臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について   作:トロ

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第十七話『理解出来ない、才覚を』

 

 

 

 

 砕けた泥団子と突き立つ矢の列。土のみが広がっていたその広場は、ものの十分程度で軍隊が激突し合ったような環境に様変わりしていた。

 だがそこで起きていた戦いの火も、今は森の奥地へと鋼の音と共に遠くなっている。

 剣戟は遠い。

 その音の遠さが、宗司と己の今も広がり続けている明確な差であるとメイルは思った。

 

「……う、あ」

 

 倒れ伏すメイルの周囲だけは、空間ごと切り抜かれたように矢も泥団子の破片すら落ちていない。綺麗な円がそこだけ描かれた場所で指一つ動かさないメイルは、辛うじて残る意識の中、油断なくこちらに接近する影を耳で捉えた。

 後は一人で何とかしろと言った宗司は、広場の周囲を満たしていたカリスのハンターを引き連れて森の奥に消えている。彼らも宗司こそが最大の脅威と悟ったのか、その兵力の半数以上をそこに向けたのだ。

 だが未だ残ったカリスのハンターの一部が、こうして確実に侵入者を葬るためメイルのところにやってきた。

 たったそれだけの話。

 絶望的な話だ。

 だがメイルの虚ろな瞳は、遠く奏でられる剣戟のほうへだけ向けられている。明確な死が迫っているというのに、どうしてかメイルはその調が気になって仕方なかったから。

 

「ソウジさん……」

 

 生き残れと言った。

 ありとあらゆる全てを使って生き残れと宗司は言った。

 

「……生きる」

 

 四肢には矢が突き刺さっている。

 激痛は絶え間なく、指先を動かすだけで全身を刺されたような痛みが駆け抜ける。

 

「生きる、かぁ」

 

 だがメイルは痛みを押し殺し、痛みに顔を歪めながらもゆっくりと体を起こした。

 土に縫い付けられた腕と脚は強引に引っこ抜く。貫通した傷口を刺さった矢が擦る痛みは筆舌し難い。

 だが、痛みはもう、知っている。

 

「生きるんだ」

 

 屋敷で起きた惨劇。

 己を育ててくれた者達の死。

 肉体の痛みよりも遥かに過酷な心の裂傷。

 喪失より生まれる激痛を、メイル・リンクキャットは知っている。

 

「生き残れって、言われた」

 

 泥団子の残骸に潜むカリスのハンター達は臨戦態勢に入っている。その手に握った弓矢はいつでも対象を射抜く用意が出来ていた。

 起き上がり、立ち上がったところで意味は無い。

 カリスのハンター一人相手ですら、幸運を手繰り寄せても瞬きの間生き残るしか出来なかった少女に何かが出来るわけがない。

 さらに、カリスのハンターは相手が手負いで、しかも己よりはるかに弱い相手でも、決して油断しない者達しか存在していなかった。

 影に潜んでいたハンターの一人が矢を放つ。

 銃弾の速度すら超える矢は、螺旋を描きながら真っ直ぐに飛び――違うことなくメイルの心臓を貫通した。

 

「ぐ、は……」

 

 背から入った矢が胸を突き抜け反対側にあった残骸に半ばまで刺さる程の破壊力。抵抗する間もない。一瞬で心臓を壊されたメイルの目が裏返り、その口から血を吐き出しながら前のめりに倒れこみ。

 

「は……はは」

 

 メイルは大地に触れるその直前で足を踏み出した。

 その光景に影に潜んでいたハンター達に動揺の色が僅かに滲む。心臓を確実に潰したにも関わらず、生きているのだ。自然の摂理に反する異常を見ては、百戦錬磨のハンターと言えど混乱するのは無理も無い。

 そんな彼らの動揺を肌で感じる。聖剣を握った手の甲で口の血をぬぐったメイルは、次の瞬間、常軌を逸した魔力をその体から解放した。

 夜の世界に昼が生まれたと見間違える規模の魔力。天高く伸びる白色の魔力量は底など見えず、人一人が扱える量を遥かに逸脱している。

 

「『大いなる慈愛の歌声よ、罪深き我らの業を払いたまえ』」

 

 その魔力を片手間に操ったメイルが口ずさんだ詠唱は、回復系の最上位に当たる究極の魔術の一。

 空高く伸びた魔力の全てがメイルの小さな体に凝縮していき、あらゆる怪我も病も回復する魔術は、体に突き刺さった矢を体から引きはがし、空いた穴を瞬時に回復させた。

 

「うん。完璧」

 

 メイルは手の握りを確かめるように拳を作りこみ強く握りこむと、『抜き身の聖剣』を両手で構えた。

 

「根っこ、齧らせてもらいます」

 

 宗司は居なくなる直前に、メイルの聖剣の封印を解放してからその場を後にしていた。

 鞘の封印さえ解放すれば、正式な担い手でも聖剣が使えるのはスニークスとの戦いで証明済みである。それは聖剣の守り手として選ばれたメイルも同じであり、仮初の主に選ばれた今のメイルは、宗司とスニークスが感じたのと同じ全能感で体が満たされていた。

 最早、この力があればカリスのハンターと言えど恐れるに足りない。聖剣の加護を得たメイルの力を感じて、周囲の影の動揺と警戒が強まっていくのをメイルは察した。

 

「でも……これじゃ、足りないんだ」

 

 周囲に気を張りながら、メイルは聖剣と力を得たことで、ようやく頂すら見えなかった宗司がどれほどの領域に居るのか理解した。

 メイルという小さな物差しでは測れなかったものが、聖剣という宗司と戦える力をもった武装を得ることで悟る。

 宗司の力はこの世の理を逸脱する何かだ。

 今のメイルでは決して届くことのない神如き領域に立つ、修羅だ。

 

「足りないから……足りないよ」

 

 聖剣では足りない。

 聖剣ではこれ以上は望めない。

 どんなに聖剣を巧みに扱えたとしても、変わることのない力ではいずれ地力の限界が訪れることをメイルは分かったから。

 

「だから、強くならないと」

 

 聖剣では届かない領域に立つ方法は、一つ。

 

「私が、強くならなきゃいけないんだ」

 

 覚悟を一つ。小さな一歩。

 しかし嬉々とし地獄へ勇め。

 吸い込まれるように飛びかかってくるハンター達を見据え、メイルは感じるままに足を踏み出した。

 例え宗司に届かないとしても、聖剣より得られる力と、刻み込まれた技量が合わさることで得られるものは桁違いだ。メイルを囲むように飛びかかったハンター達、まず真正面から来た男との距離を瞬きの間もなく埋める。

 反応させる暇すら与えない。上段より一直線に振りぬいた聖剣は、空気を裂くよりも容易くハンターの体を真っ二つに斬り裂いた。

 

「駄目だ……!」

 

 常人では届かない力の発露。

 だがメイルの顔に浮かぶのは苦渋。

 

「これは、私の力じゃない……!」

 

 身体に纏わりつく、全能感という違和感。今なら、宗司が聖剣を苦手とした理由が文字通り身に染みて分かった。

 聖剣によって作り変えられた肉体は、脳髄に刻まれた技術を元に最適の動きを選択し、担い手に行わせる。

 そこにメイルが練り上げた力は存在しない。全てが最高最適、この世界における限界を極めた技の冴えは、それゆえに違和感が付きまとうのだ。

 欲しいのは自分だけの力と強さ。

 借り物の全能ではなく、己の血と他者の血で積み上げた(ことわり)

 

「だから……」

 

 背後より迫る弓矢を知覚し、振り返ることなく体捌きで躱したメイルは、聖剣よりさらなる魔力を放出して、己の体に纏わりつかせた。

 さらなる力の発露にハンター達がいっそうの警戒と、魔力の網を使った連絡で援軍を要請する。

 だがそれは違う。膨大な魔力を纏うメイルが再度動き出した時、ハンター達は別の意味で小さくない驚愕を見せた。

 

「はぁ!」

 

 一番傍にいたハンターへと踏み込むメイルの動きがあまりにも『遅い』。

 あの踏み込みと上段からの一閃が幻でもあったように、逆に困惑してしまうほどメイルの動きからは速度と膂力が失われていた。

 当然、稚拙な動きからの一撃ではハンターを捉えることは出来ない。容易に躱された動きに合わせて振りぬかれた鉈は、当然の如くメイルの鎖骨を砕き、そのまま地面にたたき伏せた。

 静寂。

 何が起きたのか理解できないハンター達が、それでも警戒をしながらメイルから数歩離れた場所で様子を伺う中、跳ねるように起き上がったメイルは再度、稚拙な動きで聖剣を手に飛びかかった。

 

「一回目ぇぇぇぇ!」

 

「ッ!?」

 

 鎖骨を砕かれ、肺腑も裂かれたはずのメイルの肉体の傷は完全に癒えている。聖剣より常時肉体にかかる回復魔術によって、スニークスがそうだったように、メイルもまた即死程度であれば一秒も待たずに復活出来るのだ。

 だがスニークスと違うのは、メイルはメイルの意志で聖剣を握り、その膨大な魔力を用いて、あろうことか『己の体に状態異常魔術を使用している』ことにあった。

 

「やぁぁぁぁ!」

 

 その結果、メイルの肉体は聖剣を使用する前の己の状態と同じところまで低下した。聖剣よりの加護は回復能力のみ、それ以外を全て省いた今のメイルは、殆ど不死身に近い肉体を持っただけの少女でしかなかった。

 だから、二度目の太刀も掻い潜られ、返す刃はその上半身と下半身を分断する。

 

「二回、目……!」

 

 しかし、己の体が真っ二つにされるという、その事実を認識するだけでショック死しそうな致命傷を受けながら、口より血を吐き出しつつもメイルは嬉しそうに笑ってみせた。

 これでいい。

 これがいい。

 どこまでも不自由で、聖剣を使わなければ、自分の実力なんてこの程度。

 この無様が己。嘲笑されるべき現在から、メイル・リンクキャットを始めよう。

 

「生き延びて、根っこ齧って……でも、流れを読まないといけないから、全能感はいらないの」

 

 宗司の言葉を実践するためにメイルが行き着いた答えがこれだった。

 生き残る。

 そして、戦場の流れを感じる。

 そのためにありとあらゆる方法を使用する。

 

「これで私は……何度でも戦える」

 

 実戦に勝る経験は何処にもない。

 弱いばかりの自分のまま、圧倒的な強者との絶望的な戦いをいつまでも行えることが、メイルは嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

 

「奇怪な……! 撃ち殺せ!」

 

 死んでも死なず、死んでも笑う。

 狂ったようなメイルへの嫌悪を隠すことなく、ハンターの一人が号令を下せば、即座に無数の矢がメイルに降り注いだ。

 

「は、ははははは!」

 

 メイルは宗司がしていたように、矢の雨に存在する流れを見切り、その流れに乗るため、逃げることなく踏み出した。

 宗司が何を言っていたのかよく考えろ。

 これまでの稽古で培った全てを使って解答を弾きだせ。

 

「ぎ、いがぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 稚拙な眼で見つけた隙に体を滑らせる。そして感じるままに刃を振るったメイルは、それが必然であるように数本矢を弾いたところで、その全身に矢を浴びて絶叫をあげた。

 だが、刺さったところから回復によって矢は体から落ちていく。その回復箇所に再度矢が突き刺さり、そして激痛が矢じりで貫かれる脳髄を刺激した。

 繰り返される絶命と蘇生。

 それでも尚、メイルは聖剣に操られることなく、己の意志で剣を振るい続ける。

 

「はは、痛っ、は、痛い、あはは! 痛っ! あははははは痛ははははは痛いよぉぉぉぉぉ!」

 

 血か涙か分からぬものを、再生を繰り返す瞳から流して、メイルは愚直に聖剣を振るった。

 どんなに体を貫かれても、それだけは手放さない。死と生が駆け抜ける中、生き残るために必要な力、今の彼女にとっての木の根っこである聖剣を、齧りついてでも放すつもりは無かった。

 何せ、死ぬつもりはない。

 だが、折角の機会を聖剣で台無しにするのは嫌だ。

 痛みでぐちゃぐちゃになる思考の片隅で、我儘ばかりの己の思考を自嘲しつつ、次第にその刃が降り注ぐ矢の数は増え、見出した隙に滑り込ませた肉体が貫れる頻度が減っていく。

 それは聖剣という常識外れの武装の加護があるからこその成長だった。

 命を賭した実戦に勝るものはない。

 そして、死線をくぐることで得られる経験値は鍛錬のそれを遥かに上回る。

 だがそこに付きまとう死という絶対にして最悪のリスクが今のメイルには極限まで薄まっていた。

 とはいえ、常人なら何度も即死する痛みを繰り返せば、スニークスがそうだったように十回もせずに廃人になるのは間違いない。

 しかし、メイルは痛みの中で笑っていた。

 決して笑みを絶やすことなく、己の意志で体を動かし続けていた。

 そして、死線を越えて、死線に沈む肉体は覚醒を果たす。

 

「見える!」

 

 降り注ぐ矢の中にメイルだけに見える線が描かれる。その軌跡にそって体を動かし、線上の矢だけを弾いていけば、即死の一撃を逃れられるのが分かってきた。

 推測は予感に。

 予感は確信に。

 今、自分の目に映る軌跡こそ宗司の語るものだと知ったメイルは、こみ上げる喜びに全身を震わせた。

 

「私、分かってきた! 私分かってきたの! 分かるよ流れ! 見えるよ流れ! これがソウジさんの言ってた流れがぎぎゃ痛ぁぁぁぁ!?」

 

 歓喜に飲まれた瞬間、腹部を大きくえぐられた。

 情けない。油断するとは甘い証拠だと、メイルは気を引き締めて再度視界に線を描き出す。

 それだけではなく、その線を辿る体捌きも、無意識ながら徐々に練磨されていっていた。最初は不恰好な動きが、余分を削がれた舞踏の動きへと進化していく。

 さながら蛹から蝶へと羽化したように、今のメイルの進化は劇的であった。

 

「凄い! これ凄いよ! 流石ソウジさんの言っていた通り!」

 

 矢を弾き、地を走り、歓喜に震えて次を定める。

 これでは足りない。

 まだ足りない。

 もっと寄越せ。

 この身を高める、死を寄越せ。

 

「百二十九回だ!」

 

 瞳孔まで開かれたその瞳が、ぎょろりと遠くに立ち並ぶカリスのハンター達へと向けられた。

 

「貴方達のおかげで百二十九回死んだからここまで来たの! だから早く私を死なせてよぅ! もっと知らない技を見せてよぅ! 何度も死ぬから! 何度だって死んでみせるから! 私、全部死んできっと必ず強くなるから!」

 

 だから次を。

 さらなる痛みを。

 終わらぬ死線を私に寄越せ。

 欲するままに嗤う少女――覚醒を始めた新たなる修羅の狂騒には、感情の見えないカリス達ですら、無意識に一歩引かせる凄味があった。

 だが彼らの見せるその恐怖は、今のメイルからすれば失望でしかない。

 

「何? 駄目だよ。早く私に百三十回目を頂戴!」

 

 メイルの求めにハンター達は応じない。死んでも死なず、死なせば強くなり、そして死なすと嗤う怪物を前に、何をすればいいというのだろうか。

 だがそれは今のメイルには関係ない。超え続けた死地が与える高揚感と、強くなっているという実感。

 それを与えてくれる相手がまだ無数といるというのに、どうして我慢できるというのか。

 

「そっちがその気なら、無理矢理にでも私を殺させるから!」

 

 言葉としては滅茶苦茶ながら、メイルは己の言動を疑うことなくハンター達へと走り出した。

 その動きは余分を削られ速くなっていた。猫のような俊敏さで軽々と飛ぶように駆け抜けるメイルを見て、ハンター達も覚悟を決め、腰の鞘から各々鉈を引き抜いて迎撃の構えをみせた。

 

「あは、は!」

 

 その意志に喜びを。再び己を殺すだろう敵の群れの只中へ、メイルは迷うことなく飛び込み、手近の者へと聖剣を振りぬいた。

 ――まずは己の流れを見極めろ。

 そう言った宗司の言葉を噛みしめる。

 漠然と振るうな。

 歓喜の中で、思考はあくまで鋭敏に。聖剣を握る腕だけではない、肩、胴、腰、膝、爪先まで、腕より連動する全ての部位を感じ、どう動いているのかを感じ取る。

 

 ――そうすれば、ほら。

 

「はぁぁ!」

 

 全身をぶつけるような斬撃が、ハンターが掲げた鉈と火花を散らす。先と違って躱されるようなことはなかった。防がざるを得ない速度と力がそこには乗っていた。

 当然、聖剣が与える全能感から放つ斬撃にはまるで届かない。だがしかし、己の力で放った己だけの斬撃の価値は、仮初の力と比べるまでもなくあった。

 これが今の私の斬撃。

 これが私の鋼。

 

「これが、私の全部!」

 

 喜びも束の間、メイルは胸部の激痛と共に、こみ上げる熱血を口から吐き出した。

 振り返るまでもなく、胸より突き出した鉈は背後より襲い掛かったハンターの物。斬撃に酔うあまり、また周囲の流れを読むことを怠ったツケ。

 メイルは痛みよりも己への恥で顔を歪めつつ、鍔迫り合いながらそのまま前に踏み出して突き刺さった鉈を引き抜くと、目の前のハンターが鉈に力を加えた瞬間、聖剣を握る手から力を抜いた。

 ――流れに逆らうのではなく、乗ることも良しと知れ。

 宗司の助言通り、見切った流れを受け流すように逸らせば、無理に力を込めたせいでそのまま前のめりになったハンターに隙が生じる。

 そこを逃さない。

 目敏く隙を捉えたメイルは、抜いた力をそのまま力に転換させ、ハンターの首を聖剣で薙ぎ払った。

 確かな手ごたえは、あの日、死にたくないと懇願した賊を斬った時と同じ。

 肉を裂き、骨を断つ。

 命を斬り取る、本物の斬り応え。

 

「あはっ」

 

 強化された肉体も意味をなさない。振りぬかれた聖剣はハンターの首を斬り飛ばし、痛みすら感じさせる暇も与えず、その命を終わらせた。

 

「やっ……!?」

 

 やった。と言おうとして、真っ直ぐに走ってきた二人のハンターが放つ斬撃がメイルの体を切り刻む。

 

「ぎぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 どれだけ経験しても、死ぬほどの痛みを受けて悲鳴を堪えることは出来ない。だが、絶叫しながら動くことは止めずに、追撃の刃を聖剣で流し、受け止め、吹き飛ばす。

 己だけに腐心すると、周囲の流れを見誤る。

 周囲の流ればかりを見れば、己のことが疎かとなる。

 己を見据え、周囲を読む。

 両方やらなければならないというのが、ここまで難しいとは思わなかった。

 だが、これなのだ。

 

「は、っははは」

 

 喜ぶ暇も無かった。

 周囲には未だ十を超えるハンターの群れ。そのいずれもが、メイルへと冷たい殺気をぶつけてきているから。

 だが、絶望はしなかった。

 何せ、止められないのだ。

 

「もっと」

 

 この衝動は止めたくないのだ。

 

「もっと」

 

 欲するままに、貪り尽くすまで止められないから。

 

「もっと、もっと」

 

 それは、メイルの心の奥底に最初から眠っていた才覚。

 武の才覚ではない。

 魔の才覚ではない。

 足りぬ才を補い余って、人の域を逸脱させるその才覚こそ――。

 

「私、強くなりたいの」

 

 だから殺せ(死ね)

 

 狂い咲く修羅の花。

 理解出来ない才覚を、狂気と人は蔑んだ。

 

 

 

 

 

 そこに辿り着いたクロナは、言葉を失っていた。

 開けた広場には泥と矢の残骸、そして無数の死体がゴミ同然に散らばっている。

 だがクロナはそんなものではなく、広場の中央に立つ者に目を奪われた。

 全身が血で真っ赤に染め、手にした美しい剣からも鮮血を滴らせ、それでも二本足でしっかりと大地に立つそれを見た。

 

「……」

 

 それは空を見上げていた。遥か遠くに浮かぶ、怖いくらいに冷たい三日月を、欲しい駄菓子を眺める童のように見つめていた。

 見上げる視線は何を思うのか。ふと、手にした鋼を抛り捨てて、その周囲を満たす死骸の一つから鉈を奪い取り、それは三日月に鋼を向ける。

 

「うん、聖剣無くても大丈夫……だけど」

 

 少女の形をした何かは、その手に掴んだ己だけの答えに浸る。

 これは自分だけの物。

 誰のでもなく、自分だけが手に入れた、極みへ続く道ならば。

 

「もっともっと、強くなりたいなぁ」

 

 いつか、あの空に浮かぶ月すら斬り裂けるまで。

 死骸に満ちた空間で月明かりを受けて嗤う修羅の様を、クロナは近づくことも出来ずに眺める。

 いつまでも、いつまでも。

 遠く鳴り響く剣戟が終わるまで、クロナはそこから動くことすら出来なかった。

 

 

 

 

 




次回、くーろーまーくー

例のアレ
カリス
アポロン山脈で侵入者を問答無用で殺す役目を担う戦闘狩猟民族。一人ひとりの戦闘力は魔族との前線で戦っている精鋭の兵士達を凌駕しており、もしも彼らが魔族との戦いに参加した場合、今よりも人族側はマシな状態になっていた。
実は魔族側に対する人族にとっての本当の最終防衛ラインがアポロン山脈とカリス達であり、ここが突破された場合人族の敗北は必至。それこそ地形崩壊覚悟で聖剣ビーム連射しか勝ち目はなくなる。

とどのつまり、メビウス王国の内乱と今回の宗司達のカリス狩りによって人族は知らぬ間に詰みを掛けられた。具体的に言うと人族滅亡まで秒読み段階に入った模様。やったぜ。
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