魔法少女魂☆プレックス   作:黒樹

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※いろは視点


やちよと紫苑

 

 

 

その日、フェリシアちゃんはいつも以上に疲労困憊の様子だった。

 

「あ〜、死ぬ〜」

 

帰ってくるなり玄関に倒れこんだフェリシアちゃん。グダグダのヨレヨレで靴を脱ぐ気力もないようだった。

 

「おかえり、フェリシアちゃん。いつも以上に疲れてるみたいだね」

「んー。万々歳が…満席で…行列で…大忙しだったぞ」

「えっ、満席に行列!?」

 

–––つい驚いてしまう。

失礼ながら私の知っている万々歳はそこそこお客が来る店で、経営もギリギリだった筈だ。店主さんの料理も普通を出ない味で何がどうひっくり返ってもたった数日でお客が集まるとは思えない。

誠に失礼ながら、私はそういう万々歳を知っているから、フェリシアちゃんの言うことが信じられないでいた。

 

「とにかくその話はあとで、ご飯食べよ」

「おー」

 

いつも以上にやる気のない返事。フェリシアちゃんにしては珍しかった。

 

「さぁ、みんな揃ったわね?」

 

フェリシアちゃんがのろのろと手洗いうがいをして食卓に着くとやちよさんもさなちゃんも椅子に座って待機していた。最後にバイトから帰ってくるフェリシアちゃんを待っていた状態だった。当の本人はというと、ご飯を前にして少し元気を取り戻したらしい。「肉ー」と言ってもう既に他の人の話は聞いていなかった。

 

「フェリシアも帰って来たし、夕食にしましょうか」

「いただきまーす!」

 

やちよさんにより食事の合掌を躾けられたフェリシアちゃんが我先に箸を握る。一応、礼儀だけは保ったフェリシアちゃんにやれやれと首を振ってやちよさんも自分の食事に手を伸ばした。

 

それからしばらくしてからのことだ。

私はいつも以上に疲労困憊だったフェリシアちゃんに事情を聞いてみることにした。

 

「ねぇ、どうして今日はあんなに疲れ切ってたの?」

「おう。万々歳が満席で行列で騒がしかった」

「うそ、万々歳が満席に行列!?」

 

数分前の私と同じようにやちよさんも驚いている。

しかし、すぐに原因が思い当たったのか思案顔で一人頷く。

 

「……そう。あいつが帰って来たのね」

「よくわかったな。鶴乃のにーちゃんが帰って来たって」

「えぇっ!?それ本当?」

「鶴乃も抱き着いてたし間違いねーぞ」

 

……そこはスルーしておく。私だって久しぶりに大切な人に会えたらそうしちゃうだろうし。何より、やちよさんの反応が気になった。

 

「やちよさん、知ってるんですか?」

「……えぇ。よく知ってるわ。だってあいつ大学の先輩だもの」

「へー。話したりとかもしたんですか?」

「……そうね。むしろ知らないことを探す方が難しいかも」

 

なんだろう。やちよさんが途轍もなく冷たい気がする。淡々と答えてくれるのに、淡々と答える返答そのものが何処か冷たい。

 

なので私は探りを入れてみることにした。

 

「じゃあ、明日、挨拶も兼ねてみんなで万々歳に食べに行きませんか?」

「おう、それいいな!オレも鶴乃のにーちゃんの料理食ってみたいぞ!」

「えぇ、と……私は……お邪魔じゃない、なら…」

 

フェリシアちゃんもさなちゃんは乗り気だった。でも、実際問題はいくつかある。

まず一つ目は、探りを入れた相手–––つまりは、やちよさん。

 

「ダメよ」

「どうしてですか?」

「あいつケダモノだから、近づかない方がいいわよ」

「えっ、ケダモノ!?」

 

予想外の展開があったが別の問題が浮上する。

 

「それに二葉さんのことはどうするつもり?」

「どう、とは?」

 

問題はそこだった。

いくらケダモノでも、客にケダモノをするようなことはまずないと思う。

問題はさなちゃんが魔法少女にしか見えないこともだけど、それだけじゃない。私達はさなちゃんを本当に仲間だと思っているし、見えないことを弊害だとは思ってない、別に普通にファミレスも行く。

見えない人に話しかける時、私達にかけられる他人の目を今更気にしたやちよさんは失念していたとでも言うように視線を逸らした。実はこの人、鶴乃ちゃんのお兄さんに変に思われたくないだけで……。

 

「別に、私達には見えるから設定を忘れていただけで、それが理由であいつに目をつけられるのは嫌なのよ」

「そうですね。私も時々、忘れちゃいます。フェリシアちゃんなんて忘れるなんてレベルじゃありませんから」

「……なら、行くならあなた達だけで行って来てちょうだい」

「ダメです。じゃあ、やちよさん一人で行って来てください」

 

嫌そうな顔だった。苦虫を噛み潰したような表情、やちよさんでもするんだ……。

 

「絶対に私は行かない」

「どうしてですか?挨拶しなくていいんですか?」

「いいのよ。別にそれほど親しいわけじゃないし」

「会いたくないんですか?」

「……別に会いたくないというわけでもないわよ」

 

煮え切らない反応……。

これはもしや二人の間に何かあったのでは……?

でも、私は思う。

会える時に会っておかないと絶対に後悔するって。

 

「なら、行きましょう」

「……嫌よ。あいつだって私には会いたくないだろうし」

「そんなの聞いてみなくちゃわからないじゃないですか」

「……気不味いのよ。お互いに」

「はい……?」

 

私は気不味くなるような原因が思い浮かばない。

それでも会いたくないとはやちよさんは思っていないはず。

だって、こんなにも切なそうな表情をしたのは敵対している親友と再会した時、それと同じくらい複雑な表情をしているのだ。

きっと会いたくないとわけでもなくて、できるなら会いたいと思っているはずなのだ。

私はそう思いたい。

 

「それでも前に進むには会うしかないと思います!」

 

やちよさんだっていつかはこうなるってわかってたはず。それにきっと、街中にいるのだから会う確率も高い。鉢合わせるよりは心の準備をしておいた方が割とマシな気もしないでもない。ビクビクして避けて通るより、その方が私はいい。

 

お節介だとわかっていたけど。

そんな私に珍しく声を荒げてやちよさんは告白した。

 

「もう、察しが悪いわね。昔、付き合ってたけど彼を私がふったからどんな顔して会いに行けばいいのかわからないのよ!!」

 

……うん。それは気まずい。

 

 

 

 

 

その翌日、一応食事の件は保留になったものの私としてはやちよさんが付き合ってフッた相手とは気になるもので、詳細な理由は聞かなかったけどやはりどんなひとなのかなーとか気にしちゃうわけだ。野次馬根性で今日は万々歳に一人で行ってみようか、なんて思いながら午前の授業を終えて昼食の時間になった。今日は鶴乃ちゃんと昼食を一緒に食べる約束をしていて、昼食をあっちで用意するからと私は言われたので手ぶらで屋上に来た次第だ。

 

「あ、いろはちゃんこっちこっちー」

 

キョロキョロと見回す私を見つけた件の彼女が声を掛けてくれる。そうすることで場所を確認した私は足早にその場へ向かった。

 

「ごめんね、遅れちゃって」

「いいよいいよー。さ、座って座って」

「うん。……あれ?」

 

何故だろう、鶴乃ちゃんも手ぶらな気がする。

確か鶴乃ちゃんが昼食は用意するって話だったはずだけど……。

 

「ねぇ、鶴乃ちゃん、お弁当は?」

「もうすぐ来るよー」

「え、来る?」

 

私が聞き返した時だった。

ガッ、と金属製の空洞の何かを蹴った音が鳴った。

影が蠢き太陽を隠した。

思わず見上げた私が目にしたのは、太陽を背にする人影。

タンッ、と足音を鳴らして着地したパーカー、ジーンズの男の人。髪は白。瞳は翡翠。鶴乃ちゃんややちよさんよりも少し高めの身長、そして手には万々歳の岡持ち。

その岡持ちで鶴乃ちゃんの頭にゴンとお仕置きをして、男の人は言った。

 

「作って欲しいなら前日に言え、前日に。まったく……俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」

「わ、忘れただけだよー。あ、朝はお弁当作る時間なくて……そ、それよりおにーちゃんいなくなっちゃうの!?」

「話を逸らすな。わざと弁当忘れて作らせたの知ってるんだからな。それにこの街は可愛い女の子が多いし早々にいなくならねぇよ」

 

–––あっ、ケダモノだった。

 

「それで、君は鶴乃の友達か?」

「あ、はい、環いろはです」

「俺は由比紫苑。悪いな。鶴乃が無鉄砲無計画で」

「あ、いえ……」

「ちょっとおにーちゃん。わたしはちゃんと計画してやったんだよ。おにーちゃんなら、お弁当を忘れた妹がお腹を空かせないようにお弁当を作って持ってきてくれるって信じてたんだからね」

「やっぱ確信犯じゃねぇーか」

 

「誘導尋問とは卑怯なり!」と抗議する鶴乃ちゃんを無視して岡持ちを開ける。その瞬間、ブワッとお腹を空かせるいい匂いが辺りに満ちた。

 

「チャーハンセットB定食、A定食お待ち。好きな方を選べ」

「わーん。おにーちゃんがわたしじゃなくていろはちゃんを選んじゃった」

「喧しい。おまえはいつでも食えるだろ」

 

マシンガンみたいなやり取りにコメントを入れることは無理そうなので、私はB定食を選んだ。中身はチャーハンにエビチリ、野菜の春巻きのようなもの……皮の代わりにどうやら野菜の葉で何かを包んでいるようだった。「昨日は一緒に寝たり、お風呂に入ったりしたのに」と鶴乃ちゃんの抗議?が聞こえてくる。私は聞いていないことにした。

 

「……お、美味しい!」

 

一口目を恐る恐る口に入れてみると、口一杯に広がるスパイスと素材の味。……正直、今までの万々歳の料理とは比べ物にならない味だった。あぁ、それよりも、今まで食べたものより一番美味しい気がする。

 

「口に合うといいが」

「はい、それはもう美味しいです!」

「それは良かった。昼休みが終わるまではいるからゆっくり食べてくれ」

 

できるなら、これをういにも食べさせてあげたい。

この味の一つでも盗むことができたなら、それは私としても嬉しい限りだ。

食事を終えて、デザートにプリンも貰って、大満足した私は一日どころかこれから頑張る活力まで貰えた気になって、私としたことが好奇心と料理によって感じた疑問に口の滑りやすさが加速して。タブーを口にしてしまう。

 

「……あの、いきなりで悪いとは思うんですが、やちよさんと付き合っていたって本当ですか?」

「なんだそんなことまで知ってるのか……」

「え、嘘、そんなの聞いてないよおにーちゃん!」

「ステイ。鶴乃」

 

いきなりキャンキャンと吠え出した鶴乃ちゃんを嗜める。いや、この場合は宥めたのか。何にしても鶴乃ちゃんは納得していないようでうぅ〜と唸っていた。

 

「事実だ。まぁ、破局したけど」

「やちよさんから振ったんですよね。どうしてか聞いたんですか?」

「いや、俺もあまりしつこく聞くなんてしないからな……。元々、やちよはモデルやってたし、俺も嫌われたら嫌われたで仕方ないかなって思ってたし、相手が幸せになるんならそれでいいやって思うから。まぁ、縋るようなことはしないわけだけども。一応聞いても、話してくれやしなかったし。しつこく迫るのも俺もやりたくはないからなぁ」

「心当たりは……?」

「……うぅむ、やっぱりみふゆの胸を揉んだことかな」

 

–––こ、この人やっぱりケダモノだ!

 

「……みふゆにキスしたことかな」

「それはやちよさんだって怒りますよ!」

「それとも、ももこに悪戯したことかな」

「どれだけ出てくるんですか!」

 

掃除をしたら埃が沢山出てきたみたいだった。出るわ出るわ、不祥事案件の数々。この人、優しそうな割にとんでもないケダモノだった。

 

「まぁ、俺が悪いんだろうな、ってのは自覚ある」

「むしろそれで自覚してなかったらビックリですよ!」

 

あぁ、なんというか、支離滅裂だけど。

–––悪い人、とは到底思えないのだ。

 

 

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