鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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郡千景の章
第二十五話 勇者たち


街の中を跳躍する五つの影があった。

四つの影は大きな荷物を背負っており、一つの影だけは人を一人抱きかかえていた。

 

その跳躍は人の常識を越えている。一跳びで優に数百メートルの距離を稼ぎ、その速度は自動車以上だ。

 

五つ、いや六つの影はいずれも少女であった。

抱きかかえられている少女は明らかに巫女装束と分かる衣装を身に纏っている。

他五人は、それぞれデザインと色こそ違えど、いずれも和のテイストが入った、見ようによっては巫女装束にも近いとも思える戦装束をその身に纏っていた。

 

 

 

 

五つの影は、いつしか都市部と思しき地域に入ってきていた。

だが、ビルも民家も道路も破壊し尽くされていた。かろうじて原型を保っている建物もあるにはあったが。

 

崩れかけたビル群が建ち並ぶ大通りの近くを跳躍していく。

と、一人が少しルートから外れた。

 

「おーいっ! 人が倒れてるぞっ!!」

 

オレンジの装束を身に纏った小柄な少女が、他の者たちにそう声を掛けて離れていく。

他の四人も慌てて、その後を追った。

 

 

 

 

ちょうど交差点のど真ん中だった。路面電車の路線も走っている大通りであったため、その交差点はかなり広大なものであった。

そこに、少年が倒れていた。どこかの学校の制服姿のようにも見える。ただ、おかしなことに、このまだ寒さの残る時期に夏服のようだ。

 

「生きているのか?」

 

「まさか……。倉敷では一人も生存者は見つかりませんでしたし……」

 

「それに、こんな所に倒れていたら、いつバーテックスに襲われてもおかしくありませんよ」

 

「罠かもしれないわ……」

 

「じゃ、とりあえず周りを警戒しておかなきゃね」

 

倒れている少年を確認しにいったオレンジの少女を見守りながら、他五人は周りを警戒することにした。

 

 

 

 

「生きてるっ! 生きてるぞーっ! やった!! 初めて生存者を発見したぞっ!!」

 

オレンジの少女が喜びの声を上げた。

他の五人がわらわらと集まっていく。

 

話し合った結果、近くのビルのうち使えそうな場所で身を潜めつつ、彼の手当をし、意識が回復するのを待つことにした。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

貴也が目を覚ますと、まずコンクリートの汚れた天井が見えた。

周りを見回すと、荒れた一室の床に寝かされていた。一応、敷物と枕代わりの物はあったが。

 

「気がついたか?」

 

数名の少女がいた。いずれも見覚えのない顔……、いや、一人だけ見知った顔があった。

 

「友奈……?」

 

頭がぼーっとする。どうして自分はこんな所にいるんだろう、と疑問に思う。

 

「友奈。知り合いか?」

 

「ううん……。知らない人だよ、若葉ちゃん」

 

そのやり取りに少なからず驚いた。体を横たえたまま、改めて友奈の顔をまじまじと見る。

結城友奈とよく似た顔。だが、僅かに雰囲気が異なるような気がした。

途端、気を失う直前のことを思い出す。

 

「ここは何処だ? バーテックスは? みんなはどうなった?」

 

「落ち着け。ここは岡山だ。君は路上で倒れて気を失っていたんだ。そこを私たちが見つけて、ここまで運んできたんだ。何があったのか、教えてくれないか?」

 

なんだか少し園子と似た顔立ちの、だが彼女と違い凛々しさ満載といった風情の少女が尋ねてきた。

 

「君たちは……?」

 

「私たちは四国を守っている勇者だ。私の名前は乃木若葉。このチームのリーダーだ。今は、本州の状況を調査するために来ている。君は、さっき友奈の名を呼んでいたが、知り合いなのか? 友奈は知らないようだが……」

 

「乃木若葉……、乃木若葉っ!? すまない、先に他のメンバーの名前を教えて欲しいんだけど……」

 

「ん? ああ、別にいいが……。じゃあ、とりあえず自己紹介をしていくか?」

 

乃木若葉と名乗った少女は少し戸惑ったようだが、他の仲間に視線を向けて、同意を確認する。

先ほどの友奈と見間違えた少女が、まず名乗りを上げた。

 

「あっ、じゃあ私から自己紹介するね。私は高嶋友奈だよ。えっと、とりあえず名前だけでいいのかな?」

 

「ああ、とりあえず名前だけ教えてくれ。他の情報は教えてもらっても、多すぎて混乱するだろうから」

 

貴也のその言葉で、皆少し緊張が解けたようだ。次々に名乗っていく。

 

「タマは土居球子だ。お前を見つけたのはタマだからな。感謝しタマえ」

 

オレンジの戦装束を身に纏った、小柄で活発そうな少女がそう名乗った。

 

「私は伊予島杏です」

 

続いて、白の装束を身に纏ったおとなしそうな少女が。

 

「郡千景……」

 

次は、暗赤色の装束を身に纏った、陰のある少女が。

 

「私は上里ひなたです。私だけ勇者じゃなくて、巫女なんですけどね」

 

最後は、巫女装束を纏った小柄で育ちの良さそうな少女がそう名乗った。

 

 

 

 

その、皆の名乗りに体温が急激に下がったような錯覚を覚えた。いや、実際に体に震えが来る。

 

『西暦の勇者と同じ名前じゃないか……。まさか、まさか……』

 

「僕の名前は鵜養貴也だ。――――――悪い。記憶がなんか飛んじゃってるんだ。今は何年なんだ?」

 

その貴也の言葉に、若葉は心配そうな顔をして告げた。

 

「二〇一九年の三月だぞ。大丈夫か? どこか、頭でも打ったか?」

 

その言葉に絶句した。三桁ではなく、四桁の年号。貴也は自分の境遇を自覚した。

 

『時間を遡っている!? こんなことって本当にあるのか? いや、この子たちが僕を騙そうとしているとは、とても思えないし。みんな、僕のことを本当に心配しているみたいだ。そうか……、そうなのか……?』

 

急に吐き気がこみ上げてきた。

 

「悪い。トイレは何処かな……」

 

「トイレって……? 吐きそうなら、こちらへ……」

 

若葉が肩を貸してくれ、ひなたが別の部屋へ誘導してくれた。そこで、思いっきり吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ気分が悪いからと断って、その部屋に一人にしてもらった。

自分の吐瀉物の饐えた臭いに実際にさらに吐いたが、その間、今後の対応を必死に考えた。

 

まず、持ち物を確認する。

ハンカチ、ポケットティッシュ、生徒手帳、財布、スマホ、園子とお揃いのペアブレスレット。

それらがポケットに入っていた。

そして、首から提げている指輪。

以上が、今の持ち物の全てだ。

 

『未来から来た、なんて言っても信じてもらえないだろうし、最悪、頭がおかしい、としか思われないだろうな。生徒手帳は見つかったらややこしそうだから、もう一度時代を確認して、確信できたら処分すべきだろう。お金も、この時代じゃ使えないだろうし。スマホは……』

 

スマホの機能を簡単に確認したが、通信機能はアウトのようだ。規格が違うのかもしれない。

 

『ダメだ。どれもこれも、身分を証明するどころか、話をややこしくしそうな物ばかりだ。やっぱり、生徒手帳、財布の中身、スマホの三点は早めに処分した方がいいかもしれない。――――――いや、待て待て。本当に西暦の時代なのか? やっぱりそこを確認してから……。いや、彼女たちの姓名がその証拠か。全員、大赦関連の名家の姓と西暦の勇者の名の組み合わせだ。逆に言えば、だからこそ嘘と言えなくもないが、郡千景だけは違う。その姓と名前の組み合わせは、限られた人間だけしかその情報は持ち合わせていないはずだ』

 

不安が大きくなりすぎ、縋るようにブレスレットを見た。そして指輪を。この二つだけが、園子との繋がりを信じさせてくれた。

その二つを握りしめる。

 

『悲しんでいる暇はない。絶対、どこから来た、だとか、これまでの経緯を訊かれるに決まってる。どうする?』

 

基本、バーテックスに襲われた時のショックで記憶が混乱しているように言えばいいだろうか。

だが、出身地や仲間については、そうそう誤魔化せないだろう。完全な記憶喪失というのも、返って怪しまれそうだ。

そこで、かつて読んだ歴史書などの知識を総動員した。

 

『このストーリーで行くか? これなら、万一他に生き残りがいても迷惑は掛からないかもしれない。そのちゃん達のうち誰かがこちらに飛ばされていて話の矛盾がばれたら、その時は真実を話そう……』

 

園子から西暦の勇者についても、いろいろと話を聞いたことが役に立った。

とりあえず、現実に対処すべく覚悟を決めた。

 

 

 

 

「若葉。どうだった?」

 

球子のその問いに、部屋に戻ってきた若葉は困ったような表情を見せる。

 

「体調が悪そうだ。一応、近くにひなたに控えてもらったが……。恐らく、バーテックスに襲われたことと、知り合いのいない一人きりの状況になったからじゃないだろうか?」

 

「体調もそうですが、精神的な面も心配ですね……」

 

杏が心配の声を上げる。すると珍しく千景が積極的に発言してきた。

 

「どうするの、乃木さん? 彼を連れたままじゃ、調査の続行は不可能だわ。一度、戻るの?」

 

若葉は少し思案すると、きっぱりと言い切った。

 

「まずは、彼の仲間を探そう。まだ生きているかもしれないしな。ただし、今日の夕方までだ。バーテックスの侵攻が止まっている期間も、そう長くないだろう。あまり時間をロスするわけにもいかない。その後のことは、生存者の数で決めよう。多ければ一度、四国に戻ることになるだろうし、少なければ二手に分かれるという手もあるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

ひなたに付き添われて貴也が元の部屋に戻ると、皆真剣な面持ちで彼のことを見てきた。

やはり、リーダーの若葉が話しかけてくる。

 

「体調の方は大丈夫か? もし、なんだったら無理をしない方がいい」

 

「あぁ、もう大丈夫だ。とりあえず、なんとか落ち着いたし……」

 

すこし曖昧なものにはなったが、そう笑顔で返した。

 

「じゃあ、何があったか話して欲しいんだが……。もちろん、無理をしない範囲で構わない」

 

気遣いが見える態度で、そう問いかけてきた。

 

「うん。えっと、元々、僕たちはここの北側、鳥取方面で小さなコミュニティーを築いてたんだ。ただ、そこも全滅の憂き目に遭って、四国の方は複数の勇者に守られているって情報を頼りに南下してきたんだ。逃げてきた仲間は僕以外に六名。みんな君たちと同い年ぐらいの女の子だ。気を失っていたから時間経過が分からないけど、多分この近辺に来た時にバーテックスに襲われて散り散りになったんだ。これが僕が覚えているすべてだ」

 

そこまで話すと、皆気の毒そうな目で貴也を見てくる。

 

「六人の名前を教えてくれ。今から夕方までの時間しか無いが、私たちが探してみよう。それから、その中にバーテックスと戦える者、つまりは勇者はいたのか? それと神のお告げを聞ける巫女は?」

 

「名前は……、園子、風、樹、美森、夏凛、友奈だ。勇者は……友奈、一人だ。巫女はいない」

 

状況的に勇者が複数いるのは不自然だと思い、とりあえず友奈一人の名を挙げた。もし誰かが、あるいは全員でこの時代に飛ばされていたとしても、後から訂正すればいいだろうと考えた。

 

この時、貴也の意識からは自分自身が抜け落ちていた。常日頃から『神樹様に選ばれた勇者』ではない、との意識があったせいかもしれない。

 

「友奈って、さっき私と間違えた人だよね。そんなに似ているの?」

 

高嶋友奈と名乗った、結城友奈にそっくりの少女が尋ねてくる。やはり、興味を引いたのだろう。

 

「ああ、双子って言われても信じるね。けど、雰囲気は少し違うみたいだ。どこが、とは具体的に言えないけど」

 

「どんな子か、教えてくれない? 興味があるなー」

 

そんなやり取りをしていると、若葉が皆に指示を出し始めた。

 

「友奈、後にしろ。じゃあ、捜索は二人一組でいこう。私と杏、友奈と千景の二組で当たろう。鵜養くんは体調に不安があるし、ここにいてもらう。ひなた、彼の面倒を見てやってくれ。球子は二人の護衛を頼む。生存者を発見したら、すぐに連絡を取り合うこと。今は一時半。見つからなくても二時間後にここに集合だ。なにか質問はあるか?」

 

それぞれ顔を見合わせるが、特に質問はなかったようだ。

 

「じゃあ、捜索に出発だ!」

 

若葉の号令とともに四人の勇者が捜索に出ていった。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか? お腹、空いていません? うどんか何か、消化の良いものを用意できたらいいんですけど、なにぶん、火を使うとバーテックスに見つかる恐れがあって、こんなものしか用意できないんです。ごめんなさいね」

 

そう言って、携帯食を見せて申し訳なさそうにする、ひなた。

貴也はかえって恐縮してしまう。

 

「いや、気を遣わせてゴメン。さっき、戻したばかりで食欲がないんだ。気持ちだけ貰っとくよ」

 

それっきり、会話が途絶えてしまった。

余計な情報を与えて怪しまれないようにしたい貴也と、仲間と切り離され一人きりの貴也に気を遣いすぎたひなたの双方の思惑が、期せずして噛み合ってしまったからだ。

球子も、一人で護衛しなければならないことに気負っているのか、外の状況に気を遣いすぎており、二人の状況に気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間ほど、そうした状況が続いた後、球子が二人に声を抑え目に掛けてきた。

 

「二人とも、気配を殺せっ。バーテックスが近づいてきてる。それも複数だっ」

 

三人で息を殺し、身じろぎもせずにやり過ごそうとした。

二、三分そうしていただろうか。

いきなり、球子のそばの壁が破壊され、二体の星屑が侵入してきた。そのさらに後方に、もう一体。

 

「くそっ! ひなた達の所へ、行かせるかっ!」

 

円形の楯の周囲に回転する刃を持つ武器――旋刃盤を使って撃退しようとするが、屋内であることが却って彼女の動きを阻害した。旋刃盤を振り回す空間に事欠いたのだ。

三体の星屑相手に苦戦する球子。

 

一方、ひなたは若葉達に連絡を入れようとしていた。

 

そして、貴也は……

 

『多重召還!』

 

球子を助けようと駆け出していた。だが……

 

『変身出来ない!? くそっ! 召還!』

 

それすらも、反応しなかった。

 

 

 

 

「若葉ちゃんですか? 今、バーテックスに襲われていて、球子さんが苦戦しています! 早く……キャーッ!」

 

ひなたの後方の壁が突如破壊され、もう一体の星屑が侵入してきた。

 

「くそっ! 上里さんっ!!」

 

貴也は反転して、ひなたを助けに行く。

星屑が、その口とも思える器官を大きく開け、彼女に食らいつこうとしていた。

 

ドンッ!

 

とっさに、ひなたを突き飛ばす。

 

「グヮッ!!」

 

右肩に灼熱が走った。

 

 

 




CAUTION!!
本日は2話同時投稿です。お気に入りから直接飛んで来て、この第二十五話を読んだ方は第二十四話もお読みください。
なお、どちらを先に読んでも実害はありません。話の印象は変わるかも知れませんが。

元々の構想では、24話と25話の順序は逆の予定でした。わすゆ編、ゆゆゆ編と原作に合わせた章立てを行うに当たって、ややこしいので現状の順序にしただけです。
よって、25話を先に読んだ場合、元々の構想通りの順序で読んだことになり、ラッキーということで、お願いします。

さて、今話からのわゆ編に突入です。
ゆゆゆ編から勇者の章を挟まずにのわゆ編に繋げ、なおかつオリ主がシームレスにそのまま続投という形式です。

のわゆ編は章全体で本作のネタバレを構成する予定ですので、お楽しみいただけたら、と思います。なお、長くなりそうです。プロットを見ると、最低16話は必要かな、と。
原作との乖離部分も大きくなりそうですので、これからも本作をよろしくお願いいたします。


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