臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について   作:トロ

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第十二話『聖女を、斬る(と、どうなるか)』

 

 かつて世界最大の宗教団体である聖火教の暗部であった第十八課『エンド』の本部は、今やそのかつての面影を一切残していなかった。

 厳かな雰囲気のあった教会は根本から作り直され、今は漆黒に燃え上がる三つの赤い目が、唯一神と呼ばれたクトゥアの祭壇に捧げられていた。

 教会内部にはコールタールを直接ぶちまけて塗りたくられたような壁で覆われており、唯一の光源は壁に備えられた魔法具から吐き出される小さな炎だけである。

 そこはまさに暗黒の支配する恐怖の壺。

 だがその中心で一人両手を組んで祈りを捧げる女は、この狂気の光景に居て、尚金色に輝く美しさを損なってはいなかった。

 その女こそ、ナイル・アジフ。魔族を亡ぼす力を有する第十八課の信者を、一人残さず混沌の使徒へと作り変えた女である。

 

「……今日も一日、黒の混沌を私に」

 

 ナイルは祈りの最後にいつもそう呟いている。これは彼女の日課であり、常日頃自分達を遥か彼方より嘲笑しているだろう偉大なる神へ捧げる崇高な祈りだ。

 いつか、世界全てが混沌に溢れることを彼女は誰よりも願っている。

 そして朝早くより行われる礼拝を終えたナイルは、教会の外へと出た。

 そこには既に支度を終えた第十八課の面々、そして今や混沌の神『にゃる』を信奉する完全無欠の狂信者へと生まれ変わった彼らが、ナイルが出てくるのを待っていた。

 

「おはようございますナイル様」

 

 その先頭に立っていたヒエラ・リトが皆を代表してナイルの前に立つと恭しく一礼した。彼らがかつて信奉していた神に捧げるそれよりも深い祈りに、ナイルは花のような笑顔に小さな困惑の色を浮かべる。

 

「ヒエラさん。何度も言いましたが、我々は所詮偉大なるにゃるの足元にひれ伏すだけの下僕です。敬称など付けず、同じ祈りを共にする者として気軽に接してください」

 

「ですが、ここに居る全員が貴女の手によって真なる救済に目覚めたのは事実。偉大なるにゃるが現世に降ろした奇跡である貴女は、やはり我々にとっては偉大なる求道者であるのです。まさに神の使徒、いと尊き混沌の御方よ!」

 

 そう言い切ったヒエラの背後で、十八課の面々の全員が同意だと頷いた。

 

「全く……困ってしまうわ」

 

 ナイルは彼らの熱い眼差しに頬を朱に染めて苦笑を一つ。

 だが彼らが真の神に目覚めた必然が自分の手で行われたのも事実。そういう意味での敬意をどうして無碍に出来ようか。喜びと戸惑いを半分ずつ感じながら、ナイルは改めて彼らのことを見渡した。

 

「では、皆さん。改めて話すまでも無いことですが、今この世界は素晴らしき混沌に満ちています」

 

 そして笑顔で告げるのだ。

 

「北の大地では今も悲鳴と怨嗟に満ちた争いが続けられ、その一方で至福に満ちた人々が居ます。これは素晴らしい。善だけではない。悪だけではない。等しく混ざって混沌と呼ばれる北の大地の現状は……今は手を出す必要はないでしょう。少々、悪側に偏っていると言えますが」

 

 彼女の語る混沌とは言ってしまえばバランスである。

 何も彼女は殺戮こそが神の教えであると言っているわけではない。

 一善一悪。

 等しく合わさり、これぞ混沌。

 永遠に続く破滅と再生こそが、偉大なるにゃるの遊戯場であるこの世界に必要なものだと確信している。

 たったそれだけ。

 それだけの、異常な狂気。

 

「ですが、私は悲しい」

 

 そう言うと、ナイルの両目から涙が流れた。聖女が流す尊い悲哀に、第十八課の面々も泣きそうな顔でその続きを待つ。

 

「この国だけ、何故平和などという善に溢れているのでしょう。穏やかな笑顔に幸せな家庭、気の合う友人との団欒に外敵の存在しない平和! 例えそれが後数年もすれば瓦解するようなものだとしても! 何故! そのような平和が! 平和だけが許されるというのか! ああああああ! おかしい! おかしいでしょ!?」

 

 途中から語気を強くし鼻息荒くナイルは語る。髪を振り乱し叫ぶ様は、さながら鬼か悪魔のごとく鬼気迫るものがあった。

 だが映像が切り替わるように突如としてナイルの怒りは収まり、常の優しい笑顔がそこに戻った。

 

「しかし、そんな糞以下の平穏に、先日一石が投じられたのは皆様も知っての通りです」

 

「聖剣……!」

 

「憎らしき怨敵、邪神クトゥアの勇者……!」

 

 口々に憎しみ混じりの言葉が呟かれる。それをナイルは片手を挙げて止めると、「確かに、私をこの地に呼び出した偉大なる我が神のもたらした聖槍、ジムと敵対する存在なのは事実です」そうナイルは語った。

 

 勿論、ナイルが今言った聖槍ジムを授けたのが彼女の神、つまりにゃるであるというのは事実ではない。だがそういう風に彼女達の中で事実は書き換えられ、今や事実は事実ではなくなり、聖なる槍は混沌の神がもたらした邪槍へと貶められていた。

 閑話休題。

 ナイルはおもむろに取り出したジムを地面に突き立てると、晴天のように晴れ渡る笑顔を浮かべた。

 

「ですが、聖剣は王都を襲撃しました」

 

 その言葉に沸き立つ第十八課を再度抑えながら、それでもナイルも彼らの気持ちが良くわかるのだろう。こみ上げる喜びを噛みしめつつ、聖剣によって焼かれただろう王都に満ちる怨嗟を想像し体を震わした。

 

「素晴らしい! きっと、確実に、間違いなくぅ! 聖剣の勇者は我が混沌の信者に違いありません! 彼はきっと憤ったのでしょう。自分が邪神に弄ばれる屈辱に! 自分が平和しかない世界に呼び出された絶望に! 故に! だからこそ! 聖剣をあえて使うという意趣返しによってこの平穏ばかりのクソッタレ以下のゴミ国家にぶちまけたのです!」

 

 混沌を。

 正義と悪の成す美しい二重螺旋の混沌を。

 希望と絶望をかき混ぜた世界を描くために。

 

「おぉ!」

 

「うおぉぉ!」

 

「やったー!」

 

「偉大なるにゃるの下僕に黒の英知を!」

 

 最早、爆発したように歓喜する彼らをナイルは止めようとは思わなかった。むしろ、にゃるの教えを知り、この綺麗なだけの国に塗りたくられた漆黒を喜ぶ彼らの気持ちに共感し、神の真理は全てを救済するのだと改めて確信した。

 

「そこで! 私は行きます!」

 

 未だざわつき収まらぬ狂信者の群れにナイルは宣誓した。

 

「この世界に新たな混沌を作り出した偉大なる勇者に会い、彼を神の御許に迎え入れましょう!」

 

 その宣誓に狂信者は喝采をもって賛同をした。

 

 おぉ、大いなる混沌の神よ。

 偉大なる黒に混沌あれ。

 

 万雷の祈りにナイルは目を閉じて酔いしれる。数分程その熱気を堪能したナイルは再度片手を挙げて彼らを沈めた。

 

「ではその後のことについてはお任せいたします……ヒエラさん」

 

「はい。お任せくださいナイル様。偉大なるにゃるより与えられ使命、我らの命に代えても成し遂げてみせます」

 

 そう言ってヒエラが懐より取り出したのは革袋だ。その口を開いて取り出したのは何かの粉末を包んだ紙であった。

 ナイルはそれを受け取ると、紙を破り中身を確認した。

 中身は乾燥させた各種の薬草の粉末。ナイルはそれを一つまみすると舌に乗せてじっくりと味わった。

 

「素晴らしい。こちらの薬草の知識は足りなかったため些か苦労しましたが……これなら私が自ら手を差し伸べなくても、誰もが真の神を見ることが出来るようになるでしょう。この短期間で良くぞこれ程の物を作りました」

 

「いえ、これもナイル様の冴えわたる頭脳があってこそ。我らの知識を数日で吸収し、さらにはジムから学習した魔術知識を組み合わせたこと、感服いたしました」

 

「ふふ、そう褒めても何も出ませんよ。まぁ改めて確かめなくても、効果のほどは既に確認済みではありましたが」

 

 そう言いつつナイルが移した視線の先、教会の隣に足跡で作り出した小屋からは、僅かな呻き声が幾つも聞こえてきた。

 良く聞けば、それは彼女達が信奉するにゃるの名を延々と呼び続けている声だった。例えば何かしらの手段を用いて理性を無くさせたかのようである。

 

 あぁ、偉大なる神を讃える声が幾つも聞こえる。

 哀れなる迷い子は、混沌に飲まれることでさらなる迷いの果てに狂気へと至るだろう。

 今はそうして神の名を呼び続けるだけでいい。だがいつかきっと、彼らも混沌の意味と狂気の真理に気付き、その時こそ真の同胞となるだろう。

その時がとても楽しみだ。

 そこまで夢想したナイルは、脱線した思考を戻すようにヒエラに視線を戻すと、優しく微笑みかけた。

 

「では後のことは頼みますよヒエラ」

 

「はい。偉大なるにゃるの名の下に、我ら一同、布教に努めます」

 

 ヒエラは皆を代表してナイルに深々と一礼すると同時、彼らは蜘蛛の子を散らすように四方に走って行った。

 

「世は泰平。ですがそれでは神の望む世界には程遠い」

 

 ナイルは地面に突き立てたジムを引き抜くと、聖剣と対をなす聖槍にのみ備えられた機能を解放した。

 掲げたジムの矛先より一筋の光が真っ直ぐに伸びる。これこそジムに搭載されている、聖剣を感知する機能だ。

 

「……一先ず、北、ですか」

 

 現在ジムと繋がった状態にあるナイルは、聖剣がどの位置にあるのかは光を辿らずともある程度は把握出来る。

 それによれば国境付近に聖剣は在るのがわかった。

 普通なら今から追いつくのは至難である。しかし、ナイルの持つ聖槍は、その至難を容易に行える程の能力を秘めていた。

 

「では、転移魔術とやらで私も早速向かうといたしましょうか」

 

 ジムより発生した膨大な魔力が、虚空に人一人程の巨大な魔法陣を描く。それは空間を隔てた場所にすら移動を可能とする転移魔術の術式。

 聖剣と同じく、ジムもまた所有者に膨大な魔力と魔術の知識、そして身体能力を与えるのは同じである。

 だがナイルからすればその程度はあくまでおまけであり、むしろこの無駄な全能感はあまり好きに慣れないし。

 はっきり言って、彼女の大好きな闘争を行うには、弱すぎる。

 

「おっと、これは不敬ですね……いやいや、我が神はそれはそれは腹黒い。この程度の力(・・・・・・)が私にはお似合いだろうと言っているのでしょう」

 

 偽りの全能感。

 とるに足りぬ不要な力だが、これもまた神の与える享楽であれば。

 ならば、この不便(・・)も喜んで享受しよう。

 ナイルは敬虔な信者らしく粛々とした立ち振る舞いで、ジムによって作り出した魔法陣へと入り込むのであった。

 

 

 

 

 

 ラインの街は転移パスが使えないものの、そこまでの混乱は見られなかった。むしろ、転移パスがしばらく使えないのを見て、商人達は運ぶはずだった商品をその場で売りさばき始めたのもあり、常よりも活気に溢れている程だ。

 だがそんな街のにぎやかさとは裏腹に、今露店通りの片隅は背筋が凍りつくほどの冷たい空気が充満していた。

 恐ろしい死の寒さの中心に立つのは二人。

 異世界の侍、宗司と、同じく異世界の狂信者、ナイル・アジフ。

 まるで運命の必然とでも言わんばかりの出会いは、満たされた空気を他所に、二人共朗らかな笑みを浮かべた穏やかなものであった。

 

「ないる、か……あい分かった。では、ないる殿。これもまた何かの縁、こちらこそよろしく頼む」

 

 宗司もまたナイルの笑顔に吊られて微笑みを返すが、決して差し出されたその手を握ろうとはしない。

 同じくナイルもまた、宗司の斬撃が届く一歩手前で立つばかりで、決してその圏内に入ろうとはしていなかった。

 そのまま二人は暫く微笑みと視線を交差させるが、先に折れたのは手を降ろしたナイルのほうであった。

 

「さて自己紹介も済んだところでソォジさん。助けていただいたお礼に何かお礼をしたいのですが……良ければついてきてはいただけないでしょうか? 近くに美味しそうな料理を出すお店があるのですよ」

 

 ナイルの提案に、宗司は是非もないと頷きを一つ。警戒心などまるでないと言った面持ちでナイルへと一歩を踏み出した。

 

「そういうことなら礼を受けることにしよう」

 

「……でしたら付いてきてください。あぁ、そちらの方々はどうしますか?」

 

「所詮は取るに足りぬ奴らだ。斬るのも面倒ならば、捨て置くのが一番だろう」

 

 未だ金縛りから抜け出せずにいる男達を一瞥した宗司は、言葉の通りに男達に背を向けてナイルの隣に並び立つ。

 それが何を意味しているのか、この短い会合で宗司は十分理解していたし、当然ナイルも同じことを理解しているだろう。

 

「えぇ、ソォジ様の仰る通りだと思います……本当に、ね?」

 

「……食えぬ女子(おなご)だ」

 

 ナイルの底なしの暗黒の如き瞳を横目に小さくつぶやいた宗司は、そのまま歩き出した背を追った。

 見慣れぬ異国の服装と異国の顔立ちをした宗司と、誰もが見惚れる美しい修道女といったナイル。並んで歩けば人の視線を嫌でも集めてしまうが、宗司がそうであったようにナイルも全く気にした素振りをみせていなかった。

 いや、宗司はナイルが己とは少々違うのだろうとすぐに察した。自分は視線を気にしないが、ナイルは視線を当然のものと受け入れている。

 

「注目されるのに慣れておるのだな……見慣れぬ服装だが、お主、芸人か何かか?」

 

「残念ながら違いますよ。私は神に仕える敬虔な信者の一人でしかありません。ただ、私は救済を求める人々の眼差しを受け入れているだけですよ」

 

「神の信者か。確か南蛮の者に神がどうとかのがあったが……仏教とはまた違うものであっていたかの? いや失敬、国も違えば習慣も変わる。この国ではそういうものなのだろう」

 

「それもまた違いますわ。いえ、この場合は二つの意味でですが。私の国では頭を剃る必要はないですし、そもそもこの国に来て一月も経っていないのです」

 

「ほぉ、そいつは奇遇だな。俺もこの国に来て同じく一月も経っていないのだ」

 

「まぁ、それは本当に奇遇です。それでソォジ様は聞きなれぬ名前と服装をしていらっしゃるのですね」

 

「旅の連れにはこっちの服を着ろと言われているのだがな。如何せんここの国の服は動きが見え透いてしまい良くない」

 

「例えば、足の動きとかでしょうか。貴方の足運びはとても綺麗、けれど、服も合わさり動きの機先が捉えづらい」

 

 やれやれと溜息をつく宗司の足元にナイルは視線を移してそう言った。

 

「目ざといな。何だ、お主も何かしら武を齧っておるのかの?」

 

「嗜む程度には。ソォジさんと比べたらまだまだです」

 

「はっ、良く言うわ」

 

 隣に立つナイルの歩く姿を見ながら宗司は鼻を鳴らした。

 これははっきり言って自慢だが、宗司は自分の体捌きには自信がある。普通に歩くだけでも動きの『起こり』を悟らせるようなことはさせず、いざ戦いとなれば相手の目を欺くことすら技量に差があれば可能だ。

 そんな自慢の体捌きをナイルは横目で見るだけで何となくではあるがある程度見切っているのが分かった。軽く仕掛けてみたが、ナイルの目はしっかりと宗司の影を追っていることから確実だろう。

 こいつは強いだろうな。

 そんな確信を覚えたのは宗司だけではなくナイルも同じだった。

 一切油断を見せない立ち姿に、興味をそそられる。

 強い。

 どの程度強いかと言えば、少なくとも殺すとなれば相討ちは覚悟しなければならないだろうと思う程度には強い。

 

「ふふっ」

 

「どうした?」

 

「いえ、悪い癖です」

 

「……何となくだが、おそらく俺と同じことを考えているのだろ」

 

 ついつい、強い人を見るとどうすれば斬れる―殺せる―のかに腐心してしまう。

 そんな己にナイルと宗司、共に自嘲しつつ、とりとめのない会話をして数分もすれば目的の店に辿り着くのであった。

 転移パスが使えないという現状のせいもあるが、ナイルが言う通り店自体の評判がいいのだろう。賑わう店内は見渡す限り人ばかりで、二人が座れるようなスペースは何処にもないように見えた。

 

「どうする?」

 

 宗司が問いかけると、ナイルは手近のテーブルを囲っていた一団に迷いなく向かっていき、二、三、何か話すと懐から数枚の金貨を取り出してそのうちの一人に手渡した。

 するとたちまち笑顔になった一団はすんなりとテーブルを離れて店を後にする。

 

「どうぞ、席が空きましたわ」

 

 その背中を目で追っていた宗司に、ナイルが語り掛けた。

 声に応じて振り返り、笑みを崩さぬナイルに宗司は意地悪い嘲笑で応じた。

 

「僧にしては俗なやり口だな。ありがたい言葉とやらは使わんのかのぅ?」

 

「ふふっ、説法で語れる真理を悟らせるには時間も無ければ、殆どの人には学もない。このような場ではわかりやすい対価が一番楽ですし……私は、貴方とゆっくりとお話出来る場所が早く欲しかった」

 

「おや? 感謝の席だと聞いたのだがな」

 

「言葉の綾です。感謝の気持ちも当然ながらありますよ」

 

 それこそ信じられないがな。

 宗司は内心でそうぼやきつつ、ナイルの対面の椅子に腰かけた。

 

「では改めて……先程はありがとうございました。おかげ様で悪漢に乱暴されなくてすみましたよ」

 

「そういうのは止めろ。ったく、分かりやすい殺気をぶつけたのは、お主も俺がそれなりだと悟ったからだろ?」

 

「……えぇ。貴方がこの街に訪れたのを見ていましたから。とても大きく綺麗な女性の肩に乗っていたので、とても目立っていましたよ」

 

「あぁ、そういうことか」

 

 いくら人ごみがあったとはいえ、クロナの肩に乗っていたとなれば目立っただろう。その時にこちらに目を付けたということか。

 宗司がそう考えている間に、ナイルはさっさと注文を済ませていた。

 

「こちらで適当に決めましたが、よろしかったですか?」

 

「すまぬな」

 

「お気になさらず、何か考えている様子でしたから……さておき、今更誤魔化す必要も無いので言いますけれど、私はある目的のためこの街に訪れました。その時、偶然見つけた貴方に惹かれて、本日はこうして一芝居打ったというところです」

 

「単刀直入だな。だがお主の目的とやらを置いといてこうして道草を食ってよかったのか?」

 

「そこはお気になさらず。そう、私の目的は既に達成されましたから」

 

「何?」

 

 訝しげにナイルを見据える宗司は、どういうことだと問いかけようと口を開き、それよりも早くナイルは言葉を発していた。

 

「転移パスが使えない理由を、ご存じでしょうか?」

 

 その瞬間、宗司が剣呑な雰囲気を纏った。

 だがナイルはその刺すような気配に感づきながら、笑みを崩すことなく言葉を続ける。

 

「先日、といっても一週間は既に経過していますが、王都を襲った未曾有の大災害。原因は不明である、というのが巷の噂ですが、実際は既に調査は行われており、今回の事件は恐るべき魔術、あるいはスキルによって行われた犯行だとされています」

 

「それで?」

 

「私、犯行現場には先日訪れていまして。荒れ果てた大地を見ればそこで戦争の如き何かが起きたのはすぐに分かりました。そしてそのような惨状の跡に、簡素ながらお墓が幾つも作られている……となれば、その戦場を作り出した何かが生きている可能性は高いと私は判断しました」

 

 吐き出される殺気は充満の一途を辿っている。沈黙を保ちながら、刀のように鋭利な殺気を放つ宗司と、笑顔からにじみ出る殺気を隠そうともしないナイル。互いに殺気を制御して眼前の相手しか感づかないように仕向けているが、両者の間でぶつかり合う気配は流石に隠すことは出来ず、料理を届けた店員が得体のしれない気配を感じて顔を青ざめさせていた。

 切っ掛けがあればすぐにでも両者の殺気は爆発する。

 だが周囲の人間は巧妙に隠された殺気の正体を把握できず、只いきなり店内が冷たくなったような感じに首をかしげるばかりだ。

 

「もしも、生きていたなら、どうするつもりだ?」

 

 宗司は既にいつでも抜刀出来るように刀の鯉口を切った。

 返答によっては、斬る。

 場所など関係ない。

 むしろ、周りなどどうだっていい。

 この距離ならば、俺は、斬る。

 その、有無を言わさぬ鋼鉄の意志を前に、ナイルは一層笑みを深くし。

 

「素敵ですわ、ソォジさん」

 

 

 

――――

 

 その言葉を皮切りに、二人は互いの前に引かれた死線を踏み越える。

 二人の達人による踏み込みの衝撃で天井高くテーブルが飛び上る中、互いが自慢とする必殺を解き放つ。

 音を裂く刃。

 音を貫く拳。

 そして、ナイルの小さな拳は、その見た目に似合わぬ速度と力をもって宗司の顔面に炸裂する。

 躱す余裕などなかった。

 予想以上。

 あるいは、予想通り。

 だからこそ、同時に振りぬいた刃がナイルの胴を真っ二つにした手ごたえに宗司は歓喜する。

 ナイルも同じく歓喜の笑みを浮かべながら、裂かれた腹より溢れた臓物と血潮を床にぶちまけ、宗司も弾けた脳漿を四方八方にまき散らした。

 

 ――ここに、必殺の応手は結実する。

 

 それはあまりにも呆気なく、だが何よりも壮絶な死闘の結果。

 宗司とナイル、この戦いは両者の想像通りに絶命という形で決するのであった。

 

――――

 

 

 

 

 ――そんな妄想(地獄)はここまでにして。

 

「……では、乾杯といくか」

 

「えぇ、そうですわね」

 

 互いが思い描いた夢を言葉にせずとも共有して、今は手にしたグラスを合わせる。

 だけどいつか(・・・)

 

「ここではない、何処かで、ね?」

 

「うむ。遠くない今に向けて」

 

 いずれ斬る(殺す)

 

「「乾杯」」

 

 言霊ごと、グラスの中身を二人は飲み干した。




次回、改宗と祈りのポーズ。

例のアレ

ナイル・アジフ

西暦20XX年生まれ。素手で超大国と渡り合ったという、分かりやすく言えば某地上最強の生物が狂信者になったような女性。
基本的に可愛いあるいは美しい女性や同等程度の強者、そして異教徒(この範囲が広い)が相手でなければ、人柄もよく穏やかな性格の美人。ちなみに無神論者には軽く勧誘する程度。なお、色んな宗教を使い分ける者が多い日本人のことは「ナイス混沌」と好印象だったりする。特に宗教的イベントをただのどんちゃん騒ぎにしているところとか超喜んでいる。
本来であれば寝て起きるだけで一財産を築く程の幸運の持ち主だったが、とある理由によってステータスの幸運に膨大なマイナス修正がかかっている。

神を殺戮することが人生の目標。
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