鵜養貴也は勇者にあらず   作:多聞町

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評価欄に色がついていて吃驚した上に、アクセス数が急増してヘンな笑いが出る始末です。おまけに一瞬ですが日間ランキング入りという結果に。
もう読んでくださっている方、みなさんに感謝の極みです。
完結に向けて頑張りますので、どうぞ今後も本作をよろしくお願いいたします。

では、本編をどうぞ。





第三十一話 花たちの宴

 

四国へ帰ってきた日の昼食後、貴也は若葉たちと別行動をとらされた。

丸亀市内の大社運営の病院に入れられ、精密検査を受けた後、そのまま泊まらされたのだった。ひなたの進言があったらしい。

二日前、貴也と交渉した佐々木和馬という大社職員が彼の担当職員となっていた。

 

さらに翌日の午前中は色々な手続きをとらされ、改めて住民登録をしたのだった。

午後は、佐々木と共に新しい住まいを訪れた。

四国の勇者たちは丸亀城の内部を改装した学校に通うと共に、同じ丸亀城の敷地内にある寮で生活していた。だが、全員女子であることから寮に貴也を受け入れる余地はなかった。

そこで、丸亀城から徒歩十五分ほどの距離にあるマンションの一部屋があてがわれた。大社の職員用のマンションであり、佐々木も違うフロアではあるが住んでいるそうだ。

 

「ちょっと広いんじゃないですか? ここ2LDKもありますよ。」

 

「近くには世帯用の宿舎しかなくてね。君は丸亀城にすぐ参集する必要があるから、空き部屋はここしかなかったんだよ」

 

「まあ、いいか。寝に帰るだけ、みたいなもんだし」

 

「家具、調度品、電化製品も必要最低限はこちらで用意したからね」

 

「すみません。いろいろと良くしていただいて、ありがとうございます」

 

「いや、こちらとしても君のモニタリングデータは色々と貴重なデータとなるようだしね。ギブアンドテイクだよ」

 

それはそうだろう。少なくとも大赦よりもデータは揃っているはずだ。大赦は変身のキーアイテムが指輪であることさえ把握できていなかった。しかし、こちらの大社には既に把握されているはずだ。若葉たちにも話したことだからだ。その際、特に大社に対する隠蔽工作はしなかった。

仕方がないと思う。生活資金も勇者への給与という形で支給されるようだ。生きていくためには、勇者としての労働力と秘密を切り売りする他無いと考えていた。

 

 

 

 

新しい住まいを確認した後は佐々木と別れ、これからの生活に必要な日用雑貨、衣服等を買い出しに行った。

とりあえず、荷物の片づけが終わる頃には日が沈もうとしていた。

 

「さて、夕食はどうしよう? どこかで外食でもしようかな?」

 

そう独り言を呟いた時だった。

 

ピンポーン。

 

インターホンが鳴った。

 

「はい。どちら様?」

 

「貴也さん。みんなで来ちゃいました」

 

小さな画面に、ひなたを筆頭として勇者の面々が写っていた。

 

 

 

 

「こんにちはー」

 

「おじゃましまーす」

 

口々に挨拶をしながら、どやどやと若葉たち六人が荷物を持って部屋に上がり込んでくる。

 

「おー、なんか結構広いじゃん」

 

「いいですねえ。これぐらい広いと……、あっ、部屋が二つあるっ! 一つは書庫にできますねっ」

 

「うわー、いいなー、貴也くん。寮はこの部屋一つ分しかないんだよ」

 

「テレビも大きいわ……。これ位あればゲームするにも迫力が出るわね」

 

なんだか、それぞれ勝手な感想を言い合っている。

彼女たちの迫力に若干押し負けながら尋ねた。

 

「一体、これは何なんだよ。一体、何の用なんだ?」

 

すると、ひなたと若葉が両手のビニール袋を掲げてどや顔で返してきた。

 

「貴也さんの歓迎会をしようと思ってきたんです。初日から一人だと寂しいでしょ?」

 

「すき焼きパーティーだぞ。すき焼き!」

 

「みんな……」

 

嬉しさがこみ上げてきた。若葉たちが、貴也を受け入れるために、そして貴也が早く彼女たちに馴染めるようにと色々と考えてきてくれたのだ。

 

「コンロも鍋も食器も持ってきたぞ。流石に人数分は無いだろうと用意してきたんだ。感謝しタマえ」

 

「タマっち先輩、それ全部ひなたさんが予め用意したんじゃないですか」

 

「あっ、あんず! 鵜養には分からないんだから、バラすなよー」

 

「ありがとう……」

 

堪えきれずに涙が溢れた。そんな貴也を彼女たちは微笑んで、受け止めてくれた。

 

 

 

 

準備も食事も、わいわいがやがやと楽しいものになった。

途中、球子と友奈の間で肉の争奪戦が始まり掛けたが、二人ともそれぞれ杏とひなたに行儀が悪いと窘められていた。

 

「さあーシメだ、シメっ。シメと言ったら、うどんだよなー」

 

「そうだな。シメと言えば、うどんだ。うどんを食わざる者は香川県民にあらず!」

 

大体、食材が無くなってきたところで球子が仕切り出し、アルコールも入っていないのに若葉が酔ったように、そんなことを言って相槌を打つ。

 

「テンション高いなー」

 

「ほっとけばいいのよ……。鵜養くん、お茶いる?」

 

「あぁ、ありがとう」

 

貴也の左横に陣取った千景が甲斐甲斐しく世話を焼こうとする。その千景の横では、ひなたが切った長ネギを加え煮込み始めたうどんをランランと目を輝かせて見つめる友奈の姿があった。

 

 

 

 

『勇者様と巫女様による調査の結果、諏訪地域と旭川地域の無事が確認されました。現在大社は――――――』

 

賑やかしに点けていたテレビからニュースの音声が流れてくる。大社発表のニュースは、そのほとんどが耳に優しいものへと事実が歪曲されたものばかりだった。

 

「なんだ? この報道、嘘ばっかりだな」

 

この二日間、忙しすぎた貴也はその報道を初めて知ったのだった。

 

「うどんが不味くなる。消そうぜ」

 

「士気を下げないための情報操作はよくあることだと聞きますけど、実際、耳にすると……」

 

球子がリモコンを取ってテレビを消す。その横で、杏が暗い口調で呟いていた。

 

「あのさ! 私たちが、明るいニュースを本当にしちゃえばいいんだよ。世界を全部取り戻してさ!」

 

「友奈の言うとおりだな。私たちの手で、世界を取り戻そう。白鳥さんにも誓ったことだ」

 

友奈のその言葉で明るい雰囲気が戻ってきた。若葉も、諏訪での誓いを引き当てて友奈の言葉に相槌を打った。

 

 

 

 

片付けも終わり、若葉たち六人は一緒に寮へ帰った。

貴也は静かになった部屋で一人、寝る用意をする。

 

大社に用意してもらったスマホが着信音を鳴らした。

写真が届いていた。

今日の歓迎会で、皆で撮った写真。

ひなたからだった。

 

『今日の歓迎会、楽しかったですね。貴方は一人じゃありませんよ。私たち、みんな仲間です』

 

嬉しさに咽び泣いた。

彼女たちを絶対に守り抜こうと、心に誓った。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

「鵜養くん、いくぞ!」

 

「ああ、来い! 乃木さん」

 

二人の鉄芯入り木刀が唸りを上げて、交差する。

 

ガッキィーーーィン!!

 

木刀らしからぬ音を上げて打ち合うと、そのまま鍔迫り合いに入った。

 

 

 

 

バーテックスの襲撃が無いまま数日が経った。

貴也も若葉たちと共に、丸亀城内の学校で勉学に励むと同時に勇者としての訓練にも参加するようになった。

また、どういう訳か貴也は諏訪から合流した勇者として報道されていた。貴也自身のみならず若葉たちも気乗りしなかったのだが、佐々木からの要請に従い、口裏を合わせるようにしていた。

 

そういった状況の中、調査遠征が終わり日常に戻ったはずであるにもかかわらず、皆の気持ちは揺らいでいた。

四国外調査でのショッキングな経験、帰還後に見た大社の不誠実なあり方、それらが影響しているのであろう。

 

球子は遠征で精霊の力を使った影響を受けたのか、時々思い悩む表情を見せていた。

それを見て、杏も不安に駆られているようだ。

千景は口数がさらに減り、友奈か貴也にひっついていることが多くなった。

若葉もそんな皆の変わりように思い悩んでいた。

明るい材料は、友奈が相変わらず前向きであること、貴也の右肩がほぼ完治し皆に馴染んできたことぐらいだった。

 

そのため若葉は、皆の気分転換を兼ねてレクリエーションをすることを提案したのだった。

内容は、勇者全員による模擬戦用武器を用いたバトルロイヤル。変身はせず、生身で戦うこととした。戦場は丸亀城敷地内。優勝者は敗者に自由に命令できるものとした。

 

 

 

 

貴也が輪刀を用いて戦っていたことに興味を覚えた若葉は、真っ先に彼との一対一の戦いを望んだのだった。

 

若葉は居合いを旨とするため、鞘付きの鉄芯入り木刀を武器とした。

一方、貴也も銀との鍛錬で使用していたのと同様、やはり鉄芯入りの木刀を武器とした。

 

片手で、あるいは両手に持ち替えながら、構えも多彩に激しい動きを交え打ち込んでいく貴也に対し、立ち位置は大きく変えず、されどその場で素早い動きを見せて捌いていく若葉。

傍目には、ほぼ互角の攻防に見えた。だがその(じつ)、貴也の打ち込みに有効打は一つもなく、そればかりか若葉の捌きには多少の余裕が感じられた。

 

『クッ、流石に速い。でも、銀の二刀流で鍛えられたんだ。一刀のみの乃木さんに負けてたまるか!』

 

その気負いがどちらに作用したのかは定かでない。が、結果は次のようなものであった。

 

若葉がスピード勝負に出ようと考えたのか、木刀を鞘に仕舞い、居合いの体勢をとる。

貴也は木刀を両手で八相に構えたまま、袈裟懸けにしようと若葉に走り寄った。

若葉がタイミングを合わせて踏み込むと同時に木刀が鞘走る。円弧の軌道を描き、貴也に迫る木刀。

一瞬だけ足を踏ん張って走り込むスピードを緩め、上半身を微妙に仰け反らせた。若葉の木刀は貴也の体前面、コンマ数ミリを掠めていく。かわし切った、と思いながら木刀を振るう。

衝撃が鳩尾を襲い、吹っ飛ばされた。

若葉が左手で鞘を突き出していた。握ったまま手の中で滑らせたのか、鞘の(こじり)側を握っていた。

 

「カハーーッ、ハッハッ……。フーッ。――――――参った。かなわないなぁ」

 

貴也は一瞬呼吸困難に陥ったが、のろのろと起きあがると両手を上げ降参した。

 

「いや、まさか一撃目をかわされるとは思わなかった。鞘の一撃は、とっさの動きだったんだ」

 

「それでも、とっさにその動きで追撃できるんだから、達人クラスだよな」

 

「いや、私のレベルではまだまだだよ」

 

若葉が笑顔で右手を差し出してくる。握手を交わし、互いの健闘を称え合った。

 

 

 

 

結局、バトルロイヤルの優勝者は杏となった。

 

貴也に勝利した若葉は、続いて友奈との一騎打ちを所望した。

だが、ここで貴也との勝負で消耗していた若葉を一気に叩こうと、千景と球子が友奈に加勢したのだ。

ところが、それは卑怯だと、今度は友奈が若葉側に付く。若葉vs千景、友奈vs球子の二組の対戦となり若葉と友奈が勝利したのだが、今度はそれぞれの戦場が離れてしまっていた。

若葉はひなたから杏の脱落と友奈の居場所を知ると、友奈とのタイマン勝負を行った。その結果は、僅かな差で若葉の勝利に終わった。

そして、これで優勝だと若葉が油断したその瞬間、彼女の後頭部に杏の放った矢が当たっていたのだった。

 

「杏!? 杏は球子にやられて既に脱落していたんじゃ……?」

 

『若葉ちゃん、勝負は搦め手からのものにも注意した方がいいですよ。今回は杏さんの戦略勝ちです。なにせ、私をこんな手で買収していたんですから……』

 

ひなたは手に持ったスマホに目を向ける。そこには普段、勇者の訓練中に巫女の訓練を行うため、ひなたには撮影不可能な戦闘訓練中の若葉と貴也の写真が何枚か収まっていた。

 

『杏さんとは、これからも良い友情を育んでいけそうです……』

 

ひなたはニンマリとした笑顔で、写真をスライドさせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴也は始め、その少女が誰なのかまったく分からなかった。

 

「誰? あの子?」

 

「いやだなあ、鵜養さん。タマっち先輩じゃないですか」

 

「ええっ!?」

 

球子は、いつもは後ろで二つに結っている髪を下ろしていた。それだけで、まったく印象が変わっていた。

普段のややボーイッシュで活発そうな見た目からガラッと変わり、少し幼い感じは受けるもののまさに正統派美少女という感じになっていたのだ。

女の子とは恐ろしいものだと、貴也は実感した。

 

 

 

 

杏は優勝者の特権として、お気に入り恋愛小説の一場面を球子、若葉、友奈を使い再現しようとしていた。

 

「私のものになれよ、球子」

 

教室の壁際に追い詰めた、髪を下ろし女の子女の子した球子の横に手をつき、学ラン姿の若葉が囁く。

 

「若葉くん……、でも、タマには他に好きな人が……」

 

「待ちなよ、若葉くん。球子さんが嫌がってるじゃないか!」

 

「高嶋くん!」

 

やはり学ラン姿の友奈が若葉を制し、二人の間に割って入ろうとしたところで、ついに球子がキレた。

 

「……って、なんじゃこりゃあああ!!」

 

「カット!! タマっち先輩、ちゃんと台本どおりにしてくださいよー!」

 

「こんな恥ずかしいセリフが言えるかっ! しかもなんでタマが『内気で大人しい少女』なんだよっ!?」

 

「言うな、球子。私と友奈は男装までさせられているんだぞ……」

 

「学ランって、変な着心地……」

 

不満を漏らす三人に、今度は杏がキレた。

 

「そんなことを言うんでしたら、再現度をさらに上げますっ!!」

 

その様子を、ひなたはホッコリとした笑顔で、スマホで録画しつつ撮影していた。

 

 

 

 

「どうして僕まで人身御供に……」

 

「鵜養さんも負けたんですから、不満は無しですっ!!」

 

怒り心頭の杏監督によりキャストの変更が言い渡された。ヒロイン球子とライバル友奈は変わらないが、若葉の代わりを貴也がすることになった。

 

「やっぱり、壁ドンは本物の男子にやってもらわないとっ!」

 

杏の魂の叫びが教室に響いた。

 

 

 

 

台本に従い、学ランに着替えて立ち位置に立つ。目の前には、髪を下ろした球子が立っている。

 

「こんな所に呼び出して、何の用なの? 貴也くん……」

 

そう言う球子に無言で一歩ずつ近づき、壁際に追い込んでいく。

 

「お前に言っておきたいことがあるんだ」

 

壁に背が付くまで追い詰めた球子の横に手をつく。自然に二人の顔が近づく。

これがギャップ萌えというものなのだろうか? 小柄な球子は庇護欲をそそった。上目遣いで見てくるその顔は恐ろしいほど可愛らしく見える。

 

「俺のものに……、だぁーーっ! 言えるかっ!? こんなセリフっ!! こんな可愛い子にそんなこと言わせるなんて、一種の拷問だろうがっ!!」

 

「かっ、かっ、かっ……。かわっ、かわっ、可愛いだとーーーっ!?」

 

貴也が真っ赤な顔で絶叫すると、その言葉に今度は球子が赤面して叫ぶ。

 

「タマっち先輩が、本物の男子相手に恥ずかしがってるっ!?」

 

錯乱する球子の様子をみて、鼻息を荒くする杏。

教室から逃げ出す貴也。

錯乱しながらも、へなへなとその場に崩れ落ちる球子。

どうしよう、どうしようと慌てふためく友奈。

なぜか無言で目のハイライトが消えている、ひなたと千景。

若葉だけは脱力し、ため息をついていた。

 

杏主催の寸劇は、こうしてカオスチックに有耶無耶のまま終了するのだった。

 

 

 





おそらく最後のひなたと千景の思っていること。
『私、貴也さんに(鵜養くんに)可愛いなんて言われたこと、まだ一度もない……』
でも、濃密な時間を共に過ごしているとはいえ、君たちまだ出会って10日も経っていないのでは……
吊り橋効果が最大限に発揮されているんでしょう。

また、弱っちい貴也くんが若葉といい勝負をしたように見えますが、神懸かり的になったのは攻撃面でなく防御面だったということには注意が必要です。

ともかく、少し捻っていますが概ね原作沿いのお話でした。
日常回少なめでストーリーを進めることを重視している本作では、貴重な日常回でもありました。


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