細かいところで見落としがちなのに、わざわざありがとうございます。
第一歩 それぞれの想い
「おはよう! ちーちゃん!でも、昨日は大変だったんでしょ? 少しはゆっくりしてもいいんじゃないかしら?」
そして、帰宅と同時にいつも通りの元気満点の挨拶と共に、背中からタックルされた。
「……おはよう、母さん。でも、危ないから後ろから抱き着くのはやめてって何度も言ったでしょ。あと、一応ここは外。人の目を少し気にしてほしいかな」
そう、この元気というものを体現したような快活な女性が、私の母である。ついでに言うと、
「はあぁぁぁ。よし! 今日も健康! そして今日も可愛い! さすがちーちゃん、最高!!」
……かなりの親バカである。
「……でも、少し体の芯に疲れが残っているみたいだし、休みはちゃんと取った方がいいからね?」
「う……。わかった、ありがとう」
こんな感じでまじめに心配してくれるので、もうすぐ一緒に暮らして10年になるが、私は母に勝てないと思ってしまう。
ちなみに、母の名前は赤黒
「さて、というわけでシャワー浴びてきちゃいなさい! その後はしっかりごはんを食べること!! ご飯は元気の源だからね!!」
「……うん、そうだね。じゃぁ、シャワー浴びてくる」
「いってらっしゃい。あ、そうだちーちゃん」
「……ん、何?」
「後でいいから、今日中にお父さんにも無事だよって電話しておくこと。……すごく心配してたからね」
「……うん、それはわかってる。ごめんなさい」
現在単身赴任中の父だが、ある意味母以上の親バカであり、私のヒーロー科への入学を最後まで反対していた人である。……というよりも、今も賛成はしていない。最後まで説得し続けたので表立っての反対はしていないが、やはり昨日の事件で相当心配をかけたようだ。
「よし! ほら、お父さんのちーちゃん大好き病は仕方ないんだから、しっかり話しておけば大丈夫よ。私からも昨日の内にしっかり話しておいたし!!」
「……ありがとう」
これが私の今の家族。
あの冬の事件から今に至るまで、私を支えてくれている、大切な家族。
「というわけで!! お父さんを元気づけるためにも、このメイド服を着て今日は1日過ごしましょうそうしましょう!!」
「…………はぁ」
……私を好きなのは嬉しいのだが、やはり
◇◇◇
そして更に翌日。
「おはよう」
「「「相澤先生復帰はえええ!!!!」」」
全身包帯でミイラのようになっているが、病院で寝ていなくて良いのだろうか。
「俺の安否はどうでも良い。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「「「!!??」」」
「雄英体育祭が迫ってる!!」
「「「クソ学校っぽいのきたあああ!!!!」」」
「って、
当然の疑問が出てくるが、それに対して相澤は答える。
逆に開催することで、雄英の危機管理体制が盤石であると示す、という考えがあるということ。
そして何より、雄英の体育祭は最大のチャンスであると。
「
そう、それが雄英体育祭。
年に1回。計3回しかない最大のチャンス。ヒーローになるためには絶対外せないイベントである。
(……そう、絶対に外せない。ヒーローになるため、本物の英雄になるためには)
◇
相澤の言葉に俄然やる気の出ているA組の面々であったが、通常授業は当然のようにある。
しかし、雄英体育祭への興奮はなかなか収まらないもので、休み時間になる度にその話題で盛り上がっていた。
そしてそれは、昼休みになっても再燃していた。
(……よし。今日はいつもと少し変えて、ステーキ丼を食べてみよう)
……だが、昼食が大切な栄養であることに変わりなく、血尋はいつものように真っ先に食堂に向かおうとした。
「皆!! 私!! 頑張る!」
そこには顔がうららかしていない麗日お茶子が拳を上げていた。
そこで思わず足を止めた血尋は、そのまま緑谷や飯田、麗日と一緒に食堂に行くことにした。
◇
「お金欲しいからヒーローに!?」
「あー、究極的に言えば。なんかごめんね、不純で。飯田くんとかお兄さんへの憧れとかもあって立派な動機なのに、私恥ずかしい……」
道すがらヒーローになる理由を話していた面々だが、麗日は自身の理由を話すと、恥ずかしそうに縮こまっていた。
比較対象にされた飯田は、生活の為に目標を掲げることは立派だと肯定していたが、やはりお金のためというのは意外な理由だった。
そして、少しだけ詳しい理由を語った麗日は、決意を瞳に宿して言った。
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
「……はぁ、そこまでしっかりした目標があるなら、何を恥ずかしがる必要があるんだ。家族の為というのは、十分に立派な動機だと思うぞ」
「そうだよ麗日さん! 憧れだけじゃなく、現実的なことも考えてるんだ。恥ずかしがる必要ないよ!」
「え、いやぁ。赤黒さんやデクくんにそう言ってもらえると、なんか別の意味でこっぱずかしいなぁ。っとそうだ、赤黒さんの理由も教えてよ。実力は十分にあるんだし、きっとすごいヒーローになりそうだもん!!」
決意を宿した瞳をすぐに恥ずかしそうに伏せた麗日は、照れ隠しのように血尋へと話題を振った。
「……はぁ、そうだな。言わないというのは不公平か。詳細は話せないが、ある男を捕まえるためだ。そのためにはヒーローに、いや英雄になる必要があるんだ」
「捕まえる……? でも英雄っていうのは」
「……詳細は聞かないでほしい。ただ、仮に捕まえたとしても、私が英雄でなければきっと耳を貸さないだろうから。だから目指す、それだけだ」
(……そう、詳しくは話せない。それに、
「そういえば、オールマイトみたいなヒーローが目標だって言ってたもんね。赤黒さんの中では、ヒーローと英雄っていうのは違うものなのかな?」
「……そうだな。これはあくまで私自身の考え方なのだが、ヒーローと英雄というのは昔と今で意味が変わってきたと思うんだ。個性発現以前、まだヒーローが表舞台にいない時代は、まさしくヒーロー=英雄だった。
しかし、今の社会は違う。ヒーローというのは一種の公務員であり、職業として認識されている部分がある。
私が目指すのは英雄。職業として認識されている昨今のヒーローではなく、オールマイトのような、誰もが心の拠り所とするような本物の英雄だ」
そう語る血尋の瞳は、緑谷達が息を呑むほど真剣だった。
◇◇◇
その後緑谷は、唐突に現れたオールマイトに昼食に誘われ、血尋達と別れることとなった。
そして、オールマイトと2人で秘密の会話をしているが、その内容は緑谷にとって衝撃的なものだった。
ヒーローとして活動可能な時間がついに1時間を切ったこと。
マッスルフォームを維持するのさえ、精々90分が限界だということ。
そしてUSJ襲撃事件での話となり、いよいよオールマイトは本題に入った。
「ぶっちゃけ私が平和の象徴として立っていられる時間って、実はそんなに長くない」
自分の限界が近いことを。
「君に力を授けたのは、"私"を継いでほしいからだ!!」
自分の想いを。
「君が来た!! ってことを、世の中に知らしめてほしい!!」
緑谷に、雄英体育祭で求めるものを。
体育祭編、始まります。