[凍結]私は真の英雄への道を歩む   作:りどれー

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第十歩  赤黒血尋:オリジン

 緑谷たちは、動けなかった。

 

 相澤が肘を崩された瞬間、思わず緑谷が飛び出しそうになったが、冷静だった蛙吹と、パニックになりそうな峰田が必死に止めたのだ。

 また、その直後に赤黒血尋が相澤の近くに降り立ったこともあり、少しだけ安心していた。

 

 それでも、赤黒が相澤から離れたときには緑谷が飛び出しそうになったのだが、そこに常闇が合流して、赤黒の言葉を彼なりに解釈して伝えていた

 

「すぐに怪我する緑谷では、戦力として不安だ」と。

 

 これを聞いた緑谷は、歯を食いしばり悔しさを全面に出していた。

 しかし、先ほどの水難エリアでの戦闘で、指を壊していた事実もあったため、その言葉には頷くしかなかった。

 

 そう、彼らはその場にいたまま、何の行動も起こせなかった。

 

 

 

 だから、目の前に突如大男の敵(脳無)が現れた時も、

 

 同じく現れた赤黒血尋(クラスメイト)が、自分達をかばった時も、

 

 赤黒血尋(クラスメイト)の体がくの字に曲がり、血を吐きながら吹き飛ばされたときも、

 

 ……緑谷達は、動けなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

 ……久しぶりの激痛だ。全身が痛くて、自分がどうなっているかすらわからない。

 

 こんなに痛いのは、こんなに苦しいのは、あの父親にやられて以来だ。

 

 

 

 緑谷達は無事だろうか。

 

 とっさだったとは言え、受け流しも何もできずに攻撃を受けてしまったな。彼らの目の前でスプラッタな所を見せてしまったかもしれないと思うと、申し訳ないな。

 

 

 相澤先生は無事だろうか。

 

 そのまま抱えて、緑谷たちの反対方向に逃がそうと思っていたけど、あの脳無の速度ではきっとダメだったかもしれないな。

 

 

 他の皆は無事だろうか。

 

 主要な(ヴィラン)以外はチンピラレベルと判断して、脅威度の高い広場に真っ先に来てしまったが、私がいなくて本当に大丈夫だろうか。

 

 ……いや、さすがにそれは傲慢か。ヒーローを目指しているんだ、最低限自衛の力はあると思わないと。

 

 

 

 

 

 …………。まずい、なんでも良いから、考えていないと、意識が飛び、そう……だ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『この社会には、贋物のヒーローが多すぎる!!』

 

 ……まさか、あなたに起こされるとは思わなかったよ。

 

 

『正さねばならん! 言葉には力がないのだ!!』

 

 ……あなたのその演説は聞き飽きたよ。

 

 

『誰かが血に染まらなければ、社会は変わらない!!』

 

 ……そのために、あなたは犠牲にしちゃいけないものまで犠牲にしたじゃないか。

 

 

『よく覚えておけ、チヒロ! 力がないから、自分の意志を貫くことすらできない!!』

 

「…………あ、なた、は、こふっ」

 

 ……いつも思っていたが、本当に、父親(・・)らしくない人だった。

 

 

 私は、若すぎる両親の娘として生まれた。

 

 物心がついた頃には、すでに産みの母親は逝去していた。

 残った父親も、英雄回帰という思想に妄執し、まだ1歳にもならない娘である私に、ヒーローとはこうあるべきだとか、オールマイトだけがヒーローだとか教え込んでいるような人間だった。

 

 まぁ、母親が死んだ原因が、父の言うところの『拝金主義の贋物ヒーロー』のせいだという話だったから、そこには同情しなくもないのだが。

 

 しかし、2歳になって発現した私の個性に、回復能力の強化があるとわかると、私を死ぬ一歩手前まで痛めつけるような訓練を始めたのは、やはりおかしいだろう。

 

 その訓練の時に、自分の内臓が斬られる感覚を覚えたり、骨折した回数など100は優に越えたと言えば、どれだけ異常な訓練だったかわかるだろう。

 

 私も幼い子供だったから、それがヒーロー(憧れた存在)になるために必要なことだと言われれば、どんなに辛くてもこなしてしまっていた。いや、こなせてしまえる肉体(個性)だった。

 

 おまけに、口にした自分の血液がとても甘い(・・・・・)ことを知ったために、個性が『吸血鬼』だと判断されたんだ。

 

 

 

 そんなどこかおかしい父だったから、離別の時も必然的におかしい状況だった。

 

 

 

 私が小学校に入学した年の12月。

 

 いつものように、私は父の手でボロボロにされていた。

 

 そして、ちょうど私を痛めつけている瞬間を、私の祖父母が、つまり、父の両親が見たのだ。

 

 なんでも、クリスマスプレゼントを買いに行くために、私を探していたらしい。

 

 祖父母の家に住んでいて、私の世話も祖父母がしてくれていた。

 ほぼ毎日行われていた父との訓練は、私の体が回復する時間を含めても精々1時間や2時間程度だったとはいえ、4年以上見つからなかったのは運が悪かったか、はたまた偶然だったのか。

 

 ただ、確実なことは、変わらないことは、

 

 祖父母が私をかばい、父を警察か、もしくは病院に連れて行こうとしたこと、

 

 父が、実はあれで情を持っており、でもその状況になったことで、最後の覚悟を決めてしまったこと、

 

 

 ……越えてはならない、最後の一線を踏み越えてしまったことだけだ。

 

 

 

『……。社会を正すためには、言葉では足りない。全くもって足りない。だから』

 

『何を言ってるんだお前は!? 自分の娘に何をしたのかわかっているのか!?』

 

『あぁ、ちーちゃん、なんて酷い……。大丈夫かい? ごめんね、うっ、気づけなくって、ごめんねっ』

 

『この社会には、贋物が多すぎる。拝金主義など以ての外。だから』

 

『いつまで馬鹿を言ってるんだお前は!! 累ちゃん(・・・・)のことは残念だったが、あれはどうしようもなかった事件だろう!! お前はいつから、いつからちひろちゃんにこんなことをしていた!?』

 

『……だから、誰かが』

 

『!? だめ! おじいちゃん逃げてっ』

 

『誰かが血に染まらねばならんのだ!!』

 

 

 

 

 

『……ハァ。良いか、チヒロ。これが、力がないということだ』

 

 

そこには、倒れ伏した私達と、刃物を手に立っている父の姿があった。

 

 

『……う、動い、て。おじいちゃんが。おばあちゃんが』

 

『お前の血液型(B型)では、俺の個性から抜けるのに時間がかかる。だからお前は、血を流してはいけなかった(・・・・・・・・・・・・)

 

そう私に言いながら、父は徐々に、気を失っている祖父母に近づいた。

 

『……!? やだ、やめて。おねがい、お父さん』

 

『……ハァ。社会を変えるために、正しき社会の為に、……俺は今までの俺を消そう』

 

 

 

そして、動けない私の目の前で、祖父母は父に殺された。

 

 

 

『よく覚えておけ、チヒロ。お前に力がないから、お前は自分の意志を貫けなかった』

 

誰も守れなかった(・・・・・・・・)

 

『……ぁ』

 

 

 

そのまま、私は意識を失った。

 

今でも覚えてる。私の最も辛い記憶。

 

父のあの言葉と、私の血を舐めた姿(・・・・・・・・)を、

 

 

 

私は、今でも覚えている。

 

 

 

 

 ……最悪な気分ではある。

 

 ……でも、おかげで少し目が覚めた。

 

 

 私は、あの父を捕まえなければならない。

 

 祖父母の墓前で、謝らせなければならない。

 

 

 

 だから、私は英雄(・・)にならなければならない。

 

 

 職業としてのヒーロー(父にとっての贋物)ではなく、本物の英雄(父が認める存在)にならなければならない。

 

 

 そうでなければ、きっと耳を貸さないから。

 

 

 ……そのためにも、こんなところで死にかけている場合じゃない。

 

 

 父が失踪したあの日から、私は血が飲めなくなった(・・・・・・・・・・・)

 

 父が私の血を舐める姿を思い出し、どうしても飲めなかった。

 

 だけど、私は知っている。

 

 幼い頃の私は、今のように飲み物(超高カロリー飲料)に頼らずとも、個性の強化率を上げられていた。

 

 だから、きっと、そういうことなんだろう。

 

 

 だって、……私は『吸血鬼』なのだから。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 緑谷達の目の前には、赤黒血尋を殴り飛ばした脳無がいた。

 

 

「ほら、やっぱりな。脳無を止められるわけないんだよ」

 

 そして、死柄木弔が歩いてきていた。

 

 

「っ!? あ、赤黒さん!!」

 

「ヒィィィィィ!? やっべえよ、こいつらマジでやべえよ!! だから逃げようっていったじゃねえかよおおお!!」

 

「緑谷ちゃん! だめよ、今飛び出したら、み、緑谷ちゃんも、赤黒ちゃんみたいに……っ」

 

「っく、赤黒っ。黒影(ダークシャドウ)! 赤黒の方に」

 

『バカやろう! お前が無防備になるダロうが!? それにわかるダロ!? あれ(・・)はもうムリだ!!』

 

 

「あーあー、うるさいなぁ。だから子供は嫌いなんだよ。それにしても、子供を殺しても平和の象徴(オールマイト)は来ないなぁ。あーあ、やっぱりヒーローなんて社会のゴミじゃないか」

 

「死柄木弔、あまり遊びすぎては……」

 

「うるさいなぁ、黒霧。お前が子供を逃がすから、制限時間が短くなったんじゃないか。ったく」

 

 悪意の塊が、緑谷たちの目の前に迫っていた。

 

 

「っっく。蛙吹さん!! 2人を連れて水中から逃げて!!」

 

「ケロッ!? 緑谷ちゃん!?」

 

「僕が、僕が少しでも足止めする!! しなくちゃいけないんだ!!」

 

「だが緑谷! お前の力では!!」

 

「わかってる!! 全力で使ったらどうなるか、僕が一番わかってる!! でも、この中で足止めができるのは僕だけだ!!」

 

 だから、ここで動かなければ、動こうとしなければ、彼らは全員死ぬ。

 

 だからこそ、ここで動ければ、覚悟を示せれば(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、見誤っていたよ、緑谷。お前は、本物の英雄(ヒーロー)になれる」

 

 

 その、聞いたことのあるため息(・・・)とともに、死柄木弔に向かって、巨大なコンクリート片(・・・・・・・・・・)が飛んできた。

 

「っ!? 脳無!!」

 

 それ自体は脳無が防御したが、死柄木弔の、いや、その場にいた全員の視線は、ある一点を向いていた。

 

 

 

「……すまない、心配をかけた」

 

 

 

 それは、ありえない姿だった。

 

 

 血を吐いていたはずだ。

 

 背骨も折れていたはずだ。

 

 確実に、致命傷となる傷を負っていたはずだ。

 

 

 

「だが、大丈夫だ。足止めは私に任せろ」

 

 そこには、赤黒血尋(・・・・)が立っていた。

 

 

 

「緑谷、お前達は相澤先生の救助を頼む。顔を叩きつけられていたが、命に係わる重傷ではない。ほどなく意識を取り戻すはずだ」

 

「あ、赤黒さん、でも……」

 

「……私は、こいつの足止めが精いっぱいだ。頼む、お前に任せる(・・・・・・)

 

 普段、最適解を考えて、適材適所に役割と方法を指示する彼女が、初めて指示を委ねた(・・・・・・・・・)

 

 

「……! わかった、赤黒さん! でも、危なくなったら手を出すからね」

 

 それに気づいた緑谷は、ようやく彼女に感じていた違和感の正体がわかった。

 

「ふふっ、そうだな。そうなったら頼むよ」

 

 彼女(赤黒血尋)は今、自分を対等に見ている。

 

 彼女が守るべき人(・・・・・・・・)ではなく、本当の意味で、対等に見ている。

 

 

 

「さて、待たせたな、(ヴィラン)達。今度は、その脳無とやらを止めてみせるぞ」

 

 どこか憑き物がとれたような顔をして、彼女は宣言した。

 

「強化率100%(・・・・)──『血の暴走』」 

 

 




正直どうかなぁという独自設定がここです。
ですが、主人公を決めた時から、ここだけは決まっていました。

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