提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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一度書き上げましたが全くもって納得のいくものではなかったので書き直しました。
お花見の準備編です。新しい楽しいことに、みんなワクワクしています。
今回は鎮守府の姉御、摩耶が主眼です。


第九十三話

「おーい鳥海!ビニールシートこれでいいのかー!」

「ええ!もうちょっと引っ張って!」

 

「あいよー!ったく、鍛錬中止でなんだってこんなことやってんだよ」

「花見だって。回復したと思ったらいきなり花見をするぞ、なんて。予想外もいいところよ」

 

「だよなぁ。それにあれ。墓ってんのか?北上達も人が悪いぜ。長門さんや加賀さん、大井にゃ世話になったってのによ」

「仕方ないわよ。北上は長門さんに鎮守府と雪風を託されてたんでしょう?五十鈴達とは袂を分かっていたわけだし。大淀も、瑞鶴もね」

 

「ちぇっ…まあ、教えてもらえたのは嬉しいけどさ。掘り返そうとか、そう言うのじゃねえし」

 

摩耶達巡洋艦は今、突発的のようやく食堂に姿を現した提督、玲司の『花見をやろう』と言う号令で今、大きな桜の木の下で翌日に行う花見の準備をやっている。花見って何するの?という駆逐艦の質問。

 

「何もしないよ。ただ、あの大きな桜を眺めながら、食べたり飲んだりするだけさ」

 

その答えに駆逐艦達はわっと喜んだ。なんて事はない行事なのだが、横須賀のみんなにとってそれははじめてのことだった。ただ、桜を眺めてわいわい騒いでみんなで食べて飲む。お酒の許可もハメを外しすぎないレベルなら飲んでいいの言葉に、龍驤が駆逐艦に紛れて大いに喜んでいるのを見て、明石がため息をついていた。

たくさんの料理が食べれるとあって赤城がこれまた駆逐艦と一緒に喜んでいた。川内がため息をついた。島風はお友達と一緒に遊べるとあって雪風達ときゃっきゃっ言っていた。これは微笑ましいことだ。

 

じゃあ、と任されたのが桜を見るにあたって一番見ごたえのある場所を確保せよ、とのことで、摩耶が代表で準備を進めている。戦艦、空母は料理をお重や大きなお弁当箱に入れる手伝い。間宮の指示のもとでおにぎりを作るなどの役目がある。駆逐艦はシートの周りの落ち葉などの掃除。妖精さんが手入れはしてくれるがやはり大きくはできない。パンパンのゴミ袋が何袋もできるほど、雑草や落ち葉をかき集め、ゴミ処理を任された。

 

摩耶はそんな中、小さな石の何かを見つけた。誰が置いたのかわからないお水やお線香。すぐに、触ったりどかしたりしてはいけないものと判断した。

 

「もう仲直りもしたしね。近々言おうと思ったんだけどね。それはお墓だよ。ここで死んだ艦娘の」

「お墓?」

 

「死んだ人をとむらう?えっと、ゆっくり休んでくださいってことで建てるものらしいよ。ゴミクズの目を盗んで内緒で作ったんだ。長門さん、加賀さん、大井っちが部屋に残したものや、少しだけどくちくの艤装の破片なんかを、瓶に入れて埋めた」

 

北上の手にはお花。水を入れた小瓶に挿して供える。そして線香に火をつけて刺し、手を合わせる。摩耶と五十鈴はそれにつられて一緒に手を合わせた。

 

「こうしてね。お花を供えて、お線香を焚いて、静かに手を合わせて心の中で今日もみんな元気に笑ってるよって言ってあげるといいって玲司が言ってたんだ。玲司が来るまではお墓作っただけで、何もできてなかったから。お花を供えたり、お線香をつけたりって言うのは玲司がやってくれたんだ」

 

「提督が…」

「うん。玲司はずっと、申し訳なかった。ここの子達はみんな笑って暮らせるようにするからって言ってるみたい」

 

「提督が謝る事じゃねえだろ!提督はむしろここをこんな風に変えてくれたんだぜ!?」

「それでも、人間が悪いことをして、あたし達を悲しませた。つらい目に遭わせたって」

 

「本当にお人好しね、あの提督は…」

「っか野郎が…ほんとにクソ真面目なんだからな。真面目すぎて倒れちまうくらい…」

 

摩耶はもう一度ギュッと目を瞑って手を合わせた。五十鈴も思うところがあるのか、静かに手を合わせて祈る。

 

(長門さん、加賀さん、みんな!あたし達は今の提督のおかげで楽しくやってるからな!提督を恨んだりしないでくれよ!!)

 

ーーーー心配するな。私は見ているぞ。

 

………!?耳元で何か聞こえた気がした。その声は、紛れもなく。自分たちを常に、自分がどんなことになろうとも見守り、励ましてくれた彼女の……!!

 

「摩耶?どうかしたの?」

 

突然目を開いて周りをキョロキョロしだした摩耶が気になり、声を五十鈴がかける。

 

「お、おい五十鈴、北上、お前らは聞こえなかったのか!今、今聞こえたんだ、長門さんの声!」

「うそ、長門さん!?」

 

「気の…せいじゃないの」

 

北上は気のせいと声を震わせて言う。ただ、北上も不思議な体験をしているのだ。彼女もまた、優しい風と共に耳を通り過ぎていった、最愛の妹であり親友の声を、いるはずがないのに聞いているのだ。

 

ーー幸せになって。

 

摩耶は長門を慕っていた。姉が沈んだ時も、友達が沈んだ時も、歯を食いしばって涙をこらえていた摩耶を励ましていたのは長門だ。

 

「摩耶。すまなかった。恨むなら私を恨め。この不甲斐ない戦艦長門を」

「恨めるはずがないっす…必死で守ってくれたんすから。悪いのはアイツだ!あの野郎だ!」

 

「口に出すな。お前が酷い目にあう。泣きなさい、摩耶。ここでは私はお前の悲しみを受け止めよう」

「う、うう、うあああ!姉貴…加古……!」

 

結局、長門の説得も虚しく、電や五十鈴達と共にこの後引きこもってしまう。北上にだけ、長門は心情を打ち明かしている。

 

「情けないことだ。私では彼女達の心を動かす事はできなかった。だが、少しでもああすることで生き長らえることができるなら、それも良い手段なのかもしれん。すまん、北上。すまん。私も少し、疲れてしまった。良ければ胸を貸してもらえまいか」

 

弱みを決して見せまいと、小さくすすり泣く長門のことを思い出す。戦艦長門の最初で最後のおねだりだった。あの時ばかりは、北上は雪風をあやすように、頭を撫でたり抱きしめたりしていたっけか。

 

摩耶は長門が最後の出撃の際に、声を聞いていた。扉を開けるわけにはいかない。開けたその後ろに汚い人間がいるとも限らない、と追い詰められ、疑心暗鬼になっていたから。

 

「私だ。長門だ。摩耶。そこにいるみんなを…よろしく頼んだぞ。私はゆく」

 

ゆく。行く。いや、あの時の覚悟を決めた声は、どう考えても「逝く」であると今なら確信した。そして、もう永遠に顔を合わせることも、説教を聞くこともできなくなった。どうしてあの時、顔を出さなかったのか。帰ってきてくれと言えなかったのか。今も胸の中でちくりと胸が痛む。キレて部屋の中で暴れるようなこともした。

 

言いたいことは山ほどある。でもきっと。一言目にはごめんなさい、の言葉しか出ないだろう。もう一度会えるのなら。ごめんなさい。ありがとう、と言いたい。提督が変わって仲間も増えたよ。みんな、笑ってるよ。見てくれよこの綺麗になった鎮守府。あのお化け屋敷がこんなになっちまったよ!チビっ子たちがかわいくてしょうがねえよ。

 

 

……会いたいなぁ。

 

 

「摩耶。あんた…」

 

ハッと五十鈴に言われて目を開くと、視界が滲んでいる。泣いていたのか。五十鈴が抱きしめてくれる。北上がハンカチで涙を拭ってくれる。優しいよな。ケンカもしちまったし、北上にはひどいことばっかり言ったのにさ。口に出して素直には言えないけど、ありがとう。お前らがいてくれてよかった。

 

「もう、摩耶?五十鈴さんに北上さんまで、ここでサボって何をしているの?」

「鳥海、しーっ」

 

北上の動作に、え?と鳥海が返すも、摩耶は五十鈴に抱きついて小さく震え、時々ひくっとしゃくり上げる声が聞こえる。泣いている…。摩耶が涙を見せたのは鳥海が知る限り、姉である愛宕と仲の良かった加古を失った時が最後だった。それ以来は、怒りに任せて物に当り散らしたことがあっても、決して涙は見せなかった。ああ、龍驤さんに痛めつけられて、怯えた時は泣いてたっけか。それと、司令官さんの話を聞いたり…ああ、いや。感動したりして泣く事はあっても、失った仲間のために泣く事は一度もない。

 

摩耶の妹である鳥海は五十鈴や最上よりは付き合いは短いが、姉妹だけに摩耶の性格は知っている。短気で、ガサツっぽいけど手先が器用で、細かい作業が得意。口は悪いし口うるさいし、男勝りだけどかわいいぬいぐるみや服、甘い恋愛小説や少女漫画が好き。涙もろくて、人情深く、面倒見がいい姉御肌。だからか、皐月や文月、霰に懐かれ、よく遊んでいる。

 

「摩耶…」

「……グスッ」

 

五十鈴から離れ、鳥海の胸に顔を埋めて泣いている。面倒見がいいけど実は甘えん坊。最上や五十鈴には強がっているけど、鳥海にはすぐ甘えるのだ。

 

「なー鳥海。お茶入れてくれよー」

「私は今手が離せないのよ?お茶くらい入れてよ」

 

「いいじゃねえかよー。なーなー」

「ああもう、うるさいわねぇ…一杯だけだからね?」

 

「やったー!サンキュー鳥海!」

 

にひひ、といたずらっぽく白い歯を見せて笑う摩耶が、自分にだけは甘えてくれるのが実は嬉しかったりする。泣くときもこうして甘えてくれるのね…と優しく頭を撫でて思う。けれど、泣いているのは久しぶり。

 

「電やみんなをクソッタレ野郎どもから守るためだ。もう泣いてられるかよ」

 

そう言って随分と無理をしてきたわね…。やっと、安心できたのかしら?と思う。

 

「泣いてられねえんだって!こんな楽しい毎日をさ。みんなと一緒にやっていきたいんだよ。泣いたら弱くなっちまう。空も、みんなも守れなくなる」

「摩耶。泣くことが弱い。弱くなることではないわ。泣くことで強くなることもあるはずよ」

 

「いいや。あたしは泣いてる暇もないよ。あたしは走り続けるぜ。提督のために。みんなのために。かわいい妹もいるしな!」

「はあ!?ちょ、摩耶!?もう!」

 

はははは!と笑う摩耶。私にはその笑顔は…見ていた痛々しかったな…。本当は泣き虫なくせに。泣きたいくせに。泣いて、心で愛宕姉さんや加古。そして、摩耶が誰よりも慕っていた、長門さんや加賀さんの死を。もう整理したいと思っているくせに。嘘つき。私には泣きたい時に泣けとか言って、散々泣かせたバカ。バカ摩耶。

 

大泣きはしなかったものの、静かに泣いてスッキリしたのか。摩耶はいつもの摩耶に戻っていた。目は腫れて赤いけど。

 

「おっし!泣いてスッキリしたぜ!うーーーーん!さって、花見ってやつの準備、再開するかー!やるぞっ!」

「摩耶、ちょっと休んでたら?いいわよ。もうすぐ最上や古鷹も帰ってくるし、1人くらい」

 

「なんだよー。あたしだって楽しみにしてんだぜ?明日の花見。頑張った方がより楽しめんだろ!」

「それはそうだけど…」

 

「おーい!なになに、休憩中?どしたのー?」

 

テントを持ってきた最上。万が一雨が降ってきた際の雨よけだ。ただ、皐月や雪風が一生懸命てるてる坊主を作っているはずだ。あの子達が作るものなら、きっと問題はないだろう。テレビが大好きでかじりついてうるさい瑞鶴も、明日は晴れだって!とはしゃいでいたし大丈夫だろうけど。

 

最上にお墓の説明をすると、北上に教えられて見よう見まねで手を合わせていた。長いこと手を合わせ、目を開けると泣いていたのか、目をこすっていた。最上も長門や加賀に守られて、妹を自分の力が及ばないばかりにとひどく泣いていたことがある。

 

「三隈のリボン、ここに埋めようかなとも思ったけど。やっぱり離れ離れになるのはイヤかな。三隈、寂しがりやだしさ。ボクがいないともがみんもがみんってうるさかったからね。…ボクも摩耶と一緒。泣いてるヒマなんてないよ。ボクもみんなと走り続けるよ。休むなら、この鎮守府。みんなのお家でみんなと一緒に休みたいし」

 

「だよな、最上!」

「うん!さっすが摩耶!ボクの一番の友達だね!」

 

ハイタッチをして腕をがっちり交わす2人。戦友であり親友。今でこそ軽口を叩いているが、海に立てば抜群のコンビネーション。横須賀の黄金コンビだ。

 

「さ、準備準備!摩耶、サボってると提督に言ってお弁当抜きにしてもらうよ?」

「はあ!?冗談じゃねえ!おい鳥海、五十鈴!北上も!何してんだ!早くやるぞ!」

 

そういって最上と元気いっぱいにテントをおりゃあ!と広げ、作業を始める摩耶。いつものことだけど…と鳥海はため息を吐いた。

 

「忙しいわね、ほんとに。呆れて物が言えないわ」

「まーそれでこそ摩耶だよねぇ」

 

鳥海と同じく、呆れる五十鈴とケラケラ笑っている北上。かつていがみ合っていた間柄は忘れて、世話の焼ける駆逐艦のように子供っぽい巡洋艦を見てそれぞれの意見。勢いよく作業を開始しようとしたものの。

 

「摩耶さーん、最上さーん!差し入れのおにぎりをもらってきましたよー!」

 

とお皿いっぱいのおにぎりを持った古鷹を見て、もうそっちに飛んで行った。

 

「やったぜー!食べる食べる!」

「わーい!どれがどれ?これシャケかな!」

 

「あわわ、2人とも落ち着いて!おにぎりは逃げないからぁ!」

 

「うめ!うめ!」

「ん!おいしいね!」

 

「五十鈴さんと北上さんも鳥海さんもー!」

 

「はーあ。こりゃまた休憩だね」

「しょうがないわよ。あの子供2人の気分次第だもの」

 

「ふふ。小腹も空いたし、食べようかな」

「そうね。行きましょっか」

 

「こらー!そこの2人、食べすぎだってばさー!」

 

米粒をあちこちにつけた摩耶と最上にぷんすかしつつ、花見の準備はゆっくり?と進んでいくのであった。

 

最上とおにぎりをもしゃもしゃしつつ、談話。

 

「長門さんか。ボクも最後までお世話になったな。結局最後までごめんなさいの1つも言えなかったな。三隈や前の古鷹がいなくなった時、長門さんにボクすごく詰め寄っちゃって。長門さんが悪いはずないのに」

 

最上の懺悔、だろうか。減っていく仲間に余裕がなくなり、心をすり減らした最上は長門を激しく責めた。頭に血が上り、ハッと気付いて謝ろうとしても、長門は悲しげに笑っていた。反論もせず、怒りもせず。ただ「すまない」とだけ言って、それ以上は何も言わなかった。最上も何も言えなくなっていた。

 

「あの時はごめんなさい」

 

たったそれだけが言えずに長門はいなくなってしまった。長門轟沈の報せを聞いた時、最上は部屋の隅で崩れ落ちた。どうして。どうしてあの人が…。摩耶と同じく、今もそれだけが今も胸を苦しめる。せめて、夢の中ででもいい。一言謝れたなら。

 

「なあ最上。長門さんに会えたらお前、何て言う?」

「ん、いきなりだね。んー。そうだねぇ。ごめんなさいだね。三隈のことで長門さんは悪くないのにめちゃくちゃ言っちゃったから」

 

「あたしも…あんな形で会えなくなるってのはな…今からでも謝りてえな」

「長門さんがそれを望んでるとも思えないけどね。ボク達がここで楽しく遊んで生きてるってところを見てもらうのが一番なんじゃないかなって思うよ」

 

「そっか」

「うん。そうだよ」

 

「じゃあ、今度の花見も思い切りパァーッと盛り上げていくか」

「うん。パァーッとね」

 

「……く、くくく…」

「ふふ、ふふふふ」

 

「「あはははははははは!!!!」」

 

「なに?あの2人、怖いわね…」

「ふふっ、あの2人にしかわからないこともあるんだと思うわ。ちょっと嫉妬しちゃうくらい」

 

「あら、鳥海が珍しいわね。やっぱりブツブツ文句を五十鈴に言う割に、お姉ちゃん大好きっ子ですものね」

「私は…別に…あんなバカ摩耶…」

 

「ふふ、鳥海さんかわいいですね」

「古鷹さんまで…も、もう。知りません!」

 

「おー、楽しそうだなー」

 

顔を赤くしてそっぽを向く鳥海。クスクス上品に笑う五十鈴と古鷹。休憩中の楽しい談話は続ける中、やってきた玲司。

 

「おう、提督!準備は順調だぜ!」

「そうだよ。もうあらかた終わっちゃったかな。病み上がりの人が手伝うものなんてないよ」

 

最上のちょっとトゲのある言葉に苦笑いして頭をかく。いや、参ったな、と笑っている。最上はちょっと怒っていたのだ。倒れたくせにまたいろいろと無理をしてること。その前もかなり無理をしていたこと。自分たちだってちゃんとお手伝いもできるし、やれることは自分でやる。それを聞かずに無茶していたことがかなり最上は怒っていたらしく、最近ちょっと玲司に冷たい。最上なりの抗議なのだと言う。

 

「そっか。ありがとうな。助かったよ」

「へん!これくらいあたし達に任せろって!」

 

「そうそう。これくらいならどうってことないからさ。さ、次は何すればいい?」

「いや、これで今日は終わりだ。あとは文月達のてるてる坊主の効果があるかだな。サンキュ。2人とも。鳥海も五十鈴もな」

 

そうして摩耶と最上の頭に手を乗せて、わしわしと頭を撫でる。わぁ、と最上が声をあげる。

 

「へへ、なんだか久しぶりに撫でてもらったなぁ。やっぱりいいね、提督のなでなで♪」

「バカヤロウ!気安く撫でんなっつってんだろ!?セクハラ!スケベ!ヘンタイ!」

 

「あー気にしなくていいよ提督。摩耶、いつもこう言ってるけど部屋で頭触ってにへーってしてるから。撫でてもらって嬉しいんだけど、鳥海やボクが見てるところで撫でられるのが恥ずかしいだけだよ」

 

「最上ィ!てめえ!それ内緒って言ってんだろ!!」

「ほらほら、嬉しいんだよ。だからもっと撫でてあげてね」

 

「最上ィ!!!」

 

わー、と最上が逃げていく。摩耶が真っ赤な顔をして追いかけていく。五十鈴や鳥海の頭を撫でながら玲司も笑っている。鳥海は恥ずかしそう。五十鈴は素直に受け入れている。古鷹は最上達を追いかけていく。

 

今を笑い楽しんで生きる艦娘達。それは巡洋艦だけではないのだ。

 

 

「ねえねえ名取さん!これで今度のおはーなみ、晴れるかなぁ?」

「おはーなみじゃなくてお花見でち。これ、吊るしすぎでち…」

 

食堂の窓にぶら下げた50はあるんじゃないかというてるてる坊主。文月、皐月、霰、島風が1個でいいと言っているのに何個も何個も作っていた。時雨達も苦笑いしつつ作っていた。

 

「このてるてる坊主すっご。大きいわね」

「雪風が作りました!おっきいのを作ればきっと晴れます!!」

 

「い、いや、大きければ効くものでもないと思うけど…」

 

イムヤのツッコミも虚しく、雪風は鼻息を荒くして絶対晴れます!と言っている。そ、そう…とイムヤは引き気味である。ゴーヤは文月と皐月がいつまで経ってもオハーナミと変な訛りが気になり、ツッコむも変わらない。ただ、潜水艦の2人もお花見というものが楽しみだったので、駆逐艦に交ざって1個作ったりもしている。

 

「潮、今顔を描くと効果がないらしいよ」

 

時雨がそう言うとがーん!と言うような表情で手を止めた。なんとも言えない不思議な顔をした潮の連装砲と一緒の顔を描いていたのだが…。

 

「はわあああ!ごめんなさい!ごめんなさい!私のせいでお花見の日に雨になってごめんなさーい!!ごめんなさーい!!!」

「潮、お、落ち着いて!大丈夫、お天気は晴れの予報だよ!」

 

「うう、ほんとですか…?」

「ほんとほんと!大丈夫だって!」

 

「できたっぽーい!ごーるでんてるてる坊主っぽい!!」

 

おおー!と皐月達が歓声をあげる。折り紙の金色を用いて作ったすぺしゃるらしい。これまた、時雨と村雨が苦笑い。こうして駆逐艦達、初めてのお花見はワクワクドキドキ。待ちきれない様子である。

 

「みんな、おやつにしましょう」

「おやつ!?食べる!」

 

今日のおやつは間宮特製アイス。口にした瞬間、鹿島の厳しい練習の疲れもたちまちに吹き飛ぶ逸品だ。扶桑と鹿島、大和が加わっておやつタイム。また作ろうとしていた島風が素早く席に着く。

 

「はー、疲れた…みんな張り切って作りすぎよ…」

「お疲れ様、瑞鶴。アイスを食べて休憩しましょ」

 

「アイス!?食べる食べる!」

「わー、おいしそうですね!」

 

「あたた…あいつらどんだけ作るねんな…うち背ちっこいから吊るすん大変やったわー。アイス食べる!」

 

空母も加わってみんなでおやつタイム。朝潮達は間宮のお手伝い。同じようにアイスをもらい、舌鼓を打つ。

 

「おいしいね!」

「大潮姉さん、うるさい…ん、おいし」

 

「ふふふ、おいしいわぁ♪」

「ほら、朝潮ちゃんも食べよ!」

 

「は、はい、吹雪さん!いただきます!」

 

口の周りを白くしながら食べる子。早く食べ過ぎて頭がキーンとなる子。アイス1つでいろんな子の表情が見られる。

 

「時雨、おいしいね!」

「うん。おいしい。お花見も楽しみだね」

 

「ぽい!絶対楽しくなるっぽい!ぽいー…みんなでこんなお祭りができるなんて…」

「うん。僕たち…こうしていろんな体験ができるなんて、嬉しいね」

 

「心配ないよ。これからももっともーっと!提督と一緒に。みんなと一緒にやっていけるよ!」

「夕立も、もーっとたくさんのお友達と一緒に遊びたいっぽい!」

 

「そうだね。ところで、夕立。僕のアイスを食べたのはどういうことかな?」

「ぽい?」

 

「ふふふ、君には失望したよ…」

「村雨、しーらない…」

 

「ぽ、ぽいー!だれか助けてっぽーい!」

 

結局誰にも助けてもらえず、いくらわめいてもほっぺをつねられ続け、真っ赤になるまでやられた。なお、時雨にはアイスが再度渡され、機嫌を直した。

 

今日も横須賀鎮守府はどこでも騒がしく、楽しい時間が流れていく。中庭の桜は、いよいよ満開の時が近づいていた。




生き残り組にとってはいろいろと思いがあると思いますが、今を楽しめるのなら、それが彼女達にとっては幸せなことなんだと思います。

次回はお花見。どんちゃん楽しみましょう。

それでは、また。

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