臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について   作:トロ

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第五話『心鉄』

 

 崩壊した店を後にした宗司達は、老人に誘われるがまま、今は貧民街を歩いていた。

 流通街がアバドの光であるなら、ここはまさしくアバドの闇。幼子すら光を失った昏い瞳で世界を見据えている中を、喜色満面の老人を先頭に、見慣れぬ者が見れば布一枚しか羽織っていないように見える宗司と、何処かのお姫様のようなドレスを纏ったメイルが共に歩いている様子は貧民街の住民ですら近づけない異様な集団であった。

 

「そういえば自己紹介が遅れたな。俺は世界中で噂の魔剣職人、泣く子はぶっ殺す男、ダン・ダーレンダンだ。これでも抱かれたい職人第一位に選ばれる確信があるほどの美男子だぜ。惚れるなよ?」

 

 あの豹変から一転して、このダンという男は道中も途切れることなく延々としゃべり続けていた。最初に感じた冷たさは欠片も無く、確かに職人気質とでも言うべき自己中心的な喧しい男だ。

 だがあの冷たい一面もダンという男の真実であることは、鋼を合わせたあの語らいで理解している。

 冷徹にして激情。陰陽に通じる太極の如きものなのか、はたまたただの大馬鹿者か。

 

「気狂いには違いあるまい」

 

「ってわけで二十歳になった俺は口だけで腕は屑だった親方の四肢をぶった切った後に炉に突っ込んで言ったわけよ、テメェのちいせぇナニはその湿気た炉にお似合いだってな。わざわざ炉に運んでやった俺の優しさが――ん? 何か言ったか武器たらし」

 

「何でもない。ところでダン殿、お主の工房にはいつほど……」

 

「おぉ! ようやく着いたぜ武器たらしとオッパイチビ! ここが俺の工房だ! 遠慮なく上がってくれぃ!」

 

 宗司の言葉を待たず、ダンが指さした先には一軒の小屋が建っていた―ちなみに武器たらしとは宗司のことで、オッパイチビとはメイルのことである。自己紹介したがどうやら名前を覚える気はないようだ。

 ―これは余談だが、メイルは「この人、クロナさんのこと胸無しデカ女とか言いそうですよね」と言ったので、宗司は「お主それ本人には言うなよ、頼むから本当に」と頼んだりしている―

 貧民街にあるボロボロの小屋よりは多少外観は整っているが、それでも流通街に建っている家屋と比べるとボロ小屋当然である。

 しかし、そんな宗司とメイルの感想も中に入った瞬間に改まることとなる。

 

「これは……」

 

「うわぁ……」

 

 ダンに続いて小屋へと入った二人が見たのは、外観からは考えられない程に整理整頓されたまさしく工房と呼ばれる一室だった。

 特性毎に分けられた鉄のインゴット。百種を超えて保管されている薬の数々。鉄を打つのに使う鎚すらも種類が分けられている。

 何よりも目を引いたのが、部屋の奥に鎮座する、遠くでも感じられる程の熱気を放つ炉であった。今も轟々と赤熱している炉の周囲には幾つもの魔法陣で囲われ、常に炉の熱が途切れないように調整されていた。

 他に家財と言った物は存在しない。ひたすらに人殺しの鋼鉄を生み出すためだけに特化した空間。ここだからこそ、宗司はダンが作り出した武器の数々に、執念にも似た念を感じ取れたのだとようやく理解した。

 

「凄まじいな。門外故に詳しくは分からぬが、ここにお主がかける意志は汲み取れる」

 

「そりゃありがとよ。まぁ俺の工房を見て何も分からねぇクソだったら眼球とケツに溶けた鉄流し込むがよ、ガハハッ!」

 

「ねぇソウジさん。やっぱこの人馬鹿なんじゃないですか? 気にいらなかったら殺すとかどんだけぶっ飛んでるんだって話ですよ。しかも冗談じゃなくて本気で言ってますし。今の内に斬っときません?」

 

「それは言わぬお約束というやつだぞ、めいる。後、斬るのは無しだ」

 

 というか斬っておかないかと平然と提案するお主にだけは言われたくはないだろう。という言葉はグッと喉元で抑え込み、三人は部屋の片隅に申し訳程度に置かれたシーツの上にそれぞれ腰を下ろした。

 当然だが客人に対して茶の一杯も出さず、ダンはその場に置かれていたいくつかの武器を宗司達の前に並べてみせた。

 いずれも先程の武器屋に並べられていたのと同じく珍妙な武器ばかりだが、やはり量産された武器とは違う作り手の執念というものが滲み出ている。

 

「で、早速だがお前の剣を俺は作りてぇ。情けねぇ話だがよぉ。これまで作った愛娘達が駄目だとは言わねぇが、お前に相応しいと断言は出来ねぇんだ。何せ、俺が基本として作ってるのは使う奴がどんなにカスでも、末永く敵を斬って千切ってぶっ潰す物だからだ。勿論、それでもこの世界にいる剣士気取りのゲロ程度ならいくら使っても十分に輝いてくれるが……お前のような一流、いや、超一流以上のグレートファッキン一流レベルだと、どうしてもお前に合わせた一振りでねぇといけねぇ」

 

 故にこれらは相応しくねぇと、ダンは並べた武器を纏めて横に退かした。

 

「そこでだ、お前、どんな武器が欲しい」

 

「これだ」

 

「こいつは……あぁ、そういうやつか。なるほどね。細身で薄い刀身、鋭さに特化させた剣ってやつか。これならお前のその整った身体の理由もわかるってもんだ」

 

 宗司は懐に入れていた刀の絵をダンに見せる。絵を受け取ったダンは眉間に皺を寄せながら何かしら考え込むと、唐突に片手から魔力を放出して、工房の隅に置いてあった鉄のインゴットに魔力を注ぎ込んだ。

 直後、まるで内部から沸騰するかのようにインゴットの表面が蠢いたかと思えば、勢いよくその姿を変えていき、瞬く間に宗司が渡した絵と寸分変わらぬ一振りの刀が生まれた。

 

「一先ず象りした。雛だがどうだい?」

 

「……驚いた。魔法というのは何でもありなのだな」

 

「こんなんは大道芸みてぇで、試し作り以外に使えねぇ代物よ。だっていうのに最近の鍛冶師ってのはこういった鍛冶魔法ばっかやりやがって、実際に鉄を打つやり方を忘れちまうフニャチン野郎しか……と、俺の愚痴はどうでもいいか。それで? 実際に持ってみてどうだ?」

 

 ふわりと宙を飛んでダンの手に収まった刀を受け取った宗司は、まだそれほど経っていないにも関わらず久方振りの感触に思わず頬を綻ばせた。

 

「悪くない。だが刀身部分に重さが偏りすぎているな」

 

「それでもだいぶ軽めにしたんだが……あぁ、そういやアンタ強化魔法を使ってなかったな。だとしたら今の半分、いや、もっと軽くしても問題ねぇか……」

 

 宗司の手から刀を返してもらうと、ダンは再び魔力を通して刀の刀身を波打たせる。

 

「持ち手のほうに重心を置いたぜ」

 

「先程よりも良いな。だがこの偏り、刀身の強度が不安になる」

 

「そこは安心しろ。今は見てくれしか出来てねぇが、完成品にするなら芯の部分にローズちゃんと同じ合わせ鋼鉄を使うつもりだ」

 

「ろーず? あぁ、あの見えない剣か」

 

「アレと同じ作りの芯なら折れる心配はねぇ……そうさな、一先ず試作してぇから暫くここに泊まれ。どうやら俺にとっても初物の美少女みてぇだ。最高のメスに仕上げてぇから直ぐにお前の反応が欲しい」

 

 そう語りながら、既にダンは炉に火を入れるとインゴットと槌を手に錬鉄の作業へと入った。

 有無を言わさぬとばかりのその背中は、先程の店内での死闘以上の鬼気迫る雰囲気を纏っている。むしろこれこそが本来のダンの姿なのだろう。汚い言葉ばかりを吐き出していた口は閉じ、ただ無言で鉄を打ち、理想とする一振りのためだけに全ての心血を注いでいる。

 

「……ふむ。そういうわけだ、めいる。お主はくろな殿の所に戻って俺が暫く戻れないと伝えに行ってくれ」

 

「分りました。確かに、これ以上私が居たら邪魔ですもんね」

 

 宗司と同じく、メイルもダンの雰囲気を感じ取ったのだろう。駄々をこねるでもなく素直に宗司の言うことを聞くと、ダンと宗司に一礼をしてその場を去った。

 後に残るのは、高温に熱されてきた室内に男が二人と鉄を打つ音ばかり。

 

「くくっ……」

 

 額から大粒の汗を一つ流して、宗司は抑えきれない笑みを一つ漏らした。

 この世界に来てからというもの、剣聖すら霞むほどの強者との連戦と自分と同等かそれ以上の人物との出会い。メイルという理想の強敵となり得る存在を弟子と出来たこと。

 そして修羅外道と呼ばれる男とは別種の極み、心鉄金剛へと至れたこと。

 それからのこの危険だが信念のある職人との出会いだ。まるで天が自分を祝福してくれているかののようなめぐりあわせを思えば、笑わずにはいられないというもの。

 

「あぁ、本当に楽しいなぁ」

 

 めくるめく素晴らしき修羅場を思い、宗司は鋼鉄の響く音色に身を任せるのであった。

 

 

 

 

 




例のアレ

ダン・ダーレンダン

幼子のころから悪逆非道悪鬼羅刹で外道も泣きだす屑野郎として生き、奇跡的な偶然が重なって老人まで生きながらえてしまった屑。何でこいつ生きてるの?と言われるほどに恨みを買いまくっていた。本来ならば悪役側の屑ポジションにいるべき存在。
だが鍛冶師としての腕は超一流。だが屑、老害の極み。
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