鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

24 / 80
皆様、あけましておめでとうございます。

かなり遅い新年の挨拶でした。
今年も本作をよろしくお願いいたします。

では、本編をどうぞ。




第二十四話 園子の涙

樹海化はまだ解けていない。

だが、星屑もバーテックスも、その姿はもうどこにも見えなかった。

 

もし樹海化が解けたなら讃州中学校の校舎に相当する場所に、六人の少女が仰向けに倒れていた。

まるで、六人がそれぞれ花弁ででもあるかのように頭を中心に向けて、円形を象って……

 

そのうちの五人には、それぞれを象徴する本物の花びらが体の上に散らされていた。

犬吠埼風には、左目の辺りを中心にオキザリスの花びらが……

犬吠埼樹には、首の辺りを中心に鳴子百合の花びらが……

三好夏凛には、両目から両耳にかけて、そして右腕と右足を中心にサツキの花びらが……

東郷美森には、頭部と左耳、そして両足を中心に朝顔の花びらが……

乃木園子には、全身に蓮の花びらが……

 

一人、結城友奈の体の上にだけは花びらが一枚も乗っていなかった。

 

 

 

 

「うっ……。みんな……? 友奈ちゃん!?」

 

一番始めに気がついたのは美森だった。

体を横たえたまま、周りの状況を把握する。

勇者部のみんなと園子が、自分と同じように倒れているのに気付く。皆、微かに呻き声を上げているようだ。

が、一人、友奈の反応だけが全く無いことに気付いた。

 

上半身だけで跳ね起きると、両手だけを使って友奈ににじり寄る。

 

「友奈ちゃん? 友奈ちゃん……、友奈ちゃん、友奈ちゃん」

 

友奈の頭を抱きかかえ、ありったけの声で友の名を呼んだ。

 

「友奈ちゃーーーん!!!」

 

だが、彼女から反応が返ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

樹海化が解けると、彼女たちは大赦の霊的医療班によって回収された。

そして讃州中学勇者部の五名は、讃州市の羽波病院へと収容された。

 

 

 

 

翌日。犬吠埼樹は絶望していた。

声が出なかったからである。明らかに、声が供物として捧げられていた。

人々に自らの歌う歌を届けるという夢を諦めないといけなかった。

 

だが、考え直す。この程度で済んで良かったのだと。

夢は、また探せばいい。この世界を守り切れたのだから、いくらでもやり直しはきくのだ。

だから樹は笑顔で、姉と美森に再会した。

樹の、供物となった対象を知って泣き崩れた姉を励ます強ささえあった。

 

 

 

 

激闘から三日後。犬吠埼風は喜びの中にいた。

樹の声が戻ってきたから。まだ掠れ気味ではあり、つたない声の出方ではあったが、妹に供物が戻ってくることを確信できたから。

 

だから、自身の見えなくなった左目が、ぼんやりと光を取り戻し始めたことは二の次だった。

 

この翌日、犬吠埼姉妹と左耳の聴力が回復しだした東郷美森は退院した。

 

 

 

 

退院した翌朝、東郷美森は朝の目覚めに違和感を覚えた。両足に感覚が戻っていたから。

意を決して、ベッドから両足を下ろし立ってみた。数秒立てたあと、支えきれずにベッドに尻餅をついた。

だが、リハビリさえ頑張ればまた歩けるようになる。そう、確信できた。

 

そして、その日の夕食時、唐突に小六の夏の遠足を思いだした。その時、銀と共に園子と交わした、料理を教えるという約束も……

 

 

 

 

 

 

 

 

あの戦いから二週間近くが過ぎた土曜日の夕方。三好夏凛は犬吠埼風と共に有明浜で砂浜に座り、夕陽を見ていた。

夏凛は両目と右手、右足の他、四回目の満開で両耳をも散華していた。だが犬吠埼姉妹と同様、三日後から回復が始まった。

この日、二人とも視力は回復しきっていないものの、出歩くに不自由でない程度には見えるようになっている。だが、夏凛の右足はまだ機能が戻りきっておらず、杖をついていた。病院は二日前に退院したばかりだ。

 

 

 

 

「あれから大赦からの連絡は一方通行で、返信も出来なくなっちゃったのよね」

 

「アタシたちは神樹様に解放してもらえたのよ。アタシたちの頑張りを認めてくれて、それで供物も返してくれたんだろうしね」

 

「でも、壁の外があのままなのは変わらないのよね。勇者に変身出来なくなったし、後は後輩達に任せるしかないのか……。私たちの戦闘データが役に立てばいいわね……」

 

「でも、勇者部は不滅だからね。体が元に戻ったらキリキリ働いてもらうわよ」

 

近況を話し合いつつ、そう言って笑顔を交わす。だが、二人とも懸念材料が残っていた。

 

 

 

 

「ねえ……。どうして、友奈だけ目を覚まさないの?」

 

「あの子は、一人で頑張り過ぎちゃったのよ……」

 

「それに乃木や鵜養とも、連絡が取れないんでしょ?」

 

「うん。鵜養の家の電話番号、聞いておけば良かったわ。明日、彼の家へ行ってみる」

 

「そう……」

 

そのまま、二人とも押し黙って夕陽を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、犬吠埼風は大橋市の貴也の家を訪れた。

だが、家族が言うには、あの日から『神樹様のお役目』に就いているため、貴也とも園子とも連絡が取れない旨、大赦から説明があったそうだ。

何も手がかりが掴めないまま、風は帰らざるを得なかった。再び、大赦の秘密主義に怒りを覚えながら。

 

 

 

 

東郷美森は連日、結城友奈の見舞いに訪れていた。

自身、二年間歩いていなかったため、足の機能回復のためのリハビリが必要だったこともあるが、それ以上に、全く意識が戻らない友奈のことが心配だったためである。

 

一時は、自分が結界の壁を壊したからだと自責の念に駆られ、錯乱しかけさえしたが、勇者部の皆に止められ、誰の責任でもないのだ、との結論で押し切られた。

 

「友奈ちゃん……」

 

美森の視線の先には、まるで人形のように無表情で身動き一つしない友奈の姿があった。

 

 

 

 

讃州中学の文化祭まで、あと二週間に迫った週末。

風と樹、それに夏凛の三人は散華した機能が既に完治していた。美森はまだ松葉杖をついていたが、左耳は完治し、記憶もほぼ戻ってきていた。

だが、友奈だけは……

 

その日の夕刻、友奈を病院の中庭に連れ出した美森は、文化祭で勇者部が演じる劇のナレーションの練習を行っていた。

劇の題名は『明日の勇者へ』

最後まで希望を信じて、独りぼっちになっても魔王に立ち向かっていった勇者。

それはまるで友奈の姿そのものを描いているようで……

 

ナレーションの練習だった。そのつもりだった。だけども、独りぼっちの勇者の姿が友奈に、そして今の自分に重なっていく。

いつしか、友奈に涙ながらに語りかけていた。

 

「あなたは私の一番大事な友達だよ。失いたくないよ……。――――――やだっ、やだよ……。約束したじゃない……、私を一人にしないって……。返事をしてよっ、友奈ちゃん!」

 

「と……う……ごう、さん……」

 

その途切れ途切れの声にハッと顔を上げた。

微かな笑みを浮かべた友奈の顔が、美森に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

結城友奈が意識を取り戻した、その翌週の土曜日。

美森は大橋市の貴也の家へ、一人向かっていた。

 

風の元へ、その日、園子が貴也の家へ帰って来るという報せがあったからだ。

最初は勇者部全員で、という話になりかけたのだが、やっと松葉杖での歩行を始められたばかりの友奈を気遣い、友奈のことは夏凛に任せて、美森一人だけの訪問となったのだ。

 

 

 

 

駅からは徒歩で貴也の家へ向かう。もう、両足とも回復しきっていた。

その道中、見知った背中を見かけた。

 

「銀……?」

 

「ん? 須美じゃんか! ひっさしぶりー。元気してたか? 足、直ったんだ!?」

 

三ノ輪銀だった。相変わらず、元気溌剌といった風情で話しかけてきた。

 

「ええ、そうよ。あなたも元気そうね」

 

「ん? あたしは、いつも元気だよ。今日は貴也さんの家へ、園子の出迎え? あたしもなんだ」

 

「そうよ。今まで一ヶ月ほど連絡が取れなかったから、心配していたの」

 

「須美もか……。あたしも、それくらい連絡が取れなかったんだ」

 

その後の道中、近況を銀に話していった。もちろん、自分の犯した間違いも、皆の散華とその回復も。

 

 

 

 

「へー、そっか……。いろいろ大変だったんだな。――――――でも、記憶が戻ってきて良かったじゃん。これで、園子の供物も返ってきてたら、たまには、また三人でつるんで遊べるかもなっ!」

 

「そうね。また、一緒に遊べるわね」

 

自然に弾んだ声が出る。嬉しかった。

あの頃と全く同じとはいかないだろう。自分には、友奈と勇者部という新しい絆もあるのだから。

でも、たまには三人で遊ぶのもいいかもしれない。そう美森は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴也の家の門が見えてきた。

門の前には高級ワンボックスが止まっている。

おそらく園子を送ってきた車だろう。聞いていたより、少し早めに着いていたようだ。

 

「急ごうぜ」

 

銀が左足を引きずりながらも、足を速める。

 

「すみません。お邪魔しまーす」

 

そう、銀が声を掛けて門をくぐろうとした時だった。

 

 

 

 

「どうしてっ!? どうしてここにも、たぁくんがいないのっ!!! どうしてよっ!!!」

 

園子の叫び声が聞こえた。

いつも穏やかで、怒っている時ですらその穏やかなしゃべり方が変わったことのない園子が、金切り声を上げていた。

 

二人とも慌てて、その声が発せられた場所へ向かう。

 

貴也の家の玄関だった。

そこには、七名の人物がいた。

園子の他に、貴也の両親、妹の千歳、スーツを着た男性、大赦の仮面をかぶった神官と思しき人物が二名。

 

貴也の家族は困惑した表情を浮かべており、男性は目を伏せていた。

そして、当の園子は両手の松葉杖で体を支えながら、その顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。

 

「どうしたんだよ、園子?」

 

銀が園子に尋ねる。

美森は記憶の中にすらない、園子のその姿に反応が出来なかった。あの血を吐くような告白の時でさえ、ここまで負の感情を見せてはいなかった。怒りと悲しみが綯い交ぜになったこんな感情を。

 

「ミノさん……。たぁくんが……、たぁくんが何処にもいないのっ!!」

 

「落ち着け……、落ち着けよ、園子」

 

 

 

 

 

 

 

 

園子の部屋に場を移した。

スーツ姿の男性は三好春信と名乗った。大赦と園子、そして貴也との連絡係だそうだ。美森の問いに、夏凛の兄であることも名乗った。

一方、大赦の神官二名は車で待機となった。

また、貴也の母と妹には『神樹様のお役目』関連の話ということで、席を外してもらった。

結局、園子、三好、美森、銀、貴也の父隆史の五名での話し合いとなった。

 

 

 

 

園子がポツリポツリと今までの経緯を話し始める。

 

「一ヶ月前、戦いが終わったあと、また玉藻市の円鶴病院に入院したんだ~。今度は声と耳も散華してたから、周りの状況が全然分からなくてね。あ~あ、変身しないと、もう誰ともコミュニケーションとれないな~、って思ってたんだ。でもね、何日かしたら以前散華した機能も含めて少しずつ治り始めたんよ。どうしてだろ~、って疑問に思ってたんだけどね」

 

「十日ほど経つと、一応、周りとのコミュニケーションもとれるようになったから、真っ先にたぁくんの状況を訊いてみたんだ~。でも、たぁくんも入院中だ、って言われてね。そっか~、って思ってたんだよね」

 

「でもね、二週間も経つと分かってきちゃったんだ~。私がこんな速度で回復していっているのに、いくらなんでもたぁくんの音沙汰が無さすぎるって。で、ここにいる三好さんがお見舞いに来てくれたタイミングで、たぁくんのことを調べてもらったんだ。そしたらね……」

 

園子はそこで一旦、話を止めると三好の方を見やった。三好が、渋々といった風情で話し始める。

 

「ここからは、ボクの方から説明します。まず、貴也くんが何処の病院に収容されたかの調査をしました。ですが、何処にも収容された形跡がなかったんです。遡って調べてみると、そもそも彼を回収したという記録すら残っていない。そこで園子様の指示で、その時の戦いにおける貴也くんのモニタリングデータを浚ってみたんです。ところが、おかしなことに途中からデータが破損というか、空白になっていて、彼の行動を追えなくなっていたんです」

 

「貴也くんは、園子様と別れたあと、星屑と戦いながら三好夏凛、結城友奈の二名と合流。そのあと一旦、三好夏凛が単独で戦闘に出ています。その後、結城友奈と別行動になった貴也くんは、もう一度三好夏凛と合流。その後はしばらく二人で協力して星屑と戦っています。このあと、三好夏凛と別行動を取り始めるんですが、そこでデータが終わっていました」

 

そこで、園子が割って入ってきた。

 

「でもね。そのあと、たぁくんが私たちを助けに来てくれたんよ。わっしーも覚えてるでしょ? 『みんな、待たせたっ! 僕も加わるっ!!』ってね。ものすごく心強かったのを覚えてる。実際、凄い力があったように感じたし、たぁくんが加わった途端に形勢が逆転したしね」

 

そう言いながら、園子はポロポロと涙を零し始める。次第に嗚咽が混じり始める。

 

「みんな、たぁくんに助けてもらったんだよ。なのに、誰もたぁくんが何処に行ったか教えてくれないんよ。誰もたぁくんの居場所を知らないんよ。どうして? ねぇ、どうしてっ!?」

 

三好が後を継いで話し始める。

 

「出来る限りの伝手を使いました。でも、貴也くんの居場所は分かりませんでした。今回の戦いで樹海化した時点で、最後に彼がいた場所がご自宅だったので、なにか手がかりがあるかもと思っていたのですが、それも……」

 

隆史が三好に問いかけた。

 

「まさか、貴也は死んだということですか?」

 

「いいえ。行方不明ということです。ただ、先ほども申しましたとおり、戦いの途中で三好夏凛と別行動を取った後の痕跡が全く残っていません。園子様の証言どおりの行動はあったようですが、それも証拠が残っていません。我々、大赦でも把握できていないんです。少なくともボクの手が及ぶ範囲では」

 

沈黙が訪れた。園子のしゃくり上げる声だけが、微かに響く。

美森も銀も言葉がなかった。園子にどんな言葉を掛ければいいのか、それすら分からなかった。

 

 

 

 

園子は、左手のピンクのラインの入ったブレスレットを取り外すとそれを握りしめた。

そのままの状態で固まる。

と、途端に絶叫を上げた。

 

「イヤーーーッ!!! いやだ、いやだ、いやだっ!! そんなことあるはずないっ!!」

 

「どうしたんだよ、園子!」

 

「そのっち!」

 

「園子様っ!」

 

「いやだよっ!! 供物の代わりが、たぁくんだなんて!! そんなことなら、供物なんか返ってこなくていいっ!! たぁくんがいなけりゃ、体が元に戻ってもなんの意味もないよ!!!」

 

美森は、心臓を鷲づかみにされたような衝撃を受けた。

 

『そんな……。みんなの供物が返ってきたのは、他に犠牲があったから? 貴也さんが、その犠牲に?』

 

狂ったように泣き喚く園子を、銀が宥めようとする。

園子の手からブレスレットが落ちた。

そこには、こう文字が刻まれていた。

 

『園子&貴也 いつまでも、ずっと』

 

 

 




ゆゆゆ編は、ここまで。

ある意味バッドエンドですが、本作はハッピーエンドを目指しますので、ご心配なく。

さて、東郷さんの叛乱(1期12話)から失踪(2期1話)までの時系列は原作では曖昧です。しかし、特典ゲームやおまけ小説等のエピソードが入ることを考慮すると11月をほぼまるまる空ける必要があるかと思います。
そこで、本作では文化祭を10月最終土曜日に設定。ものの考察によると東郷さん叛乱は9月最終月曜日だそうですので、毎週末にイベントを発生させることになりました。
非常に駆け足ですが、中学生の時間感覚と先が見通せない(予知のようなオカルトがない)ことを踏まえて、まぁ有りかな、と。

さて最後、園子ちゃんにはキツい展開です。供物の解釈も、この時点の情報ではこういう結論になっても仕方がないかな、と。
貴也くんのモニタリングデータの破損も10話で似たような状況が発生していました。
貴也くんが何処へ行ったかの種明かしは、本日は2話同時投稿ですので、次話ですぐにも。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。