臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について 作:トロ
宗司によって己の世界を崩されてからこれまで、メイルは愚直に宗司の言葉に従って鍛錬に励んできた。
宗司の言葉は難解であり理解するまで時間がかかるし、剣を交えて行う稽古はいつも痛くて辛くて泣きそうになるけれど、別にそのことに対して疑問があるわけではない。
だがメイルは宗司のおかげで自分が以前よりも強くなっていると思う。だから宗司の言葉はどんなものでも頑張って理解しようと心がけてきた。
(生き残るってどういうことだろう)
先程、ナイルが「この調子で走ってると疲れてしまうので、クロナさんに拾ってもらいますわ」と言って離れてから、宗司の背中に付き従って走るメイルはずっとその言葉について考えていた。
自分に使える全てを使い、木の根に齧りついてでも生き残る。
言葉通りに考えればいいのかと思うのだが、捻くれものの宗司のことだ、きっと裏があるのだろうとメイルは思っていた。
「そう根を詰めるでない。よく考えるのはお主の良いところだが、
そんなメイルのことを見ることもなく察した宗司の助言に、メイルは小さくない照れくささを感じて、赤く染まった頬を軽く掻いた。
「なんか、ごめんなさい」
「気にするな。初めての殺しは一人でこなした。しかし戦場というのはちと特殊でな、こればっかりは慣れた者が近くで色々教えるのが一番手っ取り早いというもの……戦場には独特の匂いがあり、無数の闘争によって生じる流れが幾つも存在する。全てを感じ取れとは言わん。まずは生き残り、『こういうものなのだ』と肌で知れ」
こういうものとは、どういうことなのだろうか。
相変わらず難解な言い回しにメイルは再び思考の渦に入りかけるが、それもすぐに目の前に広がる開けた空間に飛び出したことで戻ってくることが出来た。
「ここは……」
今まで走ってきた場所から一転、ここだけぽっかりと穴が空いたように四方数十メートルはあるかという広場だ。
「誘導と言うわけだな」
宗司は広場の周囲に視線を巡らせながら、面白そうに喉を鳴らした。
周囲一帯から気配はしない。しかし、逆に気配を完璧に殺しているために生まれているぽっかりと空いた空間を宗司は把握して、そこに誰かが居るのだろうと瞬時に察した。
獣を狩るだけならそれでいいだろう。しかし、気配を殺すという技術だけでは、その間を見切る感覚を持つ宗司相手では些か以上に不足している。
「誘導ってどういうことですか?」
メイルも宗司が広場に踏み込まないのと、その視線が周囲に散ったのを見て、警戒心を強めながら問いかけた。
良い兆候だ。宗司は素直にそう思う。自分の力だけでは足りぬから、宗司という指針をもって知ろうとするのはこの場では最適解である。
「……正しくは誘導ではなく、幾つか存在する道を闇雲に走ればここに到達するといった話なだけだがな。乱雑に見えながらその実、ここまでの道は全て指向性をもたらされていたというわけだ」
広大なガイア大樹海だが、人が侵入するとなるとその経路はかなり制限される。その中の幾つかの道を、さりげなくこの広場に行けるよう仕向けていたのだろう。
おそらく、ラインを出てからの道すらも全て誘導されていたものなのかもしれない。用意周到な罠は全て、今周囲を取り囲む者達、この大樹海を住処とする戦闘民族カリスが侵入者を殺すためだけに作り出したもの。
そう思うと、歓喜が後から湧いてくる心地になるものだ。
「ということは、ソウジさんはわかっていてあえて道に乗ったのですか?」
「そういうことになる」
「でも、どうしてそんな危険な方を?」
「道楽ついでの鍛錬だよ」
宗司はメイルの問いに気軽に答えると、やはり同じく気楽な感じで広場の中央に向けて歩みだした。
その背中にメイルは真剣な表情で周囲を警戒しながらついていく。
夕暮れは既に過ぎ、周囲は暗闇が支配し始めていた。視界を照らすのは満点の星空と蒼く輝く三日月ばかり。
その光を照り返す鈍い鋼の煌めきを誇示する宗司は、周囲を見渡して口を開いた。
「俺がお主らに気付いていることも、気配を完全に殺す程の技量を持つお主らならわかっているだろ? まっ、だからといって姿を晒せというつもりは――」
宗司の真正面から矢が幾つも襲い掛かる。
その一切を造作も無く斬り払って、挑発するように鼻を鳴らした。
「――毛頭ないがな」
嘲るように、肩を竦める。
確かに速度は目を見張るものがある。しかも放った瞬間も気配を完全に殺しているのだから恐れ入る。
「しかし、これで俺を殺せると思っているなら……少々、不愉快だのぉ」
この世界の住人は、総じて身体能力で宗司を遥か上回っている。
そこから放たれる数々の技の冴えは、掠るだけでも致命は必至だろう。しかもそこに加わる魔術やスキルといった異端の技は、対応するのも少々面倒だ。だが、あくまで威力のみに特化したこの世界の技は、宗司、そしてナイルからすれば幼子が振るう鉈のように、危なくはあるが恐れる程のものではない。
魔という術に溺れすぎ、業の冴えを失った者達。
宗司がこの世界での少ない戦闘で得た答えはそれだ。
「俺を獣と勘違いするなよ? 獣と同じく牙もあり、爪もあるが……俺には業が一つある」
半生を注いだ武の冴えが、魔という超常に劣るはずなどはない。
その自信を全身から漲らせる宗司は、返答代わりの矢の洗礼を軌跡すら見えない斬撃で全て斬って捨てた。
「めいる! 言葉を忘れておらぬな!?」
「根っこ! ばりばり齧ります!」
「その意気だぞ我が弟子よ!」
背中越しの元気な声に宗司は破顔一笑すると、見上げた夜空の星々に重なるように、無数の点が伸びていった。
つられて見上げたメイルは、その正体――、広場全域を埋め尽くすだろう数の矢の雨に気付き目を見張る。
猶予など何処にもない。
思考する暇なんてもってのほか。
「う、うわぁぁぁぁぁ!」
戦争が始まったのだ。
迫りくる死の奔流に抗うように叫ぶメイルは、広場の隅目掛けて走り出した宗司の背中へ、生き残るために必死で追従を始めた。
風を操る魔術によって、天高く上った矢は矢じりを真下に向けて、弾丸のように螺旋の回転をしながら降り注ぐ。狙いは宗司とメイルが居る広場の全て。狙いを定めるのではなく、避ける隙間を与えぬためのやり方だ。
本来は巨大魔獣の全身へダメージを与えるために行う手法であるため、人間二人に使うにはあり得ない規模であろう。
だがそれをさせたのが宗司の技量であり、結果としてとばっちりを食らう形になったメイルからすれば、まさに生きた心地等しない数秒間が始まったのである。
「わわわわわ!?」
「聖剣の腹で頭と体は守れ!」
混乱するメイルに檄を飛ばしながら、宗司はメイルに当たる矢も含めて、己に降り注ぐ矢の全てを一刀の元斬り捨てた。
木製で出来た箆の部分は当然、鋼鉄で出来た鏃すらも問題なく斬ったところで、二人の周囲に矢が突き刺さる音が幾つも響き渡った。
一つ一つは小さいが、数十メートルもある広場一帯に重なればそれなりの騒音。戦場特有の音色に懐かしさを覚える宗司と、明確な死の音色に喉を引きつらせるメイルは対照的だ。
だが宗司はメイルに何か助言をしようとは思っていなかった。
どうせこの娘のことだから直ぐにでも慣れる。歪な信頼にメイルがどう応えるのかは分からないが、喚き散らす元気があるなら問題ないだろう。
「こ、こわ!? ソウジさん! 今、私死にましたよね!?」
「阿呆、ちゃんと生きておるから心配するな」
「ホントだ! まだ生きてる!」
「……慣れるの、早いのぉ」
いつまでも死の恐怖に涙するよりは遥かにマシではなるが、今度は気分が高揚しすぎて可笑しくなっている。
こいつに限っては先に明鏡止水でも至らせたほうが良いかもしれん。
続いて前面より宗司の全身を飲み込む程の矢数を、刀の圏内に入った瞬間斬り落としつつ、一瞬もこちらの背中から目を離さないメイルの今後の育成方針を思考する。
「まっ、これも余裕か」
焦る程の相手ではないのは事実。敵の隠れた樹木の一角に迫った宗司は、地を駆ける勢いをそのままに、人の胴五つ分はあるだろう樹木を一刀した。
豆腐でも斬るように巨大樹木を斜めに斬れば、当然重力に従って斜めに木は傾いた。
その時、宗司が斬った樹木の影より四つの影が落ちてきた。
「来たか、蛮族……!」
蛮族――カリスの面々は弓を肩にかけ、腰より引き抜いた鉈のような刃を構えて宗司とメイルの周囲に降り立つ。
あの状態から器用にこちらを取り囲む動きはさながら曲芸師か何かか。それよりも腰構えで刀を構える宗司の背中、緊張を漲らすメイルの様子の方が面白いと思った。
「気を抜け。流れを見定めろ」
「は、はい!」
「では、瞬き数回分持たせろよ!」
「え!?」
言うや否や、宗司はメイルの背中より離れて真正面のカリスのハンター目掛けて飛びかかった。その動きに呼応して宗司へと走り出した数は三つ。
内、メイルの真正面の男は、当然のようにメイルへと襲い掛かってきた。
「ぃ!?」
メイルの目から見れば、男の動きは体を吹き抜ける突風のようだった。
つまり、全くもって目で捉えられない。洗練された動きで、地を這う蛇のようにメイルの懐へと飛び込んできた男は、何か告げるでもなく問答無用で右手の鉈を突き出した。
先程の矢の襲撃があったせいか、聖剣の腹を前に向けて構えていたおかげで、反射的に動かした聖剣は辛うじて鉈の刺突に掠ることが出来た。
しかし力で圧倒されているメイルでは防ぐこともいなすことも出来ず、抵抗虚しく両手より弾かれた聖剣を抜けて、それでも僅かに逸らされた鉈の刃が右肩を深々と抉った。
「ぎゃ!?」
「……死ね」
激痛で咄嗟に傷口を庇ったメイルへ、無言を貫いていた男が流れるままに鉈を振り下ろす。
男の言葉は真実だ。何の抵抗も出来ずにメイルの命へその刃は届くだろう。
だが、メイルが考えているのは宗司の言葉だけだった。
生き残る。
根っこを齧る。
そういえばさっき、気を抜いて流れを見定めろと彼は言っていた。
「つまり?」
力を抜けばいいのだろうか。
確実な死の間際、メイルは真剣にそのことに疑問を走らせ、とりあえず力を抜いて前のめりに倒れた。
「ぬっ?」
「お、死んでない」
自然に倒れたメイルの体は、放たれた鉈の軌跡を掻い潜り、男の胸元に顔から突っ込む。
力を抜いたら死ななかった。
殆ど運の要素が占めていたが、少なくともメイルからすれば宗司の言った言葉通り、気を抜いたら僅かだけれど生き延びた。
だがこれまで。
次の男の一手に抵抗できるわけも無く、返しの刃で今度こそメイルの命は――。
視界を染める真っ赤な色。
「よし、瞬き数回分、生き延びたな」
見上げれば、男の首は無くなって、その切り口より夜空に向けて多量の真紅が迸っていた。
メイルが流血で染まった視界で振り返れば、既に襲い掛かってきたハンター四人を葬った宗司が満足げに見ていた。
それは純粋に弟子の成長を喜ぶ師の顔。
間違いなく、戦場で浮かべていいものではない。
「へへ、ありがとうございます!」
しかし、喜ぶことが悪いわけではないだろう。
メイルは痛む肩を抑えながら振り返る。痛みで浮かんだ涙は、敵手の首より流れる血潮で全て洗い流されていた。
そして返される真紅の笑顔。
それは決して素晴らしいものではない。幸運が呼んだ奇跡的な生存で、彼女が意図して手にした結果の末ではなく、誇れるものではないけれど。
だからこそ、美しい。
狂気に浸りし破顔一笑。宗司もまた、メイルの見せる狂気の一端に清々しい喜びを湛えたのだった。
「その意気やよし、っと」
だが、メイルの笑みにいつまでも見惚れている時間は無い。その間にも放たれた矢を片手間に斬った宗司は、夜に照らされる淡い燐光を敏感に察知した。
魔力の輝きと、擦れる木々のざわめきに隠れて紡がれる詠唱が、幾多の魔術となって空を飛んだ。
それがどういったものか確認する必要などない。分かりやすい質量。黒光りする円形こそ。
「でかい泥団子!?」
「しかも無数でデカいとなると……壮観だのぉ」
「そんな呑気な――」
「ほれ下がれ」
「ぎゃー!」
宗司に襟首を掴まれて後ろに投げられたメイルは、天を埋め尽くす泥団子の猛威に絶叫した。
矢の代わりに人間一人の見込める程の巨大な土の塊が降り注ぐ。単純明快な質量の脅威に対して、真正面から刃を構えた宗司は、手近の巨大泥団子から真っ二つに斬り捨てた。
中心から別れた泥団子は二人の間に着弾する。震える大地はそれだけで充分な破壊力を十二分に伝えてきた。
「ちっ……面倒で面妖な」
魔術の妙には慣れたつもりが、こうも非常識だと呆れるしかない。
その間にも一気呵成と飛んでくる泥団子の砲撃に宗司は舌打ち。再度、直撃するものだけ斬ったところで、斬り伏せた死体に目を送った宗司は、突如頭に閃いた明暗に口を緩めた。
「めいる! 後ろに下がれ! 森に紛れればおそらく直撃は大丈夫なはずだ!」
「ソウジさんは!?」
「鷹の爪を見せつける!」
そう言って、宗司は手近の死体の横に落ちていた弓矢を掴みとると、その場で矢を一本番え、泥団子砲撃の隙間から、魔力の輝きへと狙いを定めた。
先程までは大体の位置しかわからなかったが、これで明確な位置が文字通り目に見えた。
強化を前提としているためか弦が重い。並の力自慢では引くことも叶わず、宗司であっても限界まで引き絞るのは難しいだろう。
だが足りない力は、聖剣の速度すら凌ぐ脱力の応用にて補ってみせる。
急激な虚脱からの最高の力みによって得られる一瞬の出力上昇で弦を引き絞った宗司は、限界まで弓を反らすと同時に矢から指を離した。
「……シッ!」
浅く吐いた呼気と共に、泥団子の間を縫って宗司の放った矢が魔力の一角に突き刺さる。当たったかどうかは一目瞭然。微かに見える魔力の輝きが消えうせたのを確認した宗司は、立て続けに矢の在る限り流れるように、森に潜むカリスのハンター達へ弓矢を掃射した。
一閃。
一閃。
一つも撃ち漏らすことなく必中の矢はハンター達を葬っていく。しかも、その間にも迫る泥団子を斬ることもなく、微かに空いている隙間を縫って前進しながらだ。
「す、すごい……」
その動きに、ここが戦場であることも忘れてメイルは見惚れていた。
自分に語った通り、あれが流れを見切るということなのだろう。直撃しそうな泥団子を髪や服に擦らせる程ぎりぎりで見切り、躱し、止まることなく矢を放ち、その全てを当てていく。
技術に裏打ちされた必殺と絶対回避。さながら広場と言う舞台と相まって、宗司が見事な演舞を見せているかのようだった。
刀のように美しく、刀のように恐ろしい。
冷え冷えする様を眺めるメイルは、泥団子の掃射が終わってから数秒ほどしてようやく気付く程呆けていた。
慌てて気を引き締める。呆けている時間は無いと宗司は言っていた。ならば今自分がすることは、生き残るために最善を尽くすこと。
どうすればいい。自分では宗司と違って周囲に敵がいるかどうかなんて分からない。ここならば泥団子や矢の掃射はある程度凌げるが、夜闇と草木が相まって視界を完全に潰されたこの状況、奇襲を受ければ即死は確実。
生き残るためにはどうすればいい。
そのために、宗司と離れたこの場所は危険すぎる。
「ソウジさん!」
気付けば反対側まで走っていた宗司の下へメイルは走り出した。姿を晒す危険はあるが、このまま待っていたとしても相手がこちらの方が御しやすいと思って、襲い掛かる危険だってあるのだ。
宗司が来るのを待つか、宗司の下へ走るか、メイルは後者を選択した。
だがそれは勿論悪手。初めての戦場で冷静でいられるわけがなく、メイルは最も安直な手段に縋ってしまったのだ。
一応の安全を確保したからこそ宗司はメイルを置いて前に飛び出したのである。
決して、そこから飛び出してついて来いとは言っていないのだ。
「めいる!?」
だから、己を呼ぶ声に振り返った宗司はメイルの愚行に目を見開いた。
しかしそんなことは知らないメイルは、不細工ながらも狙われる表面積を小さくするため、体を丸めて地面を這うように走り、体の前面は聖剣でカバーした。それでも心もとなく、広場に踏み出した瞬間は生きた心地がしない。
宗司は、反射的に手にした弓矢を引き絞り、焦りからか広場に漏れてきた敵意を頼りに残った矢の全てを出し惜しみせず放ってその愚行を援護した。
それでも全てを射抜けるわけではない。メイルを狙う必殺の矢の数々が降り注ぐのを見て、宗司は歯噛みしつつも再度広場へ戻るために踵を返す。
そんな宗司を阻む形で、付近に控えていたハンター達が一斉に降り立った。
「邪魔を……!」
無言で襲い掛かる彼らを、宗司は虫を払うように一閃して散らす。それによりハンターが稼げたのは僅か数秒。しかし、メイルを矢が襲うには十分な時間。
「めいる! 伏せろぉ!」
宗司の咆哮に反射的に反応したメイルは、走るのを止めて倒れるように地面に伏せると、言われた言葉を思い出し、聖剣を頭上にかざして頭と背中の一部を隠した。
だが、決して全てを隠せているわけではない。
二度の奇跡は起こることなく、聖剣では隠せずに露出したメイルの体を、ハンター達が放った矢が幾つも貫いて大地に縫い付けた。
「ぎ、ぁぁぁぁぁぁぁ!?」
仮に魔術で強化されていなかったら、突き立った部分の周囲の肉と骨が爆ぜる程の威力の矢が十本近く、隠せなかった両腕と両足、そして背中の部分に鏃は深々と突き刺さっている。何とか繋がっているが、体を走る痛みは想像を絶するはずだ。
四肢を捥がれるような痛みの中、握った聖剣を手放さなかったのはメイルの強固な精神故か。だがいつまでももつものではなく、気を抜けば意識何て簡単に吹き飛ぶだろう。
間違えた。
間違えてしまった。
あの場面はあそこで待つのが最善だった。
痛みで霞む意識を繋げるのは、選択を誤った後悔とそれに付随した己への憤りだ。
たった一度、上手く切り抜けただけで調子に乗った愚かがこの無様である。
悔しさから血が出る程歯を食いしばって意識を保ち、メイルは無慈悲にも放たれた追撃の矢を睨むことしか出来ず。
「それ以上は、やらせるものかよ……!」
その窮地を、僅かに息を弾ませる宗司が救ってみせた。
やはり圧倒的なその剣速と歩法の鋭さ。一秒も経たず広場の中央に戻った宗司の背中を見上げるメイルは、痛みではなく申し訳なさから目じりに涙を浮かべた。
「ソ、ウジ、さん。私……ごめ、な、さ」
「話は後だ……待てと言わんかった俺の落ち度もあるな」
短い戦いの中で、自分だけなら容易く葬れる相手であると判断した余裕。そこから生まれた慢心がメイルの今の惨状の一端だ。
自分が優位だと分かると遊びたくなるのは悪い癖だな。
先の聖剣戦の時と同じで、自分だけがいいと考えていると周囲が被害を受けるということ。
折角の逸材をこんなところで手放すわけにもいかないだろう。
メイルの見せた狂気の一端は、宗司からすればいずれ極上へとなるものだ。
さながら、漬けたばかりの漬物だがな。
食べるにはまだ早い。宗司はそこまで考えて、再び余計なことを考えていることに気付き、内心で小さく己を詰った。
「だが、ある程度奴らの強さを掴めたの事実……おい、めいる。生きてるか?」
「な、なんとか……でも、っう……ごめんなさい、両腕と両足、すっごい痛くて動かないです」
「気にするな。行動の是非を素人に問うのも野暮というもの……むしろその傷で刀を離さぬ気概を俺は買うぞ」
宗司がメイルを庇っているのを好機と見たか。今度は矢と泥団子の相乗攻撃が話していある間にも降り注ぐ。
一刀で斬るだけでは最早足りない。刃の圏内に入るものから全て粉々に斬り捨てつつ、宗司は痛みの中で疑問を浮かべるメイルへと振り返り。
「というわけでお主、ここから先は一人で頑張れ」
「え?」
今も投下されている矢と巨大泥団子の豪雨よりもさらに強烈な爆弾発言に、メイルは痛みも忘れて言葉を詰まらせるのだった。
次回、その才覚を