園子が左目の視覚すら奪われた事実に固まっていた勇者たち。
そんな中、友奈第一主義の美森だけは別の反応を示した。
「友奈ちゃん……。まさか、満開してないよね?」
「あ、えへへ。しないと、どうしようもなくってさ……」
「友奈ちゃん! どうしてっ!?」
しかし、それ以上のやり取りは出来なかった。樹海化が解けていったのである。
樹海化が解けると、貴也は自室にいることを認識した。背中の激痛を堪え、慌てて園子の部屋へと駆け込むがもぬけの殻であった。
NARUKOで確認すると、彼女は讃州中学にいるようであった。
焦りながらも、事前に大赦に教えられていた、犬吠埼風の番号へと電話を掛けた。
讃州中学の屋上。そこには勇者部の面々が現実世界に戻る時の目印となる祠が設置されていた。
夏凛が気がつくと、彼女たち勇者部のメンバー以外に病衣に包まれた園子も倒れていた。
気持ち、焦りながら彼女を抱き起こす。
「大丈夫、乃木? アンタ、完全に目が見えなくなったって、本当?」
「あはは……。にぼっしーだね。本当だよ。もう、なんにも見えないや……」
「アンタ、バカよ。なんで、こんなになってまで……」
「勇者だからね。それに、みんなに満開の危険性を説いて満開しないように説得した手前、私が引っ
涙ぐむ夏凛に、そう優しく諭す園子。それを見ていた風も樹も友奈も涙ぐむ。
「友奈ちゃんは、どこか痛かったり、気持ち悪かったり、違和感を感じるところはない?」
「うん。今のところは、どこも感じないかな」
美森だけは、友奈のことが気になって仕方がないようだ。車椅子に座ったまま、器用に友奈の体のあちこちを触って確認をとっている。
そこに、風のスマホに貴也から電話が掛かってきた。
「はい。アタシよ。うん……。そう……。ここにいるわ。代わろうか?」
風は、スマホを園子に貸してやると夏凛に声を掛ける。
「夏凛。大赦に連絡して。ここにいる全員、とりあえず病院に入れてもらいましょう。乃木や友奈のこともあるけど、今回は全員、なにかしら吹っ飛ばされたりしているからね。精密検査をしてもらいましょう」
「分かったわ。早速、連絡入れるわね」
園子の介抱を樹に代わってもらい、大赦へ連絡を入れる。
彼女たちの一日は、まだまだ終わらないようであった。
讃州市内にある大赦関連の総合病院である羽波病院。
勇者部の面々だけでなく、貴也もそこに検査入院することとなった。大赦として、関係者を一ヶ所に集めておきたいという意志が働いたためだろう。
決戦翌日の夕方、貴也はすべての検査過程終了の後、園子の病室へと向かった。そこには、讃州中学勇者部の面々も揃っていた。真っ先に風が声を掛けてくる。
「おっ、最後は唯一の男性勇者のご帰還ね。どうだった?」
「とりあえずは結果待ち。だけど、背中の打撲が酷いから、あと五日程度は入院が必要だってさ」
貴也はその診断結果の異常性に気付いていない。いや、
だから何も知らずに園子の方をこそ優先して気遣っていた。
「それより、そのちゃんだけど……」
「私は大丈夫だよ~。左目が見えなくなった以外は、特に今まで以上に悪くなったところも無いしね~」
ベッドに横たわりながら、なんでもないように返してくる園子。皆の同情の視線を集める。
その雰囲気に気付いたのだろう。さらに、大丈夫であることを強調してくる。
「本当に大丈夫だよ~。実際、次に供物にされるなら左目がいいなって思ってたから。聴力や声を失ったらコミュニケーションに困るし、内臓機能だと何処にどんな影響が出るか分からないしね~。だから、不幸中の幸いなんよ~」
「アンタ、なんて強い奴なの……」
穏やかにそう強調してくる園子に、夏凛もそれ以上言葉が出てこない。
「それよりも、ゆーゆはどうだったの? どこを取られたの?」
「私は、味覚を取られちゃったみたい。――――――あっ、でも、大丈夫だよ。お昼ご飯を少し食べたけど、意外に匂いやのどごしなんかで楽しめるんだなって、分かったし」
「これって、直らないんですよね?」
「うん。私は取られてから、二年近くこのまんまだからね……。私だって直りたいけど、そもそも散華は神の力を振るった満開の代償だからね」
「どうして、こんなことに……」
「神話の昔から、神様に見初められて供物になるのは『無垢な少女』と決まってるからね。穢れなき身だからこそ、大いなる力をその身に宿すことが出来て、その代償として体の機能の一部を供物として捧げるんだ。それが、勇者システムの真実なんよ」
「そんな……」
友奈も園子に
だが、美森と園子のやり取りで、さらに雰囲気は暗くなった。
「あー、もうっ。みんな、暗いよ。そうだっ! 私たち、バーテックスを十二体、全部やっつけたんだよ。お祝いしないとー」
「そうだよね。やっつけたのは凄いよね。私たちの時は追い返すので精一杯だったし」
「そうなんだよ。もう、戦わなくてもいいはずなんだよ。だから、もう誰も何もこれ以上供物で取られることを心配しなくていいんだよ。だから、お祝いしよーっ」
そう、みんなを元気づける友奈。だから、最後に園子がポツリと呟いた言葉は誰にも届かず、宙に消えた。
「そうだといいね……」
その後、友奈の発案による戦勝祝いの会について、わいわいと勇者部のメンバー間で話しが弾みだしたところで、風がふと気付いたように、話の流れを止めた。
「なんかもう、流れで馴れ合っちゃってるけどさー。時間無かったから、アタシたちって、ちゃんと自己紹介してなかったじゃない? だから改めて、やっておかない? と、いうことで、アタシが犬吠埼風よ。讃州中学の三年生で勇者部の部長をやっているわ。好きなものは、うどんね。はい、樹」
「お姉ちゃん……。乃木さん、みんなの顔、見えないし……」
「あ~、大丈夫だよ。もう、顔は覚えちゃってるから~。気にせずに続けて。私も聞きたいし~」
樹の気遣いは無用だったようだ。園子は、皆の自己紹介の続きを促した。
「あっ、じゃあ、犬吠埼樹です。一年生で、勇者部の部員やってます。好きなものは、やっぱりうどんと、歌うことかな?」
「私たち五人は全員勇者部なんだから、省略してもいいんじゃない? 私は三好夏凛。二年生よ。一ヶ月前にこいつらと合流した、大赦で訓練を積んできた勇者なの。好きなものは……、別になんだっていいでしょ!」
「あはは……、夏凛ちゃんはあいかわらずツンデレだなー」
「友奈! うるさいわよっ!」
「えっと、私、結城友奈です。友奈って呼んで……、あっ、貴也さんには、もう呼んでもらってたっけ」
「友奈ちゃん!? 一体、いつ、そんなところまで関係が進んだの!?」
友奈の言葉に誤解した美森が問いつめようとするところ、風がなだめる。
「東郷、落ち着け、どうどう……」
「えへへ……。私も夏凛ちゃんやとーごーさんと同じく二年生なんだ。特にとーごーさんとはお隣さん同士で、中学入学前の春休みからの親友なんだー。好きなものはうどんと、とーごーさんの作った牡丹餅だよ。はい、とーごーさん」
「うーっ、貴也さん、友奈ちゃんは渡しませんからね……。と、東郷美森です。二年生です。あと、小四の秋頃からの二年間の記憶がないの。多分、貴方達は知ってると思うけど」
「その話は、また今度ね~。こんなところで話す内容でもないし。日曜日か夏休みにでも、たぁくんの家に来てもらえれば、私、そこに住んでるから」
園子の、その何気ない爆弾発言に、勇者部のメンバーは風を筆頭に騒ぎ出した。
「ええっ! ナニ? その萌えるシチュエーションは?」
「園ちゃん、貴也さんと一緒に住んでるの?」
「わわーっ、なんか大人の世界な感じがする……」
「たぁくん、説明してあげて、ふふっ……」
「なんで、僕が? とりあえず、先に自己紹介するよ。僕は鵜養貴也。神樹館中学の三年生だ。大橋市に住んでる。そのちゃんと一緒に住んでるっていっても、僕の家族とも一緒だからね。彼女は見てのとおり、満開を二十回も繰り返したから、大赦の連中が半分神様のように崇めてしまってるんだ。そのせいで一時期、大赦に監禁されてたことがあってさ。そういったこともあって、名目上大赦のトップにある乃木家が引き取るわけにもいかなくて、親の世代の力関係で僕の家で引き取ることになったんだ。こんな説明でいいかな?」
「う~ん。七十点かな? 私とたぁくんは、私が幼稚園児の頃からの幼馴染みでもあるからね。そういうことも考慮されてると思うよ。あと、たぁくんの説明通り、私は大赦に祀られる対象なんだけど、大赦のルール上、祀る対象は穢れを避けるために、普通の人、私の親も含めてだけど、そういう所謂俗人との接触を極力避ける必要があるんだ。乃木家に帰れないのは、名目上でも大赦のトップがそういうルールを、まるで娘可愛さに曲げてしまってるように見せないためなんよ」
その二人の説明に、興奮気味だった勇者部メンバーも次第に落ち着いてきた。
「なんか、複雑な事情があるのね」
「そんなことじゃないかと思ったわ。騒ぐ必要なんかなかったわね。でも、鵜養が風と同い年だとは思わなかったわ。なんか頼りないし」
「夏凛ちゃんが、貴也さんをディスってる!?」
「まぁ、否定はしないよ。戦う力も君たちより、遥かに劣っているからね」
「たぁくん。その話も、また今度ね。で、私は乃木園子。こんなだから学校は行ってないよ。歳はわっしーやゆーゆと同じで、学校に行っていれば中二なんだけどね~。と、いうことで最終学歴は小学校中退なんだ~。あと勇者としての話も、また今度ね。好きなものは……ひ・み・つ。えへへ……」
「なんか、意味深ね。――――――まー、二、三日検査入院のメンバーもいるし、学校に戻ったら戻ったで勇者部の通常活動もあるから、夏休みに入ったら鵜養くんの家にお邪魔することにしましょう」
とりあえず全員の自己紹介が終わったところで、そう言って風が締める。だが、夏休みのお出かけ先が決まったことで、浮つきだすメンバーもいた。
「わーい、大橋市だね。なんか楽しみー」
「別に遊びに行くわけじゃないでしょ。はしゃがないの!」
「貴也さんのご両親もいらっしゃるなら、なにかお土産でも持参した方が……」
「東郷先輩、ちょっと気が早いんじゃ?」
「あはは……、楽しい人たちだね、たぁくん」
「うん。そのちゃんも、こういう人たちといつも一緒に居られたらいいんだけどね」
「園ちゃんも貴也さんも、もう友達でしょっ? おんなじ学校に通えてたら良かったのになー。残念だよー。――――――そうだっ。こっちへ引っ越してこないっ? そしたら、園ちゃんともちょくちょく会えるし」
「無茶言うなよ。そんな簡単に引っ越しなんかできないし、大橋から讃州まで車でも1時間近く掛かるんだから……」
友奈の無茶な提案に苦笑いする貴也。でも、本当に園子にはこういう友達が常に側に居て欲しいと思う。
勇者部との楽しすぎる交流の時間は、外が暗くなるまで続いていった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
貴也たちは予定よりも早く、貴也と園子の六日の入院を最長に続々と退院していった。
その間のトピックとしては、変身用端末の回収と談話室での軽い祝勝会が挙げられた。
入院二日目の自己紹介等の話し合いがあった後、神託にあった十二体のバーテックス全てを殲滅し戦いが終わったということで、勇者部五人と園子の変身用端末はメンテナンスのために大赦に回収され、代わりに勇者への変身機能が除かれたスマホが支給された。
ただ、貴也の端末についてだけは、そのような措置は受けなかった。元々入っていたNARUKOもSNSやマップ、樹海化警報以外の機能がなかったからであろう。
祝勝会は、入院三日目の夕方に談話室で開かれた。ちょっとした菓子類と飲み物のみのささやかなものではあったが、皆楽しめたようであった。園子も飲食物を口にはせず、僅かな時間ではあったが車椅子で参加し、おしゃべりを堪能したようだ。
そういったことを経て、夏休みに入って最初の日曜日の昼下がり、讃州中学勇者部一同は大橋市の貴也の家を訪れた。
「こんにちはー、お邪魔しまーすっ!」
風の元気な挨拶と共に、勇者部五名が口々に挨拶をしながら玄関に続々と入ってくる。出迎えるのは、貴也と母千草、妹千歳の三人だ。父はあいにくと急な仕事が入ったため、非常に残念そうに出かけていた。
「いらっしゃい、遠いところ、大変だったわね。ゆっくりしていってね」
「いらっしゃーい。わー、美人さんばっかり。お兄ちゃん、ハーレムでも作る気?」
「アホか。――――――ごめんな。妹が変なことを言って」
「イヤイヤ、イヤイヤ。妹さん、その発想は将来が楽しみだよー。まー、アタシらが鵜養のハーレムに入るっていうのは百二十パーセントあり得ないけどね。ていうか、妹さんも美人じゃない」
「ホントー? 嬉しいな」
「風。調子に乗るから、ほどほどにお願いするよ。あ、こいつは妹の千歳。小三なんだ」
「わー、可愛いなー。風先輩と樹ちゃんの関係もそうだけど、やっぱり兄弟っていいよね。私も兄弟がいたら良かったのになー」
「良いことばっかりじゃないわよ。いろいろと目障りなことだってあるしね」
「そういや、夏凛ちゃんってお兄さんがいたんだっけ。でも、やっぱり羨ましいよー」
千歳のからかいに端を発した、皆とのやり取りで玄関がにわかに活気づく。ハーレム発言には勇者部一同皆苦笑いをしていたが、友奈の兄弟を羨ましがる発言にはそれぞれ思うところがあるようだ。
「立ち話もなんだし、そろそろ園子ちゃんの部屋へ行ったら? あとで、飲み物でも持っていくわね」
「ああ。じゃあ、みんな、こっちへ」
千草の促しに、貴也が園子の部屋へと案内をする。
廊下を進むと、左手の十二畳はあろうかという部屋に案内された。
そこには二人の人物がいた。
一人は園子だ。周りに点滴や心電図等、医療機器の配備されたベッドに横たわっている。以前と同じく、顔は左目と口元を残し包帯に巻かれていた。以前と違うのは、その左目も閉じられていることだ。体も右手の先にセンサーが取り付けられているのが見える以外、病衣に包まれている。
もう一人は、灰色の髪の少女だ。白いパーカーに半ズボンというラフな格好で椅子に座っている。その割にソックスが膝上まであるのが印象的だ。
「いらっしゃい。待ってたよ~。先に紹介しておくね、こっちはミノさん、三ノ輪銀って言うんだ」
「こんちわ。あたしは先代勇者の一人、三ノ輪銀だ。よろしく!」
「これで、この場に先代勇者四人も揃ったっていうことなんよ~」
勇者部一同は、その紹介に息を呑んだ。
勇者部との交流&設定整理回その1 といったところです。
次回はそれぞれのその2ですね。
あまり言うべきこともない回でした。