物事が目論見通りいかない時には二種類の原因がある。
自分が現実を理解できてないか、神なんてお惚け野郎が碌でもないことをしでかしたかだ。
まず最初に言いたいことがある、私を異世界転生させたやつはさっさと出てこい。
確かに某小説投稿サイトで異世界転生ものとかいわゆる『俺TUEEEE!』モノを見てやってみたいと思ったことはある、認めよう。
何の苦労もせず伸し上がっていくのはご都合主義極まりないが、頭を空っぽにして見るには最適だし私にだってそう言った願望ぐらいはある。
剣と魔法の世界で冒険したいだとか! クール系主人公になって勘違い物をやってみたいとか!
圧倒的な力で無双してみたいとか思っても良いじゃないか、そんな事は誰だって一度は思ったことがある筈だ。
覚えてるのはその日が休日だったことと、前日まで激務続きで頭を休めたかったこと。
真面目な小説を読む気分じゃないので適当にネット小説を漁って活字に浸る幸福な時間、ひとしきり読み終わってからベッドに寝転がって天井を見ながら考えた。
ああ、異世界転生をしてみたらどんな気分なんだろう。
チートじゃなくてもいいからそこそこ世界を渡り歩ける力を持っていて、強い奴とでも渡り合えるぐらいの戦闘ができて。
容姿端麗と言わなくてもいいからそこそこイケてる面……可愛い系より凛々しい系、クール系がいいな。
あとはこう、私だって格好いい男性と恋愛してみたい、できればちょっとケモ要素含んでいた方が良い! ヘ〇シングの大尉みたいな!
想像するたびに広がる夢、会社勤めで疲れた頭には都合のいい世界がなんと心地よく映ることか。
だから叶わないとはいえ誰もいない部屋で、天井にこぶしを突き上げてこう叫んでみたのだ。
「あーっ! 異世界転生してみたーい!」
「よーし任せろ!」
後になって思う、「いやお前には頼んでない」と。
その後で思う、「そもそも誰だよお前」と。
転生したのは甚だ不本意ではあるが、私は前向きだった。
誰だったのかは全然皆目見当もつかないが、人間一人を転生させられるだけの力を持った存在だ――仮に神と呼ぼう。
神の意図は一向に分からねど、私の願いに答えて転生させたからにはそれなりに夢が叶う世界の筈だ。
むしろそう考えれば僥倖であり、それならばできる限り楽しんでやろうとすら思っていた。
……産まれてすぐに、スラム街のようなところで捨てられるまでは。
***
この街で”それ”を見るのは別に珍しいことじゃない、一種の日常であり、ありふれた悲劇だ。
他の場所じゃどんな扱いを受けるのかは分からない、自分たちはこの街を出たことがないから。
日常と言うのは一種のルールだ、規律だ、その証拠に街を往く誰もが”それ”に目もくれない。
――薄汚い布に包まれた、獣人の赤子
町中に響き渡らんばかりの声でそれは泣き喚く、自分の置かれた状況が絶望的であることを理解できているのだろうか。
いや、そんな筈はない。赤子も赤子、意識すら確立されていない産まれたてだ。己の生といずれ訪れる死すらも認識できてはいないだろう。
それは幸福な事ですらあるのだ、無知は賢者の罪であり愚者への祝福である
振り返ればそこに死神が居る、その恐怖を知ってしまえば最早そいつは生きてすらいない、死んでいないだけだ。
ならばこの赤子は今生きている、生きたまま死ねるのは幸せだ、羨ましくすらある。
この街の住人は皆生きながら死んでいるのだ、無論自分も……死の影に怯え、それに見つからぬよう声を殺して生き延びている。
背を向けて立ち去る、その声が次第にか細くなることを祈りつつ。
……数日経った、赤子はまだ泣き続けている。
街の住人達も気が付いたようだ、もしくは漸く目を向ける気になったということだろうか?
彼らは異物を嫌う、己の日常を害するものを嫌う、それ以上に関わることを嫌う。
これを処理せよと誰かが言う、それに同意する声が出る、けれども誰一人として動くことはない。
怠惰は人を麻痺させる、それは思考を犯す毒だ、人の意思から前に歩み出す意思を奪う。
死の恐怖に怯え、変化を忘れた者達、変化を忌避し拒みながらも自ら動くことが出来ぬ者達。
赤子は大声で泣き続けている、まるで迫りくる死を必死に追い払うように。
一歩踏み出した、周囲の目が一斉に集まる。
誰か自分を救えとばかりに泣き喚いていた包みを手に取れば、不思議なことにピタリと声が止む。
あれだけ泣いたというのにその瞳は今や私をピタリと見据え、まるでこちらを見定めているかのようだ……本当に意思があるのか? まさか。
案の定、獣人の赤子は最早どの種族の子か分からぬ混血だった、雑種――望まれぬ子、けれども生き抜く強さを持った子。
興が乗った、育ててみてもいいかもしれない。
***
死ぬところだった、いやマジで死ぬところだった。
目が覚めたら埃塗れの道端に捨てられてた、布にくるまれては居たけどそれ以外は何一つとしてフォローなしなんて。
冗談だよね? と思った後で一切冗談でなかったことを知った時の顔を見せてやりたい、赤ん坊だからそんなリアクションできないけど。
それからもう、泣いた、泣いて泣いて泣きまくった。
だってもう赤ん坊なんてまともに動けないし、泣くしかないし。
なんでか知らないけれど体力だけは無尽蔵にあったから全然苦しくなかったけど、やっぱり泣きまくって誰からも反応がないのは精神に来る。
それでも泣いて泣いて、とにかく大声で、私が居る限りお前らに安眠は無いぜと言わんばかりに四六時中泣いてやった。
この街の住人が私を殺そうとしてきたならどうしようもなかったけど、なぜかそうはならなかったみたい。
みんな遠巻きに私を見てはひそひそ言ってるだけだし……なに? 私に何かあった? 呪いの紋章がついてるとか?
そんな事を思ってたからいきなり抱き上げられた時は思わずドキッとしちゃったよ、だってその人ひょろひょろで魔女みたいなんだもん、食われるかと思った。
お前になんて食われやしないぞって睨み付けてたらなぜか上機嫌になったけど。
……まあ、結果的にその人には謝らなきゃいけなかった。
私がまともに動けるようになるまでの3年間ずっと親代わりになってくれた、顔が怖いからって疑ってごめんなさい。
どうにもこの街は戦争から逃げて来た人達が集まって出来たスラムってことで誰も彼も顔に生気がない。
というかスラムって、剣と魔法の世界はどこ? ホェアー?
最初から否応なしに感じていたいや~な予感が広がっていくのを感じつつ数年、状況把握に努めた。
結果として分かったことは大まかに以下の通り
・魔法はあるけど重火器の方が強い
・剣はあるけど重火器の方が(ry
・スラムの近くには普通の街がある、どこかに王国もあるみたい
・私は獣人、それも雑種
うん、なんとなく察していた。街の空気がまんま中東なんだもの、というかミサイルが普通に設置されてるし、トラックの荷台に機関銃が積んでるし。
……私は剣と魔法の世界に行きたいって思った訳であって断じて、一瞬たりとも、ポストアポカリプスの世界に行きたいって思ったことねーから!!!!
魔法の杖じゃなくてロケットランチャーだし! 生物兵器あるし! 明らかに放射能マークでガイガーカウンター反応しそうなブツが転がってるし!
でもそんなことより重要なのが最後の一点、鏡を見ずとも分かるけど私は獣人だった。
耳もピコピコしてるし尻尾も生えてる! テンション上がる! こればっかりは神様に感謝しておこう。
けれども雑種というのは珍しくもなんともないらしい、それどころか獣人たちの間で忌避される存在だとか。
どうにも獣人には『血統至上主義』があるらしい、しっかりした家柄こそが正義とか。
そんな訳で雑種は下層も下層! 劣等種族! 唾吐いても殺しても良いしむしろそうするべき存在! らしい……やっぱ神とやらは殺すべきでは?
雑種の良い点として、なんといってもタフさ、そしてそれぞれの種族の特徴を持っている多様性、その代わり社会的地位は最底辺とのことである。
まあ、そんな私でもちゃんと育ててくれた婆には感謝してもしきれない。
三歳なんてまだ言葉も発せない段階だったけど、色々な手段で感謝を表してきたつもりだ。
惜しむらくは彼女は私が物心ついていることを認めなかったことだけど……声を出せるようになったら伝えようと思っていた。
けれども彼女は死んでしまった、よりにもよって私が声を出せるようになったその日に。
死因は老衰だろう、この街でまともな死が訪れる者は少ない、彼女がその幸運を拝することが出来たのが僅かばかりの救いだった。
悲しかったし、後悔した。彼女に対してだけではなく、転生する前の私の両親に対してだ。
いきなりの転生で忘れていたが、向こうの私はどうなったのだろうか? 死亡扱いなのだろうか? そうしたら私の両親はどう思うのだろうか?
最早ここからは知ることは出来ないけれど、なんだかんだ転生に夢中になって忘れていたのだ、私は。
それから色々なことがあった。
ストリートチルドレンの一人として悪事に身を染め、グループ同士の抗争に巻き込まれることもあった。
数々の戦歴を潜り抜けるにつれて私の戦い方は洗練されていく、徒手や武器、銃器を相手にするのは楽しい。
まるで思い出していくかのように体が動くようになる、体が一回りも二回りも大きな相手を圧倒的な力でねじ伏せられるようになる。
ただしまだ慢心があった、罠にかかることもあったし大怪我も負った、その度に私の六感は研ぎ澄まされていった。
年月を経て十分に力を付けたと感じた私は生まれ故郷である街を抜け出した、色々な世界を巡ってみたくなったのだ。
けれども私は雑種で、例え力を付けていたとしても良きられる世界は限られていた。
あの街で私は自由だった、誰の目を気にすることなく生きることが出来た。
けれども真っ当な世界を歩もうとすれば、意識すらしていなかった差別がそれを阻み、私はどんどん薄暗いところへと追いやられていった。
ある国では軍人をやった、最下級で惨めだったが仲間には恵まれた、小さな抗争ではなく大きな戦争に参加してそれなりの戦果を挙げたがうっかり上官を惨殺して逃亡する羽目になった。
ある国では用心棒をやった、砂漠を往く商隊を護る仕事だ。実入りの良さと敵の強さから高級商隊の仕事ばかりをしていたら名が売れた、商隊ではなく私を狙う輩が増えてきたので国を去った。
ある国では傭兵をやった、これは不得手だった、給金以上に破壊をしてしまうのだ。お前は商売が分かっていないと首になった、後にも先にもリストラされたのはそれが唯一だ。
暗い場所を転々としているうちに、いつの間にか十数年が経過していた。
幼かった私の容姿は長身になり、日に焼け、瞳に感情を映さない術を覚えた、身振りを誤魔化すためにトレンチコートと軍帽を被るようになった。
鏡を見て思う、これではまるで女性になった大尉だ――……まあ、彼と違って私は随分と感情的に喋るし悪態も吐くのだが。
いつの間にかこの世界で過ごした年数が人間として過ごしていた年数を超え、私はすっかり闇の住人となっていた。
世界のどこでも生き辛くなった者達が最後に向かう街がある。
黄金と背徳、悪徳と人情、思惑と策略。全てが揃い、全てを喪う街――ウィティア。
あらゆる悪事の掃き溜めであるこの街では、国を揺るがす鼠すらも表通りを走るのだ。
身を焦がすリスクと危険な匂い、血の気配と陰謀の気配に鼻腔をヒクつかせて、私は往く。
……ああ、ただ、文句を言いたい。
そろそろイケメンケモオスと巡り合いたいのに、出会いがない。因縁を向けてくる相手はなぜか大抵女だし、男とは大抵殺し合いで女は尻を狙ってくる。
魔法を使いたいのに魔導書なんて欠片も見当たらないし、剣はあってもマチェットとかサバイバルナイフの方が使い勝手が良い。
クール系になりたい? 恫喝悪態罵詈雑言を使わなきゃやっていけないのに無口キャラなんてできる訳ないでしょ? バカなの?
というか大尉系のキャラが好きなのに自分が大尉になってどうするの? 恋愛フラグが女としか経たないとか、そのせいで私まだ処女だよ?
強いっちゃ強いけど周りも頭イカれた強さだからバランスは取れてるけど優越感とか爽快感とかないし、いつも死にかけるし。
こう、言いたい、切実に文句を言いたい。私を異世界転生なんてさせた奴にだ。
なんで私をこんなロ〇ナプラみたいな世界に転生させたんだよ! ファック!!!!
久しぶりの執筆がこんなのでいいのかと思うけど、書いててとっても楽しかったからいいや!