臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について   作:トロ

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第十七話『最悪パーティーとアットホーム魔王軍』

 

「俺もそれなりに修羅場をくぐってきたつもりだがよぉ……渾身の一本打ち終わって外に出たら周囲一帯が瓦礫の山ってのは流石にビビるわ」

 

 あの戦いの数日、ようやく工房から出てきたダンは、様変わりした周囲の光景を見て唖然としていた。

 何せ見慣れた景色は何処にも無く、綺麗さっぱり瓦礫と化して人間の息吹は一切感じられないのだ。ダンでなくても誰もが驚く光景に違いない。

 

「あの状況で外のこと一切気にせずに武器打ち続けた人の台詞とは思えないですけどね。それと、私が必死で工房に直撃する瓦礫とか魔術とかスキルとか全部防いだんですから感謝してくださいよ」

 

 そうして暫く惚けていたダンに、辺りの散策を終えたメイルが声をかけた。得意げに胸を張ってみせるが、胸が大きく揺れるだけで偉そうな雰囲気は皆無である。

 

「来たかオッパイチビ、ほれ、お前の刀だ」

 

「感謝の言葉がない……」

 

「あ? むしろ俺に刀打って貰ったことを感謝しろよ。人として恥ずかしくねぇのお前?」

 

「こ、この人は……! で、でもありがとうございますぅ!」

 

 人として恥ずかしいのはどちらか問い詰めたいところであったが、今はそれどころではない。

 ダンが差し出したのは二振りの大小の刀だった。どちらも宗司がダンより渡された刀よりは小振りで、メイルの体に合うように調整が施されている。

 

「銘は長いほうが赤飾(あかかざり)で短いほうが青飾(あおかざり)、二本合わせて飾比翼(かざりひよく)。いずれはお前にとっての翼になり得る成長する刀だ」

 

「成長する、刀……飾比翼……」

 

 二本共鞘より抜き払ったメイルは、美しい波紋が波打つ刀身の輝きに目を奪われた。

 宗司の刀と違って、優雅で色気すらも感じる刀身は、ただ美しいだけではなく刀としての性能も完全に備えている。

 その一方で、メイルは飾比翼を握った瞬間に違和感を覚えていた。感触が定かではないというか、上手く合わないというか、重さのバランスが不確かというか、何とも言えない違和感だ。

 

「ちょっと振ってみろ」

 

 メイルはダンに言われるがまま飾比翼を振るった。

 すると、最初に感じた違和感が無くなり、メイルに合わせて飾比翼の重さや握りが変わっているのが分かる。

 そのことに言葉もなく困惑するメイルに、ダンは得意げに頬を緩めてみせた。

 

「どうだ? 振って分かっただろうが、そいつはお前の魔力に適応した一品、つまりはお前の体を感じ取ってその形を変える代物だ」

 

「確かに、凄いですねコレ。振るえば振るう程、私の身体に合っていく感じが……」

 

 言いながら、メイルの剣舞は終わらない。振るえば振るう程、違和感は消えていくどころか、メイル好みの刀へと仕上がっていく。

 そう考えれば慣れないはずの二刀も納得だ。今後、メイルの成長によっては二刀流になる可能性だって存在する。というか、現に今、二刀を使った動きがメイルに最適化されてさえいた。

 

「飾比翼、赤飾と青飾……ありがとうございますダンさん! これで私、もっともっと強くなれるはずです!」

 

「へへ、良いってことよ。お代にちょっとそのデカい胸を――」

 

「帰ったぞ……って、何をしておるのだお主ら?」

 

 笑顔を浮かべるメイルの胸に両手の指を動かしながら迫るダンに、返ってきた宗司は冷めた眼差しを向けている。

 ――やはり最低な老害だなこやつ。

 いっそもう斬った方が良いかという思考に、最高の刀を作ってくれた恩義で蓋をする。

 

「あ、ソウジさんお帰りなさい」

 

「チッ。後ちょっとだったのによ」

 

 宗司を迎える二人の態度は対照的だ。それに肩を竦めて応じた宗司は、メイルがドレスのベルトに差した飾比翼を見て、いよいよ準備が整ったことを察する。

 あの日よりかれこれ数日。いい加減、この瓦礫だけの場所に滞在する意味は無い。

 

「刀が出来たのなら話は早い。早速だが、今後の予定に関して話し合うとするか」

 

「今後の予定、ですか……まぁいつまでもこんなところに居ても意味無いですしね」

 

「お、そう言えばそれだよそれ、オイ武器たらし、この惨状は一体何だってんだ? 街のカス共が一斉にヤケを起こして自分で自分のケツに爆破の魔術でもぶち込んだのか? そう考えりゃここいら一帯に漂うカスの味噌漬けみてぇな臭いがするのも納得ってもんよ」

 

「臭いは間違いなくお主が垂れ流しながら武器打ってたせい……まぁいい。話せば長いのだが、一言で言うと俺のツレが暴走した」

 

「オイオイ、お前のツレってあのデケェ女のことか? まぁでもあの貧乳じゃ絶望して暴走するのも仕方ねぇか。体でけぇのに胸が無いとか悲惨すぎるからな。哀れにすら思うぜ……」

 

「ほらソウジさん! ダンさんも同じ意見ですよ! 私も昨日、クロナさんがオッパイ小さいの気にして落ちこんじゃったんだって言ったじゃないですか! やっぱりちょっと前にソウジさんが酔っ払って「くろな殿は胸が小さいのに大きいのぉ」とか言ったせいですよ! 私、あの後励ますの大変だったんですからね? オッパイなんて飾りですとか、大きくても重たいだけで無駄とか、戦ってる最中揺れすぎて大変だとか……」

 

「オッパイチビよぉ。それは励ましじゃなくてトドメっていうんだぜ? デカパイがチチナシを弄るとか間違いなく死刑もんだ」

 

「え、そうなんですか? 私、いっつもクロナさんに背丈が高くてオッパイ小さいの羨ましいですって言ってましたけど……そんなに良いものですかね、これ?」

 

 そう言いながら自分の胸を下から持ち上げて揺らしてみせるメイルから宗司はさりげなく視線を逸らして頭を抱える。

 全裸マントからこれまで、メイルに羞恥心というものはとうとう育まれることはなかった。

 ちなみにダンは凝視していた。それと、揺れに合わせて指をワキワキ動かすのを止めてほしい。

 

「お主ら、話が脱線するから胸の話は止めろ……それとめいる、お主はもう少し空気を読め、本当に、頼むから」

 

 宗司の知らないところで遠慮なしに鬼畜発言をしていたのか。こうなると、メイルのせいでストレスを溜めこんでいたであろうクロナが哀れになってくる。

 むしろあの怒りも当然かと心の中でクロナに謝罪し「くろな殿は俺達と戦う気になったというだけだ。それよりも今後を話すぞ」と脱線した話を戻すことにする。

 とはいえ、急に今後どうするかなどとすぐに分かるはずがない。

 何せ宗司は異世界人故にこの世界の地理には疎く、ダンは世捨て人であるために周りに興味がない。そしてメイルも箱入り娘なので何処に行くべきかなど出るはずもない、と思われた。

 

「あ、それなら私一つ面白い話を思い出しました!」

 

「ほう、なんだ?」

 

「いえ、実はグリイドさんっていう方の話に出てきたことなんですけど――」

 

 メイルはグリイドからの依頼内容について思い出した。

 魔獣が貧民街に現れたので退治してほしいという依頼の前、グリイドが語ったのはアイアス城塞が魔族に奪われたという、元を辿れば宗司が王都を滅ぼしたことによって起きた一大事である。

 

「ふむ、魔族によって奪われた城か」

 

「はい、そこだったら試し斬りと修行にはもってこいじゃないんですか? リグっていう魔族も強かったですけど、魔族にはもっと強い人が沢山いるはずですし!」

 

「確かになぁ。それに俺も魔族とやらと一度やってみたいと思っていたのだ」

 

 振り返れば、色々な強者と戦てきたものの、異世界らしい強者と言えばいずれも人族に属する者しかいない―勇者であることを考えれば最悪だ―。 

 

「……良し。ではそのアイアス城塞とやらに出向くとするか」

 

「あ、でもアイアス城塞ってここからどう行けばいいんでしょうか?」

 

「むっ……お主も場所は知らんのか?」

 

「地図があればどうにかなりましたけど……このあり様じゃ地図なんて、ねぇ?」

 

 見渡せば瓦礫の山である。手荷物も吹き飛んでいるため、地図など当然見つからないだろう。

 話が決まれば後は早い、とはいかないものだ。出鼻を挫かれる形になった二人が再び押し黙ると「アイアス城塞なら俺が案内するぜ?」とダンが口を開いた。

 

「お主が案内をするだと?」

 

「怪しいなぁ。何か変な要求とかしてきませんかね?」

 

 短い間とはいえ、唯我独尊悪逆非道を地で行くダンの性格を知る二人が半眼を向けるが、それが意外だとダンはわざとらしく肩を竦めた。

 

「あのなぁお前ら、このナイスガイがわざわざ案内してあげようってのにその言い方はねぇだろうが。ったく、人斬り連中はどいつもこいつも腕が立っても性格がクズでカスしかいなくて悲しいぜ。俺を見習ってほしいものよ」

 

「ソウジさんソウジさん。屑の代名詞に屑って言われるのって本気でムカつきますね。それとはまったく関係ない話ですが、無性に赤色のシャワー浴びたくなってきたんですけど一緒に浴びません?」

 

「斬ったら駄目だぞ」

 

「えー……」

 

「それで、どうするよ?」

 

 許可を出せば本気で斬りかねないメイルの過激な発言を気にも留めず、ダンが宗司に言い寄った。

 ダンの発言の真意がどうであれ、現状ではどうしようもないのが現実だ。宗司はジッと自分を見るダンを見つめ返し、根負けしたのか盛大に溜息を吐きだした。

 

「分かったよ、だん殿。道案内はお主に任せるとしよう」

 

「よっしゃぁ! それじゃ善は急げってもんよ! くたばったカス共から使える物漁ったらさっさとアイアス城塞に出発と行こうじゃねぇか!」

 

「ねぇソウジさん。この人がしでかさないように足の健くらいは斬ってもいいんじゃ――」

 

「駄目だぞ」

 

「えー……じゃああの人が死骸漁ってるうちに水浴びしましょうよ! あっちに水たまり見つけたんです!」

 

「俺とお主で?」

 

「はい! 背中洗いっこしましょう!」

 

「駄目だぞ」

 

「えー……」

 

 不満げに口をとがらせるメイルだが、宗司としてはこっちこそ不満だと言いたいところである。

 危機意識ゼロかつすぐに辻斬り仕掛けようとするメイルと、口を開けば汚い言葉、前途多難とはこのことか。

 振り返れば、この気苦労をずっとクロナは背負い続けてきたのだろう。

 

「お主が人間嫌いになった理由、俺も少しだけわかったよ」

 

 本人が居れば別の意味で激昂しそうなことを口ずさみながら、遺品漁りを始めたダンと結局同じく遺品漁りをするメイルの後に続いて宗司も瓦礫を漁り始める。

 二人をどうこう言いつつも、宗司本人も大概に畜生なのであった。

 

 

 

 

 

 アイアス城塞とは、魔族との最前線であるノートン帝国の南部に位置する人族の技術の粋を注いで築き上げられた鉄壁の要塞だ。

 直径数キロの円を覆うように築かれた堅牢な壁には隙間なく魔術的防御が刻まれており、城塞内部の地下に設置された魔術刻印と通じた龍脈より流れる魔力が常時流れている。これにより24時間止まることなく城壁の魔術は稼働し続け、上級魔族の魔術やスキルですら防ぎきる堅牢さを誇っている。さらに万一破損したとしても即座に再生魔術が起動して修復される。

 その他、城壁に張り巡らされた魔術兵器、周囲一帯に散布された魔術地雷の数々も起動させれば、魔族の集団とて容易に攻め込むことは出来ないだろう。

 元々は南部の国家群への睨みを利かせるための城塞は、現在、人族が拠り所とする最後の砦であった。

 だからこそなのか、メビウス王国王都消滅の混乱によるしわ寄せで、多数の人々が列をなしてアイアス城塞へと殺到していた。

 とはいえ、状況をまだ完全に把握していない現場の兵士達や上層部は対応に手一杯であある。一応、上層部はある程度の情報を仕入れてはいたが、ただの門番でしかない一兵士、エルフのクランとヒューマンのベンは、止むことのない人の列を捌くのに慌てふためいていた。

 

「クソ、一体全体どうしたってんだ」

 

「さてな、どうやらメビウス王国のほうで何かがあったみたいだけどよ……」

 

 現在は、代わりの兵士に門番を代わってもらい、僅かな休憩を二人は過ごしていた。この間にも詰所の外から喧騒は届いており、いつ途切れるともしれない人の群れを思ってゲンナリとしてしまう。

 

「前線のほうもどうやらきな臭いみてぇだし、かと思えば安全地帯の南で異常かよ……ったく、人族はどうなっちまうのかねぇ」

 

 クランの不安を表すように、エルフ特有の鋭く尖った耳が僅かにヘタレる。ベンも心境は似たようなもので表情が暗い。

 彼らも今はここで門番として働いているが、つい先日までノートン帝国で魔族との最前線で死闘を続けてきた兵士だ。今や希少となった熟練の兵士の僅かな休暇も兼ねて後方に送られたのだが、まさか休暇を満喫すら出来ない状況になるとは想像もしなかったことだろう。

 

「……逃げちまったほうが、楽なのかもな」

 

 ベンの呟きに「何処へ?」と返さなかったのはきっと、言ってしまえばそこで何かが終わってしまう予感があったからだ。

 いつまでも届かないイシスの大結界への道、それどころか年々追い立てられていく人族連合。魔族が出てくるだけで部隊が次々に壊滅し、どれだけ知恵を絞っても人族に先は見えない。

 日に日に募る不安と恐怖。前線では耐えきれずに逃げ出した兵士が、アバド流通街に流れ着き、そのまま廃人と化してさえいた。

 それでも耐えていたというのに、唯一の安全地帯と思われたメビウス王国で何かがあったとくれば、何処に希望を見出していいかもわからない。

 

「なんだお前ら辛気臭い顔をして」

 

 先の見えない不安に沈黙していた二人の居る詰所に現れたのは、同じく門番として勤めていた兵士の一人だ。目深く門番用の軍帽を被った男は、部屋に流れる嫌な空気を払うように腕を振る。

 

「知ってるか? そうやって凹んでいるだけで人間ってのはどんどん凹んでいくもんだぜ?」

 

 言いながら、「ほら、俺の奢りだ」と男が片手に一つずつ持った串焼きを二人に渡す。遠慮なく受け取った二人はそのまま一口齧り付いた。

 タレがよく染みた上等な肉である。後方にあるアイアス城塞でもそうお目にかかれない肉に二人の顔が僅かに綻ぶが、それでも完全に表情が晴れることはない。

 

「ってもよぉ、俺達が必死こいて魔族や魔獣とやり合ってる間に後方で勝手に問題起こされたら堪らねぇよ、なぁベン?」

 

「そうだな、食料を送ってるから兵力は送らねぇとかほざいてるクソ国家のくせして、魔族が来ても居ないのに勝手に混乱してるとかふざけるなって話だぜ」

 

「クソ国家か。それってあのメビウス王国のことか? 食料だけ送ってるって聞いたけどよ」

 

「そうそう。俺らも詳しい事情は知らねぇけどな。たださっき城塞の中に通した商人の話を聞く限りじゃ王都で何かがあったらしい」

 

「ってかクソ国家つったら普通に考えてメビウス以外ありえねぇだろ。お前そんなことも知らな――」

 

 そこでふと、ベンは軍帽を被っている男の顔をジッと見て。

 

「お前、誰だ?」

 

 言い終わるのと、目の前に座っていたクランが突如倒れるのは同時だった。

 

「な、ぁ……」

 

 何があったと言う前にベンも視界がぐるぐる回りだし、声を出すことも出来ずにクランと同じく意識を失って地面に倒れる。

 最後にベンが見たのは、口にした食べかけの――即効性の痺れ薬の塗りたくられた串焼き。

 

「すまないな。貴重な情報、感謝する」

 

 先程までの乱暴な口調ではなく鋼のように冷たい言葉で思ってもいないことを言った男が、被っていた軍帽と軍服を一瞬のうちに脱ぎ去った。

 現れたの黒い頭巾で目元以外を全て覆い、黒い衣装を纏った異世界の伝説。今や世界の敵である魔王の心臓を継承した忍者、ハットリだ。

 

「存外温い警護と思ったが、これは好機と見るべきか?」

 

 魔族領土より出立して数日。たったそれだけの期間でイシス大結界を超えて人族の領土に到達したハットリは、易々と最前線の兵士に紛れる形でこのアイアス城塞にまで到達していた。

 彼の目的は一つ。幾度となく魔王と魔族を滅ぼし、封印してきた忌々しき聖剣チートの新たなる担い手の調査だ。あわよくばこの手で葬ろうと思ってここまで来たのだが、どうにも人の入りがきな臭いと感じて侵入した。

 そして人の列で会話する者達に聞き耳を立て、門番に扮して情報を仕入れたのである。

 

「……『解放』『私の声は空へ、私の耳は海へ、私の眼は地平を超える』」

 

 ハットリは己の胸に手を当ててそこより溢れる魔力を解き放った。

 魔王による召喚によって手にした、魔王の力を行使する権能。これを用いて、ハットリは早速イシス大結界の向こう側に居る魔王へと遠見の魔術と呼ばれる通信魔術を接続した。

 空間を繋げるこの最上級魔術は、ハットリをしてかつての世界に存在したら戦そのものが変わっただろうと確信するほどに素晴らしい魔術である。

 詠唱が終わると同時にハットリの前に鏡が現れる。この鏡によって異なる場所と場所の風景を繋げることで、遠くの相手とも会話することが可能という――。

 

『あ、ヤッホー! テストテスト、聞こえてるかなハットリ君!』

 

「切るぞ」

 

『あわわわ! 待って待って! もう魔王様! やっぱりハットリ君怒ったじゃないですか!?』

 

 一メートル四方の鏡一杯に映し出されたアフロディアの顔を見て魔術を切断しようとするが、慌てて彼女が横に退けば、クツクツと声を抑えて笑う魔王、クラウディアが現れた。

 

「主……悪戯が過ぎるぞ」

 

『すまないな、我が懐刀ハットリよ。どうもここ最近は気分が良くて糞袋への殺意すら和らいでる始末なのだ。ちょっとくらい茶目っ気を出しても良いだろう?』

 

 悪びれもせずに言ってのけるクラウディアに返す言葉も無い。悪辣かつ老獪な魔王であると思えば、こうした悪戯をする無邪気な童にもなる女性だ。

 だがそういった不思議なカリスマがあるからこそ、アフロディアのような天邪鬼からヴィンセントのような堅物、そしてハットリという修羅すらも従うのだろう。

 とはいえ、ハットリも余興にいつまでも付き合っている程暇ではない。他愛が無いとはいえ、ここは敵地の真っ只中なのだ。

 

「それより主。俺は今アイアス城塞という人族の主要要塞に潜入したところだ」

 

『なんと……だがあまり無茶はするなよ。お前が死ねば私も死ぬからということもあるが、私はお前が心配なんだ』

 

『あー、魔王様ってば過保護なんだー!』

 

『おいリア! 横から入って……申し訳ありませぬ魔王様! この阿呆は俺が抑えておきますので!』

 

『程々にしてやれよヴィン。リアはまだ甘えたい年頃なのだよ』

 

 鏡に映らないところでアフロディアとヴィンセントの喧騒が響いてくる。そのあまりにも気が抜けた光景にハットリが呆れて頭を振り『重ねてすまないな、ハットリ』と笑うクラウディアのハットリ達を見守る視線は暖かい。

 記憶には無いが、母親が居たならばきっとこのような人なのだろう。そんな感想を心の内に留め、「そこで面白い情報を仕入れた」と脱線していた話をハットリは繋げた。

 

「どうやら最南部に位置するメビウス王国の王都で何かあったらしい。そこで物資を仕入れた人々が列をなして城塞へと入城している」

 

『メビウス王国か。あそこの土地からいつも聖剣の勇者が現れていたな』

 

「では、勇者絡みの一件と見るべきか?」

 

『そう見てもいいと私は思う。ハットリ、それ以外の情報はどうだ?』

 

「取り急ぎ連絡を入れたのでな。これから深部に潜って……いや、待て。主よ、少しばかり頼みがあるのだが良いか?」

 

『言え、腹案があるとみた』

 

 クラウディアの視線が鋭くなり、母親とすら思えた慈愛の表情は消えうせる。ハットリは逆に、頭巾の下でニンマリと不気味な笑みを浮かべていた。

 脳裏に閃いた妙案。行き当たりばったりではあるが、この数日で察した人族の力を考慮すれば、勝算は十二分。

 その悪辣極まる腹案こそ――。

 

「あぁこの際だ。勇者がどう出るか見るために――俺を媒介に、人族側で戦っている魔族の大半をここに召喚する」

 

 史上最悪の内部崩壊。

 魔族に従うたった一人の人間による悪意によってこの日、人類の英知が結集された城塞はその力を殆ど行使することも出来ずに陥落した。

 

 

 

 

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