魔法少女魂☆プレックス   作:黒樹

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※暇つぶし投稿です。
※マギアレコードで誰が誰をどう呼んでいたか覚えていないので変なところもありますが「ご都合主義」と「それは仕様です」で片付けます。
※チートが物語をぶち壊しますが問題はありません。


お兄ちゃんが帰ってきた!

 

私のお兄ちゃんは約一年前、突然いなくなった。

 

一度にいくつもの大切なものを失って。落ち込んでいた私に追い討ちをかけるように、唐突にいなくなったお兄ちゃんは『さよなら』も『またね』も言わず、本当にいきなり消えたのだ。

 

中華飯店『万々歳』を、家を…見限っちゃったのかも知れない。

お金があるとすぐ豪遊に使うお母さん達や、評判のあまり良くないうちが経営している食事処、それを支えるお父さんの料理、それを超えた料理の腕を持つお兄ちゃんにはお兄ちゃんの人生があって然るべき失踪だった。お兄ちゃんはそんな家族に愛想が尽きて……。

 

きっと、私も要らない子なんだ……。

 

だから、お兄ちゃんは何も言わずに出て行った。

 

私はいい妹とは胸を張って言えなかった。何かある度にべったりとくっついたり、ゲームをすれば負けたら何度も勝つまでせがんだし、わざと負けても怒るからそれで付き合ってくれたし、私は欲しいものを何でも強請った。お兄ちゃんが持っているものは何でも欲しくなったし、それは止められなかった。

 

送り出すことも、別れも、結局は言葉にできず。

あの日から、お兄ちゃんのことを待つ私がいた。

連絡を寄越してくれなくても、いつかは会えると信じて。

都合のいい夢だけを見続けた。

うちの食事処を潰さないようにお父さんを支えた。

お兄ちゃんのように、私は強くなりたいと願った。

憧れた背中は、父でもなく、母でもなく、お兄ちゃんの背中。

優しくて、カッコイイ、私だけのヒーロー。

不器用だけど、人見知りだけど、勉強も苦手だったけど。

紛れもなく、私の一番尊敬する人だった。

 

何の音沙汰もないけれど、いつか帰ってくるのを信じて。

私は“この部屋”をいつも綺麗にして待っているんだ–––。

 

 

 

 

 

 

–––るの。

–––鶴乃!

 

「目を覚ましなさい鶴乃!」

「っ、ふぇ?なに、敵?」

「どうしたのよ。さっきからぼーっとして」

 

ついうっかりしていたことに私は心此処に在らずだったらしい。私を叱咤してくれたやちよが目の前にいた。気がつけば此処はみかづき荘の前で、いろはちゃん、さなちゃん、フェリシアも周りにいた。フェリシア以外は心配そうに顔を覗き込んできていて、私は迂闊にも油断大敵という言葉を曲げていたことを知る。

私は気を取り直して笑って誤魔化すことにした。

 

「ごめんごめん。それで、何の話だっけ?」

「あなた本当にもう……。何の話って、今日はお店手伝うんじゃなかったの?」

「ほっ?あっ、そうだった。いっけない忘れるとこだったよー」

 

そうだ。今日はお店を手伝う日。そこまで忙しいわけでもないけれど、フェリシアと一緒にお店の手伝いをしなければいけない。そして、その後で……。

 

「お店の手伝いとお兄ちゃんの部屋の掃除をしないと……」

「…お兄ちゃん、ですか?」

「…ん?」

 

私の言葉に反応したのはいろはちゃんだった。次いでフェリシア。

そういえば今までそのことに触れたことはなかったっけ?と思い返して、別に隠すことでもないかと話すことにしてみた。

何より、いろはちゃんの境遇と私の境遇は似ているみたいだし。

いろはちゃんが探しているのは妹で、私が探しているのが兄ってだけで、私のそれは不思議でも何でもないただの失踪なんだけど。

何より大好きなお兄ちゃんの話は私がしたかった。

 

「ふんふん。まだ話したことなかったっけ。実は旅行に出たお母さん達とは別にね、お兄ちゃんがいたんだ。でも、一年くらい前に突然いなくなっちゃって」

「……それはなんというか、すみません」

「いいのいいの。私だって甘えてばかりいたせいでもあるんだし」

「……それは、想像がつかないというか。お兄ちゃんっ子だったんですね」

「うん。世界で一番のお兄ちゃんだから」

 

小学校の頃は帰ってくる度に飛びついた。毎日のように一緒にお風呂に入った。雷の日は一緒に寝た。暴力に負けそうな時はいつも守ってくれた。たとえ相手がどんなに大きな敵だろうと引かず、負けず、立ち上がる、憧れの人。いくらボロボロになっても守り続けてくれるそんなお兄ちゃんが大好きだった。

 

「あの“入っちゃダメな部屋”が鶴乃の兄貴の部屋か?」

「そうそう。入ったらいくら私でも赦さないからね」

「……な、なんか鶴乃ちゃん。いつもと雰囲気が違うような……」

「……う、うん。なんか怖い」

 

何故か、ガクガクブルブルと震え始めたいろはちゃんとフェリシア。

あぁ、そうだ、こんなことしてる場合じゃない。

早く帰らないと。そう思ってフェリシアに声を掛けた。

 

「行くよ、フェリシア」

「おう」

「いろはちゃん、ししょー、それでは」

 

Uターンして商店街の方へ駆けて行く。

憂鬱な気分を吹き飛ばすように走りながら、私は諦めにも近い願いを胸に。

あまり期待しないでおこうと、期待すればするだけ悲しい事を知っていて、期待を抱かずに願う。

お兄ちゃん、早く帰ってこないかなぁっと。

 

 

 

いつもと違う通りの雰囲気に気づいたのはそこに妙な行列を目にしてから。なんだなんだと思いながら『もしやライバル店が万々歳を脅かしているとか』なんて不安に駆られる。不味いなー、それはピンチだ。味も普通でパッとしない我が家の敵が出来るとなると敗戦は濃厚、新メニューを考えても、味があれでは……。

 

私は美味しいと思うんだけどなぁ……。

 

小さい頃から食べてきた料理が通用しないとなると、私は少し悲しくなる。それから少し歩いてみると、その行列の正体が判明した。

 

「……って、なんですとぉ!?」

「あっ、万々歳に行列ができてる……」

 

フェリシアの言う通り、私は目を疑ってしまったけど万々歳に行列ができているのだ。私の魔法少女になった願いは“お金”でそれ以上でも以下でもない。その願いは良い意味でも悪い意味でも影響を与えた。だけどその影響に、万々歳が繁盛しますように!なんてものは含まれていない。願ったのは“宝くじの一等”なのだから。

 

万々歳から出て来た家族連れはみんな満面の笑みだった。ゆっくりと近づいてくるその家族は母、父、兄、妹の四人家族。それを見るだけでなんだか胸が苦しくなってくる私は目を逸らした。すると、擦れ違う家族連れの会話から聞こえて来たのは私の想像を絶する内容だったのだ。

 

「……本当、立派になって帰って来たもんだよ」

「そうよね。あんな美味しいものが食べられるなんて」

 

聞こえてきた単語の一つが気になって私は思わず家族の方を見てしまう。

 

「あ、あのっ!」

「おや、鶴乃ちゃんじゃないか」

 

確か、たまに店に来てくれる田中さん一家だ。引き留めると夫婦揃って立ち止まってくれる。どう質問したものかと悩んでいる私に先に話を切り出したのは田中父だった。

 

「いや良かったよ。鶴乃ちゃんのお兄ちゃん、紫苑君、帰ってたんだね。いつ帰って来たんだい?」

「……ほ、本当に?」

 

そこから何を言われたのかわたしは全く聞いてなかった。体が突然わたしの制御を離れて駆け出してしまう。フェリシアを置いてけぼりにして中華飯店『万々歳』の前へ。開けるのを少し躊躇い、それでもと扉に手をかけて開け放つ。果たしてそこはわたしの望んだ結果が訪れていたのだろうか。

 

「–––ん。鶴乃お帰り」

 

出迎えてくれたのは、厨房で中華鍋を振るうお兄ちゃん。何故かお父さんはお客さん達から注文を取りにあくせくと働いている。見慣れない姿があった。

 

「……お、にいちゃん?」

「なんだ、幽霊でも見たような顔をして」

「うわぁぁぁん!」

「うおっ」

 

わたしは思いっきり跳んで、飛んで、抱き着いた。兄の懐へ飛び込むとがっしりと腕を回してぎゅっと抱き締める。お兄ちゃんはわたしの頭を撫でながら、器用に片腕で鍋を振るう。

 

「お帰り、はこっちの台詞だよバカァ!」

「確かにそう言わなくもない」

「ひっく…。いきなりいなくなって心配したんだからね!」

「…ぅ。それは悪かった」

「ふんふん。絶対許さないよーだっ」

「許さなくていいから、取り敢えず離れてくれ。料理ができん」

 

わたしは渋々離れた。実を言えばもっと抱き着いていたい。ぎゅっとしてほしい。離したくない。ウズウズする心を抑え込んで、じぃっとお兄ちゃんの手元を見る。

 

「それより鶴乃。帰って来て早速で悪いんだが、父さんの手伝いしてくれ。今にも虫の息だぞ」

 

見れば、お父さんは慣れない量のお客さんに振り回されて息も絶え絶え。汗を流しながら、あっちこっちと駆け回っていた。

–––お兄ちゃんが頼ってくれた。嬉しい。嬉し過ぎて心が爆発しそう!

 

「–––うぅ。いきなり置いて行きやがって……うぉ、すげ、満席だ」

 

–––あっ。フェリシアのこと忘れてた。

 

 

 

無事に閉店した万々歳の暖簾を降ろす。フェリシアも業務を終えて、お兄ちゃんを物珍しそうに眺めていたけどみかづき荘へとご飯と言いながら帰って行った。仕事中、抱き着きたいのを必死に我慢していたわたしはお兄ちゃんの腕の中だ。もう離さないと言わんばかりにぎゅっとすると優しく頭を撫でてくれる。

 

「おまえ、何歳になっても変わんないなぁ……」

「愛に年齢なんて関係ないんだよ!」

「いや、もう鶴乃も十七だろ……」

「えへへー。わたしももう大人の女の子なんだよ」

「それなら少しは恥じらいを持て」

「えー。おにいちゃんはめちゃくちゃにしてって甘えてくる妹は嫌い?」

「いや、嫌いじゃないが……ん?めちゃくちゃに“して”?鶴乃、俺の聞き間違いか?ちょっとお兄ちゃん海外に滞在し過ぎて日本語を忘れてしまったようなんだけど」

「えへへー。おにーちゃんの勘違いだよ」

 

椅子に座ったお兄ちゃんのそのまた上の膝に座ってすりすり。鎖骨も、首筋も、以前より逞しくなったように感じる。というか以前より筋肉質でより男らしくなってきたというか。料理も昔とは段違いに美味いし、あんな量の客を捌くなんて無理な芸当だったわけである。料理への情熱も趣味程度で関心なんてなかったはずだ。それでもお父さんよりは上だったけど。

 

「そういえば今まで何処で何してたの?」

「あぁ。中国四千年の歴史を学びに世界へ飛び立ち、着いたはいいが言葉が通じなくて何故か中国拳法に八極拳を習うことになって、全てを体得した後に英国へ渡り、美味しいアフターヌーンティーの仕方を学んで来た。ついでに英国貴族の家で執事をやっていてな、紳士と真摯はお兄ちゃんには理解不能な領域だったようだ」

「……相変わらず、おにーちゃんはそういう突飛な行動を取るところは変わらないんだね」

「だが妹よ。お兄ちゃんはいろんなところに引っ張りだこだったんだぞ」

「それでも帰って来てくれたんだよね」

「途中で飽きてな」

「さすがおにーちゃん。ハマるのも早ければ飽きるのも早いね!」

「…なんかバカにされた気が…」

「ううん。そうじゃないよ、そのおかげで帰って来てもらえたんだし」

 

相変わらず、お兄ちゃんの飽きっぽいところも影響されやすいところもわたしの大好きなお兄ちゃんだ。

 

でも……。

 

「すんすん。……ねぇ、おにーちゃん」

「なんだ、鶴乃。土産は進化したお兄ちゃんの手料理だぞ」

 

うん。土産なんてどうでも良かったけど、それは後日沢山貰うとして。

 

「……おにーちゃんから知らない女の人の匂いがする」

 

もっとも重要な事は、愛しのお兄ちゃんから漂ってくる嫌悪感のするそれ。お兄ちゃんに余計な匂いが混じってる。許せない。許さない。わたしのお兄ちゃんに誰が……。

 

「そりゃ女性客もいたからな。それじゃないのか?」

「違うもん。これは今日付着したのじゃないよね。まるで毎日抱き着いたみたいにべっとり付着してるよ」

「もうどこから突っ込んでいいやら、おまえの鼻はどうなってやがる」

「妹にはわかるんだよ。おにーちゃんが女の人に鼻の下を伸ばしていることくらい。机の引き出しの二重底にある如何わしい本の隠し場所も全部」

「妹よ。随分と廃スペックな気がするが、それは気の所為だ。保健体育の教科書が机の引き出しの二重底の中にあるのも別に隠してるんじゃなく、鶴乃の情操教育に悪いから目につかないとこに置いておこうとしただけで、あれは大人の保健体育の教科書だからな。高校生にはまだ早い」

「……おにーちゃんの変態」

 

お兄ちゃんの持っている保険体育の教科書は全部巨乳だった。なのでわたしはちょっとした悪戯をしておいた。お兄ちゃんの巨乳の保険体育の教科書を全て貧乳の保健体育の教科書に代えておいたのだ。

 

お兄ちゃんはわたしを抱きかかえたまま立ち上がる。ずんずんと歩いて行って「もしやこのまま部屋に連れ込まれるのでは!?」と思いながら連れ込まれたのは、わたしの部屋。優しくベッドに置くと颯爽と立ち去って行く。ってどこ行くの!?兄妹のスキンシップは!?わたしまだお兄ちゃんと話してないこといっぱいあるのに。

 

「ねぇねぇ、おにーちゃんどこ行くの?」

「疲れたから風呂入って寝る」

「えー、まだ話そうよー」

「……本当はちょっとした手伝いのつもりだったんだがな。客に久し振りに料理を喰わせろと言われちゃあ厨房に立たないわけにもいかなくなって、あの様だ。それに何処からか話を聞きつけた人達がわんさか沸いてくるし、時差ボケも相まって……もう無理、寝る」

「むー」

 

今度こそ部屋から出て行くお兄ちゃんの背中を見ながら思ったのだ。

 

「……あ、そうだ」

 

–––お風呂で背中を流してあげたり添い寝をすれば一緒にいられるじゃん。

 

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