提督はコックだった   作:YuzuremonEP3

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隠れて生活をしている戦艦棲姫。彼女はどうしてここへ流れ着いてきたのか。彼女の波乱な過去を見て見ることにしましょう。彼女も大変な人生(?)を送っています。彼女ものちに幸せになってほしいなぁと考えています。


第九十九話

私はいつ生まれたのかははっきりと覚えていない。ただ、ふと眠りから目を覚ますかのように意識が覚醒すると私は海の上だった。記憶は何もない。ただ、目の前で自らも焼き尽くされるのではないかと言うほどの大きな海に沈みゆく夕陽。それに私は心を奪われ、それまで頭の中で囁きかけていた「全てを壊せ、全ての人間を殺せ」と言う殴りつけてくるような衝動はすっかり消えてしまった。

 

「キレイ……」

 

そう一言呟く。言葉を発せられるのか。そんな発見もあったが、そんなことよりも私は目の前の夕陽の美しさに、今ならわかるけど「心を奪われた」と言う言葉がぴったりだと思った。涙と言うのも、フミヅキに教えられた。夕陽を見て涙を流していた。そうして私は深海棲艦として生まれながら、深海棲艦として生きる意味自体を捨てた。捨ててしまった。

 

行くアテもなく海を彷徨い、深海棲艦が集まる場所へたどり着いた。初めて見る「同胞」の目は、私には恐怖を植え付けた。皆の目は破壊と殺意に駆られ、血走っているか、無機質か。一瞬で私はここにいる者達とは相容れないと思った。けど、私は「戦艦棲姫」と言う名を与えられ、深海棲艦の中でも上位の存在となり、知恵と自我を持つ深海棲艦に姫様と崇められた。

 

「姫様。ドウカ我々深海棲艦ヲオ導キクダサイ」

「姫様!今度ハココヲ滅ボシニ行コウト思イマス。姫様モ破壊ノ限リヲ尽クシマショウ」

 

崇められても、先導を任されても、私にはそんなものは興味がなかった。破壊も殺戮もしたくなんてない。私はただあの美しい夕陽を見ていたいだけなのに…。どうして私をそんな場所へ連れて行くの?やめて。そんなものは見たくない!人の悲鳴も聞きたくない!

私はうずくまり、目を閉じ、耳を塞いで逃げた。そうすると私に向かってくるのは怒りの声だ。戦艦水鬼が怒り狂う。

 

「姫デアリナガラ何モセズニ帰ッテ来ルトハナ…貴様、ソレデモ深海棲艦ノ上ニ立ツ姫カ」

 

静かに怒り狂う。目が狂気と憤怒で睨みつけられただけで人間は生気を奪われそうだった。ホホホホ!と空母棲姫が高笑いを浮かべてやってきた。

 

「戦艦ノ姫ハ随分ト繊細ナヨウネェ。ソンナコトデ生キテイケルノカシラネェ?」

「サア?私ガ生キルモ死ヌモ私ノ勝手デショウ?」

 

「威厳ノナイ姫様?セイゼイ後ロカラ撃タレナイヨウニ気ヲツケルコトネ」

「肝ニ銘ジテオクワ、空母棲姫」

 

「私カラモ言ッテオクガ、無駄ニ燃料ヲ食ワスワケニモイカナイ。アマリ目立ツヨウナラ…ワカッテイルナ?」

 

だったらさっさと追放すればいいのに。何度かこの集まりから出て行こうと思ったが必ず邪魔が入る。崇められることも、戦闘に出ることもしたくない。私は静かに夕陽を眺めて生きていたいだけ。その美しい風景を醜い砲撃の煙や、艦載機の音。人間の悲鳴。血の匂いで染められたり壊されることがたまらなく苦痛だった。

 

ある日、外でじっと海を眺める同胞に出会った。最近生まれたと言う巨大な艤装がとても目立つ子だった。

 

「何カイイモノデモアッタカシラ?」

「ッ!!!???」

 

ビクリと飛び上がるほど驚かせてしまった。恐る恐る振り返る彼女。額のツノのようなものが特徴的な彼女の名は港湾棲姫。彼女もまた、争いを好まないがやはり姫と崇められ、困っている子だった。

 

「戦艦…棲姫サン…」

「オ邪魔ダッタカシラ?」

 

「イエ…タダ…コノ静カナ海ヲ眺メテイタダケ…」

「ソウ…ココノ海ハキレイダモノネェ…」

 

それからしばらく、波の音を聞きながら無言で2人、何をするでもなく碧い海を眺めていた。「戦艦棲姫!」とうるさい戦艦水鬼の声がする。ああ、いい時間だったのにな…と小さく舌打ちした。

 

「呼バレチャッタワァ…ソウダワ。アナタ、夕方マデココニイルナラ…私ニ感想ヲ教エテネ。ココノ夕陽ハキレイダッタカヲ」

「エ…?」

 

あの時の港湾棲姫の顔はかわいかったわね。戦艦水鬼がガミガミうるさくて気が滅入ったんだけど…。

 

「夕陽ハドウダッタ?」

「トッテモ……キレイダッタ…」

 

「フフフ、アナタトハ気ガ合イソウネ…」

「ソウ…ネ」

 

私のたった1人。気の合う仲間。サツキと…シグレが教えてくれた。お友達と言えばいいのかしらね…。そんな子が初めてできた瞬間だった。お互い、争いや戦いを嫌うのは自分だけじゃないんだと安心した。できる限り、私と港湾棲姫と時間を過ごした。戦わない者同士、気が合うのねと空母棲姫にバカにされたりもしたけど。

 

………

 

時が経ち、私を姫と崇める者もほとんどいなくなった。一部のタ級やル級、ヲ級達が私や港湾棲姫の考えに賛同して従うようになった。私たちの扱いは多くの深海棲艦にとって鼻摘まみ者だ。見る目は厳しい。それでも私たちに付き従ってくれる子もいたのは私たちにとって嬉しいものだった。

 

「姫様。マタ空母水鬼ガ街ヲ襲ウト…ソレニ姫様ヲオ連レスルト」

「ソウ…何ヲヤッテモ私ハ人ヲ殺シタイダトカ、ソウイウコトニハナラナイワ。イイワ、行きキマショウ」

 

今度の破壊する街は大きな街。そこで私は貴重な経験をする。破壊の象徴である深海棲艦が敵対する人間の命を救う。あの時の私は無我夢中だった。小さな人間。あの時握りしめてきた力無い人間の手の温もり、忘れられない。

 

「姫様!!大丈夫デスカ!?」

「ハァ…ハァ…エエ…心配イラナイワ…スグ、良クナルワ…」

 

タ級。flagship級でありながら争いを好まない子。よく私に尽くしてくれた。戦艦水鬼の悪口をプンプンしながらいつもボヤいていたわね…。この時も必死に止血したり、肩を貸してくれて住処まで連れ帰ってくれたわね。

 

「フフフ…フフフフフ…」

「姫様?」

 

「深海棲艦トモアロウモノガ…破壊ノ象徴トマデ言ワレタ私ガ人間ヲ救ッタト言ウノハ…ドウカシラ…笑エルワネ…」

「ソンナコト言ッテル場合ジャアリマセン!」

 

「アラァ…怒ラレチャッタァ」

 

ふざけていたけど、本気でタ級に怒られたわねぇ…。あの子は私を一際心酔してたから…死なれたら困ると言うか…生きる意味を失うとまで言われたもの。あの子のおかげで助かったわけだけど、この話は港湾棲姫にも話していない。シグレに話をしたのは何でかしら。後になってシグレやサツキ達の提督だったってわかった時…運命だったのかな。あの時、なんで生き残ったのかって思ってたけど…。

 

………

 

「ウグッ…ゴホッ…ゴバッ……」

 

もう痛みもない。ないけど盛大に青い血を吐いた。青い血は岩場を汚す。その汚れは波が攫っていく。

 

「死ンデハダメ…待ッテ…スグ治スカラ…死ナナイデ…私ヲヒトリニシナイデ」

「港湾…アナタ、ケガハ…?」

 

「私ハイイ!ダメ、ダメ…ヤダ…」

 

本当なら深海棲艦からも人間や艦娘からも疎まれる私は死ねるなら良かったと思った。けど、港湾は死ぬなって言うし、タ級は最期に生きてくれと言った。アイツに心臓を貫かれながら。最後は頭を尻尾のような生き物に食いちぎられた。

 

「ウウ…グフッ!最後ニ…姫様ヲオ守リデキテ…ヨカッタ…姫様、生キテ…ドウカ、生キ」

 

最後まで言い切る前にゾブリ…ゴリゴリと言う嫌な音で遮られ、彼女の頭は無くなった。その時、私の頭は怒りで満たされた。

 

コワセ!殺セ!コワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセコワセ

 

「沈ミナサァイ………!!!!」

「ヒヒッ!ヒヒヒヒヒヒヒ!!!イイゾ!ソレダ!ソレヲ待ッテタ!!戦オウ!殺シ合オウ!!!ミンナ!ミンナコワレチャエ!!」

 

ズシリと背中にのしかかる何か。左右には私の身体より太い腕。たくさんの大きな砲。別の戦艦棲姫で見たことがある。それこそが戦艦棲姫の艤装。艤装は禍々しい橙色に輝く。

 

「ヒャアッハア!!!」

 

すばしっこく動き回るレ級。戦艦とは思えない素早さ。機銃を撃ってきたり、艦載機を飛ばしたり雷撃を繰り出してきたりとめちゃくちゃだ。これが深海棲艦が作り出した傑作か。その瞳は狂気を宿し、同胞も何もない。ただ純粋に殺し合いを楽しみたい。破壊を楽しみたい。ただそれだけだ。こんな狂気の産物を傑作なんて。今の深海棲艦はそこまで人間と艦娘に追い込まれているのか。

私の艤装は凄まじく硬いが、やはりレ級の尻尾の口から出る大きな砲の攻撃は重い。魚雷のダメージも桁が違う。

 

「グゥッ!!」

「ヒヒヒヒ!オソイオソイ!!」

 

「グア!!」

 

砲撃で太い腕が飛ぶ。その痛みは私の腕にも伝わる。自分の腕が失われたような激烈な痛み。続けざまに鋭い爪で首を引き裂かれた。

 

「ゴプッ」

 

青い血が吹き出す。冷静に命の危機を感じ、激痛の走る手で血が少しでも出るのを抑えるために首を押さえる。下を向くと、恐ろしい牙を剥き、狂気の笑みに染まったレ級の顔がある。尻尾が口を開き、大きな砲塔が顔を出す…!

 

腹部の感覚がなくなった。レ級にお返しとこちらも至近距離から砲撃を食らわせてやった。吹き飛ぶ。足から力が抜け、膝をつく。もう立ち上がれない。レ級は吹き飛んだだけで傷はあまりない。多少服が焦げ、血を流しているが、狂気の笑みは消えていない。

 

「ガハァッ!」

「キキキ!モウ終ワリカ?」

 

「殺スナラ早ク殺シナサイ…」

「……ソノツモリダヨ?オ前モ壊レタシ、飽キタ」

 

ドン!と言う耳が壊れるような轟音と共にもう片方の腕に激痛が走る。艤装の無事な方の腕に砲撃を撃ち込んだのだ。

 

「ウアアアアアアアア!!!!」

「キャハハハハ!!壊レタ!壊レタ!!!モット壊レロ!!!助ケテッテ言エ!」

 

「〜〜〜〜〜〜死ネ!!!!!」

 

もう一度砲撃を見舞ってやった。衝撃で首からの血がまた吹き出たし、お腹はもうどうなっているのかも考えたくはなかった。そのまま激痛に耐え、ありったけ撃ち込んでやった。

 

「戦艦棲姫様!!」

「ヲッ!!!」

 

朦朧とした意識の中、私は港湾棲姫の付き人に抱かれ、その場を離れた。しばらくして、私は意識を失った。そうして運良く港湾棲姫のもとに連れていかれ、住処を抜け出す際にこっそり持ってきたわずかな資材で私は生き永らえた。港湾棲姫が言うには、朝と夜が60回入れ替わるほど眠っていたと言う。

 

「行ッテ…シマウノ?」

「私ガイレバアナタモ狙ワレル。ヤツハ私ヲ狙ッテクル…ダカラ…コレデシバラクオ別レネ…」

 

「…………」

「心配イラナイワ。私ハ戦艦棲姫。死ニ損ナイダモノ」

 

「……マタ、会エル?」

「当然ヨ。アナタモ生キテネ」

 

「ヲ級。生キ残リハアナタダケ。港湾棲姫ヲ頼ンダワ」

「ヲッ!!オ任セクダサイ!」

 

私は港湾棲姫の新しい住処を出、自分の住処を探して海を放浪した。人も何もいなさそうな島を見つけては住もうと思ったら艦娘の航路だったから没。深海棲艦を近くで見つけたので没。港湾から分けてもらった燃料も底を尽きそうだったので、ここが最後、と見つけたのが今いるところだ。もう海を放浪できるほどの何もかもが残っていない。時々何か声が聞こえた気もするけど、来る気配はないので無視。暗闇で時々痛む首とお腹に我慢して、数えきれないほどの朝と夜を繰り返した。何度も港湾は元気でやっているかしら…と夕日を眺めては思った。

 

………

 

そして…ある日こちらに近づいてくる誰かの声。静かな私の生活は、そこで終わった。

 

「いいとこ見つけちゃったね!」

「でも、真っ暗だよぉ?」

 

「妖精さんにお願いして灯りつけてもらおっか!お礼はボクのチョコ!」

「えー、じゃああたしも出すよぉ」

 

「よし、決まり!ここを秘密基地とするー!」

「わーい♪」

 

誰?人間?まずい、もう海に出ることもできず、ここで隠れられるものはない…。真っ暗なままならこのまま隠し通したい…。

 

「おお?なんか広くなった?」

「何も見えないよ〜」

 

「そんなこともあろうかと、ランタンを持ってきたよ!」

「さっすが〜」

 

パッ!と私の目が痛くなるほどの光だった。目の前にいたのは小さな人間?が2人。目が合う。すると…。

 

「わああああ!!!出たああああああああ!!」

「さ、サツキちゃんまってー!!!」

 

どこかへ行っちゃった。まあ、その方が助かるわね…と思ったのも束の間、仲間を呼ばれたらどうしよう、という恐怖だった。私はここまでか…。そう覚悟を潔く決めた。港湾には申し訳ないけど、これからここで無限に近いただ生きているだけの状態なら、滅ぼしてもらった方がいいでしょう。さあ、呼んでらっしゃい。抵抗も何もしないわ…。

 

しばらくして光が近づいてきた。それは私に終わりが近づいてきたということだ。ようやく終わりね…深海棲艦として戦う毎日を送っていた方が良かったかしら?目を閉じて待つ。

 

「や、やっぱり見間違えじゃなかった…!」

「ほ、ほんとだねぇ。お姉さんだねぇ…」

 

「い、生きてる?お人形とかじゃないよね?」

 

「残念ネ…生キテイルワ…」

「ぴゃっ!?」

 

「ココへ戻ッテキタト言コトハ…私ヲ殺ニキタノカシラネ?」

「えっ?そんな!ボク達そんなことできないよ!」

 

「そうだよぉ〜。あたし達、生きてる人だと思って。でも、ここを誰かに教えたりできなかったから〜」

「おにぎりだけ持ってきたんだ!動いてお腹減ったって言ったら作ってもらったんだ!」

 

「……オニ…ギリ?私ヲ…ドウスルノ?」

「どうもしないよ?お腹…減ってなかった?」

 

私に何か白い物を差し出してきた。お腹が減った?何を言っているのかしら…。そういうと黄色の髪の子が1つ白い物を手に取り、口にした。茶色の髪の子も倣って口にした。

 

「もぐもぐ…これ、もぐもぐ、おにぎりって言うんだ。おいしいよ!はむっ!」

「サツキちゃん、食べながらはお行儀が悪いよ?マミヤさんにめーってされちゃうよぉ」

 

のんきなものね。私が深海棲艦だってわからないのかしら?

 

「私ハ深海棲艦…アナタタチノ敵デハナクテ?」

「でも、お姉ちゃんはボク達に何もしようとしないよね?」

 

「ソレハソウネ…何モデキナイ…ト言ウノガ正直ナトコロヨ」

「じゃあ、フミヅキたちも何もしないよぉ。むやみやたらに暴力をふるってはいけませんって、ジンツウさんに言われてるもん」

 

うんうん、と黄色い子が頷いている。気が抜けた。本当にこの子達は私を傷つける気がない。罵るわけでもない。キレイな目で私に笑いかけている。長らくあの狂気の笑顔が張り付いて消えず、不愉快だったけど…この子達の笑顔は落ち着く。

 

「ボクはサツキだよ!」

「あたしフミヅキって言うの〜。よろしくね〜!」

 

「アリガトウ…ンンッ!ありがとう。私は戦艦棲姫…驚かせてごめんなさい。いただくわね」

 

私は白いオニギリと言うものを食べた。食べても大丈夫なのかと思ったけど…おいしかった。これは忘れられないものね。実はここは艦娘の基地であることも知った。死角で見えなかっただけでなんてこと…と思ったけど…。

 

「でも、いいの?私を隠せば…あなたたちも何か大変なことに…」

「困ってる人を放っておけないよ!大丈夫!お姉ちゃんのことはナイショだよ!」

 

「うんうん!ここは秘密基地だからね〜。司令官にもナイショだよぉ」

「そ、それはダメよ。見つかったらあなた達が怒られるどころではないわ。私は出ていくわ」

 

「でも、お姉ちゃん行くところはあるの?動けないんだよね?」

 

フミヅキは鋭い。そう、私はもう動くにも遠出をするエネルギーはない。港湾のところへ戻るのも無理だ。それに港湾のところ以外も行くあてもない。ここに居続けさせてくれるのは嬉しいけど…。

 

「私は争いは好まない…もし仮に、見つかって沈められるなら、それはそれで受け入れるわ…どこにも行けない。戦うにも艤装もない。あなた達に危害は加えない。誓うわ…」

 

「うん!ボク達もお姉ちゃんに何もしないよ!へへ、なんだか秘密基地を守ってくれるボスみたいだね!」

「こんなきれーな人がボスってなんだかすごいなぁ〜」

 

「ありがとう。2人とも。あなた達はとっても優しい心を持っているのね…優しい…子たち」

 

2人を抱き寄せ、私は嬉しさのあまり、夕陽を初めて見て以来の涙を流した。この子たちの優しさが温かかった。私は、この時。生まれて初めて優しさというものを知った。港湾も優しかったけど。まったくの敵意のない笑顔に私はすっかり癒された。定期的にやってきては、おにぎりを持ってきてくれたり、チョコレートと言う甘いものを持ってきてくれたり。たわいない会話が楽しかった。

 

「ああー!フミヅキ!今日はボクがお姉ちゃんに座るんだよ!」

「ケンカはダメよ。フミヅキ。いい?」

 

「うん。ごめんね〜、サツキちゃん」

「ごめん、ボクも怒鳴っちゃって…」

 

「2人ともごめんって言えて偉いわねぇ…」

「んぎゅ…えへへ、お姉ちゃん柔らかいなぁ…」

 

「ふふ〜♪お姉ちゃんはやーらかいんだよぉ」

 

……しばらくして寝ちゃった。この時夕方まで寝ちゃってみんなを心配させてしまったみたい。お姉ちゃんは癒し成分たっぷりだね!と言われたけどどう言う意味かしらねぇ?小さなかわいい妹…。私の宝物。いつか、いつか私たち深海棲艦と人間、艦娘が仲良くできる時が来たなら。私はそれ以上の幸せを知らないでしょう。こうして、私とサツキ、フミヅキ、シグレと仲良くできているのだから、できないとは思っていない。今は、ここで小さな幸せにすがって生きるとしましょうか…。ああ、次はいつ来てくれるかしら。私は毎日、あの子たちが来てくれるのを待っている。

 

/時雨

 

うーん…とここしばらく机に向かっては本を読みあさっては戦艦棲姫の名前を考えてた。いろいろと紙に名前を書いていたら、雪風がノートをくれた。

 

「紙だと捨てられてしまったり、なくしちゃうので!ノートの方がいいです!」

「ありがとう、雪風。今度、頭を洗うね」

 

「楽しみにしてます!」

 

そうしてノートにびっしり名前を書いていく。花音。灯。杏…雪菜…ううん、パッとしない…。アリスなんてのも書いてみたけど、これも違う…。

 

「時雨、何してるっぽい?」

「ん?ナイショだよ」

 

「えー!ずるいっぽい!時雨、この頃皐月たちと何か隠し事してるっぽいー!夕立にも教えてよー!」

「皐月たち、『第二十二駆逐探検隊』の約束なんだ。ごめんね、教えられない」

 

「んー!時雨がいじわるするっぽいー!教えるっぽい!じゃないとこうよ!」

「あははははは!!!夕立、やめっ、くすぐったい!あははははは!!!」

 

夕立の拷問も耐え抜いた…。笑い死にするかと思った…。村雨はにっこりと「考え込みすぎないでよー」と言って見守ってくれた。夕立は僕を見るたび頬を膨らませて怒る…。それも髪と体を洗ってあげたらすっかり直ったけど。誰かに聞いて回るわけにもいかないし…。名前はだいぶ絞れた。

 

「紫亜」か「朔夜」か。黒や紫が似合う戦艦棲姫。でも、夜は似合わない。と僕は思う。戦艦棲姫は…なんだろう。太陽の下、お花がいっぱい咲いているところで笑っている方が僕は似合っていると思う。あの黒い髪やワンピースが色とりどりのお花の咲き乱れるところにすごく似合うと思う。うーん…。

 

「しーぐれ!」

「時雨ちゃーん」

 

皐月と文月だ。やあ、と僕は挨拶した。ノートを見て2人ともおお〜と言っていた。

 

「時雨ちゃんすご〜い!お名前がいっぱい!」

「わぁ、すごいね!どう?決まりそう?」

 

「うん。あと2つまで絞れたよ。2人は、どっちがいいかな?」

 

紫亜と朔夜。2人はしばらくうーん、と考えたあと。こっち!!と2人で紫亜を指差した。

 

「紫亜か。どうして?」

「だって、お姉ちゃんは夜って似合わないかな」

 

「うん。お姉ちゃんはお日様の下で笑ってる方がいいよね〜。シアって響きがいいよね〜。だって幸せのシアだもんね〜♪」

「ああ!そうか!文月、その発想は僕もなかったよ!よし、さっそく行こう!」

 

「「うん!!」」

 

僕たちは全速力で秘密基地へ向かった。誰も見ていないし、いないね。よぉし!と3人で一気に母港を越えて、秘密基地へ。電気をつけて、一気に行くんだ。

 

「あら、いらっしゃい。今日はどうしたの?みんな、すごく素敵な笑顔ねぇ。シグレ?」

「うん!戦艦棲姫の名前、決めてきたんだ!」

 

一瞬彼女の顔が驚いた。でも、そのあと柔らかい笑顔になった。

 

「まあ…本当に考えてきてくれたのね…ふふ、私の名前、教えてくれるかしら?」

 

うん!と言って、持ってきたノート。そこに赤いペンで何度もぐるぐると丸を描いてある名前。

 

紫亜

 

シア。時々赤い目が紫に変わる時がある。その紫色の目が僕は綺麗だった。だから紫を名前につけたかった。文月が言ってくれたように、偶然だけど幸せのシア。朔夜もいいと思ったけど、僕は文月の言葉でこれしかないと思った。

 

「シア…シア…幸せの…シア…」

「ダメ…かな」

 

戦艦棲姫はとてもやさしい笑顔で僕を見て…抱きついてきた。

 

「ありがとう…シグレ。とっても素敵な名前ね…私気に入ったわ…これからは紫亜と読んでちょうだいね…」

「戦艦棲姫…あ、ああっと…紫亜…よかった。気に入ってくれてよかったよ」

 

「へへ、ボク達も紫亜がいいって言ったんだよ!えへへ、よろしくね!紫亜お姉ちゃん!」

「紫亜おねえちゃ〜ん!えへへ〜♪」

 

皐月、文月、時雨。そして、戦艦棲姫の紫亜。4人の秘密の集まりは、さらに絆を深めて楽しくなっていく。いつしか、皐月達艦娘と、皐月達の提督と手を取り合って、常識を打ち破る時を願って。この時の紫亜の笑顔は、時雨はまるで扶桑に似ているな…と優しい気持ちになった。後で扶桑にも抱きつきに行こう。でも、今は紫亜に抱きつかれている。悪くないね…と時雨も笑った。




戦艦棲姫改め紫亜。今後は皐月達のお姉ちゃんとして仲良くなっていきます。玲司や他のみんなと仲良くやっていける日もきっと来ることでしょう。

さて、時は進み、次回は5月。5月と言えば、誰かがすごい5月って!とたいそうお怒りになっていた人がいたと思います。次回はドタバタ回です。お楽しみください。

それでは、また。
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