鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第十八話 再び咲く花

「ちょっとアタシら、手持ち無沙汰じゃない? あっちは、お祭り騒ぎみたいだけどさ」

 

「不謹慎だよ、お姉ちゃん。みんな一所懸命、戦ってるんだから」

 

「まあ、乃木の言うとおりなら、ここを死守するのが今回の戦いの(かなめ)みたいだからね」

 

讃州市方面と神樹との中間点付近。そこで、バーテックスの襲撃を待ち構えている風と樹がそんなことを話していると、マップに反応があった。双子座型(ジェミニ)バーテックスが、ついにやって来たのだ。

 

「なに? あの速さ? 無茶苦茶、速いじゃない。それにあの姿……、まるで変質者ね」

 

「お姉ちゃん、変なこと言ってないで迎撃するよ。私が止めるから、とどめはお願いね」

 

「任されたわ。っていうか、自慢の妹が滅茶苦茶、頼りになる言い方してる……。お姉ちゃん、感激っ!!」

 

「もうっ! ――――――ここは、通さないからっ!!」

 

双子座型は二人を躱して神樹の下へ行こうと、二人から見て右上方へフェイントを掛けて跳ぶが、樹のワイヤーカッターがそれを阻止する。双子座型を雁字搦めにする。

 

「えいっ! ダメだ! 斬れないっ!」

 

「任せなさいっ! 喰らえ、アタシの女子力! どぉーりゃーーっ!!!」

 

ワイヤーカッターで切り刻むことは叶わなかったが、風が振りかぶった大剣の一閃で袈裟懸けに双子座型を斬り飛ばす。

二人で封印を掛けると斬り口から御魂が吐き出された。御魂は蠍座型以上の速度で増殖を始めるが、風の横薙ぎの一閃で粗方潰され、残りも樹のワイヤーカッターで個別に潰され、光の粒となって天上へと帰っていった。

 

「よしっ! ノルマ達成っ! みんなを助けに行くわよっ!」

 

「うん! 早く助けに行ってあげないと」

 

二人は休むことなく、仲間の救援に向かった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「なに? なんなの? この音……」

 

「くそっ! 体がっ! 動けないっ!!」

 

「このままじゃ、まずい……」

 

牡牛座型の鐘が発する怪音波が、友奈、夏凛、園子の行動力を奪い釘付けにする。

そこに水瓶座型の水流弾が直撃する。精霊バリアでも衝撃だけは防ぎきれず、三人とも吹き飛ばされた。が……

ズギュンッ!

美森の狙撃銃による一撃が牡牛座型の鐘を破壊する。

 

「助かったー。ありがとー、とーごーさーんっ!」

 

「よしっ! 反撃よっ!!」

 

三体のバーテックスに向き直ろうとしたところに、魚座型が乱入する。その背には、いまだに貴也が取り付き攻撃を継続していた。

 

「こなくそっ! 落ちろ! 落ちろっ!!」

 

一撃当たりのダメージは小さいが、それでも僅かずつ魚座型の傷を深めていく。

 

『東郷さんから引き離したんだ。最低限の働きは出来ているはずだっ』

 

他の勇者ほどの働きは出来なくとも与えられた役割だけは、と歯を食い縛る貴也。

その貴也の働きを見かねた園子が助太刀に入る。

 

「たぁくん、もう少しだけっ! 頑張って!!」

 

三叉槍(トライデント)を召喚し、魚座型に投擲する。槍は頭部に突き刺さり、魚座型は地面に落下した。

続けて、長槍(スピア)を五本召喚して地面に投擲、封印を開始する。

 

「たぁくんを苦しめた倍返しだよっ! 封印開始っ!!」

 

魚座型の頭部から御魂が吐き出される。御魂は抵抗を示す(いとま)もなく、美森の長距離狙撃で破壊され天上へと帰っていった。

 

「いつものことながら、どれもこれも妙な散り方ね」

 

嫌な予感がし、美森はそう呟いた。

 

 

 

 

「よしっ! 今度こそ、あいつらに反撃よっ!!」

 

魚座型に気を取られていた勇者たちが向き直ると、牡牛座型、天秤座型、水瓶座型、三体のバーテックスは、ゆっくりと進撃してきていた獅子座型の位置まで後退していた。

そして獅子座型から湧き起こった太陽にも似た炎の玉に飲み込まれると……

 

「うそーっ! 合体したーっ?」

 

「フッ……。逆にチャンスよ。四体まとめて封印してやるわっ!!」

 

四体のバーテックスが合体していた。驚く友奈に、夏凛はこれこそ絶好の機会だと吠える。そこへ……

 

「遅れちゃってゴメンなさい。でもノルマは果たしたわよって、なに? あれ? でっか……」

 

「小さいのはやっつけました。今度はあれですか? なんか、いろいろと凄いですね」

 

犬吠埼姉妹が合流し、七人の勇者が再び揃った。

 

 

 

 

勇者が揃う機を窺っていたのであろうか。合体バーテックス(レオ・スタークラスター)は、その前面に数十もの火球を生成すると、全ての火球を勇者達へと射出し襲いかかってきた。躱しても躱しても自動追尾してくる火球に勇者達は次々と撃墜されていく。

貴也が、樹が、風が、そして遠距離で狙撃していた美森さえも……

 

「追いかけてくるなら、このまま返す! ――――――キャーーーッ!!」

 

追尾してくる火球を逆にバーテックスに当てようと反転し、バーテックスに近づこうとする友奈であったが、正面からも火球が飛んできており挟み撃ちにされ、撃墜された。

 

「なめんじゃないわよっ! 喰らえっ!!」

 

一人、全ての火球を躱してバーテックスに肉薄した夏凛。長刀で斬り付けるが、傷一つつかずに折れてしまう。そこへ、十数個の火球が襲いかかる。

 

「っ……!!」

 

言葉もなく撃墜される夏凛。

 

一方、園子は次々と召喚する槍を楯代わりにして火球と相殺し、反撃の機を窺う。

 

『ダメだ。このままじゃジリ貧……』

 

そこに、合体バーテックスが超巨大な火球を生成していく。

 

「あれは! 二年前の……」

 

瀬戸大橋跡地の合戦で二度対峙した、獅子座型の超巨大火球に酷似する火球。あの時は、満開していた園子と須美がそれぞれ、なんとか一度ずつ相殺したのだった。

 

「まずいっ! 満開っ!!」

 

「……そのちゃんっ!!」

 

園子の判断は瞬時だった。自身のゲージの確認すらせずに、ノータイムで満開を行う。

同時に、園子の周囲の樹海が色を失い枯れ果てていく。

貴也の悲痛な叫びがそれに続いた。

 

 

 

 

空中に大きな蓮の花が咲き誇る。

四対の巨大な槍の穂先をまるでガレー船のオールのように回転させて宙に浮かぶ大きな方舟。その甲板上に、より巫女装束に近い神性を帯びた衣装に身を包んだ園子が立っていた。

 

「それっ!」

 

その両サイドの槍の穂先だけを飛ばし、船首直前で星形に組むと、そのまま方舟ごと超巨大火球にぶち当てる。

 

「私が踏ん張るから、その間に封印をお願いっ!」

 

「分かったわっ! 勇者部一同、行くわよっ!!」

 

園子の叫びに風が応える。ボロボロの体を無理矢理起こし、五人は合体バーテックスの周りに布陣して、封印を掛ける。

貴也は、その六人の奮闘をただ見ているしかなかった。

 

「僕は、無力だ……」

 

 

 

 

封印の儀が始まったためバーテックスが弱ったのだろう。それまで拮抗していた方舟と火球のぶつかり合いが、徐々に一方に傾いていく。そして、ついに園子の方舟が超巨大火球をぶち抜き、霧散させた。

 

それがあたかも合図だったかのように、合体バーテックスの逆四角錐の御魂が現出する。しかし、そのサイズは宇宙規模。地上からでは最下端すらはるか上空にあり、その広がりは空を覆い尽くさんばかり。上端に至っては全く見えなかった。

 

「ナニ? コレ?」

 

「大きすぎます……」

 

「宇宙に届いてるんじゃない?」

 

「少なくとも、上端は成層圏よりは上ですね……」

 

「大丈夫だよ。御魂は御魂だよ。きっと、今までどおりに壊せるよ」

 

唖然とする四人を尻目に、楽観論を唱える友奈。そこへ、園子が方舟に乗ったままやって来た。

 

「そもそも満開しなきゃ、攻撃が届かないしね。私が上から破壊してみるね」

 

「アンタ、アタシたちには満開するなって言っておいて……」

 

「しょうがないよ。こうしなきゃ、全滅していただろうしね」

 

複雑な表情で声を掛けた風に対し、さも仕方なさそうに答える園子。

そこへ、貴也がやって来た。沈痛な表情で園子を見やる。

 

「そのちゃん……」

 

「ごめんね、たぁくん。約束破って、満開しちゃった……」

 

園子は悲しげに微笑むが、貴也は何も答えられなかった。

 

 

 

 

「じゃあ、行ってくるね」

 

「待って! 私も行くよ。なにかあった時のバックアップになるし」

 

「僕も行くよ。地上にいても封印に参加できるわけでもないし、上空なら何か出来ることがあるかもしれない」

 

上空へ向け方舟を発進させようとする園子に、友奈と貴也が同行を申し出る。

 

「待って。友奈ちゃんが行くなら、私も!」

 

「とーごーさんは、みんなの力になってあげて。ここで封印を掛けていてもらわなくちゃ、壊せるものも壊せないしね」

 

美森も同行を申し出るが、友奈がにへらっと笑ってそれを押しとどめる。

 

「じゃあ、ゆーゆとたぁくんは乗って。フーミン先輩、わっしー、にぼっしー、イッつん。あとはお願い。それじゃあ、いっくよ~」

 

方舟は一気に速力を上げて上空へと向かう。いつの間にか、回転していたはずの四対の穂先は後方へ向けて固定されており、さらに加速する。ついには方舟全体が光を纏い、その光はまるで鳥のような形をとった。天鳥船となった方舟は、宇宙に飛び出すとそのまま御魂の上部に体当たりを敢行する。

しかし、御魂はびくともしない。

 

「さっきの炎の玉との激突で、結構パワーを持っていかれちゃったからな~。よし。こうしちゃえ」

 

方舟を通常形態に戻すと、四対の槍の穂先を長大化させて御魂を切り刻もうと試みる。しかし、御魂はその刃すら通さない。それどころか、自身と同様逆四角錐型の小型ブロック体を幾十も射出し、方舟にぶつけてくる。

 

「クッ、数が多すぎる……」

 

ブロック体は槍の攻撃で切り裂き破壊することは可能だったが、いかんせん数が多すぎた。次第に園子に疲れが見え始める。

 

「園ちゃん、私が行くよ」

 

「ゆーゆ? ダメだよ、満開したら散華して、体の機能を……」

 

「大丈夫だよ。園ちゃんは二十も体の機能を失って、それでも笑顔でいてくれるもん。私も一つぐらい失ったって……。それにね、私は勇者だから。――――――ううん。勇者に、勇気のある人になりたいんだ。だから、行くよ」

 

園子は止めようとしたが、友奈は覚悟を決めた真剣な、だが、満面の笑みでそう答える。

 

「ゆーゆ……。いいんだね?」

 

「覚悟は決めた! 行くよ! 満開っ!!!」

 

 

 

 

宇宙空間に大きな桜の花が咲き誇る。

友奈はより巫女装束に近い神秘性の高い衣装をその身に纏う。そして、彼女の両肩付近からは身の丈を超える巨大な鋼鉄の腕が出現していた。

 

「みんなを守るために、私は勇者になるっ!! そーこーだーーーっ!!!」

 

友奈の鋼鉄の腕が御魂を殴り壊す。だが、僅かに一部を破壊した程度だ。

 

「クッ。負けてたまるかっ! 勇者部五箇条! ひとーつっ! なるべく、諦めなーいっ!!」

 

友奈の連続パンチ。少しずつ御魂を破壊していく。

 

「さらに、もうひとーつっ! 為せば大抵、なんとかなーーーるっ!!!」

 

その渾身の一撃が御魂を木っ端微塵に砕いた。

幾万もの色とりどりの光の粒となって、宇宙空間の彼方へと帰っていく御魂。

一方、地上では合体バーテックスの本体が砂となって崩れていった。

 

「やったよ、みんな……」

 

満開が解け、地上へと落下していく友奈。

だが、誰かが受け止めてくれた。右腕に気を失っている園子を抱えた貴也だった。左腕に友奈を優しく抱きかかえてくれていた。

 

「お帰り、結城さん」

 

「最初に会った時に、友奈って呼んでくださいって言いましたよね?」

 

「そうだったっけ? じゃあ……、お帰り、友奈」

 

「ただいま、貴也さん」

 

二人は顔を見合わせ、笑顔を交わした。

 

 

 

 

「分かってると思うけど、ずっと落下は続いている。これから地上に戻るけど、大気との摩擦でどうなるか分からない。精霊たちの力を信じるしかないんだ」

 

「大丈夫だよ。神樹様が守ってくださるよ」

 

「うっ、そうだよ、たぁくん……」

 

「そのちゃん。気がついたのか」

 

「大丈夫だから。信じよっ。ねっ……」

 

貴也は地上を背に、二人を抱きしめた。

輪入道の車輪七つをすべて減速にまわす。少しでも摩擦熱を軽減させようと、雪女郎に冷気を張らせる。そして、烏天狗と牛鬼がバリアを張った。

 

三人は、光となって地上へと落下していった。

 

 

 

 

「風先輩っ! 落下地点はここのはずですっ!!」

 

「お願いよ樹っ、アンタが最後の砦だからねっ!」

 

「分かってる!」

 

友奈、園子、貴也、三人の落下地点を美森が予測する。そして風の激励に応え、樹が樹海の木々の間にワイヤーを何重にも仕掛けていく。

 

「来たっ!!」

 

夏凛の叫びと同時に落下してきた光を、ワイヤーが受け止めては千切れ飛んでいく。

美森の悲痛な叫びが轟く。

 

「お願いっ! 止まってっ!!」

 

 

 

 

「ガハッ……」

 

貴也は背中に、とてつもない衝撃を受けた。何度も、何度も。

最後に、何かに叩き付けられたような衝撃と共に落下が止まる。その、あまりの衝撃の激しさに、園子と友奈を手放してしまった。

 

「友奈! 乃木! 鵜養!」

 

「友奈ちゃん!!」

 

三人の名を呼びながら、真っ先に夏凛が駆け寄ってきた。続けて美森がやってくる。

遠くで樹がへたり込んでおり、それを風が介抱していた。

 

「ただいま、夏凛ちゃん、とーごーさん」

 

のろのろと起き上がり、友奈が二人にへらっとした笑みを返す。

 

貴也は、背中の激痛を無理やり無視して、園子に声を掛けた。

 

「そのちゃん、大丈夫か?」

 

園子は、右手を宙に差し出しながら、何かを捜すようにさまよわせる。

そして、乾いた笑い声を上げて、衝撃的な一言を呟いた。

 

「あはは……。左目も持っていかれちゃった。たぁくん、どこ? なんにも見えないよ……」

 

その場にいた、全員の時が凍りついた。

 

 

 




バーテックスとの決戦祭り後編でした。

園子の投入により、ジェミニとピスケスは満開無しで葬りました。
これで満開メンバーが原作の風、美森、樹、友奈の四人から、園子、友奈の二人に減少です。

また、気付いている方もいらっしゃるでしょうが、バーテックスの特に御魂は前回から原作より微妙に地味に少しだけ強化されています。

最後の、園子が散華で失う身体機能も予定通りです。これで、他人の表情を窺うことが出来なくなりました。

次回は勇者部との交流。上手くいくかな?

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