鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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前話ラストの翌日スタートですが、新たな章に突入です。
ゆゆゆ編は貴也よりも園子の方にスポットライトが当たる(がいじめたおされる)予定なので、その辺を踏まえての章タイトルとなっています。
ただし、予定ではフルスロットルで駆け抜けるので、わすゆ編13話よりも短くなる可能性が高いです。

と、いうことで本編開始です。





乃木園子の章
第十四話 青空の下で


新しい家に引っ越して二日目。

三ノ輪銀が園子を訪ねてきた。

園子とは、おおよそ九ヶ月ぶりの再会となった。

園子が病院にいる間は、会わせてもらえなかったのだ。

 

 

 

 

「園子、久し振り。お互い、えらい姿になっちゃったな」

 

「ミノさん、久し振り~。えへへ、ちょっと無茶し過ぎちゃったかも」

 

二人とも、努めて明るく再会の挨拶を交わした。

二十回の満開で四肢がほとんど動かず包帯だらけの園子と、右腕を失い、左足を引き摺るように歩く銀。

お互い、貴也を通じて大体の状況を把握していたため、その姿に今更驚愕したりはしなかった。

 

「ご家族は元気にしてる? 弟くんたちも」

 

「あー、元気にしてるよ。金太郎も元気に歩き回るようになったし。あと、鉄男がえらく優しくなっちゃったのには面食らうけど。こんな体になっちゃったから、親も含めて気を遣われるのは分かるんだけどさー。前みたいに自然でいいのにな」

 

「そうなんだ~」

 

「それに、鉄男に優しくされるとさー、なんか自分が女なんだなーって改めて思っちゃったりなんかして」

 

「ふふふ……」

 

「そう言う園子はどーなんだよ。好きな人と一つ屋根の下か。なんか憧れちゃうなー」

 

「あはは……。まだ二日目だよ。それに、こんな体だからね。色っぽいことなんか起きないよ。私のお世話をする大赦の人も二人、常駐してるしね」

 

そうやって、近況やら身の回りのことなど、とりとめなくしゃべっていく。

その中で、園子は新しい勇者システムについても銀に概要を話した。

勇者の任を解かれた銀には、もはや関係ないことかもしれないが、やはり自分の状況を友達には知っておいてもらいたかったのだ。

 

「そっかー。あたし、バカだからさ。こう、なんにも言えないんだけど。やっぱり、酷い話だよな」

 

「ううん。ミノさんは気にしなくていいんよ。せっかく、勇者から外れたんだし。それに、ミノさんはミノさんで大変だろうしね」

 

「あたしなんか、まだ大したことないよ。それにしても、須美も記憶を持っていかれてるのかー。じゃあ、会いに行っても迷惑なだけだろーなー」

 

「多分、大赦に止められるよ。どうも、新しい勇者グループのサポート役として考えているみたいだし」

 

「戦いは続くってことか……」

 

そう言って銀は庭の一角を一瞥する。

 

そこは、ちょうど園子の部屋の南側に当たり、高さ二メートル半はあろうかという生け垣が不自然にコの字型に敷地を切り取っていた。

その生け垣の向こう側に見える小さな屋根。公道側からアクセス可能な小さな社である。

つまるところ、園子の部屋を本殿、社を拝殿に見立てた、これが大赦が言うところの『園子を祀り上げる仕掛け』であった。

上里の老神官など『病院の施設を利用したおざなりな物よりも、よっぽど格が高いわ』と(うそぶ)いていたそうな。

 

 

 

 

庭を見ている銀の腕を右手でちょいちょいとつついてみる。

 

「それでね。ミノさんに折り入ってお願いがあるんだ~」

 

「ん? おーおー、なんだい。この銀様に話してみな」

 

「たぁくんを鍛えて欲しいの。たぁくんは、大赦の勇者でも、神樹様の勇者でもないから戦う義務なんてないんだけどね。本人がどうしてもやめてくれないんだ。私が、何度もやめてって言ってるのに。だからね、せめて戦いの中で大怪我したり、死んじゃったりしないように戦い方を教えてあげて欲しいんだ~」

 

「いいよ。ってか、あたしもこんな体だから、あんまり本格的には教えられないけど」

 

「私もこんなだからね。それに、たぁくんの武器は輪形の刀だから、ミノさんの方がまだしも近いしね」

 

「分かった。基礎鍛錬と掛かり稽古程度ならいけると思うよ。本格的な地稽古は、足がこんなだから無理だけど」

 

「ふふふ……。たぁくんは弱いから、それで十分だよ」

 

そんなやり取りが切っ掛けで、この後、貴也は銀に鍛え上げられていくことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

夕食を終えた後、貴也は園子と一緒に居た。

 

食事のことも含め、園子と話す話題にはタブー視せざるを得ないものがたくさんあった。

また、そもそも話すべきことは、この一ヶ月強の間に病院で話し尽くしていることもある。

だから、早々に話題は尽きてしまい、今はこうして同じ部屋に居ながらそれぞれ読書に耽っていた。

貴也は、園子のベッドのそばで椅子に腰掛けて。

園子は、ベッドに寝ながらブックスタンドを使って。

 

ただ、時々相手の顔を見てしまう。すると視線に気付き、結局、自然に見つめ合う形となる。

そうして微笑みを交わして、また視線を文章の方に戻す。

それを幾度か繰り返した。

 

特に言葉を交わさなくとも、自然に優しい気持ちでいられた。

 

 

 

 

十時も過ぎたため、千草は二人に声を掛けに園子の部屋へやって来た。

 

「貴也。園子ちゃん。もうそろそろ遅いから、二人とも寝なさいよ」

 

「「はーい」」

 

二人の返事は、きれいにハモった。

 

『どこまで、気が合ってるのかしら?』

 

微笑ましく思う。

だが、母としてはやはり息子のことが心配である。

 

園子のことは、元々は貴也には勿体ないほどのお嬢さんだと思っていた。

そんな子が折に触れ、息子への好意を滲ませていたのは、正直、誇らしいとさえ思っていた。

将来は……、などと考えていたことさえある。

 

しかし、今はあの体である。このままだと、息子は余計な苦労を背負うことになるのだろう。

せめて、今日訪ねてきていた三ノ輪のお嬢さんぐらいであれば、と詮無いことまで考えてしまう。

 

『ダメダメ。こんなこと考えてちゃ。貴也にも、園子ちゃんにも失礼だわ。それに、貴也の頑張りを否定してしまうことにもなる。むしろ、私が背負うつもりで頑張らないと……』

 

貴也が大赦を敵に回し、殴り込みを掛けに行ってまで園子を取り戻した顛末を思い出し、自分を叱咤激励する。

 

すべてを知っているわけでないにせよ、彼女は二人を応援していこうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、おやすみ」

 

「うん。おやすみなさい」

 

着替えも済ませ、寝る用意をしてから、改めて就寝の挨拶をしに来た。

彼女が、まだ触覚が残っていると言っていた右手を軽く握ってやり、おやすみの挨拶をする。

手を離して、自分の部屋へ戻ろうとした時だ。

 

「待って!――――――あ。……ううん。なんでもない」

 

なんでもない訳がなかった。園子の瞳に不安がありありと浮かんでいるのに気付いた。

 

「なんでもないこと無いだろ。僕を信じてよ。思っていること、なんでも言っていいよ。全部、吐き出しちゃえば楽になるからさ」

 

「うん。――――――ゆうべね、何度も目が覚めちゃったんだ~。その(たび)にね、もしかしたら、これは夢なんじゃないかって。たぁくんと同じ家で寝ているのは、私の単なる妄想で、本当はあの祀られた部屋にまだいるんじゃないかって、不安になって……」

 

「そのちゃん……」

 

「本当は怖いよ。私みたいな子が、こんな幸せを受けてもいいのかなって。あそこに閉じ込められてたのは私への罰だから。――――――でもね、目の前に幸せがあると、やっぱり縋っちゃうんだ。一人になるのが怖いんよ」

 

園子は、やっぱり左目を不安そうに泳がせる。

だから、心を決めた。

 

おもむろにベッドに上がり込み、園子の左隣に横になり、園子にも自分にも掛かるように布団を掛ける。

 

「えっ、えっ、えっ? たぁくん?」

 

「僕も恥ずかしいんだから、何も言わずにさっさと寝る! 今晩だけだからな」

 

 

 

 

「たぁくん……」

 

彼の、照れ隠しにちょっと怒ったような言い回しに、何故だか安心した。

甘えてもいいのかな、とちょっと思った。

 

『でも、左隣はあんまりだ。そっちだと、たぁくんをあまり感じられないんだけど』

 

そんなことに不満を持ってしまう自分のことが哀れで、でも少し愛おしく思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後しばらくの間、時々二人が布団を共にする姿が見られた。

貴也の両親は何も言わなかった。千歳ですら、二人を茶化すことはなかった。

 

なぜなら皆、園子の不安を理解していたから。

そして、園子のことを家族の一員として大切に思っていたから。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、こちらが元々の貴也くんの物。こちらが新しいスマホ。と、いうことで園子様のスマホを返してくれないかな」

 

「たぁくんのスマホを渡すのが先でしょ」

 

「いやー、確かに。確かに、そう来るよね。でも、これもボクのお役目なんだけど」

 

「じゃあ、変身しちゃうよ」

 

「分かりました。分かりましたってば。――――――新しい方には、ちゃんとNARUKOも入れてます。それから、技術部の皆さんからの『ふざけんな!』という言付けも伝えておきますね」

 

少し軽い調子で受け答えするのは、大赦の職員。春先に初めて会った時、三好と名乗っていた。

普通にスーツに身を包んでおり、名乗らなければ大赦の職員とは分からない。

ただ、この軽い調子はどうも演技のようだ。園子や貴也の担当としての態度なのだろう。二十歳をそう過ぎていなさそうで、大赦の中では世代が近そうなのも、二人を警戒させないためか。

 

一方、技術部からのクレームは予想通りである。

元々、大赦の技術部からは貴也のスマホを見せろ、との要請が強く来ていた。

手の内を見せたくない二人としては最低限の条件として、園子のスマホとの引き替えを要望したのだ。

大赦内部での綱引きがあったのだろう。この時期になって、ようやく園子の元に一時的にとはいえ変身用端末が戻ってきた。

ところが、それほどの手間を掛けていながら、貴也のスマホには勇者関連のアプリなど何も入っていなかったのだから、当然の反応というものである。

 

結局、貴也の勇者システムについて大赦は何も把握できていなかった。

貴也と園子は、貴也の意志に応じてスマホに謎のアイコンが出てくるのだ、と言い張り、一応それが公式見解となっていた。

 

ただし、これからはそうもいかないだろう。貴也のスマホには監視用アプリが仕込まれているだろうから。

それでも二人は、メリット、デメリットを勘案し、大赦謹製アプリNARUKOのインストールを選んだのだ。

 

 

 

 

「じゃあ、これでそのちゃんや銀とSNSでいつでも連絡できるようになっただけでなく、バーテックスの襲来も分かる様になったってことか」

 

「そうだけど、極力、機密事項はやり取りしないように。お願いしますよ」

 

「わかりました。いつもご苦労様です」

 

「君を見ていると、いつも思うよ。本当にこんな子が大赦に殴り込みを掛けたのかな、って。恋の力は偉大だね」

 

貴也が礼儀正しく職員をねぎらうと、少しからかわれた。

確かに、傍から見るに貴也は優しげでお坊ちゃん気質な人物であり、そういった荒事を行うようには見えないからだが。

 

「茶化さないでください。あぁ、それから、そのちゃんのスマホを返すのは明日になります」

 

「え? どうしてだい? それは困るんだけど」

 

「雨が降ってるからね。そうじゃなければ、二時間ほど時間をもらえれば今日中に返せたんだけどね~」

 

外を見やって、園子がそう答えた。かなり強い雨が降っている。

 

「ちゃんと明日には返すから、今日は帰ってくれないかな? いやだ、って言っても実力でお帰りいただくことになっちゃうけどね~」

 

「はぁー、分かりました。理由は聞いてもいいかな?」

 

「たぁくんに、壁の外を見てもらうんだ。私が案内役をしてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

まさしく『地獄』という言葉が相応しい光景だった。

灼熱に爛れた大地。太陽プロミネンスのように吹き上がる炎。数を数えるのも馬鹿らしくなる小型バーテックス(星屑)の群れ。形作られる大型バーテックス。

 

星屑に襲われないよう、二、三分で結界内に戻った。

 

 

 

 

四国を守る結界を構成する、特大の根や蔓が絡まって出来た壁の上。園子は隣の貴也の表情を見て、怪訝な顔をする。

 

「たぁくん、あんまりショックを受けてないみたい……」

 

「いや、やっぱり百聞は一見に如かず、聞くと見るとは大違いだよ。それでも、そのちゃんに事前に聞いていたからかな、予想していたよりはショックが少ないよ」

 

「私なんて、初めてあの光景を見た時、悲壮な決意をしたんだけどな~」

 

「悲壮な決意なら、そのちゃんを実力で取り戻そうと思った時にしたからね。――――――僕が折れたら、そこで終わりの話と、僕が折れても、本職の勇者が他に何人もいるっていう話との違いじゃないかな?」

 

「そっか~。そういえば、あの時は勇者が実質私一人だったしね」

 

顔を見合わせて笑顔になる。自分たちは意外に呑気だな、と園子は思った。

二人でいればこそ笑顔になれるんだ、とも思った。

 

 

 

 

「それに、僕はそのちゃんたちほど博愛主義者じゃないからね。ああいうのを見ても、なんとなく他人事(ひとごと)に感じてしまうところもあるんだ」

 

「え~、そうだっけ? あ、でも、たぁくんて身内認定してない人にはけっこう冷淡かも」

 

園子は小四の頃の、つまりは貴也が小五の頃のエピソードを幾つか思い出した。

確かに、貴也は同じクラスメイトでも仲のいい友達と、単なる級友に対するものとの態度の差が明確にあったように思う。彼の意外な一面を思い出した。

 

「でも、それとこれとは話が違うよ~」

 

「違わないさ。なんか、どうでもいい、こっち来んな、って感じかな」

 

「あはは……。たぁくんは、女の子に生まれてても絶対『神樹様の勇者』にはなれないね。勇者適性値、低そ~。まさかのゼロだったりして」

 

「神樹の勇者になんか、なってくれって言われたって、なりたかないね。そのちゃん達を苦しめてるんだから」

 

「たぁくんが、私のアイデンティティを殺しにかかってる?」

 

「そのちゃんや銀が神樹の勇者だってことは、否定しないさ。僕がなりたくないってだけで」

 

「じゃあ、今使ってる力は何だと思ってるの?」

 

貴也の答えはなかった。

 

 

 

 

『そのちゃんから授かった力さ』

 

その答えは口に出せない。分かっていた。その答えが園子を追い詰めるものだと。

 

貴也は勇者となった園子の姿を目に焼き付ける。

紫を身に纏う勇者。

勇者装束のギミックにより、動かない手足、体の補助がなされていた。

 

そうだ。ショックを受けてないなんてことはない。

彼女の前だから平静を装っているだけ。

無限に生み出されるバーテックス。死ねない園子。その意味するところは……

 

自分には圧倒的に力が足りないと思った。

これからも満開を繰り返さざるを得ないだろう彼女をこそ、守りたいと願うのに。

 

 

 

 

少し涙が滲みそうになったのをこらえて、空を見上げる。

十一月の抜けるような青空が広がっていた。

 

『これも、神樹が見せている幻なんだろうか?』

 

それでもいいと思った。

園子と穏やかな日々さえ過ごせるなら、それでいいと。

 

 

 




原作ゆゆゆ本編にたどり着いていませんが、今話からゆゆゆ編です。
ゆゆゆ編で書きたいことの伏線と言いますか、お膳立てが色々と入っています。

貴也の母の気持ちは、ここでぶっこんでおきたいな、と。
このお話はハッピーエンドを目指しているので、母親の気持ちも若干マイルドにということで。

壁の外を見た後の反応含めて、貴也は幼少期から園子の前で平静を装う場面が多いですね。園子に対して年上ぶりたい、えー格好しい、ということですか……。
心配の対象も、園子>>>>>>>>世界 ってぐらいには園子優先ということのようですし。


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