臓物ぶちまけて死にかけの侍を勇者として召喚してしまった件について   作:トロ

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第五話『芽吹き華こそ、散らせし乙女』

「よぉ、めいる殿。ご無事であったか? 一応、あの火柱がお主のところに行かぬようには配慮したつもりだがの」

 

「ぇ、ぁ、ぅ……だ、大丈夫です」

 

 差し出された掌をおそるおそる握ったメイルは、そのまま宗司に引き起こされた。

 目の前には、慣れ親しんだ屋敷を前に作られた本日二度目の惨劇だ。だが立て続けに起きた出来事でむしろ冷静になったメイルは、この光景を見ても特に恐ろしいと思うことはなくなっていた。

 

「なんだかなぁ」

 

「ん? どうかしたか」

 

「いえ……こういうのに慣れて、私、どうしようって」

 

 力なく嘆息するメイルを横目に、知った顔で己の顎を撫でて思案してみせる宗司。

 

「……とりあえず、お主はそこの湖で汚れを流すといい」

 

「ソウジさんは?」

 

「俺は残党がいるかもわからんのでな、屋敷の中を軽く探索する故、待っておれ」

 

「あの、でしたらこちらを!」

 

 メイルは颯爽と歩き出そうとした宗司に今度こそ聖剣を差し出した。だが聖剣の力に頼るつもりのない宗司としては、渡されても困るだけだ。

 しかし、メイルは有無を言わさぬ迫力(大して怖くもないが)で宗司を見つめると、強引にその手の中に聖剣を握らせた。

 

「守り手とはいえ、所詮私では扱えないのが聖剣です。なので、ソウジさんが持っていてください」

 

「……まっ、一応預かっておこう」

 

 握っただけで再び体を駆け巡る全能感に表情を曇らせつつ、腰帯に聖剣を差してから宗司は屋敷の方角へと歩き出した。

 

「ん?」

 

 その時、先程素晴らしい死闘を繰り広げた用心棒の体が僅かに動くのを宗司は見た。死体が反射で死後動くのとは違う。辛うじてではあるが、尚も腕を伸ばすその姿は、未だ戦いの中にいるとでも言うのか。

 

「……待ってろ、介錯してやる」

 

 いずれにせよ、長くは無い。

 限界を超えた一撃を放った代償に、全身の筋肉と骨が砕けた用心棒は、放っておいても直に死ぬだろう。

 だがあの時間を共有した同胞としては、そんな苦しみに用心棒が数分とはいえ置いていかれるのを見るのは忍びない。

 せめて、逝くなら安らかに。宗司は微かに動く用心棒の隣に立ち、腰の鞘から刀を抜こうとして、気づく。

 

「……ふむ」

 

 腰にはもう一本。自分にはまるで似合わない煌びやかな装飾を施された剣、聖剣チートが携えられている。

 確か、この聖剣を使えば俺にも魔術が使えるのであったな。

 

「そうだな」

 

 折角、この世界で初めて出会った同胞である。

 宗司は刀の柄ではなく、穢れを知らない純白の柄に手をかけた。

 そうすれば、あの全能感が宗司の体を駆け抜け、膨大な魔力が聖剣より吐き出された。

 

「えっと……」

 

 宗司は鞘からあっさりと聖剣を引き抜くと、軽く肩に担ぎながら脳裏の情報を検索する。選ぶのは魔法の項目、そしてその中で見つけるべき魔法は只一つ。

 瀕死の重傷だった自分の怪我すらも治してみせたのだ。

 ならば、目の前の好敵手だって、治してみせろ。

 

「『大いなる自愛の歌声よ、罪深き我らの業を払いたまえ』」

 

 そして、本来なら回復呪文を極めたごく一部の者しか扱えない最高位の回復魔術が発動する。

 聖剣の切っ先から蛍の光のような暖かな閃光が無数に用心棒の鎧を抜けてその体へと浸透していく。親指大の小さな光だというのに、そこに込められた癒しの力は低級の回復魔術を遥かに上回る。

 そんな光が千を遥かに超えて、遂には用心棒の巨躯を丸ごと覆い隠してしまう。

 死んでいないなら確実に治すとさえ歌われている脅威の魔術を容易く詠唱し、発動してみせたのは流石聖剣と言うべきか。幻想的な光景に宗司が「おぉ」と感嘆の声をあげていると、光は徐々に収束していき、遂には全て用心棒の体の中へと染み渡って消えていった。

 全てが終わるのを見届けた宗司は、そっとメットの側に耳を寄せる。

 聞こえるのは微かだが穏やかな吐息。

 

「……魔術とは便利だなぁ」

 

 改めて魔術の素晴らしさを再確認した宗司は、やはり何の躊躇いもなく鞘に聖剣を収めて、漲っていた全能感を手放した。

 途端に己自身の力が戻ってくるが、聖剣を持っているときと持っていないときの能力値の落差に、宗司は少々不快感を覚えた。

 

「やはり、無駄な力は好かぬ」

 

 あらゆる面で聖剣を持った宗司は持っていない宗司を上回る。

 だが、所詮は与えられた力。宗司が本来使うべき力を超えた能力は、どんなに使えようともやはり手に余ってしまうのだ。

 

「……はぁ」

 

 だが今はそのことを考えている時ではない。疲れた風に溜め息をついた宗司はさっさと屋敷の中に入り込み──思ったとおりの光景に鼻を鳴らした。

 

「ふん、やるだけやって後は殺すか。大方、金銭以外は運べぬと踏んだところだろう」

 

 屋敷に入って直ぐ出る大きな広間。豪勢な絵画や装飾が無数と施されたその場所には、屋敷から集められた価値のある物と、無残にも賊達によって嬲られた後に殺されたらしい女達の骸が無数と転がっていた。

 残っているのは血の香りに混じった情欲の残り香。下らん行為の末路としては大概なものだと思う。

 

「……やはり、めいる殿に水浴びをさせておいて正解だったな」

 

 このような光景を見せてしまったら、精神が壊れてしまうかもしれない。人の死骸には慣れている宗司ですら、犯され続けた後に殺されてしまった女達を見て平静ではいられない。

 静かに両手を合わせて黙祷を数秒捧げると、「すまぬ」と一言謝罪してから、金目の物をかき集められた麻袋を一つ掴んで外に出ようとして、その途中で動きを止めた。

 

「……出ろ。居るのは分かっている」

 

「ひっ……」

 

 宗司の鋭い殺気を受けて物陰から現れたのは、先程逃がした男だった。

 やはりこちらと戦うつもりはないらしい。涙を流して恐怖に怯え、震えるだけの哀れな姿に、溜め息を一つ。

 

「情欲に支配された人以下の獣に成り下がり、そして牙も失い畜生以下へと成り果てる……だがその命、まだ使い道はあるな」

 

「な、なにを……」

 

「案ずるな。お主の得意な処女散らしをやってもらうだけだよ」

 

 宗司は静かに男へと近づくと、悲鳴をあげることも出来ない男に向けて、その冷たい掌をゆっくりと差し向けた。

 

 

 

 

 

 メイル・リンクキャットは箱入り娘の立派なお嬢様である。

 聖剣の守り手として、一通りの魔術や剣術を習い、世間のことについても知識として蓄えているが、所詮は全て生気の通わぬ無感動なものでしかない。

 生まれてからこれまで、女性に囲まれて過ごしてきた少女。外への憧憬を僅か抱く以外は、ほぼ無知と呼んでもいい彼女は、そういう意味では宗司以上にこの世界について無知なのかもしれない。

 だからこそ、恐怖が一周して通り過ぎた現在、彼女は状況を理解できていないために平静を取り戻していた。

 

「ふんふふーん」

 

 汚れたドレスを脱ぎ捨てて、一糸纏わぬ姿でメイルは湖で体を洗っている。疲労は蓄積していたが、こうやって体を清めるだけでその疲れも落ちていくようであった。

 鼻歌を歌いながら、ふとメイルは自分が今外に居るのだということを思い出した。これまでは外といえば屋敷の中にある広場くらいで、それ以外の場所は一切知らない。

 とはいえずっと屋敷から見てきた湖のせいか、外に出ているという気分はあまりなかった。いや、現実感がないのだろう。箱入り娘が体験するには、この二時間程度で起きた出来事はあまりにも濃厚だった。

 身近な者の死。

 慣れ親しんだ世界の崩壊。

 そして、臓物乱舞。

 特に最後のほうは衝撃的過ぎて膀胱が三回も決壊しているのだが、そこに羞恥を覚えるほど彼女は世間というものを知らなかった。

 何せ、今彼女の前にある屋敷の中で、慣れ親しんだ人々が死んでいるというのに、普通は鼻歌を歌いながら水浴びなど出来ないだろう。

 螺子が外れているのか。或いは元から『そういう人間』なのか。

 いずれにせよ、メイルは宗司の考えとは違って、死という事柄に対して何かを思うことはなかった。

 もしくは、この短時間で経験した膨大の死が、彼女の感性を──

 

「あ、ソウジさーん!」

 

 体を洗っていたメイルは、屋敷から麻袋と糸の切れた人形のように動かない賊の一人を運び出してきた宗司に手を振った。

 宗司も軽く手を振って応えようとして、ギョッと目を見開く。

 全裸である。

 南蛮娘の全裸である。

 水を弾く白い肌。肉感的で情欲を煽るような体つきだが、腰は綺麗なくびれを描いており、遠目からでもメリハリがはっきりと分かるほどだ。特に、ツンと突き出た大きな乳房が眩しく、手を振るたびにゆっさゆっさと揺れる様は圧巻である。

 普通なら男性に裸を見られれば羞恥に悲鳴の一つでもあげようものだが、本人に自覚はないとはいえ、メイルはむしろ宗司に見せ付けるようにしていた。

 

「呆れたというか何と言うか……年頃の女子だろうに」

 

 それか、ここで女子の裸は見せても問題ないというのか。

 ここに着てから一番の衝撃に頭を悩ませていると、そんな宗司の様子を見たメイルは、体でも悪いのだろうかと不安げな表情を浮かべながら湖より出て宗司に歩み寄った。

 勿論、全裸である。隠すことなど一切せずに、子犬のように宗司へと迫れば、当然その大きな二つの果実は揺れるばかりであり、幾ら性欲よりも戦闘欲が圧倒的な戦闘民族である宗司とはいえ、目を奪われるのは仕方なかった。

 

「どうしました? 怪我しました?」

 

「なんでもない。己の修行不足に呆れたところだ」

 

 小首を傾げるメイルを見て、ちょっとした衝撃から立ち直った宗司は疲れたように頭を振ると、麻袋を地面に下ろし、そこに入っていた暖かそうなマントを一枚取り出してメイルの体に被せた。

 

「ここではどうかわからんが、あまり俺の前で裸でうろつくな」

 

「あ、すみません。見苦しかったですよね」

 

「いや、見苦しいというよりはむしろ……」

 

「むしろ?」

 

「なんでもない! それより、この麻袋に服らしきものが入っている。さっさと着替えてこい!」

 

 顔を僅かに赤く染めつつ、宗司はそう言い放ちメイルから背を向けた。

 特に何か言うこともないのか、メイルはいそいそと麻袋漁って、自分に見合った服を取り出して着替えだす。

 その衣擦れの音を聞きながら、宗司はもう片方の手に掴んだ男を自分の目の前に放り投げた。

 

「お主はそこで出番を待っていろ……さて」

 

 続いて宗司は未だ意識を失ったままの用心棒の側へと寄った。

 呼吸の仕方から、怪我は治っているなと把握する。だがいつまでも眠ってもらっていては困るので、一先ず起こすことにした。

 

「しかし、これ、どうやって外せばいいのかの……」

 

 全身に纏った甲冑は宗司の見たことのない鎧だ。賊達の皮鎧もそうだったが、この鉄製の鎧ではどうやって脱がせばいいのかわからない。

 

「勝手に斬ったら、拙いよな」

 

 盾と剣。戦士に必要な獲物を二つとも斬り裂いておいて今更な話かもしれないが、だからこそただ起こすためだけに鎧を裂くのは気が引ける。

 ならば、ここは一つ手間のかからぬ方法を取るとしよう。

 宗司はそこらへんに落ちていた片手剣を拾うと、軽く手に馴染ませるように数度振った。

 強化の魔術を前提に考えられている片手剣は、見た目に反して随分と重い。これでは千も振るえば腕が棒となるだろうなと、むしろ練習用としてもってこいだと思いつつ、宗司は用心棒の背中を跨いで、切っ先を下に向けた状態で、両手で掴んだ片手剣を振り上げた。

 狙いは背中の一点。気絶した者を起こすのに必要な衝撃を与えるべく、宗司はそのまま片手剣をその背中に突き立てた。

 しかし、本来なら鳴り響くはずの鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音色は響かない。代わりに鎧に触れた切っ先は突き刺さることもなく、その衝撃の全てを、鎧を通して用心棒の肉体へと伝えた。

 『徹し』と呼ばれる、衝撃を任意の場所へと流す技術だ。それによって鎧には傷一つつけずに、生み出した力の全てが用心棒の体へ炸裂する。

 一瞬、その体が跳ね上がる。全身を駆け抜ける力の波によって揺さぶられた意識は、狙い通り用心棒の意識を呼び覚ました。

 

「……ん」

 

「よぉ、目が覚めたか」

 

 用心棒の顔に回り込んだ宗司は、僅かに起き上がったその顔に人懐っこい笑顔を向けた。

 朦朧としながら、用心棒はまず体の動きを確認して、あの戦いの過負荷で受けた影響が全て完治しているのに気づく。

 あれは、夢幻だったのか。いや、周囲の景観と、何より目の前に居るこの男が、あれが嘘ではなかったことを証明している。

 

「そうか……負けたうえに生き恥すら晒すとは……」

 

「ハハハッ、そう落ち込むなよ、剛の者。人間、死ぬよりかは生きていたほうが良いに決まっているだろに」

 

 気にするなと気楽に言ってのける宗司だが、言われる側としては複雑な心境だ。

 

「それとも何か? 折角、俺と言う男を知ったのに、知って直ぐに散るのが良きことなのか?」

 

「随分と自信があるのだな」

 

「然り。何せ、俺はお主よりも強い。そして俺は俺より強い相手を知ったとき、いつも至福に満ちていた故。やはり、自身より強き者が居るというのはこの上ない至福よ。……それを斬り捨てることも含めてな」

 

 自分が素晴らしいと思うことは相手も素晴らしいと思ってくれるはずだ。

 あながち間違ってはいないのだが、何処かずれた宗司の言い分に用心棒はメットの奥で微笑を浮かべると、体を起き上がらせ宗司と向かい合った。

 そして、纏っていたメットを外して素顔を晒し宗司を見る。

 

「ともあれ、生き抜いた奇跡には感謝しよう。改めて名乗らせてくれ、私はクロナ・クロルキスという。強き者よ、よければ貴方の名を聞かせてくれぬだろうか」

 

 その素顔を見て、先程に続き二度目の衝撃が宗司を襲った。

 

「お、女……だと」

 

 邪魔にならない程度に切りそろえられた、亜麻色の柔らかな髪。スッと通った鼻筋と切れ長な鋭い茶色の瞳。醸し出す雰囲気はパッと見ると美形の男性に見えるが、人間という者を良く知る宗司は、その顔を見ただけでクロナが女性なのだと看破した。

 本来ならどんなに取り繕っても宗司の眼力なら見抜けたはずだが、見慣れぬ西洋甲冑と、人の倍はある体躯と、類まれな怪力の一撃を見て、男なのだとすっかり決め付けていたのだ。

 驚愕のあまり名乗りを忘れて思わず女なのかと口走った宗司だが、普通は失礼なその言葉に、むしろクロナは楽しげな笑みを浮かべさえした。

 

「ハハッ、初見で私を女と見抜くとは流石。どうにも見た目が不細工なせいか、いつも男性と間違われるのでね」

 

「……そ、そうか」

 

 まさか、異世界に来て驚くのが強敵ではなく女子相手とは。

 再度、自己嫌悪に頭を抱えそうになる宗司だったが、それをこらえて改めて名乗りを返した。

 

「俺は宗司という。姓はない、ただの宗司だ。よろしく頼むぞ、くろな殿」

 

「ソージ……そうか、わかったソージ。助けていただいたことは素直に感謝する」

 

 クロナは深く一礼をして感謝の意を示すが、「しかし」と頭を上げた直後、難しい顔で着替えに手こずっているメイルの方を見た。

 

「彼女が果たして私の回復を許すのか? 言い訳になるが、雇われて奴らの用心棒を引き受けただけで、屋敷の襲撃に直接関わってはいないものの、私も屋敷の襲撃に手を貸したようなものだ」

 

「さてな。個人的に言わせてもらえば、お主は強くて面白いが、めいる殿は弱くてつまらん。はっきり言って、めいる殿が復讐に身を燃やし、くろな殿を害するのであれば、心境的には、俺はお主に助太刀するよ」

 

「心境的には?」

 

「実は、めいる殿には命を救われておる。これを反故したなら、俺は修羅ではなく只の外道と成り果てるだろうよ」

 

 状況が複雑とはいえ、宗司が今こうして生きているのは、メイルが宗司を召喚したからに他ならない。困った風に表情を曇らせる宗司に、納得したとクロナは頷いた。

 

「なるほどな。ならば問題はないのではないか? 私を救ったのも彼女なのだろう?」

 

「いや、それはちょっと違うというか……ん? そう、なのか?」

 

「なんだかはっきりしないな」

 

 宗司の話から推測すれば、彼が魔術を扱えない以上、必然、クロナを救ったのはメイルということになる。

 だが宗司としては素直に自分が治したといっていいのかわからなかった。確かに聖剣を使って治療を施したのは宗司だが、この聖剣を自分に渡したのはメイルであり、そもそも聖剣の力は自分の力ではない。しかし、治療をしたのは己なのだ。

 

「……この聖剣とやらの力のおかげだ。俺は何もしとらんよ」

 

 このままでは考えが堂々巡りだと思った宗司は、考えるのを止めて腰に差した聖剣を指差した。

 

「聖剣? ふむ、高位の回復魔術でも使える魔法具なのか?」

 

「いや、何と言うのだろう。これは俺も未だ眉唾なのだが、この聖剣とやらはありとあらゆる魔術を行使し出来るようになるうえ、使い手を劇的に強くする効果があるようなのだ」

 

 宗司は論より証拠だと、とりあえず聖剣をその白塗りの鞘から引き抜いた。

 再度、自身を満たす全能感。そしてクロナの肉眼でも確認できるくらいに膨大な魔力が聖剣より溢れ出して来る。

 

「どうだ?」

 

「……なるほど。これは凄いな」

 

 今まで見たこともないような魔力の嵐を目にして、クロナは額に冷や汗を掻きつつ辛うじて返事をした。

 宗司はその様子を見て充分だろうと察して、聖剣を鞘に仕舞う。するとあれほど荒れ狂っていた魔力の嵐は一瞬にして霧散した。

 

「幽霊に化かされた気分だ」

 

「だろう? だが、これはあまり好かん。確かに強くなれる。全てが行えるようになる。しかし、つまらん」

 

 本当に、つまらない。これならまだ、刀の一本でもあったほうが良いというものだ。

 

「聖剣か。俺のような者にではなく、それこそ坊主にでも渡したほうが、よっぽど役に立つだろうに」

 

 この聖剣に登録された回復魔術を用いれば、死人以外なら治すことは容易だろう。そう考えると、自分が持っているのはやはり見た目的にも中身的にも不釣合いすぎる。

 

「なら、私に一度貸してくれないか? その、少しばかり、魅力的だ。勿論、貴方に対してどうこうするというつもりはないのだが……」

 

 冷めた目つきで聖剣を見下ろす宗司に、クロナは恐る恐ると言った様子でそんな提案をしてきた。

 理由など聞くまでもない。宗司は特に未練も無い様子であっさりと聖剣をクロナに差し出した。

 

「ほれ。使え」

 

 まるで小銭でも貸すかのような気軽さで聖剣を貸し出してくる宗司に、クロナは思わず苦笑いを浮かべていた。

 

「……いや、提案した私が言うのもアレだが、いいのか?」

 

「構わん。もし使えたのならやるし、それを使ってまた俺に挑もうというなら──是非もない」

 

 むしろそれを望んでいるとばかりの冷笑を浮かべる宗司に、クロナは背筋が凍るような寒気を覚えた。

 先程の一戦でも感じたが、この男の狂気性というのは、クロナが出会ってきたどの狂人にも当てはまらないものだ。

 単なる戦闘狂と括るにはあまりにも異常すぎる。そう思いつつも、クロナは差し出された聖剣を汗の滲んだ掌で受け取った。

 

「……ん?」

 

 だが、いざ引き抜こうとしたところで、聖剣はまるで癒着したかのように鞘から抜けなかった。

 何度も力を込めて引き抜こうとするが、やはりどうやってもクロナの力では引き抜くことが出来ない。

 

「どういうことだ?」

 

「さぁ?」

 

 互いに目を合わせて首を傾げる。

 だが、どうやらクロナでは使えないということらしい。少々残念な気もするが、クロナは宗司に聖剣を返した。

 

「……要らないんだがなぁ」

 

「いやいや、あの魔力量が使えるならとっておいて損はないだろう」

 

 本当にこの男は聖剣を必要としていないらしい。その事実に呆れるべきか感心すべきか迷っていた所で、ようやく服を着替え終えたメイルが宗司の元へ駆け寄ってきた。

 

「ソウジさん、着替え終わりました」

 

 着ているのはフリルがふんだんにあしらわれた動きにくそうなドレスである。足元まで完全に隠れており、スカート部分は地面についていて、うっかり転んでもおかしくない。

 歩く姿すら危なっかしいメイルは、宗司の隣に来たところで、ようやくその側に居るクロナの存在に気づいた。

 

「貴女は……ソウジさんと戦っていた」

 

「……クロナ・クロルキスという」

 

「メイル・リンクキャットです」

 

 襲撃に加担したという思いがあるためか表情の暗いクロナに対して、メイルは警戒心を瞳に浮かべながらも、一礼をして自己紹介をした。

 

「……」

 

「……」

 

 案の定、それ以上言葉が続くことなく痛い沈黙が流れる。

 こういうときどうしたらいいのか分からない宗司としてもこの沈黙は耐えがたい。だがいつまでも睨めっこをしているわけにもいかないので、宗司はわざとらしく咳払いを一つして二人の視線を集めた。

 

「まぁあれだ。めいる殿、お主としては何かと色々言いたいだろうが、くろな殿はこの通り真(まこと)強き者でな。それに、お主の住んでいた屋敷を直接襲った賊達とは違い、ただその護衛を頼まれただけで、襲撃には関わっていないのだ。そこで俺としてはただ死なせてしまうのは惜しいと感じて、勝手に聖剣を使って治療を施したのであってだな。よければ見逃してやって欲しいのだが」

 

「……そういうことでしたか」

 

 メイルは弁解するような宗司の言葉を聞いて、改めてクロナの顔を真っ直ぐに見上げた。

 その真剣な瞳に見据えられ、逸らすわけにはいかないと悟ったクロナもまた真摯な態度でメイルを見返す。

 それがどの程度続いただろうか。不意にメイルは視線を切った。

 

「……覚悟は出来ている。ソージに拾われた命だ。君が復讐を果たしたいというのなら、この身を捧げるくらいしよう」

 

「おい、くろな殿──」

 

「いえ、いいんです」

 

 小さく頬を緩めて、メイルは頭を振った。そして、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開く。

 

「だって、ソウジさんが……聖剣が選んだ勇者様が生かすことを選んだのなら、守り手である私が横から口を挟むのは無礼です」

 

「……だが、しかし」

 

「だが、しかし、ですよ。私は聖剣の守り手です。何もかもなくなっちゃったから、それしかないんです」

 

 だから、いいのだと。

 憎むべき相手が居る。しかし、その激情に駆られて復讐を行えば、聖剣の守り手という、己の生涯そのものを砕いてしまうことになるから。

 

「だから、いいんです。私の意志より、勇者様の意志こそ優先されます。いえ、それも違いますね。私は、私であるために、貴女を許したいと、心から願うのです」

 

「メイル……君は」

 

 クロナはまるで聖人の如きメイルの言葉に、感無量と言った風に言葉を詰まらせた。

 同時に、何故こんな愚かなことを受けてしまったのだろうかという後悔が胸中を埋め尽くす。しかし、そんなクロナの悔恨すら許すのだと、メイルは慈愛に満ちた笑顔を浮かべる。

 愚かではあるが、美しい意志だ。罪を憎んで人を憎まず。聖剣という神聖なる魔法具の守り手として美しい心を見せたメイル。

 その素晴らしい心に、心よりの賞賛を──

 

「……そういうわけにもいかんだろ」

 

 くだらん『茶番』だ。

 そう吐き捨てて、冷や水をぶっ掛けるように、宗司はさっきから放置していた賊の最後の生き残りを引っつかんでメイルの前に放り投げた。

 

「え?」

 

「憎しみを溜めるのは毒だ。ならば、応報せよと語る霊への鎮魂として、骸を一つ晒すよりないだろう」

 

「でも、この人死んで──」

 

 そこでメイルは、横たわる男がまだ生きているのを確認した。

 先程、宗司が麻袋と共に引っ張ってきたときは、死体を運んでどうするつもりなのだろうと思ったくらい動かなかったが、良く見ればその全身に冷や汗を滲ませ、僅かにだが震えてさえいる。

 何故? と視線を宗司に再び向けたメイルの瞳には、隠しきれない動揺と、その裏に隠された──

 

「ソウジ、さん」

 

 何かを訴えようとしたメイルだったが、二の句は宗司の言葉に遮られた。

 

「賊の残党が居るのはくろな殿との戦いの間に分かっていたからな……処女を散らすうえ、何れ己すら燃やし尽くす復讐の炎を鎮火するには、この畜生も役に立つ」

 

 そう言って、宗司はそこらへんに落ちていた片手剣を掴むとメイルに差し出した。

 剣と宗司、両者を何度も見返して困惑を露にするメイル。だが、宗司は問答無用とばかりに剣をメイルの胸に押し付けると、続いて開け放たれた屋敷の扉を指差した。

 

「見ろ」

 

「あ……」

 

 遠目からだが、メイルは扉の先で横たわる無数の死骸を見つけた。

 その骸はいつも見慣れた誰かのもので、あぁ、きっとそれは、彼女がその短い生涯を共にすごした、家族の如き人々の──

 

「う、あ……あ」

 

 メイルは唐突に蘇ってきた『死』という現実に声を出すことも出来ず、縋るように宗司を見た。

 しかし宗司の目は冷たい。ただ寄る辺を探す少女の手を払いのけ、その手に冷たい鋼だけを乗せる。

 そして、告げるのだ。

 

「斬れ」

 

「ぃ、ぁ……」

 

「でなければお主……地に足をつけることなく、ただ奈落へと沈むだけだぞ?」

 

 綺麗事で何が解決するというのだろうか。

 応報するのだ。

 理不尽に犯された家族のために。

 理不尽に殺された恩人のために。

 高潔な意志や、慈愛の心などまやかしに過ぎぬ。

 ただ理不尽に対する応報を成すことこそが、真実なのだ。

 

「人を斬り続け、恨みを背中に背負った俺だからこそ言うぞ。親しき者が殺されて尚、何かを言い訳に憎しみに蓋をするでは、その身は直ぐに腐り落ちるだけとなる」

 

「で、でも……だったら何で、ソウジさんは、クロナさんを庇って……」

 

 そうだ。宗司の言うことが正しいなら、何故宗司はメイルの応報を手助けするといいながら、その一端を担っているクロナを庇っているのだろうか。

 それに対して、宗司は間髪いれずに返答する。それはメイルが言葉を失うには充分すぎる理不尽だった。

 

「別に、もうこの際だから言うがな。『今の』お主とくろな殿、俺にとって必要となるのは迷うことなく、くろな殿だ……故に、もしお主がくろな殿に応報するなら斬り捨てるつもりだった。だが、お主は俺の恩人ゆえ、可能な限り殺したくなかったのでな……うん、それだけだ」

 

「それ、だけ」

 

「あぁ。それだけだ。お主は愉快な女子だが……邪魔なら殺す。それだけだ」

 

 もし説得が出来ないなら、殺すつもりだ。そう言われてメイルは息を呑んだ。

 宗司の言っていることは滅茶苦茶だ。応報は必然と語りながら、応報するなら返り討ちにするとも言っている。

 いや、それは宗司の中では正しく成り立っているのだろう。正論を知りながら、正論など知らぬと語る、ただそれだけの話なのだから。

 

「そんな、そんなのって……!」

 

 あまりにも理不尽ではないか。

 そう叫ぼうとしたメイルは「然り、理不尽だ」と頷く宗司の続く言葉に捕らわれた。

 

「だが、それはお主が弱いせいだ。因果応報が世の常ならば、弱肉強食もまた真理。どんなに叫ぼうと、成すべき力がないのなら、それは戯言となんら変わらない」

 

 何せ、宗司はそう言った手合いを幾人も斬り殺してきた。

 そうやって、今の自分を確立させた。

 故に男は侍で、たった一匹の修羅なのだ。

 

「敵(かたき)と叫び、故にと吼える。だがそれら全てが弱いがために叶わなかったから、俺はこうして立っている。応報という真理すら、強さという絶対には響かんのよ」

 

「わた、私、は……!」

 

「俺に出来る譲歩はここまでだ。その畜生はくれてやる。だが、くろな殿は俺がいただくぞ。『今の』お主になどは、くれてやらん」

 

「……私は物ではないのだが、いやまぁ、今更いいのだがな」

 

 背後で辟易しているクロナはさておき、これで今日何度目になるか分からない理不尽の到来にメイルは体を震わせた。

 だが、何かを掴もうにもその手にあるのは冷たい鋼が一つだけ。頼れる者は何処にもない。

 誰も。

 助けない。

 

 そうなったのは、誰のせいだ?

 

「……」

 

 不意に、涙目でメイルを見上げる賊と、視線が交差した。

 

「あ……」

 

 哀れな瞳だ。頼むから助けてくれと懇願する賊の真摯な思いが、何も言わなくたって伝わってくる。

 同情を誘い、そして、出来ることなら助けてあげるべきではないかと思う。たとえ相手が敵であろうと、そう、自分は聖剣の守り手という、穢れ無き乙女なのだから。

 ならば、どんなに憎くても、どんな相手だろうと、許してあげて、もう一度やり直す機会をあげるべきではないかと──

 

 ──そうして自分を偽っても、この胸に宿した憤怒の炎を偽るなんて、出来ないのに。

 

 瞬間、体の震えは止まった。涙で光っていた瞳からも色は失われ、いつの間にか抱きしめるのではなく両手でしっかりと柄を握り、メイルは賊に向かって一歩を踏み出す。

 

「首を落とせ。死ねば仏と言うが……さて、素人が首を落とすという苦行、これを受ければ罰に充分、畜生だろうと仏になるだろう」

 

 宗司はその様子からすべてを察すると、助言も早々にメイルの肩に軽く手を乗せてから数歩距離を空けた。クロナもその鬼気たる雰囲気を感じたのだろう。宗司に習って距離を取り、メイルと賊の様子を見守った。

 

「……」

 

「ん……! んぅ……!」

 

 賊は今から己に起こるだろう惨劇を思い浮かべ、宗司の殺気で縛られながら、微々たる動きで体をよじり、必死にメイルから距離を取ろうと抗う。

 その姿が、余計にメイルの心を冷たくする。

 ちらりと見るのは屋敷の内部。服を着ているものから、衣服を全て破かれたうえに犯され殺された侍従達の姿。

 連想するのは、自分を庇って死したアイリーンの姿。

 真っ赤な血潮。

 いのちのあか。

 

 おまえらが、ころした。

 

「えい」

 

 躊躇いはなかった。決意は一瞬で、いつの間にか殺意の矛先は解放された

 いっそ気楽なくらいの掛け声とともに、メイルはもがく賊の脹脛に剣を突き立てる。

 肉を裂く不快感は特になかった。それより、肉を割った剣が骨に当たって掌を痺れさせたことのほうが不愉快だった。

 斬り割った傷口から、アイリーンや侍従と同じ赤い血が流れるのを見る。

 悪も、流す血は同じなのか。いや、そんなこと、ソウジさんが斬ったのを見てわかっていたはず。

 どんな良い人も。

 どんな悪い人も。

 斬って覗くのは、生暖かい熱血と、ぬめりと張り付く、臓腑のみ。

 

「んー! んー!」

 

「うごかないで」

 

 悶絶する賊を黙らせるべく、剣を引き抜き反対側の脹脛に突き刺す。今度は骨の表面をなぞるように剣がすべり、逸れた切っ先は大地に突き刺さった。

 

「ソウジさん。これって」

 

「うむ、まぁ最初なんてそんなもんだ。気にせず好きなように刃を振るえ」

 

「はい」

 

「んー!」

 

 躊躇はいつの間にかなくなっていた。

 いや、或いは最初からそうだったのか。

 怖い怖いと泣き叫びつつ、意識を失ってみせたけど。

 でも、本当に怖いと感じていただろうか?

 

「えい、えい」

 

 メイルは一心不乱に賊の足を突き刺し続ける。普通ならショック死でもしそうなものだが、宗司の殺気による束縛が、微妙な力加減で意識を繋いでいるのが賊には災いした。

 意識を失おうにも、体を束縛する殺気のせいで意識を失うことすら出来ない。

 助けてくれ。

 そう叫ぼうにも、声も出ない。

 

「んー!」

 

「……ソージ、やはり私が口を挟むことではないが。これでは只の拷問だ」

 

「いんや、これで良い。つまらん童に興味は無いが……ククッ、処女を散らさねば、人の本質など分からぬものだよ。しかし流石は屋敷の中にいた処女を無数と散らした畜生よな。花散らし、新たな種を生み出すのは得意というわけだ」

 

「ソージ……貴方はまさか……」

 

 一閃ごとに目の色を失っていくメイルを見て、賊への皮肉混じりに面白そうに喉を鳴らす宗司を見て、クロナは何となくではあるものの、宗司が何故このようなことをメイルにさせているのかわかったような気がした。

 だがその目論見に気づいても、クロナには止める権利はなく、そもそも、既に遅い。

 

「やぁ」

 

 やる気の無い掛け声とともに、一応それなりに整った一振りで、遂に賊の足が両方ともに千切れ飛んだ。

 その時点で賊の命は風前の灯だ。骨を絶つという重労働で流れた汗と体にかかった血を拭いつつ、メイルは今にも死にそうな賊の姿に気づく。

 弱弱しい姿だ。自分達を襲ったときは、こうなるとすら思っていなかっただろうに。

 だが、宗司の言葉を借りれば因果応報なのだ。こうなるべくして然るべきなのだ。

 ならば、蓋をした憎しみを吐き出すことに、何の躊躇いがあるだろう。

 

「あ、あぁぁぁぁぁぁ!」

 

「始まったか」

 

 宗司は突如叫び声を上げたメイルを見て一層笑みを深くする。

 それでいい。そのまま黒い汚泥の如き憎しみを吐き出してしまえばいい。

 かつて、俺もそうだった。

 村を焼かれ、無心で手にした一本の刀。理不尽に抗うべく本能で手にした鋼にて、襲い掛かってきた山賊を斬り伏せたあの時。

 殺した。

 斬って、殺した。

 表面には出なかった激情を、殺人という手段で洗い流した。

 

 そして、強くなろうと決めたのだ。

 

「お前が! お前がぁぁぁぁ!」

 

「ぁ。ぁ。ぁ……」

 

 隙間風のようなか細い声を出す賊の首に、とうとう振りかぶった剣が叩きつけられた。

 しかし、幾ら重量がある剣と、訓練していた少女の一撃とはいえ、所詮は箱入り娘の初物。一撃で両断とはいかず、半ばにも達することなく首の骨に阻まれて、悪戯に流血が溢れ出るだけだ。

 

「わぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 既に両足を切り捨てた片手剣の刃の部分は殆ど使い物にならない。にも関わらず、メイルは何度も何度も剣を振り上げ、振り下ろす。

 怒りのせいか狙いが定まらず、時には賊の肩を砕いてはいるが、それでも徐々に賊の首に剣が食い込んでいき、斬るというよりは砕くような形で、後一撃のところまで首を絶つことが出来た。

 

「ふぅー! ふぅー!」

 

 獣のような荒い息を繰り返しながら、焦点の合わない瞳で既に事切れた賊をメイルは見下ろす。

 だが最早、生きていようが死んでいようが関係なかった。家族を殺された激情は百を超えた振り下ろしの中で注がれ、今、憎しみを吐き出し尽くした少女の脳裏にあるのは一点の事柄のみ。

 斬るのだ。

 あの首を斬るのだと。

 只それだけに、腐心する。斬撃のみに、心は奪われ、墜ちていく。

 

「良い。俺が思っていた以上の逸材ではないか」

 

 狂気の果てに、人は修羅と化す。

 最早、勇者の意志を尊重し、憎むべき敵(かたき)すら許そうとまでした高潔な意思は何処にも無い。

 あるのは狂気。

 真っ直ぐと伸びた、狂気。

 宗司は、この一閃の後生まれるだろう一匹の修羅へと、祝福の言葉を一つ送った。

 

「おめでとう。めいる殿」

 

「ぁぁぁぁあああああッッ!」

 

 流血の華が咲き誇り、辺り一帯に散り散りと消えていく。気勢とは裏腹に、あまりにも呆気なく千切れとんだ賊の首が振りぬかれた剣の衝撃で僅かに飛んで、血潮の海に埋没した。

 死山血河に新た生まれた命の華。

 その華を浴びながら虚ろと化した眼で空を見上げるメイルは、自分が取り返しのつかない何かを喪失してしまったのだと、呆けてはいるが、見上げる青空のように澄み切った心の中で思うのであった。

 

 

 

 




次回、主犯格、ビビる。

例のアレ
宗司
日の本で無頼の剣客として西を東を旅していたが、国を代表する剣聖との戦いの後に異世界へ転移。本作の主人公。

メイル・リンクキャット
物心ついたころには聖剣の守り手の一人として人知れぬ山奥で生活していた箱入り娘。守り手に相応しい穢れを知らない清らかな乙女だったが、宗司のせいで修羅顔ダブルピースの似合う素敵な修羅乙女になった。裸マントヒロイン。

クロナ・クロルキス
『魔族殺し』の称号を持つ傭兵。かつては魔族との戦いの最前線でとある国家の柱として戦っていたが、終わらない戦いに辟易し国を出奔。前線より離れた場所で不貞腐れていたところを雇われた。本作の常識人枠、つまり一番可哀想。乳無しデカ女。

聖剣チート
文字通り、チート。名前からお察しの通り、これを作り出したクソの性格は捻くれてる。
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