提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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第九十五話

「第二十二駆逐探検隊!きをつけー!敬礼!」

 

その言葉にぴしぃっと敬礼する文月と苦笑いをしてなんで僕まで…と言う顔をしている時雨、わくわくが止まらず、目どころか全身キラキラしている島風。。彼女たちは今日もおもしろいことはないかと鎮守府を探検する。その名も「第二十二駆逐探検隊」だ。メンバーは皐月を隊長に文月副隊長。そして最近入隊した島風。時雨は…その辺を歩いていたので無理やり加えられた。

 

どんなことをしているのか?鎮守府を隅から隅まで探検し、何か面白いものはないか?と言うのを常に探求する探究心溢れる隊なのだ。だいたい脱線して食堂で間宮におやつを作ってもらい、そのまま夕飯まで喋ってたりお手伝いしたり、お風呂に突撃して結局のんびりお風呂に入っていたり。探検隊?といつも摩耶や瑞鶴達から言われている。

ただ、その目をキラキラさせて楽しそうに歩き回る皐月と文月がかわいらしく、いつの間にか霰が加わっていたり、吹雪が巻き込まれていたり、扶桑が保護者のようについていったりといつも誰か仲間が増えている。

 

「今日はこの開かずの間だった場所の鍵を!なんと!司令官から預かってきたよ!だから、今日はこの開かずの〜、んー、や、やど…くら?」

 

「宿舎だよ、皐月」

「んああ!そうそう、そうとも言うんだよ!しゅくしゃを探検するよー!」

 

「わぁ〜、時雨ちゃんもすごいね〜。文月読めなかったよぉ。すごぉい!」

「あはは、はは…ありがとう」

 

今日はこの駆逐艦たちの間で「開かずの間」と長らく噂になり、きっとすごい宝物が眠っていると噂されている「宿舎」の探検をすることになったのだ。

 

/遡ること1時間ほど前

 

「ねえねえ、司令官。開かずの間って知ってる?」

 

朝食の時に玲司に開かずの間のことを尋ねる皐月。玲司は顔に「???」を浮かべ、困惑している。

 

「開かずの間?うちにそんなのがあるのか?」

「あるよぉ。いっつも鍵がかかって入れないの〜」

 

「へぇ、それはおもしろそうだな」

「さっすが司令官!ボクもそこの中に入ってみたいんだよ!きっと、すっごい宝物が隠されてるんだよ!」

 

「でもぉ、どこも鍵がかかって入れないの〜」

「ふーむ…よし、わかった。『第二十二駆逐探検隊』!朝食終了後、司令室に来たまえ。君たちに指令を出そう」

 

「……!わかったよ、司令官!!」

「はぁい!」

 

「こらこら、ご飯はゆっくり噛んで食べるんだぞ」

 

皐月達をのせるのがうまいなぁ、と北上が感心する。玲司の言葉は士気が高揚する。やる気にさせてくれる。遊びにも全力で付き合ってくれるから、皐月達は玲司が大好きだ。「第二十二駆逐探検隊」も玲司が皐月と文月「第二十二駆逐隊」からとったものだ。ちと安直だな、と彼は笑っていたが、皐月達はとても気に入って時間があるときは鎮守府を探検している。

 

「ねえ、お兄ちゃん。第二十二駆逐探検隊って何?遠征でもするの?」

「ちっちっちっ、違うよ島風ちゃん。ボクと文月で鎮守府を探検して、面白いことや宝物がないか探検するんだよ!」

 

「秘密基地もあるんだよぉ。あっ、これ内緒だったぁ…えへへ」

「探検!秘密基地!?おうっ!楽しそう!」

 

「おおっ、島風ちゃんいいね!よぉし、島風ちゃんの入隊を認める!」

「わぁ〜!新しい隊員ができたよぉ〜!」

 

パチパチパチと拍手する文月、ババーンと島風を指差す皐月。そして飛び上がる島風。こうして「第二十二駆逐探検隊」は今日も横須賀鎮守府の探検に繰り出すのだ!!

 

 

「よく来た、皐月隊長、文月隊員。島風隊員。今日は司令官から君たちに指令を出そう。今日探検してもらう場所は…『開かずの間』だ」

 

司令室に来て司令官から正式の依頼が下る。緊張のあまり皐月はゴクリと唾を飲み込んだ。島風も「お、おう…」と緊張している。文月はニコニコと笑顔だ。司令官直々に「開かずの間」の調査の指令。もうすぐに飛び出したいが、まだ司令官の話は終わっていない。司令官は調査隊の司令官でもあるのだ。真剣に耳を傾ける。

 

「実はこの私も踏み込んだことのない場所だ。何があるかわからない。3人ともくれぐれも気をつけるように。いいか、危ないと思ったらいつも通り撤退すること。これは命令だ。この命令を破る者には、罰があるからな」

 

文月もキッとした顔つきになり、緊張している。これはとても重大な任務だ。心して当たらなくてはいけない。

 

「命令を守らなかったら明日の間宮アイスは抜きだ。いいな」

「ま、間宮さんのアイスが抜き!?わかったよ司令官!命令は絶対に守るよ!」

 

「文月もぉ〜!」

「は、はい!島風も守ります!」

 

「よろしい。では皐月隊長、探検を開始せよ!その前に、そちらのテーブルの木箱を開けて中身を持って行きなさい」

 

大淀が立っている横の机。これは大淀がいつも事務仕事をするものだ。そこには綺麗な小さな箱が置かれている。まるで宝箱のようだ。緊張した足取りで前に立ち、恐る恐る箱を開ける。キィ…と音を立てて開く箱。中には…「宿舎」と書かれた鍵。

 

「し、司令官、これは?」

「うむ、これはとある所で発見された鍵なんだが…どうやらこれが開かずの間の鍵ではないか、と言われている」

 

「おうっ!?こ、これは大発見だよ!」

「どうやっても開けなかった開かずの間の鍵がついに見つかった!それを隊員達に託す。さあ、行くがよい!新たな探検の始まりだ!!」

 

大げさに立ち上がり、バッと手を前に出す。そして勢い良く言い放つ。それに呼応して「おお!」と3人は手を合わせて天に掲げる。

 

「第二十二駆逐探検隊!出撃だぁ!!」

「「おおー!」」

 

元気よく飛び出していった。大淀が笑いをこらえられないでいた。あまりのかわいらしさにニヤニヤを抑えるのに必死だった。

 

「ふふふ。提督は役者になれるんじゃないんですか?」

「いやぁ、あの子達が真剣だったからな。ふざけるのもかわいそうかなって。心配は心配だけどな。妖精さんも手付かずっぽいし」

 

どこからともなく見つけたわけではなく、単に玲司の机の引き出しから出てきたものだ。この宿舎は艦娘のものではなく、かつての整備員や憲兵達が生活をする建物だ。今となっては人間の採用は一切していないので無人。安久野の時も、数を絞って厳選していいくらいだったので、今図書館に変わりつつある宿舎だけで十分だった。一時は安久野の仲間が住んでいたようだが。完全に無人で手付かずの場所。探検にはもってこいだろう。電気も通っているようで、配電盤をいじればいいと言っていた。

 

「机の引き出しから出てきたものでも、ちょっと脚色を付ければ冒険の始まりに聞こえるだろ?」

「そうですね。そんな大げさな…と思いましたよ」

 

「夢がねえなぁ。そんなんじゃ探検隊にゃ入れねえな」

「大きなお世話です!さあ、始まりの儀も終わりましたし、お仕事ですよ!」

 

「ほんと夢がねえなぁ…」

「何ですか!」

 

やっば、ケンカになりそ…と思ったので「はい」と言って書類に取り掛かった。

 

 

「あ、時雨だ!」

「時雨ちゃぁ〜ん!やっほ〜」

 

「ん?皐月に文月。島風?また探検かい?」

「うん!これからなんと!今まで入れなかった開かずの間に入るんだ!」

 

「え、前から皐月が言っていた場所だよね?へえ…」

「時雨も行こう!時雨も今日は探検隊ね!」

 

「え、ええ?僕はいいよ…わっ!」

「ほらぁ、はやく行かないとぉ〜」

 

「時雨、おっそーい!」

「待ってよ!僕は、ああ…もう、しょうがない…」

 

こうして臨時隊員、時雨を(無理やり)加えて開かずの間へと向かうのだった。

 

「お、なんやなんやー。今日も探検隊出動か?」

「龍驤先生!今から開かずの間を探検するんだ!ほら。鍵も宝箱から見つけたんだ!」

 

「へー。宿舎ねぇ。よっしゃ、うちも暇してるし、皐月らだけやと危ないからうちも行くわ」

「やったぁ!龍驤先生ありがとうね〜♪」

 

「なんかあったら先生が守ったるでな!」

 

こうして頼もしい仲間、龍驤も加わっていよいよ開かずの間へ。時雨は龍驤さんがいるなら僕はこれで…とは言えない雰囲気に小さくため息をついた。こうなったら最後まで付き合うしかないか…。もう諦めた。

 

 

「宿舎」と書かれた建物の前に立つ。ここだけは妖精さんの補修もなく、壁が一部ヒビがいっていたり、窓ガラスにヒビがいっていたり、中は暗く、ドアのガラスも汚れていて中がよく伺えない。なぜかヒュウウ…と冷たい風が吹いたような気がした。そのボロボロの佇まいにさながらこの間興味本位で見て寝れなくなり、泣く泣く大和にしがみついて寝た時の映画「学◯の怪談」を思い出した皐月と文月。またもゴクリ…と唾を飲み込んだ。

 

「よ、よし、いよいよ開かずの間だね。みんな、準備はいーい?」

「文月は大丈夫だよぉ…こ、怖くなんか…ないもんね!」

 

「い、いよいよ入るんだね…怖くないもんね!」

「なんやみんな、ブルってるんか?はよ行こうや…」

 

(ええ…龍驤さんがなんだかんだで島風より怖がってるんじゃ)

 

チャリンと鍵を取り出し、おそるおそる鍵を差し込む。ゆっくり…ゆっくりと鍵を回す。妙に回りにくい鍵。何度かガチャガチャやっていると…。

 

カチャン!

 

「あ、開いた!開いたよ!」

「お、おお。いよいよ潜入やな!うちドキドキしてきたで…!」

 

「よ、よし、行くよぉ〜」

 

ギイイイイイ…と大きな音が鳴ってドアを開ける。大きな音にビクッとなる時雨以外の一同。

 

「ふ、文月知ってるよ!これ、この間の学◯の怪談で見たもん!文月たちを誘ってるんだよぉ!」

「いや、ただ油が切れただけじゃないかな…」

 

「ふ、文月。そのあとはどうなるの?」

「全員が中に入ると鍵がかかって出られなくないるんだよぉ!」

 

「おうっ!?それってやばいんじゃない!?」

「で、でも入るしかないよね…よ、よし、行くよ!」

 

「な、なんやとんでもないところに入るんやなぁ…い、いざとなれば式神もおるでな!」

 

どうして年長者が皐月達と一緒になって夢中になっているんだろう…でも、おもしろそうだね…と時雨も中へと続く。中は埃っぽく、カビ臭い。ツンとカビの匂いが鼻をつき、くしゅん!と皐月がくしゃみをする。

 

「皐月、大丈夫かい?」

「グスッ、うん。ちょっと薄暗いね…」

 

「それにちょっと…寒いな。ゾクゾクするで」

「え、ええと…どうしよう?」

 

「守衛室へ行ってみようよ。部屋の鍵があるかもしれないしね」

「うん。行ってみよ〜」

 

中に全員が入り、進もうとすると…ガチャン!とドアが大きな音を立てて閉まる。まさか、映画の通りに?

 

「皐月、文月!お姉ちゃん、開かないよ!?」

「ええ!?んー!か、鍵が回らない!?」

 

ガチャガチャとドアを押せど引けど開かない。それにパニックになる皐月達。ドアをガチャガチャやっているとパッパッと薄暗いエントランス、廊下に明かりが灯る。その現象に凍りつく。

 

「ど、どういうこと…?僕たち…本当に誘い込まれている…?」

「わ、わかんない。へ、へへ、誘われてるなら…ボク達も中へ進むよぉ…」

 

逆に何か探究心が燃え上がった皐月。皐月が先頭に立ち、時雨の言うシュエイシツと言う謎の呪文のような場所を探す。島風は龍驤の手をぎゅっと握りしめていた。もう怯えている。心なしかうさみみのようなリボンが垂れ下がってきている。なぜ電気が勝手についたのか?鍵は?その疑問が浮かびながらも、彼女達は中へと進む。

 

………

 

「ていとくさんからここのでんきをふっきゅうさせてくれだって」

「りょーかい。さくっとやっちゃおー」

 

宿舎の配電盤を守衛室にて復旧させようと妖精さんが実は皐月達がドアを開けた時に入り込んでいたのだ。事前に見取図を記憶していた妖精さんが一目散に向かったのだ。あまりの緊張に皐月達は妖精さんを見落としていたのだ。工事帽にツナギ、スパナになぜかトンカチ。明かりは妖精さんがぺカーッと輝くことで確保。

 

「とんてんかんとんてんかん。はいせん、あーす、いじょうなーし」

「りょーかい。すいっちいじょうなーし。でんげんおーん」

 

バツン!と言う音と共に非常灯の明かりが灯る。守衛室はスイッチで全ての明かりが灯る。このままで問題はない。

 

「でんき、もんだいなーし!なんでもここにはおたからがねむっているとか?」

「おー、それはおもしろそうです。さつきさんたちのおてつだいをしてみましょー」

 

「わー」

「うおー」

 

そういうと2人の妖精さんは守衛室をまた飛び回り、2階の電力の確認などを始めるのである。

 

………

 

廊下は切れかけの蛍光灯がチカチカと明滅を繰り返す。自分たちの足音だけが響き渡る。怖い…。

 

「お、おばけなんてないさ!おばけなんてうっそさ!!」

 

耐えきれず皐月は自分に言い聞かせるかのように歌い出した。

 

「皐月、ダメだよ!おばけがほんとに来て連れてかれちゃうよ!」

「だ、だってぇ…」

 

「せ、せやで。そんなんおばけに来てくださいって言うてるもんやないか…」

 

だからなんで任せておけと言っていた龍驤が怯えているのか……。時雨は自分がなんとかしなければと思う。

 

「僕が先頭を行こう。何かあったらすぐ僕を置いて逃げるんだ。たぶん、もうすぐだろうしね」

「う、うう、時雨ぇ…」

 

そう言っていると電気がパツン!と消えた。

 

「ひっ!?で、電気!電気!」

「あわわわわ、おばけや!おばけは光を嫌うよるで!」

 

時雨以外がその場でおろおろし始める。とは言えまだ日も高いので真っ暗ではない。

 

「大丈夫。夜じゃないから、まだ明るいよ。さあ行こう」

 

ゆっくりと歩き出した。その時雨の物怖じしない強さに感動した。

 

「時雨ちゃんすごぉい。怖くないの?」

「真っ暗だと怖いけど、まだ明るいからね」

 

そう思っていたのだが…。

 

「ね、ねえ!窓にシャッターが降りてきてるよ!?」

「な、何や何や!?なんでやねん!うちら何もしてへんで!?」

 

バシャンと全ての窓にシャッターが降り、陽の光も射さなくなり、薄暗い蛍光灯の灯りだけが頼りになる。いよいよ、時雨も少し恐怖が増してきた。一体、なぜ?皐月や龍驤さんが言うように、幽霊か何かが…いる?僕たちを食べようとしている?

 

「と、とにかく…外へ出れないのなら進むしかないね。行くよ」

「おう…おう…島風たちどうなっちゃうの…」

 

もう半泣きの島風にキョロキョロと挙動がおかしい龍驤。緊張でガチガチの皐月。

 

「宝物、見つかるかなぁ。えへへ、なんだか本当に冒険してる感じだね〜」

 

動じていない文月。マイペースなのか、強がりなのかはわからないが、自分以外の誰かがまだ冷静でいてくれるならありがたい。文月を頼りにとりあえず復活した電気の灯りを頼りに守衛室を目指す。

 

……

 

守衛室を出る前に妖精さんたちが何かをみつけた。どうぞ押してくださいと言わんばかりに光るボタン。押してくださいと言われたら押すしかないじゃないか。ああ、もう我慢できなぁい!

 

「ぽちっとな」

 

2人がかりで押したスイッチ。するとガシャンガシャンとどこかで音はするが、特に何かが降ってきたりなどはない。

 

「ちっ、おほしさまやきらきらがふってきたりはないぜ」

「でもぶらざー。ここはだれもはいったことがないんでしょ?だったら…」

 

「「おたからがざくざくだ!!」」

 

ぱしんと手を叩き合い、何だか悪い顔をしている妖精さんたち。未開の地。こうしたギミック。たくさんの部屋。そりゃお宝が山のようにあるに違いない!もうわくわくが止まらない。スイッチはもうそのままに、持てる限りの鍵を持って部屋を飛び出ようとする。

 

「へいぶらざー。おたからをねらってしぐれさんたちがきたぞ」

「おーけーあみーご。かぎをもってさっさとずらかろうぜ」

 

「いえあ!ちゃおちゃおー!」

 

すたこらさっさと守衛室を飛び出す妖精さんたち。悪気はないのだ…ただこの子達も探究心が抑えられないのだ…。ぶらざー?しすたーじゃないのかって?こまけぇことはいいんだよ、がめんのまえのぶらざーしすたー。

 

………

 

半開きになった守衛室の扉を時雨が開く。中はわずかに火災サイレンの赤い光が射すだけで、暗い。皐月が懐中電灯を差し出してくれたので時雨が周囲を照らす。乗り気でなかったくせに時雨も少しずつ探検にのめり込んできている。スイッチを見つけ、真っ暗な守衛室はようやく明かりが灯った。ふう、と一息。殺風景なグレーのデスク。汚い埃の積もったパイプ椅子。緑の発光ダイオードが光る謎のスイッチ。

 

「ここにお部屋の鍵があるはずだよぉ。探そ〜!」

 

立て付けの悪いデスクの引き出し。何もない。大きな音を出したくないが、ギギギ!ガタンガタン!と大きな音が出る。宿舎見取図などはない。警備員の日誌があるが、汚い字で異常なしとしか書かれていない。異常ありまくりだったじゃないか、と抗議したいがもうその人間たちは全員いない。それはそれでいい。

 

「205号室の向井が部屋に何かを持ち帰った。エンジンを象ったオブジェのようだ。あの汚い提督のおっさんに見つかったら大目玉になると言うのによくやるものだ。まあ、自分には関係ない」

 

警備員の日誌にはこう書かれている。205号室が時雨は気になった。後もミミズが這ったような字で何か書いてあるが読めないのが多い。日誌というか、日記じゃないか、と呆れた。

 

「今日向井と井上と吉村とでポーカーをやった。吉村のやつ、やたらとツイてやがった。きっとイカサマに違いねえ。俺たちを馬鹿にしやがって」

 

当時の鎮守府がいかにダメな人間たちで構成されていたかがわかる。明石さんと妖精さんで十分だ。

 

「ど、どうや…時雨…?なんて書いてあるん?」

「心配ないよ。この本を読んだらお前たちは死ぬとかも書いていない。2階へ行ってみよう。何かあるかもしれないよ」

 

「ちょっと待って〜。せっかくだから1階も調べようよ〜。鍵見つけたよ?」

 

チャリっと鍵を見せる。鍵は「103号室」と「106号室」。2階は「201号室」だけ手に入ったようだ。目当ての「205号室」はないらしい。

 

「変だね。無人なら、鍵は全部揃っててもおかしくないと思うんだけど。なんでないんだろう…」

「だ、誰かが持ち歩いてるとか?」

 

「ふぇえ!?だ、誰が持ち歩いてるの…?」

「……わからない。もしかして、誰か…僕たち以外に…いる?」

 

その瞬間龍驤と島風はこの世の終わりのような顔をしだした。皐月は一瞬驚いたが、首をブンブン振って時雨を強く見る。

 

「ボク怖くないよ!おもしろそうじゃん!ボクは行く!」

「いや、どうせ出られへんのやろ…」

 

観念して腹をくくる。島風ももう覚悟を決めるしかなかった。文月はもうワクワクが止まらない感じでぴょんぴょん跳ねていた。

 

「よぉし、じゃあ1階から調査開始ぃ〜!」

「鍵がない部屋も入れないか確かめてみよう。出る方法も考えないとね。ほら、スイッチを押しても反応がないし」

 

ボタンを押すと一瞬窓のシャッターが一斉に大きな音を立てて動き出したように見えたがピクリとも動かない。壊れている…。入り口の鍵も開かない。非常口も探したい。日誌の部屋も探したい。文月を見て頷いた。

 

「よし、じゃあ行ってみよう。僕が先頭を行こう」

「待って!隊長が後ろでビクビクしてられないね!ボクが前を歩くよ!文月、鍵貸して!」

 

小さな体に大きな勇気。皐月は意を決して前を歩く。階段はこれまたシャッターが降りている。鍵を刺す場所があるが鍵はない。守衛室にあったのは部屋の鍵だけだ。どこかにあるのか?冷たい風が吹き下す2階を見上げていると…。

 

ガチャ…ギイィィ…と2階から聞こえた。島風は口を押さえて泣きそうである。龍驤は「ぴっ」と変な声を出して硬直。

 

「へ、へへへ。怖くないぞ…ボクは怖くなんか…ないぞぉ…」

「誰かいるのかなぁ?おばけさんだったら会ってみたいよ〜」

 

「けど上がれないね。まずは予定通り、1階から行こう」

 

「うち、ついてくるんやなかった……」

「おうおう…大丈夫かなぁ…」

 

意気揚々と進む時雨、皐月、文月。泣きそうになりなりながら進む龍驤と島風。彼女たちの探検はまだ始まったばかりなのだが、はてさて、どうなることやら。

 

………

 

「きいたかいあみーご。こわくないだってさ。どうおもう?」

「ふふふ、これはさつきさんたちからのちょうせんとみた。やることはひとつ」

 

「おういえ。さすがだぜべいべー。やってやりましょう」

 

2階を漁ろうとしていた妖精さんたちだったが、皐月の怖くないと言う言葉を聞いていたずら心が燃え上がった妖精さんたち。ならば…

 

なくまでおどかそう ようせいさん

 

と言うことでとっても悪い顔をしている妖精さんたちが、皐月たちを泣くまで徹底的に怖くさせてやろう。と言う計画を思いついた。

 

「ふふふ、いこうきょうだい。たのしもう」

「おーけーあみーご。てっていてきにいこう」

 

シャッターの網をすり抜け、皐月たちに見つからないように後を追う。

 

こうして「第二十二駆逐探検隊」vs「横須賀鎮守府の妖精さん」の宿舎での熱い戦い(?)のゴングが鳴り響いたのであった。はたして、皐月たち探検隊は無事にこの「開かずの間」の宿舎から脱出できるのか?勇気、友情試される!謎を解け!こーどなずのーせん(なぜか変換できない)が繰り広げられる!…かも?

 

続くゥ!




次回に続きます。

このお話も次回もホラー要素は一切ありません。皆さんは頭をからっぽにして「世に文月のあらんことを」と念じつつ、「フミィフミィ」と呟きながらゆるーい気持ちでお読みください。

それでは、また。

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