鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第十五話 後継者たち

カン! カッ、カッ、カッ、ガンッ!

ザザザザザッ……。

 

貴也の鉄芯が入った木刀の打ち込みを、銀が同じく鉄芯入り木刀の二刀流で捌く。

貴也が激しく動きながら打ち込むのに対し、銀は立ち位置をほとんどずらさずに捌いていく。

左腕からの反撃の一撃は重く、貴也を体ごと後ろへとずり下げた。

 

技量の差は圧倒的である。

 

 

 

 

「今日はこの辺にしとこーか」

 

「「ありがとうございました」」

 

互いに一礼を交わし、本日の訓練を終了する。

汗を拭いた後、園子の部屋の南側を通る廊下兼縁側に二人腰掛ける。

ベッドの位置をいつもよりも廊下側にずらしていた園子が(ねぎら)ってきた。

 

「二人ともご苦労様~」

 

「ありがとう。でも、一年頑張ってきたけど、銀の足元にも及ばないな。こりゃ、先が見えないや」

 

「一年前と較べると見違えるよーになってるよ。最初はへっぴり腰だったし……。それに貴也さんが勇者装束を身に纏えば、もう技量だけで押し負けると思うよ。ま、この足のハンデ付きが前提だけど」

 

「そうかなぁ?」

 

貴也が勇者装束を身に纏うと、身軽になり体の動きにキレが出るだけでなく、剣の技量や格闘のセンスにまで向上が見られることを発見したのは銀だった。

園子と三人で分析した結果、貴也は『召喚』を行った時点でもう一体の精霊を既に憑依させているのだろうとの結論に至った。そうであるなら、精霊の種類と指輪の宝石の種類がともに四つで揃うから、というのが最大の理由である。

園子の推測では、七人御先は七体あるのでサファイア二つが担当し、残り三種類の精霊を他の三つの宝石が担当しているのではないか、とのことだった。実は、この推測は間違いだったことが後に明らかになるのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

「でも、そのちゃんや銀は一年ちょいの鍛錬で実戦で戦果を上げたろ。それと較べるとなぁ、自分がいやになるよ」

 

「そりゃ、鍛錬の密度がそもそも違うし、あたしらは何人もの候補から選ばれた本職の勇者だからなー。限りなく一般人に近い貴也さんとは違うと思うよ」

 

「前も言ったと思うけど、勇者適性値っていう指標があるんよ。多分、戦闘面でも性格面でもたぁくんの適性値は低いと思うんよ。男の子っていうことだけじゃなくってね」

 

「そういや、あたしらの勇者適性値って、どの位だったんだろーなー。園子は知ってる?」

 

「前、興味本位で聞いてみたけど、教えてもらえんかったんよ~。でも、私の見立てだと、ミノさんがダントツで、私とわっしーがドングリの背比べってところだと思うんよ。――――――でね、新しい勇者候補生の中で最高値を叩き出した子が讃州市の讃州中学に居るんだって。わっしーもそこに通学してるってことだから、そこの候補生たちが本命なんだろうね」

 

園子が大赦から聞き出した情報を元に、話題をより深刻な方向へ変えた。思うところがあるのだろう。

 

「戦いが近いってことか?」

 

「うん。神樹様からの神託もあったって。近々、バーテックスの侵攻が再開されるって」

 

「あたしは勇者の資格、剥奪されちゃったからな-。なんか歯痒いよ」

 

「ミノさんのケガは満開の代償じゃないからね。システムのカバーは効かないんよ。きっと」

 

悔しそうにする銀を、そう言って慰める園子。ただ、その目には安堵の色が見える。

もう、銀を戦場には送りたくないのだろう。

実際のところ、園子のスマホが一時的に返ってきていた時に銀も触ってはみたのだが、園子以外の人物が触っているせいなのか、勇者の資格を剥奪されていたせいなのか、ウンともスンとも反応しなかったのだ。

 

「でも、私は戦うよ。新しい子たちに、私みたいな悲しい思いだけはしてほしくないしね。大赦には反対されたけど、せめて『満開』の危険性だけは教えてあげたいし」

 

「でも、『満開』じゃないと、バーテックスを撃滅できないんだろ。あたしらの時みたいに、追い返すだけじゃ」

 

「大丈夫。新しいシステムはバーテックスを封印することで、核である『御魂(みたま)』を露出できるようになってるんだって。露出状態の御魂は破壊可能らしいから、満開しなくてもバーテックスを殲滅できるんだって」

 

「おー、それだったら、なんとかなるかも!」

 

「今、私の勇者システムもそれに合わせたアップデートをしてもらってるところなんだ~。ごめんね。たぁくん」

 

「そのちゃんがそう決めたんなら、僕からはもう何も言えないよ。ただ、無茶はしないで欲しいよ」

 

「うん。満開はしないよ。たぁくんこそ、無茶しないでね」

 

「ああ」

 

「かー! 見せつけてくれるなー。――――――でも、良かったよ。園子には貴也さんが居てくれて。園子の笑顔を見れるのは、貴也さんのおかげだろうしさ」

 

そう言って、ニヤニヤする銀。貴也は苦笑するしかなかった。

 

その後の話は、学校の近況の方へと移っていった。

四月下旬の日曜日の、昼前のひとときであった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

二日後の火曜日のことであった。

数学の授業中、貴也のスマホが警報を鳴らし始めたのは。

 

「鵜養、携帯の電源は切っとけよ」

 

「すいません。大赦からのお役目の報せみたいです」

 

教師からの注意に対し、そう答えると教師はギョッとした顔をしたまま静止した。

 

「樹海化警報か。意外に早かったな」

 

そう呟くと早々に多重召還を行い、樹海化が完了すると同時に輪入道の車輪を使って空中走行を行い、園子の下へと急いだ。

 

 

 

 

スマホのマップ上の表示でも、現地上空からの目視でも、元々の自宅付近に園子がいるのを確認した。

降り立つと、病衣に包帯姿の園子がベッドに寝たまま声を掛けてきた。ベッドは呪術的措置でも掛けられているのか、樹海化に巻き込まれなかったようだ。

 

「たぁくん、遅いよ~。この光景の中でこの格好は、ちょっと情けないんだけど」

 

「ごめん、ごめん。これでも全速力で来たんだけどなぁ」

 

「冗談だよ。早く来てくれて、ありがとう。――――――ええっ? ちょっとこれは恥ずかしいかも……」

 

さすがに移動するには不便なのでお姫様抱っこをすると、途端に園子の顔が真っ赤になる。

 

「まあ、まあ。これ以外に選択肢は無いだろ。それよりも、端末は間に合わなかったんだ」

 

「うん。樹海化が解けたら、また催促しておくよ。で、どんな状況?」

 

スマホのマップでバーテックスの襲撃地点が讃州市付近であることを確認した。付近の表示を拡大する。犬吠埼風、犬吠埼樹、東郷美森、結城友奈の四点が集合しており、そこに向けて乙女型の点が近づいているところであった。

 

「やっぱり讃州中学の四人が選ばれたみたいだね。一応、もうみんな集合しているみたいで、乙女座型(ヴァルゴ)バーテックスが襲撃してくる途中みたいだ」

 

「とりあえず、近くまで行って待機しようか。私も精霊の守りだけは健在だそうだから、よほどのことが無い限りは大丈夫だから」

 

「四人にこちらの位置が気取(けど)られることはないんだっけ?」

 

「とりあえず候補生のアプリには制限が掛けられてるからね。私とたぁくんの表示はされないはずだよ」

 

「よし、じゃあ行こうか。いざとなったら、僕が助太刀にはいるよ」

 

「ダメ。彼女たちのカタログスペックは高いからね。たぁくんが行っても足手まといなだけだよ」

 

「じゃあ、今回は情報収集だけってことか……。情けねー」

 

園子を姫抱っこしたまま、空中走行で当代勇者の下へ急ぐ。

 

 

 

 

道すがら、確認を取っておく。

 

「そういや樹海化が解けた後、そのちゃんは何処へ戻されるんだろ?」

 

「たぁくんは、樹海化した時点の場所へ戻されるんだよね?」

 

「ああ。過去二回の事例はそうだったよ」

 

「普通、勇者は大赦が設置した祠を目印に神樹様が戻してくれるんだって。だから、多分私の部屋に戻されるよ。私の部屋は祠と同様に呪術的措置が施されているそうだから」

 

「なら、帰りは楽ってことだ」

 

「そうだね。ふふふ……」

 

遠目にバーテックスと当代勇者が戦闘しているのが見えてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉーーーーーーっ! 勇者ぁーーパァーーーーーーーーンチッ!!!」

 

空中高くから打ち下ろした、結城友奈の渾身のパンチがバーテックスを貫く。

 

「勇者部の活動はみんなの為になることを勇んでやることだ! 私は讃州中学勇者部、結城友奈! 私は勇者になるっ!!」

 

地面にすっくと立ち上がると、キッとバーテックスを睨み付ける友奈。その瞳には強い決意が宿っていた。

 

 

 

 

「さすがだね~。勇者適性値最高は伊達じゃないね~」

 

園子の間延びした賞賛に、貴也も苦笑を隠せない。

だが、確かにその賞賛は当たっている。先代勇者が武器を使ってやっと削っていたバーテックスの装甲を、パンチ一発で軽々とぶち抜いてみせたのだから。

 

「こりゃ、楽勝かな?」

 

「油断は禁物だよ~。御魂(みたま)を破壊しきるまでが、今回からの戦いだからね~。それに、わっしーが戦いに参加できてないみたい。どうしたんだろ~?」

 

少し位置取りを変えて東郷美森を捜す。すぐに見つけた。車椅子に腰掛けたままで、変身していないようだ。

 

「変身していないね」

 

「と言うより、出来ていないと言った方がいいかも~。ここ二年の記憶を失ってるって話だから、単純に怖いのか、それとも何らかの記憶が残っていて、それがトラウマのような働きをしているのかもね」

 

「ケアが必要?」

 

「私たちが急に出て行っても混乱するだけだろうし。見守るしかないかな~」

 

心配そうな園子の言いぶりに貴也も心配になるが、一人でいるところに急に見知らぬ二人が行っても迷惑だろうと納得した。

 

 

 

 

そうこうしているうちに、風、樹、友奈の三人の勇者はバーテックスの封印に成功したようだ。逆四角錐状の御魂を吐き出す乙女座型バーテックス。風と友奈の攻撃が御魂に炸裂するが、恐ろしく硬いようだ。傷一つつかない。

 

「ならば、アタシの女子力を込めた渾身の一撃をーーーっ!」

 

風の大剣による渾身の一撃が、御魂を僅かに傷つけたようだ。しかし、周りの樹海が徐々に色を失っていく。

 

 

 

 

「時間が掛かると現実世界に影響が出るようなんよ。それに、どのみちあの子達のパワー残量がゼロになる前に御魂を破壊できないと、封印が解けて神樹様がやられちゃうしね。手出しできないのが悔しいな~」

 

心底、悔しそうにそう言う園子を姫抱っこのまま、抱きしめる。

貴也にもどうすることも出来ないからだ。

 

 

 

 

地面に表示されているカウンターが、徐々にその数字を減らしていく。

 

「時間がない……」

 

友奈は覚悟を決めた。御魂目がけて全力全開のジャンプ。

 

『痛い……、怖い……、でも!』

 

心の内から芽生える恐怖心を、勇者部の仲間との絆で、想いでねじ伏せる。

 

「大丈夫っ!!」

 

友奈の全力のパンチが当たると、御魂は爆発し数十もの様々な色の光の粒となって天上に帰っていく。

一方、本体の方は砂となって崩れていった。

 

 

 

 

「とりあえず、初戦はなんとかなったか……」

 

「そうだね。でも大赦だからな~。彼女たちのケアをしっかりやってくれればいいんだけど、期待薄だよね~」

 

と、樹海化が解けていく。

 

「じゃあ、夕方、うちで」

 

「うん、待ってるよ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

「大赦からのお役目? 鵜養、お前、大赦の関係者なのか?」

 

「あ、はい、そうです。――――――あ、電話連絡は後で良い様なので、授業を続けてください」

 

ちょっと焦った。樹海化直前の教師とのやり取りが唐突に始まったからだ。

適当にごまかして、授業を再開してもらった。

 

『いろんな意味で、こりゃ、前途多難だな……』

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

翌日。

 

「ただいまー」

 

「おかえりー、お兄ちゃん。プリンあるよー」

 

「ああ、ありがとう。後で食べるよ」

 

「うふふ……。まずは、そにょちゃんに挨拶だもんね。わたしもついてくー」

 

妹の千歳と二人、園子の部屋へと向かう。

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おかえり~。学校、どうだった?」

 

「別に……。昨日のことも、三好さんから連絡が行ったみたいで特になにも無かったよ」

 

「なんか、お母さんと子供みたい。もっと、恋人らしいやり取りすればいいのに」

 

授業中に警報が鳴ったことについては大赦からフォローがあった旨、園子に伝えると、また千歳が絡んできた。

千歳自身は、二人にもっと親密になってほしいだけなのだが。

 

「うるさいな。そんな風に茶化すなら、向こうへ行ってろよ」

 

「そにょちゃーん、お兄ちゃんがいじめるー」

 

「あらあら、困ったお兄ちゃんだね。チータンはこんなに可愛いのにね~」

 

「そのちゃん。あんまり甘やかすと為にならないから」

 

と、空気が変わる。貴也のスマホから警報音が鳴り響いた。

 

「なに? お兄ちゃん……」

 

そのまま千歳が固まる。

 

 

 

 

樹海化が完了した。見渡す限りの神秘的な光景。だが、この光景にもだいぶ慣れてきた。

 

「連日かよ。そのちゃんの端末は、まだなんだろ?」

 

「うん。さすがに昨日の今日じゃね」

 

「今回も、助太刀は無理か」

 

「とにかく急ごう。二戦目だから、どんな手を打ってくるか分からないしね~」

 

貴也は素早く変身するとベッドの上から園子を抱き上げ、そのまま讃州市方面へと輪入道の力で空中走行を始める。

 

 

 

 

「なんだか、毎回これは恥ずかしいよ~」

 

「しょうがないよ。恨むなら、スマホを早く寄越さない大赦の方に頼むよ」

 

やはり園子は、お姫様抱っこが恥ずかしいらしい。少し身をよじりながら顔を赤らめる。

逆に貴也の方は恥ずかしいには恥ずかしいが、若干嬉しさも混じってしまう。

 

『そのちゃんを姫抱っこできるのは、やっぱり役得だよなぁ』

 

 

 

 

しかし、そんな気分でいられたのは戦場で今回のバーテックスを確認するまでだった。

 

「えっ? これって……」

 

「あの時の三体だね。本気でわっしー達を殺す気で来ているよ」

 

マップの表示には、蠍型、蟹型、射手型の三つの表記が出ていた。

そして目視でも二年前の七月十日、そう、園子と須美を重傷に、銀と貴也を昏睡状態に追い込んだ、あの三体のバーテックスが揃い踏みをしていた。

 

 

 




かなりの少数派だと思われます。
これだけ文字数があるのに、讃州中学勇者部が完全脇役扱いの作品は。
今後、貴也たちが合流するまでは、こんな扱いのままです。
なにせ、この作品はあくまでも園子と貴也の物語ですので。

あと、ついでと言ってはなんですが、銀の活躍フラグもポッキリと折られています。
今後、銀にスポットライトが当たる時は来るのか?


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