「さて、なにから話そうか?」
「ちょっと待って、先代勇者四人って……、乃木と鵜養と三ノ輪と、あと一人は?」
園子が話し始めようとするところを、夏凛が止める。すると、美森がそれを受けて答えた。
「それは私ね。少し調べてきたわ」
「とーごーさん? えっ? どういうこと?」
「聞いて、友奈ちゃん。私は、記憶を失っている二年の間、鷲尾家に養女に出されていたの。そこで鷲尾須美と名乗って、乃木さんたちと勇者として戦っていた。この足も、記憶喪失も、その時の満開の後遺症なのよ。そうでしょ? 乃木さん」
「この短期間によく調べてきたね、わっしー。さすがだよ」
「簡単なことよ。養女の件は親を問い詰めたし、散華についてはこの前の戦い以後の状況から推測できたわ。特に医学的異常がないのに、身体機能が欠損していることがその証拠だわ」
「須美はこういう件は強いからな。あっ、えっと、東郷さんのこと、どう呼んだらいいかな?」
銀が、美森の呼び方について問いかけてきた。
「好きなように呼んでもらってかまわないわ。私が、当時鷲尾須美だったことは間違いないのだから」
「じゃあ、今までどおり須美って呼ばせてもらうよ」
「それじゃあ、答え合わせといこうか……」
その言葉を皮切りに、園子が大赦から得た情報と自身の推測も交えて説明を始めた。
神世紀二百九十六年、園子たちが小四の時、神樹からのバーテックス襲来の神託を元に勇者が選抜された。
「当時は、大赦は身内で話を完結させようと、名家と言われる十一家とその分家筋からのみ候補を集めたそうなんよ。そこで選ばれたのが、私とミノさんとわっしーだったんだ」
十一家とは、乃木、上里、伊予島、土居、鵜養、赤嶺、弥勒、鷲尾、三ノ輪、高嶋、白鳥のことである。いずれも勇者乃至それに近い活躍をした者を輩出した、神世紀の歴史上、排することの出来ない家である。ただし、白鳥のみは実体の無い名誉家名らしいが。
「東郷は鷲尾の分家だけど、比較的早い時期に分かれた家格の低い家柄だったから、勇者輩出の実績の欲しかった鷲尾家が手を入れたんだろうね」
その後、約一年の鍛錬の後、二百九十八年よりバーテックスとの交戦が開始された。
「で、その年の六月と七月に事件が起きたんよ。一つ目は、たぁくんがイレギュラーな勇者の力を手に入れたこと。で、その力の源泉は秘密にしてるんだ。このことは私とたぁくんとミノさんだけが知っていることなんよ」
「どういうこと? アタシ達にも秘密にしないといけないことなの?」
「満開と散華のことを秘密にしていたことでも分かるだろうけど、大赦を全面的には信用できないからね。大赦も把握できていない、たぁくんの力は、いざという時、私たちの切り札になるかもしれないんよ。だからね」
「まー、そういうことなら仕方ないか」
「説明できることはするから。――――――私たちの勇者システムは、神樹様の御力を科学的に効率化して、出来ない部分は神秘的にお借りしているものなんだけど、その中に精霊システムがあるよね?」
「バリアを張ってくれていた、あいつらのことよね」
風がそう言うと、勇者部の面々は少し寂しそうにしていた。精霊達との別れがあまりに唐突すぎたからだろう。
「そう。バリアを張るのは一体目だけだけどね。それ以外に一体目もそうだけど、二体目以降も含めて、精霊は私たちの技のブーストアップに関わっているらしいんだ。詳しい理論は私も知らないけど、精霊っていうのは神樹様に蓄えられている概念的記録を具現化したものなんだそうだよ。でね、たぁくんの場合は、神樹様の力が全く無いか、あってもごく僅かなもので、力の大半は精霊をその体に直接憑依させることで得られているようなんよ」
「そんなこと出来るの?」
「そうとしか、説明がつかないからね。西暦の勇者様達は満開システムが無かった代わりに、この精霊の憑依を切り札にしていたようなんよ。ただ、なにかしらマイナス要因があったらしくて、今は精霊は憑依させずに外付けだけで利用する形態になっているけどね。だから、たぁくんのシステムはもしかしたら神世紀の初め頃に遡るものかもしれないんだ。そういうことで、私たちの勇者システムより弱く出来てるんだと思うんよ」
「そのちゃん、それ、初めて聞いたぞ」
「私も三日前に、三好さんからの報告で初めて知ったことだよ。そこから類推も加えて得た結論なんだ。三好さんに、二年前のデータを
「えっ、それって、もしかして……」
「そうだよ、にぼっしー。貴方のお兄さんだよ」
「兄貴……。なに、危ないことに首突っ込んでんのよ……」
「大丈夫だよ。私の指示でやったってことは、ちゃんと証拠に残してあるから。お兄さんが咎められることはないよ。で、七月の二つ目の事件なんだけど……」
それは蠍座型、蟹座型、射手座型、三体のバーテックスによる侵攻のことだった。園子と須美が重傷を負い、貴也が三ヶ月の昏睡に落ち、銀が右腕を失うと同時に左足の自由も失った激戦のことである。
「じゃあ、その右腕は……」
「そう、義手だよ。左足も上手く動かなくなってさー。今じゃ、走ることも出来なくてさ」
そう言って、しかし、銀は朗らかに笑った。勇者部の面々は気まずそうに顔を見合わせる。
「気にすんなって。こうなったって、銀様は、元気いっぱい、夢いっぱいだかんな」
「ただ、それでミノさんが勇者資格を剥奪されたものだから、勇者システムのアップデートが図られたようなんよ。で、加えられたのが満開システムとそれの対になる散華システム。でも、基礎能力も大幅アップされてたからね。だから、十月の瀬戸大橋跡地の合戦も最後の最後で踏ん張りきれたんよ」
そこで、犬吠埼姉妹が苦い顔をした。貴也が思わず声を掛けた。
「どうしたんだ。風? 樹ちゃん?」
「あ、ごめん。デリカシーが無かったよね。ごめんね」
「気にしないでいいわよ、乃木。――――――あー、その戦いの余波なんだろうけどね。大橋が崩れた際に、うちの両親が巻き込まれちゃってさ。周りの人達の避難を助けてたって話だけど、自分達が巻き込まれちゃ、なんにもなんないのにね」
真相に気付いた園子が謝ると同時に、それを知らない周囲が風に注目したため、風が仕方なさそうに説明をした。
皆、同情の目を姉妹に向けた。
「もう、アタシも樹も大丈夫だから。気にしなくていいわよ」
「うん。私も大丈夫だから。説明を続けてください、乃木さん」
と、そこへ千草と千歳が飲み物を持って現れた。麦茶とオレンジジュースだったが、それぞれ好みのものを頼んで飲んでいく。一気に飲む者、ちびちびと飲んでいく者、人それぞれであったが。
しばらく、そうやって休憩した後、園子の説明が再開された。
「そういうことで、夏以降は私とわっしーの二人だけで頑張ることになっちゃったんだ」
そして、十月の瀬戸大橋跡地の合戦にて、初めて満開システムを起動した二人は、須美が二回、園子が二十回の満開を重ねてバーテックスを撃退したのだった。
「その結果、わっしーは両足と二年間の記憶を供物に、私は見ての通りになったんだ」
「満開と散華が後付けなら、なんとかならなかったのかしら。こんなことって……」
「ミノさんとたぁくんは実際、死にかけたからね。精霊バリアで勇者が死なないように、満開でバーテックスを確実に倒せるようにってことなんだろうけど、散華の追加は神樹様への負担が桁違いになったからだろうね」
その後、身内に勇者候補がいなくなった大赦は、四国全土に勇者候補生の調査の規模を拡大し、次の戦いに備えることとなった。その結果、四人前後で一組の勇者候補生グループを幾つか用意できることとなったのだ。
「その中でも適性値最高を叩きだしたゆーゆが本命視されていたんだろうね。わっしーをサポートに、適性の高いフーミン先輩をリーダー格で配置したことからも、そう読みとれるよね」
「じゃあ、私の家が友奈ちゃんの家の隣に引っ越したのも……」
「アタシ達が大橋市から讃州市へ移住させられたのも……」
「そうだね。そういう意図が入っていたんだろうね。でも、他にも勇者候補生グループが配置されていたのも事実だよ。多分、みんなが選ばれた後は自然消滅みたいになってるだろうけど」
「最初から仕組まれていたってことね……。まあ、これで大体、分かったわ。と言っても戦いは終わっちゃったから、乃木が言うように答え合わせに過ぎないけどね」
風の中締めっぽい発言があったため、全員から弛緩した空気が流れた。
そんな中、夏凛が銀に声を掛ける。
「三ノ輪、私がアンタの端末を受け継いだってことは知ってる?」
「あー、園子から聞いてるよ。強いんだってな、あんた」
その銀の褒め言葉に、フッと口角を上げただけで言葉を続けた。
「でも、アンタが生きてるって分かって良かったわ。大赦からは、先代の勇者がお役目を退いたから、って説明だけで端末を受け継いだからね。てっきり……」
「ははっ……。死んでてもおかしくなかったけどな。貴也さんに助けてもらって、命が繋がったんだ」
「鵜養に? アイツ、あんま強くなさそうだったけど」
「実際、弱いよ。でも、肝心要のところで、これしかないってやり方で助けてくれたんだ。須美も助けてもらったはずだよ。あの時の戦いじゃ、結構酷いケガを負ってたしね。園子に至っては、日常も含めていろんな場面で助けてもらってるって、惚気てくるからなー。ははっ……」
「ふーん。見かけだけじゃ、分からないもんなのね」
そう言って、夏凛はちらっと貴也を見やってくる。
一方で、友奈は園子を勇者部の合宿に誘っていた。
園子のベッドサイドで腰を屈め、顔を寄せながら話しかけてくる。
「今度、大赦が勇者部の合宿先を用意してくれたんだー。讃州サンビーチなんだけどさ。園ちゃんも一緒に来ない? 貴也さんや、銀ちゃんも一緒なら楽しめるよね?」
「う~ん。私は遠慮しとくよ。勇者部の合宿なんだから、勇者部だけで楽しんできたらいいと思うよ」
「でもでも、泳げなくても、海とか開放的な場所に行けば気分転換にもなって、良いと思うんだけどなー」
「前、見せたように包帯をはずせないからね。あんまり、知らない人に今の姿を見られるのが嫌なんよ。だから、この家の敷地外に出たのも、勇者としてしか無いしね。気分転換なら、たぁくんにお庭の散歩に連れて行ってもらってるから、それで充分なんだ~」
「そっかー。ごめんね。ちょっと考えが足りなかったよ」
「ううん。私を気遣ってのことだから、嬉しいよ。気持ちだけ貰っとくね」
そう言って園子は微笑みながら、友奈の頬を右手で撫でた。左目に微かに涙が滲んでいた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
八月に入ると、讃州中学勇者部は友奈の言っていたとおり合宿を行った。
海に温泉にと楽しむとともに、高級な料理にも舌鼓を打ったそうな。それには、味覚を失った友奈も漏れてはいなかった。周りに気を遣わせない配慮も多分に入っていたのであろうが、彼女は歯ごたえやのどごしなどで楽しめたと言っていたそうだ。
そして合宿から帰った後は夏休みにもかかわらず、勇者部の真の顔であるボランティア活動、他の部活の助っ人などの大活躍を、部員全員で手分けして行っていた。
一方、貴也たちは穏やかな日々を過ごしていた。
貴也は出来るだけ園子の側に居たかったのだが、そうすると園子から、もっと私以外の世界を大切にして、と小言を言われる始末だった。そんな訳で、結構拓哉や潤矢とつるんで遊んだり、何故か週二ペースで千歳か銀と二人でお出かけ、なんてことになっていた。もちろん、受験生としての義務も果たしながら。
園子は園子で、オーディオブックや音楽を聴いたりといったことをしながらも、三好を使って何かいろいろと調べ物をすることに時間を割いていたりしていた。
そして銀は、時々やって来ては、園子の話し相手になったり、貴也の鍛錬の指導、そして何故か貴也と二人きりのお出かけ――園子のお願いに基づいていた――をしたりしていた。
八月中旬に入ると、俄に不穏な空気が流れた。
バーテックスの生き残りが確認されたというのだ。
もちろん、貴也たちはその情報の胡散臭さを百も承知ではあった。が、御魂まで破壊したバーテックスがどうなるのかは園子にも確実なことは言えなかったため、その情報に異議を唱えるわけにもいかなかった。
結局、勇者部一同と園子に変身用のスマホが返却された。以前のものとの変更点は一つだけ。友奈と園子の精霊が一つずつ増えたことだ。
この期間、勇者部は二度貴也の家を訪れた。一度目は合宿の報告に。二度目は生き残りについての相談に。他の部活への助っ人との兼ね合いで、一度目は夏凛が、二度目は美森が欠席していたが。
ただ、中学生の訪問としてはやや頻繁に過ぎたかも知れない。
貴也が、こちらを気遣っているなら費用もかかるし気にしなくていい、と心配したところ、うどん屋の開拓も兼ねているからそちらこそ気にしなくていい、と風は笑っていた。
そして、バーテックスの侵攻が無いままに八月が終わろうとしていた。
八月三十日が近づいていた。園子の誕生日である。
プレゼントには毎年、頭を悩ませている貴也であった。
三年前は、自身の誕生日にハンカチを貰ったので、芸が無いことに同じようにハンカチを用意したのだが、渡す機会を得られず、部屋の肥やしにしてしまった。
二年前は、昏睡状態にあったので何も出来なかった。
昨年は、頭を捻ったあげく西暦時代のアーティストのオルゴールを贈った。
さて、今年はどうしようか。彼女はいろいろと体が不自由なので、その辺も考慮しないといけない。
そこで、はたと思い出した。
「勇者部に合宿を斡旋したのと同様、君たちにも何かしたいのだが」と言ってきた大赦に対し、園子とともに拒絶した結果、幾ばくかの現金が口座に振り込まれていたのだ。
これを軍資金に、何か用意しようと思った。
当日の夕方、貴也は園子の部屋へと向かった。
部屋に入る際に声を掛けて、彼女の右手側のベッドサイドにおもむく。
「そのちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、たぁくん」
「ちょっと待ってね。――――――はい、今年のプレゼント」
そう言って、ケースから出して手渡す。
「うん? これ……。もしかして、ブレスレット?」
「そうだよ。僕とお揃いのペアブレスレットなんだ」
それは、ステンレス製で細身のペアブレスレットだった。
「あ、ありがとう。たぁくんとお揃いなんて、嬉しいな……。あ、開きがある。私でも着けられるようにバングルタイプなんだね?」
「うん。そのちゃんは目が見えないし、左手も不自由だからね。簡単に着け外し出来るタイプを選んだんだ」
「本当にありがとう。いろいろ考えてくれてるんだね」
そう言って、はにかむように笑みを見せる園子に、貴也も思わず破顔する。
「実は、そのちゃんのにはピンクのライン、僕のには黒のラインが入っているんだ。あと、内側に誕生石、そのちゃんのにはペリドット、僕のにはルビーが嵌ってるんだ」
「そうなんだ。うん? 他にも内側に何か文字が刻まれてる? なんて刻まれてるのか教えて」
「あー、ちょっと恥ずかしいから、後日ってことでいいかな?」
「ふふっ……。じゃあ、今日は許してあげる。そうだな~、じゃあ、クリスマスに教えてよ」
「ええっ!? そんな大層なものじゃないんだけど……」
「いいんよ。私もなにか、楽しみが欲しいから」
「しょうがない。じゃあ、その時に……って、なんか余計に恥ずかしい時に指定されたような気が……。まぁ、いいか。この指輪を肌身離さず持ってろってことだったから、そのお返しにそこまで縛り付けはしないけど、時々着けていてくれたら嬉しいけどね」
「うん。出来るだけ、着けているね」
嬉しい誕生日になった。実は貴也と本格的なペアもののアクセサリーを持つのは初めてだ。
このプレゼントはずっと大切に持っていよう。そう園子は思った。
やっぱり、あの部屋から助け出してもらえて良かったんだと、今更ながら痛感していた。
だから、このブレスレットを見て泣き暮らす日が来ようとは、思いもしなかった。
勇者部との交流&設定整理回その2ですね。
園子の説明には意図して欠落させている部分があることは明白です。
だからといって、園子を責められるかというと……?
春信くんがサルベージした2年前のデータは、わすゆアニメ5話で安芸先生が読んでいたレポートのデータの残骸を含んでいると思ってください。
勇者部の単独行動部分に関しては、原作からの乖離が小さいのでほぼ描写無しです。
あえて言えば、樹ちゃんの声が聞けるだとか、美森ちゃんのヘルスチェックが無いなどの違いはあるんですが。
不穏なラストはゆゆゆの伝統芸ということで、ひとつ。