「かゆい…?何がかゆいんだろう。うまって何?」
「蚊にでも刺されたのかな?」
違うだろう…そんなのんきなメモではないと思う。うま…うまい…うまい?体がかゆくて…うまい?何を食べているんだろう?
「時雨ちゃん、深く考えすぎだよぉ〜」
「え?でも…」
「えへへ、この紙はたぶん文月達の時間稼ぎがしたいんだよ。あたし達をここで考えさせてぇ、他の部屋に行かせないようにしてるんだよぉ」
……この子、本当に文月なんだろうか?途中で誰かと入れ替わってないか?こんなスラスラと推理をしているだなんて…。
「文月は推理小説を読むのが好きなんだよ。探検の時にちょこちょこ難しい問題を仕掛けてくることがあるんだよ。ボク全部負けてるんだー。ボクが仕掛けたなぞなぞもすーぐ解いちゃうからね」
「皐月ちゃんのなぞなぞも結構難しいよ〜。今度お部屋で推理ゲームするぅ?」
「うんうん、楽しみだね!」
「そ、それはいいよ、今度やろう。でも、どうしてこれが時間稼ぎだって?」
「わかったぞ文月!紙の状態だよ!ほら、この部屋ってもうしばらく使ってないんだろ?だったら、こんな綺麗な紙のまま、ここに置きっぱなしなってないよ!埃でモーモーになってるはずなのにここだけ誰かがさっき使ったようにきれいなんだよ!」
な、なんだってー!?と言いたくなるような皐月の名推理に文月はパチパチと拍手する。時雨は目を回していた。すごい、この子達の頭の回転、めちゃくちゃさっきから早い!
「せいか〜い。時雨ちゃんが気にしてるこの星の押さえのほうが気になるから、ここはもうこれだけ持って次にいこ〜」
「え、でも部屋はまだ…」
「こんな時間稼ぎを置いてるくらいだから、何かをさがしてるおばけさんはよっぽどあたし達に動いてほしくないみたいだよぉ」
「鍵は…203号室の鍵があるよ!にひひ、よぉし!そっちがその気なら僕たちだって!!ね、文月、いいの思いついたよ!!」
「え〜?なになに〜?」
ちょうど置きっ放しになっているペンを取り、紙の裏にひらがなを書いていく。あ〜、なるほどぉ!と文月は笑う。できたー!とさらっとなぞなぞを書いたようだ。その紙を持って、202号室は無視して203号室へと向かう。
203号室はタンスなどはなく、冷蔵庫にベッド、机、額縁に入った海に浮かぶ月が美しい絵画。タイトルは月と満天の星。目につくのはやっぱり絵画だ。皐月はひらがながいっぱい書かれた紙を机に置く。文月はうーん、と考える。
「絵は外れなそうだね〜」
「星のことが書いてあるけど星がないじゃん。ね、時雨、さっきのお星様の置物見せて」
ポケットにしまっていた星の置物を手渡す。表も裏も調べる。裏面に「=」の形をした金属部分がある。軽く押すと飛び出た。絵の裏の隙間に同じく「=」のくぼみがある。
「へへ、らくしょー!これをはめるとどうなるかな?」
はめこむ。数秒後、カチン!と音がして絵が動き出す。すると…絵の一部が動き、星のクレストが顔を出す。反対の壁の一部がズズズ…と動き…。中から何かが現れた。
「こ、これは…?」
「わぁ、楽しいねここ!謎解きがいっぱいだよ!」
中にあったものはカードだ。これだけ大層にしまわれていると言うことは重要な何かだ。それにしても誰がこんな大掛かりな…ああ、妖精さんならできなくもないか…。カードをポケットにしまったところで、バツン!と電気が消えた。
………
「ぬぬぬぬぬ!!!!」
青く光るお宝。これを持ち帰れば自分たちはヒーローだ。何としても持って帰らなくてはいけない。いけないのだが、がっちりと埋まっていて抜けない。顔を真っ赤にして全力で引っこ抜こうとしてもビクともしないのだ。ただの発光ダイオードなのだが…。
「ぬぬぬ、おたからをまえにもどかしい」
「よしよし、おちつこう。わたしたちといえばこんなものをばらすことくらいたやすい。そうだろ?」
「おお、そうだね。こんなねじくらいかんたんだね」
どこから取り出したのかわからないドライバーを取り出し、サササッとバラしていく。ボロッとすぐ外れる。艤装をバラすより簡単なものだ。むき出しになった青いお宝。これをまた工具で切り落とす。ついでにこの基盤ももらってしまえ。よくわからない配線を切る。
バツン!!
バチっと嫌な音がして部屋の明かりが消えた。しばらくして、非常灯がつき、わずかな明かりになるが、かろうじて明るくなった。
「お、おや、やりすぎたかね…」
「それはそれでまあいたしかたなし。みてよぶらざー!このあおくかがやくおたからを!」
「おお!さっそくもちかえろう。これがあおきひかりをとりもどせばいうことなし!」
「まださつきさんたちがいる。まだおたからがかくされているにちがいない」
「よし。さつきさんたちがいったあとをちょうさだ」
「おーけー!」
お宝一個回収成功!まだまだお宝は眠っている。これを探さなくては妖精さんの名が廃る(?)。ようせいさんがいた部屋は何やら複雑な機械がたくさん。ドアには「関係者以外立ち入り禁止。解放厳禁」と書かれている部屋。妖精さんにはこんな難しい字を読める子はほぼいない。お宝センサーが働いたから入った。おう、なにかもんくはあるか?
非常灯になっても気にしない妖精さんは次の部屋へと向かうのだ。今度はもっといいお宝を探して。
/???
「失礼いたします」
感情もなく、瞳に光もない艦娘が入室してきた。
「何か?」
「横須賀鎮守府からのデータ送信が止まりました」
ピタリと男の手が止まる。苛立たしげにペンを置くと睨むように艦娘を見る。艦娘は眉ひとつ動かさない。彼女は感情を抜き取られた忠実な人形だ。何をされても…顔を歪めることも喜ぶことも、笑うこともしない。ただただ命令をこなすだけのモノ。
「………なぜだ。あれはそう簡単に外したり壊せるものではないはず。視察にでも行きたいところですが、無理ですね…ここまでか…」
独り言。普通の艦娘ならばここで返答が返ってくるものだが、彼女は手を前で重ねて指示を待つだけだ。
「下がりなさい。もうあなたに用はありません」
「かしこまりました」
幽霊のようにスゥッと退出する艦娘。無音の男しかいない執務室。
「良からぬ動きを見せれば叩き潰せる手筈を整えていたのですがね…しかし、全てを壊されるとは…ね。安久野ならやりかねないですか。ちょろまかされましたかね。盗聴、隠し撮り。全てダメか。艦娘との共存…共に生きる。仲間、家族。つまらない。そのようなこと、つまらないですねぇ……!」
高級そうなペンをへし折る。
「三条…玲司。邪魔ですねぇ…実に…」
男は忌々しげに呟きながら、新しいペンを取り出して書類を進めていく。
鎮守府にいないのでわからないだろうが、妖精さんの技量が段違いなのだ。何せ横須賀鎮守府には「契の女王」明石に鍛えられた生え抜きの妖精さんがいるのだ。複雑な整備を傍で手伝ってきた妖精さんがいる。彼女らには人間の作った機械など、艤装の解体組み立てに比べれば簡単すぎた。それだけのことなのだが、この男にはわかるはずがない。
提督と艦娘、妖精さんが強い絆で結びついた時、思いもよらない何かの力が働くのだ。
/横須賀鎮守府 宿舎202号室
突然電気が消えたがすぐについた。一体なんだったんだろうか。不安定だ。完全に電源が壊れる前に脱出したい。
「ここにもう用はないね。さあ行こう」
「うん!あ、ちょっと待って〜。これを置いて、よっし!」
「秘密の暗号だね!ふふふ、きっと解けないよ。頑張って解いてほしいなぁ」
さて、と廊下に出て考える。脱出するなら非常口が手っ取り早いかと時雨は考える。しかし、玄関が開かないのならここもダメではないだろうか…。龍驤さん達も呼ばないといけないけど、徘徊者がいる。見つかればまた昔のように地獄を見る場所へ連れていかれて帰ってこれないかもしれない。やっぱり残してきたのは失敗だったかな…。でも島風も怯えて動けそうもなかったし。
さて…。今はお宝よりももう脱出を考えよう。非常口は…開いた!
「開いた!龍驤さんと島風を呼んで脱出しよう!」
「ええ?でもお宝は…?」
「お宝よりも今は逃げよう。まずは逃げて提督に報告しよう。そのあと徘徊者が駆除できたら考えよう」
「うんうん。お宝は逃げないもんね。よぉし、じゃあさっそく時雨ちゃんを秘密基地にお誘いして作戦会議しようよ〜。お姉ちゃんもいるしね」
「お姉ちゃん?」
「うん!紹介するね〜」
秘密基地のお姉さん。誰だろう。そんなことを楽しんでやりそうなのは明石さんだろうか。もうそこに行くのは確定してしまっているようなので諦めて行こう。
龍驤達はもう腰を抜かして涙と鼻水で顔はグチャグチャだし、島風はおうおうしか言わないし…。非常口から脱出し、龍驤と島風はもう無理ということでリタイア。皐月、文月、そして時雨だけでこの開かずの間を徹底的に攻略する作戦を立てようと考えた。皐月に案内され、母港を越え、海沿いを歩く。驚いたことに母港を通り過ぎてしばらく、岩肌にぽっかりと空いた横穴。こんな所、じっくり散策しても見つからないだろう。母港からでは見えない。まさに秘密基地にうってつけだ。
「ここだよ!電気も妖精さんにお願いしてつけてもらったんだ!さ、さ、時雨隊員、どうぞー!」
「どうぞぉ〜♪」
ありがとうと言いつつ、中に入り皐月達に案内を受ける。中はややじめっとしていているが、風は冷たいものが奥から吹き付ける。潮の匂いがするのは海とつながっているんだろうか。裸電球が点々と続き、いよいよ大きな空間が広がっていそうな場所に出た。
「お姉ちゃん!皐月だよ!来たよ!」
「お姉ちゃ〜ん。文月だよぉ〜」
お姉ちゃんと言う人を呼ぶ。さて、誰が出るのだろう…。
「あら、いらっしゃい…来てくれて嬉しいわ…」
「!?!!!??!?」
奥から現れたその女性は…地面につこうかと言う美しい真っ黒な髪。すくみあがるような真っ赤な瞳。額から生える…2本の角。青白い肌。それは…それは……。
「深…海棲艦……!?」
腰が抜けた。それは人の形をした深海棲艦。人の形をした深海棲艦は強い力を持ち、攻撃力も半端ではない。戦艦ル級や空母ヲ級など足元にも及ばない力と、知識、知能を持っている。そんな、そんな深海棲艦が鎮守府の敷地内に…いる。文月と皐月は一体なんてものを匿っているんだ。こんなのが見つかればただ事では済まない。
「時雨ちゃん、落ち着いて〜」
「お、落ち、落ち着いてって…深海棲艦じゃないか!こ、殺さ…殺される!!」
黒髪の深海棲艦は長い髪をかきあげ、夕立とは違う赤黒い瞳で時雨を見る。さっきの徘徊者はこの深海棲艦で皐月や文月は操られて自分たちを深海棲艦にしようと?
「ふふ、落ち着いて…と言っても無理かしらね。サツキもフミヅキも最初はそうだったわね。私はそう。深海棲艦。深海棲艦の『戦艦棲姫』よ。フミヅキにもサツキにも何かしたわけではないわ。あなた。お名前は?」
カチカチと歯を鳴らして震える時雨にしゃがみ込んで笑いかけている。その目は殺意などはなく、何か慈しむような目で自分を見ていた。殺されるわけではないとわかったからには、少しずつ震えも収まり落ち着いてきた。
「お名前は?」
にっこり笑ってもう一度名前を聞きたいと聞いてきた。ふう…と一息ついてもう一度息を大きく決めて名乗る。
「僕は時雨…白露型の2番艦…です」
「そう。シグレね…よろしくお願いするわ。それとも、私のことをあなたの提督に報告するかしら?」
「え……」
「私は深海棲艦。こうして普通に話してもいるし、あなたやサツキ達を襲わないけど深海棲艦だもの。深海棲艦は艦娘。そして人類の敵なんでしょう?」
「だ、だめだよ時雨!お姉ちゃんは悪い人じゃないよ!ボク達にとっても優しくしてくれるんだ!」
「お願い時雨ちゃん。お姉ちゃんを司令官に言わないで…」
皐月と文月が戦艦棲姫と名乗る女性の前に立って時雨に訴えかける。いや、しかし…深海棲艦となるといつここに仲間を…。
「その心配もないわね…私もそうだし。どこか沖のどこかに隠れている仲間の一隻も艤装が装備できないから」
「えっ?そ、そうなのかい?」
「そうよ。いいことを教えてあげるわ。深海棲艦の中にもね、争いを嫌う者がいるのよ。果てしない怨みと憎しみを糧に全てを殺し、破壊する深海棲艦。その中でも、怨みや戦うことを忘れ、静かに暮らしていたいと望む者もいる。それだけは覚えていてちょうだい」
はあ…と気の抜けた言葉しか言えない時雨。少し整理しよう。今目の前にいるこの人は深海棲艦。それも戦艦棲姫と言うとびきり強い深海棲艦で。でも自分たちを殺す気はなく、誰とも争う気はない。彼女は静かにここで暮らしたい。それだけが望みなのだと言う。仲間もいるらしいが、どんな人かはわからない。
「けれど、世界は深海棲艦は滅びをもたらす悪で。必ず始末しなければならない。そう唱えている。私も見つかれば殺されるしかない。サツキ達が提督にも言わず、私を匿ってくれていると言うのは申し訳ないと思っている。でも、ありがたいと言う感情の方が強いわ」
「最初はちょっと怖かったよ。でも、ボク達に笑いかけてくれたり、優しく話しかけてくれたりしてね。お姉ちゃんがいい人だったから…司令官に悪いことはしてるなって思ってる…でも、こんな優しいお姉ちゃんを…その」
「殺しなさいって言われてもあたしはできないよ。司令官は言わないって信じてるけど。でも、やっぱりみんなに見つかっちゃうと…」
「ふふ、その覚悟はいつでもできているわ。ありがとう。優しい2人…」
2人を抱きしめ、頭を優しく撫でる。えへへーと嬉しそうな2人。これを見ていると…。
「わかった。みんなには内緒にしよう。僕も秘密にする。皐月と、文月と、僕の秘密」
「ありがとう時雨!やったよお姉ちゃん!」
「ありがとう、シグレ。あなた達はみんな、優しくていい子達。提督がいいからかしらね」
「はは…そうかもしれないね」
「提督のことは2人から聞いているわ。とても、いい人のようね」
「……うん。とっても、優しい人だよ」
2人は笑っていた。この人は本当に争う気もないようだ。緊張が解けた。
「ゆっくりして行って…と私が言える立場でもないわね。今日は何かあったのかしら?」
「うん!実はね、開かずの間って言うところに入ってね?」
そうして皐月と文月がなかなかオーバーに開かずの間。宿舎の話をする。戦艦棲姫は微笑みながら時々頷きつつ、皐月達の話を聞いていた。うん、うん。としっかり相槌も打つ。なるほどねぇ…大きく頷いた。
「そうねぇ。それはもう、提督の協力を仰いだ方がいいわねぇ…外部の人間ならサツキ達が危ないし。お化けでも大人は必要よ。艦娘ではダメね。人間の大人が必要よ」
そうアドバイスを出す。なるほど、自分たちで解決できないなら誰かを頼ればいい。そんな簡単なこと。されど気づかないことだ。文月もそっかぁ!と手をポンと叩いていた。提督なら付き合ってくれると思う。お宝はさておき、本当に不審者が住み込んでいたりするなら危険だ。提督に確認してもらえば安心もできる。
「よし!さっそく司令官に聞いてみよう!ありがとうお姉ちゃん!また報告に来るね!」
「あ、皐月、文月、待って!」
「ふふ…元気ね。さあ、シグレだったかしら。あなたも行きなさい」
「ああ、うん…ありがとう。戦艦棲姫…さん」
言いにくいな…と思った。戦艦棲姫はニコリと笑って手を振って見送ってくれる。本当に…こんな深海棲艦もいるんだな。また話がしたいと思う。
「また来るよ」
「……待ってるわ」
そう言った。少し驚いた顔をしたが、すぐにまた笑ってくれた。背を向けて走り出す。皐月が早く早くー!と呼ばれたので急いでもとへ行く。そのまま提督がいる執務室へ。
「お、皐月達。龍驤姉ちゃんや島風がすごい怯えて帰ってきたんだけど、何かあったのか?」
「うん!司令官。あのねあのね?」
身振り手振りで宿舎で起きたことを提督に話す。時々自分が口を挟む。皐月達の話はなかなかに伝わりにくいらしい。阿武隈を行かせたが返事も何もないのでどこかへ行ったのかと思ってすぐ帰ったそうだ。あれは阿武隈さんだったのか…自分もみんなも緊張のあまりおかしかった、と言うことか。
「そうか。不審者だったら危ないな。よし、俺も行こう。何、腕っ節はちょっとはあるよ。それは放っておけないからな」
そう言って立ち上がる提督。よーし!行こう!とやる気満々の皐月と文月。まだまだ、戦艦棲姫さんが言うように元気だね…。とため息をついた。グイグイと提督の手を引っ張りながら宿舎へ向かう。
入り口は単に建てつけが悪いだけで、ちょっとコツを掴んで開ければどうと言うことはなかった。まずそれだけで閉じ込められるという不安は消えた。タネさえわかってしまえば「なんだ……」と言えることだったが、落ち着いていたように感じても、パニックになっていたのか。執務室で見取り図を読んでいたらしく、マスターキーの場所も把握していたらしい提督は、自分たちが言う205号室を開ける。
「…誰もいないな。どこかに隠れている気配も…ないな」
「う、うーん…?」
「とりあえずお宝があるらしい部屋だ。探してとっとと出よう。埃っぽくておかしくなりそうだよ」
皐月がベッドの下。床の異変に気付き、開けると金庫のようなものを見つけた。カードの差し込み口があり、先程拾ったカードを差し込むとポン!と言う音とともに鍵が開く音がし、開けてみた。中には黒光りする細長い金属の塊が出てきたのだ。
「司令官。これは…?」
「なんだろこれ。うーん、明石に見てもらう方がいいかもしれないなぁ。でも、これはきっと艦娘の艤装か、武器か。いいものかもしれないぞ。お宝じゃないか」
「ほんとう?やったー!!やったよ文月!!」
「やったね皐月ちゃん!あたしたち、お宝を見つけたよ〜!!」
手を取り合ってピョンピョンする2人。お宝は本当にあったんだ。よかった。艦娘に何か役立つものなら、きっとうちでなら役に立ってくれるものだろう。
「さ、もう夕方になるからな。今日は帰るぞー」
そう言って玄関へ向かう最中に、202号室からうなり声が聞こえたのだ。全員がドキッとなったが、そこにいたのは。
「ぬぬぬぬ!!!ぜんっぜんわかんない!」
「なんですかこれは…ですが、これをとけばおたからがざくざ…あっあっ、あたまからけむりがでそうです」
「何やってんだ…」
「おお、れいじさん。たすけて。おたからをもくぜんにとてつもないなぞときが…」
「んん?何だ何だ」
提督の横に立ってその紙を見る。これは確か文月が書いたものじゃなかったか?紙にはびっしりとひらがなの「た」と言う文字が書かれている。途中にたに囲まれつつも違う文字が書かれている。最後には「たぬきのてがみ」と書いてある。
「ああ? 何だこれ。たぬきのてがみ?これの答え、はずれじゃないのか?」
「ええ?どうしてそうわかるですか」
「簡単だよ。たぬきのてがみ。つまり「た」を抜いたらいいんだ。た、抜きってな。で、たを抜いてた以外のひらがなを読めばいい。答えは『はずれ』だ」
「は、はずれ…?」
「正解だよぉ。司令官すごいね〜!それは文月が用意したなぞなぞだよ。えへへ、作戦は成功だったね〜」
「そ、そんな…おたからはここには……」
「ないよぉ〜?」
文月の言葉にがくりと崩れ落ちる妖精さん達。何してんだ早く帰るぞと促され、トボトボと飛びながら帰っていく妖精さん。なんだか悪い気もしたけど…まあ、妖精さんも足止めの紙を置いて行ったわけだし…お互い様かな。こうして僕たちの冒険はこれでおしまい。ご飯を食べて、お風呂に入って、楽しかったねとはしゃぐ皐月達だったけど、疲れてすぐ寝てしまった。僕も疲れたな…。そう思ったら皐月達の部屋で皐月の布団に入って寝てしまった。
「……待ってるわ」
戦艦棲姫の声が眠りに落ちる前に脳裏によぎった。
………
「ったく、どうせどこかに売っ払おうとか考えてたんだろうな」
「あはは、そうだろうね。きっとこういう転売も、前の提督も知らないところで横行してたんだろうね」
玲司と明石だけがいる執務室。机の上には小さな鉄の塊。
「私も一回しか見たことがないね。触ったことはない。赤城お姉ちゃんも龍驤お姉ちゃんも知らないもの。一応、私はこれの名前、知ってるけどね」
「ネ式エンジン。ジェットエンジン…か。俺も見るのは初めてだ」
ネ式エンジン。日本初のターボジェットエンジン。このようなものを提督ではなく、1憲兵だか整備員だかがどうやって隠し持っていたのか、今となってはもうわからない。転売目的か、何なのかはわからないが、これを使って艦載機の開発をすれば、きっと戦闘にもうまく使えるだろう。
「明石、期限は問わない。ただ、お前には負担をかけるかもしれないけど、このエンジンを使った艦載機の開発を頼めるか?」
「そう来ると思ってたよ。でも、私もちょっと触ってみたかったんだ。わかった、やってみるね!」
明石は嬉しそうにネ式エンジンを手に工廠へ戻って行った。「徹夜すんなよ!!」と念を押してわかったと言っていたが、こりゃ絶対するな…と苦笑いした。これが開発できれば翔鶴か、瑞鶴か。もしかして祥鳳か。きっと新たな翼を手にして大きく、もっと羽ばたける気がした。開かずの間のお宝の噂。それは本当だったな、と1人で笑った。
そして、またうちの子達が強くなることが楽しみでしょうがない玲司であった。
………
翌日、朝食を済ませた時雨は昨日の皐月達の案内してくれた記憶を頼りに、彼女達の秘密基地へと向かった。
「時雨はもう隊員だから、自由に使ってね。ただ、絶対内緒だからね!」
皐月には念を押されたが約束を違える気は無い。それよりも知りたいことがあった。一体彼女は何故にそこにいるのか?聞いてみたくなったのだ。
「いらっしゃい。来ると思っていたわ。きっと、私のことを聞きたいだろうなって」
秘密基地。そこで美しい墨の滝のような黒髪をたゆらかせ、戦艦棲姫が見惚れるような微笑を浮かべてそこに居た。
意外な結末で終えた探索回、いかがだったでしょうか?本当は2回くらいで終わりたかったのですが、ちょっとグダッてしまいました。反省。
さて次回は、時雨と戦艦棲姫の対話です。なぜここにいるのか?彼女の思惑は何なのかを時雨の主観で明かしていこうかと思います。離島棲鬼にするか、最後まで悩みましたがやっぱり戦艦棲姫が好きなので彼女をチョイス。
いや、イベント中なんかはダイソオオオオオン!!!とか叫んでたりしますけどw
次回もお楽しみに。
それでは、また。