鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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第二十八話 繋がる想い

大阪駅周辺から星屑を一掃すると、貴也は憑き物が落ちたような表情を見せ、若葉たちに頭を下げた。

 

「すまない。怒りに我を忘れてたみたいだ。却って君たちを危険な目に遭わせるところだった。反省している……」

 

「いや、私もあんなものを見せられて、バーテックスへの怒りを新たにしたところだ。仕方がないといえば、仕方がない。ただ、今後はもう少し自重してくれ」

 

「まあ、あれにはタマも怒っちまったからなー。鵜養の気持ちも分からなくはないよ。でも、ちょっと怖かったのも本当だ。いつも、あんな戦い方をしてたのか?」

 

「いや、本当に今回はどうかしていた。すまない……」

 

「昨日の戦いは少しだけだったけど、すぐに撤退の判断が出来たりしてたものね……」

 

とりあえず、彼女たちの反応は好意的だった。さすがに、白骨の山と少女の日記が堪えたのは皆同じだと思ってくれたのだろう。

 

 

 

 

次の目的地は名古屋だった。

大阪までの移動と同様、ひなたの移送は貴也に任された。

あんなことがあった後だというのに、ひなたは『じゃあ、またよろしくお願いしますね』の一言で貴也に身を任せてきた。

よほど、信頼してくれているのだろうか?

貴也は戸惑った。ただし二つの意味でだ。

もう一つの理由は、また長時間ひなたの胸の感触と戦わねばならないからだった。

 

『僕の理性は、どこまで保つんだろう……? そのちゃん、助けて……』

 

 

 

 

名古屋へは奈良から伊賀、亀山を抜ける最短ルートではなく、京都南部から彦根を抜ける琵琶湖東岸に沿ったルートをたどった。なんでも紀伊半島は避けるようにとの神託があったからだそうだ。

 

『そりゃ、そうか。奈良盆地に紀伊山地と言えば天津神関連の話が豊富だもんな。天の神のホームグラウンドは避けよ、ってことか……』

 

貴也も、以前読んだことのある現代語訳日本神話と園子の話から得られた知識とを照らし合わせて納得した。

 

 

 

 

 

 

 

 

名古屋も大阪や途中の街々同様、破壊されきっていた。

ただ、さらに異様だったのは巨大な卵状のものが無数に産み付けられていたことである。勇者たちはその強化された五感により、卵殻の中で何かが蠢いているのも分かった。皆、顔を青ざめさせていた。

 

「私たちの四国も、いつかこんな風に……」

 

「そんなことさせるかっ! そのためにタマたち勇者がいるんだっ! わけのわからない化け物なんかに、人間が負けてたまるかっ!」

 

杏の弱々しい呟きを、球子が強い語調で断ち切る。その言葉は、杏のみならず皆の心を奮い立たせた。

だが、事態はあまりよくない方向へ転がっていた。

 

「皆さん、周りを取り囲まれています!」

 

ひなたの言葉に周囲を見回すと、いつの間にか貴也たちを取り囲むように星屑がその数を増やしていっていた。

一気に襲いかかるつもりなのだろう。

 

「タマは今、腹が立ってるんだ! 喰らえーーーっ!!」

 

「球子、待て……」

 

若葉が止めようとした時には、既に球子は切り札を使用していた。自分の身長よりも巨大化させた旋刃盤を体全体を使って投擲する。チェーンソーのように回転する刃に炎を纏い空中を滑走する旋刃盤は、周囲の星屑のみならず、産み付けられている卵群をもことごとく切り裂き、燃やし尽くした。

 

「球子、軽々しく切り札を使うな!」

 

「悪い、ついカッとなって……。でも、ついでだからこれに乗って名古屋を見て回ろうぜ」

 

「お前という奴は……。仕方がない。そうするか」

 

仲間内の決めごとを破った球子を若葉が窘めたものの、使ってしまったものは仕方がないため、皆で巨大化した旋刃盤に乗り生存者の捜索を行った。

 

 

 

 

生存者は見つからなかった。

名古屋駅前のビル群まで戻ると、さすがに旋刃盤も元の大きさに戻る。

 

「あー、やっぱりキツいなぁ、切り札を使うのは……」

 

「もう使わないようにしてくれ。本当に、どんな影響があるのか知れないんだからな」

 

「土居さんの切り札も精霊を使うのか?」

 

球子と若葉のやりとりに、貴也が疑問を差し挟んだ。

 

「ああ、タマが切り札に使う精霊は輪入道だよ」

 

「えっ? じゃあ、他のみんなも……?」

 

「そうだな……。一ヶ月前の丸亀城の戦いでは、結局五人全員使う羽目になったな。私は義経、友奈は一目連、杏は雪女郎、千景は七人御先か……。こうして並べると、ちょっとした百鬼夜行だな」

 

球子と若葉の答えに慄然とした。少なくとも、貴也が憑依させている四つの精霊のうち、名前の割れている三つ、輪入道、雪女郎、七人御先が含まれていたからだ。

 

『もしかして、この指輪はこの西暦の勇者たちと何か深い繋がりがあるのかも知れない……』

 

ただ、まだ憶測の段階だ。打ち明けるには証拠が足りないし、そもそもどう説明するべきか。

悩んでいるうちに、今日の野営地を探すこととなった。

 

 

 

 

野営地は結局、名古屋北東の中津川付近にあったキャンプ場跡地となった。昨晩も六甲山近くのキャンプ場跡地を使ったらしい。

貴也は食事中、男の勇者であること、それを隠していたこと等について説明を求められた。なお、献立はうどんだった。昨晩も同じだったそうだ。

 

説明内容は、以前ついた嘘と辻褄が合うよう次のようなストーリー仕立てで話した。

初めてバーテックスに襲われた日に、日頃懇意にしていた神社の巫女から渡された指輪によって変身が可能になったこと。逃避行の末、落ち着いた先で百名強の集落を作りそこで三年半ほど過ごしたこと。一緒に逃げてきたくだんの巫女から、男の勇者はイレギュラーだとの神託を受けたのでなるべく隠しておくように忠告を受けたこと。今年の二月に入ってからバーテックスの総攻撃を受けて集落が壊滅したこと。その後、生き残った少女達と逃避行を続けたこと。若葉たちに助けてもらう直前、不意打ちを受けて同行していた少女達と散り散りになったこと。どうやら、その時の精神的ショックで変身が一時的に出来なくなっていたこと。

 

地名等はぼかしながらもなんとか誤魔化し切れたようで、若葉たちもその説明を受け入れてくれた。

説明の途中、貴也が胸に提げている指輪を見せると、皆興味深そうに手に取っていた。なかでも、ひなたはずいぶん熱心に矯めつ眇めつ眺めていた。

そういったやり取りがあったせいだろう。貴也は六人の少女と徐々にではあるが、打ち解けていくことが出来たのだった。

 

その後は、交代で見張りを立てつつ一晩を過ごした。なお、貴也は当然のことながら彼女たちと同じテントという訳にいかず、球子が緊急用に用意していたツェルトで一人寝することとなったのだが。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

翌朝、まだ日が昇る前の早朝に彼らは野営地を出発し、一路長野県の諏訪へと向かった。

なんでも昨年まで四国同様結界が存在し、白鳥歌野という勇者の下、人類が生存していた地域だという。だが、九月に通信が途切れてしまい、既に壊滅している可能性が高いとみられていた。

 

高速道路の残骸を辿り北東へと進む。道路上には車の残骸が無数に残っていた。

 

「貴也さん、すみません。ちょっと若葉ちゃんと話をさせてくださいな」

 

ふと、ひなたがそんなことを話しかけてきた。若葉を見やると表情がこわばっているのが分かる。

若葉に近寄り、声を掛けた。

 

「乃木さん。上里さんが話があるそうなんだ。ちょっと、彼女を受け取ってあげてくれ」

 

そう言って、ひなたを若葉に任せる。

お姫様抱っこをされたひなたは、跳躍する若葉に身を任せながらもその頬に手を触れて、優しそうに話しかけていた。

 

『白鳥さんは通信上だけとはいえ乃木さんの友達同然だったそうだから、慰めているのかな?』

 

そう貴也は受け止めた。

ひなたの実際の言葉を聞けば、複雑な心境になったことだろう。ひなたは若葉に優しい口調ながらも、白鳥歌野と彼女が守っていた諏訪の結末を目を逸らさず受け止めろ、と厳しいことを言っていたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

長野県の諏訪湖周辺に四つの宮がある諏訪大社。諏訪湖北岸に下社秋宮と春宮、南岸に上社本宮と前宮があった。昨年連絡が途絶えた時は上社本宮を中心とした諏訪湖南東部のみが生存域だったらしい。

 

勇者たちが上社本宮に到着した時、そこには何もなかった。文字通り、あらゆる建物が木材や石の残骸に変わっており、原型をとどめている人工物もましてや人の姿も全くなかったのだった。

まるで人の痕跡を徹底的に無かったことにするように。神話の時代、天津神に最後まで抵抗したという国津神の痕跡すらなくすように。

 

それでも、彼女たちは生き残りを探し、手分けして捜索を行った。

その結果、本宮近くの守屋山の麓で畑の跡が見つかった。そして、そこで友奈が地面に埋まっている人の身長ほどもある大きな木製の箱を見つけた。

その箱に入っていたのは一本の鍬と折りたたまれた一枚の紙。紙は白鳥歌野から乃木若葉に宛てた手紙だった。

 

 

 

 

『初めまして。いえ、もしかしたらこれを読んでいるのは乃木さんかもしれませんから、初めましてというのも変ですね。

 

もしこの手紙を見つけたのが乃木さんでなければ、どうぞこの手紙を、四国の勇者である乃木若葉さんに渡していただければと思います。

 

バーテックスが現れてから既に三年が経ちました。これまでなんとか諏訪を守ってきましたが、結界も次第に縮小し、本当に切迫した状況となってきました。恐らくもう長くは保たないでしょう。

 

けれど、まだ乃木さん達の四国は残っています。人間はどんな困難に見舞われようとも必ず再興してきたのですから、諦めなければきっと大丈夫なはずです。

 

乃木若葉さん。まだ会ったことのない、私の大切な友達。どうか、あなたが戦いの中でも無事でありますように。この世界が、ちゃんと守られていきますように。

 

人類を守り続けるのが、たとえ私でなくとも、あなたのような勇者が守り続けてくれるのであればいい。そこに繋げる役目を、私は果たします。

 

最後に。一緒に入っている鍬を、この天災後の復興時、大地を耕す際に使っていただければ幸いです』

 

 

 

 

若葉の双眸にみるみる涙が溜まる。持つ手に力が入りすぎたのか、手紙がクシャッと潰れる。

周りから覗き込んでいた勇者たちも言葉を失っていた。

 

「ここも同じ……、全部、壊されて……」

 

「ううん、全部じゃないよ。これが残ってたもの。白鳥さんから引き継いだバトンだよ、きっと……」

 

拳を握り、絞り出すように怒りの言葉を紡ぐ千景に対し、友奈は小さく首を振り、一緒に入っていた鍬を優しく持ち上げると若葉に手渡した。

 

「やっと会えたな、白鳥さん。お前の遺志は確かに引き継いだ」

 

若葉は両手で鍬を握りしめ、そう語りかける。

 

「そうさ。こうして白鳥さんの想いは繋がったんだ。奴らは、人間の想いまで壊すことは出来なかったんだ」

 

貴也の感情のこもった力強い呟きに、若葉達は皆頷いていた。

 

 

 

 

その後、本宮の瓦礫の調査を継続したところ、ひなたが社殿の瓦礫の中から小さな布袋を複数見つけた。

それぞれ、ソバをはじめとする色々な作物の種が入っていた。

 

誰が言い出すともなく、貴也たちは白鳥歌野の遺品が見つかった畑の跡地へと向かう。

 

「この畑を耕して、種を播いていこう」

 

「種はある程度残して、鍬と一緒に四国に持ち帰りましょう。四国でも栽培できれば、きっと白鳥さんも喜ぶと思います」

 

若葉の掛け声に、そう杏が返した時だった。

 

「上里さん! どうしたっ!?」

 

突然、目眩でも起こしたように倒れかかるひなたを貴也が受け止める。

 

「あ、ああっ……、し、神託が……。四国に再び危機が迫っています……」

 

 

 




今回は、貴也合流関連で半日ほど後ろにズレてはいますが、ほぼ原作沿いのお話でした。

貴也の来たタイミングがタイミングなので、白鳥歌野は救えませんでした。

また、「丸亀城の戦い」が原作以上の規模であったことが示されました。今後、本文中で明示されることはありませんが、この戦いが原作との分岐点です。本作第1話冒頭のシーンもゆゆゆ1期5話や本作17話の神世紀勇者ではなく、この丸亀城の戦いを前にした西暦勇者を描いたものであることをここにネタバレしておきます。


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