ってしまった…お前にはまだやりたいこと、してもらわなければならないことがたくさんあったと言うのに。帰ってこい、三条…」
虎瀬もウイスキーを注ぎ、杯を当てる。沈痛な表情だ。
「人を散々振り回しておいて、いきなりいなくなる奴があるか、たわけが」
マスターも同じことをする。
「いなくなってしまったことは寂しい。ここであなたも含めて5人。賑やかにやりたかったですよ。案外、この桜の木の陰から…見ているんじゃありませんか?……三条君」
答えはない。風が吹き、花吹雪が舞う。3人とも一気に酒を煽る。すぐに声を大にして話し出す。彼は暗いのが嫌いだ。明るく呑んで食べてがちょうどいい。彼の悪口をぼやきながら。それでいい。「ひっでえなぁお前ら」と返ってきそうで。また笑った。鳳翔も少しだけだが彼といた。
「すっげえ!この弓どうなってんだ!?俺にも引かせてくれよ!ふんぬー!引けねえぞ!」
「すっげえ!飛行機だぜ飛行機!ブーンって飛んで敵へドカーン!ってか!人間が作った戦闘機のミサイルじゃ傷1つないのにな!艦娘ってやっぱすげえよ!」
「ここから見える水平線に沈む夕日が好きでよ。あ?無断外出は怒られる?いいって!総一郎には俺が言っとくから!」
「自慢の息子に超かわいい娘!美人な嫁さん!守るにゃお前達の力が必要さ。一緒に頑張ろうな!」
提督との思い出には負けるが、眩しい人だった。素敵な人だった。自分たちのことを化け物と見る目が多い中、手を取って共に戦うと言ってくれたことは救いだった。思い出して涙がこぼれた。
「来年もここで集まって飲みたいですね。ここなら三条君も来やすいでしょう」
「ああ。定期的に集まろう。宗春も帰ってきたことだしね」
「ああ。鳳翔のうまい飯と酒。これでいくらでも語れるな」
「昔話もいいけれど、出る話は玲司の話が多いものだね」
「それだけ皆気にかけているんだ。見せてもらおう。龍驤と明石が言う新しい風を」
3人の男達とは切っても切れない腐れ縁の置き土産。見守ろう。彼を。鳳翔を交え、昔話は進む。
うまい酒。美しい桜。そして、喜びも悲しみも入った昔話。年寄りは昔話が好きですね、と笑う。昔だけではない。艦娘の未来も提督だからこそ語る。皆かわいい娘だ。だからこそ彼らは大事に語る。鳳翔もその話に目を細めて加わる。
「ふう、いやぁ。食った、呑んだ。うん。うん。楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだね」
「時間が足りませんね。また、いつでもお電話ください。皆さんで集まりましょう」
「こうなるとやはりちょくちょく集まりたくなるな。またやろう」
「ええ。必ず」
月夜に舞い散る桜。必ず、またここで。そう言って解散。虎瀬と古井は帰っていった。
「鳳翔さん。今日はありがとうございました。やっと、心のわだかまりが消えました」
「私も…ようやく…ふふ。提督。お手紙は続けてもよろしいですか?」
「ええ。私もお電話を差し上げますよ」
「楽しみにしておりますね。近いうちに必ず、お邪魔しますね」
「はい。お待ちしております。お互い、頑張っていきましょう」
そうして名残惜しいが電車が間に合わなくなりそうだったので店を出た。鳳翔は笑顔で、マスターが見えなくなるまでずっと店の前で見送っていた。マスターもまた、時々振り返り、鳳翔を見ていた。
親友と大切な相棒との再会。美しい月と桜。うまい食事に酒。酔って気分の良い足取りは、家に帰るまで軽かった。
………
「マスター、ちわっす。この子達にマスターのとびっきりうまいケーキと紅茶を頼みます。朝潮達、鹿島、好きなのを頼んでいいぞ」
「おお、いらっしゃいませ。さあ、どうぞ。今日はイチゴのショートケーキがおススメですね」
後日、新しい艦娘を引き連れてやってきた玲司達を歓迎。今日も喫茶「ルーチェ」は忙しい。そんな中でも、彼と笑顔でワクワクしている艦娘を見るのはやはり嬉しい。ケーキを出すと艦娘達は目を輝かせて食べている。マスターは終始笑顔だった。
………
「いらっしゃいませ。今日は少し暑かったですね。おしぼり、冷やしておきましたよ。冷酒でよろしいですか?」
小料理屋「鳳翔」では今日も美人の女将が笑顔で来店を歓迎してくれる。静かな店内。女将、鳳翔の笑顔。気の利いたサービス。ここは疲れた日常と言う砂漠に旅人が癒しを求めてやってくるオアシス。疲れた顔をした男も女も。みんな帰る際には笑顔になっていく。そこには、皆が求める理想の「お母さん」の笑顔があるから。「お母さん」の笑顔は、ある日を境にもっと素敵になった。その笑顔を求めて、今日も「鳳翔」は人気である。
イベントが始まりました新艦娘、ゆーちゃんをゲットできて前段は順調です。
次回は横須賀の花見です。
それでは、また。