臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について   作:トロ

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幕間『どいつもこいつも、修羅外道』

 

 

 それはあまりにも正気を疑うような光景であった。

 

「我が主よ! 偉大なる神よ! 今理解しました。異教の悪魔を滅ぼすために生を受けたと思ったこの命! 違ったのですね! すべてはここで! 迷える子羊達を導くことこそが主の思い! そして私に託された崇高なる使命!」

 

「あ、が、が得j儀にmlqをえにお」

 

「おぉ! 何たる慈悲! 何たる奇跡! 無限に溢れるばかりの主への愛が、さらに満ち溢れるのを今私は感じています! 絶頂! まさにこれ絶頂ぅ!」

 

 メビウス王国南端。聖火教の秘密教会にして第十八課エンドの拠点。世界を影から見守ってきた聖火教の暗部にして最大の切り札とされるエンドは、単純な戦闘力も現在の人類の水準で最高値とされる兵士を遥かに凌ぐような存在が無数に在籍している。

 魔術、体術。このどちらにも長け、かつ唯一神に対する狂信的な信仰を持っている彼らの力は恐ろしいほどだ。それこそ、魔族との戦いで疲弊している国家の一つや二つくらいなら、それなりの被害は出すだろうが、彼らだけで制圧することが可能なくらいだ。

 そんな狂信者達が根城とする秘密の支部。この世で最も恐ろしく、あるいは安全な要塞如き場。

 今、そこは地獄と化していた。

 厳かな雰囲気を醸し出していた聖域は、無数の魔術によって戦場の跡地のようになっていた。大地は抉れ、教会は砕け、神聖な世界は、破壊の嵐でひたすらに蹂躪されつくしている。

 だというのに、一目で分かるほどの争いの形跡の中に死骸は何処にも存在しない。それもそのはず、壊れかけの教会の前、そこには第十八課の面々が膝をついてぶつぶつと何かを呟きながら祈りを捧げていたのだから。

 そしてその祈りの向けられる先、そこに女が立っていた。

 

「素晴らしい! 神の意思を感じる! これぞ愛! 純粋なる愛! 主が我らに施す無限を超える尽きることない泉の如き愛! その愛がこの手に今! 確かな実感としてぇぇぇぇぇ!」

 

「きおjへあぬいhがうph!?」

 

「神ぃぃぃぃぃぃ!」

 

 黒い司祭服を着た女が、今こそが人生の最盛期と言わんばかりの笑みを浮かべながら、目の前で膝をついている男、第十八課の司祭であるヒエラ・リトの頭に両手を添えていた。

 美しい女性だ。黄金のように輝く長い髪をなびかせ、宝石のように澄んだ大きく青い瞳には歓喜の色を、新雪の雪の如く穢れない白い肌は今まさに感じている絶頂に真っ赤に染め上げ、美しい旋律を奏でる瑞々しい唇からは、情欲に濡れた熱い吐息を漏らしている。

 それは遠くから見れば、さながら天使のような美しい女性の手で敬虔たる信者がまるで信託でも受けているかのようにも見えた。

 

 だが、実情はまるで違う。

 女のその握れば容易く折れてしまいそうな白い指のすべてが、頭蓋骨を貫いて(・・・・・・・)ヒエラの脳髄に直接触れているという悍ましい光景だった。

 

「我が神より賜ったこの手で! 迷える子羊たる貴方に救いの手を! あぁぁぁぁ! いい! たまらない! 主の代行者として彼らを救うという任を託されたこの時、この瞬間! 何物にも勝る使命感と至福で! 私はもう今にも天に召されるような心地良さぁ! 感じますか!? 感じますよ! 愛の愛の愛のぉぉぉぉ! 絶好調!」

 

 女はそう叫びながら、頭蓋骨に突っ込んだ指を微妙に動かす。その度にヒエラが白目を剥いた状態で奇声を発し体を震わせた。

 救いの手とはよく言ったものである。どういった理屈か分からないが、女は脳髄を直接刺激することで物理的に改心させているのであった。

 

「さぁ目覚めなさい! 新たなる信徒、貴方もまた、真の救いによって生まれ変わるのです!」

 

「いじうふあえvんづうぇたbふおあえrじおgでうあ!!!!」

 

「そうね、えぇそうよそうなの! その祈りが神への供物! 神への愛! 大いなる愛! 救いの言葉を共に授かりましょう!」

 

 そして数分も関わらずに改心は終わる。ヒエラの最後の絶叫に合わせて、女もまた全身を震わせて背中を仰け反る。

 瞬間、静まったヒエラの頭から優しく指を引き抜いた女は、真っ赤に染まった指を指揮者の如く振るいながら、懐より取り出した針と糸をヒエラの頭に走らせると傷口を塞いだ。

 施術──救済は完了した。女は先程までの狂気的なテンションが嘘だったかのように、陽だまりのように優しく、物静かな雰囲気でヒエラに語りかける。

 

「これで貴方も主の声が聞こえるようになりました」

 

「あり、ありりり、がとうござざざ、ありがとう、ござぁぁぁぁいます」

 

「えぇ、共に主の慈悲に膝を折り、祈りを捧げましょう」

 

「はぁいぃ!」

 

 何処か虚ろな目をしながら嬉しそうに笑うヒエラに、それ以上の慈愛に満ちた笑みを浮かべて、女は異教から目覚め、真の救いを悟ったヒエラを招き入れる。

 

「主は寛大です。本来ならば糞以下の役にも立たない下劣な畜生にして、見つけたら即座に四肢を切り裂き股を抉り脳髄を圧搾すべき異教徒であっても、救いに目覚めれば優しく受け入れてくれるのです。そう! これぞ真の愛! 我が神こそ世界の導! そうです! 救いは今ここに! 主はここにおられるのだ! おぉ神よ! 我が神よぉぉぉぉぉ!」

 

 女は、ヒエラと同じく虚ろな目で笑みを浮かべながら祈りを捧げるかつての第十八課の面々の間を歩きながら、赤く染まった手を大きく広げる。

 狂信に酔いしれる女神。美貌を狂気に染め、全身を混沌で練り上げた悪徳の外道。

 あぁ嘆かわしきはファービュラスの人々か。

 この日、人族を守る最後の砦が人知れず落ちたのだ。

 

「主よ、我らに救いを!」

 

『主よ、我らに救いを』

 

 女の声に合わせて主への祈りを捧げる第十八課の面々に、かつての唯一神への信仰心などは欠片も残っていない。

 あるのは新たに授けられた神の名。混沌を是とする邪悪の神こそ、彼らの神。

 

「我が頭上に黒の栄光を今!」

 

 それを成した女は笑う。全ての元凶となった生ける災厄は、己こそ絶対であると疑うことのない眼差しを空に向けた。

 

 ──聖槍を媒体とした神の使徒の召喚。それは確かに、神の使徒を名乗る天使のような女性を賜った。

 だが女性は傷ついていた。まるでつい先程まで戦いを繰り広げていたかのように、放っておけばそのまま死に至るような傷を無数と抱えていた。

 ゆえに、彼らは慌てて、召喚の媒体にして、使徒にのみ振るうことの許された聖槍ジムを女の手に添える。

 使徒ならばこれで生き抜くはずだ。当然のようにそう思った狂信者達の前で、女性の傷は見る見るうちに癒され、女性はそのまま目を覚ます。

 神の使徒が現れた。その歓喜に叫ぶ狂信者(・・・)達は、そこで決定的なミスを犯す。初めは召喚による動揺もなく、受け答えも温和で、まさに天使のように慈愛に満ちた女性は、たった一言、居並ぶ信者の一人が呟いた一言によって豹変した。

 

『唯一神クトゥアの使徒に敬意を』

 

 その一言にあわせて頭を垂れた一同。その敬意を受け取った女性は、これまで浮かべていた笑顔を一瞬で凍結させた。

 

 ──後のことは、この惨状が全てを物語っている。

 

 女性は素手で(・・・)その場に居た信者を一撃で昏睡させた。あまりの早業に反応する暇もない。瞬く間に魔術を使うこともなく(・・・・・・・・・・)その場を制圧した女性は、辛うじて逃げ出した信者の一人を追うように外へ飛び出すと、外で待機していた信者達を見つけ、一言だけ言った。

 

『今日の私は気分が良い。喜びなさい、腐れ異教徒共』

 

 そして惨劇は始まった。異世界人ならば見慣れていないはずの魔術にすらあっさりと対応し、この世界でも指折りの戦闘力を秘めた狂信者達を一人ひとり丁寧に気絶させていった。

 世界有数の実力者達を相手に、殺すことなく素手で制圧した彼女の次の行動は一つ。一人ひとり丁寧に救いの手(・・・・)を差し伸べ、真実の神に触れさせたのだ。

 

「嬉しい。私は今とても嬉しい。邪教に狂ったとはいえ、やはり傷ついた私を癒してくれた貴方達なら、きっと私の言葉に耳を傾けてくれると! いえ、主の言葉を聞き届けると信じていました! おぉ! 素晴らしきは我が主!」

 

 天空を見上げた女性は感極まった表情で宣言する。

 

「主の忠実なる下僕! この私、ナイル・アジフに全てお任せを! この異郷の土地にて、主の教えを広く広く! 迷える者達に授けましょう!」

 

 異世界。そこで邪神として恐れられた邪悪の神を信奉した一つの宗教があった。

 本来なら潰すまでもない小さな新興宗教。しかしその伝道師を語る女、ナイル・アジフは、徐々にだが確実に、無視のできない存在へとなっていた。

 極上の美貌に付随したカリスマなどはあくまで余分にしか過ぎない。その真の脅威は、銃弾を生身で見切り、素手で鋼鉄を引きちぎる(・・・・・)ことの出来る圧倒的な身体能力を存分に引き出す卓越した武術と、脳髄を直接刺激することで人間を洗脳する技術。これをもって着々と信徒を増やしていった彼女に、時の巨大宗教は、掃除屋とも呼ばれる恐るべき暗殺部隊を差し向ける。

 その結果、一向に来ない報告に業を煮やした巨大宗教の幹部が新たな人員を派遣すると、そこには暗殺部隊の死骸だけが残されていたという。

 ナイルの姿はそこにはなかった。その後、彼女の姿を見ることはなくなったため、死亡したのだろうとして彼女は歴史の闇に消えたのだが。

 

 その狂気は世界を飛び越え、異界の土地にて復活を果たす。

 

「では行きましょう! 我が同胞達よ! 我らが黒き無貌の神であられる『にゃる』の下、世界に救済をもたらすのです!」

 

 こうして、救済という名の災厄を撒き散らす悪鬼は異世界の土地に現れる。狂信者の手によって呼ばれた最悪の狂信者。地べたに転がっている聖槍ジムのことなど眼中にも止めぬその狂った眼は、今度こそ世界に神の威光を示すために新たな一歩を踏み出すための準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 クラウディアの背後から、それはにじみ出るように現れた。

 漆黒の主たるクラウディアと並び立っているにも関わらず、一際異彩を放つ黒を纏ったそれは──。

 

「人間、さん?」

 

 アフロディアは、己の目を疑った。

 先の口ぶりからして、クラウディアは新たな魔剣でも手に入れたのかと思ったのだが、現れたのは鋼鉄ではなく生身。しかも魔族ではなく、その男の放つ臭いは、どう考えても人間のそれだったのだから。

 だが本来ならそのことにいの一番に憤りを見せるはずであるヴィンセントは、アフロディアとは違う驚きに打ち震えていた。

 

(気づかなかっただと? 幾ら魔王様の魔力が溢れているとはいえ……この俺が、こんなにも冷たい殺気に違和感すら覚えられなかったのか!?)

 

 無礼にもクラウディアの隣に立ち、こちらに無遠慮な視線と冷ややかな殺気をぶつける人間。こちらを試すような気配に冷や汗が流れる。背後のアフロディアにいたっては、ようやく男の放つ異常さに気づいたのか。小刻みに体を震わしてさえいた。

 正体不明の何か。唯一確かなのは、この視線の主こそ、目の前で死骸を晒すかつての四天王を惨殺した何かだということ。それだけは一瞬で理解することが出来た。

 

「ッ……」

 

「むぬぬ」

 

 ヴィンセントとアフロディアの二人が警戒する中、男は先程は放ってきた冷たい殺気の主とは思えないほど、存在感を希薄なものにして、クラウディアの前に一歩踏み出した。

 奇怪な服装をしている。黒装束の内側には鉄の帷子を纏い、腰の黒い帯には二本の小さな短刀を携えていた。

 顔は黒の頭巾で覆われているため見ることは出来ないが、骨格から男のそれだとは何となく判断は出来る。

 何よりも、この男は人間だった。

 

「紹介しよう……彼が私の新たな剣にして、今日からお前らの同僚となった──」

 

「抜け忍、八つ鳥(ヤツドリ)だ」

 

 男はクラウディアが言うよりも早く己の名を告げた。

 無礼だと叫ぼうという気はヴィンセントには起きなかった。そうするには、男の声はまるで鋭利な刃物のように鋭く胸を抉り、喉を詰まらせてしまったのだから。

 そんなヴィンセントの視線を気にも留めず、男はクラウディアに視線を向けて、一つ提案を持ちかける。

 

「だがしかし、里を抜けた俺にはその名は意味がない……そこで、こんな俺を拾ってくれた主様に頼みがある」

 

「ほう? 言ってみろ」

 

「俺を縛る名をくれ。強きを求め、強きと競い、強きと相打った俺が、涅槃を超えて辿り着いたこの地。奇怪な術を駆使する強者をくれる主様に、俺は縛られたいのだ」

 

「それはそれは……良い心がけだ」

 

 クラウディアは表向きこそ余裕の笑みを浮かべていたが、内心ではその言葉を聞いて狂喜乱舞の心地だった。

 世界の理に縛られない存在の召喚。それは同時に、己を殺すかもしれない存在を呼ぶということに他ならない。

 だからこそこの一ヶ月、細心の注意を払って準備を行ってきた。そして、わざわざ召喚の際には四天王の中で最も己に忠義を誓っている二人を残し、もう二人はあえて外に出してから召喚に赴いた。

 忠義の者を召喚する。クラウディアは只それだけを願って異世界よりの使者を召喚する。そして己に刻まれた傷口を媒体として現れたそれは、まるで傷を媒体にしたせいとでも言わんばかりに傷ついていた。

 瀕死の重傷。数秒もすれば死ぬだろうその男を前に、咄嗟に回復魔術を行ったのは殆ど奇跡だった。咄嗟とはいえ、魔王の膨大な魔力と卓越した魔術によって息を吹き返した男。正直、ここで戦闘になることも考えていたクラウディアの前で、男は忠義を誓うように深く頭を下げてみせた。

 

『主が俺を救ってくれたのだな。感謝する』

『分かるのか?』

『見れば分かる。だが、俺には返す術がない』

『……ならば、お前の力を私にくれ』

『承知』

 

 そんな、いっそ清清しい気分になるくらい淡白なやり取りの後、クラウディアは試しにと、使い物にならない四天王の二人を呼び出して早速ぶつかり合わせたのだが。

 結果は、クラウディアをして目を疑うようなものとなった。魔力を用いずに、四天王はおろかクラウディアすら探知すら出来ない気配遮断。その後、鋼鉄を凌ぐ硬度を標準的に備える魔族の肉と骨を、魔術もスキルも行使することなく両断した短刀の冴え。四天王の一人がようやく姿を捉えて攻撃を当てたと思ったら、吹き飛んだのは何故か仲間である四天王であったという理解の範疇を超えた幻術。

 全てが圧倒的だった。まさに、この世の理に縛られぬ存在であった。

 何より、この身を持ってしても勝てぬと、クラウディアは本能で悟ったから。

 

「では、今日からお前はヤツドリではなく……八で、鳥──ハットリ。ハットリというのはどうだ?」

 

「承知……抜け忍となり、素晴らしき我が怨敵、佐助を殺し目的を失った名には未練などない──我が名はハットリ。主への忠義と共にその名をこの胸に刻むとしよう」

 

 そのような化け物が、確かな忠誠を己に捧げている。

 最早、この男が居れば聖剣など恐れることもあるまい。遂に手に入れた決定的なカードの力に身震いをしながら、クラウディアは早急にあの忌々しい結界を解除する方法を模索すべく行動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 もしも、聖剣より召喚された勇者が平凡ならば、このような状況にはならなかっただろう。仮に聖剣の力に溺れる凡人が召喚されることで、聖槍を使うことになったとしても、聖槍は別の正義漢を使徒として選び、魔王の召喚は単なる凡人の、しかも己の弱点を無駄に増やすような頭の痛い召喚にとどまったはずだ。

 そして、この世界はいつもと同じように(・・・・・・・・・)、破滅からの再生を繰り返すこととなったはずだ。

 だがしかし、前例は生まれてしまった。

 窮地の中、混沌に支配された感情のままに召喚を行った結果、異世界より呼び出された修羅。正義でも、悪でもない。只、己のみを信仰する人の域を超えた何かは現れる。

 これに対する形で彼らは異世界の大地に降り立つ。

 魔王に対する聖剣。

 聖剣に対する聖槍。

 それと同じようにカウンターは、召喚された。

 

 召喚されてしまった(・・・・・・・・・)

 

 異世界に呼び出された、己の技の冴えのみを追い求める侍に呼応して現れた異端は二つ。

 巨大宗教に、その圧倒的な精神力と、類まれな武力とカリスマ、そして人知を超えた狂気の洗脳術で、遂には一つの小国家を完全な支配下に治め、その後、世界最強の暗殺部隊と相打つことで死したと思われた邪教の狂信者。

 歴史の裏で数々の歴史の転換期をその手でもたらしたが、その後、里を抜け、只ひたすらに強敵との死闘を繰り返し続け、遂には史上最強と語られた忍を下し、そのまま消息を絶った忍。

 皮肉なことに、世界の理の極限に位置する存在の制御装置でしかない彼らは、制御装置の域を超えて、法則を捻じ曲げる異端として君臨する。

 魔力など知らぬ。

 魔術など知らぬ。

 そもそも借り物の力など不要。

 あるのは培った己の才覚と肉体、只それのみ。

 いずれもが、人として武の頂を極めた者達。

 

 聖剣の担い手? 否、彼の者は居並ぶ達人を斬り捨てた孤高の侍。宗司。

 聖槍の使徒? 否、彼の者は混沌なりし無貌の神の狂信者。ナイル・アジフ。

 魔王の用いる魔剣? 否、彼の者は闇の世界の中で、黒よりも黒きと恐れられた忍者。ハットリ。

 

 

 

 

 

 

 そして――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある悪夢を紹介しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、地獄の末路とも呼ぶべき場所だ。

 宗司がメイルに召喚された臓腑と死体で汚染された場。既に彼らが立ち去って一週間以上経ってしまったそこは、野生動物によって食い荒らされた野盗の腐りきった肉がそこら中に転がっている。

 目も当てられぬ光景。集まるのは腐肉に引き寄せられた蛆か蠅か。

 人などが近づきようもないそこには本来誰も居ないはずだ。だがしかし、乱雑に死体が積み上げられて出来た山が小さく蠢き、その直後、這い出るように腐肉で染まった腕が飛び出した。

 さながら腐肉より産まれ出るように、死体を割って何かがゆっくりと現れる。

 ようやっと這う這うの体で死体より抜け出した何かは、べちゃりと無様に地面へと顔面から倒れ込んだ。

 数秒後、ゆっくりと静かに顔を上げる。

 恐るべき、顔が上がる。

 

「ぃ、ぅ、ぃ、ぅ、ぇ、ぉ、ぅぅぁぃ」

 

 絞り出すような声は、およそ生命力というものからかけ離れた断末魔の如きものだった。

 それ(・・)は腐臭を発する蛆の沸いた腐肉の海より生み出されたかのように起き上がる。

 それ(・・)は男であった。

 それ(・・)は女であった。

 正しくそれ(・・)人間(・・)であった。

 

「……ぃぅ」

 

 それ(・・)は暫く半身を起こした状態でそのまま惚けていた。

 それ(・・)はズルリと腐肉より立ち上がると、足取りも覚束ない状態で右に左に体を揺らす。

 腐肉の海で目を覚ますという状況に当惑しているのか。

 見知らぬ場所であることに困惑しているのか。

 否。

 どうでもいい。

 そんなことは、どうでもいい。

 それ(・・)はいつの間にか右手に掴んでいた鞘に収まった刀の柄にゆっくりと手を添えた。

 

 そして、それ(・・)はゆっくりと――。

 

「おい、誰かが居るぞ!」

 

 直後、木々の合間より鎧の擦れる音がそれ(・・)のところに近づいてきた。

 現れたのはメビウス王都の崩壊より辛くも逃れた王族直下の兵士達だ。聖剣の異変を察して派遣された彼らはそして、周囲を捜索していてこの常軌を逸した光景に遭遇してしまった。

 

「な、なんだお前は!」

 

「貴様、ここで何をしている! その手の武器はなんだ!?」

 

「まさかこいつが王都を破壊した――!」

 

「気を付けろ! 総員抜刀!」

 

 兵士達がそれ(・・)に対して警戒の色を露わにする。

 だが臨戦態勢に入ったはずの兵士達は、それ(・・)が彼らへと視線を向けた瞬間に思考を停止させた。

 

「初めまして」

 

 腐臭と腐肉で作り上げられたようなそれ(・・)が、先程までの醜態が嘘のようにはっきりとした口調で声を発した。

 見れば、いつの間にかふらついていた体の揺れは止まり、一本筋の通った立ち姿である。

 若い、年の頃は二十を過ぎた程度であろうか。

 その姿だけを見れば、この世界では珍しい黒い短髪が多少目を引く程度の没個性的存在でしかない。あえてそれ以外の特徴を挙げるなら、中性的な顔立ちのためパッと見ただけでは男女のどちらか判断出来ないところだろうか。

 それ以外に特徴は存在しない。擦れ違えば一瞬目を引いた後にすぐ記憶から忘我されるだけの存在である。

 だが、兵士達はその眼を見た瞬間に全てを忘我してしてしまった。

 没個性な見た目とは裏腹に、そこだけくり抜いたような眼球を見て、恐怖よりも先に己の存在すらも忘れてしまった。

 

 それ(・・)は、この世に存在する最悪の汚物で練り上げられた、数多の芸術品を駄作に貶める希代の芸術品の如き眼だった。

 それ(・・)は、 歴史上最高峰の天才達が最高峰の素材を用いて作った、見るに堪えられない糞尿以下の駄作の如き眼だった。

 それ(・・)は、光すら通さない漆黒の如き眼であった。

 

 それ(・・)は、そういう悪夢だった。

 

「あ、あ、あ……」

 

 兵士達は動けない。

 理性よりも先に本能が屈した。その後、理性がこれ以上の思考は無駄だと人間らしい知性を彼らから奪い去った。

 そんな彼らを一瞥したそれ(・・)は、無表情で頷くと。

 

「驚くのも、無理ありません」

 

 申し訳なさそうに りーん 斬る。

 

「だって俺は、この様ですから」

 

 あぁ恐るべき鈴の音よ。

 

「斬るのです」

 

 お前だけが、真実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣術、体術、忍術。

 それぞれが別の極みを迎えた化け物の技の冴えは、異界の地を舞台に晒されることになる。

 その時は、きっと彼らが考えるよりも近いだろう。

 運命はきっと、彼らを戦いの舞台に引きずり上げることになるはずだ。

 理由なんてそれこそ、あまりにも分かりやすい事実がたった一つ。

 

 

 何せこいつら、どいつもこいつも──修羅外道。

 

 

 

 




例のアレ


王道異世界ファンタジーに召喚された面々のご紹介。

今代の聖剣の勇者
×爽やかイケメン
○クレイジーハラキリ侍

聖槍の使徒
×愛と平和を司る天使
○サイコマッスルレズ狂信者

魔王が四天王に紹介した剣
×聖剣を越える無敵でかっこ良い魔剣
○シノビスレイヤー

腐肉と蛆の山より産まれた何か
×うんち
〇両性具有ナルシストウンコ~腐肉を添えて~




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