提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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前回の続きになります。今回もゆるゆるとした気持ちでお読みください。


第九十六話

103号室の鍵を使い、中へと入った皐月たち。龍驤と時雨が外で様子を見る。島風はもう怯えて皐月にくっつき虫。部屋は主を待つかのように、タンスにはシャツやパジャマなどがそのまま。ベッドもほったらかし。片付けなどは何一つされていない。埃っぽいせいか鼻がムズムズする。

 

「何もないなぁ…」

「うーん何もないねぇ…」

 

外へ出る手がかりは何もない。2階へ上がる手がかりもない。うーん、と小さく唸る皐月。このままだと外へ出られない。このままここにずっと閉じ込められ、霰やみんな。大好きな司令官に会えないままボク達は…いや、弱気になってはいけないのだ。ボクは隊長なんだ。隊長が弱気になってどうするんだ!まだ探検は始まったばかりだ。

 

「時雨、どないしたんや…?」

「いえ、誰かがわざとシャッターを下ろしたり、何もなさそうな部屋だけを選んで鍵を置いていったりしているんじゃないかなと思って…」

 

「な、なんやて?」

「おかしいじゃないですか。無人のはずなのに突然電気がついたり、シャッターが閉まったり。どこかで僕たちを監視している誰かがいるような気がして…」

 

龍驤の恐怖度数が跳ね上がる。たしかに自分たちが入ってきてからいろいろと起動したりしている。誰かがどこかで自分たちを見ていて閉じ込めたと言うのは合点がいく。何の意図が?

耳をすませばゴソゴソと何かが聞こえるような錯覚。気のせい気のせい…。

 

「何もないね」

「うん。次に行ってみよ?次は106号室だよね〜」

 

ベッドの下も探してみたが何もない。時間はあまりない。早々に探索を打ち切って次の鍵の部屋、106号室へ向かう。

106号室の前に立つと何かゴソゴソと中から音がする!?もしかして、おばけ!?泥棒!?鍵も刺さずにゆっくりドアノブを回すと……開いた…。皐月と文月は「うん」とうなずくと勢いよくドアを開け…

 

「「わああああああああ!!!ああああぁぁぁ………」」

 

大声をあげて部屋へと乗り込んだ。何もいないと分かって、少しずつ声を小さくする。

 

「アホォ!大声あげたら誰が来るかわからへんやろ!?」

「おう!おう!」

 

「だってぇ、泥棒さんだったら大声をあげたらびっくりするかなぁって」

「おばけだってビックリして逃げちゃうよね!」

 

はぁ…と頭を抱えた時雨。こういう時、大胆というか、命知らずというか…。鍵が開いていた。前の主がかけたつもりでかけ忘れたのか?考え込もうとしたが、もうすでにゴソゴソと部屋を探し出す皐月達に気が散ってしまう。

シャツやツナギなどが入っているタンスを調べていた皐月が何かを見つけた。

 

「ねえ、この数字が書かれた紙、何だろ?」

「皐月ちゃん、どうしたのぉ?」

 

小さな雑に破れた紙に4桁の数字が書かれている。数字は「4649」とある。はて…と考える龍驤。

 

「何やこの数字。暗号か?それとも、なんかの暗証番号か?」

「と言うことは、この部屋に何かあるかもしれないね。ちょっと探してみよう」

 

「よーし、文月!」

「うん!」

 

ガタガタとタンスを全部開けてポイポイと中身を放り出していく。しかし、タンスには男物のシャツやパンツ、ツナギ、帽子…。

 

「ない!」

「なぁい!」

 

あれぇ?おかしいなぁ、と言う2人。すると皐月はベッドの下へ。

 

「お、おい皐月…」

「タンスにないならきっとここだよ!ボクならここだね!うわっぷ!ぺっぺっ!蜘蛛の巣だぁ…もー!」

 

怒りながらもベッドの下を漁る。一方で文月は靴を脱いでベッドに上がり、ベッドをうんしょ、うんしょと踏みだす。

 

「文月、何してるの…?」

「もしかしたら、ベッドのどこかに隠してないかなぁって。マンガで読んだことあるんだぁ。時雨ちゃぁん、そこの机も見てみて〜」

 

「あ、うん」

 

最初は大丈夫かと思ったがどうやら思ったより頼りになる…のか?机の引き出しを開ける。一つは鍵がかかっている。

 

「鍵がかかってる…」

「え〜。何だかあやしいよぉ、皐月くぅん!」

 

「はーい文月先生!何か見つけたよ!」

 

頭に蜘蛛の巣をくっつけながら箱を引っ張り出してきた。箱に鍵穴はない。木製で一見何の変哲も無い模様が美しい木箱。どこをどう見ても何も無いようだが箱は開くことを拒んでいる。中はカタカタと小さくだが何かが入っている。

 

「うーん…何だろう、これ…」

「開かないねぇ…」

 

「ん?待ち、これ知ってるで!秘密箱や。妹の磯風がこう言うの好きやねん!貸してみ!」

 

皐月から箱を受け取ると「いーち、にーい、あ、ちゃうこっちか」とブツブツと言いながら箱を動かしていく。不思議な作りだ。やがて…

 

「ほれきた!開いたで!なんやちっこい鍵やな。せや、これか!」

 

かちゃ、と机から音がして、机の引き出しが開いた!

 

「わぁ、龍驤さんすごいね!」

「お姉ちゃん、すごい!」

 

「へっへーん!うちかて役立たずで終わるかいな!また箱かいな!これで、さっきの…よっしゃ!」

「おお〜!すごぉい!」

 

いやぁ、と照れる龍驤。箱の中にはまた鍵。鍵は部屋の鍵とは違う鍵だ。シャッターと書かれている。どうやら2階へ続く鍵のようだ。これなら探索は一気にはかどる!

 

……

 

「みたかいあみーご。ああしてあちこちになにかかくされているっぽい」

「きみはゆうだちさんかい?きょうだい。おーけー。とられるまえにとれだよぶらざー。おたからたとは…」

 

「「わたしたちのもの!!」」

 

はっはっはっは!と高らかに笑う声。思わずテンションが上がってしまって廊下に声が響いてしまう。思わず2人でお互いの口を手でおさえ黙る。ニヤリ…と怪しげな笑みを浮かべて105と書かれた部屋を出る。ちゃりーん!と鍵を落としたことも気づかないまま。

 

………

 

静かな空間に響く、明らかな笑い声。その声に龍驤は硬直し、島風はベッドの下に潜り込む。

 

「い、今のは…」

「おばけさん、かなぁ?」

 

「あわ、あわわわわ。うちらをやっぱり閉じ込めた誰かがおるんや……」

 

全員に緊張が走る。笑い声。そして…チャリンと言う何か金属が床に落ちる音。誰かが、どこかの部屋にいる…!音を立てないようにドアの鍵をゆっくりかける。

 

「静かに…少しここで待とう。僕たちを探して部屋から出てくるかもしれない」

 

島風はベッドの下に潜り込んで口を押さえて震えて恐怖に支配されている。龍驤はおろおろしているし、動けそうにない。ドアをゆっくり少しだけ開けて外を見る。先程歩いてきた廊下に蛍光灯で照らされた光る何かを発見する。取りに行きたいが誰かがいるなら…危険が高い。もしかしてここで隠れて生活をしていたのか?前の提督の繋がりがある人間ならまた昔みたいに…いや、提督がいるならそんなことはない。けど、捕まってしまって提督に何か迷惑をかけるのも…。何とか取りに行きたい。

 

「皐月ちゃぁん……文月ちゃぁん…島風ちゃぁん…どこぉ〜…」

 

5人に緊張が走った。自分たちを呼ぶ声。時雨は慌てて、でも静かにドアを閉める。時雨は静かに…と言うレクチャーをしつつ、ドアに耳をあてて外の様子を音だけで頼る。カツン…カツン…。足音だ。笑い声の主か?なぜ皐月達の名前を知っているのか?やはりどこかで見られている?自分たちを探している!!

やはり、前の提督の繋がりで、僕たちを捕らえ、またどこかへ逃げようとしているんだ!息がつまる。やがて足音が近づき……。

 

ガチャガチャ…ガチャ!

 

「ここから声がしたはずだけど…」

 

ガチャガチャ!

 

「皐月ちゃんたち、いる?いるなら出てきてよー。出てきてくださぁい」

 

バレた!?いや、まだバレていない!しまった、さっきふつうに箱を開ける際や開けた後に声を出してしまったから…。皐月と文月はドアを全力で押さえている。鍵はかけているが、何かで突破されても困る。いい動きだ。

 

「いないか…戻ろう」

 

またカツカツと足音を響かせ、最後には出入り口の音だろう、重く気味の悪いギイイイイイと大きな音を立てて出ていった…と思う。

 

………

 

うう、どうして阿武隈が開かずの間に行かなきゃいけないんですかぁ…しかも1人でだなんてぇ…

 

なかなか戻ってこない皐月達を心配に思った提督の指示で、たまたま提督の顔を見るために執務室へやってきた阿武隈に見てきてほしいと頼み込まれ、渋々提督の指示なら…と来たわけだ。でも1人は怖いので誰かについてきてほしいなぁ、と思ったら摩耶と最上と古鷹は前日の鍛錬がハードすぎてダウン。ならばとお姉ちゃんに頼もうと思ったら…

 

「別にそんな怯えるほどでもないでしょ?」

「阿武隈ちゃん、頑張って!」

 

「お姉ちゃん達、もしかして皐月ちゃん達の話を聞いてて怖くなったんじゃ…」

 

開かずの間にはおばけがいて、見つかったら最後。食べられてしまうとか、2度と鎮守府に帰ってこれず、神隠しにあうなんてずっと言っていたから…。

 

「な、何?五十鈴がそんなところを怖がるとでも?怖くないわ?ただ、今日はちょっと手が離せないのよ!」

「う、うん。そうなの、ごめんね…」

 

紅茶片手に五十鈴お姉ちゃんの持ってる小説「甘い夏休み」と言う許嫁同士の男の子と女の子がいがみ合いながらもいっしょに生活して最後にはラブラブになる小説を読んでるだけじゃないか…。しかもそれ、もう20回くらい読んでない?名取お姉ちゃんも魔王に囚われたお姫様を妖精と女神から受け取った剣で戦う勇者が助けに行く話だ。最後の勇者とお姫様がキスをしている挿絵を見てはベッドでゴロゴロ身体中真っ赤にして転がってるのを数回見ている。

 

「な、何よその顔は!怖くはないけど、忙しいの!1人で行って来なさい!お姉ちゃん命令よ!」

「阿武隈ちゃんごめんね!!」

 

……こりゃ1人で行くしかない。もう間宮さんのきなこおはぎわけてあげないんだから…。

 

そんなわけで1人で入った次第だ。入ると同時に龍驤の声が聞こえたような気がしたので歩きながら皐月達の名前を呼ぶ。返事はない。

 

「ここから声がしたはずだけどぉ…」

 

ガチャガチャやってもドアは鍵がかかっていて開かない。困った。ここではないようだ。106号室を離れ、守衛室を見ても誰もいないし、2階へのシャッターは閉まっているし、ドアは鍵がかかっている部屋ばかりだし、もう出て行ってどこかで遊んでるのかも?外を探してみようと思って、外へ出る。鍵の調子が悪いのかものすごく動きが固いが何とか回ったので出れた。

 

「はぁ、もぉ〜!髪の毛がほこりっぽい〜!秘密基地で案外遊んでるのかも…?どこにあるか知らないけどぉ…んぅぅ!提督におやつを要求しにいっちゃうんだから!」

 

(*`へ´*)こんな顔でプンプンしながら阿武隈は執務室へと向かうのであった。

 

………

 

ドアの向こうにいたのが阿武隈だったとは知らない時雨達。阿武隈の声に似ているな…とも思ったが、もう緊張で「阿武隈の声を真似ただれか」としか頭が回らなかった時雨は、阿武隈が去った後、気配が消えたのを確認すると一目散にドアを開けて入口のドアを開けようとした。が、やはり開かない。ドアはガチャガチャと音を立てるが、鍵はどう力を入れても開かない。小さく舌打ちした。

 

「時雨!何してんねん!戻ってこい!捕まったら深海棲艦にされるで!!」

 

なるべく大きな声を出さないようにして龍驤が時雨を呼び戻す。時雨は何度かドアと龍驤の顔を見つつ部屋に戻る。

 

「アホォ!急に飛び出すなやぁ!こ、怖かったんやからな!」

「ごめんなさい…入り口から出ていったみたいだから、もしかして開いてないかなって…ダメだった…」

 

「でもでも、今はボク達を探してる人はいないってこと?になるんじゃないかな!今のうちに2階へ行ってみようよ!」

「2階にもだれかいるかわかんないけどぉ、もう行くしかないもんねぇ」

 

「い、いやや!うちは行かへんで!し、島風とここにおる!」

「おう…おうおうおう…」

 

島風はもう泣いて何だかオットセイのようになってしまっている。たぶん、ベッドの下から出てこない。手を差し出してもやっぱりおうおう言いながら首を振るだけだ。完全に怯えてしまっている。

 

「んん…なら、ここで鍵をかけて待っていてください。島風も。何かあったら戻ってきます。ノックを2回、1回、2回鳴らしますからそしたら開けてください。僕たちは2階へ行って、非常口がないか探してみます。出られるようなら、戻ってきますね」

 

「待ってえや!うちらを置いて行かんといてえなぁ!」

「おうおうおうおう!!」

 

「でも、ここで待っていてもいつ助けが来るかわからない。僕たちでやらなきゃ」

「そうだよ!きっと大丈夫!ボク達は出られるよ!」

 

「うん!文月達にまかせてまかせて〜」

 

ドンと胸を叩く皐月とにっこり余裕な文月。時雨もキュッと口を結んでいる。ああ、何と度胸のある子達なんだ。時雨はやっぱり死線をくぐってきているから。この絶望感溢れる状況の中で希望を捨てていない。キス島の時のように。

 

「う、うう…すまん…皐月、文月、時雨、頼んだで!」

「おう…みんなぁ…」

 

「じゃあ、行こっか!」

「うん!」

 

そうして3人は部屋を出る。まずは光る何かを拾う。それは「205号室」と書かれた鍵だ。日誌で見かけた部屋番号。さっきの誰かが落としていったのか。罠か?けど、今は探すしかない。罠なら罠で考えよう。ラッキーだ。

 

皐月、文月、時雨の3人でシャッターに立つ。拾ったシャッターの鍵は本当で、大きな音を立てつつ上へと上がっていく。3人は無言で頷き、階段に足をかける。

 

ひきかえせー…ひきかえせー…なにもないぞー

 

「おばけかい?……ボク達を追い返す気かい?かわいいね!もう怖くないぞ!」

「かわいい声だね〜。こわくないもんねっ!」

 

ふんす!と言いながら上っていく2人。本当に怖がっている様子ではなく、何かわくわくしている感じだ。

 

ひきかえ…え、のぼってきた?ひ、ひきかえせ、ひきかえせ。引き返してくださいお願いします。

 

何だか気の抜けるおばけだ。何か焦っている?焦っているのなら本当に何か大切なものがあるに違いない。おばけには悪いが…。

 

ぱぁん!ぱぁん!

 

時雨が手を叩く。階段に大きな音がじーんと響き渡る。その音にひゃっ!?と声が聞こえたような気がする。

 

「時雨、どうしたの?」

「ん、ちょっとおばけを驚かせてやろうと思って」

 

「わぁ〜、時雨ちゃん勇気があるね〜。ねねね、時雨ちゃんも探検隊に入らない?時雨ちゃんならきっとかんぶになれるよぉ〜」

「間違いないね!よーし、時雨はおばけ退治大臣ね!」

 

「え、ええ…まだ入るって言ってないんだけど…」

「やったね文月!島風に続いて時雨も隊員だよ!」

 

「やったね〜!あ、戻ったら秘密基地の暗号を渡すね〜♪」

 

聞いちゃいない…いやでも、皐月達の秘密基地と言うのは気になる。以前どこへいくの?と聞くと秘密基地に行くんだ!ごめんね!「第二十二探検隊に入らなきゃ招待できないんだ!」と走り去りながらどこかへ行ってしまったことがある。ちょっと気になる…。どうしよう、でももう何だか入隊したことになってしまっている。まあ、いいか。もう考えるのもめんどくさい…。こうして時雨の苦労は増えていくのであった。仕方がない。駆逐艦のツッコミ役が少なく、暴走したり超がつくほどの天然ボケだったり、とにかくツッコミがいない。

 

朝潮は響で精一杯。満潮も朝潮や大潮を止めるのに必死。あとは吹雪か自分か…。皐月や文月は割と夕立や響ほどのぶっ飛んだことはしない。テンションが高くなるとお風呂へ飛び込んでみたり、提督に裸のまま髪を乾かしてもらいに行こうとしたりと止めるにも力も強いし本当に商店街で見た大きな犬のようだ。大変である。村雨も玉ねぎを全部むいてしまったり、部屋に全身が見える鏡を持ってきて、提督を悩殺できるポーズを考えてみようと言い出したりと、妹が2人揃って危なっかしい。

いや、時雨自身もテレビを見て中に人がいる!と怖がってみたり、皐月達に交じってアニメを見てがんばれと言ってみたり、ちょっと天然なところがあるのだが。

 

「わかったよ、楽しみにしてる」

 

考えるのはやめた。秘密基地は楽しそうだし。いえーい!と2人バンザイして上りきったことを喜んでいる。気を取り直して2階の探索を続けよう。

 

………

 

「ううん、なにもないなぁ」

「ないならつぎいってみよー」

 

妖精さんは一足お先のシャッターをすり抜け、201号室を探していた。なるべく早めに探索を済ませなくては下にいる皐月や時雨達がシャッターを開けて上がってきてしまう。タンスの中なども妖精さん作おたからセンサーを使って素早くお宝の有無を調べていく。センサーの針は近くにお宝があると音と共にガンガン動く。だがこの部屋はピクリとも動いていない。しょうがない、何もないなら出よう。

 

「あ、まって。かぎはあけておこう」

「なぜだい?」

 

「かぎをあけておけば、そのぶんへやをさがしてくれる。そうすればわたしたちがべつのへやをさがすのにじかんかせぎができるだろう」

「さすがだぶらざー。あたまいいな。かえったらこーらでかんぱいだ」

 

そう言ってはしゃいでいると大きな音が響き渡る。こっそり覗き込むとシャッターが上がり始めている。なんと、もう来てしまったのか。

 

「おいおいおいおいあみーご、しゃったーがあけられてしまった」

「なんてこったい。おちおちたからさがしができなくなってしまうじゃあないか」

 

シャッターが動く音を聞き、時雨達が上ってきてしまうことに焦りを感じた妖精さん達。このままでは足が速い彼女達の方が先にお宝を見つけ出してしまうじゃないか。そう思った妖精さんは彼女達が怯えていることを知っていたため、何とかして追い払うことを思いついた。

 

ふふふ、おびえるがいい。これがわたしたちのほうほうだ!

 

「ひきかえせー…ひきかえせー…なにもないぞー」

「ひきかえせー…ひきかえせー…なにもないぞー」

 

できる限り低く、怖そうな声で階段に響き渡る声で彼女達を追い返すように言うのだ。何と完璧な作戦。これで怖がっている彼女達は恐れをなして引き返してくれるだろう。

 

「おばけかい?……ボク達を追い返す気かい?かわいいね!もう怖くないぞ!」

「かわいい声だね〜。こわくないもんねっ!」

 

なん…だと…とうろたえる。なぜだ。なぜ怯えて逃げない。むしろ上ってくる。いけない、このままでは2階に進撃されてしまう。

 

「ひきかえ…え、のぼってきた?ひ、ひきかえせ、ひきかえせ。ひきかえしてくださいおねがいします」

 

何でそこで敬語になりお願いしているんだ。そんなことでは上がってきてしまうじゃないか!

 

ぱぁん!ぱぁん!

 

何かの破裂音。とても大きな音が響き渡り、飛び上がる妖精さん達。ちくしょう、やつらはなにかぶきをもっている。これはぶがわるい。

 

「あみーご、てったいだ」

「せんりゃくてきてったい。びーしょうりだ。これでかったとおもうなよ」

 

「さあ、いこうか!ちょっとしたしかけもしかけておいたしね。せいぜいわたしたちがしらべてなにもないへやをくまなくさがすがいいさ」

「わたしはぶらざーのずのうがこわくなってきたよ」

 

ピューっと廊下を飛んでいく妖精さん達。いや、完璧にD敗北だろうに。彼女らは負けん気が強い。まだ負けてはいない。だからB勝利なのだ。一度退いて撃退する方法を考えよう。次は勝つ。勝ってお宝をいただくのはわたしたちなのだ。手短な位置にある「203号室」へと入る。いひひひひ、と言う不敵な笑い声を響かせて。

こうして「第二十二駆逐探検隊」vs「妖精さん」のこうどなずのうせんが始まった。なぜか変換できない。

 

………

 

さて、と2階に来た皐月達。まずはなぜか半開きになっている201号室の前に立つ。

 

「誘われてるね。ふふん、いるなら出てこい!とっ捕まえてやるんだ」

「よぉし、おばけさんに会えるかなぁ?」

 

意を決して突入。でもゆっくりと。ご丁寧に電気までつけっぱなしだ。

 

「電気までつけっぱなしで、ボク達がシャッターを開けたのに大慌てだったみたいだね。ふふ、なら何かあるかも!」

 

タンスも中途半端に開けられ、ゆっくり探し回った形跡はない。服などは2階も同じだ。作業着がほとんど。ここは工廠員の宿舎か。ああ、もう皐月や文月の服は埃やら蜘蛛の巣で汚れまくっている。間宮さんが怒らないだろうか…。そう言う自分もだいぶ埃で汚れているね…。ああ、早くお風呂に入りたいな。そう思いながらベッドの下を覗いたり、襖を開けたりする。

 

「ね〜、これなんだろ〜?」

 

文月が何かを見つけた。タンスを探していた皐月も、時雨も寄ってみる。

 

「どうしたの?何か仕掛けが?」

「これこれ〜。これなにか暗号かなぁ?」

 

机の上には一枚の紙。何か文字が書かれている。

 

かゆい

うま

 

むむむ、どう言う意味だ。わからない。これを解けば何かあるのか?3人は深く考え込むが何一つわからない。時雨はアゴに手をあてて考えるが、何も思い浮かばない。皐月もむむむ…と考えている。文月はにこにこと笑っている。さて、このからくりは…一体。

 

………

 

「ところでさっきのめもはなんだい?しかけでもあるのかい?」

「ないよ。ただのおもいつきさ。じかんかせぎだよ」

 

「さすがだなあみーご。ところで、このめのまえでひかっているこれは…」

「ああ、きっとこいつがここにかくされたおたからさ!」

 

目の前で青く光る何か。これこそが希少なお宝に違いないのだと信じて疑わない。妖精さんは知らないのだ。青色の発光ダイオードを。緑と赤しか知らないのだ。

 

彼女達の戦いはまだ終わらない。もうちょっとだけ続くんじゃ。




思った以上に話が長くなった…次回で確実に終わらせます。皐月達の長い一日。次回、完結。

夏イベももう終わりですね。秋刀魚イベントがすぐ始まるんでしょうか?満潮のジャージ姿がまた拝めるのが待ち遠しいです。

それでは、また。

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